「海未もう一度言ってもらえる?」
僕は海未が言ったことが理解できず、思わず聞き返した。
「ですから! 穂乃果が次のライブで穿くスカートをさらに短くすると言い出したんです!」
海未は言葉に力を込めて言った。
「……そんな事?」
「そんな事⁉ 葵それは本気で言っているんですか⁉ 私は毎日その事で頭がいっぱいで夜も眠れなくて……見てください! 目の下にクマまでできているんですよ! ほら、ここです!」
海未は僕の方に顔を近づけて、自分の目の下を指さした。そこを見ると海未の目の下には確かにクマがあった。
「本当だ! 海未、本気で悩んでいるんだね。そんな事なんて言ってごめん! 体調大丈夫?」
「心配してくれてありがとうございます。少し寝不足ではありますが問題ありません」
「なら、良かった。とりあえず一緒に穂乃果の所に行って二人で説得してみる?」
「それは難しいですね。この件にはほとんどのメンバーが賛成しているので穂乃果以外のメンバーも説得しなくてはいけないのでかなり厳しいと思います」
「そうなんだ。ちなみに他には誰がこのことに賛成しているの?」
「確か、ことり、花陽、凛、真姫、絵里、希、にこです」
「全員⁉ 海未しか反対してないんだ⁉」
「なので説得にも時間がかかりますし、もうライブの日も近いので恐らくは無理かと思います……」
「そうなのか。ならどうしようかな……」
僕も海未もしばらく一緒に考えてみてみるが、なかなかいい考えは出てこない。
窓の外を見ると灰色の雲がゆっくりと風に流されている。
すると、僕は突然ある考えが思いついた。
「そうだ! 僕、ちょっと行ってくるね」
僕は急いである場所に向かおうとした。
「突然どこへ行くんですか⁉」
「大丈夫! すぐに戻るから!」
僕は海未にそう告げると急いである場所に向かった。
そこに着くと僕はメモ用紙とこれから使う道具をポケットに突っ込んだ。
そして僕は準備が終わったので、急いで海未の待っている教室に戻った。
「お、お待たせ……」
「どこに行っていたんですか? それにまたそんなに汗をかいて大丈夫ですか?」
海未が僕を心配して持っていたハンカチで僕の額の汗を拭いた。ハンカチから柑橘系のいい匂いがする。
「大丈夫だよ。それよりもスカートの件を解決できるいい考えが思いついたよ」
「それは本当ですか⁉ どんな方法です?」
「海未の恥ずかしがり屋を克服することだよ!」
「……」
海未は失望したような目で僕を見る。
「葵にはがっかりです! それができれば苦労はしません」
「そう決めつけるのはまだ早いよ。僕にはあるとっておきの方法があるから」
「まあ、葵がそこまで言うなら聞いてあげます」
「ありがとう。その方法とはポッキーゲームだよ!」
僕がそう言うとしばらく沈黙が続いた。
「ポッキーゲームですか? ポッキーというのはあのチョコのお菓子の事ですよね?」
「そう! それを使ったゲームだよ。ではルールを説明します!」
「いきなりですね⁉ お、お願いします」
「まず適当な長さのポッキーを一本用意します」
「はい」
「そしてポッキーの両端をそれぞれが口でくわえます」
「なるほど」
「くわえたら二人がお互いにポッキーを食べ進めて先に口を離した方が負け。簡単でしょ?」
「簡単じゃありません! 破廉恥です! 誤ってキ、キ、キスをしてしまったらどうするんですか! そんな破廉恥なゲームがあるなんて……しかもそれをここで、教室でやるななんて非常識です!」
海未は想像だけで限界のようだった。海未の目が恥ずかしさに耐えきれず少し潤んでいた。
「海未、落ち着いて! これができればもうスカートなんて怖くないから!」
「無理です! そんな事をするぐらいならまだスカートを穿いた方がましです!」
海未は頑なにやろうとしない。でもスカートはどうやら穿けるようになったみたいだ。そのことは嬉しいが今の僕は純粋に海未とポッキーゲームがしたい。
「海未やってください。お願いします!」
「嫌です! 絶対やりません!」
「一回だけでいいから!」
僕は頭を下げて、海未にお願いをした。これでもダメなら土下座しかない。そう思っていたら、
「……一回だけですよ?」
海未はしぶしぶ了承してくれた。
「本当に⁉ 海未、本当にいいの⁉」
「しつこいです! そんなに言うとやりませんよ!」
「ごめん、じゃあやりましょうか……」
僕はまずポケットからポッキーが入った袋を取りだした。そして袋を開けようと手に力を込めようとしたら上手く力が入らない。自分からやろうとか言っておいて僕は緊張しているみたいだ。
僕は深呼吸をして落ち着こうとする。それとは反対に心臓の鼓動がどんどん速くなる。
ようやく僕は落ち着いてきて、袋を開けてポッキーを一本取り出した。
「思っていたより短いですね……」
海未はポッキーを見て頬が少し赤くなる。
「……」
僕は無言のまま真剣な顔でポッキーの片方の先端を海未に向けた。
「何か喋ってください!」
「いや、僕もなんか緊張しちゃって。う、海未はポッキーのどちら側にする?」
「ではビスケットの方でお願いします……」
海未がそう言ったので、僕はチョコが塗られていないビスケットの方を海未に向ける。
「じゃあいくよ……」
「はい……」
僕はポッキーを持ちながら、くわえようと口を開けたときに海未の方を見ると固まってポッキーをくわえる様子が全くなかった。
「海未、ポッキーをくわえないとポッキーゲームはできないんだよ?」
「そんなことはわかっています! ですが言い出したのは葵なんですし先にくわえてください!」
「わかった。はふ、これでいい?」
僕は海未に言われた通り先にポッキーをくわえた。
「では私も……」
海未はポッキーをくわえようとするときに髪を手でかきあげた。その仕草に思わずドキッとする。僕は慌てて視線を戻して、目を閉じた。
目を閉じているとくわえていたポッキーに振動があった。
僕はポッキーゲームを始めようとして目を開けると、そこには女の子が好きな男の子にしか見せないキス顔をした海未がいた。
「それは反則!」
僕はその可愛らしい表情に思わず歯に力を込めてしまった。ポッキーが音をたてて二つに折れた。
「どうしたんですか⁉」
海未は勝負も始まっていないのにいきなりポッキーを折って倒れた僕に驚いた。
「ごめん、僕はもう戦えない……」
あんな顔を見てしまったら、僕はもう戦う事なんてできない。僕は今なら死んでも悔いはない。
「よくわからないですが――葵がそう言うならしょうがないですね! 本当に残念です」
海未は残念と言っているが、顔はとても嬉しそうだ。あれだけ恥ずかしがっていたポッキーゲームをやらずに済んで安心しているみたいだ。
でも海未は僕にキス顔を見られたことを知らない。