Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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第二十ニ話: 雪崩

 俺とズィーガーの間に割り込む様な形で、一人の男性が乱入。

 言い方を変えれば、俺を守ってくれたとも言える。

 

「俺の月影葬送牙を…!?」

「…他人が食事をしている最中にちょっかいを出しちゃ駄目だって、母親から聞かなかったのか?」

「てめぇ…!」

「ズィーガー!一度下がりなさい!!」

 

 だが、その男性の姿は俺の脳内を更に混乱させた。

 

 ズィーガーは女性の意思に背き、その男性に対して更に追撃を仕掛ける。

 空いているもう片方の爪を、自身の月影葬送牙を受け止めている男の腕へと降り翳す。

 しかし男は、又もや片手ズィーガーの攻撃を受け止め。

 

「あぁ、そうか…母親なんて居ないもんな!」

 

 両手を使ってズィーガーの体を吹き飛ばした。

 

 一体どうやってそんな芸当をしたのか、俺には分からない。

 吹き飛ばされたズィーガーは空中で体勢を整え、此方の出方を伺い始めた。

 後ろにいる女性に止められたのが効いているのだろう。

 歯止め用としては凄い機能だな。

 

 そんな事を考えていると、前にいる男性が此方へと振り向いた。

 その男の全体を一見した瞬間、俺の中の疑惑は晴らされた。

 

 日本人典型的な、黒くそこまで長くない髪の毛。

 頭には少し赤く、暗い色をしたバンダナを付けている。

 服はなんと、レストランで働いていそうな感じがそこはかとなく滲み出ている。

 上半身の衣服は白いワイシャツに、その上から落ち着いた深緑色のベスト、ネクタイ。

 下には黒いズボンを履き、黒いギャルソンエプロンという、全体的に黒で統一された衣服を身につけている。

 更には眼鏡を掛けており、見た目は完全に硬派なレストランの職員。

 

 だが俺は知っている。

 この男に硬派という言葉が似合わない事を。

 

「ん?あぁ、そこの君、大丈夫――」

「へっきー?」

「…その呼び方、お前は。」

 

 そう、へっきー。

 それが彼の綽名であり、愛称でもある。

 因みに本名は「森山 碧(もりやま へき)」。

 

 俺の前世での、親友だ。

 

「大祐か…?」

「うん、正解だよ。」

「やっぱり大祐なのか!?何でお前が此処に!?」

 

 森山碧は俺の量肩を掴み、ぐらぐらと揺らし始めた。

 その際に「ぴちゃっ」と音が鳴る。

 それは何故か。

 俺の体の左半分がズィーガーに引き裂かれたからだ。

 

 森山碧の触れた箇所は、丁度深い傷を負った跡だった。

 しかし、森山碧はそんな事をお構い無しに俺の体を揺らし続ける。

 

「マジか!こんな所で親友と再会なんてびっくりもんだぜ!」

「へっきー…痛い。」

「いやー、本当にびっくりびっくり。嬉しさと驚愕で訳が分からんわ、はははっ!」

「へっきー…痛いって。」

「おうおう、大祐も嬉しいってか?俺はお前が思ってる以上に――うぉっ、何だこの傷!」

「…痛いって。」

「大祐?」

「言ってるだろうがぁ!」

「ぶべしっ」

 

 言っても言っても聞いてないへっきーに俺は腹を立たせ、下顎に思いっきりパンチをいれる。

 すると森山碧の体は勢い良く空へと打ち上がった。

 

 深い傷を負った後直ぐに大声、激しい運動をしたせいで、俺は息を切らしながらその場に座り込む。

 そのまま少し休もうとした直後――

 

「先ずはテメェからだ!」

 

 隙を見つけたズィーガーが、俺の目の前に現れる。

 おいおい、冗談だろ?

 今の俺はどんな攻撃も躱せないんだぜ。

 そんなに高く腕を振り上げなくとも良いと思うんだよ。

 少なくとも、ぼかぁ(僕は)そう思うね。

 これで死んだら全部へっきーのせいにしてやる。

 あの世で一生恨んでやる。

 覚悟しておけよ。

 

 そんな事を想っている内に、ズィーガーの爪は直ぐそこまで近付いていた。

 俺は親友のせいで死の体験を――

 

「おい!人の親友に手出しは許さねぇぞ、王冠野郎!!」

「またテメェかよ!いい加減邪魔臭いんだよぉぉ!」

「人のディナータイムを邪魔した奴が言う事かよ!その分の代償として…お前をデザートタイムとして食す!」

「あの男…ズィーガーを食べるつもりなのかしら?」

 

 あの女性が言ってる食べるって、食べる(物理)だよな。

 しかも、へっきーの言う通り相手の猫さんは王冠を付けている。

 

 全く気が付かなかった。

 

 それに、幾ら大食漢のへっきーでも獣を食う趣味は。

 

「猫だか豹だか分からんが、ん〜…どうすれば美味しくなるなるかねぇ。」

「う゛ぇっ…!?」

 

 食うの!?

 今、聞いちゃいけない言葉を耳にした気がするんだけど!

 ほら、ズィーガーだって震えてるよ!

 きっとへっきーに食されるのが怖くて――

 

「俺様は猫じゃねぇ!黒豹だ!」

 

 ですよねー。

 怒りの意味で震えてるんですよね。

 

「えっ?酷評?寂しい奴だこと。」

「テッメェ…!どんだけ俺様を馬鹿にすれば…!」

 

 ズィーガーがぶちギレ寸前なんですが、それは。

 というか、へっきーの喧嘩の売り方が相変わらずだ。

 誰に対しても、どんな相手でも関係無く吹っ掛けに行くからなぁ。

 

…にしても、そろそろ俺もまずいかな。

 何時も通りの大量出血でお亡くなりになりそう。

 いや、まだ死なないけど。

 死にたくないけど。

 

「…っと、黒猫ヤマトと戦う前に。」

「あぁ!?」

「大祐君や、自衛を頼めますかな。」

「現在進行形で死にかけてる人に無茶ぶりを……サバーニャ!」

 

 俺は破損の激しいウイングゼロをサバーニャに換装。

 直ぐ様シールドビットを展開する。

 

「おぉ!サバーニャじゃん。良いなぁ、羨ましいなぁ、ってか大祐ってバトルドレス――」

「へっきー、出来れば早く。」

「ったくもー、しょうがねぇな。直ぐに終わるからさ。」

 

 そう言いながら森山碧は、再度俺の傷を負った箇所に触れる。

 痛みに、一瞬ピクッと体が反応するが、何とか我慢する。

 

 場外ではズィーガーが猛攻を仕掛けていた。

 しかし、それは全てシールドビットが防いでくれている。

 

 ずっと後ろで指示を出している女性は、興の冷めた表情で此方を見続けていた。

 俺は逆に、その女性へと視線を向ける。

 すると、ふっと目を逸らされた。

 

 絶対嫌われてるでしょ、俺。

…ん?相手は俺を殺しに来ているんだから、それ以前の問題か。

 

「…大祐、あの可愛い娘を凝視するのも良いが、ちょっと此方に集中してくれ。」

「別に凝視してない。そう言うへっきーこそあの女性の事、気にかけてるでしょ。」

「あ、バレてた?」

 

 はぁ…。

 俺の知っている前世の森山碧と、何等変わらないよ。

 という事は、やっぱり本当にへっきーなんだな。

 へっきーはどうやってこの世界に転移して来たのだろうか。

 何があってこの世界に…。

 まさか事故って異世界転移を果たして――

 へっきーに限ってそんな事ある筈…無い訳が無いんだよな。

 良く事故るへっきーだからこそ、それが有り得る。

 悲しみを背負い過ぎた彼だから。

 

「…ところで、へっきーは一体何を――」

「うしっ!これで完璧!」

 

 森山碧はガッツポーズを取り、ニコッと笑顔を見せた。

 だが俺には、何をそんなに笑顔を見せるのか良く分からなかった。

 勝手に一人で舞い上がっているものだと思い、俺は視線を左に向ける。

 すると、一つ気が付く事があった。

 俺の体の左半分が元通りに回復している。

 ズィーガーに負わされた深い傷が一瞬で。

 

 俺は訳が分からないまま、森山碧へと視線を変える。

 しかし、森山碧は平然としていた。

 至って普通に、それが当たり前と言うかの如く。

 その態度の意味に動揺する俺に対し、森山碧は説明をくれる。

 

「今、大祐の怪我を俺が「食べて」傷を治した。詳しい事は後で説明するけど、一時的な物だと思ってくれれば。…だから、動ける時間に制限が掛かる。」

「…食べて治すなんて、へっきーらしいね。後でしっかりと原理を説明してよ。今は取り敢えず、この場を切り抜ける為に頑張るからさ。」

「流石だな。んじゃ、久し振りに二人チームを組みますか。」

「あのゲーセンでの事件みたいにならない事を願うよ。」

 

 久し振りにパーティーでも組んで共闘しよう。

 そんな会話を二人で話していると、ズィーガーが声を張り上げた。

 

「ごちゃごちゃ煩いんだよぉぉ!」

 

 そう言いながら、ズィーガーは展開中のシールドビットを全て破壊した。

 兎に角暴れまわるその姿は正に…正に……。

 

 飛んでいる虫を叩き落とそうとする黒猫だ。

(黒猫→ズィーガー・虫→シールドビット)

 うむ、凄まじい位に猫だ。

 

「へっきー、援護を頼む!」

「OK!任せとけ!」

 

 俺はへっきーに後ろを任せ、サバーニャからエクシアへと換装。

 前方へとブースター吹かしながら、ズィーガーの懐へと飛び込む。

 だが、ズィーガーの反応速度は並のそれとは比較にならない位に素早かった。

 俺がゼロ距離に近付いたのを確認した後、横にステップを踏みつつ爪を駆使して攻撃を仕掛けてくる。

 

 しかしながら、此方とて特殊能力を使えば反応出来る。

 

 『情報演算処理能力』で先読みをしていた俺は、GNビームダガーを二本投げ付ける。

 ズィーガーはそこから更に、横へとステップを踏む。

 

 尋常じゃない程の見切りスピードだ。

 

 が、そこは残念ながら。

 

「デッドゾーンだ。」

「呼ばれて無いのに颯爽登場!」

「何だとっ…!?」

 

 俺が誘導しつつ、へっきーが隙を見つけて攻撃。

 二人パーティーの、典型的且つ無難な戦闘スタイルだ。

 

 森山碧は自身の右腕を前に突き出し、ズィーガーの核を目掛けて波動砲的な何かを放つ。

 

 至近距離からの攻撃に対処仕切れないズィーガーは、波動砲を正面に喰らった。

 その威力は中々の性能で、ズィーガーの大きな体は軽々と吹き飛ぶ。

 

「ぐぅっ…!」

「ズィーガー、撤退するわよ!このままじゃ――」

「冗談じゃねぇ…。綾瀬!早くリソースを寄越せよ!」

「…!」

 

 苦痛の音を上げながらも吹き飛ばされた体を立て直すズィーガー。

 そして初めて明かされた女性の名前。

 「綾瀬」という名の女性は、渋々とリソースを流し込む。

 

…今更ながら、あの手に持っているカードみたいなのは何なんだ?

 さっきから気に掛かって仕方がない。

 あー…こういうのも、前世の記憶がしっかり残っていればな、ちくしょう。

 

 なんて、そんな事を考えても意味は無い。

 こうなってしまったのだから。

 今は兎に角、禍々しいオーラを放つ黒猫を何とかしなければ。

 

「これで纏めて潰してやる…!俺様を侮辱した事を後悔しろ!」

 

 唯単にデカイ声を出しているだけ。

 そうやって自分自身に言い聞かせ、少しの恐怖を打ち砕く。

 だが、打ち砕かれたのは俺の隣にいる男だった。

 

 何故か直ぐ横から、赤い飛沫が飛び散る。

 

「がっ…!」

「…へっきー?」

「先ずは一人ィ!」

 

 ズィーガーはその飛沫を、返り血を浴びながら高らかに声を上げる。

 それに対して俺は、状況把握が間に合っていなかった。

 

 ズィーガーの巨大な爪が、森山碧の腹部を貫いている。

 分かった事はこれだけだ。

 

 しかし、俺はその光景を唯見つめるだけ。

 どうすれば良いか分からなくて。

 ズィーガーの爪が森山碧の腹部から抜き取られた瞬間に、思考がやっと追い付いた。

 

「クソがっ…!」

「今のを耐える…が、これで最後だなぁぁぁ!!」

 

 俺は追い付いた思考で必死に考える。

 

 何故ズィーガーが此処にいるのか。

 一体、どうやって此処まで来たのか。

 そんなスピードを何処に隠していたのか。

 

 考えても考えても、出てくる答えは一つだけだ。

 綾瀬とかいう女性がリソースを送ったから。

 

 じゃあ、どうやって送り付けたのか。

 恐らく、あのカードみたいな物体を通して行っているのだろう。

 その点を、しっかりあづみさんとリゲルさんに聞いておけば良かった。

 圧倒的後悔だ。

 

――って、今はそんなのどうでも良い。

 瀕死のへっきーに止めを刺そうとしているズィーガーを、何とか止めなければ。

 手段を選ぶ必要など無い。

 

 行動に移してしまえば問題など消え去る。

 

「俺様を侮辱した罪を、今此処で償って貰うぞ!」

 

 ズィーガーの狂気で満たされた大爪が、森山碧へと襲い掛かる瞬間。

 

「…させるかあぁぁ!」

 

 俺は右腕に装備されているGNソードを使い、ズィーガーの大爪を受け止める。

 

 だが、ズィーガーの圧倒的なる力を目の前に、GNソードは粉砕。

 ズィーガーの大爪は俺へと振り翳される。

…又、俺の体は切り裂かれるのか?

 けど、これを回避してしまえばへっきーの命は確実に昇天。

 自分を守りつつ、へっきーをこの場から離脱させるなんて方法は。

 

…一つしか無い。

 

 ズィーガーに勝るスピードを生み出せれば、話は簡単だ。

 しかし、そんな簡単に出せる方法など有りはしない。

 例え『TRANS-AM』を発動させたとしても、間に合わない。

 選択は二つに一つ。

 自分を生かして味方を殺すか、将又味方を生かして自分を殺すか。

 

 だが、欲張りな俺にとっては両方という選択しか無かった。

 

…ただ、スピードを出せば良いだけなのだから。

 

「纏めて死ねぇぇ!!」

 

 周囲に響き渡る位に大きな声を出したズィーガーは、全力で俺達二人を引き裂きにくる。

 

…今しかない!

 

「バトルドレスの力は…!」

 

[限界経験値を突破。エクシア専用特殊ユニット『アヴァランチ』を解放します。]

 

「加速しろ!誰よりも速く!!」

 

 俺は『TRANS-AM』とアヴァランチユニットの特殊能力、[ブースター限界解放]を重ね掛けに使用。

 異様な速さでズィーガーの攻撃を回避、森山碧を連れてその場から離脱する。

 相手との距離を十分に取り、安全な場所に森山碧の体を地面に横にさせる。

 その後直ぐにズィーガーとの戦闘場所へ戻り、GNソードを構えながら懐に飛び込む。

 そのまま背中に装備されているGNソードで一気に切り込む。

 

…それは一瞬の出来事だった。

 自分でも信じられない位の速さで事を済ませてしまった。

 

「またその手を使うとは、学ぶ事も出来ないのか!」

 

 それでも、このスピードを駆使しても、ズィーガーは俊敏にステップを踏みながら俺のGNソードを回避。

 直ぐ様カウンターを仕掛けに来る。

 

 だが、ズィーガーの爪は空を切り裂いた。

 最早其処には、俺という存在は居なくなっていた。

 

「あ?彼奴は何処に――」

「一瞬の雪崩の如く…!」

 

 居なくなった俺の存在を探すズィーガーの背後を、相手が気付けない程の速さで回り込む。

 

「テメェ、何時から其処に…!?」

 

 ズィーガーは驚きの音を上げる。

 隙だらけの背中を隠そうと体を一回転させながら後ろに下がろうとするが。

 

 俺はその多大なる隙を見逃さなかった。

 

 GNソードでズィーガーの胴体を切り抜け、直ぐにGNソードを仕舞う。

 再度、一瞬でゼロ距離まで近付き、両肩のGNサーベルで乱舞。

 右手のビームサーベルで一回、左手のビームサーベルで一回と、何回も何回も切り刻む。

 

「これが…アヴァランチエクシア!」

「ぐっ…!?」

 

 その後直ぐにGNソードに持ち換え。

 ズィーガーの腹部に突き刺す。

 ビシャビシャッと飛び散る返り血を浴びながら、刺したGNソードを抜く。

 

 折角刺したGNソードを何故抜いたのか。

 それの理由はしっかりとある。

 

「テメェだけはぜってぇに殺してやる!」

 

 そう言うとズィーガーは、右の爪を使って俺の体を引き裂きに掛かる。

 それを『情報演算処理能力』で先読みし、バックステップで回避をする為にGNソードを抜いたという訳だ。

 あのまま刺したままでも良かったが、それではこの後の行動に響いてしまう。

 それを避ける為でもあった。

 

 俺は先読みをした通り、バックステップを踏む。

 その際にGNビームダガー二本、GNビームサーベル二本をズィーガーに投擲。

 最初のGNビームダガーを動物の本能で危機察知したのか、ズィーガーも後ろへとバックする。

 しかし、GNビームダガーに隠れて投擲したGNビームサーベルを見切れなかったのか、二本とも首元にぐっさりと突き刺さる。

 

 ズィーガーにとってはそれが大きい影響となり、瞬間でも体のぐらつきを目の前で晒した。

 

 止めを刺すならここしかない。

 そう思った俺は、GNソードを構えながら体を縦に一回転させる。

 その勢いを失わない内に、ズィーガーに攻撃を仕掛ける。

 

「俺が…人間だ!」

 

 思いっきり振り下ろしたGNソードはズィーガーの王冠ごと切り裂き、顔面に斜めの切り傷を負わせる。

 傷口からは大量の血が吹き出した。

 

「グガアアァァァ!!」

 

 ズィーガーは痛々しい位に声を上げ、地上で四つん這いの姿勢をふらつかせる。

 

 まだ…墜ちないのか。

 

 そう感じた俺は、更に追撃を仕掛けようとズィーガーに近付く。

 その光景を見兼ねた綾瀬という女性は、持っているカードらしき物体に何かを言い付けようとしていた。

 

「綾瀬さん、無闇な行動は命を落としますよ。」

「…!」

 

 この「綾瀬」という名前が本当かどうかは分からないが、注意を促す。

 足を止めて、GNライフルを向けながら。

 

 すると女性は、放とうとした言葉を言い淀ませた。

 俺はそれを確かめ、再びズィーガーに近付く。

 今回三度目のゼロ距離だ。

 ズィーガーの目からは殺気が放たれつつも、諦めという感情が見て取れた。

 死に掛けているズィーガーに何の感情も湧かない俺は、高くGNソードを振り翳し、振り下ろそうとした。

 

 その瞬間――

 

「がっ…!?」

 

 ドクン。

 そんな感じの音が体の全体に響き渡った。

 

「ごはっ…!」

 

 そして吐血した。

 体の左半分に激痛が走る。

 行き成り視界が狭まる。

 体の自由が効かなくなり、ふらつきが生じる。

 思わずその場に膝を付かせてしまった。

 

「何だこれ―――まさか…!」

 

 何故こうなってしまったのか。

 原因の一つが頭に思い浮かんだ瞬間、『TRANS-AM』と[ブースター限界解放]が同時に解除されてしまった。

 

 タイミングが合っているのか無いのか。

 

 最悪のタイミングとしては合っている。

 恐らく、森山碧の[一時的な治癒]の効果が切れてしまったのだろう。

 それに重なり、二つの特殊能力も限界時間を迎えた。

 

「何で今なんだよ…!」

 

 痛みに屈する俺の事を見つめていたズィーガーは、待ちわびていたと言わんばかりに体を起こした。

 何の音を立てずに、静かに。

 確実に獲物を仕留めるかの如く。

 

 実際、虚ろ虚ろとする視界の中で、ズィーガーも立ち上がるのに必死になっていた。

 相手も、この一撃を逃せば自分が終わると思っているのだろう。

 ミスれば二度と行動出来ない、俺を逃す事になると。

 

「…テメェ…俺様をここまで追い込むなんて…やるじゃねぇか。」

「はぁっ…はぁっ…」

「…が、それもこれで終わりだ。」

 

 ズィーガーが徐々に片方の腕を上げる。

 相手のそれは、震えながらも正確に、獲物を仕留めようとする意志が見えた。

 

「さよならだ。」

 

 そして振り下ろされた。

…まさか逆の立場を味わう事になるとは。

 今回は俺一人じゃどうにも出来ない――

 

「…さよならするのは、あ・な・た♪」

 

 絶望という感情が俺を支配しようとした時、目の前から聞き覚えのある女性の声が頭に響く。

 ギリギリ保っている意識をそちらに集中させ、誰なのかを確かめる。

 

 其処には案の定、俺のパートナーZ/X「ルクスリア」さんが立っていた。

 何だか久し振りに声を聞いた感じだ。

 俺の頭の中は、ルクスリアさんの声で支配…されなかった。

 直ぐに「グシャッ」という擬音で一杯になった。

 

「何…だと…!?」

「ズィーガー!デバイスに戻りなさい!!」

 

 どうやら、ズィーガーの何処かの部位を、ルクスリアさんが貫いたらしい。

 彼女の手から腕にかけて、血がべっとりと付いていた。

 

 予想外の展開に、綾瀬という女性は焦りながら何かを言い放つ。

 すると、ズィーガーの姿が一瞬にして消え去った。

 

…どういう事だ?

 

「貴女、私の可愛い大祐くんになんて事をしてくれたの?」

「………」

 

 ルクスリアさんの質問に、相手の女性は無言で立ち去ろうとした。

 

――ってか今、聞き捨てならない言葉を耳にしたような気がしたが。

 

 「私の可愛い大祐くん」って何だよ。

 俺はルクスリアさんの物で無ければ、可愛くもないぞ。

 

「待ちなさい。大祐くんをここまでにした代償、払って貰うわよ。」

 

…ルクスリアさんはどれだけ俺を想ってくれているんだ。

 俺をここまでにした代償を払えって、凄い理由で足止めしてるよ。

 

 ほら、相手の女性は無言のまま歩き続けて…。

 

「あの女、このまま逃げる気…?だとしたら許さないわよ。」

「――それじゃ、俺に任せて下さいよ。」

「貴方は?」

 

 ふと、ルクスリアさんに話し掛ける男性の声。

 その声は一瞬で消え、遠い場所から聞こえてきた。

 

‐‐

 

『…逃がすと思ったか?』

『なっ…!?離しなさい!』

『嫌だね。俺の親友に深い傷(物理)を負わせた理由を――』

『きゃあっ!?』

 

‐‐

 

「大祐くん、大丈夫?」

「…ルクスリアさんって、治癒能力も使えるんですね。」

「これも大祐くんの能力の御蔭。本来ならリソースの消費が激しいのだけれど。…そう言えば、彼処で女の子に叩かれてる男の子は?」

「アレは男の子って年齢じゃありませんよ。因みに、僕の親友です。」

「大祐くんの?…ん〜…アレをブサメンって言うのかしら?」

 

‐‐

 

『おい誰だ!俺をブサメンつったのは!有り難う!!』

『それよりもこの手を離しなさい!貴方の手…私のむっ、胸に当たってるのよ!』

『ぐへへー、狙ってやってるからさ。』

『最っ低!』

 

‐‐

 

「あっ、また叩かれてるわ。」

「…というか、ルクスリアさんがアレの事も回復してくれたんですか?」

 

 親友をアレアレというのも悪いが、ごめん、表現し易いんだ。許してね。

 

…って、何で俺はルクスリアさんに抱き付かれているんだ。

 べっとり付いていた血も何処へと消え去り。

 丁度良くルクスリアさんの胸が顔に当たって――

 

 やはり精神衛生上宜しくない。

 とか思いつつ、俺って実は地味にルクスリアさんに癒されて…。

 

 無いよ。

 

 ここで折れたら負けな気がする。

 けど、ルクスリアさん優しいしな。

 こうやって男性を魅了しているんだろうな。

 

 まさかへっきーの傷も治してくれるなんて。

 

「えっ?私は何もしてないわよ。」

「…んっと?」

 

 今、ルクスリアさんが冗談を言った様な?

 だって、貴女が回復させてくれなければへっきーはどうやって…。

 

‐‐‐

 




森山碧とルクスリアさんの謎アタック。
詳細は直ぐ明らかに。
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