極星寮のお兄さん?   作:ジョニーK

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第二十話〜過去〜

夏休み、学生にとっては一番長い休みで楽しい期間ではないだろうか。学生の中には地方から出てきて、寮やマンションを借りていて実家へ帰省する学生もいるだろう。遠月学園もその例に洩れず、帰省する学生もそれなりにいる。

さて、何故こんな話を突然始めたのかというと、明日から夏休みに入るからだ。夏休み明けから始まる秋の選抜出場者も発表され、出場者する生徒達はその準備に夏休みのほとんどの時間を費やされることは間違いないだろう。

怪我の治療も終わり、まだ完全とは言えないが、日常生活を送れる程度には回復して退院することができた。手のリハビリや経過報告のために通院はしているが、近くに病院があるからそこまで苦ではない。総帥様様だな。退院する時にナースさん達が泣きそうになっていたのは、俺の退院を喜んでくれたからだよね。決して、見舞いの品が食べれなくなるからじゃないよね?俺は信じてるから!

退院した日、極星寮ではちょっとしたお祝いをしてくれた。久しぶりのふみ緒さんの料理や、皆の料理が出された。食べる際に男女入り乱れてアーンをしてくる。嬉しくもあり恥ずかしくもありで、自分で食べるまでいまいち味がわからなかったのは内緒だ。ふみ緒さんにされた時に「おばあちゃん、ありがとう」とふざけたらめちゃくちゃ怒られた。

 

 

 

夏休みを明日に控えた日の放課後、俺の仕事部屋に十傑三年生が勢揃いし、ソファーに座っている。全員落ち着いた表情をして、俺が話始めるのを待っているようだ。

 

 

「皆、忙しいのに集まってくれてありがとう。それと、心配をかけた。仕事関係とか色々とありがとうな。助かったよ」

 

 

頭を下げて礼を述べ、一つ息を吐き言葉を続ける。

 

 

「それじゃ、随分と遅くなったけど約束を果たさないとな」

 

 

そう言うと、全員が心持ち姿勢を正した。それを確認して、あの日何があったのか俺は話始めた。

 

 

 

 

 

 

「まず、家族についてからかな。父さん、母さん、兄さん、姉さん、一つ下の妹なんだけどな」

 

 

あの日の話を始める前に俺の家族について話そうと思い、簡単に家族構成を説明する。

 

 

「え?お兄さんとお姉さんには何回か会ったこと他の人には会ったことないよな?」

 

 

竜胆が疑問に思った事を口にし、皆を見渡す。全員が頷くと、俺に視線が戻ってきた。俺も頷き、その理由を話す。

 

 

「ああ。父さんと母さん、妹は…事故で死んじまったんだ」

 

 

そう言うと、全員が俯いてしまう。まあこういう反応になるか…。聞いていい気分になる話でもないしな。

 

 

「俺の実家はさ、街の小さなレストランをやってたんだよ。父さんが調理、母さんがホールと事務関係全般てな感じでな。俺は父さんの手伝い、妹は母さんの手伝いをしていてさ。兄さんと姉さんはそれぞれやりたいことがあったからたまに手伝うくらいだったな」

 

 

昔を思い出しながら、そう話す俺は、皆にどう映ってるのだろうか。一つ息を吐き話を続ける。

 

 

「中々人気はあったんだぜ?平日・休日関係なくそれなりに活気もあってさ。妹も看板娘的な感じでお客さん達に可愛がられててさ。俺は厨房だったから、父さんと雇ってた人達に色々教わりながらやってたんだ。ただ、この学園に来るまでは流石にお客さんに出すとかは出来なかったから、妹の飯を作ってたんだよ。妹がさ、俺の作った料理を美味しいって言って食べてくれてたんだ」

 

 

今でも思い出せる妹の笑顔。あの笑顔が見れれば俺は頑張れた。いつか父さん達も驚くような料理を作れるようになってやる、って決めたのもあの笑顔のおかげだろうな。

 

 

「妹のためにもっと美味い料理を作りたい。父さんに負けない料理人になりたい。そう思ってこの学園に来たんだ。無事合格できた時なんて家族皆が喜んでくれてさ。んで、いざ入学してみたらレベルの高いこと。噂には聞いてたんだけど驚いたよ」

 

 

全員を一瞥して微笑を浮かべる。瑛士と組んだ時なんて、こいつ本当に同い年?とか疑ったくらいだし。他の皆もそうだ。こいつらと競いあって生き抜いていく。軽く絶望もした。

 

 

「ただ、負けたくなかった。自分ために、何よりも送り出してくれた家族のために。もう必死だったよ。気づいたら二年になってて、今いる皆と友達にもなれてた。極星寮の子達とも打ち解けて、馬鹿なことやったり、毎日が充実してたよ」

 

 

本当に楽しかった。遊んだり勝負したりするのはもちろんだけど、どんどん成長していく自分が実感できた。これはきっと、俺一人だけじゃ実感なんて出来なかっただろう。皆がいて初めて成り立つものだと思う。友達って存在が、ライバルっていう存在が有り難かった。

 

 

「前置きが長くなっちまったな」

 

 

軽く笑いながら言うと、全員が全員、真剣な表情で続きを促してきた。ふぅ…と息を吐き、表情を真剣なものに変える。

 

 

「二年の夏休みの時に実家に帰省したんだよ。その時に妹が旅行に行きたいって言ってさ。俺は学園があって行けないから、父さんと母さんと三人で行ってこいって伝えたんだ。兄さんも姉さんも、その時には仕事してたから行けなくてな。俺が学園に戻る日に旅行に出かけて、それで…三人を乗せたバスが事故に…」

 

 

そこまで言うと、自然と手を力強く握っていた。

 

 

 

 

 

 

事故が起こった次の日に、兄さんから連絡が来た。バスの運転手が、連日の運転の疲労から運転を誤ってガードレールに突っ込み、山の崖からバスが落ちたらしい。乗客は多くの死傷者と、重傷者が出て大惨事だった。救助隊が来て時には、ほぼ手遅れで、その中に三人も含まれていた。

葬儀が行われたけど、実感が沸かなかった。ただただ呆然と、哀しんでくれる人達を見ていた。兄さんや姉さんも泣いていたけど、俺はその時、泣くことすらできなかった。

葬儀が終わって、実家に戻って店の方に自然と足が向かった。厨房に行けば、ホールに行けば三人がいるような気がした。でも、そこには自分以外に誰もいなくて静寂だけがあった。三人を呼んだけど、返事なんて返って来るわけがなくて、近くにあった椅子に座って周囲を見渡した。あるのは閑散とした風景のみで、浮かんでくるのは楽しそうに接客をする妹の葵。

そうだ、葵のために夕飯を作らなきゃと思って、厨房に向かった。今日は、あいつが大好きなハンバーグにしてやろう。そう思って冷蔵庫を開けると、材料が無かったから買い出しに出かけた。出かける時に、兄さんと姉さんが何か言ってたような気がしたけど気にせず出かけた。

材料を買い終わり、厨房に行き、準備をして調理を始めた。調理をしていると、兄さんと姉さんが厨房に来た。

 

 

「圭、何してるんだ?」

 

 

兄さんが何故か辛そうな表情を浮かべて質問してくる。

 

 

 

 

「何って、葵に夕飯作ってあげないとだろ?今日は、葵の大好きなハンバーグにしようと思ってさ。一工夫してあいつを驚かしてやろうと思ってね。兄さんと姉さんも食べるなら後で作るよ」

 

 

話ながらも手を休めず調理をしていると、姉さんが後ろから抱き締めてきた。

 

 

「姉さん!?」

 

 

顔を横に向け、ソースを仕上げている時だったから包丁は使っていなかったが、危ないので離れるよう促しても、一向に離れる気配がない。背中には冷たい感覚と、鼻を啜る音がしていた。

 

 

「圭…もう…もうね………」

 

 

抱き締める力が弱まったので後ろを振り返ると、涙を流して震える姉さんが俺を見上げていた。

 

 

「葵も…父さんも母さんも、いないのっ!」

 

 

そう言って、その場に崩れ落ちる姉さん。何とかしようと思うもどうしたらいいのかわからず、困り果てた俺は、兄さんに助けを求めるように視線を向ける。兄さんも右手で目を覆って泣いていた。

 

 

「圭、ちょっと来なさい」

 

 

少しして、兄さんが先に泣き止み、俺の右手首を掴み引っ張って歩き出す。一体何処に行くのだろうかと思うも、兄さんの真剣な表情と、有無を言わせない態度のせいか、黙ってついていく。

着いたのは仏壇が置いてある部屋だった。そこには位牌と、三人の遺影が置かれていた。

 

 

「よく見ろ。三人とも死んだんだ…」

 

「………」

 

 

兄さんが手首から手を離し、俺はただ黙ってそれを見ていた。悪い冗談だと思い、厨房へ向かおうとするも、兄さんに腕を掴まれて動けない。

 

 

「離してくれよ…」

 

「ダメだ」

 

「離せよ!」

 

 

振り払おうと最初は軽く動かしていたが、兄さんが強く握りしめてきたため、勢いよく腕を振る。腕が兄さんの顔にあたり、手を離した隙に歩き出す。すぐに回復した兄さんが肩を掴み、振り向かせられた。右腕を振りかぶり平手打ちが飛んできた。

 

 

「いい加減にしろ!」

 

 

平手打ちをもろにくらった俺は尻餅をついてしまい、兄さんはそんな俺に近づいて胸倉を掴んで叫んだ。

 

 

「現実を見ろ!辛いのはわかる!俺だって麗香だって辛い!でもな!…何をしたって、もう三人とも帰ってこないんだよ!」

 

 

そういう兄さんの顔は本当に辛そうで、また涙を流して震えていた。平手打ちをもらったことで、頭が冷えたのかはわからないが、さっきまで灰色だった世界が少しずつ色づき始めた。

気づけば姉さんも近くにいて、兄さんを引き離そうとしていた。やっぱり姉さんも泣いていて、辛そうにしている。三人の遺影を見る。ああ…本当にもういないんだ…

理解をようやくして、俺はその日、初めて涙を流した。声にならない声をあげて泣いた。兄さんと姉さんが泣きながら抱き締めてくる。その二人の優しさが、想いが流れてくるようで、それがまた現実を突きつけてくるようで、俺は眠るまで子供のように泣いた。

 

 

 

一週間が経って、兄さんと姉さんは仕事に戻った。俺も夏休みが終わったため、学園に戻った。まだ、立ち直りきれてなくて皆に心配された。あの時は、本当に酷い顔をしていたと思う。

それから一ヶ月が経って、少しずつ気持ちの整理をつけていった。極星寮の皆や、竜胆を主体にした三年組が気を使ってくれたのか、遊びに出かけたりした。そうして、少しずつ元気を取り戻していった。

でも、何のために、誰のために料理をすればいいのかだけはわからなかった。

 

 

 

 

 

 

「事故で三人を喪って、どうすればいいのかわからかったんだ。でも、ここにいる皆や、極星寮の皆が俺を助けてくれた。礼を言わせてくれ。ありがとう。皆と出会えて、友達になれて、ライバルになれて良かった」

 

 

ここまで黙って聞いてくれていた皆へ頭を下げて礼を述べ、ゆっくりと頭をあげる。

 

 

「様子がおかしかった理由と原因はわかったよ。それで、どうして今になって話す気になったんだ?」

 

 

瑛士が一つ頷いて質問をしてくる。他の皆も続きを促すように黙ってこちらを見てくる。

 

 

「それはーー」

 

 

俺は、今回の宿泊研修での恵・創真ペアと四宮さんの非公式での食戟の時のことを話した。自分らしい料理、その原点を思い出させてくれたあの時のことを。

葵、父さん、母さんはもういない。でも、三人のために料理をすることはできる。支えてくれた皆のために料理をすることはできる。葵のために作った料理のように、誰かを笑顔に、大切な人達を笑顔にするために料理をする。それがきっと俺らしい料理なんだと気づかされた。

 

 

「ーーてなことがあってな。我ながら何をしてたんだって思うよ」

 

 

説明を終えて、苦笑を浮かべる。一通りの説明を聞き終えて、竜胆が背もたれに寄りかかって、体勢を崩したのを合図に、他の皆もそれぞれ楽な姿勢になった。

 

 

「本当に圭って馬鹿よね」

 

 

ももが溜め息を吐いて、罵倒してくる。それを聞いた皆が、ウンウンと頷いて応える。

 

 

「うるせえよ。自分でもそう思ってるからそれ以上は言うなよ?」

 

「バーカ」

 

「言うなって言っただろぉ!?」

 

 

ももといつものようなやり取りをしていると、誰ともなしに笑い始めた。俺ともももそれにつられて笑ってしまった。本当に、お前らが友達で良かった。

 

 

 

 

 

 

笑いが収まって、少しだけ雑談をした後、解散となり、今は極星寮の食堂に極星メンバーが集まっている。次は、この子達に話さなければならない。あの時に創真はいなかったが、今回の立ち直りのきっかけを与えてくれた創真にも聞いてもらいたくて呼んでおいた。ちなみに、ふみ緒さんは知っているので夕飯の準備をしている。

さっき三年組にした話を聞かせる。全員が真剣に聞いてくれた。話を終えると、全員が泣いていた。慧と悠姫に至っては、感極まって泣きながら抱きついてくるもんだから、かなり困った。宥め終えて、創真に改めてお礼を述べると、先輩の力になれたのなら良かったと言って、笑顔を浮かべた。

どうやら俺の怪我の件については、折り合いをつけれたようだ。今通院している病院に移動した時の休みの日に、創真が来て謝ってきた。何のことかわからないでいる俺に、自分が一緒に乗るようにもっと説得していればと後悔していたようだ。あれは俺が勝手にしたことだと言って、無理矢理納得させたんだけど、やはり気が収まらなかったようで料理を持ってくるようになった。俺もそれで納得できるならいいかなと思って、受け取ってはいたんだけど、食べられなかったし、没収されるしで心配だった。

同じ理由で、えりなちゃんも謝罪に来た。えりなちゃんの場合は、えりなちゃんのスペシャリテを食べさせてもらうということで、手をうった。本人はあまり納得してなかったが、えりなちゃんのスペシャリテを食べれるということがどういうことか、懇切丁寧に説明をすると途中で止められた。まあ“可愛いえりなちゃんの”とか、そういったからかいも入れてたからだろう。顔を赤くしてたし。結局、それで決定してえりなちゃんは去っていった。スペシャリテの件が決まった時に、緋沙子ちゃんがグヌヌってたのは内緒にしておこう。食べたら自慢してやろう。

 

 

 

皆と楽しく夕飯を食べて、自室に戻った後、そういえば今日は忙しくて、担当医に言われたリハビリをしっかりとできていなかったことを思い出して開始する。

リハビリメニューが終わり、ベッドに腰掛け一息ついたところで、部屋の扉がノックされた。誰だろうと思って、入室を促す。扉が開けられ、その先にいたのは涼子だった。

 

 

「涼子?どうした?」

 

 

部屋の中に入り、扉を閉めて俺の前にやってくる。

 

 

「先輩、明日デートしましょ」

 

「………へ?」

 

 

こうして、俺にとって忘れられない夏休みが始まった。

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