奴隷と少女   作:煉音

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白い一日

 「ん……ぁ……」

 

 我ながら変な声を上げたものだ。目を開けると見覚えのある薄い肌色の天井が見える。あれ?確かエリーと昼食をとっていたような気がするんだが……あ、思い出した。エリーが変なことをいったせいだ。

 体を起こし、ふぅと軽く一息ついた。

 

「おはよ?」

「!?」

 

 急に左隣から聞き覚えのある声が聞こえた。この間も同じようなことでひどい目にあったばかりなのになぜこうも……。

 左に視線を向ければ微笑ましそうに笑顔を作るお嬢様がいた。その細められた金色の瞳が私を見つめて離さない。だから目が合って目線がそれて……顔が熱くなる。

 

「もう、急に倒れたって聞いたから来てみたけど、元気そうで良かった!」

 

 お嬢様が明るい声でそう言ってくれる。聞かなくても来てくれているだけで嬉しいのに、そんなこと言われると余計に顔向けできない。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 口ごもり気味にどうにか目線だけでもとお嬢様に視線を送る。えへっとお嬢様が少し首をかしげる。なんだそのしぐさは……狼の雰囲気が見え隠れする猫みたいなしぐさ、下手に近づけばもうそれは獲物、言うなれば虫を食べる植物のようなもの。だけど私にはうまくその愛情表現かなにかわからないものにはなかなか素直になれない。

 

「まぁ、でも……ちゃんと休まないといけないよ?」

 

 どうにかゆっくりとお嬢様に顔向けする。大丈夫だよね?ニヤニヤしてたりしないかな?いや、たぶん顔は赤いだろう。だって熱いもん。

 

「は、はい……」

「真っ赤な顔してるけど、本当に大丈夫?」

 

 やっぱり赤いようだ。お嬢様が細めた瞳を見開いて心配の言葉を紡いでくれる。主人に心配ばかりかけるようじゃメイド失格かもしれない。いや、そもそも私の主人がお嬢様な時点で向いていないのかもしれない。

 

「ほら、じっとして」

「え?あ、ちょ……」

 

 不意にお嬢様が顔を近づけてきた。突然のことに驚いてしどろもどろになりながら、身を引こうとする。なにをされるか察しはつくだろうが、今の私にそんなことを考える余裕なんてあるはずもなく、ただただ見惚れるお嬢様の顔を近くで見ることのこの上ない自分の変な欲望があふれ出すんじゃないかって……何言ってるんだろう。

 まぁ、身を引いてとにかく距離を取ろうとしたんだよね。だけどベッドに座っている私はうまく動くこともできず、お嬢様の手に捕らえられてなすがままにされてしまった。

 

「んぅ……」

 

 ピトッと額に感触を感じる。ギュッと目をつぶってあまりに顔が近いことにビクビクと体が震える。こんな……こんな……家族レベルの親密なこと……。

 

「あれ?どんどん熱くなってない?」

 

 お、お嬢様のせいですぅ……。

 

「うぅ……」

 

 返事をするつもりが変なうめき声が漏れてしまった。恥ずかしい。

 

「それにしても……」

 

 お嬢様はそう言いながらおでこを離してくれた。だけど目を開けると、息がかかる距離にお嬢様の顔があって……。

 

「!?」

 

 目が見開いて驚くのがわかる。いや、ビックリしただけだよ?

 

「いい匂いだね琴香」

 

 スルッと次は頬っぺたに感触を感じる。え?なにこれ!?なんなのこの状況!?滑らかな心地よい肌の触れ合い、なぜかお嬢様に頬を頬ずりされております。緊張して水蒸気噴くどころの騒ぎじゃない。鼓動が早くなってさきに血液が噴出して死ぬんじゃないかって域ですよ……はい。

 

「お、お嬢様……?」

「あ、ごめんごめん。嫌なことしちゃったね」

 

 お嬢様は私の言葉を聞いてスッと離れてしまった。やばい……すっごくなんかむなしいっていうか切ないっていうか変な気持ちだ。もっとしていたい。

 

「あ、い、いえ……別に……」

 

 ボーッと意識が遠のきかけている私の言葉はなんか微妙なものだ。お嬢様も気づいたのか私をベッドに寝かせつけてくれた。

 

「ごめんね体調悪いのに……ちゃんと治るまで休んでね。また見に来るから……」

 

 全く誰のせいだと思ってるのか……。スッと小さく衣擦れの音を立ててお嬢様は立ち上がる。そして私から視線を外して部屋を出ようと歩き出した。

 

「……!?」

 

 本当に無意識だった。出ていこうとするお嬢様の背中に、私は左手を伸ばしてその裾を掴もうとしていた。伸ばしきった左腕はお嬢様の裾をかすめることもなく空しく寂しく空を切った。

 バタンとドアが閉まり、お嬢様は部屋を後にしてしまった。左腕をバッと布団の中へしまい、自分のとろうとした行動を理解するように、扉とは反対側の壁の方に体を丸め、布団にもぐる。相も変わらずいい香りのする布団だ。いや、落ち着け落ち着け。

 

「……」

 

 お嬢様のことを引き留めようとした。まだここに来て短いのに大胆なずうずうしいことをやろうとした。いや、メイドのくせにお嬢様を……この手に求めようとするなんて……何考えてるんだろう私……でも、お嬢様もあんなことを私に平気でやるなんて、そういう気があるんじゃ……違う違う!そんなわけない。私とお嬢様は主従関係の中だ。そんなのあるはずない……でも、もし……そうだったら…………いいな……。

 布団から顔を出すと、自分でもわかるくらい外の空気が冷たく感じた。きっとかなり私自身が沸騰しているのだろう。ちょっとだけ布団から足を出して冷ますようにした。

 それから目をつぶった。無意識か意識か、お嬢様にさっき触れていただいた部分の感覚がよみがえる。また顔が熱くなるのを感じる。今は一人だし、いいよね?

 次の朝目が覚めたときはスッキリとした気分だった。本気でお嬢様のために努めようと思うのだった。

 

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