Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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第三十五話: 居場所

 

「さぁ、貴方の知っている情報を。」

 

 ヴェスパローゼさんとの対談は、この一言から始まった。

 相手方の教えてくれた情報を振り返ると、俺は赤の世界から指名手配、青の世界からも追われてる身だそうだ。

 内容自体は薄くも感じられるが、二つの世界から狙われるというのは中々に厳しい。

 青の世界には、この世界に転移という物語序盤から狙われていたので言わずもがな。

 それに加えて赤の世界。

 もし、二つの世界が協同をしてしまう事があれば、何処にも逃げ道は無い。

 二人を守りながら戦い、無尽蔵に湧いてくる敵を倒しても。

 幾ら俺がリソースを無限に持っていたとしても、圧倒的な数と圧倒的な力で負けてしまうだろう。

 

 勝つ為に、守る為にも、仲間を増やしていく事が必要だ。

 へっきーは呼べば飛んでくるだろうし、ルクスリアさんも頼めば請け負ってくれそう。

 更に目の前で対談しているヴェスパローゼさん、俺の膝の上に乗っているきさらちゃんコンビを引き入れれば安定感はぐっと増す。

 

 それでも戦力は足りないが、これからどんどん色んな人、Z/Xに味方になって貰えば良い事。

 まだ行っていない白の世界という選択肢も残っている。

 時間はまだ…ある筈だ。

 

 欲を言ってしまえば黒布を味方にしたいが…先ずもって無理な話だろう。

 彼奴が仲間になってくれれば、最大戦力にもなりうる。

 やはり強い味方を後ろに付ける事が重要だ。

 普通に黒猫金髪女性コンビも味方にしたい。

 

 あとは先程、話そびれたが相馬さんにも頼んでみよう。

 ルクスリアさん経由から話を通せばワンチャンスある。

 他のZ/Xが絡んでいる人達を仲間に入れるのが一番安定するが…。

 

 まぁ、それは三人とゆっくり話し合ってからだ。

 あづみさんやリゲルさん、A-Zちゃんも何か考えてるかもしれないし。

 

…さて、本題に戻るが。

 俺がヴェスパローゼさんに教える情報。

 それほど重要な情報は持ち得ていないが、些細な事でも未来は変わる。

 この大事な場面で何を話すかによって、今後の俺達に関わってくる。

 

 何としてもヴェスパローゼさん&きさらちゃんコンビを味方にする為、情報を伝えた後の交渉も考えておかねば。

 

「でも、俺からヴェスパローゼさんに教えれる情報は一つだけです。」

「…それはどうして?」

「理由は一つ。俺も、ヴェスパローゼさんから一つしか教えて貰ってませんので。」

「なるほど。私が多くを教えれば、貴方もその分教えてくれると?」

「はい。…ですが、問題はその内容です。交換話が一つと言えど、内容が伝わった本人にとって何れ程大事か。それによって教える情報も変わってきます。…俺は先の話で、自分にとって大きな事を聞きました。だから俺も、ヴェスパローゼさんは「ヴェスパローゼさん自身に大事な話」をさせて頂きますね。」

「…了承したわ。貴方、あの二人?三人?の事しか頭にないのだと思ってたけれど。」

「ヴェスパローゼさんの言う通りです。三人を守りたいからこそ、何をして、何をすれば良いのかを考えているので。強ち…というか完全に合ってますね。」

 

 好きな人がいるから、大切な人がいるから、その人を守る為に自分が動くんだ。

 俺だけでも…あづみさんとリゲルさんを守るんだ。

 A-Zちゃんに関しては後々、あの人と交渉すれば彼女の身は安泰だろう。

 問題は、誰にも守ってもらえない周りが敵だらけの二人。

 あづみさんとリゲルさんの安泰だ。

 それを何としても、俺が掴む。

 

 例えこの身が滅ぼうと。

 

「………」

「どうしたの?……って、聞くまでもないわね。あの三人の事で頭が一杯なのは変わりないようだし。」

「すみません…どうしても頭から離れなくて。話を戻しましょう。」

「別に、無理しなくても良いのよ?あの情報は大祐、貴方を味方にしたかった為だけに持ってきた物だから。」

「…ヴェスパローゼさんは、優しいですね。」

「そうでもないわよ。」

 

 ヴェスパローゼさんの言葉を最後に、少しの沈黙が流れる。

…だが、ここで甘えてはいけない。

 しっかりと自分を制し、頭から一度三人の事を消さなければ。

 話にならないと言われてしまえば、そこで終わりなのだから。

 相手にとって利益のある話を持ち掛けなければ。

 選択肢は…まだ残っている。

 充分過ぎる程に。

 

「それでは……。ヴェスパローゼさん、俺が何で赤の世界に追われてるか分かりますか?」

「んー…どう考えても反乱因子と捉えられたとしか。」

 

 流石ヴェスパローゼさん。

 一瞬で気付く辺りが。

 テンプレなのかもしれないけど。

 

「そうです。俺は赤の世界で存分に暴れて、結果こうなりました。青の世界の事はまだ明かせませんが…これが赤の世界から追われてる理由です。」

「…それで、私に何が関係するの?」

「その時にちょいと気になる事がありましてね。…俺の大切な人の一人、金髪で美しい女性なんですが。」

「あぁ、あの。」

「リゲルさんって言うんですがね。その御方がブレイバーの男に媚薬を振り掛けられまして。」

「ふーん…」

 

 やはりまだ興味を示さないか。

 それも当たり前な話だ。

 ヴェスパローゼさんに関わる事を話したつもりは一切ないからな。

 しかし、ここからが貴女に関わる話になってくるんだ。

 しっかり聞いて頂けると助かる。

 

「媚薬…という事は薬。薬、という事は緑の世界が専門世界。なので、緑の世界が裏繋がりしてると思いましてね?」

「…だとすれば、ホウライ繋がりって事かしら?」

「一概にそうとは断言出来ません。ですが、緑と赤の世界が裏でやり取りを繰り広げ、協同していたとしたら。俺を捕まえる為に赤と青の世界が協力態勢を構えていたら。」

「…なるほどね。私が貴方を庇っているのがバレたら、緑の世界から青、赤の両方の世界に伝達されて三世界が一気に敵になると。」

「確定とは言い切れません…が、その選択も捨て切れないかと。そこでヴェスパローゼさん、貴女に質問です。」

 

 ここで彼女の…優しさと信頼が確かめられる。

 返答次第では俺の腕の中で寝ているきさらちゃんを人質に、この場所から逃げなければ。

 そんな非道染みた行いをするのには気が引けるが……きさらちゃんには後でちゃんと教えなきゃ。

 飽くまで、ヴェスパローゼさんが最悪の返事を返してきた時だが。

 

「それでも、ヴェスパローゼさんは僕達を庇いきれますか?例え僕を裏切っても、三人…そしてきさらちゃんを守ってあげる事が出来ますか?僕から手を退くなら今の内――」

「白々しいわね。更に言わせて貰うと、警戒のし過ぎ。…確かに私は、貴方の大事な人達を危険な目に会わせた。それに加えて大祐を強引に奪った。話し合えば余地はあったのかもしれない。」

「いえ、ヴェスパローゼさんは気にする必要無いんです。だってあの時は、俺が暴走していたのですから。」

「だからね、本当に御免なさいと思っているの。貴方の大切な人と貴方を傷付けてしまって。」

 

…やはり、ヴェスパローゼさんは良いZ/Xだ。

 自分のした事を謝ってくれて、且つ二人にも謝罪の言葉。

 信用に足るZ/Xとして、認識は間違いないだろう。

 ヴェスパローゼさんは絶対、味方につけたい。

 

「過ぎた事等関係ありません。今、目の前の事をしっかりしなければ後々後悔するだけですから。…で、ヴェスパローゼさん。という事で貴女は僕達の味方と見て良いのですか?」

「あら?当たり前じゃない。交渉が成立した時点で、私は貴方を味方としてきたわよ?じゃなきゃ大切な人達を探しに行って良いなんて言わないし。それに…他世界となんと元より敵対関係よ。今更気にする必要なんてないわ。」

「…本当に、有り難う御座います。何だか自分達の安全確認みたいな話になってしまいましたね。謝罪させて下さい。」

「良いわよ、別に。それよりも今の内容をちゃんと三人に伝えてあげる事ね。また何か情報が入ったら、互いに教え合いましょ?」

「勿論です。…それでは――きさらちゃんも連れていって良いですか?」

「好きにして。」

 

 ヴェスパローゼさんからの許可を頂き、俺はきさらちゃんをお姫様抱っこしながら座っていた椅子から立ち上がる。

 未だに「くー…すー…」と寝息を立てるきさらちゃんを見て、今までの緊張が嘘の様に解けた。

 これでも中々焦っていたのだが…どうであれ、ヴェスパローゼさんが味方になってくれて良かった。

 問題はまだまだ沢山残っているが、障害の一つをクリア。

 そう思うと心の荷が軽くなるのを感じられる。

 

 取り敢えず、この事を三人に伝えなければ。

 起きたらきさらちゃんにも教えてあげよう。

 それまでは、ゆっくりお休み。

 

 俺はヴェスパローゼさんの部屋のドアを開け、退室する。

 

「…あっ、あと一つだけ。」

「何でしょうか?」

「貴方達、帰る居場所が無いんでしょう?それなら此処を拠点として動けば良いわ。寝床も食事も、各部屋にシャワーも完備。それ以外に必要とする物があれば、近くの街へと買い出しに行きなさい。」

「良いんですか…?こんなに良くして頂いて…。」

「そうね。丁度お昼になったばかりだし、話が終わったら呼んで頂戴。食事にしましょ。」

「何から何まで…感謝の音が止まりません。では一度、話をしてくるので…また来ますね。」

「えぇ、分かったわ。」

 

 何とも優しいZ/Xなんだ。

 正直、この世のZ/Xが皆ヴェスパローゼさんみたいだったらと思う。

…あぁ、A-Zちゃんとリゲルさんを抜いて。

 助けられてばかりもいかない、今度は俺が、ヴェスパローゼさんの為に成し遂げなければ。

 まだそれは決まってないけど。

 

 ヴェスパローゼさんの良心的な心に感謝をしつつ、部屋から退室。

 ドアを閉めて、三人の部屋へと向かった。

 

『…ふふっ♪』

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「…という話を、ヴェスパローゼさんとしてきました。」

「「「………」」」

 

 三人をきさらちゃんの部屋へ呼び出し、ヴェスパローゼさんとの対談内容を伝えた。

 本来は俺の部屋に呼び出したかったが、思い出せば俺だけ部屋が与えられていなかった。

 って訳で、選択肢はあづみさん&リゲルさん、きさらちゃん、A-Zちゃんの三択に。

 それで何故、きさらちゃんの部屋にしたかというと。

 

 

‐‐‐

 

きさらちゃんの部屋へ入室時

 

‐‐‐

 

 

「…私とリゲルの部屋でも良かったんじゃ…」

「あづみの言う通りね。その方が手間が省けたんじゃないかしら?」

「…無理です、無理無理。あんな声が聞こえてきたら引き下がるしかないじゃないですか。」

「あんな声?」

 

 

‐‐‐

 

『…さて、二人の部屋にでもお邪魔しようかな。そっちの方が時間もかからないし。あづみさん、リゲルさん、今何してますー?』

『……ル……いね…』

『…みも…なか……わ』

『あれ?聞こえてないのかな。二人共、聞こえてますk…この音は…シャワーか――』

『ひゃあっ!?リゲル、駄目だよぉ…』

『あづみはこれから成長期ね。どんな美人になるのか、楽しみだわ。』

『むー…リゲルったら。えいっ!』

『ちょっあづみ!?急過ぎじゃ…まっ、待って!』

『えー、リゲルも急だったよ?これでお相子様だねっ。』

『もう…あづみは何時も可愛いわね。』

『リゲルも人の事、言えないよ?』

『ふふ、ありがと、あづみ。』

『こちらこそ、ありがと、リゲル。』

『………A-Zちゃんに頼んでみようかな。よし、そうしよう。風呂場で響く二人の声を聞いてたら、多分死ぬもんな。うん、きっとそうに違いない。二人はまた後で呼びに来よう。』

 

‐‐‐

 

『A-Zちゃん、今大丈夫――』

『ますったぁ…んんっ!』

『!?えっ?いや、待って?ちょっ?え、A-Zちゃんが俺の――』

『…ますた、そこで何してるんです?御用でしょうか?』

『あっいやっ…何か、御免なさい。』

『?何の話です?私は唯、ロープ等で捕縛された時にますたの名前を呼べるかどうか、自分の体で試していただけです。通信機能はありますが、それが封じられた時の事も想定して。』

『な、なんだ…なら良かった。A-Zちゃんの部屋って空いてたりする?』

『すみません、ますた。今はちょっとした事に使ってまして。対談は終了したのですか?』

『うん。それを皆に伝えようと思って。用事が終わったら、階段上がって手前の部屋に来てくれるかな。出来れば二人も連れて。』

『了解しました。ではますた、後程。』

 

 

‐‐‐

 

 という事で、今に至る訳だ。

 きさらちゃんの部屋しか空いてない為、仕方無く借りているのだが。

 

 猛烈に居心地が悪い。

 出来れば、ヴェスパローゼさんにも居て欲しかった。

 流石に女性三人を目の前、少女一人を膝の上に乗っけて会議は…。

 会議というか、話し合いというか。

 ヴェスパローゼさんが居てくれるだけで、かなり楽になるんだけど。

 女性同士で話し合ってくれるのら尚更。

 

 まぁ…仕方のない事なのは分かっている。

 ここでしゃんと、至って普通に、平常心で俺がしっかり伝えてあげねば。

 ヴェスパローゼさんから頂いた伝言を。

 

「…えーとですね。なので、これからは此処を拠点に動きたいと思います。」

「だいすけ、こえからまぃにち、あそべゆ?」

「うん、そうだね。俺が此処にいる間はきさらちゃんが遊びたい時に来てくれれば、遊んであげれるよ?」

「きぃ…うえしぃ!」

「…私達は嬉しいとは言えないけど。」

「とか言いつつリゲルさん、あづみさんと一緒にシャワーしてましたよね?部屋の前で二人を呼んだ時、声と音が聞こえてきましたよ。」

 

 俺の言葉に二人は、鳩が豆鉄砲を食らったかの如く目を丸くした。

 どうやら、俺が訪問しに行った事に気付いていなかったらしい。

 わりと声量を出して呼んだと思ったが、それでもシャワーの音にかき消される俺の声。

 二枚程の扉という板を挟んでいるとはいえ、少し小さかったようだ。

 

 もうちょっと大きな声で呼べば良かったか?

 だが、それではヴェスパローゼさんに迷惑、お姫様抱っこしているきさらちゃんを起こし兼ねない。

 これはこれで良かったんじゃ――

 

「そ、それじゃ…大祐は私達の会話を聞いてたって事?」

「あづみさんはこれから成長期だからどんな美人になるのか〜とか、お互いに可愛いと褒め合ってたりとか…そんな感じですかね。」

「大祐!今直ぐそれを忘れて!じゃないと貴方を天国へ旅立たせないといけなくなるから!」

 

 聞こえてきた話の内容を打ち明けると、膝の上にきさらちゃんが乗っているのにも関わらず俺の両肩を鷲掴みし、そのままぐらぐらと揺らし始める。

 

 一方あづみさんは、両手を自分の顔に当てて恥ずかしさを堪えていた。

…それでも、頬が赤くなっているのはバレバレだ。

 

 っていうか、何だ天国へ旅立たせないといけなくなるからって。

 俺はリゲルさんに額を撃ち抜かれて死ぬのか。

 嫌だよそんなの。

 断固拒否する。

 

「取り敢えずリゲルさん、落ち着きましょ。このままじゃきさらちゃんに二次災害が――」

「うぅ…恥ずかしい。大祐にあんな内容の話を聞かれるなんて…」

「リゲル様、致し方ない事だと思います。あづみ様と一緒の時間を過ごせる事が嬉しかったのではないでしょうか。」

「…それも一理――というかそれしかないわね。」

「私も、リゲルと一緒で楽しくなっちゃって…ついつい色んな話をしちゃった。」

「きぃ…あたま、ぐりぃぐりぃすゆ…」

 

 まずい…俺まで頭がぐらぐらしてきた…。

 いい加減、リゲルさんに止めて貰わないと。

 俺もきさらちゃんもダウンしてしまう。

 

「リゲルさん…そろそろ…限界です。」

「あぁ、ごめんなさい!大祐、大丈夫!?」

「俺よりもきさらちゃんを…ベッドに寝かせてあげて下さい。」

「わ、分かったわ。」

「リゲル様、私も手伝います。」

 

 そう言えば…あづみさんやリゲルさん、A-Zちゃんにはこの傷の事は特に聞かれなかったな。

 

 いや、それもそうだ。

 外に出る前にしっかり服を着たんだから。

 多分、今頃下着が犠牲になっているんだろうな。

 後でヴェスパローゼさんに洗ってくれるか頼んでみるか。

…血って確か、冷たい水の方が落ち易いんだっけ。

 事前にコートだけ脱いでおいて正解だったな。

 

「A-Z、掛け布団を退けてくれる?私が抱いて連れてくから。」

「分かりました。――此方にどうぞ。」

「きさらちゃん…だっけ。ベッドに移動するわね。」

「いあっ!ここがいい!」

「えぇ!?えぇ…?」

 

 あまりに驚いたのか、リゲルさんが同じ言葉を二度発した。

 だが、俺は驚かない。

 何故なら、こうなりそうだと予想していたからだ。

 

…まぁ、招致はしていたつもりだからな。

 そう、分かっていてリゲルさんに頼んだのだ。

 彼女が何れだけ、小さい子に耐性があるか確かめる為に。

 理由は単純明快。

 きさらちゃんと仲良く出来るかどうか。

 それが少々不安に感じ、やってみたところ。

 

「そんな事言わないで、ほら、ベッドの方がふわふわしてて休めるわよ?」

「だいすけのここ、いちあんやすめゆ。」

「…ほら、ベッドに行くわよ。言う事が聞けないなら、もう大祐とは…」

「!!…わぁった…きぃ、ベッドいく…」

 

 どうやら仲良くなれなさそうだ。

 

 分からないとはいえ、リゲルさんが強制させてる感じが否めない。

 この二人は少しの間、様子見だ。

 だが、まだまだ時間は沢山ある。

 その間に仲良く出来るかどうか。

 もし二人が何の壁も無く話し合えれば…その時が来てくれれば俺は嬉しい。

 

「…おぇ……リゲルさん、随分と激しく揺らしてくれたな…。」

「大丈夫?大祐くん。」

 

 本気で吐き気を催している俺の隣に、ゆっくりとあづみさんが椅子に腰を掛けてきた。

 そして背中に右手を回し、上下に摩ってくれる。

 彼女の小さくて可愛らしい手のひらが動く度に、体が楽になっていく。

 何とも優しい、献身的な手だ。

 

「あづみさん…ありがとうございます。」

「ううん、大祐くんが苦しそうにしてるのが辛くて…少しでも楽になってくれれば良いなって。」

「ほんと、あづみさんには助けられてばかりですね。」

「私とリゲルは、それを逆に思ってるよ。寧ろ私達が…大祐くんに助けられてばかりって。もし大祐くんに会えていなかったら、私とリゲルはどうなってたんだろって不安に思う事もあるんだよ?」

「…この世界に来て初めて会えたのが二人で、俺は嬉しいです。旅を続ける中で事故なんて軽いって思える程に、キツい難所もありました。ですが、二人が居てくれれば乗り越えられる。俺はそう信じてますから。」

「大祐くん…」

 

 お互いの目を見つめ合い、しんみりと話を進める。

 

…そうだ。

 この世界に転移してきてから初めて会ったのが二人じゃなかったら。

 きっと初めての敵、カンジュラーとやらに殺されていただろう。

 バトルドレスも装着できずに、へっきーとも会えなかった。

 ルクスリアさんという面白い女性にも会えなかっただろうし…何よりも。

 

…二人に会えず、恋をする事すら知らないまま、死んでいただろう。

 

 だから、本当に、二人に会えて良かった。

 大好きな二人に。

 

「…ラブラブになってるところ悪いけど、これからどうするの?」

「ラブラブて…ただしっぽりと話していただけですよ。」

「あら、そのわりにはお二人とも距離が近いこと。そのままキスしそうな勢いね。」

「りっリゲル!キスなんて、そんな///」

「俺としては一向に構わない…それどころか、したい位ですからね。」

「うぅ〜…大祐くんったら――えぇっ!?///」

 

 何時までも顔を真っ赤にさせているあづみさんを見て、心を和ませる。

 勝手ながらも、俺はこの時間が一番好きで堪らないのだ。

 三人仲良く、話し合う時間が。

 

 出来ればこの中にA-Zちゃんやきさらちゃん、ヴェスパローゼさん等も含めて楽しくお喋り会とかをしてみたい。

 ゲストとしてへっきーを連れてきて、ルクスリアさんがいつの間にか乱入してきて。

 場が混沌として、カオスって。

…て、これじゃ駄目か。

 

 でも、一度で良いからやってみたいな。

 そんなパーティー染みた何かを。

 物事が落ち着いた後のお楽しみ、夢にとっておこう。

 更にメンバーが増えるかもしれないしな。

 

「…きぃ、おなかしぃた。」

「あっ…ごめんねきさらちゃん。もうヴェスパローゼさんの所に行こうか?」

「いくっ!」

「…まぁ、という訳です。ヴェスパローゼさんとの話し合いの結果は以上ですので、これから此処を拠点に動きます。大事な事なので、二度言いました。話が終わったら皆で食事にしようと言われているので、ヴェスパローゼさんの所に向かいましょう。」

 

 ヴェスパローゼさんと全員で食事をしよう。

 そう言っただけで、三人の顔は引き攣っていた。

 至極微妙な表情をしている。

 

 それに引き換え、きさらちゃんは早く行こうとコートを引っ張る。

 何時ぞやのA-Zちゃんの様に。

 

「まぁまぁ、そんなに怪しまなくても。ヴェスパローゼさんは良いZ/Xですよ?」

「…はぁ、了解したわ。大祐を信じる。」

「私も、大祐くんを信じてる!」

「ますたが決めた事です。私はそれに付いていくだけ。」

「きぃ、はあくたべたい!」

 

 三人から謎の信頼の証を聞き、きさらちゃんに催促され、全員できさらちゃんの部屋から退室する。

 やはり三人はまだ、警戒心が強いらしい。

 俺みたいにほいほいと付いていく馬鹿じゃないってのは、一目瞭然。

 しかし、それでは互いに心を開けない。

 

 ヴェスパローゼさんには良くして貰っている身。

 彼女に少しでも恩を返せるように、バトルドレスが無い自分でも出来そうな事を頑張ろう。

 焦りは禁物、一つ一つをしっかりと。

 

 その気持ちを再確認し、ヴェスパローゼさんの部屋へ向かった。

 

‐‐‐

 




森山碧の軌跡

第七章:何時も迷子な森山さん

「いってー…」

何だあの女の子。
いきなり変な事を言い始めたと思ったら、今度は怒って殴り掛かって来たぞ。
大祐よりも情緒不安定か俺が地雷を踏んだかしないと、ただの暴力集団の一人になっちまうぞ、あの女の子。
暴力反対、駄目、絶対。

…あ?これじゃまるで暴力反対って言葉が駄目みたいになってねーか?
まぁ、どうでも良いか。

「というかさっきの女の子…二足歩行で歩く鹿を見なかったか〜なんて言ってたな。この世界にそんな不気味な生物がいんのか?どうせ他人事だから、俺には関係ねーけど。」

それよりも大祐を探さねばなるまい。
あんな美人で可愛らしい女の子と女性を放って、彼奴は何をしてんだか。
自分の彼女くらい、自分の傍に居させてやれって。
大祐も罪な奴だな。

「あてて…結構高くから落下したから骨が痛むな。――おぉ!?何だあれ!デッカイ木だなー!」

歩いていると、目の前に凄く大きな木が!
この木、最早大樹って呼んだ方が合ってるよな。
緑の世界に来てからこんなにデッカイ木を見たのは二回目か。
前に見たやつはもっとデカかったけどな。
それに続く位はこの大樹もデカいぞ。

「…って、あれは蜂か!?よくも俺の目の前に現れてくれたな。殺す!というか排除してやる!」

恐らくあの大樹は、其処らをブンブン飛んでる蜂達の巣だろう。
ならば大樹諸共、一気に殲滅してやる。
農業での恨み、林檎の恨み、今此処で晴らす!
(森山碧の得意分野は農業。彼は生まれた時から、農業一択で育ってきた。)

‐‐‐

「林檎の敵は、俺の敵!」
by森山碧
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