Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜   作:黒曜【蒼煌華】

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第四十ニ話: 好誼 ☆

「隠すべき事なんて無い。直球ですまないけど、あづみ…俺は君が好きだ。」

「ふぇ…」

「そこに理由なんて必要ない。俺は唯、あづみを愛しているんだ。…出会ってそんなに経つ訳じゃない。況してや過度に親密になった訳でもない。だけど…俺はあづみが好きなんだ。」

「………私は…」

「迷惑な話かもしれない。告白するまでの過程をすっぽかしてまで想いを伝えているんだから。」

 

 出会って半年も行かない内に告白。

 相手方もそりゃ困るだろう。

 だが、俺は今の内に自分の想いを打ち明けなければ後悔する。

 あづみさんには申し訳ないが、初めての告白が女性からなんて嫌なんだ。

 俺はアニメやラノベみたいな鈍感系主人公なんかじゃない。

 ああいう類いの男共を見ていると苛々して仕様が無い。

 何故女性の方から告白させる?

 相手の気持ちを知らなかったから?

 それでいて相手から告白されたら後に続くように自分も告白?

 

 冗談じゃない。

 

 自分がその子を想っているのであれば男は自らが我先に告白するべきなんだ。

 フラれる心配?そんなの女性の方こそ思っている。

 更に女性は男性よりも、恋愛に於てはデリケートなんだ。

 その分フラれれば心に深い傷を負い易い。

 そこから派生、若しくは悪化でヤンデレと化すのだ。

 

 さて、ここからが本題だ。

 

 女性はそのリスクを背負ってまで告白してくるという事だ。

 「男も色々苦労している」、「それこそ女性優遇の世界に変わりはない」と言われるかも分からない。

 だが、女性優遇の世界という意見は否定しない。

 

 前者に限っては先程話した通り、女性も相応のリスクを背負っている。

 それは確かに男性も同じだ。

 だから今この場であづみさんにフラれたとしよう。

 俺は直ぐに立ち直れずに意気消沈するのは目に見えている。

 しかし、ここで分岐点が現れる。

 フラれたから萎えてずっと意気消沈しているか、その子を振り向かせる為に頑張るか。

 俺は迷いもせずに後者だ。

 意気消沈なんて無駄な時間を費やす位なら、また頑張って相手に振り向いて貰おう。

 唯唯何もしないで時間を過ごす無駄な時間があるのなら、その間に動く。

 そして再度告白…当たって砕けろだ。

 

 此処でしっかり分岐点が出現するだけ、女性よりも男性の方が精神的に強い事が見受けられる。

 女性の場合、そんな直ぐに立ち直れない。

 既に分岐等存在しないのだ。

 だから男性から告白しろって事だ。

 

 しかしそこでまたフラれてその女性に彼氏が出来、それを憎んで女性諸共彼氏を殺すみたいな昼ドラ演出は要らないから。

 そこまでするなら強姦でもなんでも…いや待て、それだけは駄目だ。

 

…ま、女性にリスクを負わせる位なら男性が背負えっていう俺の持論。

 否定的な声が上がるかもしれないが、別に間違った事は言っていない。

 が、これは飽くまで両思いパターンの時だ。

 本当に相手の気持ちに気が付かないなら別問題。

 そこに関しては女性からじゃないと此方も気付けないし。

 逆もまた然り。

 

…恋愛とは、何とも複雑で。

 

 因みに女性優遇の世界を否定しないと言ったな。

 あれは本当だ。

 女性が居なければ子孫を残せないし、何より感情的にも男性より脆い存在だ。

 だから男は女を守ってあげねばならない。

 

 いやそりゃあね、女性の見た目が○ン肉マン的だったとするぞ?

 外見は強そうに見えても、案外精神的に弱い。

 見た目が○ン肉マンみたいな女性なんて俺は嫌だけど。

…話が脱線した。

 まぁそれ位に女性は儚い存在だという事だ。

 

 兎に角、それは男女平等に同じ。

 女性は比較的、男性よりも脆いってだけで。

 生まれつきの性格も関わってくるから確かではない。

 それでも、男性は女性を守ってあげようねって話。

 

 正直…どうでも良い持論だったから無視して頂いて構わない。

 結論は「男がリスクを背負え」。

 そこはいざその場面に立ち会わないと分からないかもしれないが、理解出来たら理解出来たで相当だ。

 その人はしっかり女性を優先している紳士だ。

 おめでとう、君の様な人が俺みたいにならない事を願うよ。

 この録でもない俺みたいな人間に。

 

「これまで二人には本当に迷惑を掛けてきた。心配だって、幾らさせた事やら。」

「ううん、私とリゲルは気にしてないよ?それにどんな状況でも、大祐くんの事は心配。…貴方には死んで欲しくないから。」

「そう言ってくれるだけで有り難いな。あづみみたいな子が幸せになれないこの世界を、神様を恨むよ。」

 

 笑い、冗談混じりに受け取らせてしまったかもしれない。

 しかし俺は本気だ。

 各務原あづみという女の子を幸せに出来るのであれば、悪にでもなると決めたのだ。

 もしかしたら俺がこの世界に転移してきた理由は、これなのかもしれない。

 だとしたらその使命を全うするまで。

 

「…でも、今の私は幸せだよ。大祐くんとリゲルと一緒にいられて。」

「人とは自分が良ければそれを勝手に自己解釈してしまう。自分さえ幸せに何不自由無く生きられれば、他人を容赦無く蹴り落とす。…あづみは人として珍しい、他人想いの子なんだ。そんな君を傷付ける奴等を俺は許さない。」

「私は…」

 

 と言い掛けて、あづみさんは言葉を見失った。

 一体何を話すつもりだったのだろうか。

 彼女が自ら話すのを止めたという事は、彼女自身で思うところがあったからなのか。

 だが、深い詮索は止しておこう。

 今は俺のターンだ。

 

「あづみに危害を加えるのであれば、誰であろうと容赦はしない。君を縛る物は俺が排除する。」

「私を…縛る物…」

「…本来、あづみは報われるべき存在なんだ。そんな君が何故縛られる?もっと…自由に生きて良いんだよ。」

「自由に…私が?」

「これはリゲルにも言える事だね。二人は幸せな世界で暮らして欲しい。笑顔が絶えない世界で。」

 

 何故自由になれない。

 何故自由に生きられない。

 これでは青の世界という大きな籠に入れられて、自由に羽ばたけずにいる鳥じゃないか。

 こんなに献身的な女の子が、あんなに一人に対して尽くしまくる優しい女性が、何で自由を奪われる。

 丸で意味が分からない。

 青の世界の為に尽くせ、だがお前達の自由や幸せは保証しない。

 そんな理不尽があって堪るか。

 

「だから俺は二人が何不自由無く暮らせる世界を創りたい。もしそれが叶わぬ夢だと言うのなら、俺は二人の邪魔立てをする存在…自由を脅かす存在から何としても二人を守り抜く。例えこの身が滅びようと。」

「………」

「此れからまだまだ、辛い事は壁として沢山現れる。その壁をぶち壊して…いや、壊せなくとも、二人をその脅威から死守する覚悟は出来ている。」

 

 俺の話をあづみさんは無言で、此方との視線を一切逸らさず真面目に聞いている。

 頬は赤く染まりつつも恥ずかしがっている様子は見られず、この話を何処までも集中して聞き続けていた。

 だから俺も…最初から恥ずかしいなんて思いは無かったが、躊躇なんてせずに今までずっと思ってきた事をあづみさんに話す。

 そして俺は最後に。

 

「さっき話した内容を踏まえて改めて告白させて貰うよ。…あづみ、君の事が大好きだ。何としても守り抜く。」

 

[限界経験値を突破。特殊能力『好一対』『自由の剣』『探知』『対話の光』を解放します]

<限界経験値を突破。新バトルドレス『ストライク』『フリーダム』を解放します>

 

「…大祐くんっ!」

 

 先程まで無言の境地にいたあづみさんが急に体を前に出す。

 そのまま俺の胸元に飛び込んで来、俺はあづみさんを受け止めきれずに後ろへ一緒に倒れてしまう。

 元々はリゲルさんと二人で使う用のベッドなのか、大きさが其れなりにあって助かった。

 でなければ壁に頭を打つ処だったな。

 

 ふと、あづみさんが胸元で泣いていた。

 俺の右手をぎゅっと握りながら。

 そんなあづみさんの下になりながらも左腕で彼女を抱き締める。

 

 自分よりも圧倒的に小さい体…強く抱き締めれば折れてしまいそうな位に細い。

 何時もの服で露出していなかった腕も、俺が選んだ服で露になっている。

 華奢な腕…正にこの言葉が当て嵌まる。

 俺の手を握る彼女の手は、小さくて細(さざれ)て…けれど温かくて。

 何時も冷たい俺の手とは大違いだ。

 

「…私も、大祐くんが好き…ううん、大好きです。あの時からずっと…貴方を見るだけで、心がきゅうと締め付けられて…」

 

 彼女は涙声になりながら、今にも崩れ泣きそうな精神を保ち、俺に自分の心の内を解き放っていた。

 

 僅かに震える彼女の左手をぎゅっと握り返す。

 それだけで彼女の震えは少しずつ治まっていく。

 ゼロ距離で感じる彼女の心臓の鼓動。

 安堵するかの如くゆっくりと鼓動する物では無く、其れ処か常に早い鼓動を繰り返している。

 それだけで彼女の身に何れだけ負担を掛けているかが手に取る様に分かった。

 

「苦しかったよ…この胸の痛みが、何時消えるかなんて分からなかったから…」

 

 それでも、あづみさんは話を続ける。

 

「大祐くんにこの気持ちを…痛みを打ち明ければ、もう二度と苦しくなる事は無いって思ったの。…でも、それを否定されたらどうしようって、胸の苦しみや痛みが増すだけなんじゃないか…って。」

「………」

「けどね、それ以上に大祐くんが好きで…堪らなくて。何時か絶対告白するんだーって、自分の心に誓ったんだけど…」

「俺にどう想われるかが怖くて?」

「…うん。だから今までこの想いを話せなかったの。」

 

 俺と理由が瓜二つ。

 全くもって同じ理由で告白出来なかった、と。

 

「俺はあづみさん――あづみに超絶アピールしてたんだけどな。」

「それは私もだよ?…恥ずかしかったけど、大祐くんに抱き付いたりとかして…。」

 

 え、あれってそう言う意味だったの。

 てっきり再会出来て嬉しい位なのかなと思っていたんだが…。

 勝手な自己解釈は外れだったようだ。

 

「俺も、あづみさんの頭を撫でたりとかして……あれは違うか。あづみさんが可愛いあまりに撫でてしまっただけだった。」

「えへへ…何だかお互い様だね。」

「ですなぁ。」

 

 俺のは恐らく論外だが。

 取り敢えずあづみさんの体を支えながら、一緒に自分の体も起こす。

 その際に仕方無いのだが、とある事案が発生してしまった。

 伸ばしている俺の足…というか太股の上にあづみさんがちょこんと乗っかっているのだ。

 

「…?どうかした?」

「い…いや…」

 

…あまり気にしてはいけないのだろう。

 あづみさんの、ニーソを穿いていない太股部分が直で俺のズボン越しに感触が伝わってくるという事を。

 触れ合うのがズボンとズボンならあまり気にはならないかもしれない。

 だが、どちらか片方が直の肌で触れ合ってしまうと…服を着ているor穿いている方は違和感が半端ないのだ。

 衣服同士が擦り合わないからな。

 これは…まぁ、これも体感してみないと分からない。

 本当は今直ぐにあづみさんに教えたいが、それもそれで気が引けるというもの。

 

 あづみさん!貴女の肌、太股が直に触れて精神衛生上宜しくないです!

 

 何処の変態だよ。

 元から幼女に手を出す変態だろだって?

 俺はロリコンじゃねぇ!

 

「はぁ、やっぱりあづみさんは可愛いなぁ…」

「ふぇぇ!?うぅ〜///」

「あづみさんの外見、中身…内側というか心。それに加えてその反応、全てが可愛い。そしてその全てが好きだ。あづみさんの好きな処を挙げるとなると、切りがないね。」

「もー…あっ!大祐くんが私を呼び捨てで呼んでない。」

「気付かない位に違和感が無いって事ですよ。んーでも、呼び捨ては無理にしろ敬語は頑張ってみる。」

 

 何時も通りのさん付け、敬語が一番の理想なんだがなぁ。

 しかしどちらか一つはあづみさんの為にしてあげねばならない。

 でなければその内拗ねてしまいそうだ。

 そんなあづみさんも見てみたいと俺の心が叫んでいるのは、気にしたら負けだ。

 無視してくれて構わない。

 

「そう言えば、あづみさんが俺を部屋に呼んだ理由って。」

「前に告白みたいな事を言われた時、有耶無耶になっちゃったから。ちゃんと好きって言葉を、大祐くんの心に届けたくて…」

 

 あづみさんが凄いテレテレしている。

 確かに恥ずかしいよな、自分の好意を相手に届けるというのは。

 だが…これで俺とあづみさんは両想いの関係って事で良いのか?

 良いんだよな?

 

「大祐くんが初めての…えへへ…」

「前世+異世界転移からの初彼女があづみさん…で、間違いないよな?」

「…私はもう、大祐くんをそういう関係の相手と認識してるよ…?初めてのかっ彼氏さんとしてね…」

「いっそこのまま夫婦になるか。」

「ふぇぇ///!?」

 

 あづみさん、驚くのか恥ずかしがるのかどちらかにしましょう。

 それに俺達以外は全員寝てるんですよ?

 起きてこられてベッドの上であづみさんが俺に乗っかっているのを誰かに見られたら、誤解じゃ済まされませんよ?

 しかしながら、俺としてはそこまでの関係になるつもりは今の所ない。

 あづみさんが望むのであれば容赦なくなるけど。

…発情期の盛り始めた動物か、俺は。

 そうだろうとは嫌でも認めたくない。

 

「まぁ、此れからもずっと…末長いお付き合いを宜しく願い致します。」

「こっ此方こそ、宜しくお願いします!」

 

 取り敢えず話を一括りに纏め、両本人の了承であづみさんと俺は正真正銘…恋人の関係に至った。

 本当の事を話せば俺の何処に惹かれたのかが未だに分からない。

 だってあづみさんが俺を意識し始めた時って、あの一言が引き金なんだろ?

 それじゃあ俺の魅力とは一体…。

 

「あづみさんは何故、俺を好きになったんだい?」

 

 試しに質問する。

 これで「私とリゲルを守ってくれる駒だから」なんて言われたら発狂どころじゃ済まされない。

 いや、あづみさんがそんな子じゃ無い事位知ってるけどさ。

 俺の質問に、あづみさんは首を傾げる。

 

「大祐くんを好きになった理由?…えへへ、それは内緒♪」

「何でですか!あっ、けど、俺があづみさんを好きになった理由は一杯ありますよ。先ずはその献身的な所でしょ…健気な所も好きだなぁ。それから――」

「わ〜!大祐くん…それ以上は…」

 

 ありゃりゃ、本人に止められてしまったよ。

 

「…でもね、俺はあづみさんが思っている以上にあづみさんが好きなんだ。そこは分かってくれるかな。」

「大祐くん…私だって、大祐くんに負けない位好きなんだから!」

 

 おぉっと、珍しい。

 あづみさんがここまで断言するとは。

 が、同時にあづみさんの想いも十分に伝わってきた。

 彼女が俺にぐいっと近付いてきた迫気に驚いたのもあるがな。

 でもねあづみさん。

 

「少しお顔が近いですよ。…このままキスしちゃいましょうか。」

「えっ!?だ、大祐く――」

 

 冗談混じりで言ったつもりが、引き返せなくなってしまった。

 事実、俺は慌てるあづみさんの顎をクイッと上に上げて自分の視線と彼女の視線を合わせる。

 こうなってしまったからには、あづみさんに拒まれる以外にキスを避ける方法は無い。

 今の一連の流れを、空気を読んで。

 だが今のあづみさんは…

 

「きっきす…大祐くんと…初めての…あぅ」

 

…駄目だこりゃ。

 あづみさんは俺と視線こそ外していないが、目がぐるぐると回っている。

 実際には回っていないが、例えに使わせて貰った。

 それ程にあづみさんは困惑している。

 これは…何かハプニングが起きないとキス不可避なんだが。

 

 そしてそのままベッドで――やめろぉぉぉ!!

 せめてキスだけにしとけ、このど阿呆!

 自分自身をど阿呆なんて言いたくないが、そこまで考えてしまう己が怖い。

 なんかこう…自然に冗談と言える方法は無いか?

 最悪、頬にキスして終了で良いような気がする。

…うん、そうだ!そうしよう。

 あづみさんも不本意且つ冗談でキスなんかされたくないだろうし。

 

「…う、うん…!わっ私は何時でも良いよっ!!」

「えっと…」

 

 あ、あづみさん…了承してくれるのは嬉しいけど拒んでくれなきゃどうしようも無いじゃないですか。

 いや…ここは俺も腹を据えなければならない時か。

 相手が頑張って受け入れてくれているのに、その想いを無駄にする真似なんてしたくない。

 男として、自分自身が願っていた事として、あづみさんにファーストキスを捧げて―――

 

「ふと思ったんですが。」

「?」

「あづみさんってこれがファーストキス?」

「…!!!」

 

 何だろう、目の前で激しく動揺している。

 しかしそれも一瞬。

 あづみさんは自分を静めるかの様に深呼吸をし、頬が真っ赤の状態で視線を逸らしながら。

 

「…はい。」

「マジか。」

 

 一言。

 

「…まぁ、俺もファーストキスですから。慣れてないんで予め謝っておきます。」

「大祐くんのファーストキス相手が…私?大丈夫かな…大祐くんが困ったり…」

「しませんから安心して下さい。それに、俺も同じ気持ちです。此処等辺もお互い様ですね。」

「大祐くん、敬語。」

 

 おっと、あづみさんに言われるまで気が付かなかった。

 今まで敬語で話していた所為か別に違和感無かったし、何より喋り易い。

 タメ口は…悪いとは言わん、が、良いとも言わん。

 だからきさらちゃんと話す時も偶にぎこちなくなる事がしばしば。

 慣れないといけないかもしれないな。

 

「………」

「………」

 

 そして何故か、あづみさんが放った一言を最後に、部屋に沈黙が漂う。

 時間をチラッと確認すると、既に新しい日を迎えていた。

 今日一日、楽しく過ごせて幸せだったな。

 主に四人のコーディネートを楽しむ一日だったけど。

 

 再度あづみさんの方に目を向けると…彼女は静かに目を閉じ、俺からのキスを待っていた。

 しかも御丁寧に口を少しだけ開けて。

 

 頬は相変わらず赤いままで、太股に伝わってくる彼女の体温で凄く緊張しているのが察せる。

 思えばあづみさんは、ずっと俺の太股の上に乗っかっていたんだった。

 その御蔭で、彼女の唇は略ゼロ距離まで近い。

 後は俺があづみさんと自身の唇を重ねるだけで…

 

 ヤバイ、そう思うと心臓の鼓動が段々に激しくなっていくのが分かる。

 自分ではしっかりと理性を保っていた積もりだった筈なんだが、飽くまで積もりに過ぎない。

 実際に目の前で起きている事態に平常心が保てていないからな。

 

 こんなに可愛い女の子と自分が互いにファーストキス同士……興奮という名の二文字が抑えられない。

 だが、ここで己を制してこその男だろ。

 頑張れ俺!俺なら出来る!!

 

 そう強く自分に念じ、あづみさんの両肩を優しく掴む。

 

「…んっ…」

 

 唯それだけで、彼女は甘い声を出す。

 それが耳から頭に伝達されると、自身のリミッターが外れていく音がした。

 しかしまだ完全には外れていない。

 大丈夫だ、落ち着け、俺なら出来る。

 あづみさんを幸せにすると誓ったんだ。

 彼女が今求めている事をしないでどうする。

 

 そうやって己に言い聞かせないと体を動かす事が出来ない位に、臆病で心配性な性格だと実感した。

 

 そんなどうでも良い事を思い知らされた俺だが、あづみさんの肩を掴みつつ、彼女との距離を縮めていく。

 ある程度…というかゼロ距離一歩手前だけど、そこまで自分の唇を近付けてから俺も目を瞑る。

…大丈夫、あづみさんの唇の位置を間違えたりはしない。

 だって現に彼女の吐く吐息が、俺に掛かって理性を吹き飛ばしに来るから。

 しかも結構荒い呼吸だ。

 あづみさん自身の体に影響が無いか心配になる。

 

…そんな事を考えながらも…そのまま、お互いの唇を重ねる。

 

 そ・の・時☆

 

 コンコン

 ビクゥッ!!

 

「大祐、貴方この部屋にいるんでしょう?恐らく彼女とイチャイチャしている途中でしょうけど、急ぎの話があるの。居るならドアを開けて頂戴。」

 

 扉一枚隔て越しに聞こえてくるヴェスパローゼさんの声。

…の、前のドアノック音に俺もあづみさんも同時に体を跳ねらせた。

 

「はあ…はあっ…びっくりしたよぅ…」

 

 そう言いながら、あづみさんは俺の胸元に力無く寄り掛かってくる。

 恐らく今の衝撃で緊張しっ放しだった心身、共に脱力したのだろう。

 俺は倒れ掛かってくるあづみさんの体を、優しく抱き締める。

 

「あづみさん、大丈夫?」

「ふぇ…?」

 

 彼女は締まらない声を出しながら、此方を下から覗いてくる。

 未だに赤くしている頬を撫でてあげ、少しは楽にさせようと考えた。

 が。

 

「ふぁ…」

「あづみさん?」

 

 彼女は丸で糸が切れた人形の如く、目を瞑る。

 一体何事かと、急な出来事に焦りつつもあづみさんの首に手をあてる。

 

…うん、脈は止まっていないから死んじゃいないな。

 あーびっくりした!

 緊張が解けて一気に疲れが押し寄せて来たのだろう。

 俺の胸元で、くーすーと寝息を立てながらゆっくり休んでいる。

 このまま寝かせておいてあげよう。

 

 俺は何とかあづみさんをお姫様抱っこし、ベッドの上に寝かせる。

 そしてふかふかの布団を掛けてあげ、彼女の可愛らしい寝顔を見てからドアの方へと向かう。

 

「大祐、もしかして居ない―――」

「居ますから、少し静かにお願いします。今、あづみさんが寝ましたので。」

 

 俺は部屋のドアを開け、ヴェスパローゼさんに注意をする。

 

「あら、ごめんなさい。もう子作り完了しちゃったのかしら。」

「子作りとか言わないで下さい。まだ何もしてませんよ。」

 

 何でヴェスパローゼさんまでルクスリアさんみたいな事を言うんですか。

…って、ヴェスパローゼさんは女王蜂だったな。

 誰かと一回、というか何回もした事があるんだよな。

 じゃなきゃあんなに蜂は生まれてこないだろうし。

 少なからず人同士の性交が気になる…とかか?

 至極どうでも良い。

 というか病弱なあづみさんに、そんな事出来る訳ないだろ。

 彼女の体に障ったらどうするんだ。

 

「貴方今、変な事考えてなかった?」

「何の事でしょう?」

「一応言っておくけど、あの僕達は私が産んだ訳じゃないわ。況してや誰ともヤった経験なんてないわよ。」

「…話を戻しましょう。何だか生々しいです。」

 

 何で俺がこんな話を聞いているんだ?

 性交だの何だの、そういう関連の聞き手に回るのは正直苦だ。

 別に他人のそれに興味なんて無いし。

 先ずはどうしてヴェスパローゼさんが訪ねて来たのか、理由を聞かねば。

 

「話を逸らして申し訳無いわね。…ちょっと私の部屋に来てくれるかしら?」

「相談、若しくは会議と受け取って宜しいので?」

「それ以外に何があるの?」

 

 俺がヴェスパローゼさんにはっ倒される。

 今までの会話からして頭に思い付いた。

 極限まで可能性0に近いけど。

 

「分かりました、今から行きますよ。」

「丁度良いわ。一緒に行きましょう。」

「OKです。…っと、その前に。」

 

 ヴェスパローゼさんに少し待ってて下さいと伝え、ベッドに近付く。

 寝ているあづみさんの頭を何回か撫でて。

 

「ちょっと行ってくる。直ぐに戻るよ。」

「んー…」

 

 そう言い残して、ヴェスパローゼさんと一緒に彼女の部屋へ向かう。

 最後の「んー…」が、返事に聞こえたのは俺だけだろうか?

 出来るだけ直ぐに戻ってきてあげよう。

 

‐‐‐

 




各務原あづみ&九条大祐のイメージ挿絵です。
ですが、衣装は違います。
描きたくて描いただけですので…すみません。


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