ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
「はあぁぁっ!」
先手必勝、という言葉に従い懐へと踏み込む。
アビリティをフルに活用しを脇腹を切りつけつつミノタウロスの後ろへと回る。
その際に腕から伝わってくる鈍い感覚。切りつけたところを振り返りながら見てみれば僅かな切り傷がついているだけだった。
その傷もすぐさま煙をあげて塞がっていく。
(
魔力と引き換えに自らの傷を癒すモンスターの特殊スキルとされているそれは、一撃がそこまで重くないベルにとっては一番相性の悪いものであった。
内心で辟易しながらも足を止めることなく再び後ろから二本のナイフを地面と水平に構え、身体ごと回転するように背中を切り裂く。
先程よりは深く入ったその傷も同じように回復していくのを見る間もなく、振り向きざまに振るわれた大剣の一撃を後ろに転がりながら躱す。
頭上を通り過ぎる一撃に肝を冷やしながら一旦体制を立て直そうとするが、起き上がった先で向かってくる拳に不安定な体制から不格好に横へと飛ぶことでなんとか直撃を免れる。
そこでやっと一息つけることになったのだが、完全に無傷のミノタウロスを見て焦りが募る。
(一瞬でも視線をそらしちゃダメだ、一撃喰らうだけで致命傷になっちゃう・・・!)
拳で
この状況、ベルが取れる選択肢は主に二つ。
一つはミノタウロスの魔力が尽きるまでダメージを蓄積し続けること。
いくら強化種とはいえミノタウロスは本来魔法には向いていない種族であり、そこまで魔力量は多くない。
問題は、そこに至るまでにベルの魔力が持つかどうかである。
Lv.1としては破格の魔力を持つベルだが、闘っている間常に【ホーリー】を使い続けている今、相手の底が見えていない以上はそれでも足りるかどうかは分からない。
二つ目の選択肢は、ミノタウロスの自動回復が追いつかない程の強撃を与えること。
こちらは今見ている限りナイフでの攻撃ではそんなことは出来そうにない。
背の呪剣を見ずに意識するベル。
最前線でも通用すると太鼓判を押されている剣ならあるいは・・・と思考していると結論を出すまもなくミノタウロスが上段から剣を両手で振り下ろしてくる。
叩きつけられた地面から亀裂が走り、闘っているルームが軽く振動する。
バックステップで下がりながら次の行動へと移る準備をし、着地した瞬間に全力で前に飛び、反動で動けないミノタウロスの股下を潜りながら足首を切りつける。
『ヴォォォォォォォオ!』
自分の攻撃が当たらないことに苛立ったように再び『咆哮』するミノタウロス。
通常、『咆哮』は個人差はあるが連続で打つと効果は薄くなっていく。
一回目で慣れ、もう効かない人も居れば何度聞いてもかかる人もいるが、ベルは前者に限り無く近いがそれでもやはり
「く・・・っ!」
限りなく一瞬に近い隙を晒したベル。
すぐさま自分に奮い立たせて行動に移ろうとするが、もう先ほどのように奢り、ベルの事を格下と侮ることの無かったミノタウロスはその一瞬の硬直を見逃さずにしっかりと距離を詰めてきた。
剣の背で横殴りにされ、ルームの反対側まで10Mほど吹き飛ばされる。
なんとか受け身をとって体制を立て直すが、被弾した箇所が悪かった。
顔の左前の額のあたりから血が流れて目に垂れてくることで左の視界が阻害される。
しかも、それを見てからミノタウロスが左へ左へと回り込むように素早く動くように行動を変えてきたことで
更なる苦戦を強いられることになる。
極限の戦いは、続く。
(急げ、急げっ!早く助けを呼ばないと!)
第八階層、逃げ出した三人の冒険者のうちの一人は全速力で上へと駆け上がっていた。
そう、最後まで残っていた彼である。
息も切れ、他の二人は途中で体力が無くなって休憩をするのを無視してひたすらに上級冒険者の姿を求めて走り続けている。
この男、Lv.2でもそこそこ名の知れた冒険者であり、いわゆる斥候担当。つまり、俊敏のアビリティが高いのであった。
(あのミノタウロス、間違いなく強化種だ!あの白髪の冒険者もいつまで持つかわからねぇ・・・)
隠す気も無く舌打ちする。
少しいい装備をしていたが、恐らく自分たちとそう変わらない実力だろう。
そんな状況で一人で残してきてしまった
しかし、その場に自分がいても犠牲が増えるだけということも理解していた。だからこそこうして必死で走っていたのだが・・・
その努力は、実った。
「・・・っ【剛剣】!」
「ん?」
「頼む!いや、お願いします!人を助けてやってほしいんです!」
だだっ広いルームの中、数人の冒険者の中から一方的に知っている上級冒険者の姿を見つける。
【ファミリア】単位の行動なのか急に現れた第三者に周りの人の空気が悪くなっていくのをその男が手で制した。
「おいおい坊主、ダンジョンじゃあ他の冒険者と関わるのは御法度だぜ?」
「そんなことは分かってる!けど、俺らじゃどうしてもダメだったんです!」
「そんなのは俺らの知ったことじゃねえ、聞いてくれるかは知らんが他を当たりな」
床に頭をつけ、いわゆる土下座の体制で頼み込んでもその男の意思は変えることはできなかった。涙が滲んだが、こんなことをしている間にも時間はすぎていく。
立ち上がって軽く頭を下げて再び走り始める。
「クソッ、早くしないとあの白髪がやばいってのに・・・」
「ん?おい、ちょっと待て坊主」
しばらく進んで愚痴っているとそう声をかけられる。走り始めて少しした後だったので距離はだいぶ離れているのに声を拾った男に軽く戦慄する。
こちらに歩きながら男は質問してくる。
「助けが必要な奴の目の色はなんだ?」
「・・・赤だったが。もう行っても良いですか?」
「いや待て、俺が行こう」
その言葉に呆気にとられる。
先程まで何を言ってもてこでも動かなかったのに急に意見を翻した理由が分からなかった。
「どこら辺で何に襲われてるんだ?」
「あ、十一階層の後ろの方・・・です。多分、強化種のミノタウロスか、と」
「十一階層にミノタウロス、それも強化種だと?それを先に言え!助ける云々以前にそれはほっておけない事態だな・・・。よし、ミレディは先行して【ロキ・ファミリア】へ走って新人が襲われてるって伝えてこい、俺の名前を出せばある程度は信じてくれるはずだ」
「はいっ!」
そう言って駆け出していく一人の少女。
「また今度時間を作ってやるから今日はここまでだ。ギル、パーティーは任せる」
「了解です、お気を付けて!」
「じゃあ行ってくる。アルガス、この坊主を上まで連れてってやれ」
「はい、副団長」
助けに行ってくれる、そう理解した瞬間に足の力が抜けてへたりこんでしまっていた男は仲間には先行すると伝えてあるから大丈夫か、とその言葉に甘えることにして、ただただ名も知らぬ少年の無事を祈るのだった。
どれほど戦い続けたのだろうか。
数時間かもしれないし、数分のことかもしれない。それほどに消耗していた。
切って、避けてを繰り返す。
頭にもらった一撃のせいでどうしても慎重にならざるを得なかったがそれでも神経を研ぎ澄まし、それ以降は大きな被弾もなくこの戦闘中に成長しながら戦ってきたベルだったが、それは相手も同じだった。
「ぐっ・・・」
今もまた、はじめの方では考えられなかったフェイントを繰り出してタイミングをずらしてくる。
大きな被弾が無いだけであって、かすり傷は数え切れない。圧倒的な力を持って振るわれる拳と剣が砕く壁や地面から飛んでくる石が着々とベルの体力を削っていく。
もちろんミノタウロスとて無事な訳では無い。
ベルの隙をついた攻撃が積み重なり、自動回復は限界を迎えて身体にはごく僅かではあるが傷がついている。
それでも、慎重になった攻撃では致命的な傷を負わせられずにいた。
ベルは息も切れ切れに、肩で息をしながら走り回っているのに対してミノタウロスはまだまだ体力には余裕のある様子である。
ベルは先程から腰のポーチに入ったポーションを飲もうと隙を探っているのだが、死角へと回りながら執拗に攻めてくるミノタウロスの対処に手一杯になっていた。
(何とかならないか・・・、っ!そうだ、これなら!)
魔力を手元のナイフに集め、ミノタウロスの目元で一気に解放する。
凄まじい光が起こり、ミノタウロスは一時的に視力を失ってやみくもに剣を振り回し始める。
それでも危険極まりないので即座に退避してすこぶる不味いポーションを無理やり飲み込むと、身体が少し楽になった。
マジックポーションも続いて飲み込み、瓶を捨てたところでミノタウロスも視力を取り戻したようで先程よりも苛立った様子で距離を詰めてくる。
ここで、思わぬ事故が起こる。
先程からの攻撃で地面に空いていた亀裂に足を取られて体制を崩してしまうベル。
慌てて攻撃を逸らすためにナイフを少し斜めに構えるが・・・
ギンッと鈍い音が鳴り響き、ベルの目に入ったのは
度重なる打ち合いで痛み、先程の魔力解放で限界がきたナイフが半分ほどで折れてルームの端へと転がっていく。
慌てて鞘へとナイフを収め、背の呪剣を引き抜く。
しかし、その剣が光を纏うことはない。
これにはちゃんとした理由があった、思い出すのは少し前のアイズとの会話。
『・・・いつもナイフでしかやってないけど、剣でやらないの?』
こう声をかけられたのが付与魔法での鍛錬の時だった。
その言葉の通りベルはその時点で既にナイフでしか使っていなかったのである。
『えっと・・・なんでか分からないんですけど、剣に付与すると一瞬で魔力が持っていかれちゃうんです・・・』
『・・・?何でだろう・・・。絶対量が足りてないのかもしれないね』
『一応寝る前に思いっきり流して見るのを毎日してはいるんですけど、今でももって数秒しか無理なんです・・・』
『ランクアップすれば何か変わるかもしれないね。・・・頑張ろ?』
『は、はい!』
といった理由がある。
そのため身体にしか魔法はかかっていない状態ではあるが両手で呪剣を持って切りかかる。
先程までなら浅く切り傷を付けるだけだった自分の攻撃、ナイフより不慣れな剣ならどうなるのか不安だったがそれは杞憂に終わった。
「ヴォッ!?」
ここに来て初めてミノタウロスが驚いたような声を上げる。
ベルが切りつけた左腕は決して小さくない傷がついていて、赤い血が垂れ流れていた。
(すごい・・・!武器でこんなに違うんだ!)
浅く切っただけでもするっと切れる呪剣に歓喜するベルだったが、一撃入ってからミノタウロスの警戒心が高まり、追撃を与えられないでいた。
ここでベルは試すような切りつけではなく、即座に強撃を狙うべきであった。
自分を害するとわかった剣に対するミノタウロスの対処は凄まじかった。
剣が届かないような立ち回り、剣回し。
どんなに強力な武器でも技術が伴わなければ意味は無い。
その状態が今のベルであった。
(くっ・・・なんで、なんで!)
焦りが募り、一撃一撃が荒くなってくる。
教えて貰っている時とは天と地ほどの差があるその剣戟は、ミノタウロスにとって格好の狙い目となった。
ベルが上から振り下ろした剣に自身の大剣を合わせてすくい上げるように剣をはね上げる。ベルが見せた訳では無いベルにとっては
慌てて戦闘から離脱し引き抜きに行こうとするが、運悪く先ほどの亀裂に丁度刺さったようですぐには抜けなくなってしまっていた。
右往左往していると、ミノタウロスが攻撃を仕掛けてくる。
手元にあるのは折れたナイフ二本のみ。
すぐさま手を離して逃げるが、今までで一番最悪の状況になってしまった。
(もう一度・・・っ!)
今度は手に魔力を集め、再びミノタウロスの前で解放しようとするが・・・
「ガフッ・・・!」
目の前に手を持っていった瞬間に横から拳が飛んできてベルの身体は軽々と吹き飛ばされた。
ベルの放った閃光は確かにミノタウロスの視力を奪ったが、目の前にいるならただ前面を薙ぐだけでも当たる。奇襲は初めて見せるからこそ成り立つのだ。
左腕が折れただろうか、力が入らない。
再び視力を取り戻したミノタウロスがベルを探している。体制を整えなければいけないが、身体が思ったように動いてくれない。
それどころか、どんどん意識が朦朧としてくる。
完全にベルの意識が落ちる直前に見えたのは、ベルを見つけて笑うミノタウロス姿だった。
まだ続きます。
サブタイつけるのが1番大変だった…
批評お待ちしてます!