神の存在証明   作:ドブ

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アーシア・アルジェント

 

 

「だ、大丈夫ですか!?」

 

 

見るからにあわてた様子で走り寄ってきた金髪シスターを胡乱な目で見やる。一瞬、耐えがたい臭気を感じたのだろう、くしゃりとその愛らしい顔を歪めたが、生理的な嫌悪感を催したわけではなく単に我の痛ましさについて慮っただけのようであった。嫌味なくそうと感じさせるぐらいには金髪の少女の面立ちには純粋さが感じられた。

 

 

「ひどい、こんな…………」

 

 

叩きつけられぐちゃぐちゃの料理だった生ごみに塗れて、倒れこんでいる我の姿はさぞ憐れであろうに、この少女は何の衒いもなく我に接してくる。なんと清きことか。先ほどのフリードのことも相まって不覚にも我は感動してしまっていた。

 

 

しかし、ほどなく気づくのだ。腐った堕天使の陣営の中にそんな我の理想ともいえる人間像を持った少女などいるはずがないことに。

 

 

「…………少しじっとしててください」

 

 

金髪の少女はしゃがみこみ、両手の掌を真っ直ぐこちらに向け目を閉じた。神に祈る祈祷にも似た雰囲気を醸し、黙する。

 

 

するとどうだろうか。掌から仄かな緑色の光が灯り、我の身体の傷が癒えはじめたではないか! 手の平の光が鱗粉のように霧散し、細かな傷を包みあげ、回復させていく。焦点すら定かでなかった視界も、全身に圧しかかっていた疲労感も、発熱していた足も、全て憑き物が落ちたかのように元通りに戻っていく。

 

 

まさしく天にも昇る気持であったと言ってもいい。そのせいか、完全にすべての機能が元通りになった今、物足りなさを感じ、おかしみを覚えたくらいだ。神であった頃の能力に戻らないことに一瞬とはいえ疑問を抱いたのだ。馬鹿馬鹿しい勘違いだが、むしろそこまで錯覚させてしまえるのなら、いっそ清々しかった。

 

 

「はぁ、よかった…………もう大丈夫ですよね?」

 

 

小首を傾げこちらを窺ってくる少女。初めてまともに焦点を合わせた。

 

 

アーシア・アルジェント。神器・????所持。

 

 

先ほどの力は神器の力か…………しかし、どのような神器か、知識がないせいかわからない。身体が復調し、気が大きくなっていた。少女の力で元気になったのだ。回復して余裕ができた力を彼女を知るために使いたい、と思った。

 

 

【知識習得・対象アーシア・神器】

 

 

神器・聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)。人間、悪魔、天使、堕天使、対象を問わず宿主の意思で損傷した箇所を回復させることができる能力。

 

 

なるほどな、堕天使の陣営に席をおく身としては、回復の術を扱うこの少女は異端であるとは思ったが、神器の力であればうなずける。

 

 

礼を言おうと思った。しかし、この少女が堕天使の陣営の中で何の拘束もなく動いている時点で、我にとっての敵であることは明らかなのだ。

 

 

そんな相手に礼を言うことなぞ、否、そもそも回復した際のあまりの衝撃で気にも留めなかったが、我は今施しを受けているのではあるまいか。

 

 

相手にしたって都合があるのだろう。どうにもあの堕天使は我を、正確には我の中にある神器をアザゼルへの手土産としたいという思惑があるようだし。それを考えれば、我を回復させた目的が、自然、説明がつく。死なれて神器が転移されるような事態は向こうとしても避けたいというわけだ。

 

 

しかし、そんな相手側の都合があり、感謝する謂れなどないにしても。例えそれが我が堕天使の人間に施しを受けている、という屈辱だったとしても。ならばなおさらに感謝の意は示さなければならないとも思った。そうでなければ我は神でなくなってしまう。一方的に施しを甘受しているなどというより屈辱的な状況にはしてはならない。

 

 

「…………感謝してやってもいい」

 

 

元はと言えば、貴様らの陣営の人間がやったことだがな!

 

 

「???? あ、えっと…………」

 

 

しかし、その意は伝わらなかったようである。

 

 

まぁ、それはそうだろう。何せ相手が何を話しているのか、先ほどからまるでわからないのだから。察するに英語だろうか、仕方ない、フリードやレイナーレなどはあちらの方で対策を取っていたようだから意思疎通に問題は生じなかったが、この少女はそうではないようだ。簡単な英語くらいなら、この器も心得がある。治療してもらった礼を言う必要があるのはこちらだ、我の方から歩み寄ってやろうではないか。

 

 

「…………ありがとう」

 

 

異国語にすると器の語彙が貧弱なせいで我の意を正確に伝える術がせいぜい身体言語(ボディランゲージ)に頼るくらいしかない。

 

 

しかし、正確なところはわからずとも我が素直に礼を言っていることぐらいは伝わるだろう、そう思っていたのだが、少女の反応は至って素直。花開くような笑顔をパッと浮かべると、

 

 

「いえいえ! あ、お水とかタオルとってきますね! お掃除もしなくちゃいけませんし!」

 

 

早口でまくし立てて出ていった。

 

 

なんだったのだ、我の不敵な態度が気に食わなかったのか……? 

 

 

それにしても。堕天使の陣営に与するとは思えぬような少女であった。少なくともわが目にはそのように映る。シスター服を纏った姿もそれなりに様になっていた。普通に教会にいたとしても不自然には映らぬぐらいには堂に入ったものだった。

 

 

そんな少女が堕天使に囲われているなどと、なんと嘆かわしいことか。これも我がいなくなり、正しき導きがなされなかったことによる弊害なのか。ミカエルたちでは所詮代わりは務まらぬと言うことか。そこまで期待は持っていなかったが、いや、ここでミカエルたちに失望を抱くのは我の責任転嫁になるのか。わからぬ、わからぬな、我は正しき審判の指針を持っていないのだから、如何ともしがたい。

 

 

もどかしい、もどかしい。全てを意のままにする力があれば、“全知全能”があれば、こんなことにはならぬというのに!

 

 

我が己のもどかしさに悶えていると、先ほど出ていったばかりのアーシアがうんしょ、うんしょ、と両手にバケツを抱えて戻ってきた。その腕にはタオルもかかっている。

 

 

「ちょっと待っててください。今綺麗にしますので」

 

 

幾分か申し訳なさそうに、タオルを水で濡らし、こちらに近づけてくる。

 

 

優しく身体にへばりついた生ごみを拭うタオルを見つめ、我は当惑する。これ以上何のためにこの少女の手をここまで煩わせるというのだ。真意を探るようにアーシアの目を覗き込んでもそこには我を労わる色しか見えない。

 

 

これは善意なのか。我が器故にこの目曇り、この少女の行動の裏に潜んだ悪意を見抜けないだけではないのか。確かに一目見たとき、純粋に感じたこの少女の真心。しかし、ここまで甲斐甲斐しくもあると真実かどうか疑う余地も出てくる。自分に都合のいい幻想に身を委ねていられるのも、自分に害のない範囲のことであったから許容できたのだ。我の中にある、人間としての理想にまで踏み込んでくるような人格を持った少女ともなれば、それが偽りであったとき、大きく我の心を犯されることになる。それだけは看過しがたい。

 

 

それに…………偽りでなかったとして…………これを認めろと言うのか? この善意を認めなくてはいけないのか?

 

 

このような無垢な精神を持ち誠意をもって接してくれる少女が堕天使陣営にいることを認めろ、と? このような善意の塊の少女が堕天使陣営にいることを認めてしまったらそれこそ…………我の罪ではないか。

 

 

どちらにしたって、我が精神的にダメージを被ることには違いない。

 

 

一番安易に思いつくのは、やはりこの少女の善意が演技であった場合。あるいは命令されて嫌々やらされているか、どうにもそういう雰囲気は感じられないが。可能性として高いのはその二つだろうが、これ以上は。流石に善意でやってくれているかもしれない相手を心の中だとしても貶めるのは気を引けた。何よりそうすることが一番自分の心が傷つかずに済むとわかっていたからこそなおさらに。

 

 

「ひどい、本当にひどいです…………こんな、どうして」

 

 

縛られた鎖と肌の隙間まで丁寧に拭きながらアーシアはぶつぶつと早口で呟いている。本当に皮肉なほどに優しく、慈愛に満ちている。

 

 

だから、アーシアが次に口を開いたとき、何を話したのか気になった。力の無駄使いとわかりつつ、神器を行使した。もう一度ゆっくり話してくれ、と言って。

 

 

「あの…………私は、あなたが悪いことをしてここに捕えられているって聞きました。それって本当なんですか?」

 

 

アーシアの口から出たのは疑問だった。そんな疑問が口から出るってことは、アーシアは悪いことをしたかもしれない人間にここまでの誠意を尽くしたのか…………?

 

 

思い知らされる、アーシアの善意。まだ決まったわけではない、まだ決まったわけではないが…………真実であればそれはすなわち。

 

 

「悪いことか…………アーシアの想像している悪い事っていうのは例えばどんなことだ?」

 

 

「えっと、何かを盗んでしまったりとか、傷つけてしまったりとか、でしょうか?」

 

 

「仮にそうだとしても、堕天使が取り締まる理由にはならないと思うが」

 

 

「えっと、じゃあ、悪魔に何かをお願いをしちゃったり、とかですか?」

 

 

おっかなびっくり悪魔という単語を出して我の反応を窺ってくるアーシアに我はため息をついた。これが演技だったら、もうこの世に救いはないな、と考え、諦め。我はこの少女を認めた。

 

 

「悪魔に与するなどありえん。我は我(神)を信じているからな。故に堕天使に与することもありえん。いわば敵対関係にあるわけだ、貴様らと我は。そしてそんな目障りな我が神器を持っている…………我の価値はゴミ同然処分してもいいが、我の神器には価値がある。だからこうして捕えられているのだろうよ」

 

 

「そんな…………でも、やっぱり」

 

 

思い当たる節があるのか、アーシアは下を向く。堕天使の陣営にいるのにその自覚もないのか、奴らにとっては当然の行為であろうに。

 

 

一つだけ疑問がある。

 

 

何故アーシアが堕天使勢力に所属しているのか、その理由だ。我の至らなさが原因であることは疑いようもないが、細かな事情も知っておきたかった。認めようとはしてもまだ信じれきれない心にけじめをつけるための最後のテスト。確かめておきたかった。

 

 

「アーシア、何故お前はこんなところにいるのだ?」

 

 

聞いて、そしてアーシアを真っ直ぐに見つめること数秒。目はすぐさま機能した。過去の経歴まで見通してしまうこの目は残酷な真実を我に突きつけてくる。

 

 

その衝撃を押し殺して、唇をかんで。我は絞り出すように言う。

 

 

「話してくれ…………頼む」

 

 

我が尋常ではない様相で迫ったからだろう。聞き返すような野暮はせずアーシアはつまらないですよ? と前置きして話してくれた。

 

 

そして語られる彼女の生い立ち。

 

 

子供のころは教会兼孤児院で育ち信仰深く育った彼女は八つのころに治癒の力に目覚める。幼き頃より強力な治癒を使えたらしく、その力を見た周囲の者が「聖女」として担ぎ崇めたくらいであった。勘違いはそのときから始まったのだ。周囲の者たちはその力が信仰により神のシステムから授けられた加護による治癒の力だと思い込んだのだ。このとき神器によるものだと、誰かが気付いてやれたのなら結末は変わっただろうに。絶大な治癒の力は彼女の誰よりも深い信仰が神に認められたおかげだ、と思われたのだ。

 

 

もしかしたら。気づいた上で信仰の象徴として担いだのかもしれないが。

 

 

普通の治癒の力と神器・聖母の微笑の力。前者は当人の精神の信仰にもよるが、それを勘定に入れても後者の方が圧倒的に絶大であり、他の十人並みの治癒の力よりかはよほど聖女として担ぎやすくかつ、民衆にとってわかりやすい効果を示す。

 

 

理想は前者が信仰によって聖母の微笑ほどの治癒の力を得られることだが、早々容易くはない。早々容易くないから、妄執ともいえる神への傾倒を見せるから、聖女として立派だ、と教会は担ぎ上げられるのだ。

 

 

後者はただ単に絶大な治癒の力として存在してしまうために、信仰など関係ない。教会としても旨味がない。ならばそれを偽って前者の理想を追求すればどうか。これは少女の気高き信仰によって授けられたものだ、と。ばれなければわからない。我の存在の空白により求心力を失った教会としてはよい宣伝になるのではないだろうか。

 

 

第一アーシアは言った。力が発現した直後カトリック本部にまで連れて行かれた、と。そこの人間が神器の存在に気づかぬはずがなかろう、思い当たらぬはずはなかろう。

 

 

…………それが答えだ。

 

 

だから。その物語の破局は結果として訪れてしまった。聖女として人々を治癒する日々に訪れた転機。傷ついた悪魔を見かけ治癒してしまったのだ。

 

 

神の加護により授けられる治癒の力は同じ我の加護を持った人間にしか効かない。他者の勘違いが、教会の小細工が、露見してしまったのだ。

 

 

そしてアーシアは「魔女」の烙印を押されたという。そのままトカゲの尻尾切りだ。アーシアをかばう人間は誰もおらず、そのままアーシアは野に放り出された。誰も味方してくれなかったことが何より悲しい、とアーシアは涙ぐんだ。

 

 

後は流れるがまま。行き場を失ったアーシアを拾ったのは極東の堕天使の勢力。レイナーレの下であった。

 

 

なんだ、これは。なんだこれは、なんだこれは!

 

 

なんだ、その理不尽は!? 許されていいのか、それが!!

 

 

糞が! 教会の糞上層部どもが!! いやわかっている、我のそれはただの推測! 証拠も何もないただの想像。たまたま気づかないことも、そんな偶然が重なることもあるのかもしれない! しかし! しかし!! 

 

 

そんなことがまかり通っていいのか!!

 

 

わかっている!! もし仮にそれが教会の小細工であったとして我に責める資格など一切ない!! 我が! 神がいなかったのだ! そのくらいのことをしなければ、教会を運営できなかったのかもしれない。

 

 

それは優しい嘘だ。誰も損することはない、加護を求める信者たちの身体を治せるのも真実、少女に信仰があり、それを実践する理想的な聖女であったことも真実、そこに少し、みんなが幸せになるように嘘を混ぜ込んだだけ。

 

 

それが露見して一人の少女が不幸になっただけ。

 

 

我がいない間のことなど責められるはずもなく。残された少女の不幸はどこへ行くのか。

 

 

「これは主の試練なのです。私が鈍くさいから、こうやってきびしー試練を与えて直してくださろうしてくれているんです。だから私はへっちゃらです!」

 

 

その罪の在り処はどこにあるのか。

 

 

悪かったのは誰だったのか。

 

 

一生懸命聖女として励んできた少女か?

 

 

嘘を混ぜ込んだかもしれない教会の上層部か?

 

 

違う、断じて違う、皆ががんばった、皆が努力した。

 

 

 

 

 

 

悪かったのは、我一人だったのだ。

 

 

 

 

 

 

ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ

 

 

実感したよ! ああ今初めて実感した! 我が犯した絶対性というのはつまるところこれなのだ! 愛がない! 愛がない! 愛がない! 我がいなくなったことで全てが不調和の形を取り始めた!! 悲鳴を上げている! これが全てと思うなよ! 神! こんな悲劇が山ほど転がっているのが、今のセカイなのだ! だからこの程度で潰れてくれるなよ!! 俺!!! 

 

 

「だ、だいじょぶですよ、私は本当に…………グスッ。こ、この試練を超えたらきっといっぱいの幸せが待っているんです、主が、主が、そう導いてくれるはずです! これだけ、これだけがんばっているんですから」

 

 

その主は今ここにいる! 神はここにいるのだ! なのになのに、少女一人救う力がないのか!? このように健気に信じ続けているアーシアに手一つ差し伸べてやることができないのか!? なんだそれはなんだそれはなんだそれは!! いつまで寝転がり続けている!? いつまでくそ堕天使の鎖に絡まっている!! 今すべきことなぞ決まっているではないか!! 泣いている泣いているアーシアの涙をぬぐってやるのが、彼女が信じている我じゃなくていったい誰だと言うのだ!!!!!????

 

 

ギシギシ、と鎖が揺れる。我を縛る鎖の全てを壊さんと体中の力をこめて。

 

 

「わ、私、夢があるんですよ? と、友達作って、一緒にお話したりっ、お買い物したり…………小っちゃいですけど、この試練の先にはそんなことが待ってるとっ、思うんです」

 

 

「ああ、叶うさ、叶うよ! アーシアの願い!!」

 

 

神器! “全知全能”“の神器よ! このくらい叶えるのは簡単だろう!? こんなに健気に思ってくれているのだ! こんなに我がどうにかしたいと思っているのだ! 感情に応えろ! 神器よ!! せめて! せめて!! 今の我でも!! 彼女が望む我でなくとも!! 手ぐらいは差し伸べさせろ!! それが神の務めだろう!!??

 

 

「そうです、かね? 叶います、かね?」

 

 

神器が我の高鳴りに合わせて唸りはじめる。身体は治ってもエネルギーは湧いてこない。神器は我の願いを知って、本来は手を伸ばしてはいけないところにまで手を伸ばす。枷が外れる音がする。莫大な生命の息吹が全身に向け脈を打ち始める。

 

 

鎖に罅が割れる音がした。

 

 

魔方陣が描かれる床が軋む音がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ!! 叶う!! 必ず我が!!! かなえてみせる!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今、戒めの鎖が解かれる。

 

 

鎖の全てのことごとくがバラバラになり、雨のごとく降りしきる地面をたたく音の中、我はそっと、ぽかん、と口を開けているアーシアの頭に手を伸ばす。

 

 

そして。触れた。

 

 

掌に感じるかすかな温もり。涙でぬれた瞳を真っ直ぐ向けるアーシア。ずっとずっと神に祈り続けて報われる時を待っていたアーシア。

 

 

もうそのときはすぐそこまで来ている。

 

 

「報われるさ、報われる、お前の願いは必ず我が叶えよう」

 

 

アーシアの頭に乗せた手をゆっくりと撫でるように頬に添え、伝った涙を親指で拭う。

 

 

「本当…………ですか? 私のお友達になってくれるんですか…………?」

 

 

「ああ、アーシアは我の友だ」

 

 

「う…………じゃ、じゃあ一緒に話したり、お買いものしたり」

 

 

「もちろんだ、アーシアの望むことならなんでもやろう」

 

 

「うぅ、う、ぅ…………ホントのホントですか?」

 

 

「ホントだ」

 

 

なおも、今の言葉が信じられない、といった様子で確認をせがむアーシア。

 

 

…………心臓がこれ以上ないくらいに早鐘をうっている。全身に汗が噴き出してきた。身体の一部がごっそり抜けおちたかのように苦しい。

 

 

だがそんな辛さ、今はどうでもいい。

 

 

その億倍の辛さをアーシアは味わってきたのだ。このぐらい、どうということはない。

 

 

「それじゃ、それじゃ、えっと、あ、お名前まだ聞いてませんでした」

 

 

そうだ、どうということはないはずだ。我は神なのだ、アーシアの願いをかなえる神なのだ。何も問題はない何も問題はないないない。

 

 

…………………………………………………………

 

 

「名前、名前かぁ…………」

 

 

ああ、何て答えようか。我は神だしな、神とでも答えようか。でも彼女が望んでいる友達はそんなんじゃないだろう、神に願いがかなうことを求めても、神と友達になりたいわけではない矛盾、矛盾だな、これは、神ならもっとうまく願いを叶えてやれるのに非力だからなぁアーシアの神は、自分が友達になるぐらいでしか解決できないし、でもアーシアの神はもっと偉大だし、困った名乗るべき名前がない、ああほら名前ごときで躊躇ってるか「だめですか」って涙ぐんできちゃってるバカか我はまったく、名…………前、まえね、じゃあパッと思い、つ、いた名、でいいだろう、

 

 

「……ぉはま、だ」

 

 

「え、今何て!?」

 

 

ああ、そんな嬉々蘭々としちゃって、くだらない下劣な存在の名前が初めての友達でごめんなぁ、でもこれぐらいしかできぬしなぁ、少しは役に立てるなら…………

 

 

「元浜、だ、アーシア。お前の、友の、名前、元浜」

 

 

「元浜さんですね!? わかりました! 私はアーシアです!! お友達、よろしくお願いします!」

 

 

ぺこりと満面の笑みを浮かべて頭を下げるアーシア。

 

 

そこまで聞けてガクンと我は身体を折った。くそ、まだ話すこと、……も満足にできていないと、言うのに、このくだらない器は、全く…………

 

 

「え、元浜さん、大丈夫ですか!? 元浜さん!!」

 

 

「ん……ぁあ、ぃじょぶ…………少し休めなかったから眠くなって……きた、だけだ」

 

 

「…………あ、……すよ…………ゆ……」

 

 

意識が途切れそうになる。くそ、“全知全能”ならもう少し融通利かせろ…………

 

 

「…………っ………い…ぅ………!!」

 

 

ぁああ、でもよかった…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

笑顔だなぁ、アーシア。

 

 

 

 

 

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