勇者の行動記録   作:サトウトシオ

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<第15話>

<第15話>

城下の散策には王宮の老兵がつきあってくれることになった、入城の際にすれ違った…というか走り回っていた老兵である。話に聞くと年齢は58歳、父オルテガと同年代のようだ。非常に話をしやすい、気さくな人物であることが短時間の会話でもわかった。

老兵の案内により城下町を散策してわかったことは、今のパプニカにはロクな店がないということだ。自分が冒険者であるためそういった用品を売っている店に着目してしまうというのはあるかもしれないが、たとえば武器屋では「ひのきのぼう」や「こんぼう」、あるいは「銅の剣」といった低レベルなものしか販売されていない。販売されているもっとも強力な武器が銅の剣、なのである。自分はアリアハン王からこのレベルの武器を受け取り旅を始めたが、それはアリアハン周辺には低レベルなモンスターしか存在しなかったから成立した話だ。今思えばアリアハン王からはもっと強力な武具を支給してもらいたかったがそれはともかくとして、パプニカは魔王軍から攻められるような場所、いくらなんでも…と思ってしまう。

この店で初めて見た「どたまかなづち」などという、とんでもなく奇妙でわけのわからないものまで売られていた。自分のイメージ力が不足しているのだろうか、これが武器なのか兜・帽子なのか、武器だとしてもこれでどうやって敵と戦うのかさっぱりわからない。仮に兜・帽子だとしても、こんなものをかぶって外を歩きたくはないし、そもそもバランスが悪すぎて歩いているだけで転びそうである。

パプニカ正規軍は兵は鋼の剣や鉄の槍を使っていたことを考えると、やはり物流が完全に途絶えてしまったことが相当大きく影響しているのだろうと推測する。ダイ少年がまともな武器を求めてベンガーナを訪れた理由もわかるというものだ。よくよく考えてみればダイ少年よりも魔法使いであるポップ少年のほうがよっぽど優れた装備をしている。魔法使いの武器としてはかなり優秀な部類に入る「輝きの杖」、「旅人の服」に「魔道士のマント」、攻撃力・守備力ともにじゅうぶんなレベルだろう。もちろん大魔王ゾーマと戦ったときの魔法使いと比べられるレベルではないが、しかし今のポップ少年の実力、そして戦う敵の戦力から考えれば必要十分といえる。それから比べるとダイ少年の装備は貧相すぎるといえるかもしれない。もっともポップ少年が身につけていた謎のベルト、あれはちょっといただけないが。

 

待ち合わせの時間となったため手土産…といっても酒、それとそれに合いそうな肴だ、ど3人でちょうどよさそうな量。それを片手に城門へ行くと賢者アポロはすでに準備を整え待っていた、用意のいい男だと思う。さっそくルーラで大魔導師マトリフの住む洞窟へ。ルーラで着陸すると、ちょうど外出から帰ってきた大魔導師マトリフであろう老人と遭遇。持ち物からみるにどうやら釣りの帰りらしい、しかも酒を飲みながら釣りをしていたようで顔が赤く、息が酒臭い。それなのにどういうわけかそこそこの釣果らしく、魚籠の中には10匹ほどの魚が入っていた。彼一人で食べるのであればじゅうぶんすぎる量だろう。酔っ払っているせいか釣果がよかったせいか、あるいはその両方か、ともかく大魔導師マトリフの機嫌は悪くないようだ。簡単に自己紹介を済ませると用件を抜きにして宴会が始まった、手土産の酒と肴も気に入ってもらえたようだ。とれたての魚、マトリフ秘蔵の酒、そして手土産の酒と肴、3人での宴会は日付が変わるくらいまで続いた。それくらいまでの記憶しかない、というのが正確なところではある。

 

翌朝、ものの見事に二日酔いの勇者・賢者・大魔導師が完成した。


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