緋弾のアリア 悲しみの悪魔   作:osero

18 / 20
第十八話『大和撫子』

 

 

 

 あれからは特に何事もなく穏やかな数日が過ぎていた。

 

 そしてある昼休み。

 

 リンは今、アリア、キンジといつものメンバーで円形の机に座り食事を取ろうとしていた。

 

「なぁ、リン」

 

「どうした?」

 

 自作の弁当を空け食べようとした所、キンジに呼ばれ食べ物から視線を上げる。

 

「俺は何故避けられてる」

 

 キンジの目の先には円形の机に、リンの横にピタリとコアラみたいにアリアが引っ付いており、数日前からずっとこの調子で距離をとられていた。最近ではやっと元に戻ったみたいだったのだが、癖がついたのかリンの横を隙間を空けずに座るアリア。

 

 一方でリンの方はここ数日ずっと引っ付かれて嫌がっていたが、警戒心の強い小動物の様で可愛いため、まぁいいか、と簡単に納得したのだった。

 

「……アリア。まだ理由話してなかったのか?」

 

「い、言えるわけないじゃない!!」

 

「まぁ……あの日、あまりにも知識が偏っていたから中学校で習いそうな保健体育の本を買ってあげてな。読んで理解したんだろう」

 

「っ!な、なんでそんな簡単に言うのよっ!!!」

 

 まるでたいした事はない、とはっきり言うリンにアリアは今まで隠してきた努力が水の泡になるのと、その赤ちゃんが出来る過程を想像し、怒りと羞恥心で顔が赤く染まる。

 

「そ…そうか。わ、悪いな」

 

 この話題を聞いたのは失敗だったとキンジ本人は理解する。原因の要はキンジ張本人のため、何も言えなかった。

 

 アリアの方は必死にポカポカとリンに軽いパンチを交互に繰り返し、リンに反抗する。大人ぶる子供の子供っぽい所を暴露する親に拗ねて当たる子供の絵がそこにはあった。

 

「……落ち着け。そろそろ仲直りしないと俺がめんどくさい」

 

「うぅ……いじわる……」

 

「ハァ仕方ないな。これでも食え」

 

 涙目になり、足をばたばたさせいじけるアリアにリンは自分で作ったももまんをアリアの口に入れる。

 

「んっ!?」

 

 最初は驚いた顔をしていたが、その味を噛み締めると次第に頬が上がり、万遍の笑みを浮かべももまんを齧る。

 

 その様子を見ながらリンは視線をキンジに戻す。

 

「避けてた理由はこんな所だな」

 

「あのわがままアリアを餌付けするとは……さすがリンだな……」

 

 怒り、拗ねたアリアをこうも簡単に笑顔にさせるリンにキンジは脱帽する。

 

「そうか?アリアはわがままだが、引き所は弁えてるぞ。しっかり自分の意思を真剣に伝えればちゃんと話は聞いてくれるさ……キンジは別だがな」

 

「おい!俺だけ別なのか!」

 

 最後に零した言葉に突っ込むキンジ。試して見ようと思った所で自分だけ外された事により、希望が折られ思わず突っ込まずにはいられなかったのだろう。

 

「これでアリアをなんとか出来ると思ったのに……」

 

「ほんとにそうか?なんだかんだアリアがいて喜んでると思うがな」

 

「な?!別に、俺は……」

 

 図星をつかれたのか、言葉に詰まるキンジ。

 

「相変わらず、ノーマルキンジは分かりやすいな……」

 

 やれやれと首を振り呆れるリン。

 

 しばらくキンジとわいわい騒いでいると、リンの目に知り合いが目に入る。

 

「遠山君。ここ、いいかな?」

 

 そう言いスマイルを披露する不知火、その後ろには武藤がいた。不知火は席に座る際、トレイがずれたのをさり気無く直す。

 

「あいかわらずまめだな」

 

「そうかい?当たり前だと思うけどね」

 

「あのキンジと良い勝負だな。それに後ろにいるやつはそんな事すら気づかないさ」

 

 苦笑いしながら、隣を見るとキンジのトレイを退かし座る武藤。キンジに白雪にたいしての事情聴取をしてるらしい。

 

「ところでさリン」

 

「ん。なんだ?」

 

「遠山君。星枷さんと喧嘩したの?」

 

「そうだな……簡単に言うなら、アリアと白雪がキンジを求めあって戦ったって事だな」

 

 自前の水筒から良い香りがするコーヒーをコップに注ぎ、香りや味を楽しみながら爆弾を落とした。

 

「!?ゴホッ!ゴホッ!」

 

「おい……キンジ!どういうことだ!」

 

「さすが遠山君だね」

 

 リンの一言に皆が騒ぎ出す。アリアの方は苦しんでいるので優しく背中を叩く。ついでにアリア用の甘めのコーヒーを注いだカップを渡す。

 

 それを受け取ったアリアは急いで艶がある唇にカップを持っていき息を調え、感情を爆発させる。

 

「べ、別に求めあってないわ!やきもちとか嫉妬とかそういうのじゃないんだから!」

 

 それから武藤、不知火、アリア、キンジ4人で白雪の事について話に花をさかせる。リンはと言うとそれを淡々と眺めながら寛ぐ。

 

「武藤、羨ましいのが分かるが、キンジはこんな奴だ、いくら言っても惨めになるだけだぞ」

 

「リン……それはな、お前にも言えることなんだよ!」

 

 立ち上がり机を叩き発狂する武藤。皆は目を点にして武藤を見る事しか出来なかった。あの武藤と仲がいい不知火さえ、何が起きたか理解していなかった。

 

「……いや、何故俺なんだ?」

 

 白雪の事にたいし関係なさそうなリンなのだが、その原因を武藤は指摘する。

 

「たしかになぁ。お前にそういうのがないのは分かっているがな……俺はお前が心底羨ましいんだよ!いつも俺が星伽さんを見かけるとだな……いつも横にはお前がいるんだよっ!」

 

 武藤の心の叫びが食堂に響き、周りから視線を集まり始める。

 

「とりあえず、落ち着こうか」

 

 不知火の宥められなんとか平常心を取り戻した武藤だが、それでも言葉は止まらない。

 

「一緒に買い物したり、料理の話で盛り上がったり、どう考えても恋人のそれだろ!?」

 

「言われて見ればたしかに白雪とリンは結構二人で色々喋ってるよな」

 

「確かに。一時期そういう噂も流れてたね」

 

 武藤の意見に次々と同意するキンジと不知火。

 

「何回も言っているが、あれは友達として意気投合してるだけだ。互いに料理の意見交換してるだけだしな。まぁ。結局の所自分もそんな風にしたいだけだろ?」

 

 リンの言葉が的を得ていたのか、武藤は意気消沈していた。さらにリンは追撃をかける。

 

「それに……俺は結構、学校で白雪と武藤を二人きりにしてあげてるはずなんだがな……」

 

「お、おい!それは言わない約束じゃ!?」

 

「そんなことしてたのか……」

 

「そんな事して貰ってるのにリンに当たるのは酷いね」

 

 キンジからは冷ややかな目で見られ、不知火は苦笑いで少し引かれていた。

 

「みっともないわね。それでも男なの!?」

 

 アリアの止めの言葉に武藤は暫く震えていたが、

 

「くそぉぉぉ!」

 

 腕の服で目を隠しながら走り去る武藤。

 

 しかし、走る途中で誰かとぶつかる。

 

「あいつ……終わったな」

 

「さすがに僕も助けにいけないかな……」

 

 リンと不知火がそう零すのも無理はなかった。何故なら、

 

「誰だよ。俺は今悲しみに打ち震え……て……ん……だ」

 

「ホォ。あたしに向かってそんな事言うなんてなかなか勇気あるやんけ」

 

 武藤がぶつかった人物、それは教務課で1位か2位の危険人物の蘭豹だった。言葉には武藤を褒めている様に見えるが、周りは誰一人そんな事はない、と断言できた。何故なら額に青筋を立てて、誰が見ても怒っているのが目に見えて分かるのだ。さらに手を両手でポキポキと鳴らしており、より一層恐怖を引き立てる。

 

「い、今のは気の迷いでして……悪気はないんです!」

 

「そうか。じゃあ人がえん場所で詳しい話をきこうやないか」

 

「ヒィ!だ、誰か助けてくれ!何で皆目を逸らす!頼むから助けてくれぇぇ!」

 

 蘭豹に首元を片手でひっぱられ助けを求める武藤だったが、バタンとドアが閉まり、静寂が食堂を包み込む。

 

「さて、食事を再開するか。じゃないと授業があるからな」

 

「そうだね。時間もそこまでないみたいだしね」

 

「……」

 

「そうね。それが一番いいわ」

 

 リンと不知火は何事もなかった事にし、キンジは無言で箸を進め、アリアはももまんを齧り続けた。

 

 この後、武藤を見た生徒は誰一人おらず行方知らずだったが、次の日ボロボロの武藤が男子トイレで発見された。

 

 

 

 

 

 

 あれから寮に帰り、ソファに座りながらキンジ達とともに部屋で寛いでいた。

 

「あいつ生きてるかな?」

 

 唐突にキンジがそう吐いた。

 

「まぁ、いくらなんでも教師だから、殺しはしないだろう……あっても腕の一本ぐらいだろう」

 

「いや……それはそれで怖すぎだ……それにしてもリンは今思えば白雪と結構仲良いよな」

 

「料理仲間だしな。互いにレシピを交換しあったりしてる」

 

 白雪の話がでて、耳に届いていたのかアリアが分かりやすいぐらい顔を顰め言う。

 

「あのウシ乳の事なんてどうでもいいのよ!それにね私は……」

 

「ウシ乳って……完全に自分にない胸にたいする妬みだろ」

 

 ボソッと吐いたリンの言葉に気づかず、アリアは白雪に対しての愚痴をひたすら語っていた。

 

 言いたい事を言って満足したのか、アリアは大人しくなったので、脱線した話を戻す。

 

「まぁ。アリアもいる事だし、なんで仲がいいのかと白雪との出会いを話すか、ちなみにキンジは知ってると思うが出会いは最悪だったな」

 

「まぁ否定は出来ないな……」

 

 キンジは苦笑いを零しながら耳を傾ける。

 

 リンはそうして白雪との出会いを語りだす。

 

 

 

 

 

 

 

 東京武偵高校に入り大分慣れてきたリンはいつも通り朝食を作ろうと台所で立った時、寮のインターホンが鳴り来客の訪問を知らせる。

 

「こんな朝から来客とは珍しいな……はい。どなたですか?」

 

 ドアを開けると、艶やかで綺麗な黒髪が目に入り、可愛いと言うより綺麗な顔つきをしており、おしとやかで慎ましい、そんな雰囲気を醸し出す日本人特有の美しさを体現した少女がそこにいた。

 

「あ、きんちゃ……あれ、あ、あの、きんちゃんはここにいますか?」

 

「……きんちゃん?あぁキンジか、キンジならまだ寝てるよ。それとキンジじゃなくて悪かったな。とりあえず起こしてくるからリビングで待っててくれ」

 

あからさまに自分を見た時、万遍の笑みがなりを潜め、がっかりした様な顔をしていたのをリンは見逃さなかった。

 

「えっ!?い、いや気にしないでください。確認しなかった私も悪かったですから」

 

 彼女の方もさすがに露骨にがっかりした所を見せて不快にさせたと思ったのか謝る。

 

 リンは彼女の謝罪を返答せず背を向け歩きだす。そのかわり手を振るだけで答え、キンジを起こす為に寝室に進路を進める。

 

 

 

 

 目が覚めたキンジを引き連れて彼女が待つリビングに移動する。

 

「キンジ、お客さんだ。俺はお邪魔みたいだから学校に行く」

 

 先ほどの表情を見るに恋人か、親しい仲だと推測しキンジの返事も聞かずにすぐにこの場を去ろうとするが彼女が声を上げる。

 

「あ、あの!ご飯作ってきたので……あなたも一緒に食べませんか?」  

 

「……さっきの事で別に気を遣わなくても良い。ここは二人で仲良くしていればいい」

 

 表情を変えずきっぱり言い放つ。リンからしてみれば別に興味がなく関わらない方が嬉しいのだが、彼女はそうでもなかった。先ほどの自分の行動に罪悪感を胸に感じているため、今のリンの態度が余計に拍車を掛けていた。しかし、諦めずに目に透明な物を潤わせながらも諦めず声を掛ける。

 

「でも……私……あの……」

 

 次第に声が掠れて涙声に変化する。それを視界に捉えたリンは思わず白い天井をを見上げ頭を抑えた。何故こうなったと。ただ他人の振りをすればそれで終わるのにと。

 

 さすがに不味いと思ったのかキンジがフォローを入れる。

 

「リン……俺には良く分からんが、白雪は気弱そうに見えて結構頑固だから素直に折れてくれ。それに白雪、リンはこれっぽっちも怒っていない。これが普通なんだ。」

 

 キンジの言葉通り、リンは無表情で言葉の一つ一つに棘があるが、別にこれが普通であるのだ、たしかに人付き合いが苦手であり、人間が苦手で、あまり心を開こうとしない。しかし、根は優しいやつだとキンジは寮で共に暮らしてから理解している。

 

 だから今も、

 

「……わかった。素直にご馳走になるよ。悪いな二人の時間邪魔して」

 

「……は、はい!今用意しますね!」

 

 ぶっきらぼうに言い放ちながらもしっかり謝罪するのも忘れない。そんな不器用なリンに気づいた彼女も打って変わり自然と柔らかい笑みを浮かべながら食べる準備を施す。

 

「えっとじゃあ召し上がって下さい」

 

「……いただきます」

 

「いただきます」

 

「いただきます」

 

 食べる挨拶を終え、キンジとリンが箸を動かし口元に持っていくのを彼女はじっと見つめている。

 

「うん。やっぱり白雪の飯は上手いよ」

 

「ありがとう。きんちゃん」

 

 嬉しそうにはにかむ白雪。だが表情はまだ硬く、箸に手をつけず食卓を見守っていた。

 

 それに気づいたリンはため息を吐き答える。

 

「うまい。しっかり味付けもされていて、どれも丁寧に作られてるのが分かる」

 

「あ、ありがとうございます」

 

 唯一の心配事がなくなったのか嬉々累々と箸に手を付け料理に手をつけ始めた。

 

 朝食にしては豪華だった重箱を平らげた一同は手を合わせ食事を終わらせる。それを洗おうとした彼女だったが、

 

「洗うのは俺がしよう。ご馳走してもらったせめてものお礼だ」

 

「え、でも……」

 

 リンの善意に素直に頷かない彼女にリンは妥協案を出す。

 

「なら俺が洗うから一枚ずつ拭いてって貰えないか」

 

「はい」

 

 それから二人でキッチンに立ち黙々とリンが食器を洗い、彼女がそれを拭くという作業に取り掛かる。

 

「本当に料理美味しかった。それに一つ一つに何か隠し味を入れているだろう。普段食べたその料理にない美味しさがあった」

 

「え、分かったんですか?」

 

「まぁ俺も料理する身だからな……」

 

「そうなんですか!えっとですね。この料理は……」

 

 最初は遠慮していた彼女だったが、次第にそれがなくなっていた。リンがどういう人物が分かって来た証拠でもあった。それに同じ料理好きである事が彼女から遠慮を取り除いた。

 

 それから次第にリンと白雪は料理を教え合う仲になり、リンは洋を教え、白雪は和を教え合いながらレシピを交換しあったり互いに食材を一緒に買いに行ったりと、周りからみたら夫婦の様に見えるのも当たり前の事だった。食材を買う時もリンが荷物を持ち、キンジの誕生日プレゼントを買った時も、リンが着いて行き一緒に選んであげたりもしていた。

 

 

 

 

「まぁこんな感じだな」

 

「そんな事あったのか、だから去年白雪から貰ったプレゼントがまともだったのか……」

 

「あたしからはとても想像できないわ……」

 

 二人がそんな返答をするのも無理はない。

 

 アリアはつい最近争ったばかりであり、そんな人物とは見えないのだろう。キンジの方は毎年毎年変な物ばかりだった。白雪特製藁人形やら、刀、銃、変な石やらお札と何一つまともな物じゃなかったのだが、去年はマフラーと言う日常でも使う物でもあり、大事に使っている。

 

 ちなみに余談だが、白雪と誕生日プレゼントを買いに行ったとき、白雪が候補に挙げたのは何故かヒトデだった。この時はさすがのリンでも絶句したらしい。白雪曰く、占いでヒトデには女性避けがあったと言ってたらしいがリンは聞く耳もたず、マフラーにしたのだが好評であり、物凄く感謝された。

 

 あの時に『ありがとう。リン君』と、抱きつかれたのは物凄く驚いた記憶がある。歓喜極まったのだろうと思ったリンだった。

 

 そんな事を考えながら、リンは立ち上がる。

 

「そろそろ夕食を作るか。今日はアリアの国のイギリス料理を作る」

 

「期待できそうだ」

 

「ふん。あたしの国の料理だから満足させるのは厳しいわよ!」

 

 こうしてまた平和な一日が過ぎ去って行く。

 

 

 




お久しぶりです。最近はなかなか、腕が進まないです。スランプ中ですね。面白いか面白くないかが分からなくなってきてます。取り合えず……難しい。ジャンヌも出せなかった。書いていたんですが自分の納得のいく物が出来ず、ジャンヌの所をカットして先延ばしにしてました。

 そして白雪の出会い書くか、と書いていたら、あれ白雪ヒロインっぽくなってるのに驚く。気のせい……ですよね。ジャンヌは次ですね。納得出来る作品できる様に頑張ります。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。