神の存在証明   作:ドブ

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覚醒

俺には普通の人間とは違う、一つの力がある。

 

 

その力は有象無象の大衆の中には和として染まらぬ排斥されるべき異端であり、悪と言っても差支えない力だ。

 

 

何故、そんな力が俺にあるのか、と何度も悩んだこともある。俺のこの力は決して身につけようと思って身につけたものではなく、日々の絶え間ないなんでもない日常をおくる最中で、自然と形成されていった力なのだ。望んだことはない、と言えば嘘になる。俺は確かに日々、ただ何を思うわけでもなく無知蒙昧と過ごす日常に退屈さを感じていたし、それを脱却する力を欲しなかったかと言えばそれは真実望んだことなのだ。

 

 

事実生まれた力が、決して俺が望んだ方向のものとは違う力だったとしても、自ら望んでいたことだけは、受け止めなければならない真実だ。

 

 

最初、この力を得たときは、正直言って、悦に浸っていたと思う。

 

 

当時の俺はその力をただ単純な力としてしか見れず、その本質を見誤っていたのだ。

 

 

結果俺は、その力によって、振り回され、俺はある事件を契機にようやく、自分がやってはいけないことをやっていたんだという罪の意識を得た。それはきっとごく普通の人間にとっては当たり前のような常識で、けれども俺は特別な力を得た人間だからと、超えてしまった境界線。その咎として与えられた罰はあまりにも重いものだったが、自業自得だと、俺は思っている。

 

 

それ以来、俺はこの力の使用を控えてきた。

 

 

この力は決して、社会には染まらない。自重しなければ身を滅ぼすことになるのは自分自身。結局は自分に跳ね返ってくる不利益を直視せずに、ただ短絡的に力を使うことはあまりにも愚かなことだから。俺はこの力を封印した。

 

 

それでも、ときどき、衝動のようなものが襲ってくる。

 

 

この力をツカイタイ。

 

 

この力の限りを使って蹂躙シタイ。

 

 

それらは、腐りそうなほど甘い臭気と一緒に俺にささやいてくる。

 

 

――――ナラバ

               ツカッテシマエバイイ――――

 

 

そのたび、俺は全身が振るう衝動に抗うよう、身を沈め、強く目を見開き、右手を握り、思うのだ。

 

 

この身が猛る想いよ、霧散せよ、と。

 

 

それはある種の自己暗示で、呪文でもあった。何回も何回も繰り返すことで、培ってきた経験ともいえるそれにより、俺は衆目の場でその力を晒すことなく、衝動を抑えることに成功していた。

 

 

始めは大変だった。何せ毎日のようにその衝動が襲ってくるのだ。身体を焦がす熱のような衝動に俺は悩まされた。何回も、何回も、この身が猛る想いよ、霧散せよ、と繰り返した。苦難の日々だった。しかし、俺は何度も、あの力を使った後の無気力な状態を思い返し、耐えた。

 

 

週に何回かのペースで今でもその衝動は襲ってくる。しかし、これは生涯を通して向き合う問題であり、俺はこの衝動に今後も悩まされているのだろう、と達観した思いを持てるだけの精神的な余裕も持てた。

 

 

これは、力の制御に成功したと言ってもいいのだろう。

 

 

本来であれば、適度に使用できるだけの余裕もあったらよかったのだろうが、今の俺はそこまでは望まない。何より俺の望んだのは、この力に振り回されることのない平穏な日常なのだ。俺の日常が力の差し挟む余地のない平穏なものであるのならそれでいい。

 

 

俺はそう思った、いや、そう思っていた、と言った方が適切なのかもしれない。

 

 

俺のこの異常な力は、人に知られれば、人を寄せ付けず、人に嫌悪され、軽蔑されるものだと思っていた。

 

 

今までの経験からも、常識的な観点から言ってもそうだ。

 

 

しかし。

 

 

俺とは違う選択肢をとった人間もいたのだ。

 

 

そいつらと出会ったことは俺の人生を変えた。

 

 

その人間は俺と同じように“異端”に属する人間だった。俺のように特殊な力、こそ持っていなかったが、明らかに彼の行為は悪だった。そして、その力に酔いしれているように思えた。その人間と友人になった俺は偶然にもその現場に立会い、咎めたのだ。

 

 

過去のそういう経験がある身からして、その行為は友人として看過しがたいものだった。

 

 

しかし、彼は言ったのだ。

 

 

それがどうした、と。

 

 

悪だからなんだというのか。この行動は自分の欲望のままに行った、自分にとっては肯定されるべき正義であり、他者への評価など求めていない。例え、他者に悪と呼ばれようが、自分は気にしない。世界が俺を悪だというのなら、よろしい、俺はこの鬼畜の道を歩んで見せよう。例え、一人になったって俺は、俺が誇れる自分である。俺が誇れる俺をけなすような世界なら、俺は一人この立ち位置にて自らが正義によがり狂い、高らかに謳いあげよう、と。

 

 

正直言ってあほらしかった。

 

 

俺のソレに比べれば、彼の行いは、ひどく矮小なもので、そこまでの主義主張が通せるほどのものではなかった。良くも悪くも常識の範囲内で留まる彼の行為はただの小悪であり、その大層な主張に割に合っていない。ギャグなんじゃないかと思った。

 

 

しかし、語る彼の顔はいたって本気。

 

 

そのギャップに俺は呆気にとられ、彼の行いの是非の結論を出すことなく、その行いを見届けてしまった。

 

 

無論、彼はこの後、排斥されることになる。

 

 

しかし、排斥された後の彼の顔つきはどこか精悍だった。

 

 

排斥された彼にもはや退路はなく、だからこそふんぎりがついたのだ、と彼は言っていた。これで畜生道を迷いなく進める、と。

 

 

俺は彼から距離をとった。いや、一般的な人間として当たり前の行動だろう。他の人間もそんなような感じで対応していた。しかし、俺は他の人間のそんな感情と合わせて、どこか彼の前に顔を出すことへの居心地の悪さを感じていたのだ。

 

 

自らの欲求に逆らわず、排斥されたとしても、その道を突き進んだ彼がまぶしく思えてしまったのだ。

 

 

こんなことを思うのはいけない、と自制の声を理性が発するも、その眩さの前にはトンと小さくなっていく。

 

 

ああ、こんな風に感じるのは、俺が、この力を使って蹂躙したいからなのだろう。

 

 

抑え込んだ衝動が、沸々とよみがえってきていた。

 

 

やはり、無理矢理に抑え込んでいたが、俺が肯定するべきなのは、いや、肯定しているのは、この衝動なのだろう。何百遍の言葉も積み重ね、理を説こうが抗えない原初の欲求は俺の中で確かに膨らみ始めていた。しかし、その一方で過去の失敗から学んだことがあるのも事実であり、それがあと一歩のところで俺の欲求に寸止めをかけていた。

 

 

そこで出会ったのが俺のもう一人の友人だった。

 

 

彼もまた、俺や排斥された友人のごとく“異端”の側に属していた。しかし、彼には失礼かと思うが、あまりに拙つたなかった。その欲求の発露の仕方を知らないように、赤子のようにその欲求を言葉や表情に出す。ここまで人生おくっていれば、それなりの処世術もあるだろうに、何も知らぬ赤子のように欲求に対しまっすぐでそのくせ、そのやり口は未熟に過ぎる。

 

 

しかし、彼は、排斥された友人とは違った意味で眩しかった。排斥された友人が自覚ありきの背徳者であるのなら、彼は自覚のない背徳者だ。人間が醜悪だと断じ、建前の後ろに隠そうとするその感情にただ従順に従うその姿は違った意味で眩しかった。

 

 

二人の眩しさにあてられた俺は激しく迷っていた。

 

 

例え排斥されようとも、彼らのように欲求に従順に生きるべきか。

 

 

それとも、今まで通りこの力、欲求を隠し生きていくか。

 

 

選択が迫られていた。

 

 

そんなときだったのだ。

 

 

ふと、目をやった、その先にいた、少女。

 

 

まだ年端もいかぬ、おおよそ、小学校高学年、もしくは中学一年生ぐらいの歳頃か。白く少し癖のある髪質ながらのまっすぐとおろした髪。無表情ながらに眠そうな、幼さがまだ目立つくりくりとした目。丸みを帯びた小さな鼻。啄めば消えてしまいそうな、朱の唇。

 

 

俺の中で何かが爆発した。

 

 

いや、何かが目醒めたと言っても過言ではない。年端もいかぬその少女を見た瞬間、突如俺の中の衝動が抑えきれない強大なものになって、俺の理性と言う殻を破ったのだ!! 

 

 

俺の息はすでに荒い!! はぁはぁ、と何もしてないのに、ただ一人の少女を見つめて息つくその様子はまさに変態であっただろう!! 

 

 

しかし!! 俺はもはや止まれそうになかった!!

 

 

この世のどんな女性を見たときよりも興奮した!! 滾った!! 

 

 

変態の友達と言う最後の防波堤までぶっ壊されていた俺に隙はない。

 

 

俺はあの少女をあらゆる手段を使ってでも蹂躙したかった。

 

 

そう、ようやく俺は覚醒した。今までは、その異常な性癖に気づかぬふりをしていた。公園で遊ぶ少女を見た日には衝動が増すことを自覚していたというのに俺は気づかないふりをしていたのだ。なんと愚かなことだろう。それはまるで、吸血鬼が満月の夜に力を増す、と言う事実を無視するのと同義ではないか。自らが一番力を発揮できる分野に何故今まで目を瞑ってきたのか。

 

 

世間? それがどうしたというのだ。わが親友二人があんなにも正面切って欲求を訴えているというのに、今さら俺に何を躊躇うことがあろうか。

 

 

素直に認めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺はロリコンだったのだ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふっ、YES、ロリータ、NO、タッチ?

 

 

NO!!NO!!NO!! YEEEEEEEEEEEEES,ロリィィィィィータァァァ!!! タッチ!! タッチ!! タッチ!! ロリィィィィィィィィタァァァアァアア!!!

 

 

もはや俺は、ロリータ分を存分に吸ったせいで酸欠状態だ。全力疾走した長距離走の後のごとく息が切れている。しかし、俺のあくなき衝動は俺の行動を加速させる。

 

 

すでに俺の“力”は蛇蝎のごとく彼女を捉えようと、発動している。

 

 

しかし、ブランクが大きすぎたせいか、“力”はうまく作動せずに、俺はやきもきする羽目になる。

 

 

寸止めされた分、俺の欲求は、頂点にまで高まった! 

 

 

中途半端に果たせないその欲求を暴走させたい、とさながら暴れ馬を幻視させるような勢いで、俺の股間を突き上げるそれに、しかし、俺は地に膝を突き、うなだれた。

 

 

嗚呼、俺はなんと無力なのだろうか。

 

 

俺が、この力を恐れたせいで、俺は肝心なところで足踏みしている。こんなところで異能を使うなど、なんという才能の無駄遣いだろうか、と言われても構わない。しかし、俺の恐れていた力は、きっと、このときのためのものだったのだ。この力が持つ理不尽で蹂躙する非日常をもたらすのではなく、ただ一人の少女のために使う、日常の延長線上にあるちっぽけな非日常を。他人から見ればくだらない、と思われるかもしれない。その力を使えば、もっと大きなことができるだろう、と呆れるのかもしれない。

 

 

けれど、俺の力はそうやって使うべきだったのだ。

 

 

今、運命の少女に出会い、ようやく、俺はそのことに気づけたのだ。

 

 

俺の中で以前まで燻っていた衝動が消えていることが何よりの証拠だ。

 

 

嗚呼、俺は今覚醒している。

 

 

ロリコン、という名の賢者に。

 

 

しかし、だからこそ、俺は無力を痛感せざるを得ない。

 

 

こんな時に役に立たない、俺の力に対して。

 

 

今まで何を俺はやっていたのか、と。

 

 

賢者の俺は、深い失望を自身に覚えていた。

 

 

そんな俺の賢者の凪いだ水面のように平静を保った心に一滴の水滴が垂れる。

 

 

——―——————————欲すか。

 

 

それはさながら悪魔の囁きのようだった。

 

 

ドロリと、とろみのある甘い蜜が融け落ちるように、ほんのりと淡く、ぞっとするほどの陶酔感に心を包み上げる。

 

 

—————————————―求めよ。■を、■の御力を尋ね、求めよ。

 

 

貪り食らうようにその陶酔感に身を任せ酔いしれると、聞こえる声はさらにはっきりと、力を持った言となる。

 

 

別世界に誘われるような飛躍感が足の裏で強く踏み込むような溜めとともに、今か今かとその時を待ち望んでいる。別世界への階段が俺の足元で作られていく。ふわふわとした足元がおぼつかないような感覚ではない。確かにそこにいけるのだという確信。俺の足はすでに上を向き、その眼もはるか天上の空へと向かっているというのに、地に這いつくばる俺に不安定な浮遊感などない。

 

 

天上へと続く階段の一段目はすでに俺の足にかかっているのだ。

 

 

先ほどまで抱いていた失望感など露知らぬと言った希望溢れる展望が俺の前に広がっている。

 

 

———————————————声をあげ、我に向かって叫べ!! さすれば汝が欲すところを得られん!!

 

 

違和感など何もなかった。

 

 

これはきっと神の導きなのだ、とそう信じられた。俺の真摯な欲望にこたえてくれた神の慈愛なのだ、と。それがどれだけ不条理なことであってもその一言で片づけられてしまっていた。理性が死んだわけではない。正常な判断ができなくなったわけじゃなかった。

 

 

ただ単に論理を超えた力が其処に在っただけ。

 

 

そして、彼が……………………………………ロリコンであっただけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ようじょぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉおぉおぉぉおぉぉおおおぉおぉぉおぉおぉぉおぉおぉぉお」

 

 

 

 

 

 

そうして、彼は…………死んだ。

 




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