ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか   作:戦犯

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今回、視点が凄まじく変わります。


想像

「どなたかいらっしゃいませんか!」

 

八階層での出来事から数刻後、そう大きく通る声が黄昏の館に響き渡った。

上へ戻って報告するように言われたミレディという少女は副団長の言葉に従って【ロキ・ファミリア】へと報告に来ていたのだった。

 

「何か用かな?」

 

「ブ、【勇者(ブレイバー)】さん!」

 

「ん?君は・・・」

 

「【ヘファイストス・ファミリア】のミレディと言います!副団長、オルガ・トレアスから伝言です。『新人が襲われている』との事です」

 

誰もが名を知る第一級冒険者の登場に動揺しながらもなんとか伝言を伝えるが、あまりの動揺にいろんな情報がすっぽ抜けてしまっていた。

 

「んー、新人っていうのはうちの【ファミリア】のってことかな?もう少し詳しく教えてもらえるとありがたいんだけど・・・」

 

「す、すみません!私もそこまで詳しくは分からないんですけど、『第十一階層で赤目の冒険者が強化種のミノタウロスに襲われている』と下から上がってきた冒険者の方が言っていました」

 

「ベルか・・・。それで、オルガは今どこに?」

 

「えっと、それを聞いた後にすぐに下に向かわれました!」

 

(・・・オルガが他の【ファミリア】の冒険者を?あぁ、強化種の討伐かな)

 

「わかった、報告ありがとう。助かったよ」

 

「い、いえ!では、私はこれで失礼します」

 

ぺこりと頭を下げて去っていく少女を見送り、一度館の中へと戻るフィン。

 

「リヴェリア・・・は留守か、ガレスはいるかい?」

 

「呼んだかのぅ?」

 

「ベルが強化種のミノタウロスに襲われているらしい。オルガが先行してくれてはいるらしいし過剰かもしれないけど着いてきてくれるかな?」

 

「ぬう・・・ミノタウロス、それも強化種か・・・。分かったわい、ついて行こうとしようかのぅ」

 

「周りには迷惑だろうけど飛ばすよ、急ごう」

 

そんなことを言いながら頷き合って出発する二人だったが、すぐにその意味が分かることとなる。

お互いに俊敏のアビリティが突出している訳では無く、がレスに関しては盾職(タンク)でむしろ低いぐらいではあるがLv.6の名は飾りなどではなかった。速すぎて目が追いつかない程のスピードで走り抜ける二人を辛うじて視界に捉えた人がギョッとしたような表情になるのも構わずにひたすら進んでいく。

今も戦っているか、それとも既に終わっているか分からないベル(家族)の元へ、オラリオを代表する第一級冒険者達は駆ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここは・・・」

 

目を開けると広がるのは何も無い白い空間。

どこを見ても真っ白で、果ての無い場所にベルはいた。

先程まで動かなかった左腕も何も無いかのように動き、血で見えていなかった左目の視界も戻っている。

 

(僕は・・・ミノタウロスに、負けたのか。死んじゃったの、かな)

 

思い出すのは目を閉じる前に見たミノタウロスの笑み。

弱者を嘲るような嫌な顔だった。

悔しい。

違うもので視界が滲む、こんな所で(英雄)が絶たれてしまうのかと思うと涙が留めなく溢れてくる。

 

「泣いちゃダメだよ」

 

その空間に声が響いた。

その声を聞いてベルははっとする。ついこないだの話だったではないか。

 

(ここ・・・前も来たこと、ある)

 

声がした方を向いてみれば、やはりいた。随分と久しぶりに会ったような気がする。それほどオラリオでの生活は濃いものであった。

 

「シェリア・・・さん」

 

白銀の髪を持つ少女とベルは、再び顔を合わせることとなった。

近付いて涙を拭い、頭を撫で始めるシェリア。

 

「泣いちゃダメ、まだ出来ることはあるよ」

 

聖女のような微笑みをベルに向けて再びそう言った。

それを見て、ひどく安心した。

体も痛まない、自分を害するものは何も無い。

居るのは自分を慰めてくれているかわいい女の子だけ。

その事実に緊張が抜け、再び涙腺が決壊した。

 

「で、でもっ!武器もどられちゃっで・・・どうすればいいかわがらなぐで・・・」

 

情けなく、みっともなく、鼻声になりながらそう声を絞り出す。

そんなベルを見てもバカにする素振りもなく、頷きながら頭を撫でてくれる。

 

「諦めないで、まだベルは戦えるから。想像して。今を乗り越えられる力を」

 

(想像・・・今を、乗り越えられる力を)

 

心の中でその言葉を反芻する。

今、自分の身体がどうなっているかは分からない。

武器もなく、あるのは直前に回復した魔力と己の身体のみ。

 

「大丈夫、自分を信じて!ベルなら絶対に勝てるよ!」

 

今度は元気な笑顔を向けてそう言われて、つられて笑みが溢れる。

絶望的な状況は変わらない。

それでも、戦えない訳では無い。

 

涙を拭い、気を引き締めて心を入れ直す。

また始まる戦いが怖くない訳では無い。でも、今誰かを守るためには自分がなんとかしないといけない事だから。

 

そう決意した途端に撫でられる手の感覚が薄くなっていく。

名残惜しく感じていると、遠くなる声がシェリアの言葉を拾った。

思わず苦笑いし、その時はと心に誓う。

 

 

 

 

『次会うときは、呼び捨てで呼んでね!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(そろそろか?・・・って、あれは)

 

少し時間は遡る。

フィンたちと同じくLv.6のアビリティを生かして下へと降りていたオルガは、そこで思わぬ人物と出くわすことになる。

 

「べートじゃねぇか、どうした?」

 

「あ?・・・オルガか。別に、大したことじゃねぇ」

 

そうして視線を前に戻したべートの先にいたのは、今まさに自分が探していた少年だった。

報告されてから急いだとはいえだいぶ時間が経っている。

それなのに強化種のミノタウロスを相手に逃げることもせず、焦りが顕著に現れ、剣の扱い方も拙いながら必死に戦っていた。

有効打を決められずにいるが、相手のことを考えると素晴らしい結果と言えるだろう。

 

「助けてやらねぇのか?」

 

「あの程度で死んだらそれだけの奴だってことだろ」

 

そんな言葉に思わずニヤニヤしてしまう。

今も戦闘をしっかりと見て、いつでも飛び出せるように身体に力を入れているのが見る人が見ればよく分かった。

 

「お前も素直じゃねぇなぁ」

 

「・・・」

 

その瞬間、ベルの剣が弾き飛ばされて地面に刺さる。

抜けないのか右往左往しているベルを見て、そろそろ不味いかと思い始める。

その瞬間、こちらまで届く程の閃光がオルガの目に入った。

 

(うおっ!?)

 

咄嗟に顔を腕で庇って目を守る。

再び前を見ると壁に叩きつけられ、纏っていた光が弾けるように霧散してしまう。

それを見てもべートもオルガも動かなかった。

立ち上がらないベル。

視界を取り戻したミノタウロスはその小さな身体を叩き潰そうとジリジリと近づいていく。目の前まで歩き、剣を振り上げた所で変化が起きた。

 

「・・・【ホーリー】」

 

()()()()()()()()()ベルはそう言った。

その言葉を聞いてべートだけが何かに驚いた顔をしたがオルガには分からなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分に向かって振り下ろされる剣を見切り、ミノタウロスの後ろへと回る。

 

「ヴォッ!?」

 

土煙が上がり、視界が塞がれたミノタウロスは手応えがないことに気付きながらもその場を動くことが出来ずにいた。

未だに左目は塞がれたではあったが、先程よりも周りが良く見えた。

深く息を吸い、目を閉じて集中する。

 

(想像・・・想像・・・)

 

無手では勝てない。

硬い筋肉の壁相手には逆に自分が傷を負ってしまうだろう。

想像する、目の前の脅威を切れるだけの鋭い剣を。

光が、魔力が、ベルの右手の中に収束していく。

それは次第に剣の形を作り上げていき、やがて一度大きく瞬くと完全にベルの手に収まった。

 

背中が熱い。

どんどん身体の奥から力が湧き上がってくる気がした。

そして土煙が晴れ、お互いの姿を認識する。

 

ボロボロの身体で光の剣を握り、その深紅(ルベライト)の瞳に闘志を漲らせて自分を睨みつけてくる弱者(ベル)に僅かにうろたえるミノタウロス。

 

今のベルは、その好機を見逃すことは無かった。

 

身体を前傾させ、全力で駆ける。

そのスピードは今までの比ではない。

一瞬で間合いを詰め、懐へ入ると見せかけて全力で上に飛ぶ。

今戦っているルームの高さは4、5Mくらいであろうか、11階層にしては小規模なルームの天井に驚異的な跳躍力で張り付くように膝を曲げた足を合わせた後、思い切りミノタウロスの方へと天井を蹴り突き進む。

 

勝負は一瞬だった。

 

「はあああああぁぁぁぁ!!!」

 

落下していることも加わり、ミノタウロスですら視認するのがやっとの速度で光の剣を振り下ろす。

慌ててミノタウロスが大剣でいなそうとするものの間に合わず、未知の力をその身に受けることとなる。

 

「ヴォォォォォォォオ・・・」

 

そしてその斬撃は見事、ミノタウロスの肩から股にかけてを両断した。

黒い煙となってミノタウロスは消え、ゴトリと大きな魔石と元々冒険者のものであっただろう大剣だけが地面には残された。

 

「勝っ・・・た・・・?」

 

その事を認識した瞬間に光の剣は弾けるように消え、バタリと後ろに仰向けに倒れる。

戦い始めてどれくらい時間が経ったのかは分からない。

Lv.2の頂点であるミノタウロスの強化種、少しでも不運が起きていれば倒れているのは自分だっただろう。

 

乱れていた息も落ち着いてき、はぁ・・・と、安堵の息を吐く。

争う者がいなくなり、静かなルームに響き渡った。

上体だけ起き上がらせ、ポーチからポーションを取り出して飲み干す。

戦闘の間に感じていた背中の熱も今は何も無かったかのようで、急激に疲れが押し寄せてきた。

 

ミノタウロスがいなくなったとはいえ、十一階層はベルにとって決して余裕のある場所ではない。

モンスターが来ないか警戒しながら少し休憩して立ち上がり、地上へ戻るために歩き出す。

そこで、ルームの外から二つの影が現れた。

思わず身構えるが、それは見知った人物だった。

 

「フィンさん、ガレスさん!」

 

歩いて来た二人はベルの元までたどり着くと、笑みを浮かべた。

 

「・・・お疲れ様、無事でよかったよ」

 

「がっはっはっ!よく頑張ったの!」

 

肩をポンと叩くフィン。頭を乱暴にガシガシと掻き回すガレス。

心が、暖かくなった。

思わず泣きそうになるが、自分も笑みを浮かべて上へと三人で歩き出す。

 

(全く、素直じゃないなぁ)

 

そんな中、ちらりと道の先を見て先程まで一緒にいた青年の姿がないことに苦笑するフィンだった。

オラリオにベルの名前が広く知られる日は、近い。

 




活動報告にて、ベル君の二つ名のアドバイスを募集しています。
適当なのでもいいのでこんなのどうですか!みたいなのがあると嬉しいです。

追記:感想欄へのアドバイスはご遠慮ください。ハーメルンの規則で禁じられているので。
忠告が遅くなりすいません

※タグ追加しました。
今更かよって感じですが、苦手な方は申し訳ございません。
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