極星寮のお兄さん?   作:ジョニーK

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遅くなってしまい申し訳ございません。


第二十三話〜二人だけの旅行〜

さて、突然だが俺は今、海に来ている。照りつける太陽、灼けるような砂浜、青々とした海、その中に薄く映るように見える珊瑚礁。そう、珊瑚礁だ。珊瑚礁が無ければ近場、と言ってもそれなりの距離はあるわけだが、電車を乗り継げば着ける距離だ。しかし、今いるのは飛行機に乗り、フェリーに乗って、やっと着いた一つの離島。そこに、海パン一丁で砂浜にパラソルをたて終え、その下に体育座りで座っている俺。どうしてこうなった…。

 

 

 

 

 

 

時は遡ること、五日前。一年組が秋の選抜に向けて、各々が試行錯誤しているのを見ながら、簡単な手のリハビリをしている時のこと。ポケットに入れていた携帯から、メールの着信を報せる音が鳴った。リハビリを中断し、メールを確認すると、竜胆からのメールだった。

 

 

『海パンと金と二泊分の用意をしておけ』

 

 

とりあえずその時、一番に思ったことは、二泊分て何?だ。海パンと金はまあわかる。海にでも行くからだろう。しかし、二泊分ということは、少なからずどこかに泊まるということだ。

しばらく考えてもわからなかったので、電話で聞いてみるかという結論に至り、自分の部屋に行き、竜胆に電話を掛ける。五回ほどコール音が鳴ると、竜胆が出た。

 

 

『もしもし』

 

「忙しいのに悪いな。いや、お前が忙しくしているのなんて見たことなかったな。取り消すわ」

 

『…じゃあな』

 

 

軽い冗談のつもりで言ったのだが、通話を切られてしまった。もう一度、通話を試みる。今度は、中々出ない。

 

 

『なんだよ』

 

 

何コール目か分からなくなり、諦めようとした時、漸く出てくれた。しかし、電話の向こうの様子などわからないはずなのに、怒気を孕んだ声もあってか、冷や汗を流してしまう。

 

 

「申し訳ございませんでしたあああああ!」

 

 

次に会った時に何をされるかわからない恐怖から、少し距離を離した床に電話を置き、土下座をしながら謝罪をした。

数秒程、その体勢を維持し電話を持ち直し、恐る恐る耳にあてる。

 

 

「り、竜胆?」

 

『はぁ…もういいよ。それで?なに?』

 

 

溜め息を吐かれて、やれやれといった感じの声色で許しが出た。

 

 

「ありがとさん。さっき来たメールの事なんだが」

 

『ああ。その事な。泊まり掛けで出かけるからよろしく』

 

 

一応、許してくれたお礼を言って本題に入ると、竜胆はいつもの軽い口調で言ってきた。

 

 

「いやいや。泊まり掛けっていうのもそうだけど、だいたいどこに行くんだよ?」

 

『ん?それは行ってからのお楽しみってやつだな。用はそれだけか?私も色々と忙しいからまたな』

 

「ちょ、お、おい!竜胆!?」

 

 

通話を一方的に切られ、呼び掛けるも聞こえてくるのはツーツーという通話が終了したことを報せる音だけだった。あ、頭が痛い。

結局、その日の夜に竜胆からの待ち合わせ場所やらが記されたメールが届いたのみだった。

 

 

 

 

 

 

初日は移動に時間がかかり、海辺近くの民宿に泊まった。どうやらこの民宿に二日間泊まるようだ。ちなみにこの民宿は、遠月が保有する一つだ。

部屋はさすがに別々だろうと高を括っていたのだが、そんな俺の淡い希望は打ち砕かれた。

 

カウンターで受付を済ませた竜胆がニヤニヤとした顔で俺に近づいてきた。

 

 

「はい。これ鍵な」

 

「お、おう」

 

 

嫌な予感はしたのだが、とりあえず鍵を受け取り、部屋に向かった。部屋の前に着き、鍵を開け部屋の中に入る。その後ろから竜胆も部屋に入ってくる。

 

 

「ふーん。和室なんだな。ふぅ…畳の匂いって落ち着くよな」

 

 

竜胆は部屋の隅に荷物を置き、部屋の真ん中にあるテーブル横に移動し、座布団に座ってリラックスしているのを、入り口近くに立ったまま俺は見ていた。OK。クールになれ俺。とりあえずは俺も座ってお茶でも飲んで落ち着こう。

荷物を竜胆と同じように部屋の隅に置き、備え付けの急須に茶葉をいれ、用意をしておいてくれたのだろう湯沸かしポットからお湯をいれ、二つの湯呑みにお茶を注ぎ、お盆に急須と湯呑みを乗せてテーブルに運ぶ。

 

 

「おっ、サンキュー」

 

「どういたしまして」

 

 

一つの湯呑みを竜胆の前に置き、反対側に座りお茶を一口飲む。竜胆もお茶を飲んで更にリラックスしているようだ。

 

 

「それで?」

 

「???」

 

 

俺は湯呑みを置き、竜胆を見ながら簡潔に問いかける。意図が伝わらなかったのか竜胆は首を傾げるのみだった。いや、わかれよ。

 

 

「なんでお前が俺の泊まる部屋に居るんだ?」

 

 

分かりやすいように質問の意図を伝える。俺の質問に納得したのか、ニヤニヤとした顔を浮かべる。

 

 

「なんでって、私も同じ部屋だからに決まってるじゃん」

 

 

なんとなく予想していた答えを出す竜胆。俺は席を立ち、受付に向かい部屋を別々にできないか聞いた所、他の部屋は既に埋まっていて無理と言われた。ガックリと項垂れる俺に受付の人は苦笑を浮かべるのみだった。

部屋に戻り、竜胆に詰め寄ってどういうことか説明を求めたが、竜胆が予約をした時には、既に他の部屋が埋まっていたとのこと。他の所は無かったのかと聞くと、どこもシーズンでダメだったらしい。それに仮にも高校生二人、しかも男女二人が泊まるとなるとやはりダメな所しかなかった。そこに遠月が保有するこの民宿が見つかり、ここに決まったらしい。これは果たして許可して良かったのか、遠月…。

これ以上聞いても頭が痛くなるだけと悟り、とりあえず風呂にしようということになった。大浴場があるらしく、旅の疲れと現在の状況に対する疲れを癒やそうと向かった。

 

 

 

浴場で他のお客さんと、どこから来たのかとか、ここの料理は美味しい等の話をして楽しい時間を過ごした。こういうのが旅行の醍醐味なのかもしれないな、と思いながら部屋に戻った。

部屋に着き、まったりとしていると竜胆が戻ってきた。お互いにTシャツにハーフパンツというラフな格好で寛いでいる。同じ部屋で寝泊まりするということについては、浴場で諦めた。

しばらく竜胆が持ってきたトランプで遊んでいると、夕食の準備が出来たとのことで、部屋に料理が運ばれてきた。

海鮮料理に地元の料理等が並べられ、舌鼓をうった。特に地元の名産品を使った料理には創意工夫がなされており、二人であーだこーだ言いながら食事をした。

食事の後、部屋で少しのんびりしてから、食後の運動ということで、近場を散歩することになった。離島に着いたのが夕方だったのだが、今はすっかり暗くなっている。浜辺には明日行くので、反対側の住宅街がある方を歩いている。ポツポツとある電灯の灯りを頼りに周囲を見渡しながら歩く。都会とは違い静かなもので、波の音や住人たちの楽しそうな笑い声が聞こえてくる。

 

 

「なあ、圭。今回のこと怒ってるか?」

 

 

前を歩いていた竜胆が立ち止まって、こちらに振り返りながら問いかけてくる。

 

 

「別に怒ってないよ。ただ、戸惑っただけだ」

 

 

苦笑を浮かべながらそう応え、横に並ぶ。続きを歩こうと手を差し出すと、今回は理解できたのか手を握ってきた。こうして異性と手を繋ぐのにも慣れてきたもんだ、と内心で考えながらゆっくりと散策をした。

部屋に戻ると、布団が二組くっつくように並べられていた。それを見て赤面して、竜胆にからかわれながらいそいそと離したのは余談である。

 

 

 

 

 

 

そして時は戻り、現在の状況というわけである。ここまでの経緯を思い出してボーッとしていたせいか、いつの間にか水着に着替えた竜胆が来ているのに気づかなかった。

 

 

「大丈夫か?」

 

 

あまりにボーッとしていたせいか、心配させてしまったようだ。竜胆に声をかけられ意識が戻り、目の前にいる水着姿の竜胆に視線を向ける。黒のビキニだ。うん。黒のビキニだ。

 

 

「おーい」

 

「ハッ」

 

 

俺の顔の前で手を振る竜胆。思わず見惚れてしまっていた。いかんいかん。

 

 

「わりいわりい。大丈夫。ちょっとボーッとしてただけだから」

 

「なら良いけどさ。さ、泳ぎに行こうぜ」

 

「待った。日焼け止めちゃんと塗ったか?」

 

 

荷物を置き、今にも海へ駆け出しそうな竜胆の腕を掴んで止め、確認する。すると、こちらに振り返りニヤニヤとした顔を向けてくる。

 

 

「なんだ圭。私にオイルでも塗りたいのか?」

 

「なっ!?別にそういうわけじゃねえよ!」

 

 

口許に手を添えてからかってくる竜胆に、つい声を荒げて反論をする。その反応がいけなかった。更に顔をニヤケさせ竜胆が詰め寄ってくる。

 

 

「仕様がねえなあ。仕方ないから背中だけ塗らせてやるよ」

 

「誰が塗るか!」

 

 

荷物からオイルを出し、差し出してくるが、俺は立ち上がって拒否を示す。そんな俺の腕を竜胆が掴んで無理やり座らせられる。

 

 

「まあまあ。そんな怒るなよ。背中は綺麗に塗れてないから頼むよ」

 

 

そう言ってうつ伏せになり、ビキニの紐をほどく竜胆。そんな姿を見て、俺の顔は熱くなる。きっと真っ赤になっているのだろう。

こうなってしまったら放っておくわけにもいかず、仕方なく横に置かれたオイルを手に取り、塗っていく。無心だ。無心になれ俺。

極力、竜胆の身体を見ないように顔を背けながら塗っていく。そんな俺を横目で見て、楽しそうな表情を浮かべつつも、顔を赤くしている竜胆には気づけなかった。

 

 

「さ、今度こそ行くか」

 

「おー…」

 

 

オイルを塗り終わり、意気揚々と海に向かって歩いていく竜胆の後ろを、力なくついていく。海に入る前から疲れた…。

 

 

「ほら!早く来いよ!」

 

 

あまりに気落ちしていたせいか、竜胆は笑顔を浮かべて俺の手を握り、海へと駆けていく。最初は躓きそうになったが、気持ちを切り替えてついていく。

海に足だけ入れると、ひんやりとしていて、波に土がさらわれていくとなんとも言えない気持ちよさを感じた。隣に並んでいる竜胆を見ると、目を細めて同じく気持ち良さそうにしていた。

 

海に来たらやるであろう定番の水の掛け合いをして、ゆっくりと海の中に入り、海の冷たさに身体が馴染み、ゴーグルをつけて潜る。澄んだ海には、小さな魚達が悠々と泳いでいた。息が続く限り潜って、その光景を目に焼き付けた。潜水を終えて浮上すると、竜胆がいつの間にか膨らませて持ってきていた浮き輪を使ってプカプカと浮かんでいた。

 

 

「竜胆は潜ったりしないのか?」

 

 

ただ空を見上げているだけの竜胆は、生返事を返すのみで、何やら考え込んでいるようだった。さっきまでの元気はどこへやらといった感じだ。いつもなら真っ先にふざけたりしてるはずなんだが。

 

 

「なあ、一緒に潜ろうぜ」

 

 

一緒に遊ぼうと誘ってみるも、やはり返ってくるのは生返事のみ。空に何か見えるのかと思って、浮き輪に掴まって同じように見上げてみるも、あるのは青々とした空と雲のみ。のんびりするのはいいんだが、波にさらわれたりするのが怖いし、浜辺に移動した方が良いな。

 

 

「一度浜辺に戻るぞ」

 

 

何を話しかけても返ってくるのはやはり生返事のみ。とりあえず浮き輪を掴んでた手を離して、浜辺の方へ泳ぎながら押していく。

なんとか浜辺に到着して、立ち上がろうともしない竜胆を立たせて、手を引いて荷物が置いてある場所に戻ってきた。

 

 

「なあ、本当に大丈夫か?」

 

「何が?」

 

 

やっとまともな反応をした竜胆だが、こちらに向いた顔が赤くなっている。暑さのせいかとも思ったが、一応額に手を添えて熱を測ってみる。

 

 

「おい、かなり熱いんだが、風邪じゃないのか?」

 

「風邪じゃねえよ」

 

「とりあえず戻るぞ」

 

 

タオルで水を拭き取り、上着のTシャツだけ着て、荷物をまとめて海を後にして、民宿に戻った。

受付で体温計を借りて、エントランスの椅子に座らせて待たせていた竜胆に渡し、熱の測定が終わるのを待つ。

ピピピ、という機械音が聞こえ、脇から抜いた体温計を渡された。37.7度とそれなりに高い体温が記録されていた。

 

 

「ちょっとここで待っててくれ」

 

 

それだけ告げて、受付に体温計を返しに行き、近くに病院があるか聞いた所、診療所があるらしい。相方が熱があることを報せると、受付の人は直ぐに診療所へと電話をしてくれて、部屋に診察に来てくれることになった。

受付の人にお礼を言って、竜胆のもとに戻り、手を引いて部屋に戻った。部屋に着くと、一つ布団が敷いてあり、そこに竜胆を寝かせようと思ったのだが、まだ簡単にしか着替えを済ませていないため、Tシャツ以外は水着であることを思い出した。部屋の隅に置いてある、竜胆のバッグを手に持ち、着替えるように伝える。バッグを受け取った竜胆が、着替えを出し始めたので、部屋を一度出る。

しばらく部屋の前で待っていると、入室許可の声が聞こえたので中に戻った。布団に横になっている竜胆は、毛布を顔まで被っている。

 

 

「なんで無理したんだ?」

 

 

布団の横に座り問いかけてみるも、寝返りをうって反対側を向かれてしまう。どうにも調子が狂うな。朝起きた時は普段通りだったから、あの時から無理をしていたんだろう。

そんなことを考えていると、部屋の入り口がノックされた。扉を開けると、白衣を着た人が立っていた。診療所の医者が来てくれたようだ。部屋の中に入ってもらい、診察をお願いして、俺は飲み物を買いに行った。

 

飲み物を買い終えて、部屋に戻ると、診察は終わっていた。買ってきた冷たいお茶を渡し、診察内容を聞く。どうやら疲労により体調を崩したようだ。薬を受け取り、お金を払ってお礼を言って、先生を見送り、布団に横になっている竜胆の横に座る。きっとこの日のために仕事を早めに終わらせるために頑張ったのだろう。

 

 

「竜胆、ありがとうな」

 

「…何が?」

 

 

相変わらず毛布を顔まで被っている竜胆の声はくぐもっている。

 

 

「色々、とさ」

 

 

改めて入学からのことや、あの日からの竜胆が俺に対してしてくれていたことを思い出す。それを考えていたら自然とお礼の言葉が出てきた。

 

 

「なんだよそれ」

 

 

顔を半分だけ出して、こちらを見ている。まだ顔は赤く少しだけ辛そうだ。

 

 

「ま、とりあえず今はゆっくり休め」

 

 

微笑を浮かべて頭をポンポンと触り立とうとすると、手を握られる。何かあるのかと思って、竜胆を見る。顔を背けてブツブツと何か言っている。

 

 

「手を握ってろ」

 

 

顔を近づけると聞こえたのはそんな言葉だった。苦笑を浮かべて、座り直し手を握り返す。なんで命令形?とも思ったが、これが竜胆だなと勝手に納得して、竜胆を見ていた。

薬が効いてきたのか、しばらくすると寝息をたてて眠り始めた。起こさないように、手を離してゆっくりと立ち上がり、着替えをしてないことに気づいて着替えとバスタオルと携帯を持って部屋を出た。

 

 

 

部屋を出た後、受付で滞在の延長が出来るか確認して了承をもらい、総帥に連絡をして事情を説明し、厨房を借りれるようにお願いをしておいた。とりあえずシャワーだけでも浴びておくか。

シャワーを浴びた後、厨房に向かい料理人の方々に挨拶をして、材料と器具を借りて、卵おじやを作り部屋に戻った。

 

 

「おかえり」

 

「おう」

 

 

中に入ると、竜胆は起きていた。簡単に挨拶だけをしてテーブルに食器を置く。時間は昼を少し過ぎた頃になっていた。

 

 

「飯、食べれるか?」

 

「軽いものなら」

 

「よし。じゃあ食え」

 

 

横になっていた竜胆の身体を起こして、茶碗に卵おじやを盛り付けて、渡そうとするも、受け取らない。

 

 

「?ほれ、早くしないと冷めちまうぞ?」

 

「あーん」

 

 

首を傾げて問いかけるも一向に受け取らない竜胆は、口だけを開けて待っている。また、このパターンですか。そうですか。

レンゲで一口分だけ掬って竜胆の口に運ぶ。ゆっくりと噛んで飲み込む。もう一口と口を開けたので、また掬って食べさせる。なんだろう。親鳥が自分の子供に餌をあげている気分だ。これが餌付けか!

 

 

「美味しい」

 

「そいつはなによりだ」

 

 

美味しい、この一言は料理人冥利に尽きる。色々な言葉を並べられても、最終的にこの言葉を聞ければ何よりも嬉しい。

結局、全部を食べた竜胆に薬を飲ませて、寝かせておいた。俺は、食器を片付けに厨房に行き、お礼を言って自身の食事を取り、部屋に戻った。

窓際に移動して、椅子に座る。窓を開けて外を眺める。部屋は静かで聞こえてくるのは、窓の外から聞こえてくる楽しそうな声だ。本当ならあそこでまだ遊んでいたのか、と思って寝ている竜胆を見る。穏やかな寝息をたてて眠っている。ま、仕方ないか。目を閉じて、楽しそうな声を聞きながら眠りについた。

 

 

 

 

 

 

目を覚ますと、薄いブランケットが掛けられていたのに気づいた。竜胆が寝ていた方を見ると、もぬけの殻になっていた。どこに行ったのかと、探そうと立ち上がると入り口の扉が開き、竜胆が中に入ってきた。

 

 

「ん?起きたのか。おはよう。いや、時間的にこんばんは?」

 

「まあおはようでいいんじゃないか?」

 

 

俺が起きているのに気づいた竜胆はどうでもいいことを言っていたので適当に返しておく。

 

 

「んで、お前は病人のくせに何をしてたんだ?」

 

「風呂だよ、風呂。海に入ってからシャワーも浴びてなかったしな」

 

 

俺の怪訝な視線を軽くスルーしながら、あっけらかんと恥ずかしげもなく言う。よくよく見ると手にはバスタオルやらが持たれていた。

他の人に移ったらどうするのかと注意すると、ちゃんと人がいないのを確認して入ったらしい。そういう問題かとツッコミをいれようとしたが、過ぎてしまったことは仕方ないので、諦めた。

 

 

「はぁ…熱は?」

 

「だいぶ下がったし、もう大丈夫」

 

 

溜め息を吐き、一応心配してみると、親指を立てて胸を張る竜胆。また、溜め息を一つ吐き、とりあえず安静にしているように伝え、ブランケットのお礼を言って部屋を出る。

また厨房を借りて、竜胆用の食事を軽めの食事を作る。調理中に自分の夕飯も一緒に持ってきてくれるということで、配膳係の人と世間話をしながら部屋に戻った。

元気になったということだったので、口を開けて待つ竜胆をスルーして、食事をした。制裁を与えられたのは言うまでもあるまい。

 

 

 

竜胆の体調も心配だったので、今日は早めに休むことになり、布団一式を用意してもらい横になる。昨日と同じように布団は離している。昼寝をしてしまったせいか、中々寝付けず、ただ目を閉じていた。昼間とは違い、今は波の音が聞こえてくる。その波の音とは、別に横からガサゴソと何かが動く音が聞こえ、目を開け音のする方を向く。

 

 

「何をしてるんだ?」

 

 

竜胆が自分の布団を俺の布団に近づけるように移動させていた。移動を終えると何も応えずに布団に横になっていた。

昨日は何もしてこなかったから油断していた。

 

 

「おやすみ」

 

 

ただ一言、就寝の挨拶をして俺の腕にしがみついて寝ようとしている。

 

 

「お、おい!離せ!さすがにこれはまずい」

 

 

しがみつく竜胆を引き離そうとするも、まったく離してくれない。やだ、この子。知ってたけど力強い!

なんとか離れようともがくも、竜胆も離すまいと力強く俺の腕にしがみついてくる。さすがにこれ以上無駄な体力を消耗しても仕方ないと判断し、溜め息を一つ吐き、大人しく横になる。

 

 

「私の勝ちだな」

 

「はいはい」

 

 

それはもう嬉しそうな笑顔で言われた。適当に流して目を閉じる。目を閉じると、視覚以外の感覚が鋭くなるのか、腕から伝わる女の子特有の柔らかい感触が脳を刺激してくる。いかん。このままじゃ眠れないどころか、色々とまずい。

 

 

「圭。やっぱり私、お前が好きだ」

 

 

さっきまでの思考が吹っ飛ぶほど、強烈な言葉だった。面と向かって言われたのは、これが初めてだ。鼓動が速くなる。意識が目の前で腕にしがみつく竜胆のみに集中する。閉じていた目を開け、竜胆の顔を見る。瞳は潤み、顔は赤くなっている。これは熱のせいではないことくらいわかった。

 

 

「な、なんとか言えよ」

 

 

俺が何も反応しないのを不思議に思ったのか、腕を抱き締める力を強くして話しかけてくる。

 

 

「あ、いや、その…」

 

 

ついどもってしまう。こんな竜胆を見たことはない。綺麗だと思うも、どこかその反応が可愛くて、普段とは似ても似つかない。長く友人としてライバルとして付き合ってきたが、こんな竜胆を見たことはない。

 

 

「…すまん。まだそれには応えられない」

 

 

深呼吸をして、なんとか言葉を紡ぐ。きっと俺は最低なことを言っているだろう。好意をはっきりと伝えてくれた相手に応えられない。それがこんなにももどかしいとは思わなかった。

腕に抱きついていた力が弱まり、ゆっくりと離された。心の中でもう一度謝罪をしていると、手が握られる。

 

 

「今はこれで我慢する」

 

 

そう言って、どこか儚さのある笑顔を浮かべていた。その表情はとても綺麗でつい見いってしまうほどだった。

もう一度おやすみと言って、目を閉じる竜胆に、なんとか返事をし、手に感じる柔らかく暖かい温もりを感じながら俺も目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

結局、竜胆の体調を考慮してもう一日だけ泊まることにし、帰宅した。あの夜の出来事から、中々竜胆を直視出来なくなったのは、仕方のないことだと思う。




やっぱり竜胆は書きやすい。文字数が伸びてしまうのも仕方ない。

さて、後はももだけです。ももを書き終えたら、何話か書くか、最終回に一気にいくかはまだわかりません。


お気に入りと評価をいただきありがとうございます!
残り何話になるかはわかりませんが最終回までお付き合いくだされば幸いです。
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