緋弾のアリア 悲しみの悪魔   作:osero

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第十六話『天然と乙女』

 

 

 

あれから少し時間が経ち、綴は自分の仕事があると言い、ヒラヒラと手を振りながら仕事に戻り、レキは武器を整理するため帰っていった。残った三人は事件を解決した祝いをするべく、色々な場所を周った。色んな物を見て目を輝かせるアリア。それに呆れながら後を追うキンジ。それを微笑ましくみるリン。

 

 

 

 遊びすぎて疲れたであろうキンジとアリア、左右に揺れながら歩く姿は酔っている様に見えるだろう。それと比べ、リンは平然な顔をして、両手いっぱいに食材や飲み物が入ったビニール袋を持ち、帰り道を歩く。

 

「リン……なんでお前はそんなに平気そうなんだ」

 

「たしかにそうね……あれだけはしゃいでいたのに、あんたなんでそんなにけろっとしてるのよ!」

 

「何故逆切れされないといけないんだ……」

 

 疲れているキンジやアリアの分の荷物を持っているにも関わらず、相変わらず一方的で理不尽なアリア。リンは思わずため息を零す。そんな姿をみてアリアは慌てる。

 

「べ、別に、怒ってないわよ!なんとなくそう思っただけなんだから!」

 

「まぁ、そうだな……楽しい感情が大きくて疲れがまだ出てないだけだろう」

 

「なんだそりゃ」

 

「子供みたいじゃない」

 

 アリアもキンジもあきれた顔をしながらリンを見る。今はいつもの無愛想な顔をしていた。あの時、ビニールハウスで見たリンの笑顔は今でも信じられないとアリアとキンジは思う。男女関係なく、あの微笑む姿は美しく、今でも思い出し、頬を軽く紅くさせるアリア。

 

「なんだ二人とも俺の顔になにかついてるか?」

 

「い、いやなんでもない」

 

「い、いいからさっさと働きなさい!」

 

「そう怒るな。もう着くぞ」

 

 フシャーと猫が威嚇する行為をアリアがしているため、可愛いものに目がないリンは頭を撫でたい衝動に駆られ撫でようとしたが、腕が両手とも塞がっており、さらにキンジが目の前にいるため、リンは潔く諦め、目の前に見えてきた自分達の寮に向かい歩を進めるスピードを上げる。

 

「ま、まちなさいよ!」

 

「落ち着けアリア、美味しいご馳走が食べれなくなるぞ!」

 

「そ、そうね。今日の所は許してあげるわ」

 

 キンジがアリアを必死に宥める。リンが振舞う料理は貴族のアリアも太鼓判を押しており、先ほどまでの火山の噴火寸前の怒りが急激に沈下していく。しかし、リンはそんなアリアの話を聞いておらず、気づけば大分リンと距離が開いていた。

 

「フフ、フフフ、私を無視するとは……良い度胸じゃない!風穴!!!」

 

「お、落ち着けアリア!今のは見てないお前が悪い!」

 

「何よ!キンジごときが私に楯突こうって言うの!」

 

 キンジはアリアを止めるべく後ろからアリアを引き止めていた。だが、アリアのどこにこんな力があるのかと思うぐらい力強く、逆にキンジが引っ張られる。

 

 さすがに騒がしい事に気づいたリンが後ろを振り向く。何を思ったのかアリアとキンジを見て、

 

「お前らなんで抱きついてるんだ?そういう事は二人きりのときにしてくれないか?」

 

 やれやれと仕方が無いと言わんばかりのリンの態度にアリアの羞恥と怒りが限界を超えた。

 

「キ、キンジ!今すぐ話しなさい!あ、あいつを今すぐ殺るわ!」

 

「アリア、俺もその気持ちは分かる。すべてが終わった後にやり返そう」

 

 さすがのキンジもリンのあの態度に我慢できず、アリアの意見に賛同し、悪い笑みを浮かべる。

 

「ふん。キンジにしてはいい意見ね。そうしましょう」

 

 熱が収まり、落ち着き。先を歩くリンを互いに見つめながら、黒い笑みを浮かべる二人。周りはそんな二人を痛々しい目で見ていた事を本人達は知らない。

 

 

 

 

 

 

 寮に着いたリン達だったが、リンは買い忘れた物を補充するべく、キンジとアリアに荷物を持たせ、寮の目の前にあるコンビニに買出しに向かう。一方で荷物を受け取ったキンジとアリアは部屋に戻り、寛いでいた。が、着信音が鳴り出す。

 

「ん?」

 

 キンジが自分の携帯の画面を見る。覗いて見ると、電話やらメールが大量に来ており、それが全部同一人物の名前で埋まっていた。キンジの幼馴染の白雪であり、それを見たであろうキンジは石の様に固まり、見てはいけない物を見るようにメールを覗き見る。

 

『キンちゃん、女の子と同棲してるってホント?』

 

 から始まり、

 

『どうして返事くれないの?』

 

『すぐ行くから!』

 

 こんな事ある訳ないと、馬鹿にしていたホラー映画の主人公の様な感覚を味わうキンジ。背筋が凍り、主人公の気持ちを理解する。だが、恐怖を押さえ込み生きるために声を張り上げる。

 

「ア、ア、アリア!い、い、今すぐ逃げろッ!」

 

「な、何よ。なに急にガクガク震えてんのよ。キ、キモいわよキンジ……」

 

 ゾンビの様に震えながら迫ってくるキンジにアリアは気持ち悪くなり、拒絶する。

 

「ち、違う、く、来るんだよ。武装巫女がッ!……ぁ」

 

 すでに遅く、廊下から足音が響き渡り、金属音と共にドアが切り開いた。

 

「やっぱり、いた!神崎・H・アリア!」

 

「いきなりなんなのよ!」

 

 切り開かれたドアから現れた白雪、そこからはアリアと白雪の争いが始まった。キンジを取ろうとする泥棒猫を成敗しようとする白雪、訳も分からないが切りかかってくる白雪に対応し怒鳴るアリア。

 

 その争う状況を眺めながら、キンジは現実逃避をする事にした。争いが激化し、物置に隠れようと行動を移すそのとき、

 

 ボス、っと買い物袋が落ちる音が響く、買ってきたであろう品物が散乱する。

 

「あ……」

 

 誰が出した声かは誰も理解できなかった。あれだけうるさかった喧騒が凍った様に止まる。

 

「……さて、説明をして貰おうか」

 

「ひぃッ!!」

 

「あ、あ、あ、あの」

 

「……」

 

 アリアは猫の様に縮こまり体を震わせ、白雪はあたふたし、キンジは喋る事ができなかった。その原因であろうリンの表情は俯いて髪がかかり分からないが、三人共があれは駄目だと警報を鳴らす。

 

「聞こえなかったのか?どうしてこんな事になってるんだ?」

 

 今度は明確に怒気が伝わり、三人の額に汗が流れ落ちる。

 

 そこには鎌を持った死神がいた。返答を間違えればあの世の片道切符が手に入るだろう。

 

「だ、だって、泥棒猫がキンちゃんを取ろうとしたんだもん!!!」

 

「……はぁーもう分かったから。泣くのは勘弁してくれ」

 

 自分が悪いと自覚していたのか、今にも泣きそうな顔で、もう泣いてる白雪の子供の様な理由に、リンは額に手をやり、呆れながら怒りを抑え、ため息を吐いた。

 

「だいたい白雪、俺がいるんだ。アリアとキンジが何かする訳がないだろ?」

 

「そ、そうよ!事件を解決しただけよ!」

 

「……まぁ、な」

 

 どこか不審な態度のアリアとキンジに頭を傾げるリン。

 

「でもでも、キンちゃんと泥棒猫がペアルックしてるぅぅぅーー!」

 

 良く見ればアリアとキンジの両方の携帯にお揃いの物が付いていた。

 

「おいおい……お前らめんどくさいだろうが。お前らで止めるか?」

 

「す、すまん。頼むから行かないでくれ!」

 

「そ、そうよ!なんとかしなさい!……してください」

 

 アリアの命令口調に踵を返し帰ろうとするリン。それを見たアリアはすぐさま自分の言葉を訂正する。

 

「白雪、今時、ペアルックは友達でもするもんだ。これぐらいで恋仲と言うのはないだろう?」

 

「じゃあ、じゃあ、キンちゃんとアリアとそういうことはしてないのね?」

 

 少し落ち着いた声で問いただす白雪。

 

「なにをだ?」

 

 黙っているキンジ達の変わりにリンが聞き返す。

 

「キ、キスとか」

 

「フフ、こいつらがしてる訳ないだろ。なぁ?そうだ……ろ」

 

 あまりにも場違いな答えに口元を歪ませ軽く笑うリン。しかし、キンジ達の方を見て言葉は止まる。視線を向けて見れば、二人は見つめあい共に石化していた。

 

「……し……た……の……ね」

 

 ふふふ、うふふ、と薄ら笑いを浮かべる白雪。だが、リンはもう止めるつもりもない。理子と戦っている間、そんな事をしていたのだから。

 

 白雪の方は目を見開き、刀を上段に構え、いつでも振り落とせる用意をする。

 

「た、たしかに、そういうことは、し、したけど、だ、大丈夫だったのよ!」

 

 大丈夫?皆の頭に疑問が浮かび上がる中、アリアは叫ぶ。

 

「こ、こ、子供はできなかったから!!!」

 

 それが止めだったのか、白雪はばたりと倒れ、リンももはや、言葉も出ず、疲れを癒すべく、この惨状を放置し、踵を返す。行き先は綴の家。リンの頭ににあるのはそれだけ。

 

 残ったのは、その事で揉め合うキンジとアリアだけだった。

 

 

 

 

 

 

 あれから、1日が過ぎ、太陽が昇る頃、朝6時にリンは目を覚ます。今日からまたリンの1日の日常が始まる。

 

 朝起きたリンはシャワーを浴び、歯を磨き、朝食を作る。ここまでは順調でいつも通りなのだが、休日の土曜日と日曜日はこれからが正念場だった。

 

「……行くか」

 

 いつもなら起きて来るであろう綴は来ない。休日も綴は仕事があるのだ。リンの方も武偵高任務やらがあるときがあり、綴の方は教師としての仕事や、綴個人の宛ての仕事もあるほどだ。

 

 そうというのも、武偵高校の教師など、まともな人間などほとんどいないだろう。何故なら、武偵を育てるのに弱い先生などいるはずもなく、先生と呼ばれる連中は何かを究めたエキスパートなのだ。戦闘のプロ、情報のプロ、運転のプロと、彼ら一人一人が強者であり、普通の犯罪者よりも性質が悪く、強さの格が違う。そういう人生や経験を得てきた人生などまともな物じゃなく、生きてきた環境が違うのだ。

 

 あの高天原ゆとり先生ですらそうなのだろう、とリンは予測する。噂では凄腕の傭兵だったという話を良く聞く。それにときおり、彼女から蘭豹と一緒な強者が持つ特有の何かがひしひしと伝わってくる。どれだけ隠そうが隠し切れないものだ、とリンは思う。

 

 そんな事を考えながら、足を一歩ずつ動かし階段を上っていく。

 

「綴、起きろ。朝だぞ!」

 

 コン、コン、とドアをノックしながら呼びかけるリンだが、一向に返事がこず、ドアノブを握り、ゆっくりと開ける。キキ、とドア特有の音が室内に響く。中に入ると白いベットでパジャマを着て横向きで寝る綴を見つける。寝付けが悪かったのか、少し服が乱れている綴。

 

「ッ!」

 

 近づいて見ると、胸元が少しはだけており、そこから少し汗が滴っていて、いつもの睨むような顔じゃなく、安らかに眠る綴。安らかな顔、汗ばんだ服、胸元がはだけそこから光るように見える滴る汗。熱いのか少し紅実をおびた体。いくらそういうことに、あまり関心のないリンでもかなりきつく。普段感じさせない色気を漂わすその姿に、

 

「ッ!お…おきろ綴」

 

 ゴクリと喉をならし、熱くなる体。襲いたくなる衝動を抑える。

 

 それほどまでに強烈な色気を綴は漂わせており、リンじゃなければ我慢できず遅いかかっているだろう。ひたすら我慢し、彼女を揺するリン。汗ばむ手を理解しながらも揺すり続ける。

 

「ん、んぅ」

 

「き……きつすぎる」

 

 艶声を出し、寝返りをうつ綴にリンの精神は少しずつ削られる。

 

「起きろ綴」

 

「んん。うるさいな」

 

「うッ!」

 

 少し音量を上げ呼び続けていると、綴はリンの揺する手を引っ張り抱き枕のように抱きしめた。密着する体。胸の膨らみが押し付けられパジャマの下に下着を着けていないのか、感触が直接伝わり、マシュマロの様に胸の形を変えていた。さらに追い討ちをかける様に首元に綴の寝息がかかり、背筋がぶるっと震えた。

 

(もう無理だっ!)

 

 限界が超え、やばいと感じたリンは行動を起こした。

 

「んん。な、なんだぁ?」

 

「おはよう。綴、そろそろ離れてくれると嬉しいな」

 

「ん?……ッ!!!」

 

 爆音が鳴り響き、目が覚め、トロンとした目でリンを見つめる綴。しばらく呆然と寝ぼけていたが、今の自分がリンを離さないように強く抱きしめている状況に気づき、目を見開いて、瞬間移動でもしたかと思うくらい、いつのまにか部屋の隅まで移動していた。

 

「おはよう。朝食できてるぞ。今日も仕事だろ?俺は先に行ってるから」

 

「あ、あぁ、そ、そうしてくれ」

 

 そう言い部屋をでるリン。綴は寝ぼけていたとはいえ、リンに抱きついた自分に茹蛸の様に湯気がでそうなくらい顔を紅く染め上げ、頭の中はパニックに陥っていた。

 

(し、下着もつけもせず。そのままリンに押し付けてた。なんてことをしてるんだ私は!)

 

寝ぼけていたとはいえ、リンにあんな大胆なことをした自分の行動を省みて両手で顔を覆う。

 

「む、無理だ。し、しばらくは行けない……」

 

 今の自分の姿などリンに見せれるはずもなく、顔の熱を戻すまで10分くらい時間を要した。

 

 

「お、おはよぉーリン」

 

「おはよう綴。今暖め直すからコーヒーでも飲んで待っててくれ」

 

「あぁ、ありがとぉ」

 

 元に戻り、挨拶を交わす。先ほどのことはお互い触れることはしなかった。暗黙の了解がそこにはあった。ふとそのとき、綴の視線に何かが写る。

 

「ん?額の傷どうかしたか?」

 

「いや、なんでもないさ。壁に打っただけさ」

 

 なんでもない様に苦笑いを浮かべ、答えるリン。

 

 先ほどの限界を超えたリンは魔力を右手に集め、自分の額を殴ったのだ。おかげで耐え抜くことができ、綴も起こす事ができたのだ。

 

「それよりご飯をたべよう。じゃないと間に合わなくなるぞ?」

 

「もぉーそんな時間かぁー。なら急ぐか」

 

 いつもの日常の光景に戻り、リンと綴は急ぐべく、朝食に手をつけ食べ始めた。

 

 

 

 

 綴が出かけ、何もする事がなくなったリンは羽を伸ばすべく、今まで来た事がない秋葉原に足をのばしにきていた。

 

「すごいな……」

 

 リンが驚くのも無理はない。人がたくさんおり、見渡せば人、人、人、とこんな一斉に人が見渡せる場所はそうそうないだろう。

 

 そんな光景に目を奪われ探索中のリンは不思議なものを見かけた。

 

「なんだあれは?」

 

 左右をきょろきょろと確認しながら、メイド服をガラス越しに目で観察する怪しい女性らしい人物が目に入る。リンと同じ考えの人もいたらしく、周りにもちらほら、怪しそうに伺っている人達もいた。

 

「仕方ないな……さすがにここまで注目されてると可哀想だしな」

 

 ため息を吐きながら、彼女に近づく。このまま放置していればさらに人が集まり、可哀想だと思い、声をかける。

 

「すまない。ちょっといいか?」

 

「な、なんだ。わ、私は別にメイド服なんかに興味などないぞ!」

 

「いや、そう言う事じゃないんだが……」

 

 聞いてもいない事を正直に喋る女性。

 

(声をかけなきゃ良かったな……)

 

 この時点で、リンはすでに後悔が押し寄せていた。また変わった女性だとすでに露見したためだ。

 

「さっきから左右を確認、メイド服を見るを繰り返して、周りから見たら怪しい人物だと思われてるぞ」

 

「ちゃんと確認してたさ。そんなはずはないだろう」

 

(天然なのか?)

 

 思わずリンはそう思えずにはいられなかった。

 

「たしかに左右は確認していたが……後方は確認したか?」

 

「後方……だ……と!?」

 

「本当に分かってなかったみたいだな……」

 

「も、もっと、早く言え!恥ずかしいだろう!」

 

「いや……こちらも今きた所なんだがな」

 

 後方を向いたであろう彼女は自分を指差す、何人もの人だかりが見え、羞恥心が襲う。この恥ずかしさをリンにぶつけるが、リンは哀れみの瞳をむけながら、あまりにも可哀想なため、理不尽に怒る事に、言い返す気力すら湧かなかった。

 

「やめろ。そんな目で私を見るな!」

 

 彼女の方も今になり、自分が以下に可哀想な立場なことを自覚し顔を俯かせ、恥ずかしさからか、顔に熱が集まっていた。

 

「仕方ない。俺が、なんとかしてやるからそこの店で待っててくれ」

 

「す、すまない。頼む」

 

 これ以上ここにいるのが辛かった彼女はリンの言葉に素直に頷き、急ぐ様にリンが指差した店へと早足で歩いていく。

 

 彼女を行かしたリンは彼女が見ていたであろうメイド服に視線を向け、そのお店に入っていく。

 

 

 

 カフェに着いたリンは彼女がいる場所を見つけ、向かい側に腰を下ろす。

 

「す、すまない。助かった」

 

 腰を下ろした瞬間、リンは感謝の言葉を貰う。

 

「気にするな。あまりにも可哀想だと思っただけだしな。ちなみにいつからあそこにいた?」

 

「さ……30分前ほどだ……」

 

「……その時から見られてただろうな。ここに来たばっかりの俺でさえすぐ気づいたからな……」

 

「分かってるから言わないでくれ!」

 

 彼女は分かっていたらしく、怒鳴りつける。しかし、怖さなど無く、羞恥心に駆られながら怒る姿に可愛いと感じ可笑しかった。

 

「なにを笑っている」

 

「いや、あまりにも天然で可愛いな、とな」

 

「ッ!からかうな!」

 

「まぁ、落ち着け。俺が悪かったから、それより何か頼まないか。お詫びに俺が奢ろう」

 

「そ、それなら許そう」

 

 リンにそう言われた彼女はすぐさまメニュー表を開き、目を輝かやかせる。そのころころと表情が変わる彼女は面白く、リンはレキや理子、アリアや他のものとはまた違った楽しさを彼女から感じていた。

 

 彼女を改めて良く見れば、容姿は整っていて、どちらかと言えば綺麗な方のタイプであり、リンとはまた違った白が混ざった長髪の銀色の髪をしており、その雪の様な白い肌とあいまって慈悲深い聖母を連想させる彼女。そしてなにより彼女の目はサファイヤ、青い宝石の如く、輝いており慈愛を感じさせるほど美しかった。人が注目していたのも彼女の容姿に見惚れていたのもだろう。そう考えながらも注文票を見る。

 

「俺はBセットだな。そっちは何にする?」

 

「私はあまりおなかが空いてないからパフェにしよう」

 

「そうか。少しお手洗い行って来るから注文しといてくれ」

 

「わかった。まかせておけ」

 

 彼女に注文をまかせ、席を立つ。

 

 リンがお手洗いに行くと、それと変わるように若い女性が注文をとりに来る。

 

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 

「あぁ、Bセットとイチゴパフェを一つ」

 

「はい。Bセットとイチゴパフェですね。通常か特別どちらにしましょうか?」

 

「ん?あぁ、特別で頼む」

 

「は、はいかしこまりました」

 

 特別の意味が良く分からなかった彼女だが、そっちの方がいいだろうと軽く決めていた。しかし、特別と言った時、周りからざわめきが聞こえ、注文を受けた女性も慌ただしく厨房に戻る姿を見つめる彼女。疑問に思いながらもリンが帰ってきたため彼女はその疑問を中断する。

 

「注文ありがとな」

 

「気にするな」

 

「それより、自己紹介がまだだったな。俺はリンだ」

 

「私はジャンヌだ」

 

「良い名前じゃないか」

 

 そこから色々と互いに話合う。趣味だったり、何故今日ここに来たのか、とありきたりな話に花をさかせていた。するとウエイトレスが商品を持ってきた。

 

「おまたせしました。特別のBセットと特別のドリンク、特別のイチゴパフェです」

 

 そう聞こえたリンは思わず自分の耳を疑ったほどだった。

 

「……何故だ」

 

「……」

 

 リンとジャンヌの目の前には二人で一緒に飲むカップル用のジュースが置かれ、注文も特別といわれた。

 

「さぁ、皆さんの前でしっかり、アピールしてくださいね」

 

 若いウエイトレスの女性にそう言われ、周りから沢山の視線を受ける。

 

「なんで特別なんて……頼んだ?」

 

「別に何も変わらないと思ってて……」

 

「ここを見ろ」

 

 リンが指差す場所にジャンヌは目をむける。

 

 特別メニュー。数量限定カップル限定メニュー。お互いが食べさす事で食事代が無料。審査員は周りのお客さんと注文を受けたウエイトレスの判断。

 

 それを見たであろうジャンヌはぴしり、と石化にあったかの様に固まる。

 

「天然だと思っていたが、まさかここまでとは……」

 

「天然とはなんだ!天然とは!た、ただ間違えただけだろう!」

 

「……そうか」

 

 本人は強く否定してるが、今日初めて会ってすでに二回も見せつけられてるのだから、説得力の欠片もなかった。

 

「それでどうする?俺は別に気にしないが、女性はそういうの大事だろう?彼氏などに見られたら大変だぞ」

 

「か、彼氏など私はいない!へ、変な事を言うな」

 

「謝るから……だから離れてくれないか?」

 

「ッ!す、すまない」

 

 顔を近づけ強く否定するジャンヌ。リンとジャンヌの距離は近く、互いの吐息がかかり、もう少しで唇が触れ合いそうな程近かった。それに気づいたジャンヌが青い瞳を動揺させ、雪の様に白い顔に赤みがさす。

 

「あ、あのー、そろそろしてくれませんと困るんですけど……」

 

 いつまでたっても食べようとしない二人。さらには目の前でいちゃつく二人にウエイトレスの女性は戸惑いながらも二人に声をかけた。

 

「あぁ、い、今食べるぞ。は、箸をよこせ。私がお前に食べさせる!」

 

「いいのか?別に普通に代金を払ってもいいんだぞ?」

 

「し、仕方ないだろう?周りを見ろ。もうそんな事言える状況じゃない。だ、だから早く口を空けろ!あ、あーん」

 

 恥じらいながらも、箸でハンバーグを一口サイズに切り取り、リンの口元まで持っていく。

 

「そうか。すまないな……うん。うまいぞ」

 

「そ、そうか。こ、これでいいだろう?」

 

 やり終えたジャンヌがウエイトレスに確認をとるが首が縦に振られる事はなかった。

 

「いえ、まだ、ドリンクとパフェが残っております」

 

 ちらりと目線を横に移せば、カップルが飲むであろう、一緒に飲まなければ飲めないドリンクがジャンヌの目に入る。

 

「や、やるぞリン!」

 

「……おい落ち着け」

 

 もはやジャンヌは冷静判断ができないくらいパニックに陥っていた。

 

「い、いいからやれ!」

 

「後で後悔しても知らないぞ……」

 

 もう止めようがないと悟ったリン。覚悟を決め、先にストローに口をつけ待つジャンヌの反対側につくストローに口を着け、互いに飲み物を吸い取る。

 

「んっ!」

 

 口をストローから離し、パニックになってたとはいえ、羞恥と歓喜が混じった表情を浮かべどこか楽しそうなジャンヌ。

 

(こういう事に憧れてたのか?)

 

 メイドの服をキラキラと目を輝かせ、凝視していたであろうジャンヌ。そして恋人がやりそうなその行為に戸惑いながらもどこか嬉しそうな顔をしていた。

 

(見た目と違って乙女なんだな)

 

「仕方ないな。ほら口を空けろ」

 

「なッ!わ、私は別に……」

 

「遠慮するな。パフェ……食べたかったんだろう?ほら」

 

「んっ。う、うまかったぞ」

 

「それは良かった」

 

 リンから顔を背け食べさせたイチゴの様に紅く顔を染め、照れるジャンヌ。それを満足そうに見るリン。

 

「はい、オッケーです。それにしても中々愛し合ってますね。ここまで大胆に見せ付けるなんて……」

 

「も、もういいだろう。さっさと行ってくれ!」

 

 ウエイトレスの女性もあれだけ見せ付けられ、頬をほのかに紅くし、周りの反応も似た様な反応だった。

 

「頭、冷めたか?」

 

「うぅ。分かってる……」

 

 頭に手をやり、仰ぐジャンヌ。その姿は絵になっており、周りの男性の視線を虜にする。

 

「あまり気にするな。それより、今は食事を楽しもう」

 

「そう……だな。そうすることにしよう」

 

 気落ちしていたジャンヌだったが、リンの言葉に持ち直し、互いに食事が終わるまで話に華をさかせた。

 

 

 

 

 食事が終わり、外にでたリンとジャンヌ。

 

「中々、楽しかったな」

 

「あぁ。わたしもだ……っと、そろそろ帰らないといけない」

 

「そうか、ちょっと待っててくれないか?すぐ終わるから」

 

「あぁ。別にいいが」

 

 ジャンヌの返事を背中で聞き、リンは建物の中に入る。

 

「待ったか?」

 

「いや、大丈夫だが、それはなんだ?」

 

「これか?これは俺からのプレゼントだ」

 

「……いいのか?」

 

 2分か3分待ってたジャンヌだが、戻ってきたリンからプレゼントを貰う、突然の事に戸惑いながらもリンが頷いたため受け取り、袋を開ける。

 

「こ、これはっ!」

 

「欲しかったんだろう?」

 

「べ、別に欲しくなど……それに私には似合わない」

 

「嘘はいい。それに大丈夫だ。ちゃんと似合ってるから、俺が保障する」

 

「そ、そうか。ならありがたく受け取っておこう。ありがとう」

 

 袋を空け、自分の欲しくてやまなかったメイド服が入っており、頬が緩むが、すぐにはっとなり、否定の言葉を紡ぐ。しかし、リンが真剣な顔で保障するとまで言ってくれて、嬉しく、今日一番の笑顔をリンに向けた。

 

「……喜んでくれて何よりだ。プレゼントした甲斐があった。じゃあ俺もそろそろ帰るな」

 

 ジャンヌの聖母を思わせる優しい笑顔に少し見惚れたリン。それを隠すため、背を向け帰るため歩き出す。

 

「り、りん!」

 

「ん?」

 

 ジャンヌに名前を呼ばれ、振り返るリン。

 

「ま、また会えるだろうか?」

 

「きっとまた会えるさ。そんな気がする。それじゃあ、またな!」

 

 軽く微笑みを浮かべ、リンはジャンヌに背を向け手を振りながら立ち去る。

 

 それを見送りながら、ジャンヌはリンから貰ったメイド服が入った袋を大切そうに抱きしめる。

 

「……笑ってたな。また会えるといいな……」

 

 そう口ずさみ、立ち去るリンを見る。ジャンヌはその場から一歩も動かず、リンが見えなくなるまでその背中を見続けていた。




やっと十六話完成しました。

頑張った…もう燃え尽きたよ…

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