緋弾のアリア 悲しみの悪魔   作:osero

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第十四話『希望』

「遅い!」

 

 機長から取ったであろう非接触ICで操縦室に入ったらしいアリアの高い声が、やってきた俺達に向かって叫んでくる。

 

「怪我は大丈夫そうだな……命があって良かったよ。アリア」

 

 しかし、リンはアリアが叫んでいる事を一向に気にしていなく、アリアが生きていた事に安心していた。

 

「べ、別に、たいした事はないわよ!」

 

 心配される事になれていないアリアは声を張り上げるが、リンはそれを照れ隠しだと分かっているため、何も言わない。

 

 足元を見てみると、奇妙な機械が転がっており、理子が髪の中にかくしていたコントローラーで飛行機を遠隔操縦していたであろうカラクリを、アリアの手によって外された残骸のようだった。

 

「あいつも用意周到だな。さすがと言った所か」

 

「何のんきな事言ってんのよ!」

 

 さすが理子だと感心するリンに怒鳴りながら操縦桿を握るアリア。

 

「アリア、飛行機操縦できるのか?」

 

「セスナならね。ジェット機なんて飛ばしたことない」

 

 キンジとアリアの会話を聞きながら、操縦桿を大胆に引くアリアにさすがのリンも大丈夫か、と思ってしまう。

 

 その心配をよそにANA600便は目を覚ましたように機首を上げた。

 

 それに安堵し、自分がこれ以上何も出来ないと悟ったリンはキンジとアリアに任せる事にした。

 

「俺は何も手伝える事はなさそうだ。後はキンジとアリアにまかせる……」

 

「ちょっと!あんたもなんか考えなさいよ!」

 

「まぁ、落ち着けアリア、リンもぎりぎりなんだ。本当なら立ってるのも辛いはずなんだ。俺達が、治療してる間はずっとリンが理子を足止めしてくれたんだからな」

 

 ヒステリアのモードのキンジはさすがの洞察力だと思いつつ、リンはアリアとキンジの後ろ側で座り壁に寄りかかる。

 

「あ、あんた、勝手にそんな事してたの!?」

 

 それを聞いたアリアは悔しそうに歯を食いしばる。きっとまた自分のせいで傷ついたと思っているんだろう。だからリンは疲れた体に鞭をいれ体を動かす。

 

「ぁ……」

 

「気にするな、俺がキンジとアリアを助けたいと思ったから勝手に動いただけだ。お前はちゃんと俺に忠告してくれただろ」

 

 そう言ってアリアの頭に手を置く。歯を食いしばっていたアリアだが、しだいにいつもの調子がいいアリアに戻る。

 

「べ、別に気にしてなんか、ないわよ!」

 

「それでいいさ、俺はしばらく休む。今の状態じゃ良い案は浮かびそうにもないからな。後はまかせる」

 

「あぁ、まかせてくれ。必ず無事着陸して見せる」

 

 キンジの力強い返事を聞き、リンは安心して体を休ませる。さすがに、先ほどの戦闘でかなり疲労が蓄積していたのだ。

 

 そうしている間に羽田の方から通信があり、キンジが応答していた。

 

「こちら600便だ。当機は先ほどハイジャックされたが、今はコントロールを取り戻している。機長と副操縦士が負傷した。現在は乗客の武偵二名が操縦している。俺は遠山キンジ。もう一人は神崎・H・アリア」

 

 通信が繋がった事により、助かる確率が少しだが上がった。それからキンジは機長から拝借したであろう、衛星電話を使い誰かと連絡を取っていた。

 

「誰と連絡取ってるの?」

 

 アリアの疑問を答えるように電話からいつも聞きなれた声が聞こえてきた。

 

「もしもし?」

 

「俺だよ武藤へんな番号からですまない」

 

「キ、キンジか!?いまどこにいる!?お前の彼女が大変だぞ!」

 

「彼女じゃないが、アリアなら隣にいるよ。それに後ろにリンもいる」

 

 武藤剛気。車輌科の優等生。キンジとは腐れ縁であり、リンとはバイク仲間でもある。

 

「ちょ……お前ら何やってんだよ……!」

 

「か…かの、かの!?」

 

 武藤の怒鳴り声が聞こえ、アリアの方は顔を真っ赤にし、キンジに怒鳴ろうとした所で、アリアの唇に人差し指を当てるキンジ。それによりアリアはおとなしくなり、それを見ていたリンは、やれやれと苦笑いを浮かべる。

 

「武藤。ハイジャックの事、良く知ってたな。報道されてるのか?」

 

「とっくに大ニュースだぜ。客の誰かが機内電話で通報でもしたんだろ。乗客名簿はすぐに通信科が周知してな。アリアの名前があったんで、今みんなで教室に集まってたとこだよ」

 

 キンジは羽田コントロールと武藤に今の状況を伝えた。機がハイジャックされ、犯人が逃亡したこと。ミサイルをぶちこまれ、エンジンが2期破壊されたこと。

 

 それから、状況を聞くに燃料漏れを起こしている事が分かった。

 

「あ、あとどのくらいもつの?」

 

「残量はともかく、漏出のベースが早い。言いたかないが……15分ってとこだ」

 

「羽田に引き返せ、距離的に、そこしかない」

 

「元からそのつもりよ」

 

アリアが武藤に返す。

 

 その間、キンジは着陸方法を11人から聞いている。今のヒステリアモードのキンジなら簡単であり、リンはまだやる事があるかもしれないため、体を休める事に努める。その時、ふと窓から見える光景に目を疑った。

 

「キンジ、色々めんどくさい事になったぞ」

 

 リンのその言葉にキンジが疑問を持った所で通信が入る。

 

「ANA600便。こちらは防衛省、航空管理局だ」

 

 羽田からのスピーカーから野太い声が聞こえ、キンジとアリアはお互いが顔を見合わせた。何が起きているのか理解できないのだ。

 

「羽田空港の使用は許可しない。空港は現在、自衛隊により封鎖中だ」

 

「何言ってやがんだ!」

 

 叫んだのは武藤だった。

 

「誰だ」

 

「俺ぁ武藤剛気、武偵だ!600便は燃料漏れを起こしてる!飛べて、あと10分なんだよ!代替着陸なんてどっこにもできねえ、羽田しかねえんだ!」

 

 武藤が一生懸命自分達のために怒鳴ってくれているが、それが聞き届けられる事はなかった。

 

「武藤武偵。私に怒鳴ったところでムダだぞ。これは防衛大臣による命令なのだ」

 

 呆然としていたキンジとアリアだったが、外を見て何故リンがあんな事を言ったのか理解した。

 

 ANA600便のすぐ脇にF-15Jイーグル

 

 航空自衛隊の戦闘機がピッタリつけてきていた。

 

「おい防衛省。窓の外にお友達が見えるんだが」

 

「……それは誘導機だ。誘導に従い、海上に出て千葉方面へ向かえ。安全な着陸地まで誘導する」

 

「キンジ分かってるな?」

 

 リンの言いたい事を理解し頷き、キンジは羽田との回線をきり、アリアの手を握って止める。

 

「海にでるなアリア。あいつは嘘をついている」

 

「?」

 

「あいつらは俺らを見捨てたのさ。このままでたら打ち落とされるぞ」

 

「そ、そんな……!この飛行機には一般市民も乗ってるのよ!?」

 

 リンの言葉に驚愕するアリア、いくらなんでも乗客の乗っている飛行機を落とすとは思わなかったのだろう。

 

「東京に突っ込まれたら大惨事だからな。背に腹はかえられないってことさ」

 

 そう言いながらキンジはアリアの手を握り、横浜方面へと舵をとらせていた。

 

「向こうがその気ならこっちも人質を取る。アリア、地上を飛ぶんだ」

 

「キンジ何か当てがあるのか?」

 

「……あるにはあるさ」

 

「そうか……それより、羽田と繋いでくれないか?一言いいたい事ができたからな」

 

 キンジの返答を聞き、あまり良くはないと考えるリンだが、それでもそれしか最善な手がないためそこで話を止め、キンジに羽田と繋いで貰う。

 

「防衛省、お前らが何をしようとしていたのかは分かっている。だから、俺から一言だけ言っておく、『死神』を敵に回した事を後悔するんだな」

 

「……な!?ちょっとまっ」

 

 自分の正体に気づき、声を上げるがリンはきにせず羽田との回線を切った。

 

「死神って何のことだ?」

 

「まぁ、今は気にしなくても大丈夫だ」

 

 きっとキンジ達に言っても分からない。今の言葉を聞いて分かるのはとても偉い地位を持ってないと理解できないだろう。リンの異名はそれほど有名なのだ。だが、その情報はトップシークレットの為知ってる人は限られてくる。だからリンはキンジの質問を軽く流した。

 

 

 

 ANA600便は横浜のみなとみらいを飛び越え、東京都に入った。

 

「武藤。滑走路にはどれくらいの長さが必要だ?」

 

「まぁ、2450mは必要だろうな」

 

「そこの風速は?」

 

「風速?レキ、学園島の風速は」

 

「私の体感では、5分前に南南東の風・風速41.02m」

 

「それを入れると2045ってとこだな」

 

 それを聞いていたリンはキンジがどこに着陸するか理解し、呆れながらもキンジの頭の冴え具合に感服する。

 

「まさか、空き地島の方に着地するのか?」

 

「さすがリンだな。そういう事だ武藤」

 

「確かに可能だが、あそこはただの浮島だ。誘導装置どころか誘導灯すらないんだぞ!」

 

 武藤の一つ一つがすべて正しい。しかし、それしかもう方法がないためリンは武藤の話を渡る。

 

「武藤。もうここまで来たらやるしかないんだ。できたら全員が助かって失敗すれば全員死ぬ。まぁ、今のキンジとアリアを信じろ」

 

 ぐちぐち言っていた武藤だが、リンの言葉を聞き、ため息を吐き、イライラしながらも返事を返す。

 

「はぁ……わかったよ!勝手にしやがれ!しくじったらお前ら引いてやるからな!」

 

 叫びながら、教室のみんなにわーわー怒鳴り、電話をきってしまった。

 

「これでもう後がないが、ちゃんと決めろよ。お前達」

 

 リンの言葉に互いに頷き合い。着陸準備に入る。

 

 東京湾が見えてきたが、人工浮島は真っ暗でまったく見えなかった。

 

「やばいな……」

 

 武藤の言った通り、灯りがなければ何も見えなかった。キンジの方を向くとあのヒステリアモードのキンジが額に汗を流し、動揺していた。おそらく、結論がでてしまったのだろう。いくら能力があろうとも見えなければ何もできない。それでも、リンは最後まで手段を考える。死ぬ瞬間まではリンはあきらめるつもりは無かった。

 

 万事休すと至ったとき、アリアがキンジに言った。

 

「キンジ。大丈夫。あんたにならできる。出来なきゃいけないのよ。武偵をやめたいなら、武偵のまま死んだら負けよ。それに、あたしだってまだ……ままを助けてない!!」

 

 その言葉を合図にベイブリッジの手前にある、空き地島に光が灯る。

 

「お前ら!見えてるかバカヤロウ!」

 

「武藤!?」

 

 武藤の電話回線が復活し、ビシャビシャと大雨の音と共に声が聞こえてきた。それを聞いたリンは笑みを浮かべ、キンジは驚愕の表情を浮かべ武藤の名前を呼ぶ。

 

「お前らが死ぬと、泣く人がいるからよォ!オレ、車輌科で一番でかいモーターボートをパクっちまったんだぞ!装備科の懐中電灯も、みんなで無許可で持ち出してきたんだ!全員文の反省文、後でお前らが書け!」

 

 武藤がそう言った後、他のやつらの声も聞こえ、自分達のために、誘導灯を作ってくれたのだ。

 

 キンジが高度を下げ、ANA600便は、雨の人工浮島に強行着陸を敢行する。

 

 とてつもない振動の中で、アリアが逆噴射をかけるが順調に噴射していたが途中で止まったのだ。

 

「う、嘘、動かないわ……」

 

 アリアいつもの声が聞こえたが、それは死の宣告だった。

 

「嘘だろ……?」

 

 ヒステリアモードのキンジでも予期していなく、アリアもヒステリアモードのキンジさえも呆然とするしかなかった。このまま行けば、距離が足りなく、堕落するのは目に見えてた。

 

 しかし、リンだけは諦めていなく、輝く紅い目には希望があった。

 

「諦めるな!!!武藤!俺がなんとかするから急いで灯りを切れ!」

 

 リンの切羽詰った言葉に武藤は意味は分からなかったが、周りにいる仲間に灯りを消せと命令し、自分も灯りを消した。

 

 リンは怒鳴ると同時に前の窓を突き破り、魔力を足に纏わせ飛行機の前に着地する。それと同時に周りの灯りも消え、真っ暗な空き地島に戻る。

 

「守ってみせる!」

 

 覚悟を決め、すぐさま悪魔化し、バスジャックのライネル戦で使った魔力で足場を作った物を応用し、手を前に出し、目の前に魔力で作った丸い円を形成する。それと同時にものすごい衝撃がリンを襲う。

 

「く、くそ。止まれ!!止まれ!!止まれぇぇぇぇ!!!!」

 

 少しずつ減速しているが、それでも、リンの方がすでに限界だった。形成した魔力が徐々に罅が入り、今にも壊れそうだった。だんだん、奥の方に押し込まれ、体中が悲鳴を上げているがそれでも諦めず、少ない魔力を込め続ける。

 

「まだだ……ゴフ……まだおわっ……て……ない」

 

 無理をした反動か、口から血を吐く。原因は分かっているが、止めるはずがない。自分が乗客すべての命を握っているのだ。それにもう自分は死ねない。自分を待ってくれる人がいるのだ。レキや綴、理子の顔が頭を過る。

 

(まだここで……死ぬわけには行かない!!)

 

「ァああああ」

 

 もはや人の叫び声ではなくなっていたが、魔力をさらに込め、一段と輝きが増し、暗闇から一瞬光に包まれる。光が収まるとリンの思いが届き、なんとかぎりぎりでANA600便は止まっていた。

 

 リンはANA600便が止まった事や悪魔化が解けていることなど気づいていなく、ただ立ち尽くしていた。

 

「……」

 

 周りから歓喜の声が聞こえるが良く分かっていなく、フラフラしながら、覚束ない足取りでリンは前のめりに倒れる。

 

 その時、ふと誰かに受け止められた。顔は見えないが、リンにはすぐ誰か気づく。

 

「レ……キ……か」

 

 どうしてここにいるのかは分からなかったが、この心地よい香りや暖かさは、レキだとすぐ分かった。

 

「はい。りんさん」

 

「みんなは……無事……な……のか」

 

「はい。りんさんのおかげで皆助かりましたよ」

 

「そう……か。支えてくれてありがとな……」

 

 リンはそれを聞き安心し、自分を支えてくれているレキに今出来る最大の感謝を伝える。

 

「気にしないでください。リンさんが無事で良かったです」

 

 無機質な声だが、リンは支えられて見えないだろうが、レキの表情は微かにだが、いつもの表情じゃなく、よく分からない表情だった。安堵や悲しみ、それが混ざったような顔をしていた。リンが無茶をした事に悲しみ、生きていた事に安堵しているようなそんな風に見えた。それはレキ本人でさえ気づいてなかった。

 

「疲れたから少し眠っていいか?」

 

「かまいません。おやすみなさいリンさん」

 

 大雨にもかかわらず、リンは暖かい温もりに包まれてすぐさま意識を失った。

 

 レキはその場で立ち尽くし、リンを支える。抱きしめるように支えているため、胸からリンの心臓の音が聞こえ、何を思ったのか、リンの頭に手を置く。撫でるわけでもなく、ただ置いただけだが、それでもその光景はとても美しく、神秘的で一枚の絵になっていた。

 

 救護科も治療するためにその場に到着したが、その光景に誰もが動けなかった。微かに笑みを浮かべ、リンを抱きしめて支えるレキ、それに安心して眠るリン。大雨が降っているにもかかわらず、太陽に照らされている。母が子を大切に抱きしめている様な。そんな暖かな光景に見惚れ、誰もがしばらく動けなかった。暗闇の中、リンの銀とレキの緑色の髪がその場を優しく照らしている様に見えた。

 

 

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