ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:戦犯

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魔喰いの呪剣

「・・・ル・・・ベ・・・・・・」

 

微睡む意識の中、誰かの声が聞こえた気がした。

抑揚のない平坦な声音、それでも人間味の残る綺麗で澄んだものだ。

 

「・・・ル・・・・ベル!」

 

「ん・・・」

 

その声が自分を呼んでいると気付き、ゆっくりと目を開けていく。

そこにはそろそろ見慣れてきた自室の天井・・・ではなく、ゴツゴツと角張った岩の表面が見えた。

そしてかすかに鼻についた鉄の匂いにここがダンジョン内であるということをベルに思い出させるには十分すぎるほどだった。

 

「無事でよかった・・・」

 

ずっと聞こえてきた声が自分のすぐ上からしたのでその方向を向いてみれば、鮮やかな金色の髪が見えた。

 

「アイズ、さん。それにリヴェリアさんも・・・」

 

ベルの側でしゃがみこんでいるアイズ。そしてその横に立っているリヴェリアの存在を確認したベルはよろよろとしながらも身体を起こし、アイズに気遣われながら立ち上がった身体は次の瞬間、乾いた音とともに強く吹き飛ばされていた。

 

元々身体になにかあったという訳では無かったために深刻なダメージに発展するようなことは無かったが、それでもその一撃はかなり重たかったと言えるだろう。

 

「・・・何故こんなことをした、とは聞かない。私もあの手紙は見させてもらった。ある程度は納得もするし、否定はしない。だがな」

 

振り抜かれた右手に戸惑うアイズを放っておきながらリヴェリアは続ける。

その美しい顔に怒りを宿し、幾人もの団員を恐怖に突き落としたその表情にベルもまた、ガクガクと足が震えていた。

 

「命を無駄にするな。今回はモンスターが湧かなかったおかげなのか助かっているがそんな幸運が続くとは限らない。・・・お前はもう私たちの家族なんだ、あまり心配はかけないでくれ」

 

しかし、はじめこそ怒りを含んでいたその口調も次第に落ち着いたものとなり、最後には諭すような声音へと変わっていた。鬼と言われ恐れられている表情も消え、純粋な安心感と慈愛に満ちるそれは美貌と相まってダンジョンの中でさえ映えていた。

 

「はい、すいませんでした・・・」

 

そんなリヴェリアの態度にまさかこんなにも思われていたとは、とベル自身驚かされていた。

しかし、この思いこそが仲間を、家族を思うものなのだと気付いた。

これこそが【ロキ・ファミリア】が最大派閥と呼ばれる所以の一つなのかな、と感じたベルであった。

 

「さて、説教はこれくらいにしてとりあえず地上に戻るとしようか」

 

「わかった。・・・立てそう?背負ってあげよっか?」

 

「い、いえ、大丈夫です!」

 

そうして、ビンタの衝撃でフラフラしながらもなんとか立ち上がり、恐ろしい提案をしてくるアイズの後に続いて上へ上へと足を進めるのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

「失礼します、神様」

 

「おお、帰ったか。んで、なんか言うことは?」

 

部屋に入るなり、ロキがそう問いてきた。

いつものようなヘラヘラとした調子は鳴りを潜め、その細い目に鋭い眼光を宿しながら話すロキには、神として当たり前ではあるのだが貫禄があった。

 

「その・・・危ない真似してすいませんでした!」

 

「はぁ・・・あのな、ベル。冒険者っちゅーのはほんまに簡単に逝く。無茶するのも自分の人生やからウチは何も言わん、けど・・・もうベルは一人やない。まだ入って日は浅くても、ベルが死んだら悲しい奴らだっている。残された人の気持ちも考えるようにせなあかんで」

 

そう言い切った後にロキの張り詰めたような雰囲気は霧散し、いつものような人懐っこい笑みを浮かべていた。

 

「まあ、リヴェリアにも言われたやろうしこれくらいにしとこか!でも、そうやな・・・罰として三日間、ダンジョンに行く時はアイズたんをお目付け役として連れていくこと!アイズたんが用事あるって時はまあ、仕方ないとして・・・。あ、ベルには御褒美やったか?」

 

カッカッカッ、と声を上げながらそうベルにそうベルに言うロキだったが対するベルは眉を顰めるほか無かった。

でも・・・と口ごもり何かを避けるような素振りを見せるベル。その原因となる出来事をロキはすぐ思い出すことが出来た。

 

「ベル、大丈夫や。アイズたんは嫌々目付け役なんてやるような子じゃない。なにより自分からやりますって言ってきたからな!ベートの言ってたことは十割嘘やから気にしたらあかんで!・・・あいつも不器用すぎるんや」

 

その間にもステイタスの更新を終わらせたロキは羊毛紙をベルに手渡すとボロボロになったアーマーを見てふむ・・・と少し考えを巡らせた後に

 

「ベル、今どれ位お金持ってる?」

 

「へっ?えっと、74000ヴァリスくらいです!」

 

「ならな、今日一日休んで装備買ってきたらどうや?」

 

と、ベルにとって初となる装備更新を提案するのだった。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※

 

 

 

「【ヘファイストス・ファミリア】!?でも僕そんな大金持ってないですよ!」

 

「・・・心配しなくても大丈夫、着けばわかるよ」

 

「で、でも・・・」

 

昼下がり、多くの人々が行き交うオラリオの中心街に二人で並んで歩くベルとアイズの姿があった。どちらも普段着で、これからダンジョンに行く訳では無いということが会話からも察せられる。

 

ロキの提案に従って館を出発した二人。

しばらく進んだ後にベルがどこに行っているのかを訪ね返ってきた答えが【ヘファイストス・ファミリア】だった、という状況である。

 

 

ーー【ヘファイストス・ファミリア】、鍛冶の神ヘファイストスが治め、鍛冶を中心としたファミリアでありそのどれもが一級品。

時にその価格は何億ヴァリスにもなると言われている。

二人がたどり着いたのはバベルの中にある【ヘファイストス・ファミリア】のブースだった。

 

「ゼロが1、2、3・・・・・・7・・・?」

 

そこに並ぶいかにも一級品といった武器や防具に掲げられた値札を見てギョッとする。

煌びやかなその商品を見てベルが思ったことはただ一つ。

 

(これ、絶対来るところ間違えてる・・・)

 

そんなベルの様子が見て取れたのか、横にいたアイズが申し訳なさそうな顔を向けてくる。

 

「・・・私が出してあげようとしたんだけど、それはダメだって。・・・だから、行くのはこの上」

 

またもや恐ろしいことを言うアイズに顔を青くしながら連れられ、魔石の力で浮いた昇降版に驚かされながら上の階へと上がる。

上がった先は少し暗く、それでも少なくない人が装備を眺めていた。

下の階のようなきらびやかさはないが、少し粗雑に置かれていてもそれがなまくらのようには思えなかった。見れば、何人も店主と思われる人がいていかに自分の作品が優れているかを客に説明している。近くにあったものをひとつ持ってみてみればそこには武器の銘、作者の名前、ヘファイストスのロゴ。だが

 

「あれ?安い・・・」

 

その後ろには7000ヴァリスと手頃な価格が記されていた。

ますます訳がわからなくなっているベルを見かねてアイズが説明を入れる。

 

「ここは【ヘファイストス・ファミリア】のお店、なんだけど、まだ実力を認められてない人たちが自分のものをアピールするところなの。一級品はないけど・・・掘り出し物もあるし、充分使えると思う」

 

見てきていいよ、と言われ店の中を歩き回る。

木箱に入れられたレザーアーマーや立てかけられた斧。

鉄や木の匂いが充満したフロアの中を奥へ奥へと進んでいく。置かれている色々な武器を眺めながら歩き続け、その先で見つけたのは一つの木箱だった。

 

「ん・・・、どうやって開けるのかな・・・?あ、こうか」

 

ガチャリ、と音を立てて止められていた金具が外れ、中に収められていたのは一振りの剣だった。鞘には幾何学的な文様が刻まれていて、その長さはアイズの«デスペレート»よりも少し長い程度。

主だった特徴があったわけではなかったが、ひどくそれが目についた。値札を探してみたものの、どこにもついていなかった。

 

「あの、これっていくらなんですか?何も書かれてなくて・・・」

 

「ん?・・・これは僕が作ったやつじゃないね、ちょっと待っててもらえるかな?」

 

丁度近くにいた青年。つまりは【ヘファイストス・ファミリア】の団員なのだが、に尋ねてみるとそう言って下の階へと降りて行った。その間手持ち無沙汰になったベルは興味本位で鞘から少し剣を引き抜いてみると中から覗いたのは濁ったような灰色の剣身。

その剣身の一番根元に近い部分には、剣の銘と思われる文字が刻まれていた。

 

共通語(コイネー)じゃ、ない?読めないな・・・」

 

人間種ではない種族の文字なのかな、とうんうん唸っているベルは焦りを隠さずに近づいてきている足音に近くに来るまで気付けなかった。

 

「大丈夫か!?」

 

「・・・へっ?」

 

精神力(マインド)は?意識はしっかりしてるか!?」

 

「え、あの、」

 

そう勢いよく詰め寄ってきたのは灰色の髪を持った壮年の男性だった。

祖父くらいの年齢であるように見えるのにも関わらずその身体は隆々とした筋肉に包まれており、ベルよりもすごいその身体で迫られ言葉を失っていた。

何より急にそんなに心配されても何も危ないことはやっていない、と困惑する一方である。

そんなベルの様子を見て男性は驚愕し、恐る恐ると言った風体で声をかけてきた。

 

「坊主・・・その剣持ってもなんともないのか?」

 

「え?はい、特になんともないですけど・・・」

 

「そうか・・・ふむ」

 

考え込んだ男性は少しして、口を開いた

 

ーー曰く、この剣は数年前に遠方から来た商人によって運びこまれたものらしい。

その商人によるとこの剣は握った者の魔力を奪い、精神疲弊直前の状態へと追い込む。幸いと言うべきか直接触らないことには被害はないため、なんとかして木箱に入れて保管してきたものだそうだ。

 

オラリオに持ち込まれてからというものの何人もの冒険者を拒み続け、魔力を奪われてなお手を離そうとしない者には忠告はしたぞ、と言わんばかりにその最後のラインをくぐって精神疲弊へと追い込んだのだった。恐れた人々はその剣を畏怖の意を込めてこう呼んだ、

 

«魔喰いの呪剣»と。

 

普段はベルが剣を見つけたところは封鎖されており、関係者以外は入れないようにしているのだが先程声をかけた青年が誤って解放してしまっていたらしい。その証拠、とでもいうかのように男性の後ろで頬を真っ赤に晴らして涙目になっている青年が見えたのだった。

 

「良かったらなんだが・・・その剣、坊主がもらってやってくれねえか?どうせここに置いてても邪魔になるだけだし、なにより坊主は振れるみたいだからな。そいつの剣としての性能はなかなかだぞ。呪いさえなきゃ、第一線で使われててもおかしくない程度には、な。無理にとは言わねえが、どうだ?」

 

その言葉を受け、しばし思考を巡らす。

呪いの剣、と聞いて恐怖がないといえば嘘になる。しかし、そんな話を聞いてもなおこの剣に惹かれている自分がいて、

 

「ありがとうございます、じゃあ・・・頂いてもいいですか?」

 

と、即座に答えた自分に驚きはしても後悔はしなかった。

おまけと言いながら背負うタイプの剣帯を渡された時には流石に遠慮してお金を払おうとしたベルだったが違う形でお金は使ってくれたら構わないと言われてしまった。

 

「それに・・・剣ってのは振られてこそ生まれた意味を成す。ずっと振られない剣を見てると鍛冶士として辛いものがあるってもんなんだ。何年も眠ってたそいつと、見つけてくれた坊主への手向けだと思ってくれ」

 

そうして背負った剣はずしりと重く、ナイフを使っていた今までとは比べ物にならないほどの重圧が身を襲った。

 

「そうだ、名前を言ってなかったな。俺はオルガ。下の階で・・・まあ、まとめ役の補佐みたいなんをやってる。その剣のことも含めてなにか用事があったら言ってくれ、できる限りだが顔を出せるようにはする」

 

「僕はベル・クラネルと言います。オルガさん!この剣、本当にありがとうございます!」

 

気にするな、と言って笑うオルガに再び礼を言いながらその場を後にしようとして一番大事なことを聞いていなかったのを思い出した。

 

「そういえば、この剣ってなんていう名前なんですか?」

 

「ああ・・・多分根元に掘ってあるのがそうじゃねえかと思ってるんだが。悪いな、俺含め何人かが解読しようとしたが誰も読めなかったんだ。神聖文字(ヒエログリフ)でもないとなるともうお手上げだな」

 

「そうですか・・・」

 

少し残念だが、仕方ないと諦めるしかない。そう結論づけて今度こそ移動しようとするとそれより先にアイズがベルの後ろへ歩み寄っていた。

背に背負う剣を見て一瞬不思議そうな視線を向けたがすぐに元の用事を伝え始めた。

 

「ベル、あっちの方に良さそうな装備があったよ、ナイフと防具」

 

「本当ですか!すぐ行きます!」

 

思わず頬が緩むとはこのことなのだろう。

本人が気づいているかは微妙だが明らかに気分が高揚している、と言った様子を醸し出している。オルガの後ろに控えていた青年に至っては、目の前に現れた【ロキ・ファミリア】誇る第一級冒険者の登場に目を白黒とさせていた。

 

 

 

※ ※ ※ ※ ※ ※

 

 

そんな青年の反応に気づくわけもなく歩き去っていく二人。その少年の方のあきらかに好意を持っている態度にすぐ気付いたオルガは先ほどのアイズに対するベルの敬称などから二人の関係性を大方推測していた。

 

(剣姫に憧れてる新人ってとこか?あの様子じゃ気付いてねえんだろうな、今まで剣姫がプライベートで男といることなんざ・・・)

 

そこまで考えたところでふっ、と歩く二人を見て苦笑が漏れる。

やはり気になってはいたのか剣について尋ねながら触ろうとするアイズを必死にに止めるベル。身振り手振りも交えて焦りながら説明している姿はせわしない、という表現が似合うだろう。

 

「あれじゃただの姉弟だな。頑張れよ、坊主」

 

「オルガ、オルガ!どこにおるのだ!」

 

「ん?椿か、ここにいるぞ。どうかしたか?」

 

「どうしたもこうしたもない、手前はですくわーくは苦手なのだ。オルガがいないと進まぬではないか、早く手伝って欲しい」

 

【ヘファイストス・ファミリア】団長、椿・コルブランド直々の指名を受けて、はぁ・・・とため息をひとつ。

 

「こんな年下の小娘に顎で使われるようになるたぁ俺もそろそろ引退かね・・・・・・わかった、わかったから刀をしまえ。前もそうやって打ち合って店半壊させたのを忘れたか」

 

「ならば引退などとぬかすでない。・・・まだ、教えてほしいことがたくさんあるのだ」

 

後半は小声でそう言い、下へ戻る昇降版へと歩いて行く椿。

残されたオルガは再びため息を吐くとその灰色の髪をガリガリと右手で掻く。

 

「全く・・・半老体に容赦ってもんがありゃしねえ。これじゃ一線退いたつもりだってのに逆戻りだな」

 

「今でも充分第一線ですよ・・・。とりあえず、すいませんでした。オルガ副団長」

 

「これからはちゃんとしろよ?アルガス。じゃあ、またなんかあったら・・・まあ起こさないでくれ、面倒だ」

 

頭を下げるアルガスと呼ばれた青年に笑いながらそう言い、周りの利用者を完全に無視して昇降版を止めて待つ椿のところへと歩いて行く男の名はオルガ・セリアス。

 

【ヘファイストス・ファミリア】先代団長にして、オラリオで現在七人しか確認されていないL()v().()6()

 

そんな彼のことをベルが詳しく知ることになるのはまだ先の話だったーー




※作者は厨二ではありません。
繰り返します、厨二病ではありません。


・・・将来悶えそう

※11/13 追記
受験シーズンも近付き、勉強の方に力を入れるべきと判断したため更新をしばらく停止します。
分かってたこと、無責任と言われても仕方はないと思っています、申し訳ございません。
3月頃になれば落ち着くので再開は来年以降になります。

繰り返すようですが、大変申し訳ございません。
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