勇者の行動記録   作:サトウトシオ

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<第16話>

<第16話>

いかにベホマやキアリーといえど二日酔いの回復は無理だ、こればかりは酒が抜けるのを待つしかない、つまり我慢ということだ。3人ともふらふらで頭痛もひどいが、用件を話すことにした。

 

大魔導士マトリフとの話でわかったことを簡単にまとめるとこうだ。この世界では呪文を契約の儀式にて習得する、そして同じ呪文でも使い手によって威力や効果が異なる。また同時にふたつの呪文を使うものもいる、ということだった。

詳しく考えてみよう、まずひとつ目は呪文の契約についてだ。自分がいた世界ではその職業ごとに修行によるレベルアップで呪文を習得した。もちろん当人のセンスによって早い遅いはあれど、呪文というものは修行により身につけられるものだった。しかしこの世界では違う、本人のセンスというのはたしかに重要ではあるが、そのセンスとは呪文を契約できるかどうかという意味も含むのだという。このことはつまり、契約の可否次第では勇者の呪文を全て習得し終えた自分にも、新たな呪文を習得できる可能性があることを意味している。

ふたつ目は使い手によって…という点だ。自分のいた世界では誰が唱えてもメラはメラであった。つまり自分が唱えても、仲間の魔法使いが唱えても、モンスターが唱えてもすべてメラはメラで、効果は一様だった。それこそ大魔王ゾーマのマヒャドと、仲間の魔法使いのマヒャドも効果は同じだ。だがこの世界では違う、自分が唱えるメラと大魔導師マトリフが唱えるメラはあきらかに威力が異なる。さらに言えば大魔導師マトリフはメラの威力をつぎ込む魔法力によってコントロールできる。

回復呪文についても同様だ。自分のいた世界のベホマは一定の魔法力を消費し、一瞬にして体力と怪我を全快させるというものだ。それこそどれだけダメージを受けていようが毒に冒されていようが、一気に全快するのがベホマだ。しかしこの世界ではベホマの使い手の力量や魔法力により、回復に時間がかかったり、あるいは体力や怪我のどちらかしか回復できなかったりといったこともあるそうだ。

どちらがよいかということを考えると、敵にかけような呪文であればこの世界のほうが、回復呪文や味方にかけるような呪文であれば自分のいた世界のほうが優れているように思う。もっともそれはじゅうぶんな魔法力を持ったものでなければ意味をなさないのかもしれないが。

そしてここまで考えてわかった事実はこうだ、「自分のいた世界の呪文とこの世界の呪文は似て非なるもの」。呪文という概念・性質が異なるのだ。自分にできるかどうかはともかくとして、やり方次第では2種類のベホマも習得可能かもしれない、もっともそれ自体にどれだけの意味があるかはわからないが。

そして最後が同時に2つの呪文を使うものもいる、という点。たしかにこれまでは片手、あるいは両手から単一の呪文を唱えてきた。そもそも同時に2つの呪文をという概念すらなかったが、それができると…と考えたが、攻撃呪文の速射・連射性が格段に向上するくらいしか考えがわかない。呪文の連射は戦闘で役に立つ技能ではあるだろうが、果たしてそこまで必要なものなんだろうか?という疑問がないわけではない。

そんなわけで大魔導師マトリフからの座学は無事終了し、あとは必要な呪文や技能を身につけるだけ…なのだが、さすがにこれ以上は教えるのも面倒だとあっさり断られてしまった。そもそも気難しい人間であるマトリフにここまで教えてもらえたことのほうがある意味奇跡なのかもしれない。マトリフ曰く呪文を覚えたければそのへんの本棚にある呪文書を勝手に使っていいとのことなので、賢者アポロに手伝ってもらい呪文の契約を試みることにする。


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