【再開】遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜 作:ハクハク再モン
あの闇のデュエルが起こって以降、特に何事もなく冬休みは終わりを告げ新たな学園生活が幕を開けた。といっても冬休み前とほとんど変わらない授業風景を語ったところで仕方がない、ましてや大した事件や騒ぎすら起きようという気配すら感じられないのだ。まあ、こういう平凡な日常というのも、これはこれで良いものではある。自分が高校生だった時は深く物事を考えずに毎日を過ごしていたものだからなぁ…。
そんなふうに頭のなかで考えていた俺は現在、アカデミア校舎内にあるテニスコートで他の生徒たちが体育の授業としてテニスに興じているところを先ほどまで見学していた。デュエリストたるもの体力をつけてなんぼ……ということではなく、担当である鮎川先生がやりたかったバレーボールから仕方なく譲ったカタチである。まあバレーボールも体力を使う運動だから、どっちにしても翔のようなインドア派の生徒にはキツかったことに変わりはないだろうーーーほら、おっかなびっくりな姿勢でボールを返してる。自身にモノが飛来する、って状況に慣れないと球技はどうしても及び腰になるものなぁ。
ラケットがボールを打つ軽快な音が響くなか、他とは違って俺のいるコートだけは緊張の糸が張り巡らされたようにギャラリーたちと審判を務めるクロノス先生が観戦していた。クロノス先生はコートの端から端を行き来するボールを視線で追いかけている為に右、左、右……とその容姿も相まって人形のように見える。いや、そう思っちゃダメなのはわかってるんだけどさ。
というかここだけ雰囲気が違うというのも、他のコートでは授業の一環として臨んでいるのに対してこのコートにいる俺たちは真剣そのものの表情と気迫でラリーを続けていたのだ。そりゃ周りも呆気にとられてしまうわな。ーーー最終的に、俺がギリギリのところで打ち返したボールが山なりの軌道を描いたことによって相手にスマッシュを許したのが敗因となって、クロノスの勝者の名乗りを最後に勝負の幕は閉じた。
〜〜〜〜〜〜
「あ〜、疲れたぁぁ…」
「ふふ、疲れたなら甘い物を摂ったほうがいいわねーーーはい、あーん♪」
テニスコートでの激闘を終えたのちに購買部に立ち寄った俺は疲労によってテーブルに突っ伏する傍ら、手に持つカップからスプーンでアイスを掬いとった藤原雪乃が笑顔でそれを差し出してくる。周りでは俺たち二人の様子を見ていた男子生徒が暴動でも起こしかねないほどの負の感情を募らせている。視線で人を殺せるならば、今頃俺は物理的に串刺しとなっていただろう。
「…ずいぶんと上機嫌ですなお嬢ーーーあむっ。そのポジティブなエネルギーを少しでも分けてほしいもんだ」
「デュエルではないにせよ貴方を負かして、私の要件を押し通せたのだもの。今まではタイミングが合った時だけだったけど、これからはどんどんイかせてもらうわね」
再度スプーンでアイスを掬っては差し出してくる雪乃。そもそも何故こんな珍妙なことをやっているのかというと、先の授業の際に雪乃から「負けた方が相手の要望を聞く」なんてよくある提案を持ちかけられたことに起因する。正直な話真面目に付き合う必要もなかったわけだが、挑発的な上目遣いを見せられた俺はいつの間にかそれを了承してしまったわけで…。結果として負けはしたものの、雪乃から告げられた要望は「放課後に購買で共に一時を過ごす」という当たり障りのないものだった。まあひとつだけ心配なのは、周りの男子連中の鬼を討たんと言わんばかりの視線ぐらいだな。これからの夜道は気をつけるようにしようーーーそう考えながら差し出されたアイスの乗ったスプーンを自分の口に迎え入れる。
『ーーー』
そして俺の後ろには、常に俺の背後を狙える存在が背中越しに無言の圧力をかけてきている。ジト目で睨みつけてくる彼女こと“青き眼の乙女”はこの場所に来てから不機嫌になり始めていたが、特に今は振り向くのを躊躇うほどに恐ろしく不機嫌な雰囲気が感じられる…。そして雪乃はそれに気づいていないのか敢えて気づいてないフリをしているのかその手を休めることなく、三たびスプーンを差し出してくるわけで……やめてくれ…!これ以上続けたら後が恐ろしい…!
『マスター…。部屋に戻りましたらその羨ま…もとい少々納得のいかない状況についてお話がありますので、覚悟してくださいね?』
顔をヒクつかせながらも笑えど影がさし声も笑っていない“乙女”から説教確定の宣告がくだされ、俺は渇いた笑いしか浮かべられない。
こうなったのは俺自身のせいだからそれぐらいは甘んじて受けるが、あの送電施設でのデュエル以降の“乙女”は常にベッタリとくっついてきてはよく小言を言ってくるようになったからな。それだけなら別にいいのだが、特にそれが多くなるのは俺が女子生徒ーーー特に明日香や雪乃といる時だ。『ちゃんと互いの距離を考えてくださいね』やら『思わせぶりな言葉に簡単に乗ってはダメですよ』やら、俺は子供かっての…。そう言ってくる一番の理由についてはあの闇のなかでデュエルした正体不明の女なんだろうが、そう立て続けに襲っては来ないんじゃないか?これについては完全な勘だから確証はないんだが……。
「おや、誰かと思えば藤原君じゃないか!」
今夜に向けてただでさえ低いテンションがさらに落ちてゆくところに、声だけでわかるくらいに爽やかな人物がやって来た。雪乃と同じタイミングで振り向けば、メンズのテニスウェアを着たイケメンがこれまた渾身の爽やかな表情と同時に白い歯を光らせる。確かこの男は……テニス部の部長だったよな?
「あら先輩。もうテニス部の練習が始まっている時間では?」
「なに、今日は一日限りの体験入部者がいるからね。いつもより熱が入るだろうからその後輩君の為にスポーツドリンクを買いに来たのさ。彼はなかなか熱いハートを持ってそうだったからね」
テニス部部長はそう言いながら粉末を水に溶かすタイプのスポーツ飲料を手に取り手早く会計を済ます。アレは俺も学生時代によく愛用していたな……。
「どうだい藤原君。僕がその後輩君に指導するところを観に来ないかい?」
「生憎だけれど見ての通り、私はそっちに行く暇はないの。ごめんなさい」
「そ、そうかい。ーーー」
おーおー、爽やかイケメンの誘いを断ったぞ雪乃のヤツ。まあこのイケメンの言ったことはつまり、雪乃の前でいい格好がしたいだけなんだろうけど誘うにしても『それとなく』を心がけないとーーーなんて交際経験のない自分じゃ的外れでしかないな。
雪乃にすげなく断られた部長さんは、最後に意味ありげな視線で俺を見てからおそらくテニス部へと戻って行った。部長さんが言っていた一日体験入部の後輩というのは、おそらくは授業中にボールをくらったクロノス先生による濡れ衣を着せられた十代のことだ。
正確には十代が打ったボールが誤って明日香へと向かってしまい、それを助けに入ったあの部長が打ち返したことでクロノスの右目に青痣を作ってしまったわけなのだが……正直に言ってしまえばあのイケメンが悪い。
「まだそう何度も会っていないのに積極的な人ね。貴方もあれぐらい積極的になってもいいのよ?」
「そういうのは性に合わないな。俺は必要だと思った時に声をかけるぐらいがちょうどいい。いたずらに声かけて印象を悪くするよりはいいだろう」
「ふうん。そんなものなのかしら」
おや、雪乃にしてはアッサリと引き下がったな。いつもの調子なら「それって相手を都合の良い存在に見てるってこと?」とか言い返してきそうなものを。
「そんなもんだ。それよりも、甘いものを食べてスッキリしたからちょっと運動でもしてくるかな」
「それなーラ、ちょうどいい話がありますノーネ。シニョール亀崎」
立ち上がったところにやって来たのは十代にやられた右目が未だ青いままのクロノスだった。見たところ視力には問題がなさそうだが、テニスボールをくらって青痣止まりで失明しなかったのは不幸中の幸いだろう。……そういえばクロノスから話しかけられたのはえらく久しぶりな気がするな。
「いい話?」
「ワタクシにこのような仕打ちをしたあのドロップ・アウト・ボーイこと遊城十代は今、テニス部の活動に参加させていますーノ。アナタには、あのドロップ・アウト・ボーイが逃げ出さないように見張っていてほしいノーネ」
ああ…ボールをぶつけられたってことで頭にきて憂さ晴らしをしたはいいけど、いい様に逃げられたくないからってことか。だけど何故俺が選ばれたんだ……あの量産型みたいなグラサンたちではダメなのか。
「まあクロノス先生の気持ちはわからなくはないですけど、何故自分が見張らなくてはならないんです?」
「…アナタはあの時最後までワタシを守れなかったノーネ?」
クロノスが責任を追及するような声色と表情でズズイ、と迫ってくる。確かにあの時は近くにいたはいたが、そんないきなりのことに反応できるような反射神経なんかしてないっていうのに。そんな理不尽を突きつけられても困るしかない。
「とにかく!ドロップ・アウト・ボーイの監視をしてもらえるのナーラ、今回の件は目を瞑ってあげまスーノ。アナタも、こんな小さなことでオーナーからの評価を下げたくないでスーヨネ?それでは、お願いするノーネ」
そこまで言うと「お目々がまた痛んできたノーネ…」と言いながらいなくなったクロノス。どう見てもただの八つ当たりでしかない押し付けに俺はただ口から呆れた風に嘆息することしかできなかったが、これ以上クロノスの機嫌を損ねたら余計にめんど…厄介なことになりかねないので、渋々先の授業で使われたテニスコートへと向かうことにした。
「そういえば、冬休み中にPDAの電波が届かない時間があったけれど何かあったのかしら?」
「…いや、特になかったと思うが。どうしてだ?」
「その時は私の“黄泉ガエル”が何かに怯えるような様子でアカデミアの方角を見ていたの。私自身も何か言い表せないような胸騒ぎを覚えたし…。何より最近、貴方の精霊である“彼女”ーーー」
テニスコートへと向かっている途中の廊下、何故か道々していた雪乃がそこまで言ってチラッと視線を外す。その視線の先には、廊下の端にしゃがみこんで“黄泉ガエル”に愚痴をこぼす“乙女”の哀愁漂う姿があった。
『最近マスターがなかなか私の言葉に耳を傾けてくれないんですよね…。またあのような危険が起きないとは限らないからと言いますか、それにかこつけてマスターともっと親密になりたいと言いますか、マスターが他の女性と親しくしていることにモヤモヤすると言いますか…』
『ゲ、ゲロ…』
「……“彼女”ってあんな感じだったかしら?」
「まあ、本人にも思うところがあるんだろうさ…」
“乙女”の暗い雰囲気に“黄泉ガエル”もどうしたらいいのかわからない様子で相づち(?)を繰り返している…。なんだろうか…ここへ来てからというもの、“乙女”の人格が俺の想像から離れていたことが如実に表れ始めてきているな。別にそれは気にしないというか、むしろこの様子の“乙女”を見ていたら居たたまれなくなってきたというか…。これからは気持ち少し“乙女”に構ってあげることを意識しておくとしようか。
『というか何なんですかねあの女は…。黒づくめの衣装で肩から胸部にかけて肌を露出させるとか、あんなわかりやすい色仕掛けや趣向でマスターを誑かそうとするなんて……ブツブツ』
ダークなオーラを醸し出しながら“黄泉ガエル”を包む手の力を強める“乙女”に、俺たちは微妙な反応を浮かべるしかない。どうやら“乙女”は俺に不満があるかと思ったら、あの女の出で立ちにご立腹だったらしい。確かに二人を見比べたら、むこうの方が派手さはあるというか妖艶さがあるというか。結局、ダークサイドに転びかけていた“乙女”はその後すぐに俺がクロノスからの呼び出しを受けるまで呪詛のような言葉を呟き続けていた。これからは“乙女”の言うことにもこれまで以上に耳を傾けておかないとそのうち病みそうで恐ろしいな…。今度何かしらの形で機嫌の修復を試みてみないと。
ちなみにクロノスから因縁をつけられた原因は、十代のミスショットが明日香へと向かっていたボールを部長が打ち返し、偶然近くにいた俺がクロノスを守ってさらに打ち返したボールを幸いにと十代が再びスマッシュしたところを、あり得ない軌道でクロノスの顔面へと吸い込まれていってしまったのだ。なんせ十代とクロノスをボールの軌道で結んだら直角九〇度だぞ?十代のヤツはいったいどんなスピンのかけ方をしたんだ…。
そんな星の下に生まれたクロノスから有無を言わさぬ迫力で言われては仕方がない。渋々先のテニスコートへと重い足取りで向かってみれば、さっきのテニス部部長が既に体力を消耗しているらしいヘロヘロの十代がボールの打ち込みに臨んでいた。
「四十八…四十九……五十…!も、もう疲れたぜ…」
テニスは他のスポーツと比べてみても特に体力が必要なスポーツだとどこかで聞いたことがあるが、いつもスタミナに溢れている十代がああまでへばっているのを見ればその情報に納得せざるを得ないと。そう思った俺はコロコロと転がってきたボールを拾い上げると疲れ果てている十代に声をかけた。
「思いのほか真面目に頑張ってるな十代」
「んーーーあれ、亀崎さん。どうしてここに?」
「クロノス先生から「十代が逃げ出さないように」ってことで派遣されてきたんだよ。だけどちゃんとやってるみたいだし、俺の役目は必要なかったかな」
互いのやりとりで息を切らす十代のほか、この場にいる部長や翔にジュンコとももえも俺たちの存在を認識する。
「やあ藤原君!やっぱり僕のテニス部部長としての活動を見に来てくれたんだね!嬉しいよ!」
「…私は彼についてきただけで、貴方のことを気にかけてる訳じゃないのよ」
素っ気ない雪乃に軽くショックを受けた部長、そんな彼を見て翔は「部長さんフラれたッス…」と小さく呟いた。雪乃は自分が認めた以外の男には適当にあしらおうとするからな。彼女の場合は言葉だけでなくデュエルで認めてもらわなければならないのが厳しいところだ。
「あ、明日香さん…!」
「え⁉︎天上院君⁉︎」
ちょうどその時、この場に神妙な面持ちの明日香がやって来た。先の授業で既に接触し惚れ込んでいた部長は再度舞い上がるが、肝心の明日香は部長をスルーし十代の元へと歩いていった。何やら真面目な雰囲気で話し始めたのは以前アカデミアから姿を消した万丈目の行方についてらしい。万が一にもとんでもない境遇に落ちぶれていないかが心配なので一応聞き耳は立てておこう。
「十代。万丈目君の居場所がわかったわ」
「っ、それ本当か⁉︎」
「ええ。今彼はーーー」
ふんふん……なるほど、明日香の口から出た情報を聞く限りではどうやら万丈目はまだ放浪の旅を続けているみたいだ。万丈目がアカデミアを去る際に使ったボートの信号が海上から発信されていたことから判明したとのことだが。
「そんなにあのボウヤのことが心配なの?少し妬けちゃうわね」
「俺はいたってノーマルだ。別に万丈目のことは純粋に身をに案じていただけで、そんな深い意味はないっての」
「そう?それなら相応の態度をとってくれてもいいんじゃない?貴方ったら、私がいくら誘っても一定以上のスキンシップをしようとしないし許してもくれないんだもの」
『一定以上のスキンシップ』ねぇ…。雪乃はなんとも思わないんだろうけど、年齢イコール彼女いない歴の俺にとっては
「一定以上のスキンシップって何よ?」
「何って…男と女のスキンシップって言ったら決まってるでしょう?
雪乃よ……その言い方だとあらぬ誤解を産みかねないんだが…。現にそれを聞いたジュンコとももえが顔を赤くして黙りこくったり困ったりしてるじゃないか…。明日香は雪乃の性格を知ってるからか呆れ顔。十代は本気で理解してない様子で翔と部長は嫉妬を、特に部長は早とちりで持ち前の熱意も合わさった炎の眼差しで俺と十代を見てるし。…アレ、これもしかして外堀を埋めにきてる?
「雪乃…、あまりからかわないでちょうだい。私と十代は別にーーー」
「藤原君っ‼︎」
「え⁉︎」
呆れながら十代との関係を否定しようとした明日香。だが嫉妬の炎を燃やす部長によって、明日香の言葉は遮られ部長は雪乃の元へと歩み寄る。
「雪乃君…オベリスク・ブルーの女帝と讃えられる君が年の離れた彼と付き合っているという噂は時々聞いていたが、僕にはそれがどうしても納得ができない‼︎ーーーそういうわけで亀崎さん!勝ったほうが正式に雪乃君と付き合うという条件で僕とデュエルしてください‼︎」
「あら。面白くなってきたわね♪」
やる気に満ち溢れた部長さんの宣戦布告、雪乃はそれに同調して囃し立ててくる。それに対する俺はといえば、てっきり原作同じく明日香をめぐって十代とデュエルするものだと思っていたから呆気にとられてしまった。
「ちょ、ちょっと待て。別に俺は藤原と付き合ってるわけじゃ…」
「昔から一人の女性をめぐって二人の男が争うというのは青春におけるお約束と言っても過言ではない…。そして今、僕は死力を尽くして雪乃君を手に入れてみせる!この僕の挑戦……受けてもらいます‼︎」
「人の話を聞きなさいっての…」
ダメだ…これは何を言ってもこの空気から逃れられない雰囲気だ。正直こんなまどろっこしいことしなくても直接本人に申し込めばいいものを…。仕方ない、と一息ついた俺は部長の挑戦を了承、それぞれ互いにテニスコートの所定の位置へと立った。運動靴の紐を結び直す部長、もとい綾小路は準備を整えると自信ありげに表情を引き締める。…部長部長と呼ぶのも失礼だからそろそろ名前で呼ぶこととしよう。対する俺は拝借したアカデミアの丸みを帯びたデザインのデュエルディスクにデッキを差し込みディスク部分を展開する。“青眼”型のものと比べると少し重いんだなこれは。
「なあ明日香。テニス部の部長ってデュエル強いのか?」
「綾小路ミツル先輩ね。綾小路モーターズの御曹司でありデュエルの腕はアカデミアの【帝王】、丸藤亮と互角との噂よ」
「お兄さんと…っ!」
「亮と互角」……自分の憧れの人に迫る実力者と聞けば翔が気になるのも当然だ。未だ無敗でリスペクト・デュエルをこなす亮に迫る実力者は、このアカデミア内においてもそういないだろう。だが俺からすればその【互角】がデュエルの強さのみを指すのか、またはその心も含めるのか……。原作通りなら、軟派な発言が目立つだけの筈だがな。
「いいですか。このデュエルに負けたほうが潔く雪乃君から身を引く。後腐れない一発勝負です!」
「デュエルを挑むというなら受けて立つ。予め言っておくが、俺は他人の色恋にとやかく言うつもりはない。好きな奴がいるなら直接ぶつかってくればいいだろう?」
「僕は青春や熱血という言葉が大好きでしてね。魂を燃やすというのはそれだけで人生におけるその瞬間を熱く、そして煌びやかなものにしてくれるんです!だから僕は、自分に気のある女性をものにすることには特に!僕の心が熱く燃えてくるんだァ‼︎」
うわぁ……面倒くさい…。熱血な性格してる人間はこうなるともうどうしても止められないんだよ。というか、そもそも俺が雪乃と付き合ってるなんてデマを流したのはどこの誰なんだ…⁉︎こうなった原因は間違いなくそれだろ!
「燃えてるわね彼。そんなに私を自分のものにしたかったのかしら」
「雪乃さんをめぐっての決闘……これに勝ったほうが雪乃さんとお付き合い……。素晴らしい青春ですわね〜」
「片方はどう見ても迷惑そうにしてるようにしか見えないんだけど…?」
「な〜んか俺にはよくわかんねえな。なんで誰かを賭けてデュエルしなきゃならないんだ?」
「ハァ…」
外野は外野で盛り上がってるし…。とりあえずさっさとこのデュエルを終わらせて、さっきの噂がデマであることをちゃんと言い含めとかないとな。「人の噂は〜」とは言うが雪乃が関わると日数に延長かけられそうで怖いんだよ…。
「さあいきますよ‼︎」
「応!」
デュエルディスクを起動、展開。非常〜に遺憾ではあるが、雪乃を賭けたデュエルが始まる…!
「「デュエル‼︎」」
賢司 LP 4000
VS
綾小路 LP 4000
「僕のターン、ドロー!先手必勝ということでまずは魔法カード“サービスエース”を発動!この魔法は僕の手札から選択されたカード1枚がモンスター・魔法・罠のいずれかであるかを当てるカードでしてね。外せばプレイヤーに千五百ポイントのダメージを与え、当たりならダメージは受けない。さ、モンスターか魔法かはたまた罠か…選んでください」
“サービスエース”…スポーツ競技であるテニスにあやかったカードだな。【遊戯王】の世界にはこういった多種多様の様々なジャンルが、デュエルモンスターズのカードとして登場することがままある。元いた世界よりこっちの世界のほうがよりバラエティに富んでいて眺めるぶんには楽しかったりするんだよな。
「いきなりギャンブルカードか…!」
「最初から緊張する展開ッス…」
独特の緊張感から始まったデュエル、いきなりの読み合いに十代たちは固唾を飲んで見守っている。当の俺はというと一切の情報がない以上、確率は均等なので悩むだけ無駄だと判断しすぐさま答えを口にする。
「モンスターカードだ」
「残念!魔法カード“魔法石の採掘”でした!外れたことで“魔法石の採掘”はゲームから除外され、相手プレイヤーに千五百ポイントのダメージを与える‼︎」
賢司 LP 4000 → 2500
ソリッド・ビションから放たれたビームが俺のフィールドに叩きつけられる。そこはテニスボールも交えたほうがそれっぽい演出だろうに。
「フィフティーンラブ!僕はリバースカードを1枚伏せて、ターンエンド!」
「俺のターン」
モンスターの召喚はなし、か。知っている通りの進め方だな。あの伏せたカードもこっちの直接攻撃に反応する罠と見て間違いない。普通なら厄介だと眉を顰めようものだが、裏を返せばそれさえ突破できれば相手は無防備であるということだ。俺は引いたカードを手札に加えると別のカードをディスクにセットする。
「俺は“ミラージュ・ドラゴン”を召喚!」
ミラージュ・ドラゴン
ATK/1600
「バトル!“ミラージュ・ドラゴン”でプレイヤーへ直接攻撃!“ミラージュ・ドラゴン”が存在する時、相手はバトルフェイズ中に罠を発動することができない!」
「なにっ⁉︎ぐわっ‼︎」
綾小路 LP 4000 → 2400
予想が的中したことで無理なくダメージを与えられた。今回の相手はバーンデッキだからできれば短期決戦を目指したいものだ。今の手札のなかに伏せる意味のあるカードはないと判断し、メインフェイズ2ですることがない俺はそのままターンの終了を宣言する。
「ターンエンドだ」
賢司 LP 2500
手札:5
モンスター:1
魔法:0
罠:0
綾小路LP 2400
モンスター:0
手札:3
魔法:0
罠:1(1セット)
「今のところは、お互い一歩も譲らない状況ね」
「ふふっ。たまにはこういう趣向も新鮮でいいわね。今まではいつも直接ボウヤたちの相手をしてきたけど、こうして眺めているのも悪くないわ」
雪乃のヤツが「遊んであげた」と言わんばかりの口ぶりで高みの見物を決め込んでやがる…!別に雪乃がやってきたことに関しては詮索はしないが、自分の気分転換の為という名目で俺を使うのはやめてくれ…!呆れた俺がその意思を込めた視線を雪乃に送っていると、気づいた本人は何も言わずニコニコところは笑顔で手を振ってくるだけだった。あれは俺の言いたいことを理解したうえでスルーした笑顔だ!間違いない!
「ふ、ふふっ…!さっきのはちょっとした挨拶代わりだったけど、丁寧に返すだけでなく雪乃君とのアイコンタクトでの意思疎通ぶりを見せつけてくるなんて…!それならここからは、本気でいきますよ!僕のターン!僕は“屈強なハードヒッター”を攻撃表示で召喚!」
綾小路の場に鍛え込まれた赤黒い肉体にタンクトップを着込んだ文字通りの屈強な風貌の男が、テニスラケットを力任せに振り回しながら現れる。俺の記憶では綾小路が召喚したモンスターは1体のみだったから新しいモンスターの召喚に俺は少し驚いた。
屈強なハードヒッター
ATK/1000
「“屈強なハードヒッター”の特殊能力を発動!1ターンに1度、場の魔法か罠を墓地に送ることで、相手モンスターの表示形式を変更する!」
綾小路の宣言のもと伏せられていたカードがボールへと化すると、それを手に持った“ハードヒッター”がテニスの要領で“ミラージュ・ドラゴン”へと豪速球を打ち出した。ボールをクリーンヒットさせられた“ミラージュ・ドラゴン”が蹲ったことで表示形式は攻撃表示から守備表示へと変更させられる。
ミラージュ・ドラゴン
ATK/1600 → DEF/600
「バトルだ!“屈強なハードヒッター”で“ミラージュ・ドラゴン”を攻撃!」
左手に形成したボールを天高く放った“ハードヒッター”。ボールが落ちてくるタイミングを見計らいながら力を溜める“ハードヒッター”の肉体が徐々に膨張し、元から一回り大きくなったところで落ちてきたボールを力一杯のラケットで打ち込んだ。ただ力任せでありながらもボールで“ミラージュ・ドラゴン”を破壊したその強大な衝撃は俺にも伝わってくる。
「“ハードヒッター”が戦闘で相手モンスターを破壊したことで、相手プレイヤーは手札1枚を墓地に送らなければならない。さあ、手札を捨ててもらいましょうか」
直接ダメージばかりのデッキかと思っていたが、ハンデスカードも入れていたのか。俺は手札からモンスターカードを選択し墓地へと送った。
「僕はこれでターンエンド。さあもっと!もっとお互いの熱い魂をぶつけあいましょう‼︎デュエルとスポーツはもちろん、恋だって熱い心があれば不可能はないーーーそれが僕の信条ッ‼︎故に僕は絶対に、このデュエルに勝ってみせる‼︎」
「お、おう…」
またもどっかの熱血人のように熱血の炎を燃やしながら言葉を語りかけてくる綾小路。暑っ苦しくて鬱陶しいとしか思えないぞその熱血論は…。俺はどっちかと言ったら静かに闘志を燃やすタイプ(だと思いたい)だからあれらの熱意に同調するのは少し…いや、絶対にないだろうな。
「いいですわぁ。心を燃やす殿方、素敵です〜!」
「ももえってホント、ミーハーよね…」
「まったく、調子が狂うデュエルだな。俺のターン!」
ももえが黄色い声をあげれば、それに応えるように白い歯を光らせてドヤ顔を見せつけてくる綾小路。いちいち何かしらの格好でキメないと気が済まないのかこの男は。俺はやれやれと心の内で溜息を吐きながら、デッキからカード引いた。
「前のターンで墓地に送られた“ミンゲイ・ドラゴン”のモンスター効果!自分の場にモンスターが存在せず墓地のモンスターがドラゴン族のみの場合、墓地から特殊召喚できる!」
ミンゲイ・ドラゴン
ATK/400
「特殊召喚能力を持ったモンスター…!“ハードヒッター”の効果で墓地に送ったのが仇になったか…!」
「そして“ミンゲイ・ドラゴン”を生け贄に“カイザー・グライダー”を召喚する!」
カイザー・グライダー
ATK/2400
“ミンゲイ・ドラゴン”がリリースされたことで発生した粒子が集積し、形成された光球から機械と見紛う身体を持ったドラゴンが姿を現わす。レベル6の為“ミンゲイ・ドラゴン”の効果を活かしきれなかったのは残念だが、手札にレベル7以上のモンスターがいないのでは仕方ない。
「バトルだ!“カイザー・グライダー”で“屈強なハードヒッター”を攻撃!」
「っ…追い詰められたか…!」
綾小路 LP 2400 → 1000
“カイザー・グライダー”のブレスで“ハードヒッター”が倒され綾小路のライフは大きく削られた。このまま大きな抵抗もされずに押し切れれば願ったり叶ったりだが……そううまくはいかないだろうな。
「さすがに戦術の相性が悪いみたいね。綾小路先輩は、相手のライフに直接ダメージを与えることと引き換えにモンスターのステータスが低い。うまくカードを回せれば強力ではあるけど、相手の反撃を許してしまえば途端に脆くなる…」
「対する彼は攻撃力の高いモンスターを様々な効果でサポートしながら召喚、及び攻撃するスタンス。リバースカードへの対策と生け贄となるモンスターの用意、そして破壊されることを想定したモンスターの選出…隙がないわね」
「ぐぬぬ…っ!雪乃君だけならず明日香君からも関心を向けられているとは…!僕は…貴方に嫉妬せざるを得ないっ‼︎」
明日香と雪乃の様子を見て、心とその背に嫉妬の炎を燃やし敵意を剥き出しにする綾小路。関心を向けられることが好意に直結しないことは考えればわかる筈だが……。熱血なのはいいが嫉妬深いのはよろしくないぞ若者よ。
「ならこのデュエルでしっかりとアピールしておけ。俺はカードを一枚伏せてターンエンドだ、」
賢司 LP 2500
手札:5
モンスター:1
魔法:0
罠:0
綾小路 LP 1000
手札:3
モンスター:0
魔法:0
罠:0
「あの先輩、ホントにお兄さんと互角なんスか?なんだかとてもそうには見えないッス…」
「なに言ってんだ翔。デュエルはまだここからだぞ。あの部長さんだってオベリスク・ブルーなんだ、このまま終わるわけないだろ?」
丸藤亮と互角と聞いていた翔の疑問に十代は「まだ結論を出すには早い」と宥める。元より一枚一枚の火力が高いうえに、ライフも半分と最悪たった三枚のカードで決着をつけられる状況だ。翔としてはこうもあっさりとピンチに陥ったことで疑問を抱いているのかもしれないが、俺からすれば妙にあっさりとダメージを通させたように見えて仕方なく感じているぐらいだ。はて、綾小路に何か秘策のようなものがあったか?そう頭の中で考えていた矢先、綾小路がフッ、と笑った。
「追い詰められているというのに、僕の心はより熱く燃えている…!ピンチである状況に燃えるのはデュエルもテニスも変わらない!逆境を跳ね返すことに心血を注ぐこの一瞬こそ、僕が最も好きな瞬間だ‼︎行くぞぉ!僕の、ターーーンッ‼︎」
一人で勝手に盛り上がって勝手に熱くなりやがった…。はたから見てた明日香たちが反応に困ってるのと裏腹に十代は「その気持ちわかるぜ!」と同調しているし、案外この二人は気が合ったりするんだろうな。願わくば巻き込むのだけは勘弁してほしいが。
「僕は魔法カード“ボディショット”を発動‼︎相手モンスターを破壊すると同時に千五百ポイントのダメージを与える‼︎」
“ボディショット”のカードから“サービスエース”の時と同じレーザーじみた光が“カイザー・グライダー”めがけて一直線に飛来し、“カイザー・グライダー”の頭部に命中する。天を仰いだ“カイザー・グライダー”は破壊され、その拍子で光だったものの正体であるテニスボールも弾みでテニスコートに落ちるとコロコロと転がりやがて消えていった。それを見届けた綾小路は“ボディショット”のデメリットを宣言し、デッキからカード二枚を墓地へと送った。
“カイザー・グライダー”は破壊された時にフィールドのモンスター1体を手札に戻す効果を持っている……それを考慮して、モンスターのいない今に魔法で対処してきたってとこだな。さて、ここからどうくるか。
賢司 LP 2500 → 1000
「うわぁ…あれは痛いッス…」
「クロノス先生は可哀想だと思うけど、あれ見たら俺がここにいるのはやっぱ納得いかねぇなぁ。ぶつけたの俺じゃねぇのに」
そう言った十代は口を尖らせて、自分をここに連れてきたクロノスに文句を言いたそうな表情を浮かべる。いくら気に入らない生徒だからってあれこれ難癖をつけるのはダメ絶対。
「ふっふっふ…。貴方はきっと、攻撃力の高いモンスターを召喚して僕を追い詰めていた……そのつもりになっていたでしょう?確かにこのデッキには攻撃力の低いモンスターばかりだ。そしてそれらをバーンカードで補い相手のライフを削る方法で闘うというのが僕の戦術だとーーーもしやそう考えていたんじゃないですか?」
「何が言いたい?」
「僕たちのライフーーーお互いに千ポイントを残したこの状況、テニスにおけるデュースに似ていると思いませんか?」
デュース……テニスにおいてフォーティーフォーティー、つまり四〇ー四〇とお互いの得点が並んだ時に発生する特殊なルールみたいなものだ。この状態になると先に2ポイントを連続で取った方がそのゲームのポイントを獲得できるという、今のデュエルの状況と照らし合わせれば確かに類似している部分はある。……まてよ。そんなことを口に出したってことは綾小路のヤツ…!“アレ”を使うつもりか!
「バーンカードを使ってライフを削っていく、本当の狙いはこっちさ‼︎僕は永続魔法“デュース”を発動ッ‼︎」
やってきたな…!効果を現実のテキストに起こそうとしたら面倒くさいこと間違いないけど面白い、オリジナルの特殊勝利カード!
「このカードがフィールドに存在する限り、お互いのプレイヤーはライフがゼロになっても敗北とならず、先に二回連続で戦闘ダメージを与えたプレイヤーが勝者となる!ただし、お互いに攻撃に参加できるモンスターは1体のみ、ターンを跨ぐ間に相手から戦闘ダメージを受ければ自分のアドバンテージは失われ、またイチからやり直さなきゃならなくなる」
自前の櫛で髪をセットしながら、長い説明も噛むことなく流暢に喋り倒す綾小路。つまりわかりやすく言えば効果自体はテニスのデュースそのものということだ。先にダメージーーーポイントを連続で取れば勝てるという結論を、頭に疑問符を浮かべる十代に明日香が丁寧に説明している。それをよそに俺のなかでは、これはかなりマズイ状況になったと若干の焦りを抱き始めていた。
「さらに僕は“伝説のビッグサーバー”を召喚!」
伝説のビッグサーバー
ATK/300
「“伝説のビッグサーバー”は相手モンスターとバトルすることなく、プレイヤーへ直接攻撃できるのさ!いけ!“伝説のビッグサーバー”‼︎」
標準的な体格のテニスプレイヤー然とした、一部にスプリングなどが組み込まれた姿のモンスター。その攻撃によって打ち込まれたボールの直弾による衝撃はあるものの俺のライフは“デュース”によって変動することはなく、代わりにボードに描かれていた「綾小路」の欄にあるマークが点灯した。
賢司 LP 1000 → 700
アドバンテージ 綾小路 1 ー 賢司 0
「アドバンテージ綾小路!“伝説のビッグサーバー”が戦闘ダメージを与えたことで、僕はデッキから“サービスエース”を手札に加え、相手はカードを一枚ドローする。さあ、カードをドローしてください」
綾小路に促されるまま、デッキからカードを引く。引いたカードを見ればそれは魔法カードの“融合”ーーー手札に融合できるモンスターがいない今では使い道のないカードだ。
「永続魔法“デュース”によりあと1回戦闘ダメージを与えられれば、このデュエルは僕の勝利だ!」
「でもこれって亀崎さんもモンスターを召喚して攻撃すれば振り出しに戻っちゃうじゃん。それじゃ決着がつかないんじゃないか?」
「チッチッチッ、甘いよ十代君。この僕がその対策を怠るわけがないだろう?僕は装備魔法“デカラケ”を発動し、“伝説のビッグサーバー”に装備!」
“伝説のビッグサーバー”が光に包まれると、その背に文字通りのデカいラケットが装備された。ーーーってそのままだな⁉︎何か言おうとしたけど安直すぎて何も浮かんでこないぞ!
「“デカラケ”を装備したことで、“伝説のビッグサーバー”は1ターンに1度だけ相手モンスターの攻撃を無効にできるのさ!」
「それじゃあ爽やか部長からアドバンテージを取れないってことッスか⁉︎」
翔の核心をついた言葉にジュンコとももえが驚愕の声をあげる。ただでさえ攻撃できるモンスターの数に制限がかけられているうえ、攻撃は“デカラケ”によって無効にされる……どう考えても勝ちをもぎ取るには険しすぎることこの上ないとしか言いようがない。ーーーそしてそう考えていたのは、どうやら明日香と雪乃も同じだったらしい。
「これはかなり厳しいことになったわね…。モンスター1体で行える攻撃は通常一回、他のカードと合わせても精々二回しか行うことはできない…」
「それでも彼のアドバンテージに追いついただけで根本的な解決とはならない。一番手っ取り早いのはあの永続魔法を破壊することだけどーーーそう都合の良いカードなん来ることはないわ」
「そんな…!このままじゃ藤原さん、あの爽やか部長と付き合うことになっちゃっていいんスか⁉︎」
「……そうなったらそうなった、よ。私も潔く彼と付き合うわ」
…まったく、なにカッコイイこと言ってるんだか。口ではそんなこと言っておきながら、しっかりと俺を見据えているその目には「負けたら許さない」という脅迫めいた色がありありと浮かんでるし。まあ俺としても負ける気は毛頭ないがな。
とはいえ、1ターンで三回もの攻撃を強いられるのは厄介このうえない。条件次第で複数回の攻撃を可能とするモンスターもあることはあるが……。
「ふふん。だったら最後の一押しといこうか!魔法カード“サービスエース”を発動!さっきと同じように、このカードがモンスターか魔法か罠かを当ててください。たとえ外してライフがゼロになっても負けにはなりません。ツキは落ちるかもしれませんがね?」
そう言って二枚のうち一枚をかざす綾小路。これを外しても当てても戦況は全くもって変わることはないが、綾小路の言う通りにツキが落ちればこのデュエルに勝つことができなくなる可能性も否定できない。かといって必ず当てる根拠もない……だったら出たとこ勝負しかない!
「……よし。それは…モンスターカードだ!」
「ーーー!はは、ご名答…!」
一瞬驚きの表情を見せた綾小路は、笑うとともに選ばれたカードを開示した。その手に持っていたのは“メガ・サンダーボール”……“ボール”繋がりのモンスターとして投入されたのだろう懐かしいカードだ。追い詰められた瀬戸際で危機を回避したことで十代たちギャラリーから安堵の声も聞こえてくる。なんだかんだで皆は雪乃が綾小路と付き合うことには反対だったりするのだろうか?十代は純粋にデュエルを見て楽しんでるだけなのはわかるが。
「僕はこれでターンエンド。だけど永続魔法“デュース”と“デカラケ”を装備した“ビッグサーバー”がいる限り、僕の勝ちは揺るぎはしない!」
永続魔法によって攻撃できるモンスターの数を制限し装備魔法でその攻撃を無効化、そしてモンスター効果による直接攻撃……実に見事なコンボだと俺は感心せざるを得なかった。厳しい条件があるとしてもこのような完成度の高いコンボを実現させる……綾小路のタクティクスはもしかしたら元いた世界でも十分に通用していたかもしれない。
だがどんなに強力な戦術を仕掛けてこようと俺も負けるわけにはいかない。まして今回は他人を賭けたデュエル、迂闊に負けることは許されないのだ!
「俺のターン、ドロー」
緊迫した空気のなかでデッキから引いたカード……それと手札を照らし合わせた瞬間に、頭のなかでこのデュエルに勝つ算段が瞬く間に築かれていく。それを確信した時、俺は無意識に呟いたーーー。
「ーーー勝った」
「なに⁉︎」
「俺は手札1枚を墓地に捨て“THE トリッキー”を特殊召喚!」
THE・トリッキー
ATK/2000
「さらに手札から“死者蘇生”を発動!たった今墓地に送った“ホワイトホーンズ・ドラゴン”を復活させる!」
ホワイトホーンズ・ドラゴン
ATK/2200
「ふふん。いくらモンスターを並べたところで永続魔法“デュース”が発動している限り、攻撃できるのはどちらか1体のみ!状況はなにも変わっちゃいませんよ!」
俺の場に召喚した奇術師と名の通りの白い角を持った赤い竜。どちらも決して低くない攻撃力を備えてはいるが、綾小路の言う通り“デュース”の影響下ではどちらか片方しか攻撃できない。ーーーだが、ただ複数のモンスターを並べたというわけではない。これは新たなモンスターを呼ぶ為の布石だ…!
「魔法カード“トランスターン”を発動!自分の場のモンスター1体を墓地に送り、そのモンスターと同じ種族と属性のレベルがひとつ高いモンスターをデッキから特殊召喚する!レベル6のホワイトホーンズ・ドラゴン”を墓地に送り、現れろ!レベル7ーーー“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”‼︎」
“ホワイトホーンズ・ドラゴン”が光に包まれて“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”へと姿が変わる。“オッドアイズ・ペンデュラム”と魔法使い族、これで準備は整った‼︎
オッドアイズ・ペンデュラムドラゴン
ATK/2500
「さらに魔法カード“融合”を発動!場の“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”とTHE トリッキー”を融合!ーーー“ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”を融合召喚‼︎」
二色の眼を持つ竜と奇術師の融合ーーーそれによって現れたのは、秘術の力を片眼に宿した光り輝くリングを背負ったドラゴン。これこそが俺に勝利の軌跡を示してくれるモンスターだ…‼︎
ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン
ATK/3000
「おおっ‼︎また新しいモンスターだ‼︎」
「でもあのモンスターで、いったいどうやって勝つというの…⁉︎」
「“ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”がレベル5以上の魔法使い族モンスターを融合素材としたことで、“ルーンアイズ”は1度のバトルで相手モンスターに三回攻撃することができる!」
「なにっ⁉︎だ、だがその効果を聞く限りでは、連続攻撃できるのは僕の場にモンスターが残っていればの話…!“ビッグサーバー”を倒されたとしても、“デュース”によるアドバンテージは並ぶだけに留まる!最後の最後で作戦ミスを犯しましたね!」
作戦ミス、か…。互いの場にいるモンスター
「早計だな。俺がそんな重要なことを見落としていると思っていたのか?」
「っ⁉︎ーーーまだなにかを⁉︎」
「魔法カード“貪欲な壺”を発動!墓地からモンスター5体をデッキに戻してシャッフル、その後デッキから2枚をドローする!」
俺は墓地スロットにある五体のモンスター……“ミラージュ・ドラゴン”、“カイザー・グライダー”、“ホワイトホーンズ・ドラゴン”、“THE トリッキー”、“オッドアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”を選択して取り出す。それらをデッキに戻せば自動シャッフル機能によって満遍なくシャッフルされ、終わったのちにカード半分の面積ぶん出てきたデッキトップの二枚を引き抜く。
「そして今引いた“ジェスター・コンフィ”を通常召喚し、さらに魔法カード“シエンの間者”を発動!このターンの終わりまで“ジェスター・コンフィ”を相手の場に移す!ーーーこれで“ルーンアイズ”は三回の攻撃が可能となる…‼︎」
小柄な太ましいピエロが器用な玉乗り捌きで綾小路の場へと移っていく。“ジェスター・コンフィ”は攻撃表示。これで“ビッグサーバー”を倒しても、“ルーンアイズ”の三回目の攻撃を“ジェスター・コンフィ”が受けてくれる!
「バトルだ!“ルーンアイズ・ペンデュラム・ドラゴン”で“伝説のビッグサーバー”を攻撃!シャイニーバースト‼︎」
跳躍した“ルーンアイズ”の背にあるリング、そのひとつの光球から放たれるレーザー。“ビッグサーバー”は同じく背にある“デカラケ”を器用に振るい、一回目の攻撃を無効にする。
「二度目の攻撃‼︎追撃のシャイニーバースト‼︎」
リングが回転して二つ目の光球が発光し再度攻撃が放たれる。“デカラケ”を使用したことで攻撃をかわす術を失った“ビッグサーバー”はそのまま戦闘破壊され、綾小路にダメージを与えた。ライフは既にゼロになっているのでこれ以上は減らないが、アドバンテージの獲得が目的なのでさしたる意味はない。
アドバンテージ 綾小路 1 ー 賢司 1
「これで終わりだ‼︎“ジェスター・コンフィ”に三回目の攻撃‼︎」
眼光を宿す“ルーンアイズ”が一際高く
アドバンテージ 綾小路 1 ー 賢司 2
「すげえ‼︎勝っちまったぜ‼︎」
「やったー‼︎」
「どうなることかと思ったけど…」
「なんとかなってよかったですわ」
「はぁ……」
沸き上がる十代、翔、ジュンコとももえ。それと対照的に友人としての意味で、胸を撫で下ろすように安心した表情を見せる明日香。雪乃との交際を賭けた青春の決闘じみたデュエルは、ここに幕を閉じたのだったーーー。
「ぼ、僕が…負け…負け……っ!ーーーぐゔぅっ‼︎ごの僕が負げるなんてぇぇぇっ‼︎うわあああぁぁぁーーーん‼︎」
膝をつき敗北を突きつけられていた綾小路はおもむろに立ち上がると、上級生らしからぬ号泣ぶりを見せてから走って去ってしまった。これはあれか……あの綾小路はナルシストのケがあって尚且つ、打たれ弱かったってことなのか。打たれ弱いってところは同じ豆腐メンタルな俺としてはちょっと共感してしまうな。ふとそんなことをしみじみと思っていれば、観戦していた十代たちがやってくる。
「やったな亀崎さん!」
「あ、ああ…」
「でもこのデュエルに勝ったってことは…」
「亀崎さんが雪乃さんとお付き合いするということですわー!」
ああ…そういうことになってたんだよな。でも提示されたのは「負けたら身を引く」ってだけで、必ず付き合わなきゃならないわけでもなかった筈だ。ここはそのことを明確にしておかないと。
「いや、俺は藤原と付き合う気はこれっぽっちも…」
「あら。せっかく一緒にいられる口実が転がり込んできたのにそれをふいにすると言うのかしら?」
交際する気がないという俺の発言に雪乃がくってかかる。元から異性と交際する気なんかないのだから言っただけなのだが、なんでそんな不機嫌そうな顔をするんだ?まだ互いのこともよく知らないというのに。
すると雪乃が俺の目と鼻の先に立ち、じっと俺の目を覗き込んできた。未だ不機嫌な表情のまま何を考えているのか全くわからない、相手の言葉を待ってる俺に雪乃はさらに言葉を続けた。
「ーーー貴方と私には共通しているものがある。私はただ、私と同じである貴方と良い関係でありたいの。それだけではダメかしら?」
同じもの……以前の廃寮での事件をきっかけに俺と雪乃は、互いがそれぞれ『精霊が見える』という共通点を認識できた。厳密にはここにいる十代もそれは同じなのだが、十代は雪乃にも精霊が見えているということを知らない。どうせなら知らせておくのもいいかとも考えてはみた……のだが、それを知ってから雪乃に不用意に近づいたりして周りから要らぬ誤解を持たれそうだから遠慮をしていた。フッ、と思わず視線だけで十代に向ければ、彼の精霊である“ハネクリボー”が困り顔で「ガンバレ…!」と励ましているような仕草が見えた。精霊といえども他人事ですってか…!
仕方ない…ここは正直にいくしかないか……。俺は改めて深く息を吸い、吐いてから自分なりの考えを伝えるべく口を開いた。
「悪いが俺は誰かと交際する気なんか毛頭ない。ただ、同じ学び舎の士としてなら特に問題はーーー」
「別に無理に付き合えって言ってるわけじゃないわよ」
「ーーーえ?」
「私としては、ただ共通しているものについて話ができたりすればそれでいいのよ。まあどうしても交際がしたいというのなら、私もそれに応えるのは吝かでもないってだけよ」
「…それはつまり、これから先で俺と一緒にいる時の理由が欲しいが為に今回のデュエルをけしかけたってことか…?」
「フフフ。さあ、どうかしらね?」
やられた…!俺と綾小路は見事なまでに雪乃の思うように踊らされてしまったってわけだ!まだ学生の身だというのに、こうまで他人を操れるとは雪乃……恐ろしい娘…!
『マスタァァァ……やっぱり私よりも生身の人間の方がいいんですかぁ?私そろそろ泣いてもいいと思うんですけど〜…?』
“乙女”は“乙女”で憔悴しきったような声でとうとう泣きに入る宣言をしてしまった。俺は“乙女”のことをそんな蔑ろにした覚えなんかないのに、このあとどんな言葉で慰めてあげればいいんだよ…!雪乃は俺たちを見て笑ってるし、周りーーー特にももえは俺と雪乃のやりとりで何を察したのか盛り上がってるし…!誰か、誰でもいいからこの状況を沈めてくれぇーー‼︎
◇◆◇◆◇◆
デュエルが行われたその日の夕方ーーー沈みゆく茜色の夕日に向かって一心に泣き叫ぶひとりの男が、荒波に面した断崖にいた。己のなかに燻る悔しさと涙を青春よろしくな感じで吐き出さんが為にひたすら叫び続ける男、綾小路ミツル。そんな彼は辛いことや悔しいことがあった場合は、こうして夕日に向かって思いのまま叫ぶのが癖になっていた。ひとしきり叫んでしまえば心はすっきりして、明日に備えられるという体育会系らしい考えだ。
そんな彼がのちに天上院明日香へと心を向けるも、即効で玉砕し再びここで魂の叫びをあげるのだがそれはまた別の話ーーー。
「デュエルの…バッカヤローーーーーーッ‼︎」
なんだか今回は今までのなかでも酷い出来のような気がします…。下手に時間かけたら書き方がわからなくなるので是非もないネ!ちなみに原作沿いと名打っていますが、話が思いつかなかったところはカットしていく方針となります。さすがに全話書いたらいつ終わるんだってなりますので…。