涼子とのデートから二日後、今日は悠姫とのデートだ。なんかこうやって考えると、俺って遊び人みたいな感じがする。いや、そんな軽い気持ちでデートをするつもりはないんだけど、周囲の人達はそう思わないんじゃないだろうか。俺だって漫画やアニメとかでこういう展開になった時、そう思ったことがある。ただ、あれはフィクションという割りきりができるけど、これは現実だ。
「先輩?大丈夫ですか?」
「ん…ああ、すまん。ちょっと考え事してたわ」
隣に座る悠姫が顔を覗きこんで、心配そうな顔をしていた。今は、動物園に向かうバスに乗って移動中だ。
朝、悠姫と一緒に寮を出て目的地を聞くと、様々な動物たちと触れあえる動物園に行きたいとのことで、そこに向かっている。動物園というところが、なんとも悠姫らしいと思った。
「むぅ〜」
「ど、どうした?」
気づくと悠姫が頬を膨らませて唸っている。あれ?俺なにかやらかしたか?
「デート中に何をそんなに考え込んでたんですか?」
「あ、いや、色々とな」
ジト目で問いかけてくる悠姫に、苦笑しながら応える。残念ながらこの回答では納得をしてくれないらしく、問い詰めてくる悠姫。さて、困ったと思っていると、運よく逃げるタイミングが舞い込んできた。誰かが降りることを告げるボタンを押したのだろう。バスが目的地である動物園前に到着し、停車する。
「ゆ、悠姫。ほら、降りよう」
「むぅ〜。仕方ないから、今回は見逃してあげます」
苦笑しながら席を立ち、悠姫に手を伸ばす。未だに頬を膨らませている悠姫は、渋々俺の手を取って立ち上がり、席を立つ。バスを降りて、動物園の入り口近くにある料金所でお金を払い、いざ入園。そういえば、動物園に行くのなんて何年ぶりだ?
隣を歩く悠姫は、先ほどの不機嫌はどこへやら。入ると同時に、スキップしながら先を行っている。
「せ〜んぱ〜い!早く〜」
「お〜う!あんまりはしゃぐと転ぶぞ〜」
ゆっくり歩き過ぎたせいか、悠姫と距離が離れてしまっていた。離れたところからこちらに呼びかけてくる悠姫に、冗談混じりで応えながら駆け足で近づく。
「へへ〜ん。子供じゃないんだから大丈夫ですよ!ってうわっ!」
悠姫がこちらに向かいながら、また笑顔でスキップを始める。すると、少し段差があるところに躓いてしまっていた。
「とっとっと、わぷっ」
「ととっ、大丈夫か?」
悠姫が倒れないように、片足で何歩か堪えているところに駆け寄り、胸で受け止め無事か確認する。
「えへへ、大丈夫です。助かりました、隊長」
ハニカミながら離れ、敬礼する悠姫。うん。どこも怪我はなさそうだな。
「それなら良かったよ。さ、行くか」
「はい!」
無事を確認して、微笑を浮かべて手を悠姫に向けて差し出す。悠姫は嬉しそうに手を握る。
「あんまりはしゃぐとさっきみたいに転びそうになるぞ?」
俺の手を軽く引っ張りながら歩く悠姫に注意する。悠姫は立ち止まって、胸を張る。
「大丈夫です!先輩が手を握ってくれてますから!」
繋いでいる手を持ち上げて、陽だまりような笑顔で悠姫は言う。この笑顔を見ると、こちらまで心が暖かくなる。そんな輝くような笑顔だった。
手を繋いで歩いていると、一つ目のポイントに着いた。ライオンやらゴリラやらが檻の中で自由に過ごしている。小さい頃、幼稚園の遠足で動物園に行った時、ゴリラに唾を飛ばされたことがあったっけ。
「おお、久しぶりに生でこうやって見ると、迫力あるな」
今、俺達の目の前では、檻の中で優雅に歩くライオンがいる。つい、前のめりで見てしまう。なんでライオンとか虎を見ると、真っ先にカッコイイという感想が出てくるのだろうか。不思議だ。
「先輩、はしゃぎ過ぎて柵を越えないでくださいよ?」
クスクスと笑いながら悠姫がそんなことを言ってくる。なんか、子供に注意する母親みたいだな。周囲を見てみると、俺と同じように、柵を掴んで子供たちがはしゃいでいる。そして、同じように母親らしき人や父親らしき人が、悠姫と同じように子供に注文をしている姿が目に入ってきた。
「大丈夫だって。そこまで子供じゃないよ」
苦笑をしながら柵から少し離れる。そんな俺を見て、悠姫はクスクスと笑っている。
「どうした?」
「なんか、こんな子供っぽい先輩見るの初めてな気がして」
笑っている悠姫に首を傾げて問うと、楽しそうに微笑み応える悠姫。おお、悠姫が大人っぽい。
「それを言うなら、こんな大人っぽい悠姫を見るのも、初めてな気がするな」
「ふふん。私だってもう大人のレディなんですよ」
胸を張って得意気になる悠姫。うん。いつもの悠姫だな。
「はは、そうだな。悠姫は大人のレディだな」
いつもの感じで頭を撫でる。悠姫の頭を撫でるのも何回目になるかわからない。頑張った時とか落ち込んでた時には、よく撫でたっけな。
「先輩、大人のレディに対して頭を撫でるのはどうなんですか」
どうやらご不満なご様子。つい、いつもの感じで撫でてしまったが、確かに大人と認めた手前、失敗かもしれない。
「えへへ。でも、先輩の撫でかたは上手なので許してあげます!」
しかめっ面から一変、今度は顔を綻ばせて、頭を手に擦り付けるようにして言う悠姫。小さい頃に葵を撫でてた成果かな?結構好評だったし。千葉に住む捻くれたお兄さんのようにスキルが身に付いたのだろう。
「おう。ありがとな。それじゃ次に行くか」
「おー!」
手を繋ぎ、空いている手を挙げてから歩き出す。近くから「おー!」と元気な男の子の声が聞こえ、足を止めて振り返ると、先ほどの子が右手を挙げて、歩き出していた。きっと悠姫につられてしまったのだろう。その子の父親と母親も微笑ましそうにその子を見てから、三人で手を繋いで歩き出した。
そんな光景を悠姫と見て、顔を合わせてからお互いに微笑みあい、再び歩き出した。
あれから、象やキリン、猿等を見てから、休憩スペースへ移動した。昼には少し早いが、この後は動物たちと触れあえる場所へ行くため、先に食べてしまおうということになった。
俺は焼きそばとおにぎり一個を買い、悠姫はカレーライスを買った。悠姫は少しでも秋の選抜の参考になればと思い選んだとのこと。俺はなんとなくだ。こういう所の食べ物ってなんで美味しいのだろうか。気分とかそういうのも多分に含まれているだろう。あとはぶっちゃければ化学調味料だな。あれを考えた人は天才だと思う。
「俺も店出そうかな」
ボソリとそんな言葉が出てきた。将来的には自分の店を持ちたい。でも、父さん達が残していったレストランをまた始めたいという気持ちもある。
「先輩は、レストランを継がないんですか?」
「継ぐっていっても料理とかは、しっかりと教えてもらった訳じゃないしな。まぁでも、レシピとかは残ってるからなんとかなるだろうけど、今の持ち主は父さんの両親だからな」
店は閉めているが、じいちゃんと婆ちゃんは、今も店を掃除をしてくれている。帰省した時は、俺も手伝っている。兄さんと姉さんは、それぞれの仕事の都合で一人暮らしをしているため、中々帰ってこれていないようだ。三人の命日とお盆には帰ってくるのだが、かなり忙しいようで顔を合わせることは少ない。
「先輩が継ぐって言ったら喜んでくれるんじゃないですか?」
「うーん…そうかもな。俺も継ぎたいって気持ちはあるし、今度帰ったら言ってみるか」
「先輩がお店始めたら教えてくださいね?」
「もちろん。その時はよろしく頼むよ」
悠姫は嬉しそうに「常連になります」とか言っているが、学園とは県じたいが違うのでそれは難しいだろう。そう言ってくれるのはありがたいけどな。だから、その事は言わないでおこう。うん。そうしよう。
さて、食事を終えて本日のメインの触れ合い広場に来たわけだが、馬、牛、兎等の動物達が区画分けされている。小さな子供たちが小動物たちと戯れている。
「さて、俺達も行きますかね」
「おー!」
悠姫は号令と共に兎達の群れに飛び込んでいってしまった。これだと大人なレディは撤回かな?
俺も悠姫の後を追って、兎達の方へ向かった。一匹捕まえて、抱っこしてみる。おーし、いっちょモフりまくってやるか。ああ〜、癒される。
一人で癒されていると、突然前の方からカメラのシャッター音が聞こえる。音の方へ目を向けると、悠姫が携帯で俺と兎を撮っていた。
「どうした?いきなり」
「いや〜、こういう先輩も良いなと思ってつい」
悠姫はテヘッと言って右手でコツンと自分の頭を軽く叩く。これが噂に聞くテヘペロというやつか。俺も今度、使う機会があればやってみよう。
「撮るのはいいけど、人に見せたりするなよ?」
「ええ〜、どうしてですか?」
兎をモフりながら、悠姫に一応忠告しておく。その悠姫はかなり不満そうだ。この子、他のやつらに見せる気満々だよ!
「いや、だってなんか恥ずかしいし」
「あ、ごめんなさい。もう寮のラインに送っちゃいました」
「おい!」
俺がツッコミをいれると、またしてもテヘペロをしてきた。確信犯かよ!急いで見ないように注意しないと!
結果から言えば、手遅れだった。可愛いだの、癒されただの、保存しましただのの文字が画面に映されていた。くそっ!こうなったら仕返しに悠姫の写真を撮って、貼り付けてやる。
その後、兎に癒された俺は、悠姫と動物たちが戯れている写真を何枚か撮り、ラインに貼り付けた。しかし、反応は見飽きただの、相変わらず可愛いだの、悠姫が世話をしているジビエ達が嫉妬しているだのと書かれていた。冷静に考えれば確かに皆、寮でこういう姿を見ているんだった。悠姫は、勝ち誇った顔で胸を張って立っている。ちくしょう!悔しくなんてないんだからね!
俺はあの後、更なる癒しを求めて小動物達と戯れた。悠姫は悠姫で色々な動物たちと遊んでいた。実家に帰ったらペットでも飼おうかなと真剣に考えたのは余談である。
動物たちとの触れ合いを終えて、動物園を出た。バスに乗って移動をしていると、横に座る悠姫が俺の枕を肩に眠り始めてしまった。あれだけはしゃいでたからな。仕方ないか。
ふと窓の外を見ると、夕焼け空が広がっていた。楽しい時間というのは、早く過ぎるというのは本当だな。今日も楽しかったな。悠姫の寝顔を見て、微笑を浮かべて再び、窓の外へ視線を戻した。
悠姫とのデート終了。
おそらく後、多くて5話位だと思います。
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