四宮VS恵・創真ペアの食戟です。
初の予約投稿なるものを使ってみました。はい。どうでも良いですね。
それではどうぞ!
合宿二日目の朝、予定より一時間ほど早く目が覚めてしまった。トーストとスクランブルエッグを作り簡単に朝食を済ませた俺は、外を散歩している。清々しい朝…とはいかないか。いやな天気だな。雨、降らないと良いけど…
ボーッと空を眺めていると、目覚ましにセットしておいた携帯が震えた。携帯をポケットから取り出しアラームを止めスケジュール表を確認して、準備のために移動を開始する。今日はバスでの移動はないし、ホテルの各会場での研修か。昨日の調子なら皆大丈夫だろう。善二の体力が心配だけど。
そんなことを考え苦笑を浮かべて、ホテルの入り口を潜った。
午前・午後の準備を済まして担当の会場で午前の講師の人と最終チェックを終えると一年生達が入ってきた。
名簿を見ながら点呼を取り、全員がいることを報告して、午前の研修が始まった。極星メンバーは善二と涼子か。
「もう!丸井君、シャキッとしなさい!」
「ふっ…大丈夫さ。諸星先輩が見てるんだ」
善二の背中を涼子が叩き気合いを入れると、少しゲッソリとしながらもそれに応える善二。気力はあるけどやっぱりちょっと辛そうだな。多少は回復してるみたいだしなんとか持ちそうかな。
午前の部も終わり、今日の午後はサポートがいらないとのことで今は部屋で書類を整理している。善二と涼子も無事、合格を貰い午後の部へ向かった。良かった。今のところ他のメンバーも脱落の報せが来てないから無事か。
作業をしていると、部屋の電話が鳴る。なんだ?何か不備でもあったか?
「はい。諸星です」
「堂島だ。すまないが午後の部が終わり次第、余った材料を別館にある地下一階の厨房に持ってきて貰いたい」
「…何かあったんですか?」
「幸平創真が田所恵と自身の合否を賭けて四宮と二対一で非公式の食戟をすることになった」
「はぁ〜〜〜!?」
つい電話越しということも忘れて叫んでしまった。
「落ち着け諸星」
「ハッ!すみません…わかりました」
小さく深呼吸をして少しだけ速くなった鼓動を落ち着かせる。
「…堂島さん」
「ん?なんだ?」
「なんでこんなことに?」
「それはだなーー」
四宮さんの研修を受けた創真と恵。創真は無事合格。でも恵は、料理はできたもののルセット通りに調理をしなかったため不合格。それに対して創真が食って掛かり食戟を四宮さんに挑む。四宮さんが一蹴するがたまたま居合わせた堂島さんと乾さんが試食をして、一考の余地があると判断。堂島さんの説得により、食戟をすることになった…と。
「ーーというわけだ」
「なるほど。わかりました。…堂島さん、俺も見学だけでも良いので居ても良いでしょうか?」
「わかった。許可しよう」
「ありがとうございます。それでは後程」
電話を切り、時刻を確認すると、もうすぐ午後の部が終わる時間になる頃だった。あの馬鹿…またやらかしたか。丼研の時といい今回の事といい…しかも相手はあの四宮さんか…再起不能にならないと良いけど…
食材を調達し、指定の場所へ保管していると、今回の創真達の相手である四宮さんを先頭にして卒業生達が入ってきた。
関守さん、水原さん、ドナートさんの三人は審査員として呼ばれたようだ。乾さんは判定が片寄りそうということで、俺と同じく見学とのことだ。
少しすると、堂島さんと創真達がやって来た。
対戦する二組が向かい合う。二組に場所の理由を説明し終えると、恵が此方に気付き驚愕している。
「ど、どうして卒業生の皆さんが!?そ、それに諸星先輩まで」
俺は、俺と乾さんは見学、他の三人は審査員ということを説明する。
「では、これより二対一の野試合を執り行うーー」
堂島さんが今回の食戟のルール説明を始める。テーマは“今日の研修で余った野菜類を使った料理”。作る品は自由だが、なるべく野菜がメインになるようにする。制限時間は二時間。そして、もう一つの条件が堂島さんから提示された。
「ーー更にもう一つ条件を付ける。田所恵、君がメインで調理するんだ」
その条件に創真達の顔が驚愕の色に染まる。恵がメイン…
「レシピは君一人で決めろ。幸平はサブとしてサポートに回れ。それでは!食戟、開戦だ!」
堂島さんによる今回のルール説明が終わり、開戦の号令が発せられた。
創真が堂島さんに異議申し立てをする。しかし、元々成立しない食戟を取り持った事、このままでは、結局創真の金魚の糞であること、遠月では生き残れない事を理由にはねのける。
「今夜、この時…田所君。君がシェフだ!」
恵の顔色が悪くなっていく。何も出来ないならせめて一声だけでも…
「めぐーー「諸星!先程の話を聞いてなかったのか?」ーー…っ。すみません…」
声をかけようとするも堂島さんに遮られ、奥歯を噛み締める。そうだ。俺が恵を…恵達を信じないでどうするんだっ…
四宮さんはメニューが決まったようで、堂島さんに一声かけ調理に入ろうとしていた。
恵は食材の前まで行き、怯えるようにして立っている。
「へっ、同情するぜ幸平」
「何がっすか?」
「絶望的な気分だろ。そのノロマの腕に自分のクビがかかってるんだからな」
四宮さんは恵を鼻で笑い創真に言った。
「聞きました?今の憎たらしい言い方」
「四宮って本当性格悪いと思う」
「ソンナダカラ女性トナガツヅキシナインデスヨ。四宮サンワ」
「四宮さん、さすがに今のはちょっと…」
俺を含めた四人(乾さん、水原さん、ドナートさん)が各々、今の四宮さんの発言に対して反応する。
「外野は黙ってろ!っていうか日向子、てめえいつの間に縄を」
「ガンバレー!私の恵ちゃーん!あんな陰湿男に負けるなー!」
「うるせえ!」
四宮さんと乾さんによる漫才のようなやり取りが終わると、恵が包丁をチェックする四宮さんを見ていた。四宮さんは恵の視線に気付き、一睨みして返すと、恵はまた怯えて視線を外す。何とかしてやりたい…助けてあげたいっ!でも堂島さんの言うように、それじゃあ恵のためにならない…
「くそっ!」
顔を伏せ思わず後ろの壁を殴ってしまう。そんな俺の前に堂島さんが来る。顔をあげると頬を叩かれた。周りは呆然とその光景を見ている。一瞬、何が起きたのかわからないでいると、頬の痛みで理解する。頬を抑えながら堂島さんを睨む。
「…っ。何するんですか!?」
「諸星!お前は仮にも遠月十傑に名を連ねる者だろうが!そんな姿を後輩に見せてどうする!」
「!?…っ」
顔を伏せ反省していると肩に優しく手が置かれる。
「そうですよ。圭君があの子達を信じないでどうするんですか?先輩ならしっかりと結果を見届けなさい」
乾さんが優しく語りかけてくれる。ああ、そうだ。また俺は弱気になってしまった。俺が信じてやるってさっき決めたばっかなのに。
「堂島さん、すみませんでした。それに他の皆さんも、ご迷惑をおかけしました」
顔をあげ、全員に謝罪をし背筋を伸ばして恵を見据える。頑張れよ。俺もしっかりと見てるから。堂島さんは頷き元の位置に戻る。
「田所ーー「言っておくが彼女のレシピに手を加えるのは無しだ。お前はあくまでスーシェフ、“副”料理長だからな?ーー…っ」
意識を此方から恵に戻した創真が声をかけようとするも堂島さんに阻まれる。
「お前は田所に生き残る価値があると思ったんだろ?その彼女の料理が信じられないと言うのなら…今すぐ!勝負から降りろ」
「降りるわけないでしょ。俺は料理人すよ。料理人が厨房から逃げ出してたまるかよ!」
堂島さんをしっかりと見据えてそう言い放つ創真。堂島さんは創真の言葉を受け、口の話を少し上げるだけに留まる。
額から汗を流し呼吸が浅い恵に、創真は合掌をするように言う。恵がそれに従うと、恵の手を両手で挟むように叩いた。
全員がその行動に少しばかり驚いて見ている。
「痛い…」
「実家で教わった緊張を解す裏技だ。一人じゃ出来ないのが難点だけどな」
創真が微笑みながら恵に説明をすると、漸く恵の緊張が解れたようだ。GJ創真b
創真に親指を立てて笑顔を向けると、あちらも返してくれた。くそ!今の写真に収めたかった!
創真が恵に落ち着いてメニューを考えるよう提案をする。しかし、相手は四宮さんということと、創真のクビがかかっていることを懸念して弱気な恵。
「俺の親父が言ってたぜ。料理ってのは皿の上に自分の全部を乗っけることだって。相手が何を作るかとか、そういったことは一旦忘れろ」
「でも!私なんかの料理じゃ…」
「寮の畑で食ったお前のおにぎり…本当に美味かった。余計なことは考えんな。田所らしい料理を作りゃ良いんだ…それで良いんだ」
創真は諭すように恵に言う。…皿の上に自分の全部を乗っけること……自分らしい料理…か…
四宮さんがまた創真に嫌味を言っていると、恵も作るメニューが決まったようで創真に話しかける。話し合いが終わり、創真は手拭いを額に巻き、気合いを入れて調理に入った。
「本日限り、“食事処 たどころ”開店だ!」
ふむ。食事処たどころか。中々良い語呂だな。
そんなことを考えていると、乾さんも同じことを思ったらしく四宮さんにその事を伝えると、四宮さんの命令により、ドナートさんに縄で縛られて連れ戻された。
恵達の調理が始まり、恵が作業工程のミスをすると、それを的確にフォローする創真。余計なことはせず、サポートに徹して恵の作業を邪魔しないように神経を張り巡らせて自分の作業との両立を計っている。その事に卒業生達も感心している。関守さんとドナートさんが創真の資料を見て、感嘆している。関守さんに至っては学生レベルを越えていると言うほどだ。確かに、実家の定食屋で修行しただけじゃあのレベルにはなれないはず…創真…お前はいったい…
制限時間になり、二組とも料理が完成し、先ずは四宮さんの料理からだ。どんな料理が出てくるのかドナートさんは期待に胸を膨らませている。堂島さんの指示で審査員達に配膳をする四宮さん。俺はドナートさんに分けて貰うことになった。
「“シュー・ファルシ”!コレハスコシイガイデスネ」
『シュー・ファルシ』、簡単に説明すると、キャベツの葉で肉や野菜を包んだものだ。洋食でいうロールキャベツだ。
四宮さんの料理をよく知っている卒業生達は意外なのか、乾さんはいつの間にか縄をほどき、苦言を呈している。乾さんが自分の分がないと文句をたれると、四宮さんはそれを頭へのチョップ一発で黙らせ、水原さんと分けるよう指示をする。
ナイフで切り分け、先ずは香りを楽しむ卒業生達。そして一口…食べた瞬間、身体をくねらせ自身の身体を抱き締める水原さんと、謎のポーズで「美味い!」というドナートさん。水原さん…健全な男子高校生には目の毒です…
水原さんから目をそらしナイフで切り分けて一口食べる。美味すぎる!なんだこれ!?こんな美味いシュー・ファルシなんて食ったことないぞ!
卒業生達が、このシュー・ファルシについて解説している。そして、口を揃えて出たのが…
「「「まさに、野菜料理の魔術師(レギュムの魔術師)!!」」」
あまりの美味さに卒業生達が、魔法少女やそれに関するキャラ変身するのが見えてしまった…いや、堂島さんがピンクはキツいです…はい。
全員が食事を堪能し終えると、堂島さんが四宮さんにスペシャリテが食べれるものだと思っていた事を伝える。それに対し四宮さんは、学生に対してそんな大人気ないことはしないと言うが、卒業生達は四宮さんならやりかねないと言う。四宮さんってやっぱり容赦ないのね。でも、恵達が付け入る隙があるとするなら、この絶対的な自信から来る驕り…ここしかない。
「では田所、幸平。君らのサーブを」
二人が返事をし恵が配膳しようとするが、皿を持ったまま固まってしまう。不思議に思った創真が恵に声をかけるも返事が返ってこない。きっと審査が怖くて不安なんだろう。
「大丈夫だ…行ってこい」
創真が恵の背中をポンッと叩き落ち着かせる。そして恵達の料理が配膳された。
「これは…テリーヌですね」
「はい。七種の野菜を使った“七色のテリーヌ”です」
俺が料理を見て呟くと、恵が簡単に料理の説明をする。
水原さんが今回の四宮さんの課題が、テリーヌだったことを教えてくれ、四宮さんはこれを自分への挑戦状と取り、恵を威圧する。恵は慌てて自分なりのルセットを見てほしいと弁解する。そんな二人をドナートさんが宥め、審査が開始された。
各々が一口食べる。しっかりと味わい飲み込む。「ウマイ!」というドナートさんを筆頭に全員が顔を綻ばせて頷く。
卒業生達が、解説をし高評価を与える。恵も堂島さんの質問に応えながら料理の解説をし、堂島さんが解説を付け加えながら、四宮さんと恵のテリーヌの違いを述べ、それぞれを評価する。
ドナートさん、乾さん、関守さんの順に感想を述べるが、何故か全員妖怪系に例えていた。いや、恵だと確かに可愛らしいイメージできるけどさ…自身の主張を言い合う大人三人に対し、呟くように水原さんと俺がツッコミをいれる。
「「ってかなんで全員妖怪系ばっかなのよ(なんですか)」」
そんな卒業生達を見て、口に手を添え涙ぐむ恵。良かったな…お前の料理が認めてもらえたんだ。
自分のことのように嬉しくなり此方まで涙ぐんでしまった。あ、俺まだ一口も食べてないや…とりあえず落ち着いてから食べよう。
審査が終わり、判定の時が来た。審査員三人に堂島さんからコインが渡され、美味だった方の皿に置くという形式だ。
水原さんから置いていくことになり、全員が置くのを目を閉じて祈りながら待つ恵。俺はしっかりとどちらの皿に置かれるのか見つめている。
そして………
「実力は歴然。四宮の圧勝というところだな」
結果は3―0。四宮さんの皿に三枚のコインが置かれた。あの後、俺も試食をした。確かに美味しく恵らしい料理だった。だけど、どちらが美味しかったかと問われると、やはり四宮さんだった。
呆然としている恵に創真が話しかけ励ます。そんな創真の言葉を受けて俯いて涙を流す恵。
事実と嫌味を言って去ろうとする四宮さん。俺は恵達を見ながら拳を強く握ることしかできなかった。ここで今の俺が食戟を申し出ても結果は変わらないだろう。何よりそんなことをして、また恵が悲しむ姿なんて見たくない。………いや、これは言い訳だな…俺も何処か恵に似て自信が無いんだ。更に臆病ときたもんだ。自分で自分が情けない…さっき創真の言葉を聞いて…二人の姿を見て、胸の中に熱いものが込み上げてくる感じがした。あの熱を…あの日より前の、料理に対する熱を取り戻せ!
一歩を踏み出し四宮さんに声をかけようとするも、コインを置く音に遮られた。四宮さんも音に気付き、足を止めてコインを置いた張本人、堂島さんに問いかける。
「もう勝負はついたはずですが…それはなんの真似でしょう?」
「うむ。いやなに、俺はこちらの品を評価したいと思ってな。表を投じさせてもらったまでだ」
その行動に四宮さん以外の全員が呆然と見ていた。四宮さんだけが堂島さんに意見する。意見に対して「本当にわからないのか?」と言いコインを指で弾き四宮さんに渡す。
渡されたコインを四宮さんが見つめる。
「田所君の作った料理、その中に答えはあるぞ。四宮…お前今、停滞しているな?」
「なっ…」
堂島さんの言葉を聞き、驚愕する四宮さん。停滞?四宮さんが?
「本当は気づいてるんだろ?勲章を得た今…次に何処へ向かえば良いかわからなくなっていること。頂に立ち尽くしたまま、一歩も前進できていないことに!料理人にとって、停滞とは退化と同義。この勝負でスペシャリテを出さなかったのは、自分の料理が止まっていることを俺達に知られたくなかったからだろう!」
「だまれええぇぇぇーーー!!」
堂島さんがまくし立てると、四宮さんが怒号に乗せ吼えた。そして、自分と堂島さんの違いを指摘して何がわかるのかと問う。そんな四宮さんに、恵の皿を差し出し「食ってみろ」と言う堂島さん。訳がわからないと皿に手を伸ばさない四宮さんに、皿を置き薦める堂島さん。
四宮さんは皿を見つめ、小さく息を漏らしてナイフとフォークを手に取り、小さく切り分けて一口食べる。酷評をして、もう一口…
「くっ……」
ナイフとフォークを置き、両手を調理台の上につき俯く。表情は見えないが小さく震えている肩を見ると何か思うところがあるのだろう。そして………恵の皿にコインを落とした。目元を親指で拭い、顔を上げる。
一呼吸おいて、恵に香辛料として使った“オールスパイス”について問う。
『オールスパイス』、シナモン・クローブ・ナツメグ等のスパイスの香りを合わせもつ香辛料のことだ。
水原さんがオールスパイスの説明をし、鳥レバーの臭み抜きに使った事を指摘すると、四宮さんは「それだけの理由ではないな?」と恵に問うと、緊張しながらも「はい」と応える恵。
オールスパイスを使った理由を説明する恵。食べる側の気持ちを考えたその理由に感銘を受けた、乾さんは泣いて、ドナートさんは目頭を抑えながら改めて評価をする。天使や!やっぱり恵は天使やったんや!
「拙くも響く、そんな料理だったな…田所君は、勝負の場であっても、料理を食べてくれる相手の事をしっかりと見ようとした。お前が頂の先の道を拓くのに必要なことのように思うが?」
「ちっ…」
舌打ちをして自身の掌を見つめる四宮さん。
そんな四宮さんをよそに、乾さんが掛け声と共に五百円玉を恵の皿に勢いよく置く。
「これで同票。即ち引き分けですね。この勝負、私が預からせてもらいますよ」
「むう?引き分けということはつまり、田所君の処遇は食戟開始前のままということだが?」
乾さんと堂島さんのわざとらしいやり取りを見て、大きく溜め息を吐く四宮さん。
「何もかもがイレギュラーだ。…とんだ茶番だ」
四宮さんはそう言って恵を見る。恵は怯えてしまうが、視線を外し嫌味を含んだ励ましの言葉を言って数歩進み立ち止まり、創真を一瞥して小さく笑って出口に向かった。
そんな四宮さんに乾さんが絡むとアイアンクローで乾さんを鎮める四宮さん。そんな光景を見て、思わず笑ってしまった。
出ていく四宮さんを見つめながら恵が戸惑っていた。
「田所君、食事をする人を温かくもてなそうというその気概、ホスピタリティ、それが君の料理にはある。その強力な武器を遠月で磨いていきたまえ。この三枚のコインは君らの未来に対する投資だ」
その言葉を聞き涙ぐむ恵と、状況を理解する創真。創真は微笑んで「良かったな」と恵に言うと、ついに緊張の糸が切れたのかその場に泣きながらへたりこんでしまう恵。
「うおおおおお!恵!創真!よくやったな!」
俺も号泣しながら恵と創真を抱き寄せる。本当に良かった…
「諸星!」
「は、はい!」
喜んでいると堂島さんに名前を呼ばれ、二人を解放して立ち上がり向き直る。
「お前も前に進む決心はついたか?」
「!!はい」
「そうか。先程の闘志を燃やした一歩、忘れるなよ」
「っ……は…い゛…!」
優しく語りかけてくれる堂島さんの言葉に緩くなった涙腺が決壊し返事をする。
卒業生達がそれぞれ、俺や恵達に励ましの言葉を送って部屋から出ていく。
落ち着いた俺達は片付けをし粗方片付いた所で、先に恵と創真を返す。最後まで付き合うという二人を半ば無理矢理返し見送る。片付けが終わり、上の部屋で待っている堂島さんに報告をし出口を出ると、壁に寄りかかる創真を見つけた。
「創真。どうしたこんな所で?恵は?」
声をかけると此方に気付き振り向く創真。ん?落ち込んでるのか?
「田所なら先に帰したっすよ。俺はちょっと反省会みたいな感じっす」
創真は苦笑を浮かべながら応える。悔しかったのか…そうだよな。こいつは遠月の頂を目指してるやつだもんな。
「そうか…ってお前!その右手!腫れてるじゃないか!」
創真の前に立ち視線を下に向けると腫れた右手が目につき、手首を掴んで持ち上げ状態を確認する。たぶん、骨は折れてないな。腫れてるだけか…
「この位平気っすよ。唾でも付けときゃ治りますって」
「この…バカヤロウ!」
ヘラヘラという創真に手を離し拳骨を落とす。その場に蹲り頭を押さえる創真。
「っぅ…何するんすか!?」
「お前はまだ研修があるだろうが!」
蹲りながらも抗議の声をあげる創真を仁王立ちで睨み付ける。
「たぶん腫れてるだけだろうから湿布もらってはってやるよ」
「いや、それくらい自分でーー「返事は?」ーー…うす」
「よろしい」
NOと言わせない威圧を放ち、引き下がった創真に微笑みを浮かべて立ち上がらせ受付に向かう。ああ、こうやってNOと言えない日本人が育つのかも。わからんけど。
ホテルの受付で湿布を貰い、エントランスの椅子に腰かけている創真の隣に座り湿布を貼る。
「これでよしっと」
「ありがとうございます」
湿布を貼り終えると、お礼を言う創真。
「こっちこそありがとうな」
何に対してのお礼なのか理解できず、首を傾げる創真。
「ああ、ほら。さっきの勝負の時、恵に言ってた言葉があったろ?料理ってのは皿の上に自分の全部を乗っけること…自分らしい料理を作りゃいいんだ…ってさ」
自分が言った言葉を思いだし、頷く創真。一呼吸置き、言葉を続ける。
「その言葉がさ、胸に響いたんだよ。忘れてたんだよ。大切なこと…豪華な品も、派手な飾りも要らない。大切なのは皿の上に自分を表現すること。それで相手が喜んで笑顔になれば、それで良いんだって」
創真は真剣な表情で此方を見つめ、黙って聞いてくれる。
「それを気付かせてくれた創真に。あと恵もか。だから、ありがとう」
「…うす!」
頭を下げ改めて礼を言うと、笑顔で応える創真。そんなやり取りを終え、創真と別れた。
部屋に着き、うっかり置いていってしまった携帯を確認すると、極星メンバーからの着信やメールがたくさん来ていた。あちゃー…心配かけちまったかな。謝罪の一文を全員に送信して、次に十傑の三年にメールをする。“あの日の事を学園に戻ったら話す”と。
すると、夜も遅いにも関わらず全員から了解の返事が届いた。あの日からあいつらは、先を歩きながらずっと待っててくれたんだよな…
“ありがとう”と全員に送りベッドに横になり眠りについた。今日は良い夢が見れそうだ。
でも、この約束を破ることをこの時の俺は知らなかった。
アニメを見返しててこの話しは絶対にやりたかった!
正直なところ、創真との絡みや主人公の心情は宿泊研修編を始める前から脳内で考えていました。やっとここまで辿り着けてホッと一安心しています。
主人公の創真に対するセリフの一部は、一期EDの歌詞の一部を引用させていただきました。気付きましたかね?
また気づいたら多くのお気に入り登録ありがとうございます!
感想やご指摘、応援メッセージもありがとうございます!
それでは!