Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜 作:黒曜【蒼煌華】
お付き合い頂ければ幸いです。
(平和な世界が終われば修羅場ですが。)
全員の服(俺以外)が決まったところで、店員さんを呼んで会計を済ませる。
再度服を着直したきさらちゃんを含め、四人の試着姿を見た男店員に「…チッ」と、軽く舌打ちをされた。
舐めプですか?舐めプなんですねこの野郎。
店長に知らせて解雇させるまでに導いてやろうか、ああん?
…そんな事よりも、会計が洒落にならなかった事は皆には内緒だ。
言ったら絶対に気にするから、この子達は。
これも殆ど、自分の趣味全開で選ばせて頂いた物なのだが。
全員が嬉しそうに、A-Zちゃんの珍しい笑顔が見れて良かった。
まぁ、会計の話は忘れた事にして放置しておこう。
早く帰ってケーキが食べたいものだ。
皆何時もの服に着替え、買った服は袋に詰めて貰い、帰宅の準備を進めた。
着替えたり脱いだり着替えたりと、大変そうなきさらちゃんだった。
‐‐‐
帰っている途中、何処からか戦闘音が鳴り響く。
それはヴェスパローゼさんのテリトリーに近付く次第に、大きくなっていった。
不安になった俺はその場からダッシュでヴェスパローゼさんの元へ。
彼女の身に何かあったら大変だ。
走り始めて間も無く、ヴェスパローゼさんのテリトリー付近に到着。
すると其処には異様な光景が広がっていた。
「蜂達が…」
「しぃく!」
何者かに奇襲を喰らったのか、蜂達が力無く地面へ横たわっている。
その光景を見たきさらちゃんは走り出し、一匹の蜂を腕に抱える。
シークと呼んだ理由は、この蜂の名前なのだろう。
他にもシークに似た蜂達が、多数転がっている。
「一体何が…?」
「それを考えるのは後です。先ずはヴェスパローゼさんの安否を確かめるのが先ですから。」
死んでいる蜂達を気にするよりも、俺達を庇ってくれたヴェスパローゼさんの方に気がいってしまう。
彼女一人の状況で襲われたら一溜まりも無いだろう。
一刻も早くヴェスパローゼさんの安否を確認したいと、蜂達の死骸を越えて彼女の住まう樹へ前進する。
「うらぁぁぁ!!!」
ある程度進んだ所で、昨日自分達がお世話になった家(らしき樹)が見えてくる。
…だがそれと同時に、叫びながら何かを振り回す人形の何かが目に映った。
「彼奴が事の元凶ね。今直ぐにでも排除して…」
「リゲルさん、待って下さい。…あれは――」
「ますたのお知り合いか何かですか?」
知り合いも何も、あのシルエットは遠目に見ても直ぐ分かる。
あんな、レストランで働いてそうな服を着てる奴なんて一人しかいない。
少なくとも俺は、そんな衣服を好き好んで使う奴なんて一人しか知らない。
そう、自分の一番の親友…前世でも親友だった――
「四人は此処で待機してて下さい。俺が穏便に済ませるので。」
「大祐くん…気を付けてね。」
「アレは敵――いいや、アレは此方サイドの人間。謂わば仲間です。」
「えっ?でも、あの人の巣に危害を…あっ。」
どうやら、あづみさんは気付いたらしい。
何時何処で知り合ったのかは分からないが、後で聞くとしよう。
取り敢えずはあの暴走機関車を止めなければ。
バトルドレスを持たない非力な俺は、それでも相手方に近付いて行く。
そして暴れ馬と化している親友Hの目の前に立ち、大声を出した。
「此処で何をしている、へっきー!!!」
「大祐か!?退け!俺は蜂が大の嫌いなんだよ!!」
へっきーが蜂嫌い、そんなのは知っている。
蜂を苦手とする訳ではなく、唯単に嫌いなのだ。
理由なんか一つ、林檎が食われるから。
元々へっきーは前世で、農業に関する事ばかりの知識、経験を備えていた。
あれだ、一見した偏差値は何れもこれも平均以下だけど、ある能力に突出し過ぎている奴。
それだけで全国一位を取れる程に、その能力に長けている人間。
それがへっきー、農業人間なのだ。
それとこれとで何が関係あるのか。
単純に蜂は林檎を餌として食べてしまうからだ。
特に雀蜂、あれは最早林檎を主食にしている。
そんな奴がへっきーの視界に入ってみろ。
一瞬で死ぬぞ、というか殺されるぞ。
…きさらちゃんが呼んでいた其処らで御陀仏なさっているシークとやらは、どう見てもその雀蜂にしか見えない。
そりゃあへっきーは容赦無く殺すだろう。
「だからって…取り敢えずは話を聞け!」
「ったく、無傷でいるか峰打ちされて気絶するか、出来れば前者を選べ!!」
「へっきーは気が短過ぎるんだよ!良いから話を聞いてくれ!!」
「…あーはいはい分かったよ、バトルドレスを装着しろ。そして覚悟しろよ!!!」
そう言いながらへっきーは周りからリソースを吸収、緑色の粒子で創られた剣を俺に振り翳す。
殺すという考えを持たないだけ、まだ良心的な方か。
「安心しろ、死にはしない!!」
「そうはさせないわ!」
バトルドレスを装着出来ない俺は、へっきーの攻撃を躱す事しか行動が取れない。
だがへっきーは、俺が反応仕切る前に勢い良く踏み込みを踏む。
危うく緑粒子の剣が掠る寸前、リゲルさんがビームサーベルで攻撃を受け止める。
「貴方、大祐の親友なんでしょ!?何で斬りかかってくるのよ!」
「五月蝿い!外野は黙ってろ!!…おい、大祐。女に守って貰って自分は見物客気取りか?」
「へっきーが知らないとは思うが、俺には今、バトルドレスが無い!だから戦えないんだ!信じてくれ!!」
「何を言うかと思えば!………ちょっと、嘘やろ?」
俺の一言に呆然とするへっきー。
その隙に、リゲルさんがサーベルでへっきーを弾き飛ばす。
俺が危ないと思ってくれたのか、へっきーとの距離を離したらしい。
「大祐、怪我はない?」
更には俺の心配をしてくれる優しい彼女に、改めて有り難い存在だと感じた。
リゲルさんが居てくれなければ、へっきーの好きな様にされるところだった。
余裕で対話出来ると思ったら間違いでしたな。
「助かりました、リゲルさん。貴女は傷付いてませんよね?」
「うーん…体が少し重い位かしら?リソースが減った感じ。」
「…へっきーはリソースを喰らって自分の力にする能力持ち。ですが、リゲルさんが無事なら良かった。」
何はともあれ、彼女の身に何も無くて安心した。
「…大祐、今の話は本当か?」
リゲルさんと話をしていると、いつの間にかへっきーが横に立っていた。
流石、空気に紛れる程の影の薄さは健在か。
「くっ…大祐から離れなさい!」
「離れたら話したい事も話せないだろう?で、バトルドレスは。」
「…装着出来ない理由が、俺にも分からない。一応ステータス画面みたいなのは表示されるんだが。」
「成る程…さっきはごめんな。ちょっと周りが見えて無さ過ぎだったわ。」
ちゃんと謝ってくれる辺りがへっきーらしい。
其処らの「自分がやりました、けど謝りません」みたいなたちの悪い連中とは違うからな。
まぁ、そんな奴を相手にした経験は滅多に無いけど。
「…へっきー、俺は何と言われようが構わんさ。先の事もあまり気にしてない。」
「そうか、でも本当に悪か――」
「けどね、リゲルさんには謝って欲しい。この件には関係の無い彼女にあんな口を聞いて、俺は許さない。」
事実、俺は今凄く腹が立っている。
自分の大切な存在だからこそ、それを対象にあんな事を言われたんじゃ許せるものも許されない。
リゲルさんは気にし過ぎよと声を掛けてくれるが、どうやら俺の問題の様だ。
彼女に謝ってくれなければ、制裁を喰らわせてやろう。
今の俺にそんな事は出来ないが、バトルドレスを再起動させた時にでも虐めてやろうか。
最早親友に対する想いが無くなってきたな。
仕方がない事だ、俺の一番はあづみさんとリゲルさんなんだから。
…き、きさらちゃんですか?あの子に関しては年齢的なアレがありまして…。
「えっとな…さっきは本当にすまなかった。」
「大祐が無事だったから良かったものの…次は承知しないから。」
リゲルさんが笑いながら、指をポキポキと鳴らしまくる。
彼女の背後からは鬼神が現れてきそうな程に、恐ろしいオーラが漂っていた。
やはりリゲルさん、自分の身内以外には厳しい。
何時もあづみさんを最優先する、優しいお方なんだけどなぁ。
「はいっ!すみませんでしたっ!」
次は絶対殺されると察したのか、へっきーは全力でリゲルさんに謝った。
じゃあ何だ?さっきのは嘘の謝罪だったのか?確かに棒読みではあったが。
「大祐くんっ!」
「だいすけっ!」
「あづみさんにきさらちゃん、それにA-Zちゃん。この人は安全だから安心して。」
「人を道具みたいな言い方しやがって。幼女に抱き着かれて御満悦か?お?お?」
「よおじょ?」
へっきーの言葉を聞いた瞬間、俺は反射的に親友を殴り飛ばそうと考えた。
しかし、きさらちゃんが俺の足にくっ付いて離れないので断念。
本当は今直ぐにでも一発殴りたい。
「ははっ、冗談冗談。モテモテなのは相変わらずか、このハーレム男め。」
「俺にそう言っておいて、何時か自分が後悔する羽目になるんじゃないか?」
「誰がお前みたいなハーレム男になるかよ。俺は一途な方が好みでしてな。」
「そう言えば、あの上柚木綾瀬って女性とはどうなの?現在進行形で。」
久しぶりに再会したと思えば、俺を殺しに来た二人…というか一人と一匹組に付いていって。
その後の進展は聞いていなかった。
あの一人と一匹組が襲って来なかった事を考えると、へっきーが止めてくれてたのかもしれない。
「あー、綾瀬嬢か。あの子はツンツンし過ぎてて駄目だったわ。俺に興味持ちそうに無かったし。」
「とか言いながら、後で連れてきたりしてな。」
「お前が一番連れてきそうだわ。女の子が増えて、増えて、増え続けて。最終的には何人が大祐の虜になる事やら。」
「へっきーも可能性は充分にあるからね。」
「無い、このブサメンにそれは無い。」
「此奴の虜になってる女が、良く言うわ。」
あ、リゲルさんがプッチンした。
明らかに苛々MAXで、今にもへっきーに斬りかかりそうな勢いだ。
既に両手にビームサーベルを構えて、片方をへっきーに突き付けている。
これはまずいと、俺はリゲルさんの後ろから両腕を抑えてホールドする。
正面からだと俺が殺られる可能性があるし、何より抱き合っている風にしか見えない。
そんな光景をへっきーの前で見せてみろ。
脳内真っピンクのこれは、変な事を考え兼ねない。
抑える手段としては、どう考えても後ろからしか無いのだ。
「リゲルさん、落ち着いて。俺の虜とか言われて怒ったんでしょう?」
「それは…違う。」
え、違うの?
「…大祐の虜なのは事実。でも、それを馬鹿にされた感じが苛つくの!」
「え、えぇ…」
俺としては物凄く嬉しい返事が返ってきた。
だが、リゲルさんの考えを理解出来ない俺は府抜けた声を出す。
彼女はプライドの高い女性だ。
自らが好いた相手を「此奴なんかの〜」的な口調で物を言われたのが彼女の頭に来たのだろう。
「貴方より大祐の方が、何倍も!…その…えと…」
「あ?何で急に吃ったんだ?まさか言葉が思い付かなかったりな。」
「ちっ違うわ!これを口にするのは…少し恥ずかしくて…」
そう言いながら、リゲルさんは此方をチラッと向く。
その表情が何とも可愛らしい。
正に、恋する乙女の様な顔をしている。
「それなら無理に言う必要は無いと思いますよ。…何なら、後で俺だけに聞かせて下さい。」
「…うん。」
わぉ、リゲルさんが「うん」って返事してきたの初めて。
何だか新鮮な感じがする、素晴らしい位に可愛い返事だ。
しかし、リゲルさんが歳相応らしからぬ言動をするのは慣れない。
可愛いから何回もして欲しいという俺の欲は置いといて。
取り敢えずへっきーに事情を話した。
今まで何があったか、何故蜂の味方をしているのか。
後はへっきーが気になった部分を、俺が簡潔に話した。
ややこしくなるのだけは避けたいからな。
そんなこんなで話を進めていると、ヴェスパローゼさんが自室から出てきた。
何やら騒がしいと感じたせいなのか、それにしても遅いよな。
出てくるならへっきーが暴れ始めた瞬間に出てきても良かったと思う。
マジで分からなかったとかなら話は別なんだが。
「…んで、この子がお前の仲間になったのか。」
「いあっ!」
へっきーがきさらちゃんに手を伸ばすと、丸で拒否反応を示すかの如く距離を取り、俺の後ろに隠れる。
そんなきさらちゃんの頭を撫でてあげると、警戒の表情が一瞬にして笑顔に変わった。
その時のへっきーと言えば、何とも面白い反応を見せた。
軽く舌打ちをし、石ころを蹴って、その石ころが木に跳ね返って。
最終的に自分の額にぶち当たった。
俺は必死に笑いを堪えていたが、あまりに面白くて耐えられず。
「くっははっ…」
小さな笑い声を溢してしまった。
「おいそこ!笑うな!」
とは言われてもなぁ。
今のは明らかに笑う所だろ。
というか笑うのを我慢しただけ有り難いと思って欲しいものだ。
本来なら全力で笑っていたのだから。
…何か性格悪くなってないか?俺。
へっきーと一緒にいると何時もだ。
親友の調子に乗っていこうとすると、何故かこうなってしまう。
まぁ、本人が気にせずいてくれるから有り難いもんだ。
「…それで、私の僕達が横たわっているのはどう説明してくれるの?」
「あ?蜂なんて全部殺したぞ。繁殖力が高いからな、此奴等。一匹でも放置しようもんならそこから更に増え続ける。見つけたら即刻排除だ。」
「大祐、この人はどうするの?」
「…本当は此処に引き入れたいのですが。」
「え、何?俺は此処に住めるの?」
へっきーの調子に、ヴェスパローゼさんは少しの溜め息を吐いた。
本音はあまり入居を許可したくないのだろう。
これだけ自分の配下が殺されたのだから。
しかも本人は悪びれの無い態度を取っている。
その態度にも頭を抱えたのだろう。
「何とかなりませんかね?」
「…ま、貴方からの頼み事だから極力聞いてあげるけど。戦力にはなりそうだし、大祐に任せるわ。」
「流石ヴェスパローゼさん。話が早い。」
彼女の懐の大きさには感服させられる。
だが、ヴェスパローゼさんも少し不安そうにへっきーを見ている。
この事に関しては俺が繋ぎ目になろう。
ヴェスパローゼさんがへっきーを信用してくれるように。
相変わらずきさらちゃんは警戒心出しまくりだけど。
それに、あづみさんやリゲルさんも例外ではない。
A-Zちゃんを含めた全員がへっきーを警戒している。
自分の親友がこんな扱いなのは微妙な気分になるが、致し方無い事なのだろう。
「…何か俺、浮いてね?」
「知人が俺くらいしかいないからじゃないか?後で誰か連れてくれば良いのに。…いれば、だけど。」
「あづみに手を出したら只じゃ済まさないわよ。」
「だっ大祐くんの敵になるなら、私達も敵です!」
「きぃ…このひと、きあいっ!」
「ますた、早く部屋に戻りましょう。」
「あらあら…随分と嫌われてるのね。」
「ちょっと待って!敵対視され過ぎじゃね!?何時もの事だけどさ!!」
確かに何時もだな。
だが、不思議な事に逆も頻繁に起こる。
へっきーを好む人達は俺を第一に嫌う。
だから分かり易いと言えば分かり易い。
俺に対して険悪感満載な人達は、へっきーが相手だと凄くにこにこしている。
へっきーに気があるんじゃないか?と思うほどに。
…まぁ、どういう因果があるのかなんて分からないがそういうもんなのだろう。
其処ら辺は神様の慈悲的なアレで平等にされているという訳か。
神様…ねぇ。
「へっきーは一緒に戦ってくれるつもりはある?」
「あぁ、勿論。一人で行動するのも良いけどさ、圧倒的に効率が悪いんだよ。大祐のバトルドレスの件も気になるしな。」
「そうか…んじゃ、これから宜しく。今後の会議はへっきーを含めた三人でする事にしよう。ヴェスパローゼさんはそれで良いですか?」
ここの管理者且つ俺達を匿ってくれている彼女に確認を取る。
良いなら今後はヴェスパローゼさん、俺、へっきーでの三人で情報交換+会議をする。
断られたら今まで通り、ヴェスパローゼさんと俺だけで話を進める。
行動力的にも情報収集能力的にもへっきーは長けている。
出来れば前者が好ましい状況だが…。
「貴方が心配無いなら、私は構わないわ。」
ヴェスパローゼさんの寛大さには恐れ入る。
何時ぞやのルクスリアさんの一言は何だったのか。
寧ろ、ヴェスパローゼさんを疑う人物を疑いたくなる。
「…彼奴も、この世界に来ていればな。」
「へっきー?どうかした?」
「ん?いやなぁ…取り敢えずは忘れてくれ。あー、あと、これから宜しくぅ!」
「…急に何時ものへっきーになったな。情緒不安定過ぎるぞ。」
「その言葉、そっくりそのままお返ししてやるよ。」
何時もと変わらない親友とのやり取りを交わす。
それを見ていた五人は、少しだけへっきーから警戒心を解いた。
…いや、厳密に言えば三人か。
きさらちゃんは未だに恐がっているし、リゲルさんは警戒心よりも敵対心が凄まじい。
他の三人は、俺とへっきーが何の隔たりも無く会話しているのを見て警戒が薄れたのか。
それほど威圧感を感じなくなった。
さっきまではその威圧感で押し潰されそうだったのに。
…そんな訳でへっきーが味方となり、今後は益々情報が得られそうだ。
自分達にとって有益な情報は、何よりの武器となる。
へっきーとしては、この世界の知識が足らな過ぎるという理由もあって味方になったとか。
ある意味戦力が増えたようなものだ。
俺が戦えない分、へっきーに戦って頂こう。
その分俺は違う事に専念するか。
‐‐‐