「ここは……」
見慣れない真っ白な天井を眩しそうな目で見つめ、彼は思考する。
「たしか自分は……あの場所で」
そう言葉を発した所で彼は思い出す。
身も心もボロボロで絶望していた自分に手を差し伸べた女性を。あの時、救われた。むこうはきまぐれで助けてくれたかもしれないが、それでも、あの真っ暗な場所から拾い上げてくれたのだ。誰も信じられない、この世界で初めて感じた光。嬉しくて無意識に胸元の十字架のネックレスを強く握り締めていた。
「あぁー起きたかァ?」
声が聞こえた方に視線向けた彼は驚く。あの時の黒い髪をした女性がそこにいたのだ。平静をよそよいつつ、彼は口を開く。
「…あなたは?」
そう問いかけられ女性は、
「私はぁ……綴梅子だなァ。そうゆう坊やの名前はァ?」
(綴梅子か……)
その名前を心に刻みつけ彼は、
「俺は……リン。それだけだ。苗字はない」
そう言って黙った彼を見て綴梅子は答えた。
「リンか……変わった名前だが良い名前だなァー」
名前を褒められた事に戸惑うが、彼は嬉しかった。
名前も知らない母だが、ゆいつ母からもらった大切な物なのだ。言葉にできないくらい嬉しかった。そんな彼に気づかず、綴はリンに問いかける。
「どうしてあの場所で座っていたぁー?」
綴はそれが聞きたかった。
おびただしいほどの血、周りの地面や壁には銃では到底出来ないぐらいの罅が入って陥没していた。死体の中には、原型をとどめていないものもあったぐらいだ。
そして何よりおどろく事に綴がリンを運んでいる内にその死体が綺麗さっぱりに消えていたのだ。その現場にいたリンにそれを問うことは当たり前かもしれない。
「……敵に襲われた。それだけだ」
リンはギリっと歯をかみ締める。リンは悔いているのだ。たとえ狙われたとしても人を殺す事が嫌なのだ。だが、今回の敵は強かった。殺す気で行かなければ死んでいたのは自分だったかもしれないと。
戦場に絶対などなく、油断や手加減などすれば、死につながる。だから殺すしかない。それが頭では分かっていても心が納得出来なかった。
それを聞いた綴はこれ以上は話さないと思い、椅子から立ち上がり。
「出前とるか……」
近くにあった電話を取り出前をとっていた。そんな綴の姿をみてリンは言葉がでず、ただ呆然と煙草を片手に電話をする綴を眺める事しかできなかった。
------
食事中はお互いが終始無言で静かな食事だった。
リンは何か喋ろうとするが、今まであまり人と触れ合ってこなかったのか難しかった。
綴は綴で何故リンがあそこにいたのか、狙われていたのか、それを考えていた。それが原因でこの静かな食卓ができあがっていた。それでも頑張ってリンは綴に声をかけた。
「あ、あのさ……詳しく聞かないのか?何故ねらわれていたのか」
「聞いてほしいのかぁー?聞いてもあれ以上なにも言わないだろぉー?」
図星だったため、何も言えずリンは手を止めていた食事を再開する。
一方で綴は食事が終わった為、恒例の煙草をとりだして火をつけ、おいしそうに吸い出した。実際おいしそうじゃなく、たまらなくおいしいのだろう。顔にはでてないが、雰囲気が柔らかくなっている。
「…そんなものがおいしいのか?」
ふとそんな言葉が口からでていた。
「そんなものとはなんだぁー?次いったら分かってるなぁー?」
顔が笑顔なのに目が笑っていない綴を見てリンは理不尽さを感じながらも別の話題をふる。
「綴は何の仕事をしてるんだ?」
「私か?東京の武偵の教師をしているなぁー」
「武偵って…何でも屋みたいなものか?」
「んー簡単に言えばそんなもんだなぁーちなみにわたしはぁー尋問科の教師をしてる」
「どうりで、り……」
理不尽と言おうとした所で頭にグロッグ18の銃がリンの額に置かれてる事に気づく。墓穴をほったと冷や汗を流す。
------------------
あれから一ヶ月が経ちいろんなことがあり、リンは綴の事はだいたい分かってきていた。まず、部屋は散らかっていて、ご飯は毎日出前だった。だから自分が洗濯や料理、掃除などを率先してやった。少しでも恩を返したいと思ったから。その中で綴を怒らせてはいけないという事が身を持って理解した。
部屋が散らかっていたから掃除をしている最中間違えて煙草を捨ててしまったのだ。その時の綴は夜叉だと思い恐怖を感じたリンだった。
しかし、それでもリンはこの一ヶ月、居心地が良かった。いつもだるそうにしてながらも、ちゃんとこちらを気にかけてくれて、声をかけてくれる。怒った顔、不気味に笑った顔、からかうような顔。すべてが新鮮で好きだった。まるで母親の様な姉のような感じだった。初めて守りたいと思った。だからこの命をかけても守っていくとリンは自分に覚悟を決め誓った。
しかし、リンがこの幸せがすぐ崩れるのを知らなかった。
------------------
夜になりリンは慣れた手つきで作り終えた料理を並べ綴の帰りを待っていた。
「遅いな、そろそろ帰ってくると思うんだが……」
時計をみてそう吐いたリンはふと違和感に気づいた。あたりを見渡し、どこにも怪しい所がないのだが、リンの直感が危機をしらせているのだ。
「来い……リベリオン」
自分が持つ剣を呼び出す。するとリンの手には剣が握られていた。刀身が紅く、鍔の所に髑髏があり、反逆と意味を持つ剣がその身を顕にした。リンは剣を構え意識を集中させる。
そして自分の後ろから空間が歪むと同時に敵が現れたかと思うと敵はリンの背後から剣を振り下ろしていた。
リンはそれを横に飛ぶことでよけた。
料理の置いてあったテーブルが綺麗に真っ二つになり、あたりに料理が飛び散るのも気にせず、リンは素早く巧みに体制を低くし走りながら敵に斬りかかる。
剣は防がれたが、それは囮で瞬時に体を捻り本命の蹴りを敵に当て吹き飛ばす。が、気づけば周りに気を配ると敵が三人いた。
ナイフ、剣、鎌などを手に持ちながら襲い掛かってくる。リンは焦らず、冷静に見極め、正面から来るナイフの持った敵を素早く斬り伏せ、横から斬りかかってくる敵に剣で受け流しつつ競り合いそのまま弾き、敵を斬ったと同時に吹き飛ばされた。
「がっ!」
残りの敵の鋭い蹴りがリンに命中し窓を突き破る。リンはすぐに空中で体制を整えすぐさま状況を把握し、人を巻き込まないためにすぐさま人のいない所に走り出す。
そしてそれを追跡していく人の形をした者達。
リンはひたすら逃げ続け、人の通りなさそうな建物の裏側にきていた。
ここなら存分に戦えると剣を上段から刀身を相手に向け構える。敵は4人。顔はフードで隠されて良く見えないが、黒いフードが二人。青のフードが一人と紅いフードが一人。
「幹部までいるとは……」
リンは内心舌打ちをしたくなるほど、今の状況が悪い事に気づいた。あのフードの色にはそれぞれの強さと階級を表した物であった。黒と青はまだいいが、赤は幹部クラスなのだ。一人一人がとても強く特殊な能力を持っている。炎や雷、水や氷など様々な能力をもっているのだ。
「考えてる暇があるのか?」
そう聞こえた瞬間。
「ぐぅ!!」
突然発現した炎に反応できず襲われ吹き飛ばされる。壁にたたきつけられたリンからはところどころ服が溶け火で焼かれた音が発している。
「俺の炎に焼かれてその程度で済んでるとは……さすがはあいつの……悪魔の子供といった所だな」
「ふ、ふざけるなっ!!!たったそれだけの理由で俺を狙うのか!!」
大声をあげたリンは体の痛みなど無視して、赤いフードの男に斬りかかろうとしたが、突然体が動かなくなった。
「かかったな……敵は俺だけじゃないだろう?それにな、悪魔など生きてるだけで罪なのだよ」
その赤いフードを被った男の目は十分に満ちた殺意をこめながらそう言い放つ。
その声を聞きながらも辺りに視線を配り観察する。するとリンは青いフードが何か能力を使っているのか。何かの糸みたいな物が絡まってる事に気づく。
「燃え散らせ、神炎」
そう唱えた瞬間。
空間が歪み出現したその炎は普通じゃなく異質だった。白く輝く龍の形をした炎は触れたものをあっとゆうまに溶かす。まるで最初からそこになにもなかったかのように。その炎が龍の如く螺旋状に周りを溶かしながらリンに迫り直撃する。
「------」
動こうにも動けず避けれなかったリンは声すらもだせなかった。まるで全身が無くなる様な熱と激痛に言葉を失いその場に倒れ伏せる。
ジュ、ジュ、と辺りに焼ける音がだけが木霊する。
(こんな所で……)
リンは遠くなる意識の中でそう思った。
「そうだ、最後に言っておこう。あの綴と言ったかあの女も殺そう」
「なっ!!!」
頭が真っ白になりそうだった。
「何を驚く事がある。悪魔を匿ったのだ相応の罰を与えるのが当たり前だろう?」
そう言った男の顔は残虐な笑みを浮かべていた。
「じっくりと悲鳴を聞きながらいたぶる様に燃やしてやろう」
リンは何をしているんだと自分に怒りを覚えた。綴を守ると決意したのだろう。初めて見つけた光を命を懸けて守ると。ならば動け。
リンはよろけながら立ち上がる。
「……そんなことは……そんなことは絶対させない!!!俺は綴を守ると決めたんだ!人と悪魔の血が混じった半端者の自分を……救ってくれたんだ!綴を守るためなら……俺は化物でもかまわない!綴を殺そうと……俺の光を奪おうとするのなら……俺がお前を殺す!」
「ならやって見ろ。そんな瀕死の状態で出来ることなどたかが知れてるがな」
余裕そうな敵の声をリンは耳を傾けてすらいない。
リンは目をつぶり中の力を呼び覚ます。その時ふと、この一ヶ月の出来事が頭をよぎる。またいつか会えると願い。今はもう無理だけど、いつかまた会いに行くと決意する。
「この身はすでに人の身であらず、異端の存在。お前を倒す為に俺は喜んで化物になろう」
自分の中に眠る悪魔の力を呼びさます。
「魔人化!!」
人の身を超越した存在が敵に襲い掛かる。
---------------
お偉いさんから頼まれた仕事を終わらした綴は煙草をポケットから慣れた様子で取り出し、火をつけ吸い始める。
「ふぅー。早く家に帰らないとなぁー」
時計を見てそう言った綴は、家で料理を作って待っているリンの姿を思い浮かべ、自然に頬が緩む。
「ずいぶんとご機嫌がいいな」
すると横からいつも口うるさい男の声がかかり、綴は顔を顰めた。
「また煙草を吸うなぁーって言う説教かぁ?」
「それもあるが、ここ最近ずっと機嫌がいいなと思ってな、なにかいい事でもあったのか?」
口うるさい男が気になるのも仕方がなかった。綴は機嫌が悪いと尋問でストレスを発散するぐらいだ。それに自分の話など聞きやしないのに、最近は相変わらず変わらないが、少し丸くなっているのだ。
「特に何もないさぁー」
そう答え、今日のご飯はなんだろうと考えながら煙草を灰皿に押し付けた。
「なら別にいいが、煙草はやめとけ体に悪いぞ」
そう言って口うるさい男は立ち去って行った。
残った綴は煙草を見つめながら思考する。そういえばリンも煙草はあまり好きじゃないと言っていた。体に悪いともいい心配していた。
「……吸う本数減らすかなぁー」
そう吐き、立ち上がり煙で蔓延している部屋を後にした。
家に着き、家に入ったら綴は驚愕した。リンが作ったであろう料理は床に散らばっていて、机がまっぷたつに斬られていて食器なども割れ、死体らしき者が転がっていた。
「……いったいなにが?」
そう思い死体に近づいて見るとあの時、リンを見つけたときに見たフードを被った者だった。
「リンがあぶない!?」
急いで電話で武偵を使い調べてもらおうと思った所で、一つだけ引き出しが空いてる気づいた。中を見てみると、手紙とリンがいつも身に着けていた十字架のネックレスがあった。ネックレスを置いて手紙を開けてみる。
『綴へ これを読んでいるということは、もう自分はこの家にいないということだろう。少しの間だったけど、綴と過ごした時間はすごく楽しく、ずっとこの時が続けばいいと毎日、毎日願っていました。今になって言いますが、俺はある組織に狙われています。その組織は巨大で、だからあの時、話せなかった。これを知っても組織のことは調べないでください。 綴が危険な目にあうのは嫌だから。すぐに家を出る予定だったのに甘えてごめん。綴はこんな自分に初めて温もりをくれて、大切な物をくれました。そんな綴を自分は母親みたいな、姉みたいな、大切な存在になっていて綴を守りたいと思いました。だからいつも言えないことをいいます。こんな俺を拾ってくれてありがとう。最後に思い出の品としてネックレスを置いていきます。母がくれた片身だと思いますが、自分は綴にもっていて欲しいから。サヨナラ。自分は幸せでした。』リンより
「っ……ばかやろう……」
綴は手紙を握り締めながら涙を流した。
「私だって……楽しかったさ……」
とめどなく目から涙が溢れ手紙にかかりインクが染みていく。思い出すのはリンと過ごした日々、なんだかんだいいながら綴のいうことを聞くリン。料理を作るリン。怒るリン。悲しむリン。笑うリン。こんなに会えなくなることが辛いことだったなんて思いもしなかった。こんなに胸が苦しくて絶えられなかった。
「……必ず探し出してみせる…」
たとえ命の危険を冒そうともかならず探しだすと決意する綴。
「でも今日だけは……いいよね……」
そう言って綴は涙を流しながら目を閉じた。
この日、彼はまた彼女と会うために前を進み、彼女もたとえ命を懸けてでも彼を探し出すと胸に誓った。
-----------------
そして二年が経ち、またお互いの道が交差する。
「帰ってきたな…」
空にある眩しい太陽を眺めながら彼は二年ぶりに見る景色に懐かしい思いを胸に、ある場所を目指していた。
「ここか……東京武偵高校」
ここから彼の新たな物語が始まる。
やはり難しいですね…戦闘シーン全然書けない。文章も自分の思ってることがうまく言葉に表せなくて四苦八苦してます…。綴もう別キャラじゃないかと書きながら思ってしまった…。
さらには緋弾のアリアじゃなくないか?っと自分で突っ込んでました。それでもなんとか5千文字は書けました。