【再開】遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜 作:ハクハク再モン
ARC−Ⅴを見ていて「このまま終わるのはいかん」と思い再び書き始めました。ここまで遅くなった理由としては次話投稿目前でスマホを変えざるを得なくなり、ここのパスワードを忘れて前アカでインできなかったことがあげられます。おかげでモチベーションが大幅ダウンしてしまいましたが、ジャックのデュエルで再燃したのが救いでしょうか。
先日には明日香が登場したことで私のテンションも大幅アップしましたし、このままモチベーションを維持していきたいところです。
「長い眠りについていたような気がする…」
デュエルアカデミアのオベリスク・ブルー寮、その自室で俺はそう呟いた。教育実習生の龍牙とのデュエルを終えてからそう時は経っていない筈なのに、タイムスリップしたようなこの感覚はなんだろうか。
俺ーーー亀崎賢司は、元々はここと全く違うよく似た世界の人間だったのだが、何の因果か『三幻神』と呼ばれる存在によってこの“遊戯王”の世界へとやってきた。唐突なことに驚きはすれど、自分の知る世界へと実際に来れたことは素直に嬉しかったりもした。
それからはペガサス・J・クロフォードや武藤遊戯、そして海馬瀬人との出会いを経てこの世界独自のシステムを早速体験することとなった。“遊戯王”の世界ではカードゲームである『デュエルモンスターズ』が、あらゆる面で多大な影響を与えるものとして存在している。現在においてはスポーツ面における『プロアスリート』と呼ばれるものに近い『プロデュエリスト』という存在や、それを育成する『デュエルアカデミア』が最たる象徴として見られている。
テレビで放送される番組を始めとしたメディア関係においてもデュエルモンスターズ関係を中心に取り扱うことから、如何に世間に浸透しているかが伺えることだろう。
『昨日もまた夜更かしをされていたからでしょうに…。あまり褒められたことではありませんよ』
未だ眠気を払拭できず目をこする俺に、いつの間にか傍らに現れた女性が苦言を呈す。“遊戯王”において特別視されているのが『精霊』と呼ばれる、カードに宿る魂である。物に魂が宿る、という日本における代表的な『九十九神』とは違い、こちらはカードに描かれたモンスターがそのまま魂を持った存在だ。
ファンタジーチックな話だが、お約束と言わんばかりにそれらは常人の目には当然の如く映らない。そういった素質のある人間にのみ見えるとのことで、かく言う自分もそのひとりであるらしい。現に今、民族衣装らしい衣服を見に纏った白髪の女ーーー“青き眼の乙女”の姿が半透明ながらもこの目には見えている。
「う〜ん。意味もなくデッキを弄るのは自重しなきゃなぁ…。一度気になりだすと止まらなくなる」
『睡眠不足が原因でデュエルに負けるなんてことになれば、私たちはマスターの元を離れることを強いられてしまいます…。どうかそれだけは…」
「ああ。それだけは絶対にあっちゃならないのはわかってる。だから俺はデュエルでは全力で相手を倒すことに専念する。自分のカードをみすみす手放しなんざしたくないからな」
アカデミアで万が一敗北しようものなら“青眼”に関わるカード全てを渡すこと。それが俺の身柄を預かることの交換条件として、海馬瀬人が提示したものだ。海馬が持つ“青眼”との並々ならぬ因縁とそれに対する執念は、おそらくこの世界にふたつとないほどに手強いだろう。
だがそれはこちらも同じだ。例えあちらが古代エジプトからの因縁であろうが、こっちは“青眼の白龍”と出会わなければ今ほどデュエルモンスターズに興味を示さなかったのは間違いないと思う。今までのデュエルでも使い続けたこのカードは少しボロがきてしまっているが、それでも大切なものに変わりはない。たとえどんなヤツが立ちはだかろうと、この島にいる間は絶対にこの“青眼”を死守してみせる…!
〜〜〜〜〜〜
孤島に設立されたデュエリスト養成学校であるデュエルアカデミア。ここにはプロデュエリストを始めとした、デュエル関連の職業に就こうと狭き門をくぐり抜けた生徒たちが日々研鑽を行っている。とはいえ、実際のところはデュエル関係の授業があること以外は普通の学校とあまり変わらない。そんななか唯一特徴的なのが、『ランク付け』によって住まう寮が違うといった点だ。
自分を始めとした成績の優秀なものは青を基調としたオベリスク・ブルー。ここに位置付けする彼らは豪奢な寮に食事、学校の施設もある程度は自由に使えたりするなどの優遇されっぷりだ。またこのランクの生徒の大体はプライドが高いということもある。
真ん中に位置する、成績は特別高くないが決して低くもない生徒が集まるラー・イエロー。そんな彼らには一般的な衣住食が与えられている。寮もバンガローのような、ルームシェアも余裕でできるぐらいの広さで最低限の不自由ない生活を送ることができる。
あとは……寮長の影が薄いってところか?ブルーに上がってからは全く見かけないんだが。ただとてもいい人なのは間違いない。あの人の作ったカレーの味は今でも覚えている。
そして……一番下のドロップアウト、成績の悪い生徒が位置するのがオシリス・レッド。あの遊城十代がいることでも有名なレッドの寮は、悲しいほどにボロいアパートだった。ボロいとはいったがそれはあくまで他ふたつと比べた意味であって、決して人としての生活を送ることが厳しいような場所ではない。
ただでさえ狭いひとつの部屋に三人がルームシェアするという、文字通り押し込められたような扱い。食事もご飯に味噌汁とおかず一品にたくあんと質素な品数。これにはレッドの生徒も文句を挙げていたが、今ではすっかり順応しているところを見れば人間の適応力は本当に大したものである。
「何の気なしに外へと出たはいいが、今日は休みじゃなかったか?」
『そうですよ。マスターが「朝早くにレッド寮に行くから起こしてくれ」って言っていたではありませんか』
「ん〜そうだっけか?だとしても何の為に…」
“乙女”に頼んだ理由を思い出すべく頭を捻っていたその時、ちょうど校舎へと続く道を挟んだレッド寮とイエロー寮がある方向から、イエローの三沢大地を筆頭にレッドの遊城十代と丸藤翔が校舎へと走っていくのを見かけた。彼らがずいぶんと慌てた様子で走っていくのを見て、やっと自分が何の為に早く起きたのかを思い出した。
「あ〜…そういえばそうだったか」
『?』
疑問符を浮かべ、どういうことかと視線で訴えてくる“乙女”。ついて来ればわかる、と短く答え俺は彼らの行く先ーーーデュエルリングへと歩みを進めていった。
ーーー事の発端となったのはデュエルアカデミア実技担当最高責任者であるイタリア人のクロノス・デ・メディチ、彼の私怨によるところだった。
彼はアカデミアにおいてその立場にあるほどの強さを備えているにも関わらず、入学試験におけるデュエルで遊城十代に敗北した経歴がある。その一件以来、彼は十代を目の敵としあの手この手で退学に追い込もうと画策。時には実力のある生徒や部外者をけしかけるなど教師とは思えない行動をとってきた。
オベリスク・ブルーのエリートこと万丈目準も、クロノスと同じく十代に敗北を喫した生徒のうちのひとり。クロノスも策略の駒としての彼には期待していたが、月に一度行われるテストにおけるデュエルで万丈目が敗北したのをきっかけに、徐々にその期待を失望へと変えていった。
ーーーあれだけのレアカードを与えたのに負けるナンーテ、と。
そこから万丈目の転落が始まった。最下級のレッドに負けたことが、これまで周囲を見下していたことの反動と言わんばかりに他者からの扱いがぞんざいになった。取り巻きだった者たちも、目をかけてくれていたクロノスからも。
あげくの果てには自分とラー・イエローに所属する三沢大地の、寮入れ替えを賭けたデュエルを行うとクロノスの口から言われる始末。その転落ぶりに生じた自分以外からの嘲笑は、当の万丈目にとっては聞くに堪えないものだっただろう。
そして今日はその寮入れ替えデュエルを行う日。デュエルリングへと向かってみれば、万丈目と同じくブルーの生徒である丸藤亮と天上院明日香を含めての言い合いが展開していた。なんでも「万丈目がカードを捨てるところを見た」という天上院の証言から、三沢のデッキが万丈目によって捨てられたのではないかーーーという議論に発展したようだ。
「知らん!俺は自分のカードを捨てたんだ!人を泥棒呼ばわりするとは見下げ果てたヤツだな、三沢!」
「万丈目ッ‼︎」
声を荒げる十代を無視して、万丈目が「このデュエルに負けた者が学園を去る」というある種のデスマッチをクロノスに提案する。万丈目もそれほど切羽詰まっていたのだろうが、そうまでしてアカデミアに残ろうとするのは何かしらの理由があるとみていいかもしれない。
いっぽうの三沢はこの提案を二つ返事で了承、デッキを捨てられた状況でも慌てるような素振りは微塵も見せていなかった。それもそうだ、三沢の
火、水、地、風、光、闇ーーーそれぞれ別の属性をテーマとするデッキを見せる三沢に万丈目は一層敵意を露わにし、三沢は万丈目に勝つべくデッキを選びデュエルディスクにセットする。互いの残留を賭けたデュエルの火蓋は、ここに切って落とされた。
ーーーしのぎを削る激戦を制したのは三沢だった。モンスターの攻撃力を高める万丈目の攻めをいなし、すべてを打ち倒した三沢の戦術はまさに秀才の名に恥じない戦いぶりだ。というのも三沢は、実はデュエルが始まる前から万丈目が使うデッキの特徴を把握していたからだ。
『恨みの炎で焼き尽くす』…あくまで揶揄に過ぎないと考えるであろう、たったこれだけの言葉で。やっぱり秀才は目の付け所が違う。
「万丈目!カードを大切にしないような奴はデュエリストとして失格だぞ‼︎」
「ーーーまた…俺は…!」
このデュエルを制したことにより三沢のオベリスク・ブルー昇格を認めるクロノスだが、三沢は即座にこれを辞退。驚くクロノスに己のやるべきことがなくなるまでブルーに上がらない旨を伝えた。そのやるべきこととは……遊城十代に勝利することだった。
レッドでありながら数々の強敵を打ち倒してきた十代を負かすべく、“第七のデッキ”の構築に着手しているという三沢に十代は闘志を燃やす。龍と虎が睨み合い火花を散らせる様は、のちに起こるデュエルの激化を容易に想像させた。
〜〜〜〜〜〜
「万丈目のやつ、失踪したらしいぜ?」
「ラー・イエローの三沢に負けたのが相当ショックだったみたいだな。まあ元からアイツの態度は気にくわなかったし、むしろいい気味だ」
「いっそこのまま戻ってくるな、ってな!」
三沢と万丈目のデュエルから程なくして、万丈目が失踪したという情報がアカデミアに広まった。そのことに前々から万丈目を快く思っていなかった生徒連中、特に同じブルーの生徒がこれ幸いと好き放題に罵る言葉が聞こえてくる。いくら他人に向けたものだとわかっていようが、嫌でも聞こえてくるものだから心中穏やかにはなれない。
「なんだあいつら…!少し前まで金魚のフンみたいに万丈目にくっついてたのに」
「アニキ。もしかして万丈目くん…ショックのあまり身投げを…!」
「そ、そんなことあるわけないだろ…!……ない、よな?」
取巻や慕谷を始めとした万丈目をこき下ろす連中に憤慨する十代。翔も相手がブルーといえど気にはなるらしく、そんな十代と翔は万丈目を捜索するべく急いで教室から抜け出していった。“乙女”からは「追わなくていいのか」と聞かれはしたが万丈目はすでにアカデミアから去っているだろうし、追ったところで全く別の一件に絡むのはわかりきっていた。だったらわざわざ足を運ぶ必要もないだろうに。
結局のところ戻ってきた彼らからは、十代が猿とデュエルしたということと予想通りに万丈目がアカデミアを去った旨が伝えられた。張り合えるライバルという存在がいなくなってしまったことに十代が目に見えて落ち込んでいたので、「きっとどこかで会える」と控えめには励ましておいた。だがここで本当に万丈目が脱落したとしたらこの後の物語がどうなるのか…その心配も含めて、俺は心のなかで万丈目がアカデミアに戻ってくることを切に願うのだった。
〜〜〜〜〜〜
万丈目がアカデミアを去って数日が経った。未だ万丈目に対し悪態をつく輩はいるものの、失踪した当日と比べれば落ち着きを見せ始めていた。意外というには違うかもだが、レッドやイエローよりもブルーの方が万丈目を良く思っていなかった節が強く、万丈目を引き合いにだしては笑う様が良く見られていた。また、ブルー寮で万丈目が使っていた部屋は数々の調度品の処分に困ったクロノスが結局手つかずで放置することにしたらしい。勝手に処分しようものなら、万が一万丈目グループに損害賠償を求められればいち教師の給料では払いきれないのが目に見えているからだろう。
そんな普段の日常に戻りつつあるアカデミアのレッド寮ーーーの食堂。いきなり十代から「今日こそデュエルしようぜ!」と断る隙すら与えない形のお誘いがあったので、仕方なしに足を運んできていた。しかし現在この空間に生ずる音はデュエルとは程遠くに静かなものだった。
「十代、そこ間違えてるんだな」
「だあぁ〜もう!せっかくの休みなのになんで勉強しなくちゃならないんだよ…!俺はこんなのよりデュエルがしたいのに」
「仕方ないッスよアニキ。ボクらただでさえ筆記の点数が悪いんスから」
心底苦手な勉強にウンザリして突っ伏する十代。今彼らが広げているのはデュエルディスクではなく勉強道具だ。見ての通り座って学ぶことがとことん性に合わない十代は、一時間も経過しない内から文句をこぼしている。そんな勉強嫌いの十代がなぜ渋々ながらも勉強しているのかというと…。
「俺は実践派なんだから勉強なんてしなくても…」
「ダメだぞ遊城君!いくら実践派といっても最小限の勉強はしておかないと、その実践で失敗することになるんだぞ!」
愚痴をこぼす十代を叱責したのは、彼らと同じオシリス・レッドに所属する
「まあ彼の言うことには一理あるな。ちょいとここらで危険意識を持っておいたほうが、前田みたいに留年するのを防ぐこともできなくはないだろう」
「俺みたいに留年したら、それはそれで大変なんだぞ?十代」
「ちぇっ…わかったよ。やりゃいいんだろ…」
渋々といった様子でブツブツと言いながらも止めていた手を動かす十代。苦笑を浮かべる翔も取り組み始めるなか彼らを見守る初心は、日が暮れる時間までここに居座り続けたーーー。
〜〜〜〜〜〜
「ーーーということがあってな」
「オシリス・レッドの初心守…。確か、今のオシリス・レッドのなかでも有望な生徒だと聞いていますが」
勉強会があった日とは別の日。廊下で偶々三沢と鉢合わせた俺は昨日にあったことと、乱入した生徒について話をしていた。一通りの話を聞いた三沢は初心守がどういった人物なのかをすでに知っていたらしく、彼について詳しいことを教えてくれた。
ーーー初心守。三沢曰く、彼を一言で表すなら“基本や初心を忘れない男”とのこと。デュエルや勉強においてそれらを徹底する彼は実に危うげなく安定した成果をあげており、その点が教師たちの評価を得ているという。金髪のツンツンヘアーに某タンスのマナーモードなた◯しの顔を合わせたような風貌のモブらしいモブである彼だが、実際にはオシリス・レッドのなかでも強い部類に入っている。というのも、以前に行われた月一試験の結果で「次はイエローに行けるか」というほどに良いものだったのだとか。
「そう言われているのなら、いずれはラー・イエローに上がるのも時間の問題ってことか」
「それが、彼にはちょっとした欠点があるみたいなんですよ」
三沢から初心が抱える欠点を聞かされてから時は進み、クロノスが受け持つ授業の最中。クロノスが担当する技術の授業はデュエルに関する基本的なものを中心に取り扱っている。そして時折、しっかりと理解しているかを確かめようと抜き打ちで生徒に答えさせるので生徒側はあまり気の抜けない授業となっているのだ。
「エ〜それで〜ハ…シニョール守。この問題を解いてみるノ〜ネ」
「はい!」
クロノスに名指しされた初心が提示された問題を解きにかかる。内容としてはクロノス自身が用意した簡単な三択問題で、『有翼幻獣キマイラを召喚する場合、適切でない方法はどれか』という問いだ。“有翼幻獣キマイラ”といえば決闘王の武藤遊戯が使ったことでも有名な融合モンスターで、ステータスは決して高くないにも関わらずプレミアがついたその値段はいち学生では到底手が出せないこととしても有名なカードだ。
「…正解ナノ〜ネ。シニョール守はオシリス・レッドでありながら、しっかりと勉強しているようで感心デス〜ネ。他のオシリス・レッドも彼を見習うノ〜ネ」
特にーーーと戻っていく初心を尻目に、クロノスは翔に揺さぶられながら居眠りをこく十代を睨みつけた。このように、初心は教師から提示される問題のほとんどをしっかりと答えられることと、デュエルにおいても基礎がしっかりとしていることからラー・イエローに上がるのを心待ちにされているのだ。
が、そんな彼が抱えている欠点がそれを阻害している。それは、再び訪れたクロノスの授業で明かされた。
「デハこれらのコンボを応用した詰めデュエルを、シニョール守。解いてみるノ〜ネ」
「えっ⁉︎」
クロノスが教示したコンボはどれも特別難しいものではなく、コンボの仕組みと都度の手札やフィールド、墓地を確認していけば決して解けなくはない問題だ。しかし初心は先のお手本のような回答を出せず、覚束ない調子でたどたどしく解いていく翔に近い様子を見せていた。
「え〜と…これで……あっ」
「ミスなノ〜ネ。基本ができても、応用に活かせなければダメナノ〜ネ!もっと勉強しなさイ〜ノ!やっぱりオシリス・レッドはオシリス・レッドでしタ〜ネ」
…見ての通り初心守が抱える欠点とは、“応用”が苦手だということだ。三沢が知る限りではテストも応用問題だけが厳しい結果になっていることが多いらしい。基礎ができているぶん応用もソツなくこなせそうなイメージが持ちやすいが、そこが彼がオシリス・レッドに止まっている理由になっているかもしれない。
「気にすんなよ守。あれぐらいの失敗は誰だってやるもんさ」
「むしろ僕なんかあの問題全然わからなかったし…」
「…うん。ありがとう」
そんな彼をブルーの連中が笑っているなか自分の席に戻った初心を励ます十代と翔。そのおかげで初心は幾分か気を持ち直したみたいだが、自身の欠点とされているものに思うところがあるのか顔は完全には晴れずにいた。
それとはまた別の、今度は放課後でのデュエル中のこと。ここで彼のデュエルを見ていた率直な感想を述べるとすれば、本当に“お手本”と表現するのが相応しいなものだった。派手なデュエルを見慣れていたこの目に映ったのはただモンスターを召喚し、魔法でモンスターを強化し、罠を用いて相手の攻撃を防ぐ……それらは特になんら悪いことではないが、なんといっても『単調』としか言い表せないのだ。
「僕のターン、ドロー!“復讐のカッパ”を生け贄に、“半魚獣 フィッシャー・ビースト”を召喚!」
半上級モンスターを召喚し相手モンスターを戦闘で破壊、そのままターンを終わらせた初心。…ちょっと待て待て。最初から彼のデュエルを見ていたがコンボはどれも単発、最悪フィールド魔法と装備魔法で強化するぐらいしかしていないぞ。確かに初心者の頃はこういったコンボぐらいしかできなかった自分だが、アカデミアに通う者がこればっかりというのはいいのか…?
結果、初心は危なげながらもこのデュエルには勝利した。
「まあ、十代ほどの腕を強いるのも悪いか…」
十代も同じオシリス・レッドだが向こうは直感と経験、そして天性のドロー運でデュエルを制するツワモノだ。それと比べれば初心を始めとしたほとんどのデュエルが物足りなく感じてしまうが、逆に言えばこれが普通のデュエルだと自分の頭の中で思い返す。
天性のドロー運なんてオカルティックな現象はこの世界ありきのものだとしても、やっぱりそれを自然と求めてしまうのはそれに毒されているせいなのか。
「あいつ、目立つような闘い方はしないけど結構安定してるよな」
「僕も同じようにすれば、デュエル中に失敗しないようになるのかな…」
「多分翔は、何をしても小さな失敗ぐらいはすると思うぞ?」
隼人の茶々に怒った翔。どうどうと宥める二人とは裏腹に、離れていた俺は心中密かに隼人の言ったことを肯定していたのだった。なんせ翔はちょっと有利になるとすぐ調子づくからな。
「あら?十代たちじゃない。どうしてここに?」
初心のデュエルを見ていた俺たちに声をかけてきたのはオベリスク・ブルーの天上院明日香だ。今日はいつものジュンコとももえに加えて、薄紫のツインテールを揺らす藤原雪乃も連れていた。
「あそこにいる守のデュエルを見てたのさ。明日香たちのほうこそなんでデュエルリングに来たんだ?」
「今度クロノス先生の授業でタッグデュエルの実習があるでしょう?その予習も兼ねて試しに四人でやってみようと思って来たのよ」
明日香の説明で思い出した。今度のタッグデュエルもそうだが、この世界ではタッグデュエルが認められ始めた時代でもあるんだった。この先誰と組まされるかわかったものじゃないから、早いうちにそっち用のデッキも調整しておかなければ。
「そういえばそうだったな。それじゃあせっかくだし、制裁デュエル以来のタッグデュエルしようぜ!なあ翔!」
「えぇ、あの時みたいにうまくいくかなぁ…」
「お、俺はまた応援してるぞ…!」
「何言ってるんだ、隼人もやろうぜ!タッグデュエルって結構面白いからさ!」
あれよあれよという間にタッグデュエルの雰囲気を作り上げられたのに苦笑する。本当にどんな話題からもデュエルに繋げてしまうんだな、十代の奴は。
「言っとくけど、先にアタシらが使うんだからね!」
「こちらで一回終わりましたら交代しますので、それまでどうか我慢してくださいましね」
「えぇ〜⁉︎そりゃねぇよ〜…」
瞬く間に翔と隼人を説き伏せた十代は早速デュエルせんと動き出そうとするが、明日香たちが先に使うということで出鼻を挫かれてしまった。ちなみに三人しかいない十代たちに残りのひとりはどうするのかと聞いてみたところ、案の定自分がカウントされていた。そこは同じレッドの初心を加えるべきだろうが。
ーーーと、そんなことを思っているとその初心が隣に座ってきた。その表情は先のデュエルで勝ったというのに浮かないものだった。
「どうした?」
「……自分でもわかってるんです。もっと応用を効かせることができれば強くなれるんだって。でも、僕にはどうしても基本に倣ったほうがしっくりくるんです。クロノス先生の言うように応用に活かすべきだとしても、それで基本を忘れちゃったらどうしようって思ったこともあったくらいで…」
明日香たちのデュエルが繰り広げられるなか、初心の独白を聞くことに徹する。どうやら初心守という人間は決して応用が苦手というわけではなく、応用に傾倒して基本を蔑ろにすることを恐れているだけだったらしい。デュエルにおいてそのようなことはあまりないとは思うが、初心の悩みようは真剣だ。聞いた以上は投げやりな答えを出すわけにはいかないが、さてどう言ったものか……。
「ふ〜ん。なんかよくわかんないことで悩んでるみたいだけどさ。デュエルのことで悩んでるっていうなら、デュエルでそれを解決すればいいんじゃないか?」
「え?」
「ちょうどここにお前のデュエルをぶつけられる相手がいるんだからさ。思い切ってぶつかってみろよ」
いつのまにか背後にいた十代からのらしいアドバイスを聞いた初心。デュエルアカデミアでは全ての物事をデュエルで解決する、という校風があるのだからそのアドバイスはあながち間違ってはいない。こういうのは口で言うよりデュエルで答えを示すっていうのもアリかも…な。
踏ん切りのつかない様子の初心が視線を俺に送ってくる。どうやら「デュエルをしてもいいのか」と言いたげであったので、相手をしても構わない旨を伝えれば少し悩んだ末にデュエルをする決意を口にした。
なお明日香たちを呼び止めたことでジュンコとももえから若干
「さすがに“青眼”で圧勝するわけにはいかないからな。せめて、“青眼”はデッキに一枚だけにしておこう」
「はい…!よ、よろしくお願いします!」
デュエルフィールドに立って、“青眼の白龍”モデルのデュエルディスクにデッキをセットし起動した。今回のデュエルはただ圧倒して勝つのではなく相手の為のデュエル。このデッキはある種【対十代】要素を踏まえた構成なので、どこまでやれるかが肝心なところか。
初心が緊張した面持ちでデュエルディスクを起動したところで、互いにお決まりのデュエル開始の合図を宣言する。
「「デュエル‼︎」」
ーーーーーー
賢司 LP 4000
VS
守 LP 4000
「僕のターン、ドロー!“アクア・マドール”を守備表示で召喚!」
アクア・マドール
DEF/2000
初心の最初のターンは守備力の高いモンスターを召喚するだけに終わった。レベル4でありながら高い守備力ということでかつては注目されていた水の魔法使い“アクア・マドール”。近頃はめっきりと見なくなっていたゆえに、賢司は心の内で少しばかりの懐かしさを覚えた。
「俺のターン。……」
自分のターン開始を宣言し、引いたカードを含めた手札に視線を巡らせる。手札のモンスター単体では“アクア・マドール”を倒すには至らないが、魔法を使えば充分に下すことはできる。自分で組んでおいてなんだが、やっぱり自力の低さを否が応でも意識させられることに苦笑を禁じえない。
「俺は“サファイアドラゴン”を攻撃表示で召喚。さらに魔法カード“二重召喚”を発動し、“サファイアドラゴン”を生け贄に捧げーーー“エメラルド・ドラゴン”を召喚‼︎」
エメラルド・ドラゴン
ATK/2400
青の宝石の名を冠する竜を生け贄に現れた碧の竜。その巨大な図体は悠々と“アクア・マドール”を見下ろせるほどだ。
「“エメラルド・ドラゴン”で“アクア・マドール”を攻撃!エメラルド・フレイム!」
短い咆哮の後に放たれた“エメラルド・ドラゴン”のブレスは“アクア・マドール”を何事もなく破壊する。
「俺はこれでターンエンドだ」
賢司 LP 4000
手札;3
モンスター;1
魔法・罠:0
守 LP 4000
手札;5
モンスター;0
魔法・罠:0
「オシリス・レッド相手に1ターン目から上級モンスターを召喚するとか、容赦ないッス…」
「何言ってるのよ。手を抜いてデュエルされるよりずっとマシじゃない」
翔の言葉にジュンコが反論する。気が強いジュンコからすれば「女だから」と手を抜かれることを嫌うのはわからなくもない。それを示すように、ももえもジュンコに加勢するように相の手をいれる。
「ここからが彼の腕の見せどころね。相手の場には上級モンスターのみで伏せカードもない。いくらでも対処のしようがあるわ」
「さあ、どう動くかな」
三人とは違い冷静にデュエルを観戦する十代と明日香。どちらもデュエリストとして純粋に目の前のデュエルを見ているのだろうが、十代はただ楽しみながら、明日香は自分の中で活かせる技術がないか探りながらという違いがあった。
(落ち着け…!上級モンスターを倒すことくらい、できて当然なんだ!)
「僕のターン、ドロー!」
基本中の基本といえる相手モンスターの除去ーーー魔法・罠・モンスター効果と様々にある。それらは終局であればあるほど強大な効果を叩き出せるカードだが、この時代ではまだモンスター同士の戦闘を良しとする名残があるらしく、まだあまり好まれるような状況ではなかった。
自身を落ち着かせながら引いたカードを見た守は、それが必要としていたカードだったのかすぐに守備表示でセットした。
「モンスターを守備表示でセットして、ターンエンド」
「俺のターン」
ただ壁を出しておしまいーーーそんな訳がないだろう、と賢司は考えた。慣れたもので魔法か罠を伏せられる光景が映るものではとタカをくくっていたが、出されたのはあまりにも小さな守備モンスター。
…で、あれば。
(おそらくあれは効果モンスター…。バウンスで“エメラルド・ドラゴン”を戻してくるか、破壊効果で破壊してくるかのどちらかだろうな)
ーーーだがそれだけで攻撃を凌げると思ったらそれは間違いだ。デッキからカードを引いた賢司は、それを手札に加えて左から二番目のカードをスロットに差し込んだ。
「手札から装備魔法“メテオ・ストライク”を発動。装備された“エメラルド・ドラゴン”は貫通効果を得る」
守備モンスターを攻撃した際にその守備力より装備モンスターの攻撃力が上回っていれば、その差だけ戦闘ダメージを与える装備魔法。上級モンスターを以って有利である場合、守りに入ったモンスターの壁ほど煩わしいものはない。どんなに弱いモンスターでも守備表示ならばプレイヤーのライフを守ってくれるのだろうが、このカードさえあればそれも無意味と化す。
「“エメラルド・ドラゴン”で、守備モンスターを攻撃‼︎」
再び炎がモンスターめがけて放たれた。守の守備モンスターであった一隻の船は炎に焼かれあっという間に消滅する。
守 LP 4000 → 3000
「“黄泉へ渡る船”の効果発動‼︎戦闘で破壊されて墓地に送られた時、“黄泉へ渡る船”と戦闘をしたモンスターを破壊する‼︎」
「“黄泉へ渡る船”だと…⁉︎」
単体でモンスターを破壊できる効果を持ったモンスターは“人食い虫”が代表的だ。だがその“人食い虫”のイメージが思い浮かぶ最たる理由は、能動的にその効果を発動できるからだ。“黄泉へ渡る船”は『相手モンスターとの戦闘で破壊され墓地に送られなければならない』という制約から、使いづらさが目立つので使われるところを見た試しがなかったのだ。だから、賢司はその名が耳に入った途端に驚きを隠せなかった。
「予想外だったな。だがこのターンはまだ通常召喚していない。“洞窟に潜む竜”を守備表示で召喚してターンを終了する」
洞窟に潜む竜
DEF/2000
賢司 LP 4000
手札;3
モンスター;1
魔法・罠;0
守 LP 3000
手札;5
モンスター;0
魔法・罠;0
「僕のターン!“天使の施し”を発動!デッキから三枚を引き、手札二枚を捨てる!」
三回目の守のターン。ここまで目立つような動きを見せなかった守だが、引いたカードを見た途端に表情を綻ばせた。よほど良いカードを引き当てたか、効果モンスターを含めた二枚を墓地に捨てた後にカードを出すその挙動には迷いがない。
「さらに“死者蘇生”を発動!“天使の施し”で墓地に捨てた“暗黒大要塞鯱”を特殊召喚‼︎」
フィールドに浮かび上がった一頭の巨大な
暗黒大要塞鯱
ATK/2100
「そして手札から“魚雷魚”を召喚!“暗黒大要塞鯱”の効果で“魚雷魚”を生け贄に、“洞窟に潜む竜”を破壊する‼︎」
魚雷魚
ATK/1000
魚を模した魚雷……を彷彿とさせる魚が鯱の背にある砲身に入り込み、撃ち出されるそのままに“洞窟に潜む竜”を爆撃する。これで賢司のフィールドはがら空きだ。
「装備魔法“はがねの甲羅”‼︎“暗黒大要塞鯱”に装備して
暗黒大要塞鯱
ATK/2100 → 2500
DEF/1200 → 1000
「くっ…」
賢司 LP 4000 → 1500
いくつもの砲身からの射出攻撃が賢司の周囲を爆撃する。実際に当たっても衝撃が走るだけなのだが、その爆撃の激しさを見れば実弾でないのは幸いである。
「伏せカードを2枚出してターン終了!」
「すげえ。1ターンで一気に有利になったぜ」
「手札の高レベルモンスターを墓地へ捨てて魔法で復活。カード効果で相手の防御手段を削り攻撃を通す……デュエリストならば、できて当然のプレイね」
「僕だったら、あれでもう勝てないッス…」
「なによ、だらしないわね」
十代、雪乃、翔がそれぞれの所感を述べたのち、ジュンコが翔の気弱な言葉にツッコミをいれる。
「俺だったらワクワクするぜ。こういった状況をどうやって逆転しようか考えるだけでも楽しいからな」
「十代らしい考え方だけど、そこはちょっとわかる気がするわね。自分の腕とデッキを信じて闘うことに基本も応用もないもの」
「ああ。亀崎さんもきっとそれをわかってる筈さ。だからきっと、このターンで決着をつけに行くだろうぜ」
十代はその視線を賢司へと向ける。かたや攻撃力三千近くのモンスターと伏せカード、対してフィールドにカードがないがら空き。十代としては、この不利を賢司がどのように逆転するのか……それを楽しみにしているのだ。
「俺のターン、ドロー!」
十代たちに見守られるなか、賢司はデッキに指を添えカードを引いた。引いたカードを確認すれば、それは魔法カード“トレード・イン”。賢司は迷うことなくそれを手札に加えて別の魔法カードを発動させた。
「魔法カード“古のルール”を発動!手札にあるレベル5以上の通常モンスター1体を特殊召喚する!“青眼の白龍”を特殊召喚‼︎」
青眼の白龍
ATK/3000
「生け贄なしで一気に召喚しやがった!」
「これで攻撃すれば守君のモンスターは破壊される…!」
「でも問題は彼の伏せカードね。あれがもし攻撃に反応する罠だったら、せっかく召喚したモンスターも意味がないわ」
明日香の言う通り守の場には二枚の伏せーーー罠カードが伏せられている。しかも一方は明日香が言った攻撃に反応する罠。このまま攻撃をしたところでその罠の餌食となるのは明白……であれば、定石通りそれらの除去から着手するべく賢司はさらに魔法を発動させた。
「魔法カード“巨竜の羽ばたき”を発動!“青眼”を手札に戻し、フィールド上の魔法・罠を全て破壊する‼︎」
“青眼”の一度の咆哮ののち“巨竜の羽ばたき”のビジョンから突風が発生。守の伏せカードである“砂塵の大竜巻”と“攻撃の無力化”、ふたつの装備魔法が破壊されると同時に“青眼”も突風に煽られるようにその姿を消した。
暗黒大要塞鯱
ATK/2800 → 2100
DEF/1300 → 1200
「僕の魔法と罠が…!でも、その為にわさわざ高レベルのモンスターを手札に戻すなんて…」
「“暗黒大要塞鯱”を運用する際に“魚雷魚”がデッキに一枚だけ、というのは考えにくい。おそらく君の手札には二枚目の“魚雷魚”、もしくは墓地にあるのを回収するカードがあるはずだ」
そう指摘された守はたじろいだ。というのも賢司が言った通り守が持つ一枚の手札は、墓地の攻撃力千五百以下の水属性モンスターを手札に戻す“サルベージ”だったからだ。
「それがあるなら“暗黒大要塞鯱”を倒してしまえばいい。…が、伏せられた二枚のカードに阻まれない保証もない。だから“青眼”を手札に戻し魔法罠を破壊したわけだ」
「っ…!」
「基本に縛られることなく柔軟に闘え、ってことだ。魔法カード“トレード・イン”発動!手札のレベル8モンスターを墓地に送り、デッキから2枚をドローする!」
残った手札二枚全てを使い、“青眼”を墓地に送って二枚のカードを引く。大きな賭けであったが、引いたそれらはこのデュエルを終わらせる決定打となるカードだった。
「さらに“死者蘇生”を発動!墓地より蘇れ、“青眼”‼︎」
青眼の白龍
ATK/3000
「最後に装備魔法“ニトロユニット”を暗黒大要塞鯱”に装備!“ニトロユニット”を装備したモンスターが破壊された時、装備していたモンスターの攻撃力ぶんのダメージを相手に与える!“青眼の白龍”で“暗黒大要塞鯱”を攻撃!滅びのバーストストリーム‼︎」
「うわああぁぁぁ…‼︎」
化学物質の詰まった淡い緑色の機器が取り付けられた“暗黒大要塞鯱”を“青眼”のブレスが襲う。その巨体にダメージが降りしきると同時に機器にも衝撃が加わり、化学物質による大きな爆発が発生し初心にダメージを与えた。
守 LP 3000 → 0
ーーーーーー
「あと少しで、勝つことができたのに…。どこかで基本を蔑ろにしていたのか…」
デュエルが終わると膝をつきながら何が悪かったのか省みる守。そんな守へと俺は歩み寄っていく。
「いや、率直なところ君のデュエルはしっかりと基本に忠実だった。まさにお手本と言うべきデュエルだ。…だが基本に縛られていてはできることなんてタカが知れている。学んだ基本を様々な形で活かすこともまた大事……まぁ要は、自分が追い求めるデュエルを貫けってことだ」
十代のように融合召喚を主軸にするのも、俺や初心のようなビートダウンデッキを使うのもそれらはデュエリスト全員が等しく自由にすればいい。誰もが自分らしさを表出させられるようなデュエルができるなら、それはとても良いことだ。
「自分らしさ…」
「そう。だからそれほど深く悩むことはない。試しに応用に手を出してみてから考えたほうが、自分の進む道がより見えやすくなるんじゃないか?…まあこんな偉そうなこと言ってる自分としても、どういったデュエルが自分らしさなのかまだ見えていないがな」
どうせならやる前から悩むよりやってから悩むほうがいい。不安はあれど、その経験は絶対に本人の糧となるのだから。アカデミアには格下を否定したり嗤う奴らもいるが、それで自分のデュエルをやめてしまうのは早計というもの。それに負けず最後まで自分らしさを貫いた果てに、それが自分の求めたデュエルでなかったならばそこでやめればいい話だ。
「ーーーさて。君の悩みに応えられたかどうかはわからないが、とりあえずは立つといい。いつまでも地に膝をついているのは気分的に良くないだろう」
そう促しながら守へと手を伸ばす。本当はそんな性格ではない癖にこういう行動に踏み切れるのは、デュエルを通したからかもしれないな。守もその考えを肯定するかのように俺の手を取り立ち上がった。
「基本はあくまで基本……そこから自分に相応しい闘い方を見極めることが重要だと。そういうことですね、先生!」
「ーーー『先生』?」
手を取って立ち上がった守は、口を開いたと思ったらいきなり俺のことを先生呼ばわりしてきた。いったい今のやりとりのどこにそう呼ぶ要素があったんだ…。
「基本を大切に思うあまりそれに囚われてしまうなんて、僕はまだまだです。僕がこれから成長する為にも、先生から教わったことを忘れずに勉強したいと思います!ー
「いやいやちょっと待ってーーー」
「先生!今回はありがとうございました‼︎」
「ちょ、ちょっとーーー‼︎」
一気にまくし立てて一方的にお礼を言ってあっという間に去って行ってしまった守に、俺は途中で口を挟むことすらできず呆然としながらその背中が消えるのを見続けるしかなかった。守が基本を大切にする性格なのは知っていたが、どこか崇拝的なところがあったことに大きな戸惑いを隠そうという気すら起きない。
「どうしてそうなるんだ……」
いなくなってしまったものは仕方なし。後日に改めて話し合うことを取り決めると、十代たちの前にも関わらず大きな溜息を吐いて肩を落とす。人にものを教えるのが苦手な俺が先生とか…笑えない冗談だホントに…。
「実際に彼のデュエルモンスターズの知識もかなりのものだものね。フフ、今度から私も先生って呼んでみようかしら♪」
「からかうのはほどほどにしなさいよ雪乃…」
「へへ、俺たちも今度から先生って言ってみようぜ」
「そんなことしたらそう呼ばれたのにかこつけて勉強という報復をしてくるんじゃないッスか…?」
「うぇっ…」
なにやら良からぬ企みが聞こえてくるがそれに目くじらを立てるほど子供ではない。少年少女の茶目っ気ということで納得することにしよう。ーーーだが。
「そんなに先生と呼びたいか…。ならばこれからはしっかりと勉強を見てやらないとなぁ?まずは明日のクロノス先生の授業に向けてみっちりと予習するとしようか。しっかりと終わらせるまで見ててやるからな…!」
「ええーっ⁉︎勘弁してくれよ‼︎」
ゆらりと幽鬼のように十代へ向いてそう言うと十代は全力で抗議してきた。だが俺はその程度で引き下がりはしない…!日ごろ授業態度の良くない十代に少しでも真っ当な授業を受けさせる気概を持たせる為、ここは心を修羅にさせてもらおう。覚悟しろよ、遊城十代‼︎
口は災いの元ーーー己の発言に後悔して唸る十代と獲物を狙う獣の如く目を光らせる俺を見て、明日香たちは呆れたり失笑を浮かべるのだった。
前書きぶりの私です。久しぶりに書いた今回はTFキャラの初心守を採用。本来なら三沢と万丈目のデュエル回だったのですが、内容を覚えていなかったので「じゃあ1から書き直そう」となりました。ただいざデュエルとなると彼のデッキとのちに出てくるアナシスがほぼ被ってしまうことに気づいた結果、アナシスを削るほうを選びました。元々アナシスはとばす予定でしたからね。
今後のセブンスターズ編までの予定としては、原作に沿いつつTFキャラとオリキャラをもうひとり出すつもりでいます。しかし、TFキャラの方は皆さんの知っているのとは違う姿で、オリキャラは少し批判の怖いところがあるので今でも心配が拭えません。(しかも時期的にオリキャラの登場が先という…)
こんな心配だらけの作品ですが、よろしければどうぞ再びよろしくお願いします。