ご了承くださいませ。
「はぁ?」
授業が終わり昼休みの時間、神道翼は気の抜けた声を上げて掲示板を見ていた。
そこに書かれていた今日の内容は、1年生と模擬戦。
最近になりこの学園には新たな制度を取り込んだ。
制度ができた理由としては私設武装組織が現れたり、亡国企業の襲撃があったりと物騒なことが世間に起きていること。
これとそれは関係あるのかと聞かれれば、関係はあると言える。
より実践的な模擬戦を行い、ありとあらゆる事態に対処できること。
まあ、こいうことになった原因は「はい、自分たちのせいです」なんて馬鹿げたことは死んでも言えない。
この年で、テロ行為を行った人間だ。とがを受ける覚悟はできている。失うものなんて、なにもない。
「まったく……困ったものだな人気者は」
さすがの翼もこれに参ったのか、あきれ笑いしていた。
「どこが、かしら」
「げっ!椿……っ!?」
これまでの長い付き合いの中、初めて溜め息をついた翼。
大したこともないのに、笑いが堪えきれずつい声にだして笑ってしまった。
「で、どうしたの?」
「あっ、いやっ、その……ね」
あたふた説明する彼に、追い討ちをかけるように言葉を続ける。
「隠し事?」
「だからその……いやだからさ」
「だからなに?」
明らかに彼女は何があったのかを理解した上で聞いているのだ。
「なんでもないって」
図星だったのではなく、知ってて聞いたのだ。一度でもよかった、慌てて説明をしようとする翼をこの目で確かめてみたかった。
「ランダム形式であんたがね。無理しないでね」
それは彼女なりの心配だった。またもう1つ、負けるなの意味を込めて。
つまり無理せず戦えってことか。
「なんとかやってみるさ」
双子の姉、吉田夏海は尋常じゃないほどの頭を持つ天才らしい
。その弟も、負けじと同じくらいの頭を持っている。
こんな天才がこの学園内に居たことは、考えていなかった。
もし戦えば、本当の自分の正体を知られるかもしれない、そんな恐怖が体を包み込む。
そのとき、帰る道中に声を掛けられた。
「まさか貴方と模擬戦できるだなんて、光栄です」
声の主は対戦相手の吉田霞海だった。第1印象は身長が小さく思わず「ちっさ!?」と口にした。
「なっ、小さい言うな!」
「20%冗談だ」
「それ、冗談じゃありません!」
面白い少年だな。なんで女装してるのか気になるが。
「チビッ子は早くお家に帰らないとママが心配するぞ」
翼は女装している彼をからかう。
「ぼ、僕を馬鹿にしてるのか?」
霞海が怒る。
「1人じゃ寂しい?」
翼はさらに追い打ちをかける。
「な、何を……」
「寂しいのだろ、一緒にお家へ帰るなら賛成だ」
「だから僕を子供扱いするな!」
今度は顔を赤くして怒鳴りかえす。
「ほ~らお姉ちゃんの……」
翼は言葉を詰まらせた。彼の視線の先には同じ身長の少女が拳を強く握り締めて立っている。
最後に「じゃあな〝霞海くん〟」と言ってさっさとこの場を去った。
翌日、2人はピット内にて最終チェックにはいっていた。
計器等に異常は無かったので、後は待機して発進を待つのみ。
対戦相手の機体は、防御と砲撃に優れたIS。だとすれば、スナイパーライフル、ビームピストルを交互に使い分け確実にエネルギーを奪うしかない。
この模擬戦のため、急ピッチに開発した〝零一式〟。専用の対アンチビームシールドを取り付け、シールド表面にビームを拡散させ、受け流す、これが組織の開発した新型装備の1つ。
「神道翼〝零一式〟、目標を狙い撃つ!」
ピットから黒色の機体が躍り出る。
グラウンドには、ISを装着した霞海が待っていた。
本当にあんな小さな体で、機敏に機体を操ることができるのか、疑問で頭が一杯だったがそれらを振り払う。
緊張感がアリーナを包み込む。
戦闘開始のアラームが鳴ると同時に、黒色の機体は空中へ飛び上がった。
「先制攻撃を仕掛ける!」
右肩に懸架しているスナイパーライフルを両手で保持すると、銃口から光りが迸るがビームを吸収された。
――何!?
〝日向〟が荷電粒子砲を構える。翼は考えるまもなくレバーを操作し、ペダルを踏み込んでいた。〝零一式〟がスラスターの噴射とともに横へ飛び退くと、放たれた荷電粒子砲が外壁を抉った。
「やるねー。怖い、怖い」
「からかっているのか!」
彼は憤るが、落ち着きを取り戻すため大きく息を吐く。
「深~い深呼吸をして……」
言葉を遮るように荷電粒子砲がからかう翼に当てる。
衝撃により地面に叩きつけられる。
「喋る暇があるなら、もう少しまとまな戦闘を――」
一条の光が霞海の側を横切る。
「いてぇーな、おい……そっちこそお喋りする暇があるなら――」
荷電粒子砲が翼の側を横切る。
「こいつと話せば、こっちのリズムが狂う」
聞こえないよう小さく文句を吐き出す。
彼の言うことにいちいちかんにさわるのだった。
「隣空いてる?」
観覧席で双子の兄を見守っていた彼女、吉田夏海に声を掛けた少年が微笑みを浮かべる。
その少年の名は星野優人。離島である春風島出身で、設置されている第8基地の軍人でもある。
「見慣れない機体だが、吉田さんは何か分かる?」
「少し前に学園へ転入した者の1人、神道翼なのです」
彼女の言葉を聞き、自分が春風島にいるとき本島の学園に転校生が4人来たと情報がまわってきたのを思い出す。
「神道翼って確か、狙撃の実力が世界5位で有名じゃなかった?」
「そうなのですが……狙撃だけをみても、そこまで強いと思わないです」
夏海は冷静に彼の動きを分析して、優人に説明を続ける。
「つまり、彼は近接戦が不得手と見ますね」
優人が彼女に確認をする。
「可能性としてはあります。星野君にとって有利なのです」
「仮に戦う機会があればの話だけどね」
とやや苦笑気味に答える。
彼らの戦闘を見ながら、2人は会話を交える。
「それより星野君、基地の状態はどうなのです?」
ちょうど1週間ほど前、星野優人が住んでいる春風島に正体不明の部隊が第8基地を襲撃。
軍の者はすぐ迎撃に応じたが、あっという間に敵に制圧され挙げ句の果てに優人は〝銀翼〟のデータを盗られてしまった。
いくら実力があっても、敵の正確な連携攻撃だとVR訓練を受けていてもうまく対処できない。
「……残念だが何人かの犠牲者がでたよ」
優人の表情が暗くなる。
自分の力なさに嘆いている場合ではない。
おそらく襲撃者は規模の小さい組織だと考えられる。基地襲撃の理由が分かったが、また狙いにくる可能性だってありえる。警戒を厳重にさせるようにはした。
後は、今動ける人員だけで修復作業を行わせ、自分も学校が終われば極力手伝うように心掛けている。
「その襲撃者はISを使ってきたのですね?」
彼女は情報を得るのが早い。それに頭脳が優秀で、自分たちの世代の中でも最も貴重な存在であると考えている。
――頼れる仲間だ
「データベースにも登録されていない……亡国企業の可能性が有り得る」
亡国企業と考えるしかない。ISを不正に入手できるのはそこしかない。
あるいはどこかの企業と裏の繋がりがあると考えられる。
「この間は、ここが何者かが攻撃したというなら、目的があるはずだ」
つい最近の出来事だ。リーグマッチにてゴーレムの襲撃。
狙いは恐らく〝白式〟の性能を知るためだろう。
優人が思考を巡らせる。ありとあらゆる考えをまとめると、1つ結論が浮かび上がる。
「亡国企業とは別で、ここ最近世間を騒がせている――あの組織じゃないか?」
現在世間を騒がせている私設武装組織〝BC〟のことだ。
扮装幇助対象であるなら武装による介入を行うと言ったものの、掲げていることは戦争根絶なのに矛盾している。
結局は武力で解決することに変わりない。
「ちょうど私もそれについて話がしたくて」
「どういうことだ?」
優人が彼女の言おうとしていることに耳を傾ける。
「今年1学年上に転入生が来たのは知ってるのですよね?」
「ああ、その1人が霞海君と模擬戦をしているんだね」
彼女が何を言いたいのか、おおよそ見当がついた。
「この映像を見て欲しいのです」
夏海がファイルを開いたのは、先日ニュースで報道された〝BC〟の武力介入を行った映像だ。だが、この映像はニュースで報道されたのと違っている。
「――まさか、どこから入手したんだ?」
優人の額に冷や汗が流れる。
「この動きに注目するのです」
彼女の指差す先を見た。
映像内で飛び回る機体を見つめる。アリーナ内で行われている動きと、映像内での動きを見比べてみると似通った点が多い。
「――確かに似ている動きが多い」
納得した頷きを見せると映像に視線を戻す。
さらに優人は言葉を続ける。
「でも僕は、彼らでないと信じたい。歳も変わらない少年なのに……」
夏海ははっきりと彼にこう言い切る。
「残念ながら、彼らは犯罪者なのです」
どうしてそこまで自信を持って、彼らは私設武装組織の一員だと言い切れるのか。
優人は、複雑な思いで試合の観戦に集中することにした。
翼はすぐさま機体を翻し、回避行動を行う。が、彼の機体の行く先を読んでビームを放ち動きを鈍らせる。
スコープで捉えたところへ荷電粒子砲が直撃した。
強い衝撃が体を襲い、機体を立ち上がらせようと上を振り仰ぐ。
目前に〝日向〟が荷電粒子の銃口が翳されていた。
銃口から光が溢れ、エネルギーを溜めている。
翼の口角がつり上がった。しかし霞海には見えなかった。
翼はホルスターからビームピストルを素早く取り出すと、2丁の銃口から光りが溢れる。荷電粒子の銃口にビームを撃ち込むと爆発が起こり、どさくさに紛れ機体を離れさせる。
「そんな!?」
霞海はただ、破壊された荷電粒子砲を見つめていた。だがそれと同時に、体の奥底から沸々と血が煮えたぎり熱くなるのを感じる。
――面白い!
あの状況でとっさにピストルに持ち替えて粒子砲を狙った。
ある程度は訓練をこなし、あらゆる状況に対応できるといった感じだ。
次の瞬間、1本の光の矢がアリーナのグランドを駆け抜ける。
豪快な爆発音が鳴り響くと、なにかが見えた。それは丸く抉られた黒の盾。どうやら防くことはできたが、とてつもない威力がある〝天装〟の前では敵わなかったようだ。
「そろそろ、僕のことを子供扱いするのはやめてほしいね」
「あの霞海って子、まだ実力を半分出してない気がする」
彼らの戦闘を見ていた倭たち。椿は不安な表情でこの試合を観戦していた。
翼の模擬戦相手である吉田霞海は、計り知れない強さを秘めていると確信し、申し訳ないが翼に勝ち目はない。
一見余裕そうな表情をつくる翼であるが、おそらくどういう手段で引き分けに持ち込むか頭のなかで考えを巡らせているはずだ。
狙撃者にとって誰の目に届かぬ場所、狙いをつけやすい高所もこのグラウンドにはない。
「倭もそう思う?」
遥が試合を黙視している倭に声を掛ける。
少ししてから彼が振り向きこう告げた。
「……俺には分からない」
再びグランドに目を向ける。
佐助が腕を伸ばし欠伸をすると動きが止まった。逆さまに見えたのは呂桃艶だ。ギリシャの代表候補生であり、この学園内では最強の名に相応しい実力を併せ持つ。
「転校生が勢揃いで、別の意味で心配なのかしらね」
佐助はとっさに彼女を睨み付ける。
ちょうど直貴がドリンクを片手に倭たちのいる席へやって来た。
彼女の存在に気付き、もう片手に持っていたドリンクを差し出した。
「カフェオレは好みか?」
「いいえ、結構よ」
ドリンクの差し出しを断ると立ち去る。
「どうやら、拙者たちの秘密を嗅ぎ付けたようでござるな」
佐助がやや小さめの声で伝える。
直貴は難しい顔をするが、ドリンクを口にしてから喋りだす。
「彼女に関しては――なるべく戦闘行為を避けたいところだが……」
「場所を変えよう」
試合を観戦しながら2人の話に耳を傾けていた倭が口を開く。
みんなは頷くとアリーナから出て行く。
部屋に辿り着くと、先程の話を切り出す。
「知られた以上、生かしておくわけにはいかないか?」
直貴がデータを参照しながら冷たく言い放つ。
「……彼女の行動に警戒するべきだ」
彼らは警戒という倭の言葉を聞き少し黙り混む。
始末する方向で行けば、必ず問題が起こる。何か名案が浮かばないかと頭を絞っても答えは出てこない。
「佐助……彼女の監視を頼む」
倭が佐助に彼女の監視を頼む。
佐助は少し驚いたように見えた。倭が直接口頭で何かを頼むのは今回が初めてだ。
いつも通り短く返事をする佐助。
しばらく一同は沈黙の空間でそれぞれ違うことを始めたのだ。
翼は焦燥にかられる。〝零一式〟のパワーがDANGERゾーンに突入していたからである。
あの攻撃を何度か受けてしまえばエネルギーは切れる。
――こりゃあまずったな……大人しく……いややるだけやりますか
自分を鼓舞し、スナイパーライフルを地面に捨てるとピストルだけ保持する。
「そろそろ決着つけましょーや」
しばらくしてから、
「いいでしょう」
と相手の望み通り、武器を1つだけにすると2人の動きは止まった。
これからよく西部劇で見る早撃ちによる決闘が始まるようだ。同時に会場も静まり、彼らの動きに注目する。
2人は、ほぼ同じ早さで武器を握ると乾いた音が静まり返った会場に響いた。
――負けた?
エネルギーの切れた黒色の機体から鳴り響いている。
試合の結果、1年生吉田霞海の勝利。機体のエネルギー残量は僅かだったが、相手より0,1秒早く撃った。会場から見ればほぼ同じ早さで撃ったように思える。
ピットにたどり着くと翼は深く息を吸い、体の中から吐き出す。
ピットに戻った霞海の元に夏海と優人が迎えに来た。
2人は「お疲れ様」とねぎらいの言葉を掛けると本題に入った。
「あのパイロットの腕はどうだった?」
「確かに狙撃は一流と言ってもいい……ただ」
霞海の言葉が止まる。
優人がやや不安な表情で彼の言葉を待っている。
「夏海の言っていた通り……映像の動きと似ていたのは間違いない」
霞海の口から思わぬ答えが返ってくる。
優人に今後第8基地は武力介入の対象になるかもしれないと夏海から注意勧告されると、納得の頷きを返した。
「なら手を打たないと――」
優人の言葉を遮るように、夏海はこう言った。
「向こうには……情報収集に長けたやつがいるのですよ?」
「とにかく、今優人は基地のことをどうにかしないといけないんだから――あとはこっちに任せろ」
霞海が基地のことをどうにかしてから考えろと伝える。優人は言葉を返す前に冷静になって考え直す。
自分も一緒になって行動はしたいが、所属する基地が被害に遭っている。修復の作業と敵襲来があってはならぬための警戒も必要なのだ。
「分かった――でも気を付けろよ」
この双子なら信頼できるからこそ納得できたこと。彼の身を心配していてはだめだ。きっとうまくこなせると。
今回は学園での出来事を描きました。
次回は舞台が変わり、そこで何かが起きるでしょう。
それではまた。