歪ませすぎたグロテスクなギターと、直アンで愚直なまでにパワフルなギターの機械音。華奢な体から生み出される、豪快で他を圧倒するドラムスの打音。それらを包み込むような、それでいて支配しようとするベースの低音。
四人の男女が生み出す音は、若さを持て余している分のポテンシャルを遺憾なく発揮するかの如く、十五畳ほど部屋に鳴り響く。
そしてその上に乗っかる様に発せられるギターボーカルの少女の歌声。彼女の表の顔である時とは違い、可愛さも、純粋な巧さも求めない。
ただ歌詞に込められた思いを叫ぶように。腹から出てくる声には彼女のファンには決して聴かせる事のできない棘が多分に含まれていた。
彼女、綺羅ツバサはギターを掻き鳴らし、そして叫び歌う。普段の抑圧された想いを発散するかのように、自分を解き放つように。
けれど、これは誰かに訴えかけているわけではない。ただの自慰行為に過ぎない。
本当の自分を抑え付けて愛想をふりまく、普段のアイドル活動の時の鬱憤を晴らす為の。
◆◆◆
「いや~ひどい音だね」
一曲演奏しきった直後、ギターボーカルである綺羅ツバサに向けて、先程ベースを弾いていた男、佐々木明が苦言を呈する。
パンクロックだって音楽だ、今は聞き手が居ないから良いものの、本来は個性を出しつつも周りと調和させるように音を作らなければならない。
しかしツバサは、それをせずに自分の好みだけを前面に出した音作りをしていた。リズム隊として、何より影の支配者を自称するベーシストとして、あまりどこかのパートが突出して前に出るのは納得出来ないものがあった。
「良いじゃない、別に」
自分でもそれはわかっている、わかっているからこそ、そこを指摘されるのは面白く無いと、ツバサは少々不満の声を漏らす。が、これもまた日常の、所謂お約束というもの。この四人は別にライブ目的でバンドを組んでいるのではない。
ただ楽しいから、それだけの理由で、こうして安くないスタジオ代を支払い、それぞれバラバラな予定を合わせて集まっているのだ。
明自身、別にそこまでキッチリとする必要はないと考えているし、何よりツバサが楽しめればいいと言うのも事実だが、それはそれ、これはこれ。流石に今のはやり過ぎというものだ。
先程お約束と記述した通り、このやり取りはある種の定型となっている。つまりこの後は続きがある。そう、二人の言い争いだ。
口火が切られるのを見計らい、微笑ましい様子で二人の事を見ていた、ドラム担当であり、また明の妹である暁美が、二人を諌めるべく口を挟んだ。
「まぁまぁ二人共、今日は久々に集まったんだから、言い争いなんて無駄な時間使わない!」
そんな暁美に同意するように、もう一人のギター担当、宮本伊織が黙って頷く。
それもそうね、とツバサ自身もそれをわかっている為、一度不満を抑えてギターに手をやる。
彼女がギターをやるようになってから初めてコピーした楽曲、「禁じられた遊び」。それを、ほぼ無意識のうちに演奏する。もう動きが指に染み込んでいるのだ。
何を思ったか明は、その禁じられた遊びに合わせるように弦を弾く。根音を弾くだけなので、コードさえ知っていれば大して難しい事ではない、とは明の談。
しかし、スタジオを借りている時間は有限、言い争いの代わりに二人だけで仲睦まじく禁じられた遊びを演奏している様を見ているのは、伊織、暁美としては面白くない。
二人は視線で相談し頷き合うと、暁美が小さくカウントを始めた。勿論視線だけで曲を決定したわけではない。伊織の左手の動きを見て、暁美はそれに同意したのだ。
カウントの4つ目にスネアを一つ叩くと、伊織のギターが音を鳴らす。
曲はオーストラリアのロックバンド、AC/DCの「Back in Black」だ。これもまた何度も何度も演奏してきたのだろう、伊織が演奏し始めたのを聞いた直後、本能的にツバサ、そして明も演奏に入り始めた。
カバーするのはAC/DCのかつてのボーカリスト、ボン・スコットの歌う「Back in Black」。
伊織の刺々しくソロが終わると、今度はツバサの、やはり刺々しい歌声が爆発した。そしてそんな物騒な二人を煽るように加速しようとする暁美。
じゃじゃ馬な三人をまとめ上げるように抑えようとする明は、なんとも荒々しい皆を見て苦笑いを浮かべていた。
◆◆◆
あれから各々の演奏したい曲を挙げる以外特に会話もなく、スタジオの時間ギリギリまで演奏を続けたツバサ達。
解散となって直ぐにその場を離れたのはツバサのみで、明、暁美、そして伊織は、自宅の近くにある和菓子屋「穂むら」へと訪れていた。
伊織と暁美がギターを――暁美はエフェクターも――、明はベースを背負っているが、暁美がギターを持っているのにはわけがある。綺羅ツバサがギターを背負って歩いているのと、そうでないのでは意味合いが大きく異なるのだ。
女子高校生達による有志の活動、スクールアイドルの頂点に位置するのが、綺羅ツバサがリーダーを務めるA-RISEである。その綺羅ツバサが、わざわざ休みの日にギターを背負い町を歩いているという事は、誰かと会っていたと言う誤解を生みかねない。
アイドルにスキャンダルは御法度、少しでも誤解を生まないためにと、こうして暁美がフォローをしているのである。
「それにしてもアレだね、お姉ちゃん、よっぽどストレスたまってたんだね」
穂むらの名物の一つであるあんみつを、一口口に含んでから、暁美が今日のスタジオでのツバサの様子が少々おかしかったのを漏らした。
ちなみに暁美は、いつもはツバサの事を「ツバサちゃん」と呼んでいるのだが、こうして自分たち以外に誰かがいる場合、「お姉ちゃん」と呼ぶようにしている。
「まぁ、
明が学業の部分をやや強調しながら、暁美の言葉に返事をした。ツバサのスクールアイドル活動の事を学業と称しているのは、この四人の暗黙の了解というものだ。伊織はあんみつに夢中になっており、話を聞くだけで参加はしていないが。
今日ああして参加したものの、ツバサは明後日にもライブを控えた身。今回の集まり自体、少々無理をしての事だった。
「それはそうと伊織くんは受験勉強大丈夫なの?来年からパラダイスが始まるけど、そこんとこどうなの?」
「受験なんて無かったんや」
急な話題転換は暁美のお約束。数秒前までツバサの話題だったにも関わらず、一瞬でその矛先が伊織へと向いた。
現在中学三年生の伊織は、本来ならばバンド活動よりも受験勉強をしなければならない。故にそれを心配、標的として、暁美が話題にしたのだ。
後半の、来年からパラダイスが始まる、という言葉は、彼が受験する事になってしまった学校に由来する。
『国立音ノ木坂学院』
東京は千代田区の秋葉原・神田・神保町に挟まれた地域にある高校で、古くからの伝統ある女子校だ。
前述の女子校と言うのは誤字ではない。本年度いっぱいまでは女子校であり、来年度から共学化に向けてテスト生を迎え入れる事になっている。
そしてテスト生として声をかけられたのが、本学校の理事長と母が旧知の仲である伊織であった。
現状他にはテスト生として受験する、なんて話を聞かないため、女子校に一人男子が混ざる事になるのである。その一人が伊織だ。
同じ学舎に男が居て、そして女がいる。確かに共学と言えなくもないが、実質的にはまだまだ女子校である。
「今からそんなんじゃ、先が思いやられるねぇ」
「お前は俺の母ちゃんか」
もう十一月の半ば、この時点で現実から目をそらしている伊織に対し、暁美が明らかに巫山戯た調子で嘆いてみせる。
こんな事を言っているが、暁美は伊織の一つ下、しかも勉強は得意という事もあり、今から既に受験に対して余裕を見せていた。
一方の伊織は成績は普通。明や暁美に助けられた時は成績も伸びるが、そうでない場合はとても平均的な点数しか出せないのだ。
だが、受験する音ノ木坂学院のレベルはそこそこ高い。自分の成績では一応圏内にはいるものの、それはあくまで一応にすぎなかった。
もっとも、伊織の場合は自分から進んで勉強をしない事が主な原因だが。そもそも受験間近に遊びに出かける事自体間違っている。
「あれだ、明も音ノ木坂に来い。いや、来てください」
始めの高圧的な物言いはどこへやら、暁美の話題転換同様一瞬で下手に出た伊織は、このままだと土下座しかねない勢いで明を巻き込もうとする。
受験そのものよりも、実際に学校に通う事のほうがきついと考える伊織は、一人でも多く男子を巻き込みたい。そこで手近に居たのが明だった。
だが、明は現在高校二年生。一年間通うために、直ぐ近くの学校間を転校するというのもおかしな話だ。
「お兄ちゃんが音ノ木坂に……」
「いや行かないから」
いつもより真剣な表情、口調で明にとってとても不穏な事を呟く暁美。そしてそんな妹の頭に手刀を振り下ろす明。
いたっ、という言葉とともに頭を擦りながらも、やはり真剣な表情は変わらない。
「伊織くん伊織くん、ちょっと」
数秒悶えた後、伊織の耳を引っ張って何かを伝えようとする。が、耳を引っ張る必要があったのかは疑問である。
本気で耳を引っ張られた伊織は、先程の暁美とは比べ物にならないほど悶え苦しみながらも、暁美から告げられる言葉で、表情を狂喜を孕んだ苦悶のものへと歪ませた。
「よし、とりあえず俺はもう今日は帰るわ」
そして暁美の言葉が終わると、耳の付け根を労るように撫でながら、唐突に帰ると宣言した。
一体こいつは何を言っているんだ、といった視線を向ける明にも気付かず、お代を置いて宣言通り帰っていった伊織、明はただ、その背中を見て、何か嫌な予感がしながらも、それを見送るしかできないでいた。
◆◆◆
「えっと、○○高校から転校してきた佐々木明です……趣味は、音楽です。それと先生、なんで自分がここに居るのかがわかりません!」
名前、どこから来たのか、そして趣味と、簡潔に自己紹介を済ませた明は、新しい担任となった教師に対し、頭がオカシイと思われかねない質問をした。
何故自分がここにいるのか、普通ならそんな質問はしないのだが、明はそれをせずには居られなかったのだ。
「何故、自分は
本来通っているはずの○○高校ではなく、何故か通うはずの無い音ノ木坂に通う事となっては、それも無理なかろう。
あの時、去年の穂むらで感じた嫌な予感とは、現状にほかならないのだから。
唐突に帰ると宣言した伊織は、その後母経由で理事長と対面、テスト生を募集するのであれば一人よりも二人の方が良いはず、などとまくし立て、結果明の通っていた校長に理事長から話が行き、今回の話が実現したのだ。余談だが、この時理事長はなんとも言えない微妙な表情をしていたと言う。
問題の親に関して言えば、暁美の暗躍があった。
暗躍と言っても、大した事はしていない。伊織が理事長と話をする際、明の制服を買い替えなくても良いように交渉するよう良い含めていたのだ。
制服は決して安い買い物ではない。だからこそ、それさえ解決すれば特に問題はなかった。寧ろ、話が決まってからは親も面白がっていた節がある。
さて、話を戻そう。暁美の策略、伊織の行動力により、本人の与り知らぬ間に転校する事となった明は、とりあえず流れで自己紹介をしたはいいものの、やはり現状に戸惑っていた。
今まで女子半分野郎半分の教室で過ごしてきたが、現在は辺り一面お花畑。こんな光景は初めてだった。
「さて、それじゃあ佐々木君の席は東條さんの隣ね~。東條さん手挙げたって」
現実は非情である。明の疑問は完全に無視されてしまった。
予め、理事長がどういった経緯で明が転校してくる事になるのかを担任に伝えていたのが大きな理由だ。
ある意味気の毒な生徒として紹介されてい事ともあり、担任が自分なりに明の事を気遣っての優しさがスルーだったのだ。優しさが時には苦痛となる事例である。
そんな明にとって入らぬ気遣いは置いておき、担任に指名された生徒、東條希が目印となるべく手を挙げ、わかりやすいように明に向けて手を振った。
紫がかった黒い髪を後ろで二つに結った、おっとりとした雰囲気を醸しだした少女。母性の象徴は少女と呼ぶには相応しくないが。
そんな希を一瞥した明は、隣が空席になっているのを確認すると、これ以上は何を言っても無駄だと悟り、新しく自分の席になった場所へと移動していった。
その途中、ズボンのポケットからスマホが震えるたのを確認した明は、席に着くなり教師に見つからないようそっと確認する。その相手は綺羅ツバサだ。
内容は、放課後楽器を持ってUTXにまで来て欲しいというもの。
一体なんだろうかと思いつつスマホをポケットへとしまいこみ、教師からの連絡に耳を傾けた。
◆◆◆
明が自分の置かれた境遇に嘆いた頃、時を同じくして伊織もまた、自分の現状に頭を抱えていた。
結局、一年生では男子生徒が伊織一人な為、根本的な解決になっていなかったのだ。
何故直ぐに気付かなかったのかと疑問は残るが、それは伊織が馬鹿だったからだろう。加えて、暁美が特に指摘しなかった、寧ろ意識させないようにしていたというのも原因に違いない。
「……ん?」
自己紹介が終わり席に着いた伊織は、こっそりとスマホを取り出し連絡が無いかを確認すると、明、暁美、そして伊織に向けてツバサから連絡があったことに気付く。
その内容は、上記の通りだった。一度家に取りに帰らないといけないことに、少々溜息が溢れる。
だが、相手が相手だけに面倒くさいとも言うことが出来ない。明や暁美だったら「巫山戯んなボケ」で済ませられるだろうが、ツバサは普段ロックに飢えているのをよく知っている。
そんなツバサに、突然楽器を持ってきて欲しいと言われれば、それは断れるはずがない。
―――行けばわかるか。
今浮かんでいる疑問も、目的地に行けばわかると考えると、明同様直ぐに教師の話へと意識を切り替えた。
「明、暁美、伊織……申し訳ないのだけれど、レコーディングを手伝って欲しいのよ」
この日、この時に発せられた言葉が、後に明達やA-RISEにとって大きな変化をもたらすのだが、それは神のみぞ知る事だ。
T・N・T!
オリ主、オリキャラ紹介
名前:佐々木明
誕生日:9月30日
担当パート:ベース
好きなミュージシャン:ゲディー・リー、ジョン・ポール・ジョーンズ、シドヴィシャスetc.
その他:使用しているベースはAtelier ZのBeta5。もともと父親のものだったのを使っている。何れはRickenbackerの4003を購入したいと考えている。ベースの奏法は、ピックで弾くときもあれば指で弾く時もある。指の時は大抵、ワンフィンガーで演奏を行う。学年はツバサや希、絵里、にこと同じ三年生。
名前:佐々木暁美
誕生日:12月28日
担当パート:ドラム
好きなミュージシャン:ジョン・ボーナム、キース・ムーン、ライデン湯沢etc.
その他:担当してるのはドラムだが、ギターもベースも演奏可能。明、伊織、ツバサ達に比べれば劣るが、それでもかなりの実力を有する。努力の天才、ではなく、努力を惜しまない天才。8ビートを叩く際、たまに意図的にスネアの部分のハイハットを抜く時がある。学年は亜里沙、雪穂と同じ中学三年生。
名前:宮本伊織
誕生日:11月13日
担当パート:ギター
好きなミュージシャン:ランディー・ローズ、アンガス・ヤング、真島昌利etc.
その他:使用しているギターはGibsonのLes Paul Customで、3P.Uのものを使用。明同様、父親のものを使っている。エフェクターを使わず、マーシャルのアンプに直刺しを好む。明、暁美、ツバサ達の間に一番最後に加入した。その前は関西に住んでいた。学年は凜、花陽、真姫と同じ高校一年生。