Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

37 / 69
今回は会話劇が長い所が多数あります。
読み辛いかもしれませんが、予め御了承下さい。

挿絵に関しては、一人ずつ書いていこうと思っております。
(偶に『偶に』ですが。)
下手に挿絵を投稿するよりも、その間に本編を見直して修正し、内容を面白く仕上げ、読者様方を楽しませるように頑張ります。
(それでも作者の文章構成能力は底辺に変わりありませんが。)
誤字脱字、何か御座いましたら報告願います。

プロローグ〜今の話まで、誤字等を修正。
見落とした部分もあるかもしれないので、誤字脱字改行、可笑しい点はメッセージ等から教えて頂けると有り難いです。



第三十六話: 服選び[上]

「ごめんなさい…食事にしたいと思ったのだけれど材料が足りなくて、其処まで買い物に行ってくれると助かるのだけれど。」

「…あ、マジっすか。」

 

 行き成りおつかいって。

 何時もはどうやって食料調達に行っているんだ。

 まさか僕と呼んでる蜂さん達じゃないだろうし。

 あんなの街に出したら一瞬でバレる。

 というか駆除される。

 それは悲しい。

 

「…はぁ。で、何を買ってくれば宜しいので?」

「このメモに書いてあるわ。お金はこれで足りると思うから。」

「りょーかいです。んじゃ、行ってきます。」

「行ってらっしゃい。気を付けて。」

「きぃもいっしょにいく!」

 

 あづみさん、リゲルさん、A-Zちゃんと俺の四人で行こうとしたが、きさらちゃんも同行したいらしいので連れて行く事に。

 ヴェスパローゼさんから預かったメモと金銭をリゲルさんに渡し、バトルドレスに終って貰う。

 後は買い出しに行って、また戻ってきて、食事を済ませて、きさらちゃんと遊んであげて、三人とこれからどうするかを考える…と。

 まぁ、きさらちゃんと遊んであげるを三人と相談するに交換しても良いが。

 そこは本人達に任せよう。

 求められた事をそつなく熟すだけだ。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「おー着いた着いた。」

「結構広いね…逸れないようにしなきゃ。」

「あづみ、私の傍から離れないで。」

「ますた、近くに居ても?」

「きぃ、いぉんなみせ、みてくゆ!」

 

 ヴェスパローゼさんのテリトリー(大樹)から徒歩十分、森を抜けた先の少し大きめな街に着いた。

 車等は通っていないが、道路はしっかり整備されている。

 歩道と車道も別れており、安全面も心配無さそうだ。

 綺麗に並んでいる各々の店も、朽ちた様子は覗えない。

 どれもこれも、見た目からして美しい。

 それなりに人も賑わっている。

 

 緑の世界にこんな場所があったとは、思いもしなかった。

 やはり此処等周囲は、ヴェスパローゼさんの手中範囲内か。

 何かしら困ったら彼女に聞けば良いだろう。

 

…ってか、あの人が何時もどうやって食料を集めているのか、何故金銭まで持ち得ているのか、ルクスリアさんと同じで謎に包まれているZ/Xだ。

 相手方に認められていなければ、俺も少しは怪しんだだろうか。

 

 だが、こんなにも優しく接してくれているヴェスパローゼさんを怪しむ事等出来ない。

 世の中そんなに甘くないのは知っているが、それで人を…Z/Xを疑うのは別の話だ。

 それでは何時まで経っても、信頼関係等築けやしない。

 

「…すけ――大祐?」

「あぁ、ごめんなさい。少し考え事をしてました。」

 

 あまりにボーッとしていて、リゲルさんの声が聞こえていなかった。

 何だか申し訳ない事をしてしまった気分だ。

 

「…あまり思い詰める必要は無いわ。何か相談したい事があるなら、私で良ければ話して?それで大祐が楽になるなら、幾らでも聞いてあげるから。」

「それでリゲルさんまで思い詰めるなら話は別です。二人が幸せに暮らせる世界を作るのが、俺の役目なんですから。…例え其処に、俺が居なくても――」

「馬鹿な事を言わないで。貴方はその考えを改めた方が良いわよ。…大祐が居てくれてこその、私とあづみなんだから。忘れないでね。」

「…はい。ですが俺は、二人が居てくれてこその俺だと確信しています。自分が一番大切に思っている人を守りたいのは、当然じゃないですか?」

「それを感じているのは大祐だけじゃないって事を、覚えておいて。」

 

 リゲルさんは最後に、俺を諭す様な優しい口調で話を終わらせた。

 

 彼女達もまた、俺と同じような事を思っているのだろうか。

 誰かを絶対に失いたくないという、強い思いを。

 意思を、感情を、当たり前のように感じられるが、其処に自分の犠牲等考えているのだろうか。

 俺としては、頭の隅にすら置いて欲しくない。

 彼女達を犠牲にする位なら、俺がその役割を果たす。

 

 二人に会ってから、ずっと決めていた事だ。

 今更修正する必要等ない。

 誰に何と言われようが、自分の意思を貫く。

 彼女達を絶対に守り抜くと。

 そして平和な世界に…彼女達が幸せだと思える世界に連れて行くと。

 必ず導いてみせる。

 

「ますた、きさら様が。」

「えっ?きさらちゃーん?何処に行ったんだ…。」

「大祐くん、きさらちゃん彼処に入ってくよ。」

「ありゃ、きさらちゃん?あんな所で何をしてるんだ?」

 

 急に姿を消したきさらちゃんをキョロキョロと肉眼で探すと、彼女は一つの店に入り、何かを見つめていた。

 一体何を見てるんだ?

 興味心をそそられる物でもあったのか。

 

 取り敢えずきさらちゃんの所に行ってみるか。

 俺はきさらちゃんのいる店に入店した。

 

「どうかした?きさらちゃん。」

「こぇ…ほしぃ…」

 

 きさらちゃんが指を指し、一点を集中して見続ける。

 其方に視線を移すと、そこには白く可愛らしいリボンが売られていた。

 大きさはそこまで無いが、長い。

 普通のリボンよりも細く、衣服の胸元に着ける物だと直ぐ分かる。

 真ん中に華の飾りが付いており、きさらちゃんが欲しがっている理由が何となく分かった。

 何とも可愛らしく、きさらちゃんに似合いそうなリボンだ。

 

「大祐くん、何かめぼしい物でも――わぁ…凄い一杯だね。」

「どうやら、身に付ける小物を扱う店ですね。」

 

 あづみさんも気になったのか、一緒の店に入店。

 その際に改めて、店の売り物の内容を確かめる。

 どれもこれも女性用の小物。

 店内も、ピンク色を主体とした内装。

 如何にも小さな女の子の好奇心を擽る売り物。

 明らかに場違いな俺。

 

 早々に撤退し、ヴェスパローゼさんに頼まれた物を買って帰ろう。

 最近味わった感覚とは違う、居心地の悪さ。

 俺には到底耐えられない。

 

「あれ、リゲルさんは?」

「許可を得て大祐くんの所に来たの。リゲルとA-Zさんは、一緒に買い物をしに行ったよ。」

 

 おぉ、あの二人だけで一緒に買い物とは。

 何だか悪いな。

 

 とは言え、まだ小さいきさらちゃんを放っておく訳にはいかない。

…そう言えばこの子、まだ何歳か聞いていなかった。

 後できさらちゃん本人に聞くとするか。

 

 で、問題は。

 

「可愛い物が沢山…リゲルから少しだけ、お金を貰っておけば良かったかな…。」

「うゆ…」

 

 流石、小さい女の子向けの店なだけはある。

 売られている物に二人共、目が釘付け状態だ。

 その顔が何とも精神的にくる。

 

 いや、だってさ、こんなに可愛い女の子二人が、如何にも二人に似合いそうな物を欲しがっているんですよ?

 そりゃあ買ってあげたくなるに決まってるでしょう。

 

 だが、今の俺には所持金が一銭たりとも無い。

 本来なら自身のバトルドレスの「ブラックボックス」と呼ばれる収納箇所に、120万円が入っていた筈。

 実際には226円を消費したから、119万9774円なんだが。

 マイナスした瞬間、随分と素晴らしく長い数字表記になったな。

 

…まぁ、それは良いとして。

 

 恐らくあづみさんは、リゲルさんに頼めば買って貰えるだろう。

 

 しかし、きさらちゃんはどうだ。

 ヴェスパローゼさんから渡されたお金を、勝手に違う目的に使ったら。

 それがきさらちゃんの為に使ったとしたら。

 怒られるのは彼女だろう。

 それだけは絶対に駄目だ。

 

 かと言って、このまま引き下がればきさらちゃんがしゅんとしてしまうのは目に見えている。

 彼女達が落ち込む姿は、極力見たくない。

 個人の勝手な意思だが。

 

 更に付け加えると、きさらちゃんは黒を主体とした服しか着ていない。

 ここ最近の話だが、彼女はもしかすると「黒」という色の服しか持っていないか、或いはヴェスパローゼさんからそう指示されているか。

 最近、それに気が付いた。

 

 これも飽くまで俺の考えだが、後者は無いに等しいと思われる。

 ヴェスパローゼさんはそんなに厳しいZ/Xじゃないだろいし。

 もしそうなら、俺や三人が味方と認識して貰った時に注意されている筈だ。

…いや、俺は真っ黒なコートを着てたからアレだったかもしれないけど。

 あづみさんやリゲルさん、A-Zちゃんは白を取り入れた衣服を着ている。

 それでも、ヴェスパローゼさんは気にする素振りすら見せなかった。

 

 大体…それを気にするなら、俺がヴェスパローゼさんと対談している最中に言われる。

 何故黒いコートを着ていないの?って。

 あの時の俺は私服でヴェスパローゼさんの部屋にお邪魔していたからな。

 何も言われなかったという事は、つまりそういう事。

 なので後者は無いと考えられる。

 

…と、思う。

 というかそうであって欲しい。

 

 ここまで理由を付けて何を言っているんだと思われるかも分からないが。

 理由は所詮、理由。

 違う捉え方をすれば言い訳とも思われる。

 もう、そんな不確定要素に頼りたくは無いのだが。

 

…っと、話が逸れた。

 先ずはこの状況を何とかしよう。

 今、目の前で起こっている事に集中せねば。

 

 話を本題に戻すが、もし仮に前者の場合だったら。

 色んな服が似合いそうなきさらちゃんに、それは酷な話。

 出来る事ならリボンや、そういう類いの物だけでなく、服も買ってあげたい。

 直ぐ隣にいるあづみさんにも言える事だが。

 

「何でこういう時に…熟(つくづく)タイミングが悪いな、俺って奴は。」

「…うゆ」

 

 先程から、きさらちゃんが「うゆ」としか喋らなくなってしまった。

 あづみさんに関しては、色んな売り物を見るのに夢中だし。

 きさらちゃんは一つの売り物の魅力に囚われてるし。

 

 何とかならないか…この葛藤。

 せめてバトルドレスのブラックボックスを開ければ――

 

「…試しにやってみるか。」

「だいすけ?」

「大祐くん?」

 

 俺は一度店を出て、人目のつかなそうな場所へ移動。

 とは言っても、直ぐ側の小陰に隠れただけだが。

 

 そこで、何時も通りにバトルドレスを展開。

 すると…

 

「………何も起こらない。知ってはいたが、本当に無くなっちゃったのかなぁ。」

 

 

 その事実を受け止めるには少々、苦があった。

 自分の唯一の力を失って、これでは守りたい人すら守れない。

 今はヴェスパローゼさん、リゲルさん、A-Zちゃんという強力な味方に守られているが…。

 

 俺はそれを良しとしたくない。

 俺が、彼女達を守りたいから。

 その内、アル○ックに似た業者でも雇ってやろうか。

 

「さて、どうしたものか――ん?」

 

 問題をどうやって解決するか。

 そんな事を頭の中で考えていると。

 ふと、目の前に何かのアイコンが表示された。

 何故だろう、凄く見覚えがある。

 

 そのアイコンを右の人差し指でタッチすると、表示幅が広がり、色々な文字が並び始めた。

 

 

‐‐

 

装備中 バトルドレス: 不明[又は装備していません]

 

装備可能なバトルドレス

不明[又は装備出来ません]

 

ブラックボックス内の持ち物

・携帯用ナイフ

・携帯用テント

・携帯用ランプ

・治療薬

・金銭 119万9774円

 

‐‐

 

 

「…勝確(勝ち確定)だな。」

 

 色々謎に包まれているが、俺は取り敢えず金銭を引き出して店に戻った。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「きさらちゃん、あづみさん。」

「あっ、大祐くん。何処に行ってたの?買い物…もう終わっちゃった?」

「だいすけ…もぅじかん…?」

「ふっふっふ。」

「ど、どうしたの?」

 

 奇妙な笑い方をする俺を怪しむ、あづみさんときさらちゃん。

 その眼差しが地味に痛いのを、彼女達はしらない。

 仕様が無い事だけど。

 

 まっ、それはどうでも良いから置いといて。

 今の俺は楽しみで楽しみで仕方がない。

 二人を、どうコーディネートしてやろうか。

 

「あづみさん、何か欲しい物でもありましたか?」

「えっと……どうして?」

「良いですから、良いですから。」

「んと…これ、かな。」

 

 様々な売り物の中で、あづみさんが選んだのは黒いカチューシャ。

 左端に作り物の青い薔薇の花飾りが付いており、あづみさんにしては珍しいチョイス。

 

「何時も白い色の服だったから…たまには黒も良いかなぁって。けど、青は抜かせなくて。」

「成る程…確かにあづみさんにお似合いですな。」

「えへへ…付けてないのに、どうして分かるの?」

「あづみさんには何でも似合いますから。確かめなくても分かります。」

 

 下手物的な物は駄目だからな。

 あづみさんやきさらちゃん、リゲルさんにA-Zちゃんには。

 彼女達の可愛さ、美しさが台無しになってしまうから。

 

「でもこれ…カチューシャの値段じゃないよね。」

「何で1万5300円もするんでしょうかね。理由があるんだろうけど――まぁ良いや。」

「えっ、大祐くん?」

 

 俺はあづみさんの持っているカチューシャを手に取り、きさらちゃんの所へ向かおうとする。

 

「…それ、どうするの?」

「本当にこの値段なのかを聞きに行くだけです。ワンチャンス値引きに成功すれば、リゲルさんが買ってくれるかもしれませんし。少し待ってて下さい。」

 

 あづみさんを一度、理屈の通っていそうな言葉ではぐらかし、プレゼントとしてあげたい事をバレないように彼女から離れる。

 そしてそのまま、きさらちゃんの所へ。

 

「…ね、きさらちゃん。それが欲しいの?」

「…うぃ。」

「ちょっと良いかな。」

「ん。」

 

 俺はきさらちゃんの見つめていた白いリボンを借りて、割りかし遠いレジを目指す。

 こりゃあ万引きし放題じゃね?と思える程に離れているレジに。

 彼処だけ監視カメラが集中しているのはそのせいだろうけど。

 俺はレジに着くや否や、何時も通り無言で二つの売り物を置く。

 

「いらっしゃいませ。……えー、二点で2万9000円になります。3万0000円からで宜しいでしょうか?」

「すみません…これと同じ商品を、別で二つ用意出来ますか?この売り物は元に戻しますので。」

「…?全然大丈夫ですよ。…もしかして、彼方の可愛らしいお二方にプレゼントですか?こんなに高い物を…優しいお姉さんですね。あ、315円のお返しです。」

「有り難うございます。…ですが、俺は男なのでそう見て頂ければ。」

「!そうでしたか、これは失礼しました。お兄さんモテるんですね。」

「誉め言葉、素直に嬉しいですよ。…あの二人には内緒でお願いします。というか、まさか男性の人が店員だとは思いませんでしたが。」

 

 この店の雰囲気からして、女性の店員しか居ないもんだとばかり考えていた。

 お客も女性ばかりで…偶にカップルが視界を汚すかなー位。

 やはり男性の客は場違いな場所だ。

 

「私は小さい子供の笑顔がが大好きでしてね。嬉しそうに、にこやかに笑ってくれている笑顔が。特に女の子の。」

「何故でしょうか、凄く共感出来ますよ。」

「ロリコンと言われてしまうかもしれませんが、そうじゃないのですよ。」

「小さい子供が必死に何かを頑張る姿が、本当に可愛いんですよね〜。」

「納得ですよ!いやー分かって下さる方が居てくれるなんて…私と貴方、何だか気が合いますね。」

「偶然ですか?いいえ、空耳ですね。俺も同じ事思ってました。」

 

 まさかの同業者発見。

 この店員さん、見た目は20歳位だが…喋り方が年齢以上に大人びている。

 自分の一人称が「私(わたし)」だったり、年下の俺にも敬語だったり。

 恐らくは職業病なのだろう。

 お客様は常に目上と認識、敬語をしっかり使って敬う。

…いや、敬うのとは違うか。

 兎に角、同じ趣味の人が見つかって嬉しい。

 これから偶に一人でも来ようかな。

 

「ここは…貴方のお店なんですか?」

「いえいえ、私は只の従業員。良い職が見つかったのでここで働かせて貰っている身です。」

「…ねぇねぇ大祐くん、リゲルとA-Zさんが戻ってきたよ?売り物を戻して、かえろ。」

「だいすけ、そえ、なに?」

「この袋?ふふふ、内緒だよ。…それじゃあ、失礼しました。」

「いえ、此方こそ。商品はお戻しになられて下さいね?」

 

 おぉ!

 なんと言う神対応。

 買った事を二人に気付かれない為に、まだ俺が商品を持っていると思わせるかの様な話し方をしてくれるとは。

 いや、まだ持ってるけど。

 

 それよりもこの人、人付き合いが上手そうというか…何年ここで仕事をしているのだろう。

 後で、また来た時に聞いてみるか。

 

 しかし…面白そうな人と出会えたな。

 あづみさんやきさらちゃんのリボン、髪飾りはこの店で買う事にしよう。

 値段が高いのは目を瞑って。

 

 俺は二人を連れて店を出ると、既に買い物を済ませたリゲルさんとA-Zちゃんが待っていた。

 

「大祐、本来は貴方が頼まれた用事よ。今回は許してあげるけど…次からはちゃんと自分で――」

「さぁ、直ぐ其処の服屋に突入しますよ!」

「えっ大祐くん!?」

「ちょっと大祐!私の話を聞いてるの!?」

「うぃ!」

「…ますたは、これくらい自由で良いと思います。」

 

 後ろから様々な意見が飛び交う中、俺は道路を渡った先の、洒落てる服屋を目指して歩いた。

 買った物を大事に持ちながら。

 

 

 

 

 

‐‐‐

 

 

 

 

 

「さて!あづみさんはこれ、きさらちゃんはこれ。リゲルさんとA-Zちゃんはご自由に選んでて下さいな。」

「えと…これを着れば良いの?」

「目の前が試着室なので、そちらでどうぞ。」

「…こえ、どうすゆの?」

「店員さーん。来て頂いても宜しいですかー?」

 

 二人にはこの服を買ってあげれば、買い物のアレも上手く組み合わせれるだろうし。

 折角だからリゲルさんとA-Zちゃんにも服を買ってあげたい。

 という訳で、二人には服を選んでいて貰おう。

 どんな服が自分似合うかなんて、匆匆(そうそう)に分からないもの。

 店員さんに任せて正解だったかもしれない。

 

 え、俺が選んであげればって?

 駄目ですよ、駄目駄目。

 俺のファッションセンスなんて底辺其の物ですし。

 あまり凝った服だと、そのセンスの無さが露わになってしまう。

 だから、あづみさんときさらちゃんに選んであげた服は、simple,is,bestな物にした。

 

 ネタバレになるが、あづみさんは黒いゴシック系のドレス染みた衣服、きさらちゃんは白くひらひらしたあまり厚くない衣服という、何時もとは正反対な服。

 どこまで可愛くなるか、彼女達は無限の可能性があるから楽しみだ。

 

「大祐くぅん…これ、どうなってるのぉ…。」

「お困りですか!?待ってて下さい!今、店員さんを呼んで――」

「えぇ!?恥ずかしいよぉ…。大祐くん…少し……来てくれるかな。」

「成る程、大体すら分かりません。」

 

 俺が良くて、何で店員さんが駄目なのか。

 幾ら僕でも恥じらいはあるんですよ、あづみさん。

 まだ15歳の健全な男子に、好きな女の子の着替えを間近で見ろと?

 しかも、それを手伝えと?

 

…まぁ、愛しのあづみさんの為に頑張るけど。

 着衣の難しい服を選んだ俺に責任があるし。

 あづみさんの後ろから着衣を手伝い、鏡を背にすれば大丈夫だろう。

 彼女の純情を汚さない様にしなければ。

 

「そ、それじゃ…横を向いてくれますか?右でも左でも構いません。露出していない方を此方に向けて。」

「う、うん。…良いよ。」

 

 おどおどしているあづみさんの声を聞き、俺も横を向いて蟹歩きで試着室の中へ入っていく。

 彼女がどちらを向いているかは分からないが、何とか無事に入る事が出来た。

 

「ご、ごめんね、大祐くん。」

「いや、此方こそ申し訳御座いません。着辛い服を選んでしまい。…取り敢えず、俺とは反対の方を向けますか?」

「えっと…こう、かな。」

 

 背中越しにあづみさんがもそもそしているのが、精神衛生上宜しくない。

 俺の興奮心(こうふんごころ)を物凄く擽る。

 何としても耐えなければ。

 

「んじゃ、其方を向きますよ。大丈夫ですか?」

「ん…分かった。」

 

 俺とは逆方向に背中を向けたかを本人に確かめ、彼女の方を向く。

 すると目の前には、衣服を如何にも上手く着れなかったのであろう…右肩と背中を出したままのあづみさんの姿が映っていた。

 

 そんな彼女を見て色気を感じてしまう自分が、何処と無く苛つく。

 まだ年頃にも満たない、其れ処か高校生にすら至っていない、自分より年下の女の子の何に色気を感じたのか。

 確かにあづみさんは可愛いが、俺は彼女に対して一瞬でも変な視線を向けた事を許せない。

 

 兎に角、横の鏡に気を付けながら作業に専念せねば。

 

「…あ、ほうほう。背中の紐が絡まってますね。恐らく、肩の紐と一緒くたになってしまったのでしょう。直ぐに解きますから。」

「あ、ありがと。」

「…にしても、何故ゆえ店員さんは駄目なんですか?服の扱い方を一番分かっていると思うのですが…。」

「ここまで下手にやっちゃって、知らない人に見られるのは恥ずかしくて。近くに居たのが大祐くんだけだったし…何よりも――」

「お…直ぐに解けましたね。有言実行、流石俺。序でに結んじゃいますよ?」

「もう、聞いてる?」

「何よりも、までは。続きをどうぞ?」

 

 俺がそう言うと、彼女は溜め息を吐いた。

 何故かは察せないが、別に本人に聞く必要は無いだろう。

 その時、視界にチラッ映った彼女の頬は、赤く染まっていた。

 

「…大祐くん、相変わらずなんだから。」

「あれ、何か言いました?」

「なんでもなーい♪」

 

 あづみさんとそんな会話を進めながらも、服の紐を結び終わった。

 個人的に、中々良い出来映えだと思う。

 というか黒い衣服をあづみさんに着せても、何の違和感も無い。

 寧ろ、滅多に見られない彼女の姿を独り占めしてしまった。

 いやはや、あづみさんは何を着ても可愛いなぁ。

 

「それじゃあ、俺はそろそろ出ますね。後は一人で――」

「大祐くん…これ、何処に着れば良いの…?」

 

…うん、最後まで手伝ってあげよう。

 ここからは店員さんに任せても良いが、こんな至福を奪わせやしない。

 これは俺だけの、いや。

 

 あづみさんは俺だけの物だ。

 

…あ、もう末期かも。

 リゲルさんと同じ事を言い始めるなんて。

 精神病院に足を運んだ方が良いのかもしれない。

 恋の病を解決してくれる精神科なんて、聞いた事無いけどな。

 

「んーと、このアームロングとやらを両腕に。」

「これ…こうやって使うんだ。」

「…で、このニーハイソックスを両足に。大丈夫、俺は見てませんから。」

「う、うん。」

 

 よしよし、順調だな。

 本当はあづみさんがニーソを穿く瞬間とか見たい変態だけど、ここはぐっと我慢。

 うっかりスカートの中が見えちゃうかもしれないしな。

…そういう問題じゃねえな。

 

「えっと…髪の毛は下ろしたままで良いの?」

「あづみさんは素のそのまんまでも可愛いから良いんですよ――じゃなくて、少し待ってて貰っても?」

「全然、私は大丈夫だよ。」

 

 俺は、先程買い物をした袋の中身を探る。

 割りと細くて長い、固形の方があづみさんのだ。

 此方はきさらちゃんのだから………あった。

 

「そう言えば、さっき何を買ってたの?」

「ん?あー…大した物じゃ――いや、あづみさんが可愛いと認めた物は大した物だよな。宜しければ受け取って下さい。俺から、今までの感謝のプレゼントです。」

「えっ…これって…!?」

 

 俺は彼女の頭に、先程買ったカチューシャを付ける。

 急過ぎるプレゼントに、あづみさんは至極驚いた表情を見せた。

 だが、目はキラキラと美しい輝きを、彼女の表情は一瞬で笑顔に変わった。

 

 丸で、雨上がりの太陽を待ち侘びていた華の様に。

 満面の笑みを此方へと向けてくる。

 

「…大祐くん、どうしてこれを…?」

「前々から、あづみさんが欲しがる物を買ってあげたかったんですよ。俺の個人的な願いでしたが。………それに、分かってはいましたが凄くお似合いですよ。」

「えへへ…そう、かな。」

「あ、因みに。その青い薔薇の飾りの中心に、本物のダイヤが埋まってました。鏡で見ると分かりますよ。」

「…わぁ、本当だ。だからあんなに高い値段が――もしかして、大祐くんのお金…?」

「俺は自分のお金しか使いませんよ?況してや、大好きな女の子へのプレゼントなんですから。」

「大好きな…女の子///」

 

 やっと、買ってあげれた。

 自分の目標を、使命を、一つ達成出来た気分だ。

 まんま、達成感とでも言えば良いのか。

…それとはまた違う、自分でも例えようの無い想いが渦巻く。

 

 唯一つ、嬉しいという感情は湧き出ずる事だけを全うするかの如く。

 止む事は無かった。

 

「さ、後はケープを肩に着て。超絶可愛いあづみさんの完成です。PS・何時もですけどね。」

「…本当に、ありがと…大祐くんっ。」

「おおっ!?」

 

 あづみさんはお礼を言いながら、俺の懐へと飛び込んでくる。

 

 ゼロ距離…彼女の体温が直に感じられる距離。

 何時ものあづみさんにしては、高い体温。

 心臓の音が小さく、トクントクンと俺の体にも伝わってくる。

 

 しかし、それは彼女だけではない。

 俺の心の臓も、激しく鼓動していた。

 二つの理由で。

 

 一つはあづみさんとゼロ距離の抱き合いで。

 もう一つは…外の人達にバレないか。

 

 いや、今の状況でこんな事を言うなよKYって言われるかもしれないが!

 これで店員さんやらに見つかってみろ!?

 完全にロリコン認定、下手すればお縄行きだぞ!(警察行き)

 

 リゲルさんに見つかったら―――考えるだけ無駄か。

 何故か、答えは簡単。

 殺される未来一筋しか無いからだ。

 

 本当はずっとこのままでいたい。

 あづみさんを抱き締めていたいさ。

 けど!逆に早く出たいって気持ちもある!

 今日は随分と葛藤の多い1日だ。

 率直に決断出来ない自分が嫌になってくる。

 

「…あづみさん、続きは帰ってから。」

「そ、そうだね。ごめんね、いきなり飛び付いて…」

「あづみさんになら、幾らでも飛び付いて貰いたい位ですが。」

「…それじゃ、帰って用事が済んだら、また抱き付いちゃおうかな。」

「ばっちこいですよ。」

 

 帰って、ヴェスパローゼさんとの用事が済んで、きさらちゃんと遊んであげてからになると…。

 今日の夜か、明日になるな。

 今の時間にもよるけど。

 

「…さてあづみさん、外を覗いてくれますか?」

「うん、分かった。誰もいなかったら、大祐くんが先に出てね。」

「勿論ですよ。お願い致します。」

 

 だが、今はそんな事を考えている暇などない。

 自分の生命が関わっている大事が、目の前で起こっているのだ。

 どうにかして、この状況を打破しなければ。

 

「…んと、大丈夫っぽい。今なら行けそう――」

「あら、あづみ!試着が終わったの?早く出ておいで――って、そのカチューシャ…凄く似合ってるわね!」

「り、リゲル!?」

「?どうかしたの?」

「リゲル様、ますたがいらっしゃいません。あづみ様は分かりますか?」

「い、いえ!わ、分かりません!」

「あづみがこんなに動揺して…珍しいわね。」

「ま、まだ着替えの途中で…ちょっと待ってて!絶対に覗いちゃ駄目だよ!?」

 

……………終わったな。

 戻ってきたあづみさんの表情が、蒼褪めている。

 彼女にも感じたのだろうか、このままでは俺が殺される事を。

 身体的に、精神的に、社会的に。

 

 丸で、装備も碌に整えないでラスボス前でセーブし、どうやっても勝てないでセーブデータを一からやり直さなければいけない詰みゲーを、現実で起こした最悪の気分だ。

 どうすれば良いのかね…俺には何も分からないよ。

 

「ちょっ…大祐くん…!今、放心状態になっちゃ駄目だよ…!」

「…はっ!ありがとう、あづみさん…。そうですね、何か脱出方法を考えなければ。」

 

 まずい、あまりに焦り過ぎて頭の中が真っ白になっていた。

 何か、何でも良いから、考えを浮かばせなきゃならない。

 例えどんな内容でも、取り敢えずは思い付く事が大事だ。

 ここはあづみさん以外の誰かに協力を――

 

「…そうだ、あづみさん。A-Zちゃんを呼んでくれますか?」

「え、でもそれじゃあ…見つかっちゃうよ…?」

「A-Zちゃんは話せば分かる子です。どんな経緯でこうなったのか、あづみさんから話してくれれば信じてくれるでしょう。俺が言っても、変態の言い訳にしか過ぎませんから。」

「…大祐くんを、信じるよ。」

 

 俺も彼女も意を決し、A-Zちゃんに試着室の中へ入って貰う。

 正直にこうするしか無いのだ。

 リゲルさんは駄目、きさらちゃんはちょっと離れた試着室で着替え中、頼れるはA-Zちゃんのみ。

 彼女なら、恐らくは察してくれるだろう。

 何故俺が、あづみさんの着衣を手伝っているのか。

 それが何故、俺があづみさんを手伝わなければならないのか。

 大丈夫だ、彼女なら…A-Zちゃんなら納得してくれる。

 

…と、俺が信じたい。

 

「…あの、A-Zさん。来て貰っても良いですか?」

「?私ですか?構いませんが…」

「あっあづみ、私が手伝ってあげても――」

「リゲルは、少しそのままで…ごめんね。」

「はっ…!あづみに…嫌われた…」

 

 何だろう、今、リゲルさんの切ない声が聞こえてきたような…。

 この事件が無事に解決したら、後で教えてあげよう。

 別にあづみさんは、リゲルさんを嫌っている訳じゃありませんよ。

 こうこう、こういう理由で仕様が無くあの反応を示しただけで。

 あづみさんはリゲルさんの事が、大好きですよ。

……俺もリゲルさんが大好きなのを、お忘れなく。

 こんな感じで。

 

 何故だろう、最後の一文が要らない感半端ねぇ。

 やはり先のアレは無しにしよう。

 最後の一文さえ抜かせば、上出来な答えだ。

 

「では、お邪魔しま―――ますた…?」

「A-Zさん、少し話を聞いて貰えますか?」

「…あづみ様から先に尋ねてきた…という事は、ますたがここにいるのには何か理由があるんですね。」

「流石A-Zちゃん、誤解が生じなくて済む。」

 

 あづみさんと俺。

 そして、外に出る為に俺のコートを貸しているA-Zちゃんの三人でひそひそと喋り始め、あづみさんがA-Zちゃんに何故俺がここにいるのかを説明をする。

 彼女も最初は「店員を呼べば済む話では?」と疑問を抱いていたが、話が進むに連れて納得した表情を見せていった。

 だが、俺には一体何処に納得したかは分からなかった。

 

 話が終わると、A-Zちゃんは俺の脱出の手伝いを快く受け入れてくれた。

 彼女が協力してくれるなら、割かしどうにでもなりそう。

 

「何か良い方法は無いかなぁ。」

「ますた、そんなの簡単。あづみ様が最初に出てリゲル様の注意を引く。その間に私とますたが出ていって、後は私がますたを見付けてきたかの様に演じれば。」

「ほう…やはりA-Zちゃんは賢い子だね。」

「私には思い付かなかったよ…」

「無理もありません。例えそれでリゲル様の注意を引けても、私がますたを見ていたでしょうから。……さぁ、策は決まりました。早速行動に移しますよ。」

 

 頭の回転が早いのか何なのか。

 A-Zちゃんの判断速度には敵わない。

 決めるまでが早ければ、決めた後の行動すら早い。

 素晴らしい実行力だ。

 疲れないのか、心配になる事が多々あるけど。

 

「…リゲル、この服どう?似合ってるかな。」

「あづみ、貴女に似合わない服なんて存在しな――ちょっと彼方で一緒に良い事しないかしら。」

「もう、リゲルったら。…良い事って何?」

「ううん、何でもないの。あづみとその服の相性はバッチリね。…黒あづみもありと。あ、脱いだ服は私が持つわ。」

 

 おっと。

 あづみさんは既に行動していてくれた。

 後は俺が出ていくだけだな。

 

「…ますた、今です。」

「有り難うA-Zちゃん。」

 

 いや本当、A-Zちゃんがいてくれて助かった。

 今回は彼女に救われたな。

 まだまだ買い物はあるし、それで恩を返そう。

 A-Zちゃんの欲しい物を買ってあげて……家とか言われても無理だけどな。

 

 そんな事を思いつつ、俺は試着室の大きなカーテンの端から登場。

 リゲルさんは、試着室から離れた場所であづみさんと仲睦まじくお話している。

 何とも誘導が上手い事で。

 

 他に周りには誰もおらず、無事に脱出成功。

 後はA-Zちゃんと二人で、あづみさんとリゲルさんの所に行けば――

 

「………」

「………」

「………」

「………」

 

…何だ?

 俺の目の前に髪の毛が緑色の、可愛い女の子が立っているぞ。

 

 衣服は全体的に真っ白で、大きな帽子を被っている。

 鍔が広く、深く被れそうな真っ白い帽子。

 女の子の頭が丸々入ってしまいそうな帽子だ。

 

 服は至ってシンプル。

 袖の無い、腕を出すタイプの上衣。

 ひらひらと揺れる、何処にでもありそうなスカート。

 それが一つの服として完成した、ワンピースと呼ばれる物。

 女の子が身に着けていた服は、真っ白なワンピースだった。

 

 露出した両腕は、あづみさんの着けている「アームロング(黒)」という手袋に似た「アームカバー(白)」を着けている。

 一見すれば同じ物に見えるが、アームロングが肘まで覆う長い手袋に対し、アームカバーは腕全体を覆い、且つ指先は使いやすいように露出している長い手袋の事。

 単純な長さで言えば、アームカバーの方が長い。

 目の前にいる女の子はそれらを組み合わせた衣服を――

 

「だいすけ、どぉしたの?」

「……きさらちゃん、此方に来てくれる?」

「うぃ!」

「あれ、大祐?今まで何処にいたの。探してた――よりも!あづみが凄く可愛いの!これ、大祐が選んだんでしょ?良いセンスしてるわね!」

「リゲル!?…はぁ、大祐くんに反応する速度まで速くなってきてる。」

「リゲル様、ますたは彼方で服選びをしてました。私が一緒に連れて来たのです。」

「あっ、そうだったの。なら見当たらないのも仕方無いわね。私達とは逆方向だもの。」

 

…死ぬかと思った。

 きさらちゃんの元気な返事で、リゲルさんが此方に気付いてしまった。

 だが、又もやA-Zちゃんの神対応カバーに助けられる。

 彼女の対応力は見習うべき物だ。

 もうスパルタでも何でも良いから、A-Zちゃんに教導して貰おうか。

 

‐‐‐

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。