勇者の行動記録   作:サトウトシオ

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<第17話>

<第17話>

賢者アポロとパプニカの城門で待ち合わせをしたのは昨日の夕方だから、すでにかなりの時間が経っている。パプニカ王国の役職者であるアポロの仕事やプライベートを完全に無視してことを進めており、罪悪感を感じるもののこのような訓練機会もそうあるものでもない。申し訳なく思いながらも呪文の契約を行う。

呪文の契約は契約したい呪文に応じた魔法陣を地面や紙、布などに描き、その魔法陣の中で行う。アポロの話しによれば、この世界では呪文ごとに魔法陣が書かれた呪文書が販売されており、それを購入・使用することで契約を行うそうだ。契約に際して呪文書は消滅してしまう、したがって呪文書はある種の使い捨てアイテムのようなもの。しかもそれなりに値が張るものらしく、複数の呪文を習得しようとなると相応に費用がかさんでしまうそうだ。騎士団・軍・教会に所属する魔法使いや僧侶はその費用を所属組織から負担してもらえることもあるそうだが、冒険者であればその費用はやはり自己負担となる。それを考えるとコストバランス・コストパフォーマンスの見極めというのも必要になってくるのではないか、とのことだった。ましてや呪文書を購入したからといって必ずしも契約に成功するわけでもないし、契約に成功してもその呪文を使えるかどうか、つまり力量的に使えるかどうかはまた別問題であるから、やはり冒険者にとって呪文の習得というのはある種の賭けに近いのかもしれない。

幸い、カール王国でドラゴン相手に荒稼ぎしたゴールドもたんまりある。またここには大魔導師マトリフが保有する呪文書…しかもそれを自由に使ってもいいという恵まれた環境だ。必要な呪文の契約・習得を行うにはこれ以上ないと言えるかもしれない。

 

賢者アポロの補助もあっていくつかの呪文の契約に成功した。ヒャド、ヒャダルコ、メラ、メラミ、ギラ、ベギラマ、イオ、イオラ、バギ系、フバーハ、マホカンタ、ルーラ、ベタン。やはり自分は魔法使いでも僧侶でも賢者でもないので、高レベルの呪文は契約できなかったが、各系統一通りというのは今後なにかしらの形で役に立つはずだ。だがバギ系についてはどういうことか頂点であるバギクロスまで契約できた、これは完全に想定外で嬉しい誤算だ。以前は王者の剣を振りかざしバギクロスを発動させていたが、そのことがよい方向に影響したのかもしれない。これまでの戦闘スタイルを取り戻す一因になりそうだ。

フバーハは自分のいた世界とこの世界で効果がことなる呪文のひとつ。自分のいた世界では吹雪や炎といったブレスを和らげる効果だったが、この世界ではブレス以外にも敵からの攻撃呪文も対象となるようだ。こちらのフバーハの防御と敵の攻撃に力量差があれば完全に無効化することも不可能ではない、とのこと。

ルーラも同様に効果が異なる呪文だ。自分のいた世界では街と街を移動する呪文であったが、この世界では思い浮かべた場所へ移動するといった具合で効果が異なるのである。賢者アポロがこの洞窟までルーラで来れたのもそういう理由があったからだろうと推測している。

ベタンはベンガーナでポップ少年が使っていた大魔導師マトリフのオリジナル呪文だ。マトリフの顔が書かれた呪文書が5冊ほどあったが、これはマトリフが自分で書いたのだろうか?ともかく習得できた。ポップ少年が使うと魔法力も簡単に底をついてしまうようだが、自分であれば問題ないだろうと考えている。

 

今回契約できた呪文はバギクロスとベタンを除くと、戦闘力という面において決定打となるものではない。そのことは念頭に置く必要があるだろう。


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