勇者の行動記録   作:サトウトシオ

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<第3話>

<第3話>

剣士の自分語りは続く、要約すると「大魔王様から頂いた鎧を身にまとえば攻撃も呪文も一切シャットアウト」とのことだ。疑問点がいくつか。大魔王様というのはおそらく大魔王ゾーマのことと思われるが、そのゾーマは既に自分自身で倒している。ゾーマから生前に受け取ったものなのだろうか?あるいは自分が知らない、別の大魔王が存在しているのだろうか?

もう一つは鎧についてだ。見たところ、腰に下げている異様な形をした剣と思われるものを除けば、鎧を隠し持っているような雰囲気はない。部下のモンスターたちに持ってこさせるのだろうか?また剣士の口上を信じるなら攻撃も魔法も一切シャットアウトということだ。自分自身が以前に身に着けていた、そして知る限り最高レベルの効果を持つ「勇者の盾」や「光の鎧」ですら、敵の呪文や吹雪などをやわらげる程度の効果しかなかった。それ以上の効果を持つものなど存在するのだろうか?

 

剣士の自分語りが終わり、不気味な剣をかかげ何やら呪文を唱えた。剣が光を放ち鎧となる、おそるべき仕組みだ、変形する剣など聞いたことがない。ただ現実に剣が変形し、鎧となったのは事実で受け入れなければならない。兜の額部分にはムチのようなものが据え付けられている、これが剣へと変形するのだろうか?

 

見る限り、たしかに物理攻撃に対しての防御力が高そうな鎧ではあるが、攻撃を一切シャットアウト…というのはいささか言い過ぎではないかとも思う。同等のレベルというと「大地の鎧」「鉄仮面」あたりか。もっとも、この国の兵士相手であればじゅうぶんすぎる防御性能ではあるのかもしれない。

 

そんな思案をしていたところ、先ほど助けた賢者らしきものが剣士に向けてメラミを唱えた。この賢者はメラゾーマも使えないのかと多少落胆するが、不死モンスターに負けている時点で、この国自体のそもそもの軍事力はそれほど高くないのかもしれないなと推察した。ともかく剣士に向けて放たれたメラミは直撃…するも剣士を燃やすこともなく時間とともに消滅してしまった。なるほど、「呪文を一切シャットアウト」とはこういうことか。完全に呪文を無効化してしまう、と。

 

自分でも試してみようと勇者の呪文「ライデイン」を唱え、剣士に直撃させたところ…どうやら効いてしまったようだ。呪文をシャットアウトする鎧といえど、金属であるため電撃を防ぐことはできないといったところか。

ライデインのダメージがかなり大きなものだったのか、剣士にはかなり応えているようだ。戦闘は継続できるであろうが、本領発揮は難しいであろうダメージと思われる。このまま「ライデイン」「ギガデイン」を連発すれば簡単に倒せてしまいそうだが、目的は制圧であるのでそれでは意味がない、この程度にしておかなければ。

そう考えていたところ、剣士はどこからか「キメラのつばさ」を取り出し、それを放り投げ退却した。戦況不利、このままでは負けると判断したのだろう。敵ながら賢明な判断だと評価する。

 

戦闘も一段落したため敗残兵たちのリーダーと思われる賢者へ聞いてみたところ、ここは「パプニカ王国」だそうだ。聞いたこともない国名である。

モンスターたちの襲撃で王都は壊滅、国王も戦死、唯一の王女は王都から待避しているとのこと。賢者たち敗残兵も最後の抵抗を続けていたが、まだ不死モンスターたちが徘徊しているため、このまま王女のもとへ撤退するそうだ。


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