Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜 作:黒曜【蒼煌華】
…これは一体どういう事だ。
戦闘中の俺の目に、どうしてあづみさんの姿が映っている?
しかも、目の前に。
バトルドレスらしき物を装着して。
更に、味方ではなく敵に。
俺は困惑しながらも、後ろに居る筈の二人の姿を確認する。
…すると、可笑しな出来事が起こっていた。
俺の後ろにはしっかり、あづみさんとリゲルさんが居る。
けど、相手にもあづみさんが居る。
そして此方側のあづみさんも驚きの表情を浮かべていた。
対して相手のあづみさんは……至ってCOOL。
…というか、あづみさんが二人も居るとか此処は天国か?
実はXちゃんの攻撃をもろ喰らいしていて、いつの間にか昇天していたとか。
いや、有り得ないか。
実際にXちゃんも俺の視界に映ってるし。
此処は天国では無さそうだ。
あづみさんが二人の時点で、既に天国と見間違える事に変わりは無いが。
「…オリジナルXIII Type,I“A-Z”、Xと共闘し、目標を破壊します」
わぉ。
やはり彼方のあづみさんは随分COOLで御座いますな。
そんな君も可愛い…じゃなくて。
そうか…この少女の名前は“A-Z”(えーとぅーぜっと)と言うのか。
そのまんまだな。
とぅの後にへぁーを付けたいのは俺だけか。
抑関係ないか。
呼び名はI(ワン)ちゃんでも良いのだが、それではまるであづみさんが犬みたいに…。
けど、あれ?
この子はあづみさんじゃないから気にする必要は…いや、見た目はあづみさんそっくりだし…。
面倒臭いし、「えーぜっと」ちゃんで良いや。
まぁ、名前の事は置いといて。
先ずもって確かめるべきは、あづみさんかどうかだ。
目の前に居る少女の全体を見て―――諦めた。
一瞬見たが、諦めた。
どう見てもあづみさんにしか見えない。
…世の中には似た奴が三人程存在するとか聞いた事あるが。
髪型、髪の色、瞳の色、体格、全てが同じとは…まるでクローンを見ている気分だ。
いつの間にか、隣からは戦闘音が聞こえて来る。
それに気付いた俺が横を向くと、Xちゃんとリゲルさんが戦っている。
…美女二人の戦い…キャットファイトですかね。
全然そうに見えないのが残念だが。
と、目の前の少女が俺に対しビームサーベルを構えた。
………綺麗な青いビームサーベル。
羨ましい。
「単独行動に移行。目標を速やかに――」
「ゴメンね、俺は君とは戦わない」
「…言っている意味が分かりません」
彼女が俺との戦闘を開始しようとした瞬間、俺はそれを否定した。
Xちゃんとの戦闘で落としてしまったアロンダイトを回収し、即座にリゲルさんの元へ救援に行く。
少し怪我を負っているリゲルさんに対して、Xちゃんは最初の狙撃一発の被弾のみ。
相手ながら、その強さを素晴らしいと思ってしまう。
直ぐにデスティニーからサバーニャへ喚装し、ホルスタービットからライフルビットを取り出す。
Xちゃんをロック、狙い撃ちを試みるも失敗。
軽く躱された。
すると、真横に又もや小さな影が現れる。
…来る事自体は分かっていたので反応速度は余裕。
ホルスタービットからピストルビットを射出し、ブレードを発生させる。
同時に“A-z”ちゃんが一閃したビームサーベルがぶつかり合い、接近戦へと持ち込まれてしまう。
リゲルさんの援護にも行けなければ、このまま接近戦をしても不利にしかならない。
だが、あづみさんにそっくりそのままのこの少女に手を出す積もりはない。
どうしたものか…。
何度も振られるビームサーベルを対処しながら考える。
勿論、一番手っ取り早いのは逃げる事だ。
しかしながら、そんな簡単に見逃してくれる訳がない。
これでは、ない事続きだ。
どうにかしてこの状況を打破しようと考えていると、ピストルビットのブレード部分が消えた。
「…は?」
唐突な出来事に、腑抜けた声を出してしまう。
ホルスタービットも、ライフルビットも、ピストルビットも、全て機能停止した。
しかも、GNマイクロミサイルまで飛ばせなくなってしまったではないか。
少し訳の分からない状態に動揺仕掛けたその瞬間、俺は何と無く勘付いた。
…あまり気にしていなかったが、恐らくリソースが切れてしまったのだ。
今更ながら思うが、バトルドレスを手に入れて直ぐの俺。
リソース量が多くない事位、自覚していた筈だ。
それがこの様。
一番大事な場面で一番やらかしてはいけない事をやらかした。
段々と体全体が重くなり、多大な隙を晒してしまう。
「自分のリソース量も把握出来ていないとは…過信のし過ぎ」
はぇ!?
あづみさんからため口されてる!
いや、何時もそうだけど。
優しい感じじゃなくて冷たい感じのため口!
…良いじゃないですか。
あ、でもA-zちゃんはあづみさんとは違うし…でもあづみさんに似てるし……あぁ、何が何だが分からなくなってきた。
あづみさんに似ていれば何でも良いのかよ。
自分で自分に突っ込みたくなる。
「…」
「おわっ!」
A-zちゃんをジーッと見ていると、無言でビームサーベルを振りかざされた。
怖いったらありゃしない。
…と、そんな呑気にしている場合では無い。
遠慮なくビームサーベルを振ってくるA-zちゃんを躱しながら、デスティニーに喚裝する。
リソース残量があるにしろないにしろ、近接戦闘はデスティニーの方が圧倒的に上だ。
試しにアロンダイトを取り出すと、しっかりビームが出ていた。
どうやら、デスティニーはまだ使えるらしい。
一度距離を取り態勢を立て直そうと離れると、A-zちゃんの武器が変わった。
結構大きなライフルを右腕に構え――。
「…狙い撃ちます」
それを見て焦った俺はブーストを横に吹かす。
パシュン
そんな感じの音が耳を掠めた。
…この音は、あの時リゲルさんが見せてくれた狙撃の――。
「リゲル!」
A-zちゃんとの戦闘に集中していると、あづみさんの声が脳内に響く。
その声を聞いた瞬間、馬鹿をやったと後悔する。
苦戦をしているリゲルさんを放って置いてしまった。
慌ててリゲルさんの方を向くと、バトルドレスがボロボロに、体には何ヵ所も傷を負ったリゲルさんが息を切らしている。
そんなリゲルさんを、Xちゃんは見下ろしていた。
遠くから見て、至極イラッとする光景だ。
「さぁ、リゲル。ベガ様の元へ帰りなさい」
「…私は何を言われようがされようが、ベガの所へ戻る気は無いわ」
「此方の用件を断った、という事は貴女は排除対象と見なします」
「各務原あづみは絶対に連れ戻せと言われましたが、戻らないのであれば貴女は排除して良いとの話です」
「よって貴女…リゲルを排除します。要らなくなった者は処分優先されます」
「なっ…!?」
次々にリゲルさんへと言葉を投げるXちゃん。
その内容にリゲルさんの表情は真っ青になった。
後ろにいるあづみさんには、どうやら聞かれていないらしい。
不安の眼差しをリゲルさんに向けている。
たまに俺にも。
しかし、先の話の内容に何かしらの感情を抱いたのはリゲルさんだけではない。
俺は怒りの感情を抱いた。
「リゲル、さようなら」
「…あづみ…!」
「やめてっ!リゲルを殺さないで!」
あづみさんの声に耳も傾けず、Xちゃんは手に持っているビームダガーをリゲルさんに振りかざす。
Xちゃんの振りかざしたビームダガーが、リゲルさんの首筋に当たり掛けた瞬間。
バチッと、ビーム同士がぶつかり合う音が響いた。
‐‐‐
リゲル視点
‐‐‐
Xのビームダガーが私へと振りかざされた瞬間、思わず目を瞑ってしまう。
手に持っている自分のサーベルで受けきる力すら残っていない私は、目を瞑る事しか出来なかった。
後悔しても遅い事位分かっている。
唯、最後にあづみの顔が見たかった。
私の一番大切な存在を。
だが、もう遅い。
Xのビームダガーが、私の首筋に当たり掛けた瞬間――
バチッ
…何故か目の前から、ビームがぶつかり合う音が耳に入って来た。
即座に状況を確認したいと思い、恐る恐る目を開ける。
するとそこには、赤と黒で色付いている機械の翼を生やした一人の男性が、Xのビームダガーを受け止めていた。
「…邪魔です、そこを退いて下さい」
私を殺し損ねたXが、地味に苛立っている。
しかし、苛立っていたのはXだけでなく私を守ってくれた男性…九条大祐もそうだった。
「大祐…どうして…」
先程までA-zと戦っていた大祐が、何故ここにいるのか。
疑問に思いA-zを見てみると、いつの間にか地面に倒れている。
一体どうやって倒したのか、疑問は深まるばかりだ。
「貴方は邪魔な存在です。リゲルと一緒に排除――」
「…黙れよ」
Xが喋っていると、今まで聞いた事のない声で大祐は呟いた。
それに対して、私は少しの恐怖を感じる。
だが、そんな恐怖も直ぐに打ち消された。
大きな実体剣でビームダガーを受け止めながら、彼は喋り出した。
「…要らないだの何だの、動けないリゲルさんに好き放題言いやがって」
「事実です。それに、ベガ様が決めた事を部外者の貴方が否定出来ると――」
「ベガが決めたからなんだよ。それに、この事はお前らが決める事じゃない」
「ベガ様の決めた事は絶対です。リゲルは、要りません」
「例えアンタらが必要としていなくても、俺とあづみさんにとっては大切な存在だ。お前達には関係ない」
聞いていれば、告白に似た言葉を然り気無く言われた。
少し顔を赤くしているのが、自分でも分かる。
「はぁっ…はぁっ…」
そんな私の後ろから、誰かが息を切らしながら走ってきている。
「…?」
それが気になり、赤くなった顔がバレないように後ろを振り返った瞬間誰かに抱き付かれた。
急過ぎて少しビックリしてしまう。
…だが、私に抱き付いて来た人物が誰か直ぐに分かった。
「リゲル…良かった…!」
「あづみ!?ここに来ちゃ危ないわ!」
「それでも…私はリゲルと居たいの。お願いだよ…少しこのままで…」
「あづみ…」
あづみに望まれた通り、私は何もせず彼女を受け入れた。
…先の大祐が言ってくれた言葉と、あづみが私を大切に想ってくれている気持ちが嬉しくて。
自分でも気付かない内にあづみを抱きながら泣いていた。
彼女も私の胸元で泣いている。
「リゲル…ずっと一緒だよ」
「えぇ…ずっと一緒に」
私は彼女を求めて、彼女は私を求めて。
これが、両想いって事なの…?。
私の中に、今までにない感情が渦巻く。
あづみは誰にも渡さない、私が絶対守り抜く。
改めてそう感じた。
…暫くしてふと大祐の事を思い出し、まだXと戦っているのかとあづみと一緒に確認する。
だが、そこに大祐は居なかった。
「…あれ?大祐くんは…?」
「待ってて、今確かめるから。……直ぐ其処ね」
リソースを探知し、大祐の居場所が確認出来た。
崩れた建物を越した先にリソース反応がある。
…が、一つ可笑しな点に気付く。
「…リソース反応が一つしかない」
「えっ…?それって…」
「大祐なのかXなのか、どちらか生き残っている方ね」
「リゲル、急ごう!」
あづみの判断に同意した私は、無言で頷く。
先程私の所まで走って来てくれたあづみを更に走らせるのは嫌なので、お姫様抱っこで移動する。
まさかあづみをお姫様抱っこ出来るなんて…。
今日1日で最高の出来事ね。
そんな時間も長くは無く、一つしかないリソース反応の元へ直ぐに着いた。
…そこには、一人の女性をお姫様抱っこしている男性が佇んでいる。
「大…祐?」
僅か二日間、されど二日間。
その二日間に見た彼とは違う雰囲気が漂っていた。
あづみを下ろすと、直ぐ様大祐に近付いて行く。
それに釣られて、私もあづみに続く。
お互いの表情がしっかりと認識出来る位に近付くと、先ず最初にあづみが喋り掛けた。
「大祐くん…大丈夫…?」
ふっと顔を上げた大祐はあづみを見て、私を見て、口を開いた。
「…俺は、大丈夫です。二人は無事でしたか?」
いつの間にか一人称が「僕」から「俺」になっている。
更に、目の輝きがほとんど消え失せていた。
バトルドレスはまだ装着している。
…それよりも、気にかかる事が。
「何故、Xを抱えているの?」
そう言うと大祐は、顔を下に向けた。
気を失っているXを見ながら。
「その理由は…今から話します」
‐‐‐
九条大祐視点
‐‐‐
Xちゃんから放たれる言葉に苛ついた俺は、反抗口調で話を続ける。
「リゲルは要らない、それだけです」
「アンタらには関係無いと言った筈だ」
何時まで経っても変わらない話し合いに、正直うんざりしていた。
話しても分からない輩ほど面倒臭い物は無い。
実際に相手をしてみなければ分からない事だが。
…此方も、相手の言いたい事は分かっている。
裏切り者は排除をしなければならないと言う言い分だろう。
それは分かる。
…だが、俺は違う観点からも怒っていた。
自分から赴きもせずに命令しか出来ないベガとやらに、だ。
自分がしたい事を他人任せにし、上手くいくまで高みの見物。
しかし、それを違う捉え方をしてしまえば話は変わる。
他人任せにしている時点であまり重要事項では無いという事だ。
その間は此方の自由にさせて貰う。
どうしてもリゲルさんを排除したいのであれば、自分で動く事だ。
「…それがそちらの言い分ですか」
「そうだ。俺がさっきから言っている「お前達には関係無い」っつうのは、君達を対象として言った物だ」
「ベガ様はそのような事、認めません。よってリゲルを排除…」
「分かった。どうしてもリゲルさんをって言うなら、俺を殺してからだ」
「了承しました」
俺の要求に、Xちゃんは返答を即座に返して来た。
それだけベガに忠実なのだろう。
その忠実性が実に勿体無い。
「…唯、彼処での場所で良いか?」
俺は指を指し、一点を示す。
戦闘場所の確認だ。
このままでは後ろのリゲルさん――何故か居るあづみさんも捲き込み兼ねない。
「構いません」
此方に部が良い話になってしまうが、Xちゃんはこれも即座に返答。
案外、此方にメリットがありませんとか言われるかとも思ったが、予想が外れた。
だが、その方が助かる。
話が終了すると、俺とXちゃんは直ぐに移動を開始。
二人に被害が及びそうに無い場所を選び、且つ平地を。
その場所に着いた瞬間に、ビームダガーで先手を越された。
情報演算処理能力での先読みで、アンチビームシールドを使って対処。
いつも通りのバチッという音が鳴り響く。
「…行き成り来るなんて、びっくりだな」
「攻撃の防衛を確認。次の手段に移行」
俺の言葉を聞きもせずにビームダガーでの連撃を仕掛けるXちゃん。
その表情には少しの焦りが見えていた。
理由は恐らく、リソース切れだろう。
俺、リゲルさん、俺の順番で戦闘を続けているせいで、もうそろそろ限界が訪れる頃か。
それでリゲルさんを排除出来ずに帰投してしまうと、ベガにみっちり説教なのかな?
…説教ではなく、調整が正しい気もするが。
「はぁっ…はぁっ…」
「…」
ん?Xちゃんが息切れをしている。
振られるビームダガー一つ一つの精度が、明らかに衰えている。
それでも俺に対しての連撃を止める気配がしない。
そこまでベガに忠誠を誓っているのか。
それは素晴らしく思うが、限界は限界だ。
「…!リソース量が…足りない…!」
リソースに限界が来たXちゃんが、これまでに無い程慌てている。
もうこれで終わりだろう。
…良かった、女性を傷付けずに終わって。
肩の傷を治して上げたくもあるが、あれほどリゲルさんに好きに言ってくれた相手だ。
気にしなくても良いだろう。
…あぁ、けどやっぱり気になる。
と、女性傷付けたくない本心が出てきた所で、Xちゃんに連絡が届いた。
「…はい。ベガ様!?」
おっと?
相手はあのベガさんですか。
直接話して怒鳴ってやりたい。
「それが…リソースが切れてしまい――アレをですか!?……了解しました」
どうやら、手短に話し合いが終わったようだ。
相手が多大な隙を晒しているのに手を出さない俺って、優しくね?
なんて馬鹿な事を思っていると、Xちゃんが俺に向き直った。
何だか、嫌々な表情をしている。
「…幾らベガ様の命令とはいえ使いたくありませんでしたが…しょうがありません」
「?」
「リソース限界、解放」
Xちゃんがその言葉を放った瞬間、彼女のバトルドレスが姿を変えた。
エロいバトルドレス→派手ながらもエロいバトルドレスに。
…変わってないやんか。
唯一変わった箇所と言えば、背中に派手な機械の翼を持っている位か。
俺とは違った翼を。
あとはバトルドレスの所々に青いラインが入っていたり、武器が備わっていそうだったり。
それ以外はあまり変わらない。
「うぐっ…はぁっ…はぁっ…」
「君は一体何を――」
「…目標を絶命させます」
質問をしてみようかとすると、相変わらずな勢いで突っ込んで来た。
だがその速さは、衰えていたさっきとは見違える程のスピード。
急いでアロンダイトでの自衛をしようと構えると、情報演算処理能力に異変を感じた。
[――――――――――]
「…ん?」
一瞬の疑問を感じていると、直ぐゼロ距離までXちゃんが接近していた。
自衛の為に構えていたアロンダイトに力を込める。
――が、そこにXちゃんの姿は無かった。
それに気付いたと同時に背後からの殺気に勘づく。
「殺します」
「…!」
いつの間に背後に…!
なんて思う頃にはXちゃんが横に振ったビームダガー…ではなく、ビームサーベルが俺の体を掠める。
ギリギリ過ぎる回避だ。
そのまま距離を取る為にバックステップを踏むが、着地点に丁度良くライフルを撃ち込まれる。
アンチビームシールドで防ぐも、直ぐに後ろへと回り込まれてしまった。
そこからは一方的にビームサーベルで乱舞を続けられる。
「くぅっ…!」
「…」
バチバチッとビーム同士のぶつかり合いが何度も響く。
その響き渡る音をBGMに気付いた事があった。
情報演算処理能力が機能していない理由が。
簡単な話、情報を演算仕切れていない。
そのせいでXちゃんの行動が先読み出来ない…それどころか、予測すら不可能な状況になっている。
少ない戦闘経験を生かしながら何とか防戦出来ているが、此方もリソースに限界がある。
多分だが、そろそろリソース切れを起こしてしまうだろう。
そうなれば此方に勝ち目は無い。
生身の体をバラバラにされて終了だ。
「…いい加減、死んで下さい!」
遂に痺れを切らしたXちゃんが、リソースを多大に消費して必殺技らしき動作を行う。
Xちゃんの周りに細長い刀の様な何かが展開される。
「ファング…!?」
展開された物体を見た瞬間、俺は防戦する選択肢を切り捨て逃げる選択肢を選んだ。
このまま防戦してしまうと切り刻まれる未来しかない。
例え情報演算処理能力が無くても分かる。
飛び道具という点ではサバーニャのビットに似ているが、彼方の武装は恐らく「ファング」。
ビームを放つ事も出来るが最大の特徴と言えば[一つ一つが小さい刀]だ。
その特徴を生かすとするなれば[ファングそのもので相手を切り刻む]事。
もしXちゃんの展開した物がファングだとすればその行為をしてくる筈。
その前にある程度の距離を――
「逃がしません…!」
「なっ!?」
だが、許してくれる筈もなく。
逃げようとした進行方向に上手くファングを設置されていた。
デスティニーの翼にもろ当たってしまい、バランスを崩してしまう。
それでも何とか体勢を立て直したが…一瞬のぐらつきに次から次へとファングが襲い掛かってくる。
「ぐあぁぁ!!」
このファング達の攻撃性が高過ぎる…!
ずっと喰らい続ければ命は無いな…!
かと言って抜け出せる方法が見当たらない。
幾らバトルドレスで体が守られているとはいえ、晒している生身の部分を攻撃されると…。
ヤバイ…意識が朦朧として――
「そろそろ止めです!」
…?
今、Xちゃんが何か言ったような気がしたが…。
気のせいか。
それどころかファングが周りから離れて行く。
…痛みから解放された感覚とは、素晴らしい物だな。
直ぐに意識を遠くにいるXちゃんに移す。
…ただ佇んでいるだけだ。
何故、何を待っているのかは分からないが、これで一度体勢を――
「たああぁぁ!!」
「!?」
急に叫びながら突撃して来たXちゃん。
アロンダイトを構え直そうとしたが、一瞬の間に俺の背後へと移動していた。
「…がはっ」
一拍置いてから腹部に激痛が走り、思わず口から血を吐いてしまった。
…しっかりと内臓まで切り裂かれた感覚。
痛みから解放された後の激痛程、悲しいものは無いよな。
そんなどうでも良い事を思いながら、遠ざかる意識を片隅に地面に落下した。
ドサッという音と共に、体に衝撃が加わる。
地味に痛い。
…ふと、胸の上に何かを突き立てられた。
少し顔を上げると、冷酷な目で俺を見下すXちゃんが見える。
「…手間を取らせてくれましたね。ですが、もうお終いです。後はリゲルを排除、各務原あづみを連れ戻すだけです」
そう言いながら、最早動くことすら儘ならない俺に対して実体剣を押し付ける。
勿論、心臓部分に。
…この実体剣、あのファングを集めて作り上げた物か。
道理で切れ味が素晴らしい訳だ。
これで心臓を貫かれたら終わりだな。
…もう、意識は無いも同然だが。
「さようなら。リゲルも後に続かせます」
俺、またこんな状況になってんの?
しかも今回は死ぬ寸前じゃないか。
…だが、俺は諦めない。
こんな絶望的な状況で何を言っているんだ、とか言われかねない。
しかし、このままではリゲルさんもあづみさんも守れない。
…二人に付いて行くと決めたのは自分。
赤の世界に向かうという提案を出したのも自分。
ならばその責任は自分で取らなければならない。
何よりも、二人を守ると決めたのだから。
…この目標を達成するには、先ずはこいつらを殲滅しなければならない。
二人の邪魔者は、俺が排除する。
「お前達なんかがいるから…二人の自由は!」
感情が高ぶり、思わず声を上げてしまう。
その瞬間、俺の中で何かが砕けた。
恐らく、善意の心が。
「この力は…!」
「邪魔だ…退けぇ!」
二人を守る為ならば…例え何を犠牲にしてでも!
そう思いを強めた俺は、突き立てられた実体剣をパルマフィオキーナで弾き飛ばした。
そんなリソース量は無い筈だが、全快まで回復している。
Xちゃんが怯んだ今なら抜け出せる…!
俺は倒れた体を直ぐに起こし、結構な距離を取った。
だが、Xちゃんは即座に切り込みに掛かって来る。
どうやっても殺す気だ。
「はあぁぁぁ!!」
全速力で近付いて来るXちゃん。
先程と同じく、いつの間にか目の前にいた。
…しかし、俺は余裕の回避を行う。
Xちゃんが全力で振ったビームサーベルをひらりと躱し、左手で右肩のフラッシュエッジを抜き取る。
その勢いで切り裂こうとするも、ビームサーベルで受け止められてしまった。
あえなく失敗。
というか、Xちゃんの反応速度が異常に高い。
リソース限界解放とやらを使ったからなのは分かるが、それにしても反応が速過ぎる。
「はぁっ…くっ…」
…速過ぎるのだが、消耗も激しそうだ。
又もや息切れを起こしている。
対して此方は、切り裂かれた筈の部分がすっかり回復している。
…二回目になるが、デスティニーにそんな機能無いけどな。
けど、攻め込むなら今だ。
もう片方のフラッシュエッジも抜き取り、一気に仕掛ける。
だが、俺の攻撃は空を切った。
当たった感触などまるで無い。
「行きなさい…そして、殺すのです!」
相変わらず速いこと。
気付かない内に遠距離に逃げられてしまった。
しかも、ファングを利用してでの戦闘をしようとしている。
俺は次々と飛び交って来るファングを躱す事も無く佇んだ。
…今なら、発動出来るかもしれない。
ファングがギリギリの距離まで近付いて…!
―――今だ。
「いっつもそうやって…やれると思うなぁぁ!!!」
俺の急な叫びと共に、背中の翼が展開。
そこから多くのエネルギーを放出。
すると、紫色に似た色の大きな光の翼が作り上げられた。
[限界経験値を突破。特殊能力『SEED(シード)』を解放します]
「なっ…!?」
光の翼を見たXちゃんが唖然としている。
が、俺はそんなのお構い無しにXちゃんに突っ込んで行く。
途中で襲い掛かってくるファングが全て、先程まで俺がいた場所に攻撃を仕掛ている。
勿論だが、意味は無い。
「何故…!?捉えきれない…!」
ファング達が意味も無く攻撃をしている理由。
先程Xちゃんが言った通り、俺を捉えきれていないからだ。
デスティニーの光の翼を展開中は、動く度に残像が生まれる。
その残像を本物の俺と認識を誤り、ファング達が意味無く攻撃しているという事だ。
無論、機械だけではなく人間にも、動物にも有効な武装。
「二人の自由を奪う奴等…許すもんかぁぁ!!」
残像移動を使い、一瞬でXちゃんに近付く。
両手に持っているフラッシュエッジを牽制として投げ、アロンダイトに構え直す。
投げたフラッシュエッジは当たり前の様に弾かれて地面に落ちた。
その間にアロンダイトを、突きのポーズで突貫する。
「これ以上は…」
Xちゃんの動きが鈍くなった。
恐らく、リソース消費が激しいせいで切れ欠けている。
ならば容赦はしない。
俺は突きのポーズのまま、残像移動でゼロ距離に到達する。
そのままXちゃんの腹部にアロンダイトをぶっ刺した。
「…」
「がっ…あっ…」
Xちゃんは腹部に刺さったアロンダイトを見ながら、少しの声を出す。
しかし、あまりの痛さに耐えられなかったのかアロンダイトが突き刺さったまま気絶してしまった。
…俺は彼女の体を支えながらアロンダイトを抜く。
途中、嫌な擬音が耳に入って来るが気にしてはいられない。
Xちゃんの腹部からは溢れんばかりの血が流れていた。
「…」
ゆっくりと地面に着地し、Xちゃんを下ろす。
本来、デスティニーに無い機能を使って彼女の腹部を回復させる。
自分に使えないのが残念だ。
何故か勝手に治っている時もあるが。
「…ごめんね」
傷付き、気絶してしまったXちゃんを見て、俺は謝った。
…どうしてか。
悪いのはこの子では無いと、心の何処かで思っている自分がいる。
悪いのは全て、ベガって奴だ。
この子はそいつの駒にされていただけなんだと。
そう思うと、罪悪感で心が支配されそうになる。
彼女は何も悪くないのに、ここまで痛みつけた自分は何なのか。
正当防衛なのは間違っちゃいないが、にしてもやり過ぎた。
…今更後悔しても遅いか。
「…よし、決めた」
俺はある決断をした。
この子達の事も、ベガから救うと。
彼女は操り人形では無い。
糸を切り、しっかりと自分の意志で動くようになるまで、俺が責任を持って。
…どうせ戻っても調整だのなんだのされるだけだ。
それはあまりにも可哀想過ぎる。
ならば、救わねば。
俺の心がそう言っている。
…仲間が増えて二人の旅が楽になるって下心が見え見えだが。
「完全に回復…。良かった。後で尋問タイムだな」
取り敢えず二人の所に戻るか。
…だけどなぁ、このままじゃXちゃんが運べない。
ぐぬぬ…やむを得まい。
お姫様抱っこの時間が訪れた。
全世ではこんな事に関して、一切縁が無かったのに。
というか、間近で見てみるとXちゃんの胸…デカ過ぎじゃ…。
――おっと、何も言っていないぞ?
俺は何も言っていない。
胸に興味が無い俺が、胸の話をする訳………え?なら男が良いのかって?
そっちの趣味は御座いません!!!
「…ふぅ」
少し荒ぶり過ぎたな。
体の疲労も限界だし、疲れて来た。
…もう疲れたよ、○トラッシュ。
どうでもよいですな。
「大祐くん…大丈夫…?」
あぁ…
疲れ過ぎて、遂にあづみさんの声の幻聴が…。
……あづみさん!?
その声を聞いた瞬間、俺はふっと顔を上げる。
そこには、凄く心配そうな目で見つめて来るあづみさんと、不審そうな目で見つめて来るリゲルさんがいた。
…兎に角、何か言わねば。
「…俺は、大丈夫です。二人は無事でしたか?」
今、自分の思い付いた言葉を繋げて口に出す。
そのせいか一人称が「僕」から「俺」に変わってしまった。
だが、急な事にも驚かず二人は頷いてくれた。
…と、今度はリゲルさんが口を開き――
「何故、Xを抱えているの?」
…リゲルさん。
随分痛い所を突いて来ますね。
いや、一番気に掛かる点がこれだろうから仕方がないが。
思わずXちゃんを見て、俯いてしまう。
…けど、何かは答えねばと再度頭の中で文字を繋げる。
「その理由は…今から話します」
振り絞った結果がこれ。
もうちょっとマシな答えはなかったのかと。
…やったんですよ!必死に!その結果がこれですよ!
「取り敢えず、さっきの場所に戻りましょ。ここは血で一杯だわ」
「え…?」
血で一杯?
またまたー、そんな冗談通じる訳――
…あ、そう言えば、自分達の傷は治っていても血はそのままだった。
テヘ☆
何処からか「テヘじゃねーよ」って突っ込みが聞こえて来る。
‐‐‐
取り敢えずさっきの場所に戻って来た。
着くや否や俺は、視界に入った一人の人間に一目散に走り出した。
それに続いて二人も走り出す。
「リゲルさん、Xちゃんをお願いします。…よっと」
「…大祐、XとA-Zをどうするの?」
そう、A-Zちゃん。
すっかり忘れていたが、この子もベガの配下だ。
ならば救出対象になる。
直ぐにお姫様抱っこをして、彼女の体を支える。
…というか、やはりあづみさんに似ているなぁ。
ここまで似ているなんて、まるであづみさんが二人いる――
「…」
…いつの間にか目を覚ましていた。
赤く、綺麗な瞳でジーっと見つめられる。
A-Zちゃんが目を覚ました瞬間、リゲルさんは臨戦体勢に入った。
俺は相変わらず、彼女の体を支えている。
そして彼女は口を開いた。
「…ここは…何処、ですか?」
「はい?」
言っている意味が良く分かりませんね。
すみません、もう一度良いですか?
そう尋ねようとすると、リゲルさんに尋ねられた。
「…ずっと気になってたけれど、どうやってA-Zを気絶させたの?」
「この子の頭に、極限まで威力を低くしたパルマフィオキーナを当てました」
「大祐くん、絶対それだよね」
…で、ですよね。
そうなりますよね。
薄々気付いてましたよ。
はぁ…どうしようかな。
記憶が飛んだからって変な事を吹き込む訳には行かないし。
ま、此方にとっては好都合だったかな。
俺が責任を持って、何とかしますよ。はい。
「…えっと、私達はどうすれば良いかな?」
「もしかして、理由要らずで俺の手伝いをしてくれるんですか?」
「うん。…だって、今回も大祐くんに助けられたからね」
「…そう、ね。あづみの言う通り。私達に出来る事があれば、何でも言って頂戴」
「二人共…有り難う御座います。…それでは先ず最初に――」
あれ?
何だか、視界がグラグラしてきたな。
意識も朦朧として…
バタッ
「ちょっと大祐!?」
「大祐くん!しっかりして!」
唐突に体の全てを抜かれた感じで、俺は力無く倒れてしまった。
二人の焦った声が頭に響く中、完全に意識を失った。
‐‐‐
リゲル先生のパーフェクトZ/Xの世界教室6
白の世界に存在するZ/Xの特長
・エンジェル
天使です。はい。
人間が天使になると、この種族へと変化する。
一番偉い天使達が「四大天使」、その配下が「十二支徒」、以下普通の天使みたいな階級になっている。
・ガーディアン
白の世界の守護者。
自分の精神で姿を変える。
見た目は「機械の中に入っている人間」。
下半身から下からは機械、上半身から上は自分の体を露にしている。
その機械の大きさが、自身の精神力に左右される。
無論、性能も。
一応階級もあるらしいが、リゲル先生は知らないらしい。
・ケット・シー
THE・ネコ。
猫。
ニャー。
マジで猫。
…なのだが、リゲル先生は大の嫌いと言っている。
この種族の特徴は、猫なのに喋る、猫なのに金銭事にうるさい、そして他人から物を盗む。
その話を聞いた瞬間、何故だかげんなりしてしまった。
猫こえぇぇ…。
・セイクリッドビースト
一言で言い表すならば、聖獣。
どのセイクリッドビーストも動物ランドしているが、基本的に群れない。
本来が群れる動物なら、そりゃ群れる。
尚、ガーディアンよりも上の立場だったり?
…そこはリゲル先生も分からないとの事。
白の世界は総じて階級(身分)がしっかり決まっている。
格差社会とか…俺だったら完璧に萎えるな。