【再開】遊戯王GX 〜伝説の龍を従えし決闘者〜   作:ハクハク再モン

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どうも、最近体力の低下を実感している私です。最近は曇りだったり雨だったりと過ごしやすい気温が続いていたせいで、休日は昼寝ばっかりしてしまいます。皆さんも適度に運動しましょう!
今回遅れた理由としては、新規カードを使ったARC-Ⅴの短編を構想したり、以前に書いた短編を連載する際の一話をちょこちょこ書いていたりしていたからです。…まあ一番大きかったのは無駄に時間がかかったせいでgdgdした自分なんですがね!
あ、ちなみに私はグレースより若干グロリア派です。どっちも好きがゆえに是非本編ではもっと活躍してほしいですね……色んな意味で。


VS神楽坂 前編 ブルーアイズVSブラック・マジシャン

「“決闘王”武藤遊戯のデッキのレプリカを展示、か」

 

 アカデミアの購買部の壁に張り付けられたポスターを見て、俺ーーー亀崎賢司はそう呟いた。今や世界にその名を認知されているデュエルアカデミア。そのなかでもここには過去に開発されたデュエルモンスターズにまつわる道具や設備ーーー製造初期のデュエルディスクはもちろん、それ以前の主に『決闘王国』で使用されたデュエルリングがあったりもする。まぁそれらはあくまでレプリカなので使うことはできないのだが。

 そんななか、デュエリストたちの伝説とも言える人物ーーー武藤遊戯が『決闘街』で実際に使っていたというデッキのレプリカが、この展示室に運び込まれるという旨が発表されたのだ。ここの生徒たちにとっても伝説のデュエリストのデッキだということで既にその話題がいたるところで持ちきりである。

 

「前売りの整理券もあっという間になくなったし、やっぱり皆憧れているんだな。そう言う俺も、昔は憧れてたクチだったけど」

 

 頭の後ろに両手を組みながら、俺は過去を過去を思い出す。懐かしいものでまだカードを集め始めたばかりの頃の俺は、プレミアムパックに入っていたパンドラ仕様の“ブラック・マジシャン”デッキをよく使っていたものだ。そしてそのなかでも、初めて手に入れたレアカードということもあって何も考えずに“青眼”を突っ込んでいたのも今となっては遠い過去で…。改めて考えてみても何故無理矢理入れていたのか、我がことながら実に謎であるが勝率が半々だったのはデッキが回っていたのかどうなのか。

 …そうだよな。『武藤遊戯』っていう名前が作中に出てこなくなってから、結構な年月が経ってるんだ。思い出せる当時のことも、虫に食われた衣服や本のように所々がおぼろげなのは当然と言えば当然なんだ。人間誰しも、遠い過去を完璧に覚えていられるわけがない。砂時計の砂のように、時が経つにつれて古い記憶は新たに積もりゆく記憶という名の砂にどんどんと埋もれていく……。だが自分の心や魂を刺激した時のことは、どれだけの時を重ねようと鮮明に覚えていられるもの。初めてデュエルモンスターズを見た時、買った時、デッキを組んだ時……。どれもひとつひとつは他愛のないことでも、その人には忘れようにも忘れられない、『記憶』というカードして永く残されるのだ。……なんて、何を言ってるんだか俺は。要はそいつが『デュエルモンスターズのどこに魂を込めてるか』ってのを言いたかっただけって話なのに、口下手なことこの上ない。

 

『マスター!今日のドローパンの時間ですよ〜!』

 

 過去を懐かしんでいるとアカデミアの名物であるドローパンが大量に積まれたワゴンの近くで、“青き眼の乙女”が俺を呼んでいる。彼女はわりと最近になって登場したカードの精霊であり、主に俺の周囲に控えている存在だ。もっとも、だからといって古臭い主従的な関係というわけではなくあくまで仲間、自分に力を貸してくれる頼もしい存在である。

 そんな彼女が心を弾ませる楽しみのひとつに、ドローパンの具材にいくつのバリエーションがあるのかを俺の実食も兼ねて調べるというものがある。ドローパンとは言ってしまえばパンの中に何かしらの具材が入っているというシンプルな商品なのだが、パンのひとつひとつにどんな具材が入っているのかは全くわからないという一種の博打パンである。この食べてみるまでわからないのがカードをドローする時と同じだという理由でその名がついた珍品らしく、これに関わる事件も発生したのだが当時の俺は全く時期がわからなかったのもあって完全に見過ごしてしまっていた。まあ夜更かしは良くないって言うし仕方ないよな。

 

『さあ、今日のドローパンはなんでしょうか?私としてはそろそろ強烈なのが来て欲しいんですけど』

「来たとしてもそれで悶えるのは俺だというのを忘れるなよ。…綾小路の一件から藤原に敵対心を持つのは結構だが、もしかしてあいつを跳ね除けようとしない俺を痛ぶってるのか?」

『そんなことはありませんよ。……思うところはありますけどね』

 

 購買前で繰り広げられているデュエルを観戦している人垣の横を通り抜けて、多くのドローパンが積まれたワゴンへと足を運ぶ。無数の中からやや埋もれていたひとつを引っ張り出したひとつ、袋から取り出し一口囓れば口の中に広がるフワフワとしたパンの食感。それと同時に味わったことのない肉厚でワイルドな味……噛めば噛むほどそれに絡められたであろうソースと汁が溢れてきて……。……これは、なんとも…。

 

『微妙そうな顔ですねぇ。今日は何でしたか?』

「……ステーキパンだ」

『ステーキパン、ですか…。昨日は鶏肉、その前はエビフライとマスター好みのものが続いてきてステーキとは…。ちなみに味のほうは?』

「せめてライスバンズが欲しい…」

 

 そう言いながらも食べる口を止めない俺に“乙女”が乾いた笑いを浮かべる。こんなことを言っているが、ステーキなんてまだマシなほうなんだぞ?初めて食べたのがくさやパンだった時の衝撃が強過ぎて、その時の心のダメージ具合は今でも覚えているくらいだ。何故あんなものをパンに入れようと思ったし…!

 そう顔もわからない製造者に憤怒していると、声を荒げて購買から走り去っていくラー・イエローの生徒が目についた。つい先ほどまで残りひとつとなったデッキ展示会の整理券を賭けてデュエルをしていたそのイエロー生徒が負けてしまったようだが、別にこれを逃せば展示会に行けなくなるとかそういうことはない筈。だが彼の苛立ちようは今咄嗟のものではなく積もりに積もった気迫を覗かせていた。

 

「お、亀崎さんもドローパン買いに来てたのか」

「なんか微妙そうな顔してるッスね…」

「おう、遊城に丸藤か」

 

 デュエルが終わり、遊城十代と丸藤翔もやってきた。十代は早速ドローパンの山に手を突っ込んで、少し探ってから手に取ったひとつを取り出すとすぐにパンに齧り付く。十代はこのドローパンを食べ始めた時から、デュエルでの引きの強さをもって大当たりである黄金のたまごパンをほぼ必ず引き当てている。一時期はそのたまごパンが消失していたので連勝記録はストップしていたが、解決してから今日までも当て続けているので記録の塗り替えも時間の問題だろう。現に今日も黄金のたまごパンを当てたことで喜ぶ十代が目の前にいるからな。

 

「相変わらず引きの強いヤツだな…。俺も一回は黄金のたまごパンを食べてみたいね」

「昼休みになるのと同時にここに来るようなアニキより早く買いに来て引き当てるとか、途方もない話ッスね」

「なーに、いつか食べられる日が来るって」

 

 そう言いながらあっという間に黄金のたまごパンを食べきった十代。二十代となった今でも意識すればそれなりに早く食べることはできようとも、今の十代のように勢い任せにパンを腹に流し込めなくなったことに歳をくったと認めざるを得ない。昔は口の中のパンを飲み物で柔らかくして流し込むという消化に悪そうな食べ方をよくやっていたもので、一時期は前田隼人ほどではないにしろ色んな意味で大きくなっていた…。まあ今は標準的な体格だからいいけどな。

 

「そういえば今さっきまで購買前で丸藤とデュエルしてたツンツン頭のラー・イエロー、え〜と…」

「神楽坂のことですか?」

「そうそう神楽坂だ。あいつ相当思い詰めてる様子だったが大丈夫なのか?」

 

 走り去って行った生徒の名前を思い出そうとしてたところに現れた三沢。三沢によれば最近の神楽坂は負けが込んでかなり苛立っているとのことだった。神楽坂自身のタクティクスは決して低くはないもののある『癖』による弱点を相手に突かれて負けてしまうらしく、さっきのデュエルでも翔にわずかな隙を突かれてしまったのだ。

 

「まあ、誰しも負けが続けば気が立ちますから…」

「ああも声を荒げるってことは相当負け越してるんだな。デッキに問題があるのかプレイングに問題があるのか…」

「さっきの翔とのデュエルだとクロノス先生と同じデッキだったし、入試テストの時に俺がデュエルした時と全く同じプレイングだったな。思えば翔よく勝てたよな」

「うん。“魔法の筒(マジック・シリンダー)”があって良かったッス」

 

 ーーーなるほど、翔の言うようにはデュエルは知っている通りの内容だったみたいだな。…だが、その内容を聞いた俺のなかでひとつの疑問が浮上した。おそらく最後に“古代の機械巨人(アンティーク・ギア・ゴーレム)”の攻撃があったと思うが、“古代の機械巨人”には攻撃時に相手の魔法と罠の発動を封じる効果がある。そのままだと罠である“魔法の筒”は発動できず翔が敗北していた筈なのだが、いったいどうやって発動したのだろうか?気になった俺は直接、翔に聞いてみることにした。

 

「“古代の機械巨人”の攻撃時に罠は発動できないだろう。どうやって発動したんだ?」

「確か、その前に魔法カード使ってたよな。…なんだっけ?」

 

 さっきのことなのに思い出せないのかよ……心の中でこけた俺をよそに、翔が使ったであろうカードを見せてくれる。

 

「“禁じられた聖杯”…そんなカードがあるのか」

「こないだ買ったパックに入ってたんだ。なんとなくデッキに入れてたんだけど、そのおかげでアニキの整理券を手に入れられて良かったよ」

 

 速攻魔法“禁じられた聖杯”ーーー対象モンスターの攻撃力と守備力を上げる代償に、そのモンスター効果を無効にするカード。“古代の機械巨人”の効果を予め無効にさせて罠を発動できる状態を作ったわけか…。やっぱり翔はやろうと思えばできるヤツなんだな。

 

「新しいカードも続々と出てきている。自分のデッキを強化するのは、デュエリストの使命だからな」

「俺の知らない“HERO”のカードもあるって噂だからな。そのカードも早く見てみたいぜ!」

 

 十代の知らない“HERO”ね…。“ネオス”や“漫画HERO”、“M-HERO”といった十代の好きそうな【HERO】カードは俺が所持していたものをペガサス会長のインダストリアル・イリュージョン(I2)社が製造しているから、いずれ十代の元に来るのも時間の問題だろう。そうなったらゆくゆくは天性のドロー運と合わさり手がつけられなくなりそうで恐ろしいな…。

 

『そうなったら我々とマスターでも厳しいデュエルになることは避けられませんね。もっとも、タダで負けようとは思いませんが!』

 

 なんで俺じゃなくて“乙女”がやる気になってるんだか…。まあそう思う俺の心も、いつか十代とデュエルする時が来るのをどこかで楽しみにしているのを自覚している。これがデュエリストとしての闘争本能、というやつなのかはわからないが。

 それよりも武藤遊戯のデッキ展示と神楽坂ってことは……うん、少しは気になるな。今夜は念の為に準備をしておくかーーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

「何故だ…!どうして俺は勝てないんだ…!」

 

 夜のラー・イエロー寮の一室。ひとりの男が歯痒い思いを募らせながら、机上の自身が纏めた資料をめちゃくちゃになぎ払う。散乱する資料の中心に立つ彼は神楽坂ーーーラー・イエローにおいて三沢に並ぶ研究熱心な生徒である。

 

「武藤遊戯、海馬瀬人、丸藤亮、そしてクロノス……名だたるデュエリストのデッキは全て研究した…!対戦記録も全て暗記した…!なのにーーーどうして勝てないんだ……いったい何が足りないっていうんだ…!」

 

 神楽坂の慟哭は彼の境遇を考えれば至極真っ当なものだった。クロノスのデッキを真似てレッドに敗北する以前から、自分が組み上げたデッキは相手にことごとく対策され、ここしばらくで勝ち星を挙げられた試しがなかったのだ。その都度に強いデュエリストをひたすら研究しても結果は裏目に出るばかり……昼に三沢に慰められたことも手伝って、もはや神楽坂の心には焦りと憤りがないまぜとなって爆発寸前まで燻り続けていた。

 

「……何が違うのか、この目で確かめてやる…!」

 

 目の前に落ちてきた武藤遊戯のデッキ展示を告知するポスター。それを見た神楽坂の目には、決心の意志を静かに宿らせていたーーー。

 

◇◆◇◆◇◆

 

『カリカリカリカリーー』

『〜♪』

 

 時間は進み太陽が沈みきった夜。

 オベリスク・ブルー寮の自室にて、ウサギの姿をしたモンスターである“バニーラ”がニンジンを齧っている様子を眺めている“乙女”。そしてそれをよそに俺は備え付けのパソコンから学園のデータベースにアクセスし、神楽坂の戦績及び彼が過去に使用したデッキを調べていた。

 

「ん〜……アカデミアに入りたての時はソコソコ勝ってはいたみたいだな。だが徐々に負け始めて、今となってはほぼ勝ちなしか」

 

 視界の端でモゾモゾと動く白いモフモフ(殺人毛玉)に内心悶々としながらも、画面に映る情報に目を通していく。アカデミアのデータベースには生徒からも自由にアクセスでき、そこでは生徒各々の戦績から主な使用カードを知ることができるのだ。その為、過去に神楽坂が用いたデッキも使用カードからある程度は把握することが可能である。

 

「しっかし、見事なまでにコピーデッキばかりだ。これじゃ対策されるのも頷けるな」

 

 強力なデッキを真似するのは確かに簡単だ。しかしそのデッキが強いということは相手となる人物も知っている可能性があり、尚且つ強いデッキというのはすべからく研究されるのが普通だ。そうなれば当然デッキの弱点も周知の事実となり、より多くの人間に対策を講じられてしまう。神楽坂のこと、それがわからないようには思えないが…。

 

「…ん、PHSに電話?こんな時間にかけてくるとは珍しいな」

 

 ディスプレイを眺めていたところへ、アカデミアに来る前に海馬瀬人から渡されたPHSに着信が入った。訝しげながらも電話に出てみればその相手は案の定、KC社の社長ーー海馬瀬人だった。

 

〜〜〜〜〜〜

 

翌日の公開を控えた武藤遊戯のデッキの設置を終えた作業員とクロノスが、灯りのない薄暗い展示室から揃って退出してきた。作業員が展示室の鍵をクロノスに渡して立ち去っていくのを見送ると、クロノスは抑えきれぬように含み笑いを浮かべ始める。

 

「ヌフフ…“決闘王”武藤遊戯のデッキを一番に見られるノーハ、教師の特権なノーネ…!」

「それは羨ましい。なら自分もご一緒させてもらうとしましょうか」

「ンェ?」

 

 キョトンとした様子のクロノスが振り返り、俺の姿を捉える。本来ならいない筈の人間の存在にクロノスは当たり前の疑問を俺に投げかけてきた。

 

「シニョール亀崎、どうしてここにいるノーネ?」

「実はつい先ほど海馬瀬人から連絡が来ましてねーーー」

『明日からアカデミアに展示される遊戯のデッキについてだが、良からぬ輩に目をつけられ悪用されるのを貴様に防いでもらう。そちらに配備させるガードマンが来るまでに、万が一にも盗難があった場合は…わかっているな?』

 

 やれやれといった風で経緯をクロノスに説明する。もう少し前に言ってくるならまだわかるが、当日の夜に伝えてくるのは即座に行動に移せない状況だったらどうするんだよ…。まあ、あの社長だしその点は一切気にかけてないんだろうなぁ……むしろそれぐらいじゃないといち企業の社長なんてやってられないのか。

 

「ーーーってわけです」

「シニョールがオーナーとどのような関係なのかは知りませンーガ、仮にも決闘王のデッキを盗もうとする輩がこの島にそうそういるとは思えないノーネ」

「まあ生徒がそんな大それたことをやろうと思うことはないでしょうが、念の為に展示室内をぐるっとまわるだけでも…と思って来た次第で」

「ノンノン!その心配は無用のサンブツでスーノ!このクロノス・デ・メディチが責任を持って戸締りをしますノーデ、アナタはこの私に任せて一足先に戻っていてくださいノーネ!」

 

 「一秒でも早く武藤遊戯のデッキを見たい」という心境が一目瞭然の態度を見せながらクロノスが展示室へと消えていく。まがりなりにクロノスもデュエリストの端くれ、やはり決闘王のデッキに興味を抱くのは当然ということだろう。クロノスには戻るよう言われはしたものの、鵜呑みにして帰るのも癪なので追従するように展示室へ入ろうとドアノブに手をかけた直後。

 

「マンマミ〜〜ヤ〜〜ッッ!!!」

 

 クロノスの驚愕の声が響く。勢いよくドアを開ければクロノスは破られた展示ケースを見て唖然としていた。そこに武藤遊戯のデッキが置かれていたようだが、そのデッキはおろかカード一枚すらどこにも見当たらない。つまるところ、誰かに盗まれたということだ。

 理解が追いつかずあたふたするクロノス。すると叫び声を聞きつけたらしい数名が駆け込んでくる。十代、翔、隼人、そして三沢の四人だ。

 

「ああっ⁉︎展示ケースが割られてるっ!」

「王のデッキがないんだな!」

「もしかして、クロノス先生が…⁉︎」

「ノンノン!私じゃないノーネ!」

 

 やってくるなり一斉に疑惑の目がクロノスに向けられるが、クロノスは必死に犯行を否定する。立ち位置的にも最も近いクロノスが怪しまれるのは仕方がない。個人としてここで助け舟を出しておきたいところではあるものの、「ついさっきまで外で話をしていた」程度ではアリバイにはならない。というかクロノスの場合は展示ケースを割る必要がそもそもないのだが。

 

「クロノス先生じゃないってことは…っ!」

「残念ながら俺も今しがた来たばかりでデッキは既になくなっていた。まったく余計な仕事を増やしてくれる…」

 

 三沢の目が消去法で俺にも向けられるが、一応の否定はしておく。まず俺の場合は持ちうるカードである程度の再現が可能だから、まずデッキを盗むメリットがないからな。

 

「とにかく、皆に知らせよう!」

「ちょ、ちょっと待つノーネ!事が公になったら私が責任を取らされるノーネ…!」

「確かに、鮫島校長に知られたらどうなることやら」

「シ、シニョール亀崎…!アナタからも私の身の潔白を証明してほしいノーネ!この通り、この通りでスーノ!」

 

 十代たちの足に縋り付くような格好で顔だけをこちらに向けてはペコペコと頭を下げる器用なクロノス。十代たちはちゃんとわかっているだろうから意味はないとは思うけどなぁ。

 

「クロノス教諭。そもそも貴方の場合なら展示ケースを割らずとも、鍵を使えばもっと穏便にデッキを取り出せるでしょうに」

「……あ。そ、そうなノーネ…。展示ケースの鍵は私が持ってまスーノ」

「そして俺はまずデッキを盗む理由がない。他人のデッキを盗み使ったところで、それは自分の強さに直結しないからな」

 

 犯行に及んだ犯人がわかっているからか、ついそんなことを口走る。例えあらゆる武器を使いこなせる器用な才能があったとしても、その手に馴染ませていないそれは付け焼き刃に過ぎない。常にあらゆるデュエリストとそのデッキを研究してきた彼には本物と偽物、持つ者と持たざる者の決定的な違いをわからせる必要があるのだ。

 

「とにかくまだ時間は経っていない筈だ。急いで犯人を見つけ出そうぜ!」

「ウゥゥ…!シニョールたちだけが頼りなノーネ…!」

 

〜〜〜〜〜〜

 

 十代に賛同した翔ら三人は、アカデミアの広大な敷地内を散り散りになって捜索を始めた。ブルー寮やイエロー寮、レッド寮の周辺から森の中や海に面した崖下までとしらみつぶしの大捜索である。俺はブルー寮の方面を捜索していたが、犯人の素性を鑑みればこっちに逃げ込んだ可能性はかなり低い。念の為に“乙女”には海に面した崖一帯を捜索してもらいながら事にあたっていた。

 

「岩場だってことはわかっちゃいるんだがなぁ…。それだけで場所を特定するには骨が折れるわ」

 

 ひとまずはレッド寮の方面へと向かいつつも海に面する岩場をあたっていく。こうして実際に岩場周りに足を運んでみれば、彼らが何故事あるごとに荒波に晒されているこんな危険な場所に立ち入れるのか理解に苦しんでしまう。下手すれば命を脅かすような場所に入ろうとするのは学生ゆえの若い行動力によるものなのか、それともそういう雰囲気作りに適しやすい場所だからなのか……。ああいうところって怖いからあんまり行きたくないんだよなーーーそんなことを考えながらイエロー寮付近にまで差し掛かったところで、俺の耳が小さくはあるが悲鳴と思しき声を捉えた。

 

「今のは翔の声…。聞こえた方角は……」

『マスター!盗んだ犯人が船着場のほうにいました!翔と呼んでいる少年が闘っていたのですが…』

「向こうの方だったか。行くぞ!」

 

 別れて犯人を捜していた“乙女”の報告を聞いてから、アカデミアのある本島と桟橋で繋がっている小島へと走り出す。海からの波が打ちつけられる岩場へと到着したすると、既に十代たちも辿り着いたばかりらしく、翔をデュエルで打ち負かしたデッキ盗難の犯人ーーー神楽坂にデッキを返すよう説得しているが、神楽坂は武藤遊戯のデッキの強さーーーそしてそれを十全に扱える自身のタクティクスに酔いしれている。

 

「これこそが俺の求めていた最強のデッキだ…!俺なら…武藤遊戯のデッキを研究し尽くしている俺ならッ‼︎彼のデュエルを百パーセント再現できる!…もう俺は誰にも負けない!クロノスだろうが、“皇帝(カイザー)”だろうが、誰にもッ‼︎」

 

 決闘王のデッキの強さ、そしてそれを使いこなせる自分の力量に高揚し叫ぶ神楽坂。その言葉には重ね続けてきた敗北の屈辱も手伝って「これ以上負けたくない」という切実さも感じられる。デュエルが勝負ごとである関係上、勝ち負けのどちらかに分けられるのは当然だ。勝てば嬉しいし負ければ悔しい、特に負けたのならば次にどうすれば勝てるのかを考えるのも、それはそれでデュエリストとして自然なことだ。

 だが今の神楽坂はその「勝つ為の思考」を放棄している。自分ではない他人の手で組まれたデッキを使って、自分が強くなったと思い込んでいるのだ。これがストラクチャーデッキあたりならまだ可愛げもあったろうに、よりにもよって全デュエリストの頂点に君臨する人間のデッキをそのまま我が物顔で扱うなどーーー不愉快でしかない。それと、窃盗はれっきとした犯罪だ。

 

「ーーーそこまで言うなら、俺とデュエルしてもらおうか!」

 

 この場いる全員の目が一斉に俺へと向けられる。考えてみれば、この登場の仕方はいかにも遊戯王らしいな。

 

「亀崎さん⁉︎俺がこれからデュエルで遊戯さんのデッキを取り返すところなんだけど…」

「悪いが十代、ここは俺に代わってくれ。与えられた役目はキッチリこなさなきゃならないからな」

「役目…?なんだよそれ」

「皆にはあまり関係ないが、デッキを取り戻さなければ上から大目玉をくらうからな」

 

 問うてくる十代と入れ替わるように岩場に乗り上がり、神楽坂と相対する。神楽坂のほうも翔とのデュエルで既に調子が出ているらしく、歴戦のデュエリストとしての雰囲気を醸し出していた。

 

「そういうわけで武藤遊戯のデッキを取り返す為にも神楽坂、お前をデュエルで倒させてもらう」

「ほぉ、アンタが相手か。この俺に本気で勝てると思っているのか?」

「他人のデッキで強くなったと錯覚する、ただ猿真似をすることしかできないヤツにそのデッキは勿体無い。それに、いくら強力なデッキとデュエリストが組み合わさったところで、強くなるとは限らないしな」

「なんだと…!」

「今までのお前自身がいい例だろ?どんなデッキを組んでも周りに対処されてきたその原因がわからない限り、神楽坂ーーーお前はこれからもこのアカデミアで負け続けることになる」

「くっ…!」

 

 ものは試しと少し煽ってみたところ意外にもあっさりと乗ってきた。口には出さないが神楽坂の怒り具合は、眉間の皺の深さからも相当なものだと伺い知れる。

 

「…ならアンタを倒して俺の強さを思い知らせてやる‼︎このデッキがある限り、俺は絶対に負けはしないッ‼︎」

「フゥンーーならば‼︎このデュエルで俺を倒してみせろ‼︎生半可な腕で倒せるほど、俺は甘くはないぞ‼︎」

 

 激した神楽坂とそれに呼応する俺、それぞれが互いにポージングしながらデュエルディスクを構える。こういうノリは側から見ればちょっぴり恥ずかしかったりするだろうが、その場の熱やら雰囲気でつい流されてやってしまう。勢いというのは恐ろしいな!

 

 

「「デュエル‼︎」」

 

 

賢司 LP 4000

  VS

神楽坂 LP 4000

 

 

ー○●○ー

 

 

「俺の先攻だな。ドロー!“アレキサンドライドラゴン”を攻撃表示で召喚!ーーーさらにカードを1枚伏せ、ターンエンドだ」

 

アレキサンドライドラゴン

ATK/2000

 

 まずは“アレキサンドライドラゴン”で様子見だ。俺の知る限りでこのデュエル、神楽坂の最初のターンはーー。

 

「俺のターン!手札の“バフォメット”と“幻獣王ガゼル”を手札融合!出でよ!“有翼幻獣キマイラ”‼︎」

 

有翼幻獣キマイラ

ATK/2100

 

 キマイラーーーキメラとはギリシャ神話に出てくる複数の動物の特徴を持った怪物。神楽坂が召喚した“キマイラ”も、蛇の尻尾と翼を生やした獣の胴体、そして“ガゼル”と“バフォメット”の頭部を持った文字通りの“モンスター”だ。

 

「いきなり攻撃力2100⁉︎」

「いけ“キマイラ”‼︎“アレキサンドライドラゴン”に攻撃!幻獣衝撃粉砕(キマイラ・インパクト・ダッシュ)‼︎」

 

 初っ端からの攻撃力二千越えのモンスターに驚く翔たちを他所に、“キマイラ”の巨体から繰り出された突進で“アレキサンドライドラゴン”は破壊される。賢司のライフがわずかに削れ先手を許す形にはなったが、この程度であればまだどうということはない…と一切動じることはなかった。

 

賢司 LP 4000 → 3900

 

 

賢司 LP 3900

手札:4

モンスター:0

魔法・罠:?

セット:1

 

神楽坂 LP 4000

手札:3

モンスター:1

魔法・罠:0

 

 

「いきなり先制取っちまうとか、さすが遊戯さんのデッキだぜ」

「削れたライフは僅か百だが、レベルの高いデュエリスト同士のデュエルではその僅かな数値で勝敗が左右することもあると聞いたことがあるが…」

「翔、あいつと闘ったんだろぉ?なんかアドバイスはないのか?」

「それが…ボク“キマイラ”だけで負けちゃって…」

 

 翔の申し訳なさそうな告白に聞いた本人である隼人は気まずそうに自分の口を抑える。自分たちのようないち学生がそう簡単に攻略法を導き出せるほど、決闘王のデッキが甘いわけがない。むしろ翔が何も掴めずやられてしまったのは仕方のないことだろう。

 

「でも翔が一度勝てた相手なら、あの人も勝てる筈なんだな。強いデッキを使うには、それに見合ったタクティクスも必要になるからなーーー」

「それは違うな。神楽坂は記憶力が良すぎて、自分でデッキを組もうとするといつも誰かのデッキに似てしまう。大方の負ける原因はそこを突かれることにあったが…他人のデッキを真似するというのは、そう簡単にできるものじゃない。他人のデッキの特徴を読み取りその持ち主の人格やタクティクスを再現する…。今あいつが持っているのが最強のデッキだというのなら……それを使っている今の神楽坂は、最強のデュエリストだということだ…!」

 

 強くなりたいが為に他人のデッキ、そしてタクティクスを研究するのはごく自然なこと。だがそれはあくまで己の強さの一部として取り込む意味合いのもの、それをそのまま武器に昇華させ使いこなすには相応の高い技術と知識が求められるのだ。イエローのトップである三沢ですら成し得ないトレース技術…その事実を裏付けるように不敵に笑う神楽坂を見て翔と隼人は改めて、相手が「秀才」のイエローに属する人間であることを思い知った。

 

「俺のターン。手札からレベル8以上のモンスターを墓地に送り、“ハードアームドラゴン”を特殊召喚!」

 

ハードアームドラゴン

ATK/1500

 

 手札のレベル8である“タイラント・ドラゴン”を用いて召喚される鎧の如き甲殻を持つ小さなドラゴン。生け贄召喚のお供としてとても有用なモンスターの1体である……が、今回はその効果を活用はしない。重要なのは「場にドラゴン族を確保すること」だからだ。

 

「さらに罠カード“リビングデッドの呼び声”を発動!場の“ハードアームドラゴン”を生け贄に捧げ“タイラント・ドラゴン”を特殊召喚!」

 

 波打ちつける岩場という日の要素は皆無にも関わらず何処からか発生した“炎が“ハードアームドラゴン”を呑み込み、見上げるほどの巨大な竜ーーー“タイラント・ドラゴン”がその中から姿を現す。本来“リビングデッドの呼び声”はなんのコストもなしに墓地のモンスターを召喚できるカードだが、“タイラント・ドラゴン”は墓地から召喚される場合にドラゴン族の生け贄を要求されてしまう。その為に“ハードアームドラゴン”を場に召喚したというわけだ。

 

タイラント・ドラゴン

ATK/2900

 

 巨大な竜ーー“タイラント・ドラゴン”を召喚したことで役目を終えたと言わんばかりに、“リビングデッドの呼び声”は静かに破壊された。“タイラント・ドラゴン”には自身を対象とした罠カードの効果を無効にし破壊する効果がある。この処理は“サイコ・ショッカー”を“リビングデッドの呼び声”で復活させるのと同じようなもので、いわゆる「完全蘇生」と呼ばれる方法である。

 

「バトル!“タイラント・ドラゴンで“キマイラ”を攻撃!」

 

神楽坂 LP 4000 → 3700

 

 “タイラント・ドラゴン”の強力なブレスが“キマイラ”に命中し粉砕する。だが仮にも決闘王のデッキ、ただやられたままでは終わらない。

 

「“キマイラ”の特殊効果!このカードが破壊された時、墓地にある“ガゼル”か“バフォメット”を特殊召喚できる!蘇れ、“バフォメット”!」

 

バフォメット

DEF/1800

 

 山羊を想起する四本腕の悪魔が墓地より復活される。万が一“キマイラ”が倒されてもどちらかの片割れを復活させ守りにまわすーー攻守でバランスの取れたモンスターである“キマイラ”。…だがその効果を使われるのはお見通しだ。

 

「“タイラント・ドラゴン”は一度のバトルフェイズで相手モンスターに二回攻撃できる!ーーー“タイラント・ドラゴン”!“バフォメット”を攻撃しろ!」

 

 “キマイラ”の効果で復活した“バフォメット”もまた“タイラント・ドラゴン”のブレスに焼かれていく。“タイラント・ドラゴン”は元からモンスターにしか連続攻撃できないから、どのみち“バフォメット”を復活させようがさせまいが結果はそう変わらなかったがな。

 

「俺のターン!俺はカードを1枚伏せ、手札1枚を墓地に送り“THE・トリッキー”を特殊召喚!ーーそして手札から魔法カード“光の護封剣”を発動!」

 

THE・トリッキー

DEF/1200

 

 ストライプ柄のモンスターを召喚した神楽坂によって、さらに攻撃を封じる無数の光の剣が突き刺さる。昔から相手の攻撃を数ターン防ぐ魔法としてかなり有名なカードだ。相手に使われると厄介なカードとして、な。

 

「これにより、アンタは3ターンの間攻撃できない。俺はこれでターンエンドだ!」

 

 

賢司 LP 3900

手札:3

モンスター:1

魔法・罠:0

 

神楽坂 LP 3700

手札:0

モンスター:1

魔法・罠:2(セット1)

護封剣C:0

 

 

(“死者転生”ではなく“トリッキー”…?モンスターが変わったところ以外は俺の知る展開ではあるが…)

 

 神楽坂が伏せたカードは間違いなければ、“トリッキー”で墓地に送ったモンスターを復活させる為の罠カード。トリガー(発動条件)となるのは自分がモンスターを召喚すること……。ここでモンスターを召喚せず“タイラント・ドラゴン”で相手モンスターの数を減らすこともできるが、新たなモンスターの召喚を阻まれ続けるのも厄介だ。相手に上級モンスターを召喚させることにはなるが……のちのことを考えても今のうちに使わせるのがいいだろう。

 

「俺のターン!“伝説の白石”を守備表示で召喚!」

 

伝説の白石

DEF/250

 

 召喚された両手で抱えきれるかどうかといった大きさの石のような真っ白な卵。それを見た神楽坂はこちらの予想通りに伏せていた罠を発動させてきた。

 

「新たなモンスターが召喚されたこの瞬間!罠カード“黒魔族復活の棺”を発動!このカードを発動したことにより相手が召喚したモンスターと自分のモンスターを生け贄に捧げ、墓地から魔法使い族を特殊召喚する!」

「墓地から魔法使い族だと⁉︎バカな!神楽坂の墓地にあるのは“キマイラ”と、その融合素材となった“ガゼル”とバフォメット”だけ…!」

「いいや…あったのさ。俺の墓地に魔法使い族モンスターを置く機会がなーー!」

 

 神楽坂の言う通りだ。十代が示した融合及び戦闘によって破壊されたモンスターの他に、“トリッキー”の効果で墓地に送られた不明瞭のカードが神楽坂の墓地に存在している。そしてそれを召喚する為、“トリッキー”の効果で墓地に送った後に罠による復活を目論んでいたのだ。

 

「俺は“THE・トリッキー”と“伝説の白石”を生け贄にーーー出でよ!“ブラック・マジシャン”‼︎」

 

 人ひとりが納まる大きさの魔術的な装飾を施された黒紫の棺が開き、“トリッキー”と“伝説の白石”が吸い込まれていく。やがて神楽坂の呼びかけとともに棺が開くと、デュエルモンスターズで最も有名な黒魔術師ーー紫衣の“ブラック・マジシャン”が飛び出す。

 

ブラック・マジシャン

ATK/2500

 

「すげえ…!あれが遊戯さんのデッキの象徴とも言えるモンスターか…!」

 

 神楽坂が召喚した紫衣の“ブラック・マジシャン”は十代が言った通り、遊戯デッキになくてはならないモンスター。これなくして武藤遊戯のデッキは語れない。ちなみに原作のカラーは以前に俺が制裁デュエルで使った青と赤の彩色の“ブラック・マジシャン”で、原作のほうはやや派手めなカラーリングが多い印象が受けられるな。

 

「“伝説の白石”が墓地にいったことで、俺はデッキから“青眼の白龍”を手札に加える。…カードを1枚伏せてターンエンドだ」

「俺のターン!俺は魔法カード“千本(サウザンド)ナイフ”を発動!自分の場に“ブラック・マジシャン”が存在している時、相手モンスター1体を破壊する!俺は“タイラント・ドラゴン”を破壊‼︎」

 

 “ブラック・マジシャン”の周りに無数に出現したナイフが“ブラック・マジシャン”の杖を振る合図のもと、“タイラント・ドラゴン”へと降り注ぎ破壊する。“ブラック・マジシャン”専用のカードだからあまり見かけることはなかったが、当時は貴重な除去カードだったんだよな…。

 

「すごい…!自分よりも強いモンスターを一瞬で…!」

「感心してる場合じゃないんだな!」

「フフ…これでアンタのフィールドにモンスターはいなくなった!“ブラック・マジシャン”で直接攻撃‼︎黒・魔・導(ブラック・マジック)‼︎」

 

 “ブラック・マジシャン”の杖から放たれる魔導弾。ーーこのまま相手の直接攻撃を受ける気などない。“千本ナイフ”でモンスターを破壊してくることも、直接攻撃してくることも俺は読んでいるぞ!

 

「罠カード“蘇りし魂”を発動!その効果で墓地の通常モンスター1体を守備表示で特殊召喚する!蘇れ“アレキサンドライドラゴン”!」

 

アレキサンドライドラゴン

DEF/100

 

「フッ、“ブラック・マジシャン”の攻撃をかわすとはな。そうこなくちゃ面白くないぜ」

「あいにくとお前を楽しませる為にデュエルをしているわけではないんでな。“光の護封剣”が消えたのちにはさっさと終わりにさせてもらうぞ」

 

 “アレキサンドライドラゴン”に攻撃を防がれ、武藤遊戯に近しい反応を示す神楽坂。俺としては“ブラック・マジシャン”をいち早く倒したいところだが、“光の護封剣”に攻撃を封じられている今は守りに徹するしかない。“ブラック・マジシャン”の攻撃を捌ききり、いかに早く“青眼の白龍”を召喚するかが勝負だな…。

 

 

賢司 LP 3900

手札:3

モンスター:0

魔法・罠:0

 

神楽坂 LP 3200

手札:0

モンスター:1

魔法・罠:1

護封剣C:1

 

 

「俺のターン!“シャインエンジェルを”守備表示で召喚!ターンエンドだ!」

 

シャインエンジェル

DEF/800

 

「“光の護封剣”の前では手も足も出せないか。ーー“ブラック・マジシャン”!そのモンスターを攻撃しろ!」

 

 カードを引いてそのまま、“ブラック・マジシャン”の攻撃が“シャインエンジェル”を粉砕する。

 

「“シャインエンジェル”のモンスター効果発動!このカードが戦闘で破壊され墓地に送られた時、デッキから攻撃力千五百以下の光属性モンスターを攻撃表示で特殊召喚できる!2体目の“シャインエンジェル”を特殊召喚!」

 

シャインエンジェル

ATK/1400

 

「フッ、“光の護封剣”が消えるまでの時間稼ぎってわけか。精々頑張って守り続けるんだな」

 

 

賢司 LP 3900

手札:3

モンスター:1

魔法・罠:0

 

神楽坂 LP 3200

手札:1

モンスター:1

魔法・罠:1

護封剣C:2

 

 

「俺のターン!“シャインエンジェル”を守備表示に変更!ーーさらにカードを1枚伏せてターンエンドだ!」

 

シャインエンジェル

ATK/1400 → DEF/800

 

「よし!3ターン経過だ!」

「さっきも“青眼”を手札に加えたし、こっから反撃開始だぜ!」

 

 三沢と十代の言葉とともに効力を失い消えていく光の剣。それを見届けた神楽坂はボード・アドバンテージで優勢だからか余裕の態度を崩そうとはしない。

 

「今更反撃とは悠長なことだな。ならこのターンでライフを大きく削ってやるぜ!ーー俺は手札から“強欲な壺”を発動し、デッキからカードを2枚引く!そして墓地から地属性の“ガゼル”をゲームから除外し、“岩の精霊 タイタン”を特殊召喚!」

 

岩の精霊 タイタン

ATK/1600

 

 “岩の精霊 タイタン”か……確か乃亜編で一度だけ使われたモンスターだった筈だ。昔の西洋風な衣装の男を召喚したが、わざわざあんな大口を叩いて出すようなモンスターではないと思うが…。

 

「さらに俺は“岩の精霊 タイタン”を生け贄に捧げーー“ブラック・マジシャン・ガール”を召喚‼︎」

「なに⁉︎」

「えっ⁉︎“ブラック・マジシャン・ガール”⁉︎」

 

 このタイミングで“ブラック・マジシャン・ガール”を召喚してくるだと…⁉︎翔の食いつく速さにも驚いたが、やはり俺がデュエルをする場合に限っていくらか展開に変化を及ぼすみたいだ。これはこの先、知っているからと高を括るのは止めておいたほうが良さそうだ…。

 

ブラック・マジシャン・ガール

ATK/2000

 

「“ブラック・マジシャン・ガール”…やっぱり可愛いなぁ…」

 

 “ブラック・マジシャン”の弟子ーーと言う割には露出がやや多めの明るい性格を印象づける彼女に、早速メロメロとなった翔。それに気づいた“ブラック・マジシャン・ガール”も満更ではない様子でウインクを返し、完全に骨抜きにされた翔と諌める隼人が口論に発展しかける。…が、「滅多に見られない」という翔気迫が込もった弁明に隼人はあっけなく引いてしまった。まあ彼女はデュエルモンスターズのアイドル的な立ち位置にいるから、翔の気持ちもわからなくはないんだがな。

 

「バトル!まずは“ブラック・マジシャン・ガール”で“シャインエンジェル”に攻撃!黒・魔・導・爆・裂・破(ブラック・バーニング)!」

 

 振り上げた杖を振るって撃ちだされた魔導弾に“シャインエンジェル”が再び破壊された。可愛らしい見た目ではあるが攻撃は強力ーー綺麗なバラにはトゲがある…という隼人言葉を耳に、“シャインエンジェル”の効果によって3体目をデッキから特殊召喚する。

 

シャインエンジェル

ATK/1400

 

「今度の“ブラック・マジシャン”の攻撃は防ぎきれないぜ!“ブラック・マジシャン”!黒・魔・導!」

「速攻魔法“月の書”を発動!“シャインエンジェル”の表示形式を裏側守備表示に変更する!」

「チッ…また防いだか」

「“シャインエンジェル”の効果により、デッキから“正義の味方 カイバーマン”を特殊召喚。どうした、大ダメージを与えるんじゃなかったのか?」

「焦るなよ。まだデュエルはこれからだぜ。ーー俺はカードを1枚伏せてターン終了だ」

 

 

賢司 LP 3900

手札:3

モンスター:1

魔法・罠:0

 

神楽坂 LP 3200

手札:0

モンスター:2

魔法・罠:1(セット1)

 

 

「いよいよだ…。ここからあの二人の、本当のデュエルが始まる…!」

「遊戯さんのデッキもスゲエけど、あのデッキを相手に全くライフを減らしてない亀崎さんもスゲエぜ!このデュエルがどうなるかわからねえのに俺、見てるだけでも凄いワクワクするぜ!」

「でもさ…これってよく考えたら武藤遊戯と海馬瀬人のデュエルを再現してるみたいッス」

「確かに。このあと“青眼”が召喚されるのは確実……そうなったらまさしく、決闘王とそのライバルのデュエルなんだな」

 

 ここにきて三沢、十代、翔、隼人はそれぞれの所見で俺たちのデュエルを通した上で伝説のデュエリストが見えているらしい。側から見ればそう見えるのか俺にもそれはわかる。海馬としてはただ誰かに遊戯のデッキを使われるのが許せないだけとは思うが、俺としては神楽坂とのデュエルに臨む間際の俺は遊戯と海馬の疑似的な再現ができるかと思うと、少し胸が高鳴ったのを否定することはできない。

 ーーなによりここから“青眼”を使う以上、ここからはより本気で闘わせてもらう‼︎

 

「俺のターン!“正義の味方 カイバーマン”の効果発動!“カイバーマン”を生け贄に手札から“青眼の白龍”を特殊召喚!」

 

青眼の白龍

ATK/3000

 

「ついに来たか…!“青眼の白龍”…!」

「“青眼の白龍”で“ブラック・マジシャン”を攻撃!滅びの爆裂疾風弾‼︎」

「リバースカードオープン!“六芒星の呪縛”!“青眼”の攻撃を封じさせてもらう!」

 

 “青眼”のブレスから“ブラック・マジシャン”を守った六芒星の魔法陣は、そのまま“青眼”の胴体へと瞬時に移動し束縛する。まさか“六芒星の呪縛”を使ってきたとは、こっちの予想を少しずつだが越え始めている…!

 

「俺のターン!装備魔法“魔術の呪文書”を発動!“ブラック・マジシャン”に装備し、その攻撃力を七百ポイントアップさせる!」

 

ブラック・マジシャン

ATK/2500 → 3200

 

「攻撃力三千二百…!“青眼”の攻撃力を上回った…!」

「“ブラック・マジシャン”で“青眼の白龍”に攻撃!」

「チッ…!」

 

賢司 LP 3900 → 3700

 

「さらに“ブラック・マジシャン・ガール”で、プレイヤーに直接攻撃‼︎」

 

賢司 LP 3700 → 1700

 

 やはり遊戯デッキはコンボが決まった時の突破率が高い…!モンスターの破壊から相手の攻撃を防いだり、戦闘面でもモンスターのサポートと満遍なく配慮がなされている…!考えなかったわけじゃないが、ただの力押しで勝てるほど甘くはないか…!

 

 

賢司 LP 1700

手札:3

モンスター:0

魔法・罠:0

 

神楽坂 LP 3200

手札:0

モンスター:2

魔法・罠:1

 

 

『ーー手痛いしっぺ返しでしたね。マスター』

「…!」

 

 ライフを大きく削られた俺がカードをドローしようとしたその瞬間に、“乙女”の声が脳内に響く。もしやと思いデッキの一番上を引いてみれば想像通り、声の主ーー“青き眼の乙女”が精霊体…半透明の姿で現れた。

 

『悔しいですが、あれをただの猿真似と断じるにはあまりにも精巧…。いくらマスターでも少々際どい相手かと』

(それについては今しがた痛感したところだ。ヤツのタクティクスもそうだが、デッキ自身も状況に応じて最適なカードを引かせていっているみたいだ…)

『でしたら……我々としても負けるわけにはいきませんね。総力を挙げて、マスターをサポート致します!その手始めにーー!』

(ああ。まずはあの、黒魔術師弟を追い払うとしようか!)

 

 神楽坂の予想を上回った戦いぶりに意表を突かれ、大ダメージを受けはした。その結果は俺が慢心したが故のもの…だがこれもこれで戦いがいがあるというものだ。反撃の糸口はこの手札にありーー俺は頼もしい精霊の存在を改めて感じながら、引いたカードをそのままディスクに勢い良くセットするーー!

 

「俺にダメージを与えた礼をさせてもらうぞ!俺は“青き眼の乙女”を召喚!」

 

青き眼の乙女

ATK/0

 

 十代の“ハネクリボー”のようなカードの精霊である“青き眼の乙女”ーー。民族衣装のような服装に白く長い髪、そして名にある通りの青く透き通った眼のモンスターと呼ぶのもはばかられるような人型の女性モンスター。このデッキの支柱である彼女が来たならば、“ブラック・マジシャン”師弟も恐れるに足りない!

 

「攻撃力ゼロのモンスターを攻撃表示だと…?」

「さらに手札から魔法カード“渾身の一撃”を“青き眼の乙女”を対象に発動!対象となったモンスターはこのターンの戦闘では破壊されず、その攻撃を受けた相手モンスターはダメージ計算終了後に破壊される!」

「なにっ⁉︎」

「そして“青き眼の乙女”がカード効果の対象となったことで、デッキから二体目の“青眼の白龍”を特殊召喚‼︎」

 

青眼の白龍

ATK/3000

 

「バトルだ!まずは“青眼の白龍”で“ブラック・マジシャン・ガール”を攻撃!滅びの爆裂疾風弾‼︎」

「く…っ!」

 

神楽坂 LP 3200 → 2200

 

 反撃の狼煙と言わんばかりに吐き出されたブレスに“ブラック・マジシャン・ガール”が倒される。密かに憧れを持っていた翔は、攻撃を受けた“ブラック・マジシャン・ガール”が破壊されるまでのその瞬間まで彼女の退場を心から惜しんでいた。

 

「“ブラック・マジシャン・ガール”を倒すなんて…人でなしッス…」

「いや翔…これデュエルだぞ?」

「勝ってデッキを取り戻す為には仕方のないことなんだな」

 

 …十代と隼人の言う通りデッキを取り返す為にデュエルしてるんだし、勝つには神楽坂が出すモンスターは倒していかなきゃならない。それがたとえどんなに可愛いモンスターだろうと心を鬼にして…な。ーーでもソリッド・ビジョンとはいえそういったモンスターが倒れていくのを見るのは、どうしても多少は心にクる…。

 

「はは…っと、今は攻撃の途中だったな。次は“青き眼の乙女”で“ブラック・マジシャン”を攻撃!」

 

 そのか弱い印象でどのような攻撃をするのか想像もつかない人がほとんどだろう、“青き眼の乙女”の攻撃。それは白い霊気…のような何かを具現化させたと思うと、それは龍の姿をとり本物と同じように口にあたる部位からブレスを相手モンスターへと吐き出す…というものだ。攻撃力ゼロのモンスターの攻撃は大体が不思議な感じのもののような気がする。

 

「いくら戦闘で破壊されないソイツで“ブラック・マジシャン”を倒そうとしても、受ける戦闘ダメージでアンタのライフはゼロになるぜ!」

「“渾身の一撃”の効果を受けたモンスターのバトルで戦闘ダメージは発生しない!」

「なにっ⁉︎…ッ!」

 

 “乙女”の攻撃を受けた“ブラック・マジシャン”が破壊されたことで怯む神楽坂。しかしーー。

 

「だが“ブラック・マジシャン”に装備されていた“魔術の呪文書”が墓地に送られたことで、俺のライフを千ポイント回復する!」

 

神楽坂 LP 2200 → 3200

 

「やっとダメージを与えられた思ったら、すぐに回復されちまった…!」

「相手に切り崩されても最小限の被害に留めるとは…やるな神楽坂。僅かな時間見ただけで、武藤遊戯のデッキをこれほどまでに使いこなすとは…」

 

 結果的にライフは変動しなかったが、ようやく最初の山場を越えられた。十代と三沢が神楽坂のタクティクスに驚嘆しているみたいだが、おそらくこのデュエルは今後激しさを増していくことだろう。既に俺の知っている展開からかけ離れているこの戦いがどのような形で決着がつくのか……最後の最後まで一切の油断が許されないかもしれないーーー神楽坂と睨み合うなか俺は心のなかで、そう確信していた。




大山と大原・小原は十代が率先して倒しました。いや、本当は大原・小原のデュエルも考えていたんですがね…。いつになったらセブンスターズ編に行くのかと自分で悶々としていたものですから…。神楽坂のデュエル前半はほぼアニメ通りとなりましたが、後半はなるべくそうならないように心がけていますので次回も読んでくださると嬉しいです。
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