ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
ほぼ全く物語は変わってません。
この後もう一話投稿します
『
そんな張り紙がギルド本部内の掲示板に張り出された。
一緒に載っている似顔絵には白い髪、赤い瞳が特徴の少年の顔が描かれている。
ランクアップまでにかかった期間はおよそ二週間。
今までの最速記録がアイズの一年であったことを考えると劇的な更新と言えるだろう。
事実、オラリオの街中は新しい最速記録保持者の話題で持ちきりであり街中で彼の姿を見つけるとざわめく人が見られたりもする。
しかしそんな中、もう一つの話題がオラリオでは広がっていた。
少年の張り紙の横、掲示板に張り出されたもう一枚の張り紙にはこう記されていた。
『【ロキ・ファミリア】所属、アイズ・ヴァレンシュタイン。Lv.6へ!』
「本当に申し訳なかった!」
黄昏の館の前、二柱の神が顔を合わせていた。
腕を組み、目を薄く見開いているのはこの館の主である道化神ロキ、そして彼女に対して地面に正座して頭を下げる、いわゆる土下座をしているのは武神タケミカヅチである。
その後ろでは数人の冒険者たちが同じように土下座をロキ達に向けていた。
ロキ達、と言うのも今現在、ロキの後ろには数人の幹部とベルの姿があった。
そう、彼らこそがダンジョンの中でベルにミノタウロスをなすりつけた冒険者達本人と、その主神であったのである。
ダンジョン内での出来事を良心に耐えかねた団員がタケミカヅチに報告した事で、タケミカヅチが激怒して関与した団員を連れてロキの元を訪れてこのような事になっている。
相変わらずの義理深さだと心の中で嘆息するロキだったが、その目は一人の男の冒険者へと向けられていた。
「あんたらの気持ちは分かったわ。それについてはウチの子の気持ち次第や。・・・で?そこにおる自分は頭も下げんとこっちジーッと見とるけどなにしにきたんや?」
「・・・俺は、自分の判断が間違っているとは思っていない」
「ほー?」
「・・・ッ!桜花!」
タケミカヅチに桜花と呼ばれる冒険者は腕を組んだままそう言ってのけた。
そんな彼に対する【ロキ・ファミリア】の面子の視線は鋭くなっていく。
気圧され、少し後ろに下がったがそんな視線を受けてなお態度を変えないのは度胸があると言えるだろうか。
「・・・俺は見知らない奴と仲間なら仲間の命を取る」
睨みつけるように【ロキ・ファミリア】の面子相手にそう言い切った。
確かに自分の知り合いの命を優先したり大切に思ったりする事は間違いとは言えないだろう。
だが・・・
「それは今、この状況でウチらに言う事か?」
空気が凍った。
その場にいる全員が察した、この神は激怒していると。
小さな身体から発せられるプレッシャーはやはり神のものか。
大きく、重い。
「何を勘違いしとんかしらんけど、ウチらが何も言わんのはベルが気にしてないって何回も言ってきたからや。あの人たちは悪くないってな。それをなんや?頭下げることも出来んのか自分は」
「か、神様・・・ほんとに僕は別に・・・」
「黙っとけ、兎野郎」
「べ、べートさん・・・」
そうベルを乱暴な言葉で止めたべート。
あの豊穣の女主人での事件以来、若干ベルはべートを苦手としていた。
ベルと同じようにLvの低い団員には雑魚と罵りの言葉をぶつける場面を何度か見ていることもあり、強さ至上主義という考えが見え透けるべートの行動をよく思っていなかったという事もある。
だがしかしどうだろうか、そんな弱者を虐げるような素振りを見せているべートも今この瞬間はその端正な顔に怒りを貼り付けている。
「自分の仲間や?ウチらの
「・・・・・・」
「あんまウチらのこと舐めとんちゃうぞ。もうええわ、帰れ」
「・・・お前達は先に帰っていろ。私は少し残る」
そう冷たく言い放つロキ。
帰り際、当事者達がもう一度ベルに対して謝っている場面が見られたが、結局桜花と呼ばれた冒険者は最後まで謝ることは無かった。
【ロキ・ファミリア】の面々も同時に帰され、残ったのはベルと二人の神のみ。
そして、その場に残った男神は【タケミカヅチ・ファミリア】の団員達が帰った後に再びベル個人に対して頭を下げた。
「謝って済まされるものではないとは解っているが、本当に済まなかった!」
「だ、大丈夫なので頭をあげてください!」
「いいや、謝罪はちゃんと受け取っとけ。下手したら死んでたかもしれんのやぞ。全く・・・命張った結果があんな態度なんやって考えると腹の一つも立つやろ」
「い、いえ。ほんとにそこまで気にしてないですけど・・・」
「はぁ・・・流石はベルってとこか?タケ、この子はこう言っとるけどウチらは許さへんからな」
「あぁ・・・桜花には、またしっかり言っておく」
「じゃあベル、先に帰っといてくれるか?」
「分かりました!」
そうしてベルも館の中へと戻り、二人の神だけが場に残された。
「タケ、あの桜花っちゅう奴、ちゃんと今回の件の重大さについて教えたらなあかんで」
「あぁ、ここに来る前に言い含めておいたんだが・・・まさかあのような態度をとるとは思っていなかった。気分を害してしまって済まない」
「ベルがあそこまでうちら止めにかからんかったらファミリア潰しも視野に入ってた・・・とかは理解出来てないんやろな、まだまだ青いな・・・」
「ベル君、だったか。真っ直ぐでいい子だな。私が言うのもなんだが甘すぎるとは思うが・・・」
「全くその通りやわ!さて、ほんじゃウチも戻るわ。また東方の美味い酒、よろしくな!」
「あぁ、また今度持っていこう。では私も失礼する」
こうした会話が二人の間で交わされていたことは誰も知らない。
ファミリア潰し、いわゆる『戦争遊戯』の存在を仄めかした時にタケミカヅチが冷や汗をかいていたことは言うまでもないだろう。
そして、時間は進みその日の夜。
「さて、ほんじゃアイズたんとベルのランクアップを祝って・・・乾杯!」
『乾杯!!』
ロキの音頭と共に宴は始まった。
場所は当然のように豊穣の女主人。いつもは様々なファミリアの冒険者達が入り混じっているこの店も今日は【ロキ・ファミリア】の貸切で遠慮なく注文をしている様子が窺えた。
ベルとアイズのお祝いの宴、と言ってもそれをずっと意識している者はほとんどいない。
皆好き好きに食事をし、酒を飲み、あわよくば恋でも・・・つまり、なんでもありなのである。
がやがやと騒がしい店の中で主役であるはずのベルは少し端の方で胡座をかきながら食事を摂っていた。
無理もない、基本的にここに来る時はいつも一人である。その際はシルと話していたりすることが多いのだが流石に今日に限っては仕事で忙しそうにしていた。
要するに、慣れていないのである。こういった風に多くの人と食事を摂ることはほとんど無い。朝は早すぎてあまり人も居ず、昼はダンジョン内で軽く食事、夜は一人で店に来ることがしばしば。
その際に同じ【ファミリア】の団員と仲良くなったりもしたが、それでも数人である。
(・・・もしかして、相当孤立してるんじゃ)
こういった宴など大勢で食事をしたりすることが初めてである上、元来グイグイと話しかけに行くタイプでもないベルは若干の焦りを募らせながら相変わらず美味しい食事とお酒を誤魔化すように味わっていた。
そんなベルに歩み寄った人物が一人。
「・・・皆と混じらないの?」
「アイズさん・・・。いえ、その、何となく慣れないというか・・・見てるのは好きなんですけど・・・」
「私もあんまり得意じゃない・・・隣、座ってもいい?」
「は、はい!どうぞ!」
そう言って隣に正座で腰を下ろした。関係はないが相変わらず姿勢は綺麗だった。
先程までロキにセクハラをされたりティオナにもみくちゃにされているのをこっそり見ていたベルとしては、得意じゃないというアイズの言葉は意外だった。
「そうだ、遅くなったけど、ランクアップおめでとう」
「あ、ありがとうございます!アイズさんこそ、おめでとうございます!・・・Lv.6なんて、凄いですね」
「ううん、まだまだだよ。それに・・・ここまで上がるのにいっぱい時間がかかっちゃったから」
そうアイズは言ったが、決してそんなことは無い。
Lv.6の冒険者とは現在のオラリオの頂点、人数も少ない。
アイズが到達するためにかかった時間も圧倒的に少なく、また若い。まだ少女と呼ばれる年齢なのを考えると異常な成長速度、強さだろう。
そして何よりベルが残念に思っている事がある。それは、せっかく詰まったと思った差が同時に離されてしまったことである。
しかも、レベルは勿論上になればなるほど上がりにくくなってくることを考えるとむしろ開いたと考えてもいいだろう。
『強くなったら振り向いてくれるかもしれない』、というロキの言葉も相対的に見れば何も変わっていない現状である。
もっと頑張らないと、と心の中で決心しているベルだった。
・・・無論、周りの冒険者にはアイズのLv.6到達よりもベルの記録更新の方が異常に映っているのは言うまでもないだろう。
そうしてしばらくたわいない話をしていると、アイズの視線がベルの手元に注がれていることに気付く。
「・・・どうかしましたか?」
「ん、何飲んでるのかなって」
「これですか?ミアさんによると、オラリオじゃ無いところから輸入されてきた遠いところのお酒らしいです」
小さめのカップの中に入っている液体を揺らしながらそう答える。
ついこないだまではミアに勧められた慣れてない人向けの弱いお酒を飲んでいたのだが、最近になって色々なものに手を出して結果的に今はこのお酒に落ち着いている。
琥珀色の透明度が高いもので、綺麗な見た目に加えてアルコールも地味に高い。
普通の人なら慣れ始めには遠慮したいレベルのお酒だが、ベルは普通に飲み、なおかつ美味しい、気に入ったと言ってミアを含めた豊穣の女主人の店員を驚かせたものだった。
余談ではあるが、ベルは今まで酔っ払ったことは無い。
「・・・美味しい?」
「はい!甘さと若干の苦さが混じったこの味がなんとも・・・」
「少し、飲んでみたい。・・・貰っていい?」
「はい、どうぞ・・・」
嬉々として酒の美味しさを語るベルに羨ましくなったのかそう言ったアイズ。
運良く使われていないコップが近くに置いてあったのを見つけてお酒を注いで渡す。
新しいコップに注ぐところに恥じらいが見える、微笑ましいと言われるその様子だったが少し離れたところから絶望混じりの声が飛んでくる。
「べ、ベル!止め!飲ませたらアカン!」
「え?」
アイズが逃げ、女の団員にちょっかいをかけていたロキ。
そろそろベルにも絡み出そうと立ち上がり、非難めいた視線を受けながらもベルを見つけた所で酒に手をつけるアイズに気付いたのである。
しかし、時すでに遅し。
アイズの喉がどこか艶めかしく動き、ベルの注いだ酒は既にコップの中から無くなってしまっていた。
「・・・?」
先程までのお祭り騒ぎはどこへやら、緊張と静寂に包まれた酒場に何事かと周りを見渡すとなんとフィンまでもが冷や汗をたらし、警戒した顔を向けている。
自分とアイズを囲うように輪がだんだん広がっていき、空白地帯が出来ていた。
「ふみゅ・・・」
そんなベルにとっては謎の雰囲気に包まれる中、気の抜けるような声がすぐ隣から聞こえた。
振り向いてみると、顔を少し赤くしたアイズがふらふらと頭を揺らしながらこちらを見ていた。
それを見たロキ達の顔に貼り付いた絶望が深くなったように見えた事から、この状況の原因はアイズにあるという事に気付く。
足を崩し、四つん這いの体制で隣にいたベルの方へと近づいて来る。
「ア、アイズさん?どうかしましたかっ!?」
ベルの言葉の最後が思い切っきり裏返り、動揺したようなものになった。
原因はもちろんアイズなのだが、とった行動があまりに衝撃的だったのだろう。
「・・・」
多くの団員達が見守る中、ベルを
驚きで両手を後ろについて若干反っているベルの胸元に顔を近づけて無言で鼻を動かし続ける。
(あ・・・いい匂い・・・)
目の前にあるアイズの髪から流れてくる香りに幸せな気分、もとい現実逃避をしているベルだった。
思考を放棄したベルと、そのベルに顔をうずめるアイズ。
周りの団員達からすると、非常に意味がわからない状況となった。
そんな中行動を起こした馬鹿が一人。
「なんやアイズたん、酒癖治ったんか〜ぐへへ・・・ベルじゃなくてウチの匂いも嗅いでくれてええんやでぇ〜?」
そうおっさんの様な言動でにじり寄ってくるロキ。
酒癖とは何か、全く分かっていなかったベルだが直後に片鱗を見ることになった。
「・・・【エアリアル】」
「スベスベお肌にもちもちグフッ!」
ベルの胸元から風が巻き上がり、ドゴッ!と何かが壁にぶち当たる音がした。
放心していたベルも思わず振り返る。
壁から生えているのは朱色の髪。
「見れば酔っているのは分かるだろうに・・・回収しろ。アイズを刺激しないようにな」
自身も酔っていたためか判断が楽観的になっていた自らの主神にため息を吐きながらリヴェリアがそう命じているのを聞いて少し現実に戻る。
「あの・・・神様、大丈夫なんですか?」
「ん?あぁ、大丈夫だろう。前はもっと酷かったからな。」
「前・・・っていうのはアイズさんが?」
「あぁ・・・あれは正直酷かったな、跨ってロキの鳩尾を何度も殴って・・・」
リヴェリアですら顔を青ざめている事が更にベルの恐怖心を募った。
自分は大丈夫なのかと震えながらまだ胸元にかかる重みに目を向けてみると、先程主神を魔法で吹き飛ばすという暴挙に出た影は微塵もあらず。すやすやと寝息を立てていた。
「えっと・・・これは・・・?」
「前そんなことがあったからアイズに酒を飲ませるのは禁じていたんだが・・・。ふむ、今日これから何もなければベルがいる時は許可するとしようか。もちろんその時はベルが面倒を見るようにな」
「へっ!?」
「今の様子だとアイズを刺激しない限り暴れることはないだろう。あぁ、ベルに限ってそんなことをしないとは思うが酔わせて手を出すなど以ての外だぞ?」
「そ、そんなことしませんって!」
「ふふ、分かっているさ。出来るだけ控えるようにはさせといてくれ」
「りょ、了解です!」
そう言ってロキの処理に向かうリヴェリア。
何も無いことが分かったのか周りも段々騒がしさを取り戻していき、アイズのことを気にせずに宴へと戻っていく。
「がぁぁぁっ!」
「アンタら!そこのアホ狼抑えときな!また店が潰れちまう!」
「は、はいぃ!」
「すみませんべートさん!失礼します!」
「離せてめぇら!あいつは許せねぇ!」
そんな叫び声が少し離れたところから上がっていた。
そんな恨みのこもった声にも気付かずに胸元で寝息をたてるアイズにただただどうすればいいか悩むばかり。
蕩けるような顔で眠っているのを目の前で見せられ、純粋なベルは顔を赤くするばかり。
もちろんそんな状態で食事が取れるはずもなく、宴が終わるまでの数時間、ベルは眠るアイズを胸元に置いたまま過ごすことになる。
初めは照れてあたふたとしていたが、終わる頃にはどこか嬉しそうにしていたのは気の所為では無かっただろう。