ここに来てから三日目の朝だ。
俺はいまだに食料と水源の確保ができていなかった。
朝になると葉や、自分の身体に下りている露を飲んだが、一日に必要な水分量には到底足りなかった。
水分を摂らなくても生きていける期間の目安は三日、食料を摂らなくても生きていける期間の目安は三週間とされている。
今まで動き回ったことも計算にいれると、今日水源を確保できなければ十中八九死ぬ。
俺は、ふらつく身体をなんとか支えながら、水源を求め歩き出した。
もう何時間歩いているのだろう。
周りは完全に暗くなった。
疲労はとっくに限界を超え、足かも悲鳴をあげているが、それでも俺はあるくことをやめなかった。
そのとき、俺の身体に強い衝撃が走った。
全身で地面を感じ、俺は自分が転んだことを理解した。
なんとか立ち上がろうとするが、もう立ち上がる気力は残っていなかった。
俺は、朦朧とする意識の中、自分が過ごした日常を思い浮かべながら目を閉じた。
ーーパキィ
瞬間、意識は回復し、目を大きく見開く。俺の耳が何者かが木の枝を踏みつける音をとらえた。
音の正体を確かめるべく、俺は近くの木にしがみつきながら立ち、今も鳴り続ける音の方へと視線を移した。
音の正体は、動物ではなかった。
頭は豚であるが、だらしなく脂肪のついた人間の身体、丸太のような太い腕に、短い足をしており、皮の腰巻きとナイフが下げられたベルトを身に付けているのがわかる。西洋の物語に出てくるオークに似ている。
俺は自分の目を疑った。幻覚を見ているのではないか、と。今すぐこの場から逃げ出したいという衝動に駆られるが、そんな中、極限状態にまで陥った俺の頭にひとつの恐ろしい策が浮かんだ。
“
俺の中で恐怖と本能が葛藤する。しかし、迷っている時間はない。
俺は投石器を取り出すと、豚頭に気づかれないように重く、尖った石を集めた。
そして、投石器の中心部分で石を包んだあと、両端の紐を右手で掴み、ゆっくりと回し始めた。
遠心力が加わり回転に勢いが増してきたところで、豚頭に向けて放つ。
空気が弾ける音と共に、石は一直線に飛び、豚頭の右足に命中。
「プギギイイィィィィ!!」
豚に似た悲鳴をあげるが、気にせず次の石を打ち込む。
しかし、石は逸れ、豚頭に当たることはなかった。
今の射撃でこちらの場所に気づいたのか、右足を引きずりながら近づいてくる。
俺はその場から動かず、三発目の準備をした。心臓が騒がしく鼓動する。恐怖で胸が張り裂けそうになりながらも、限界まで引き付けたところで石を放った。
眉間に命中。豚頭は額から血を流しながら、仰向けに倒れた。
しばらくの間観察し、絶命したのを確認すると、俺は腰のナイフを奪い、豚頭の首を切り裂いた。その後、血がこぼれないように、すぐさま傷口に口を当て、血をのみ始めた。豚頭からは、鼻が曲がりそうなほど酷い悪臭がしたが、気にせず飲み続けた。
血独特の鉄分の味が口の中へ広がる。極度に渇いた喉が潤っていく。喉から食道へ血が流れ、じわじわと胃に広がっていく。俺はそんな感覚に酔いしれた。
ある程度喉が潤うと、手頃な長さの木の枝を二本集め、片方に石で窪みを作った。そして、窪みを作った木の枝の方を足で固定し、もう一本の枝で窪みにあてがうと、両手で枝を回転させ擦り付けた。いわゆるキリモミ式という火起こし方である。
一心不乱に木を擦り付けるが、中々煙が出る気配がない。手のひらマメができ、それが潰れ血だらけになる頃にようやく煙が出た。
急いで火種を落ち葉の上にのせ、息を吹き掛ける。
しばらくそうしていると、火がついた。木の枝をくべ火が消えないようにする。
火が安定してきたら、豚頭から肉を削ぎ、木の枝に刺して焼き始めた。
先程までは暗くてわからなかったが、豚頭の身体は真新しい傷が無数にあり、かなり出血していた。
俺は豚頭が弱っていたことに感謝をし、肉が焼けるのを待った。
肉の焼けた匂いがすると、勢いよくかじりついた。豚肉ににた味だが、口のなかに悪臭が広がって、お世辞にも美味しいとは言えなかった。だが、三日ぶりの食事に俺は無我夢中で貪った。
食事を終え、人心地つく頃には、周りは明るくなり始めた。
豚頭の残骸を見て、得体の知れないものを食べてしまった、もし石が外れていたらどうなっていただろうか、などの恐怖を感じるが、殺してしまったことへの罪悪感は不思議となかった。
俺は、木の枝で穴を堀り、そこに豚頭の残骸を埋め、手を合わせた。
その後地面を確認し、足跡をたどりながら、豚頭が来た方へと歩き出した。
ゴールデンウィーク中は毎日投稿したいと思っています。
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