【再開】遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハク再モン

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カオス・MAXと儀式術ください(挨拶)
どうも、一枚ぽっちじゃ満足できない私です。儀式術にいたってはあると思ったら一枚もない始末で泣きそう…。どうしてこう必要な時になると消えてなくなってるんですかね?(憤怒)


VS??? 迫りくる闇と炎

 宝石のように煌びやかな星々が空に輝く夜。デュエリストの養成を目的とした施設であるデュエルアカデミアが建設された孤島にある、鬱蒼と生い茂る木々のなかのデュエルアカデミア各所へと電力供給を行き渡らせている発電施設。関係者以外の立ち入りが禁じられたこの場所には時間の関係もあって人の姿はひとりとして見えず、風に煽られて木の葉同士が擦れガサガサと鳴らす周囲の環境も相まってやや不気味な雰囲気を醸し出している。

 その四隅にある電塔のひとつからパリッ、と静電気じみた電流が流れる。ーーーひとつだけではない。残りの三つからも徐々に電流が流れ始め、ついにはけたたましいスパーク音が四つの電塔の頂上で打ち鳴らされる。明らかに人が触れてはならないとわかるほどに電圧が高められた電流はひとつ、またひとつと電塔から発電施設の中央部上空へと集まっていき最後には暗闇に包まれたこの場所を一瞬の閃光で照らし出した。

 ーーー強大な力場を生み出した影響で集中していた電流はバチバチと弱々しく散っていく。スパークも落ち着き始めるなか、未だ微弱な電流が流れるその中心には先まで見えなかった『人影』があった。

 

「何者かは知らぬが感謝するぞ。こうして現界できたことをな…」

 

 ーーー『人影』がその艶かしい口の端を上げて笑ったのとほぼ同時、ブルー寮にて既に就寝していた亀崎賢司の精霊である“青き眼の乙女”が何かを察し窓の外を見やる。自身が察知した()()は精霊の気配が『二つ』。一方の精霊はなにやら(まじな)いのような力が微かに、もう一方の精霊からはあの廃寮で感じた()()と同じものを感じとったのだ。

 月明かりに照らされながら「何かが起こる」と直感した“青き眼の乙女”は、現れた『何か』に対し窓に映る自分の表情を厳しいものへと変えるのだった。

 

◇◆◇◆◇◆

 

日本本土から離れた南の孤島、デュエルアカデミアに来てしばらく経った。普段は暖かい気候に包まれているこの島に滞在していると季節感を感じにくかったが、今この島には白い雪が空から降ってきていた。雪なんて前の世界でもなかなか降ってこなかったから、“乙女”から雪が降っているのを聞いた時は内心でほんの一瞬だけ子供のように喜んだ。どうりで起き抜けに肌寒いと思ったわけだ。

 季節は冬ーーーこのアカデミアにも本土の学校と同じく冬休みが存在する。生徒はここに残って過ごすも良し、本土の実家へと帰省するも良しと休みの間は自由に過ごすことが認められていた。明日香を始めとしたブルーの男子女子もそのほとんどが帰省しており、普段はエリート意識の高い連中の声が聞こえてくるブルー男子寮も静かな空気に包まれている。

 

「ま、俺にも休みがあるのは有難いけどさ…」

 

 雪がフワフワと優しく降りしきる夜、ブルー寮の自室にて目の前のUSBケーブルで繋がれた“青眼の白龍”型のデュエルディスクと海馬コーポレーションから送られてきたUSBメモリが挿しこまれたPCを眺める。PCの画面にはこのアカデミアでのデュエルの記録を続々と取り込んではメモリに移す、という工程が自動で流れている。

 必要最低限のPC操作しかできない自分でもできるから安心!……なのだが「故意に情報を隠蔽しかねん」と、社長自らがわざわざ組み上げたプログラムであることと疑り深い性格にはちょっと傷ついた…。それというのも、自分が持つ“青眼の白龍”型のデュエルディスクは海馬コーポレーションのデータベースとは繋がっておらず、これを用いていくらデュエルしてもそのデータはあちらに送られていなかったことには驚いた。まあこれはあの“三幻神”によって造られた文字通りの神造物である為、データベースと繋がっていないのは至極当然のことだ。

 

「わざわざデータを送ってこいとか…。何がなんでも調べあげるつもりなんだろうなぁ、あの社長は」

 

 初邂逅した時から存在しない筈の“青眼の白龍”とそれを使役する俺のことを目の敵とばかりに向かってきていた社長ーーー海馬瀬人。今は彼が社長を務める海馬コーポレーション、通称【KC】に身を置かせてもらっているが為にこういった情報提供は従わなくてはならない。今ごろは俺の素性とかも調べられているだろう。

 ーーーふと俺は視界の端に映る、カーテンの隙間から暗くなった外を眺め続けている“青き眼の乙女”に意識を向ける。彼女は数日前から何かを警戒するような雰囲気でいることが多くなり、何か考えに耽る様子もよく見られるようになった。普段はいつも通りなのに時々何かを察知する様子も相まって何かあったのか聞こうかと考えもしたが、とても話しかけられるような雰囲気ではなかった。今こうしている間もその理由については聞けずじまいである。

 “乙女”が何を考えているのか…その予想をつけることはできよう筈もなく、PCの画面にデータ取り込み完了の表示がでるまで彼女を見続けていた。

 

〜〜〜〜〜〜

 

「よーし!“E・HERO クレイマン”を召喚するぜ!」

 

 雪が降るなかのオシリス・レッド寮。食堂という狭い空間で、遊城十代と丸藤翔の二人はデュエルに興じていた。冬休みという自由に過ごせる時間があることは、十代にとって大好きなデュエルがやり放題というこの上ない至上の時である。二人のルームメイトである前田隼人とレッド寮の寮長の大徳寺先生は奥で白い餅を七輪で焼き、そして十代にお呼ばれされて招かれた俺こと亀崎賢司は二人のデュエルを観戦しながら、未だに外への警戒心を露わにしている“青き眼の乙女”の様子を窺っていた。

 

「ニャーーッ‼︎」

 

 大徳寺先生お抱えの太ましいネコのファラオが、膨れた餅が破けた音に驚いて一目散に台所へと退散していった。電子レンジとかでもそうだが、食べ物を温める際に弾ける音とかを聞いて驚いたりするのは誰もが通る道だと思う。

 

「十代君、翔君、お餅が焼けたにゃ」

「お!翔、餅食べようぜ餅!」

「うん!」

 

 デュエルそっちのけで餅を食べようとする十代と翔。まったく……デュエル中だろうが食いモンできたらすぐにそっち行くとか子供かーーーって、こいつらはまだ子供と呼べる歳だったな、やれやれ。

 

「亀崎君もお餅どうですかにゃ?」

「…いただきます」

 

 …お餅は美味しいからな。うん、仕方ない仕方ない。焼いた餅を食べるには砂糖醤油が一番、ってな。

 大徳寺先生からよく焼けた餅を受け取ると“乙女”の方に再度視線を向ける。いつもなら何かしらの反応を示す筈が、今の彼女からは一切の反応がない。明らかに何かに対して警戒心を剥き出しにしている“乙女”に、そろそろ問いただすべく声をかける……前に突然食堂の入り口からガシャーンッ、という凄い音が聞こえてきた。

 

「うわっ⁉︎」

「な、なに⁉︎」

 

 十代と翔が驚いた様子で入り口へと向いた。二人に倣うように見てみれば、眼鏡をかけた大人しそうなブルーの男子が引き戸ごと倒れこんでいたのだ。

 何事かと十代と翔が様子を窺うと男子は疲れ果てた様子で顔を上げた。

 

「なんだ、どうしたんだ?」

「サ、“サイコ・ショッカー”が…僕を追ってきて…!」

 

 その男子はひどく怯えた様子でそう口にした。“サイコ・ショッカー”とはデュエルモンスターズでも有名なモンスターではあるが、まさかそれの本物がこの世界に実在しているわけがない。よく似たニセモノと見間違えた……わけではないだろう、アレの格好をするコスプレ生徒なんている筈が…。そもそも身長が違いすぎるし。

 十代もいきなりのことに信じられない様子で、大徳寺先生はデュエルモンスターズの精霊の研究をしているということで駆け込んできたブルー男子ーーー高寺に頼みにされて困り果ててしまった。大徳寺先生は高寺を一度落ち着かせたのち、改めて事の次第をイチから聞かせてもらうこととなった。

 

 普段の高寺は他二人の男子とともに、【高寺オカルトブラザーズ】としてオカルト研究の活動に精をだしていた。彼らは当時、デュエルモンスターズの精霊にまつわる研究を独自に行っていて、今回は実際にその精霊を降臨させてみようと目論んでいたのだとか。精霊を呼び出す方法とはウィジャ盤による言わばコックリさんに近い、というよりそのままのやり方。消灯された図書室で蝋燭の灯りを頼りにウィジャ盤に手を添えた彼らは臆することなく、精霊へと呼びかけたという。

 

“サイコ・ショッカー様、お越しください”とーーー。

 

「それで、どうなったの?」

「『三体の生け贄を捧げよ。そうすれば我は復活する』って…」

 

 デュエルモンスターズの精霊ということでその要求をそれほど深く考えていなかったのだろう高寺たちは、相手の要求を承諾した。しかし提示された【生け贄】とは、カードのことではなくれっきとした人間の命だった。彼らの行いに大徳寺先生も、そもそも精霊学と心霊学は一緒ではないことを諌めることしかできず、根本的な解決法は導き出すことは容易ではなかった。

 

「冬休みだから実家に帰ったんじゃないのか?」

「二人の実家にも電話したさ!でも、まだ帰ってきてないって…」

 

 同士が消息を絶ったことに、残された高寺は自分たちがとんでもない存在を呼んでしまったことに恐怖した。消えた二人は生け贄されてしまった…このままでは自分も同じ運命を辿ると。冬休み直後に本土行きのフェリーで逃げようと試みたこともあったが、既に“サイコ・ショッカー”が船に先回りしているのを目撃、高寺はこの島で逃げ場のない鬼ごっこを今日まで強いられ続けていた。

 高寺が怯えきった様子で語ってくれた事態を聞き終わったところで十代が何かを考え始める。十代のこと、おそらくは「精霊にも悪いヤツがいるのか」と思っているのだろうがそれはむしろ思わないほうが珍しいのではないか?人間にだって他者に害をなすヤツはいるのだから精霊にもそういったヤツがいてもおかしくはない。特定の二人……向田と井坂の姿がここ最近見えなかったのはその理由だったか。

 

(しかし、これじゃ精霊というより悪霊…もといタチの悪い神様みたいだな。それにサイコ・ショッカーは現界して何をするつもりなんだ…)

 

 現実の人間が生け贄にされたと強調されて腰を抜かす翔をよそに、いきなり食堂の照明が一斉に消えた。翔たちが慌て始めたその時、高寺がいた食堂の入り口に高身長のシルエットが暗い視界のなかに映った。目が慣れ始めてから改めて見ると、全身をロングコートと帽子で覆った何者かが気を失っているらしい高寺を脇に抱えている。

 

「お、お前は…‼︎」

「サイコ・ショッカー⁉︎」

 

 サイコ・ショッカーと呼ばれた明らかな不審者が一目散に近くの森へと逃走していくのを、十代を始めとした皆も次々に不審者を追いかけてレッド寮から駆けだしていく。そんななかで俺はあの不審者……サイコ・ショッカーをこの目で見た時に感じた、首の後ろに走ったゾワリとした感覚について思考を巡らせていた。

 

「あれが“サイコ・ショッカー”の精霊か…。まるで悪霊とかの類だな」

『……マスター。行きましょう』

「言われなくてもわかってる。どうせ十代がデュエルで勝つだろうが、様子くらいは見ておかないとな」

 

 “青き眼の乙女”に促されるままレッド寮を出て森へと入っていく。この後の展開としては、サイコ・ショッカーの復活とその生け贄とされる高寺たちの救出を賭けたデュエルをする……という流れだった筈。そうなったらよほどのことがない限り、なんだかんだで負けることのない十代を考えれば心配の必要はないと思っている。

 だが、森のなかを走る自分の横にいる“乙女”の雰囲気がそれを否定しているように見えるのも事実。彼女もまたサイコ・ショッカーと同じ精霊として何か良からぬ何かを感じているのか…。

 

「そういえば電力施設ってどこだっけか…」

『こっちです!ここをまっすぐ突き進めば彼らのもとへ辿り着けます!』

 

 案内されつつ森のなかをただただひたすらに走り続ける。その途中から、“乙女”がしきりに周りをーーーというより俺たちのちょうど右方向の生い茂る木々へと意識を向けていることに気づいた。

 

「…なあ“乙女”。前から気になっていたんだが、いったい何をそんなに警戒しているんだ?いや、別に悪いって言ってるつもりはないんだが…」

 

 さすがにこれ以上気にしないフリをするのは無理と、ついに“乙女”へと問いただしてみた。しかし“乙女”はその問いに答えることをせず、ただ無心に“何か”への警戒に専心し続けている。今は答えを聞き出せないか…と諦めたその時、警戒しながら飛んでいる体勢のまま“乙女”が口を開いてくれた。

 

『…今は彼らのところへ向かってください。おそらくは向こうも、そこで仕掛けてくるかと』

 

 その言葉に俺の頭には疑問しか浮かび上がらなかった。“向こう”とは何を指した言葉だ?まさかサイコ・ショッカーの他に何かがいるということなのか?そしてそれがここ最近の“乙女”が警戒心を露わにしていた理由なのか…。

 やがて走り続けた先の開けた場所にひとつの施設が見え始めた。デュエルアカデミアの施設に電力を送り続ける施設、鉄柵に囲われた送電施設だ。そのなかでは十代たちとサイコ・ショッカーが、なんらかの理由でできたのであろうクレーターを中心に対峙している。……クレーターなんてあったか?

 

「お前が勝ったなら、俺は生け贄になる!だがもし俺が勝ったら高寺と他の二人を解放しろ‼︎」

「いいでしょう!君からはこの男よりも強いパワーを感じる……良い生け贄になりそうだ…!ーーーん?」

 

 場面はちょうどこれからデュエルを始めるところだった。すると十代を生け贄として吟味していたサイコ・ショッカーが到着したばかりの俺に気づいた。

 

「フフフ、こちらの目論見通りに追いかけてきたか。先ほど軽く見た時にこの場にいる誰よりも強いパワーを感じたからな…、せっかくだから貴様も私の生け贄にしてやろう!」

 

 どうやら俺もサイコ・ショッカーに目をつけられたらしく、さっき感じた首の後ろの毛が逆立つような感覚に見舞われる。自分の命を脅かす存在の影響に不慣れということもあり、身体中の熱がすぅっとひいていく。だが十代はまさに命の危機を突きつけられているこの状況にしても、全く臆することなくデュエルディスクを構えた。自分から熱い心を持っていると豪語する彼にとってこの程度は心胆を寒からしめないということか…。

 

「そうはさせるか‼︎俺や高寺たち、そして亀崎さんの誰をもお前の生け贄になんかさせてたまるか‼︎」

 

「「デュエル‼︎」」

 

十代 LP 4000

   VS

サイコ・ショッカー LP 4000

 

〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「“マッドボールマン”で直接攻撃‼︎マッド・スタンプ‼︎」

「ぐああぁぁーーっ‼︎」

 

サイコ・ショッカー LP 500 → 0

 

 “マッドボールマン”から放たれた『スタンプ』と名打った光線が、高寺に乗り移ったサイコ・ショッカーを襲う。序盤は“エクトプラズマー”による直接ダメージ、中盤からは“サイコ・ショッカー”を召喚され劣勢に立たされた十代だったが、僅かな突破口をつき“リビングデッドの呼び声”による蘇生も“神の宣告”で阻止、見事にサイコ・ショッカーへの引導を渡すことに成功した。

 

「お、おのれえぇ…っ、まさか誰一人生け贄にできんとはぁ‼︎…こうなったら…っ‼︎」

 

 最後の攻撃によってサイコ・ショッカーのライフが尽きたその時、謎のセリフを言った直後に高寺の身体から目を覆うほどの眩い光がここにいる全員を包み込んでゆく。どんどんと光は強くなり、終いには失明するかと思い自らの手で光を遮らざるを得ないほど。自分が知っている限りでは、ここで朝まで気を失っているーーー筈だったのだが…。

 

 

 

 どれくらい目を閉じていただろうか。恐る恐る目を開けてみれば、辺りはまだ夜の暗闇に支配されたままだった。視界の端に映った十代やデュエルを観戦していた翔、隼人、大徳寺先生とファラオは光によって気を失い倒れている。次にクレーターを挟んだ向こう側へと目を向ければ、サイコ・ショッカーの生け贄にされかけていた高寺を始めとした三人の姿が。どうやらサイコ・ショッカーの件は無事に解決されたみたいだ。

 

「終わった、んだよな…?」

 

 それにしても、ともう一度辺りを……特に『送電施設の外』を注意深く凝視してみる。目を開けたばかりの時はまだ光に目がやられて見えにくくなっていたのかと思っていたが、いくら深夜の時間で光源がない場所とはいえ送電施設周囲の木々はもちろん、風景が全て漆黒に飲み込まれているのか全く見えないのはおかしい。空を見上げてみても星すら見えない黒一色、そして以前にあの廃寮で感じた薄ら寒い空気が肌を撫で回している錯覚に陥っていた。これはどう考えてもただならぬ雰囲気だ。

 

「どうなってるんだこれは…」

「ーーー(われ)が支配する闇へようこそ、客人よ」

「っ⁉︎」

 

 つい口をついた、誰かへ向けたものではない途方にくれた独り言、それに呼応したかのように囁かれた声が自分の耳、そして頭に()()()()()に心地良く響く。声がした方…先のサイコ・ショッカーがいたクレーターを挟んだ場所へと向けば、闇のなかでも映えるほどに艶やかな黒の長髪を揺らす一人の女の姿があった。

 

「誰だ…?」

「くくっ、まるで知らぬような口ぶりよな。無理もないこと、其方との面識はこれが初めて……訳あって名は明かせぬ故、好きに呼ぶといい」

 

 女は自身の纏う、周囲の漆黒に溶け込むような黒のドレスを抱くように腕を組む。あちらは俺のことを一方的に知っているような口ぶりだが、俺としてはあんな美人に言われるような心当たりなんてものはないと断言できる。

 

「いったいアンタは何者だ?『支配する闇』と言っていたが、これらの闇はアンタの仕業か?」

「然り。本来ならば我自ら其方を(いざな)うつもりであったのだが、そこの無粋者に阻まれてしまってな…」

 

 女はそう言うと俺の横……青き眼の乙女へと視線を移して目を細め、乙女もまた女を睨みつける。

 

「邪な気配を察知して見過ごせる道理はありません。それがマスターへ迫ろうとしているのなら尚更…!」

「其方は本当に過保護だな。害が及ぶやもといちいち物事から遠ざけていては主も楽しめるものを楽しめまいて」

「私とて何から何まで否定しているわけではありません!ここ数日の間ずっとマスターを見続けていた貴方の目的がわからない以上、近づけさせまいとしていただけです!」

「くくっ、それもそうか。ならばあのサイコ・ショッカーと同じように堂々と現れれば、存外運びが良くなったかもしれんな」

 

 “乙女”が黒ずくめの女を相手にどんどんとヒートアップしていくのと対照的に、女は調子を崩さずいたって冷静に喋り続ける。色も雰囲気も正反対な二人の言い合いをよそに、俺は目の前の女について疑問は尽きないことよりもサイコ・ショッカーの名が出たことに疑問を感じていた。当のサイコ・ショッカーは女について一言も言及していなかったが何か関係があるのか……思い切って女に尋ねてみるか。

 

「サイコ・ショッカーを知っているのか。まさかアイツと同じように、アンタも誰かに呼ばれたクチか?」

(いや)。我はあくまで奴に便乗して現界したに過ぎぬ。奴は我とどちらが其方らを生け贄にするかで躍起になっていたようだが、そもそも我はこのように、既に現界している身。生け贄など最初から必要ないのよ」

 

 そう言うと女はこれ見よがしに長い黒髪を掻き分ける。確かに今目の前にいる女の身体には、あのサイコ・ショッカーの時のようなノイズが走っておらずしっかりと受肉しているように見える。実際に手をあてがえば触れられそうなほどに、女の肉体は現実味を帯びているのだ。

 ーーーそういえば今になって気づいたが、“乙女”の姿がいつのまにか普段の半透明ではなくしっかりとした姿で見えている。こちらも手で触れらるのではと思うほどはっきりと。【遊戯王】でも精霊が実体化する場面は何度も見てはいたが、そういった状況となるのは大抵……。

 

「ならアンタの目的は何なんだ?」

「我の目的か……我の目的はただひとつ、其方よ」

「マスターを狙っているのは知っています。マスターを狙ってどうしようと言うのですか…!」

「知れたこと。其方をこの、我が深き闇へと堕とすのよ。見たところ其方は己の願望、「自身の持ちうる全力でデュエルをしたい」という望みを押し込めておる。そしてそれが今のままでは決して叶うことがないのは、其方もわかっておるのではないか?」

 

 女の言葉に俺の鼓動が僅かに強く脈うつ。女の言ったことが、この世界でシンクロ、エクシーズが使えない現状に悶々とした気持ちを抱いていたのを的確に突きつけられたからだ。

 

「我としてはそんな其方を見るには忍びないと思ってな。我が闇を用いれば、今後はそのような瑣末事で心を病ませることもなくなろう。ーーーどうだ?ここはひとつ、我が闇を受け入れてみぬか?そうすればこの世界でも存分に暴れることができようぞ」

 

 くそ……さっきから諭すように語りかけてくる女の言葉が、まるでスポンジに染み込んでいく水のように俺の中に心地よく響いてくる。このまま聞き続けているといずれ絡めとられて引き返すことができなくなりそうだ…。俺は気を持ち直してかぶりを振ってから今一度女を見据えた。

 

「結構だ…!例えシンクロやエクシーズが使えなくとも、闘う術はいくらでもある!それにアンタのその言い方だと、受け入れたところでロクなことにならないことは目に見えている!だから俺は、アンタの申し出を受ける気はない‼︎」

 

 確かにシンクロやエクシーズが使えないことに落胆したのは事実だ。使えれば戦術は広がるし何よりあって困るものではない。しかし、俺は今までのデュエルをそれありきでやってきたわけじゃない。シンクロやエクシーズに頼らず工夫次第でいくらでも闘える、ひと昔前のデュエリストに戻ったようなデュエル。その懐かしさに浸れるのもこの世界へとやって来ることができた、自分で選んだ結果によるものだ。少しの物足りなさはあれど、この現状には後悔はしていない‼︎

 

「……そうか。ならば仕方がないーーー」

 

 女がスッと手をかざしたその瞬間、サイコ・ショッカーの時と同じように周囲四つの電塔が大きな電気を発し始める。耳を劈く千鳥のような音を出していた電気に驚いていると、やがてそれの電塔が隣り合わせのそれと繋がるように流れていき、この送電施設を囲うような電流を形成した。

 

「この世界の流儀に則り、デュエルで其方を負かすとしよう。其方が勝てばここから解放することを約束しよう。だが負けたのであれば……くくっ、先に言った通り其方を我が闇に取り込んでやろう」

「電気の檻ってやつか…、念入りなことだ」

 

 この超常的な空間をつくりだすだけでなく自然現象すらも操る存在……ただの人間である俺がそれから逃げられるなんて思える筈がない。それは相手もわかっているだろうが、目的の遂行に移らずに態々デュエルを通そうとするのはこの世界の理にも近しいことだとすんなりと受け入れた。むざむざやられるよりは抵抗する術があるならそっちをとるに越したことはない。

 ここでふと重大なことに気づく。これから俺たちはデュエルをするわけだが、肝心のデュエルディスクがブルー寮の自室に置きっ放しなのだ。十代にお呼ばれした際に「必要ないだろう」と高を括っていたことにどうしようか……、と考えていたところに突如として左腕が光りだした。光が収まるとその部位には、ブルー寮に置いてきた筈の、すっかり慣れた重みをかけてくるドラゴンを模したデュエルディスクが装着されている。

 

「私の力でここへ呼び寄せました。そのデュエルディスクには私の力が内包されているので、どこにあろうと私の意思ひとつですぐに持ってくることができるのです!」

「ーーーッ。そ、そうか…ありがとう」

「何故今吹き出したんです?」

 

 今の今まで緊張感に包まれた状況だったというのに、“乙女”が見せた控えめなドヤ顔が変にツボって吹き出しかけてしまった。決してそのようなつもりはないのにあの抑えようとして抑え切れていないドヤ顔はあんまりな不意打ちだ。下手したら目の前の女よりこっちの“乙女”のほうが俺の気を緩ませるという点では勝っている……のかもしれない。今度からは笑いの沸点をあげるよう努めないとな。

 それはそれとして、“乙女”がデュエルの準備を整えてくれたお陰でこの闘いに臨むことができる。女が俺たちのやりとりに小さく舌打ちをしたのち、“青眼”のデッキをデュエルディスクにセットし翼状のディスク部分を展開する。女の方も自身の左手を空へと向けたことで黒い靄が生成されると、アカデミアに支給されているものとも初期型とも違う、その身に纏うドレスよりも深い闇色の鋭利なフォルムのデュエルディスクへと姿を変えた。

 

「さあ、其方を我が心地良き闇へと誘ってやろう!」

 

 互いのデュエルディスクを展開するのと同時に周囲の闇がより近場まで侵食してくる。すでに木々は完全に漆黒へと呑み込まれこの送電施設一帯以外の空間が黒く塗り潰されてしまったのだ。この異質な空間から解放される為には目の前の女を倒す以外にはなく、しかも倒れている十代たちに危害が及ぶかどうかもわからないこの状態で自分にやるべきことは……なんとしてでもデュエルに勝つことだ‼︎

 

「「デュエル‼︎」」

 

賢司 LP 4000

  VS

??? LP 4000

 

 

◇◆◇◆◇◆

 

 アカデミアから移り変わって日本本土の某所にある夜遅くの豪邸。『藤原』と名打たれたネームプレートが備え付けられているこの家にある一室に、アカデミアから帰省した藤原雪乃が部屋着姿で入ってくる。自身の家だというのに雪乃の表情は帰ってきた時の凛々しいまま、整えられているベッドに腰掛け息を吸うと張っていた気を抜くようにふぅ、とひと息ついた。

 

「ようやく落ち着けたわ…。パパやママみたいな人の娘というのも気が楽ではないわね」

 

 雪乃の両親は日本でも有名な映画俳優である。かくいう自身も、アカデミアを卒業した暁にはデュエルもできる俳優としての道を歩む以前に、両親からは厳しい環境で育てられてきた。およそ一般的な家庭にも設けられるであろう門限はもちろん異性との交遊等もほとんど禁じられてきた雪乃、普通なら文句のひとつでも言えるであろう彼女はしかしその教育を拒否しようという意思を持つことはなかった。

 

「でも二人のお陰で今の私があるのだから感謝しないと」

 

 帰省して早々、アカデミアでの素行について探られた雪乃。俳優を目指す者として日頃から芝居の練習を欠かさない彼女の学園生活に、憂慮すべき問題は今のところない。アカデミアにおける普段の振る舞いや言い回しも、実際は芝居の練習としての“役作り”でしかないのだ。かといって、では本来の彼女がどのような振る舞いをするのかと問われればそれは……。

 

「それにしても、彼はアカデミアに残ってしまったのね。お互いのことを色《・》()と知り合う良い機会だったのに」

 

 ゆっくりとベッドに横たわった雪乃はひどく残念そうに呟く。先ほど厳しい教育と言ったがそれは既に過去の話、今は以前よりもある程度は自由にさせてもらっている。それこそ常識の範囲であれば異性との交遊もできるくらいに。ただその話になると父の様子が変わるので雪乃としてはあまり父親の前ではしたくない話ではあった。

 時計を見てみればまだ寝るには早い時間、雪乃はアカデミア生徒に支給される端末であるPDAを鞄から取り出すと“彼”と呼ぶ亀崎賢司のPDAへとコールをとばす。特に深くは考えずただ他愛のない会話をするだけのつもりでいたが、画面に映ったメッセージに雪乃は首を傾げた。

 

「『電波の届かない場所にいる』…?アカデミアにそんな場所があったかしら?」

 

 不思議に思いもう一度コールをかける雪乃だが結果は変わらず。意図的に避けられている……にしては自分を嫌うような様子を賢司が見せたことはない。では電波の届かない場所で何か作業をしている……こんな夜遅くにやる必要があるのか?そこまで考え否定したところで雪乃の心にもしや、とある要因が浮かび上がったのと同時に、自身の精霊である“黄泉ガエル”が落ち着きのない様子でソワソワとしていることに気づく。

 

「どうしたの?そんな落ち着かない様子で」

『ゲロォ……』

 

 体を起こして問いかけた雪乃に“黄泉ガエル”は何かを訴えるようなトーンで応えた。“黄泉ガエル”が何を言っているのかはわからない、だがその様子から仮にも精霊であるその存在が気が気でなくなる『何か』がどこかで起きている……。精霊と触れ合うことで雪乃は僅かだが、精霊のそういった機微を感じ取ることができるようになっていた。

 

「『何かがアカデミアで起きている』……そう言いたいのかしら?」

 

 やっぱりあの時と同じようなことがーーー“黄泉ガエル”に問い直すでもなくひとり呟いた雪乃の心がザワザワと騒ぎ始める。もしかしたら彼がそれに巻き込まれたなのではという懸念と例えそうでも彼ならばきっと大丈夫だという確証のない自信、それらがない交ぜとなる心を抱く雪乃は、窓から外に広がる夜景を眺めていた。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「我が先攻をもらおう。ドロー」

 

 場所は再びアカデミア敷地内の送電施設、漆黒の闇に包まれたこの空間で俺は謎の女とデュエルによって対峙していた。周囲の闇によって空気が重苦しいなか、女が意にも介さない様子でカードを引く。

 

「我は永続魔法“闇炎の燭台”を発動。ーーーこの永続魔法を発動した時、我の場に“闇炎トークン”を1体特殊召喚する」

 

 地鳴りとともに地面から出てきたのは不恰好な石造りの燭台。白く細い蝋燭に灯されているとは思えないほど大きな闇色の炎は、その不気味さゆえに見ている俺の身体にうすら寒さを覚えさせた。そしてその炎の一部が場に落ちるとそれはモンスタートークンの役割を担いステータスを得る。

 

闇炎トークン

ATK/0

 

(“闇炎の燭台”……聞いたことのないカードだな)

「さらに我はカードを1枚伏せてターンを終了する。さあ、其方のターンだ」

 

 攻撃力ゼロのトークンを召喚した相手の真意、それはまだデュエルが始まったばかりということもあり想像が及ぶことはない。考えてても仕方ない、そう結論づけてデッキからカードを引く。

 

「マスター。これは廃寮の時と同じ…いえ、あの時よりも危険な闇のデュエル。どうか油断されぬよう」

「ああ、わかってる。俺のターン、ドロー!」

 

 引いたカードと手札の双方を見れば攻撃に適したモンスターは手札にある1体のみ。しかし相手の伏せカードが怪しいこの状況にうってつけの効果を持ったモンスターでもある。まずは様子も兼ねてこのモンスターで攻撃してみるか。

 

「“ミラージュ・ドラゴン”を攻撃表示で召喚‼︎」

 

ミラージュ・ドラゴン

ATK/1600

 

「“ミラージュ・ドラゴン”で“闇炎トークン”を攻撃‼︎ミラージュ・クラッシュ‼︎」

 

 竜というよりも龍と呼ぶべき長い身体と騎士を彷彿させる兜等の装備を纏うドラゴンを召喚し、そのまま間髪入れずに戦闘へと移行。ドラゴンが漆黒の炎へとブレスを吐き出し“闇炎トークン”が息を吹きかけられた灯火のように呆気なく消えていくなか、謎の女は大ダメージを受けたにも関わらず涼しい顔を崩さないでいる。

 

??? LP 4000 → 2400

 

「…さらにカードを一枚伏せてターンエンドだ」

 

 

賢司 LP 4000

手札:4

モンスター:1

魔法・罠:1

 

??? LP 2400

手札:4

モンスター:0

魔法・罠:2

 

 

「ふん、我のターン。スタンバイフェイズに“闇炎の燭台”の効果が発動」

 

 “ミラージュ・ドラゴン”によってバトルフェイズ中の罠カードが使えないことを差し引いても、攻撃力のないトークンを展開することに俺の警戒心は強まる一方だった。トークンを生成するカードの使用はその永続魔法が相手のキーカードであること、そしてトークンを主軸とするタイプのデッキとは闘った経験が皆無に等しいことが最たる理由である。“闇炎の燭台”という初耳のカードについて今のところトークンを生み出すことしか判明していないが、自分の直感は「他に何かしらの効果を備えているのでは」という予想を打ち立てていた。

 そんななか“闇炎の燭台”の効果によって先と同じ“闇炎トークン”が女の場に再び召喚された。だがその数は先と同じ1体ではなく、2体に数を増やしていた。

 

闇炎トークンx2

ATK/0

 

「トークンが二体…⁉︎永続魔法で召喚されるのは1体だけじゃないのか⁉︎」

「“闇炎の燭台”の効果で召喚されるトークンの数は、直前の相手ターンに戦闘で破壊された数が上乗せされるのよ。一体倒せば二体に、二体倒せば三体……といった風にな」

 

 戦闘で倒せば倒すほどにトークンを多く生み出す……厄介なカードだ。トークンを多く召喚するってことは、奴の狙いは上級モンスターの生け贄召喚か。

 

「魔法カード“爆纏する闇炎(ダークフレイム・ブラスト)”を発動。自分の場に“闇炎トークン”が存在している時、任意の数を破壊することで相手モンスターを同じ数だけ破壊できる。我はトークン一体を破壊し、其方の“ミラージュ・ドラゴン”を破壊する」

 

 召喚された2体のトークンのうち一体がおもむろに弾けると、火の粉となった闇色の火が“ミラージュ・ドラゴン”をあっという間に覆い尽くす。闇色一色の炎に包まれた“ミラージュ・ドラゴン”が苦悶の声をあげて少し、そのまま跡形もなく燃やし尽くされた。

 

「さらに我は二枚のカードを場に伏せ、永続罠“蝕侵する闇炎(ダークフレイム・バーン)”を発動。自分のターンのエンドフェイズが訪れるたびに、自分フィールドの“闇炎トークン”一体につき千ポイントのダメージを相手に与える。よってエンドフェイズに“蝕侵する闇炎”の効果が発動」

「…っ⁉︎ーーーぐああぁぁぁぁ‼︎」

「マスター‼︎」

 

 “蝕侵する闇炎”が発動とともに赤紫色の不気味なオーラを放つ。それと同時に俺の足元から闇色の炎が発火、炎が瞬く間に全身へと燃え伝わると激痛が全身に襲いかかってくる。これは廃寮の時と同じ、デュエルによるダメージが現実になっているのか‼︎

 

賢司 LP 4000 → 3000

 

「そこの精霊が言ったようにこれは闇のデュエル…。既に其方も経験した筈だが、己の予想以上のダメージに驚いたようだな?」

 

 纏わりついていた炎が消え去り崩れそうになる身体をなんとか抑えこんでいた俺を眺めながら、女は微笑を浮かべる。過去に体験したことのある火傷を何倍にもしたような激痛に耐えつつ、俺は心配してくれる“乙女”に軽く目配せをすると涼しい顔をしている女を睨みつけながら体勢を立て直した。

 

「この程度っ……どうということはない…‼︎」

「くくっ、そうでなくてはな…。そら、其方のターンだぞ」

 

 ライフではわずかにこっちが有利だっていうのに追い詰められているのは自分だという錯覚を感じる。いや、実際に追い詰められいるのだ。攻撃力が皆無とはいえトークンを戦闘で破壊すれば永続魔法で生み出す数を増やし、永続罠によってターン毎にダメージを与えてくる。おそらく伏せた二枚も非力なトークンを守る、こちらの攻撃を防ぐカードで間違いないだろう。

 

「俺のターン、ドロー!“マンジュ・ゴッド”を攻撃表示で召喚!“マンジュ・ゴッド”の効果により、デッキから儀式魔法を一枚手札に加え、儀式魔法“白竜降臨”を発動!“マンジュ・ゴッド”を生け贄に“白竜の騎士(ナイト・オブ・ホワイトドラゴン)”を攻撃表示で特殊召喚‼︎」

 

白竜の騎士

ATK/1900

 

 召喚された千本ならぬ万本……もあるとは見えない数の手を持った厳しい顔の仏像を生け贄に、白竜に跨った騎士を召喚する。女は召喚された“白竜の騎士”を一瞥するとーーー。

 

「……しい」

 

 何かを呟いたようだが聞き取ることはできなかった。一瞬のことだったが、その顔には憎しみの色があった……ような気がする。

 

「バトル‼︎“白竜の騎士”で“闇炎トークン”を攻撃‼︎ダークアウト・セイクリッド・スピア‼︎」

「罠カード“闇炎防壁(ダークフレイム・ウォール)”を発動!“闇炎トークン”一体をリリースすることで、相手モンスターの攻撃を一度だけ無効にする!」

「くっ…!」

 

 勇敢に攻め行く騎士の攻撃は、攻撃対象になったのとは別の“闇炎トークン”が燃え広がったことによって阻まれてしまった。だがそれと同時に、今の相手の対応に俺はひとつの疑問を抱いた。もし今の攻撃を敢えて防がずに戦闘破壊させれば、次のターンに永続罠の効果で確実にライフをゼロにできた筈なのだ。なのにそうせず攻撃を防いだのはいったい何故なのか……。

 

「俺は“白竜の騎士”の効果を発動…‼︎“白竜の騎士”をーーー」

 

 “白竜の騎士”の効果は手札かデッキから“青眼の白龍”を召喚するというもの。その為に生け贄に捧げることを宣言しようとした時、そういえば……と罠カードを発動した時の女の言葉を思い出した。確か、「リリース」とーーー。この女、まさか……。

 

「どうした。そのモンスターの効果を使わぬのか?」

「ーーー“白竜の騎士”を生け贄に捧げ、デッキから“青眼の白龍”を特殊召喚‼︎…ターンエンドだ」

 

青眼の白龍

ATK/3000

 

 

賢司 LP 3000

手札:3

モンスター:1

魔法・罠:1

 

??? LP 2400

手札:2

モンスター:1

魔法・罠:2

 

 

「“青眼の白龍”か……忌々しい奴め」

「ーーー?」

 

 ターンが移り変わってから耳に入ってきたのは、女の“青眼の白龍”に対する怒りの言葉だった。女はカードを引かずに右手を血が滲み出るのではと思うほどぐっと強く結び、身体を小刻みに震わせながらその怒りを押し込めると改めてカードを引く。

 

「我のターン‼︎ドロー‼︎“闇炎の燭台”の効果により“闇炎トークン”を特殊召喚‼︎そして二体の“闇炎トークン”を生け贄にーーー出でよ闇に染まりし炎の担い手、“闇炎の女帝(ダークフレイム・エンプレス) ‼︎」

 

 ふたつの闇色の炎が合わさり人間大の大きさへと燃え上がる。轟々と燃える炎は少しずつ人のシルエットをとると、徐々に黒のドレスや闇の中でも映える白い肌、そして顔の半分ほどを覆う仮面から赤い眼光を光らせる女帝へと姿を変えていった。心なしかそのモンスターの容姿は、相手であるプレイヤーと似通っているようにも見えるが…。

 

闇炎の女帝

ATK/2100

 

『フフフッ……』

「これは…!」

 

 薄ら笑いを浮かべる“闇炎の女帝”、その身体からは黒い霧のようなモヤーーー闇が溢れ出している。モンスターが闇を纏うという現象、“乙女”はそれに思うところがあるのか驚愕の声をあげた。

 

「『“闇炎の女帝”の効果発動!手札の“闇炎”カードを任意の数だけ墓地に送ることで、墓地に送った枚数と同じ数の“闇炎トークン”を特殊召喚する‼︎』」

 

 再度生み出された“闇炎トークン”。二枚の手札が墓地へ送られたのでトークンの数も二体、これならあのモンスターを召喚する必要はなかったように思えるが。

 

「『さらに“闇炎の女帝”のもうひとつの効果!“闇炎トークン”を生け贄に“闇炎の女帝”の攻撃力を千アップさせる‼︎』」

 

闇炎の女帝

ATK/2100 → 3100

 

 攻撃力が“青眼”を上回った…!その為にトークンを召喚したわけか…!

 

「忌まわしき白き龍、今こそ貴様を焼き尽くしてやる!“闇炎の女帝”で“青眼の白龍”を攻撃‼︎」

「罠カード“聖なる鎧 ーミラーメールー”を発動!“青眼”の攻撃力を“闇炎の女帝”と同じ数値にする‼︎」

 

青眼の白龍

ATK/3000 → 3100

 

 “闇炎の女帝”の周りから立ち上がり向かってくる炎を“青眼”がブレスで対抗し、互いの攻撃がぶつかり合い爆発。互いのモンスターが破壊された。

 

「無駄な足掻きを…!戦闘破壊された“闇炎の女帝”の効果により、場の“闇炎トークン”を生け贄とし蘇れ!“闇炎の女帝”‼︎」

 

 消え去った女帝が場の炎を媒体に再びフィールドに蘇る。再生効果まで持っているとは厄介なモンスターだ…!

 

闇炎の女帝

ATK/2100

 

「『バトルフェイズ中に特殊召喚された“闇炎の女帝”には再び攻撃する権利が与えられる!よって場にモンスターのいない其方は、“闇炎の女帝”の炎をその身に受けることになる……。覚悟はよいな?“闇炎の女帝”、直接攻撃‼︎』」

「ぐぅっ、ぐああああぁぁァァァーーーーっ‼︎」

 

賢司 LP 3000 → 900

 

 “闇炎の女帝”が手をかざすと、俺の足元から闇色の炎が噴き出す。闇のゲームであるこのデュエル中に発生するダメージが全て現実のものとなる今、モンスターの攻撃を直に受けたこの身体には言葉にならない激痛で埋め尽くされた。身体中を焼く熱、熱、熱……それらが身体の芯から脳にかけて駆け巡り、炎が収まってなおまだ焼かれている錯覚が拭い去れない。

 

「かはっ……はあ……っ」

「マスター…!くっ…!」

「苦しいか?辛いか?傍にありながら己の主を守れぬ自身の非力さを噛みしめるのはさぞ無念だろうな。だが今貴様が感じているのは、我が味わったもののほんの一部でしかない。次の我のターンでこのデュエルに勝利し、貴様を“青眼”ともども闇に呑み込んでやる…!」

「何故そうまでして私たちを憎むのです…!いったい何が貴方にあったのですか…!」

「貴様に答えたところで我の貴様に対する負の感情がどうにかなることはない…!我は貴様らが憎くて堪らぬのだ!この感情は貴様らを闇に呑み込み焼き尽くさねば収まることは決してない‼︎」

 

 息も絶え絶えになんとか女が口にした言葉に耳を傾ける。どう聞いても女は心から“乙女”と“青眼”を憎んでいるようにしか聞こえない、こうまで一方的な憎悪をぶつけられるのはどう見ても普通ではない。だが、その理由を聞かないことにはその言動を納得することができないことに“乙女”が問いかけてもとりつくしまもなく女に突っぱねられる。身体のダメージを鑑みてもこれ以上デュエルを長引かせるのは厳しい、そう考えた俺は両足に力を入れて踏ん張りデュエルディスクを構え直した。

 

「……まだ続けるというのか。我としては一向に構わぬが、その前に身体が限界を迎えても知らぬぞ」

「アンタが何を思って“青眼”に怒りを抱いているのかは知らない。だが、俺の相棒とも言えるモンスターを責められていい気になるわけがないだろ…!モンスターがデュエリストを守ってくれるのならば、デュエリストはモンスターを勝たせるもの、俺の“青眼”たちはたかが闇程度に屈することはない‼︎俺のターンーーーグッ…!」

 

 奴の思惑についての見当などつく筈もない。それでも俺は、“青眼”や“乙女”とともにこの世界のデュエルに挑んでいく。いや、挑まねばならない。それがーーーデュエルが常識と化したこの世界に渡ることを決めた自分の義務だからだ‼︎

 勢いのままデッキからカードを引いた俺、力んだことでダメージの蓄積された身体が痛みを訴え崩れかける。だがこの身体を優しく抱きとめてくれた“乙女”のお陰で、崩れ倒れることはなかった。

 

「マスター。その御心は大変嬉しく思いますが、それは貴方お一人の力で成し得ることではありません。ひとりで物事を解決しようとするのではなくマスターと私たちの力を合わせ、この闇を追い払ってしまいましょう」

 

 “乙女”に諭されたことで気持ちの整理がついた。……そうだな。力を貸してくれと言っておいてひとりで突っ走ろうとするのは“乙女”に指摘された通りの悪い癖だ。今は皆の力を束ね、俺たちを囲うこの闇に風穴を開けてやるーーーそう決意し俺は“乙女”へ強く頷く。

 

「俺は手札一枚を墓地に送り、魔法カード“ドラゴン・目覚めの旋律”を発動!デッキから“青眼の白龍”二体を手札に加え、“青き眼の乙女”を守備表示で召喚!」

 

青き眼の乙女

DEF/0

 

「さらに“ドロー・マッスル”を“乙女”を対象に発動!守備表示の“乙女”はこのターンのみ戦闘で破壊されなくなり、デッキからカードを一枚ドローする!さらに効果対象となった“青き眼の乙女”の効果も発動!墓地に眠る“青眼”を特殊召喚‼︎」

 

青眼の白龍

ATK/3000

 

「“青眼”が手札と場に三体……」

「そして“ドロー・マッスル”で引いた“融合”を発動し、手札と場の三体の“青眼”を融合させる‼︎“青眼の究極竜”を融合召喚ッ‼︎」

 

青眼の究極竜

ATK/4500

 

「こうまで追い詰められてなお、抗しうる力を手繰り寄せるとは……。くくっ、それでこそ我が求める担い手(マスター)よ…!」

 

 女がミつ首のドラゴンを見て苦虫を噛み潰したような顔をした、かと思えば今度は愉悦に浸るように嗤った。その嗤いの意味は気になるが、既に気を保ち続けるのに限界を感じていた俺にそれを問いただす余裕はない。とにかく今はこのデュエルを終わらせたい一心で、俺は“究極竜”の攻撃を宣言した。

 

「“青眼の究極竜”で、“闇炎の女帝を攻撃!アルティメット・バースト‼︎」

 

 三つの口それぞれから放たれた青白のブレスが“闇炎の女帝”めがけてレーザーのように飛んでいく。攻撃力が倍以上もある攻撃を止められる道理もなく“闇炎の女帝”は光にかき消される闇のように消え去り、防ぎ切れなかったダメージは女へと直接降りかかる。

 

??? LP 2400 → 0

 

「…くくっ。今回は敗れはしたが、このデュエルは言わば初対面の挨拶に過ぎぬ。再びまみえたその時こそ、其方をいただく為に奮戦させてもらう。今からその時を楽しみにするとしようーーー」

 

 

 

 光のなかに女が消えていく。ブレスが勢いそのまま周囲を覆っていた闇を穿つと、主のいなくなった常闇は徐々に霧散していき辺りには昇り始めた太陽の光を浴び始めた景色が目に映り込んでくる。そういえば、とハッとして十代たちの存在を思い出し彼らの安否を確かめたが十代、翔、隼人、大徳寺先生、そして高寺たちの姿が確認できホッと胸を撫で下ろした。あれだけの闇を展開できる奴が彼らに手を出さなかったのは運が良かったのだろう。

 胸を撫で下ろした拍子でつい緊張の糸を解いてしまったのか、足から崩れて尻餅をついたようにドサリと座り込みそのまま仰向けに倒れる。現実と思えない出来事を経験したことはあっても、ここまで精神をすり減らされることはなかったな。危うくはあったがこうして乗り越えられたことにひとしきりの安心をしてから、俺の意識も微睡みに落ちるように途切れていった。

 

〜〜〜〜〜〜

 

 うっすらと、閉じていた瞼が開いた。視界に映り込む木造の天井にボヤけた頭が理解する少しの間を置いて、身体をゆっくりと起こして辺りを見回してみる。ブルーの寮とは違い、都心のアパートでももうちょっとマシだろうと思うくらいに狭い部屋、そこの三段ベッドの一番下で俺は眠っていたらしい。ベッドから出て身なりを整えていると、“青き眼の乙女”が普段通りの霊体の姿で現れた。

 

『目をを覚ましましたか、マスター』

「“乙女”。俺はどうしてレッド寮にいるんだ?送電施設で気を失ったみたいだが」

『十代さんたちがマスターをここまで運んでくれました。私のほうから、十代さんに直接お願いしたこともありますが』

 

 “乙女”の答えに「そうか」と短く呟くと、学習机に置いてある青眼の白龍型のデュエルディスクを手に取って十代たちの部屋を出る。外に出れば清々しいばかりの青空が広がり近くない崖から下の海からは潮の匂いが鼻につく。日の光が降り注ぐ景色を見れば夜のあの濃厚な闇が信じられなくなりそうだ。

 

「結局アイツのことは何もわからなかったな。まあ……追い払えただけ良しとするか」

『そうですね…。またいつかやって来るでしょうが、その時はまた同じ目に合わせてやりましょう』

 

 サイコ・ショッカー共々現れたという女ーーーその謎が晴れぬまま、海からの風に髪を靡かせながら気持ちを切り替えた俺は、アカデミアでの日常に戻るべくレッド寮を後にする。

 そういや今何時だ?十代たちの姿がないからどこかに行ってるんだろうが、腹が減ってるからとりあえず購買に行ってみるか。一日一稲荷パック、これだけは外せないからな。




難産すぎて苦しい回でした…。完全オリカのデュエルは自由性があるぶん、どう使わせるか本当に難しいですね。今後ももしあからさまに投稿が遅れている場合は、このあたりで少ない頭を悩ませているのだと思ってください。
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