ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
追記:今回、少々残酷な描写が含まれております。
苦手な方は、申し訳ありませんがそういうものがあると注意しながらお読みいただければと思います。
ギンッーーー
何かに弾かれたような鈍い音が喧騒に混じり消えていった。
その直後、後ろから魔法が放たれ敵は絶命する。
「あ、ありがとうございます!」
「まともに打ち合えないなら後方に!前衛もっと詰めて!」
遠征4日目、場所は49階層。
ここまで順調に歩みを進める【ロキ・ファミリア】の遠征隊だったがその中でベルは対処ができないことに焦りを感じていた。
初めに限界が見え始めたのは3日目に辿り着いた『
37階層から42階層までにかけて連なるその迷宮地区はそれまでと比べて規模が遥かに大きくなる。
それまでは武器の性能、魔法の補助のお陰で自分の最新到達階層より後の階層でも戦えていた。
しかし、もちろん階を下るごとにモンスターは力を増していく。
自分よりもレベルが高く、ステータスも優れるモンスターが次々と現れてベルを圧倒していく。
この付近の階層まで来ると打ち合うと言うよりも必死に受け流すのが精一杯であった。
仕方ないと言ってしまえばそれまでであろう。
実際、一般的な冒険者からすれば「なんでそこまで戦えるんだ?」とも言われるようないい動きはしているのである。
ただし、Lv.2として見ればという但し書きは付くが。
無力感に苛まれる。
先程言われた言葉がぐるりぐるりと頭を巡る。
はっきりとは明言していないものの明らかな戦力外通告。
それを理解していながらも認めたくないと思う程度にはベルは
(まだ、いける!)
そう、指示を無視して再び前へと駆け出した。
焦りを捨てきれぬまま、盾を構えて気を引く団員達の間をかいくぐってモンスターへと切り込んで行く。
ーーしかし、その一撃が届くことは無かった。
世界が回り、視界は赤く染まる。
全身が焼けるように痛む。
体を動かそうとしても、指先すら動かない。
なんとか目を動かして見れば自分の足がおかしな向きへと曲がり、腕に関しては肉が削げ、白い骨がむき出しになっている。
あまりにも酷い自分の状態に恐怖が巻き起こる。
そんな中、呼吸は段々と浅くなりーー何かに引っ張られる感覚を最後に、その意識は暗闇へと沈んだ。
▽ ▽ ▽
「ベル!」
吹き飛ばされ、倒れたベルに駆け寄り後方へと下がる。
幸いと言うべきか、モンスターは他の団員達の対処でベルに追撃を仕掛ける気は無いようである。
急いで容態を確認すると、酷い怪我だった。
躊躇いなく最上位の
気絶しているために飲ませることは困難を極めたがなんとか成功し、みるみるうちに体が修復されていく。
「アイズ!前に戻れ!」
その事にほっとする間もないままベルを預け、すぐに前線へと戻る。
次の階層が
皆の気が緩んだ時にそれは突然訪れたのだった。
壁が裂け、モンスターが産み落とされる。
それなら何の変哲もないダンジョン内での出来事で終わったのだが、その量が尋常ではなかった。
急いで対処にあたり、戦線が安定してきた所でのベルの被弾だったのである。
オラリオ二強ファミリアの名に恥じぬ団員たちの戦いと自身の復帰が早かったこともあり、すぐに状況は落ち着いた。
「軽く負傷者の手当を!50階層は目の前だ、すぐに出発するよ」
フィンの号令で団員がすぐに行動を開始する。
「悪いな・・・」
「気にすんなって」
無事な者が歩けない程の負傷者の肩を持ち、謝罪を笑って受け流しながら歩みを進めている様子が見られる。
こういった所にも団結力は現れるのだろう。
そんな中、意識のないものは力のある団員に担がれて移動する事になる。
そしてベルもそのうちの一人として50階層へと到達することになったのである。
▽ ▽ ▽
5日目、深夜。
激しい連戦を抜け、
起きろぉぉぉ、と両手を持って引き摺るように野営地まで運んで行かれる様子は先程まで勇猛に戦っていた戦士とは思えない。
そんなコントのようなやり取りを見て、遠征隊に笑いが広がっていった。
弛緩した空気のままキャンプを炊き、食事を取って眠りにつく。
数人は見張りがいるが、警戒は怠っていないものの談笑しながら気持ちをリラックスさせている。
この50階層に来るまで、命を落とした者はいない。
過去にはもちろんそういったことも幾度となくあったが、それらの経験を生かして組まれたパーティーの立ち回りや遠征の計画のお陰で最近は少なくなっている。
しかし、負傷する者はやはり少なからず出るわけであって・・・
「・・・ベルは、大丈夫?」
負傷者が寝かされる複数のテントの一つ。
ベルがいるテントの前で二人の人物が会話を交わしていた。
「やあ、来ると思ったよ。アイズ」
腕を組み、テントの柱にもたれかかるようにしてたたずむフィン。
いつものように人の良い笑みを浮かべてはいるが、その目にはどこか冷酷とも取れる光が宿っている。
「ひとまずベルの容体だけど、アイズが使ったエリクサーのおかげで後遺症もなく回復しそうだよ」
背後のテントをちらりと見ながらそうフィンは言う。
そのことにほっと胸を撫で下ろしているアイズを見て、思わずと言った様子でフィンは苦笑を返す。
「あのエリクサー、いくらくらいだっけ?」
「・・・600万ヴァリスぐらい?」
「・・・やっぱりそうだよね、それを他人に迷いなく使えるのはアイズくらいだよ」
そう言うが、他人になら使うことは無かったのだろうことはフィンも理解している。
そこで言葉を切り、一層視線を鋭くしたフィンは告げた。
「だけど、少なくとも遠征中はそんな
その顔に浮かぶのは静かな怒り。
滅多に見せないその圧力にアイズですら思わずたじろぐ。
ここでピクリとなにかに気付いたような素振りを見せたフィンだが、話を続ける。
「助けたことを否定するつもりは無いよ、それは良くやってくれたとも思う。それでも、アイズが抜けた時に戦線の維持がしにくいのは分かっているはずだ」
それにこくりと頷きを返す。
アイズは既にLv.6。
元からその魔法との相性も相まって主火力となっていた彼女自身、自分と同等の働きが出来る者が限りなくいないに近いことは理解している。
「だったら、あの時ベルを助けるのは他の人に任せるべきだった。機転を聞かせてみんなが動いてくれたおかげで何ともなかったけど、一歩間違えれば甚大な被害が出ていたよ」
柱から背を離し、横を過ぎ去っていくフィン。
「少なくともこういう時くらいはあまり干渉しないように。僕達だって、
それだけだよ、と言い残してフィンは自身のテントへと戻っていった。
フィンに言われてはいたが、一応無事な姿を確認するべく入口から中を覗き込めば、端の方に月光に照らされる白髪が覗いていた。
暗さの影響か顔は見えなかったが、かけてある布が規則的に上下していることにひとまずアイズは安心する。
フィンの言葉を思い出し、それ以上何かをするわけでもなくその場を離れ、少し離れている自身のテントに戻って行く。
ーーーーギリッ
「?」
背後からなにか聞こえたような気もしたが、なにか変化があるわけでもなかったため、気にせず休息を取るべく足を進める。
そして誰もいなくなったテント前。
ぼふっ、と何か柔らかいものを叩くような音がした。
「う、うぅ・・・」
微かに咽び泣きが聞こえる。
(僕は、なんて弱いんだ・・・)
目が覚めたのは少し前。
丁度、自分勝手だとフィンがアイズを責めた時である。
エリクサーの値段が耳に入らなかったのは幸運と言えるだろうか。
調子に乗り、慢心し、飛び出した結果がこのざまだった。
それだけではない、団員全てを結果的に危険に晒してしまったという事実が告げられた時、団体で動くという事の難しさを叩きつけられた気分であった。
何よりも慕う人物に何度も、何度も助けられているというこの状況。
酷く、自分が惨めに思えた。
英雄になりたい、多くの人を守りたいと願いながらもそれには致命的にまで足りていないものを改めて自覚する。
(強さが・・・力が、足りない)
伏せていた顔を上げ、月光に照らされたその深紅の瞳にはどこか昏い光が宿っていた。
それは、まるで少し前のアイズのような瞳であった。