ロキ・ファミリアに入ってダンジョンに潜るのは間違っているだろうか 作:戦犯
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「あの子、すごかったねー!」
「ええ、なかなか楽しめる試合だったわね」
ティオネとティオナは部屋へと戻りながら先程の模擬戦についての感想を漏らす。
「まだここに来て三日しかたってないんでしょう?目を見張る才能ね・・・」
「えっ!そうなの?」
「昨日挨拶回りに来たじゃない。その時にアイズが言ってたのよ」
「へえーすごいなあ。あ、ロキだ!すごいね、あの子!って、どうしたの?そんな難しい顔して」
そう言ったティオナの視線の先ではアイズに膝枕をされているベルを見ながら顔をこわばらせているロキの姿が。
「ん?ああ、何でもないで!」
「どうせ膝枕して欲しいって思ってるだけでしょ?」
「あはは!じゃあお先〜!」
呆れたように笑いながら二人がどこかに行った後も何かを考えるように腕を組んでいるロキは誰にも聞こえない程度の声でボソリ、と呟いた。
「あの光・・・いや、まさかな」
そしてベルはというと、アイズの膝の上で目覚めた後に、自室に戻って泥のように眠った。
数時間眠ったくらいでは疲れが取れなかったのか、夕食も取らずにすぐ、だ。
そしてその翌日の朝早く、アイズを含め二十人程の団員がゴライアス討伐のために門前に集まっており、驚いたことにそこにはほとんどの幹部が揃っていた。
フィン、リヴェリア、ガレスを筆頭に、アイズ、ティオナ、ティオネ、ベートというなんとも豪華な顔ぶれであった。
今回の討伐対象であるゴライアスの推定Lvは4。それに対する【ロキ・ファミリア】が派遣する端から見れば過剰とも言える戦力にはちゃんとした理由があった。
「んー・・・。一言で言うなら舐められないため、かな?」
「舐められない・・・ですか?」
「うん。知ってのとおり、【ロキ・ファミリア】は最大派閥とも呼ばれるほどに有名だ。そんな【ファミリア】が大したことないなんて思われてしまうといろいろ不都合があるんだ。僕等自身にとっても、この街にとってもね」
「へえ〜・・・」
フィンにそう説明されながらもう一度メンバーを見回すベル。
「まあ、要するに見世物だよ。ゴライアス自体僕らにとってそれほど脅威ではないしね。そんなに時間もかからないだろうから、少し深くまで潜るつもりさ」
「・・・すごいなあ」
階層主を脅威にはならないと言い切るフィンに、自分の入った【ファミリア】がいかに強大であるかを思い知らされる。
思わずポツリとそう漏らしたベルにフィンは笑いかける。
「ベルもLv.3にもなれば少しずつ参加できるようになるよ。大変だろうけどベルならすぐに来れると思うから、頑張って」
ポン、とすれ違いざまに肩を叩きながらフィンにそう言われたベルは、メンバーの元へと戻っていくその背中に向けて
「はい!」
と大きな声で返事をするのだった。
「さて皆、準備はいいかい?標的はゴライアスだけど、くれぐれも油断はしないように。じゃあ、行こうか!」
そう言ったフィンの号令と共に出発していく討伐団だったが、その中からアイズがベルの元へと歩み寄る。
「私は行くけど、ダンジョンに潜る時は気をつけてね。・・・
「はい!その・・・」
「?」
言い淀むベルを見て不思議に思ったのか小首をかしげるアイズにベルはこう言い放つ。
「お、お気をつけて!」
ゴライアスがアイズたちにとってあまり脅威ではないことは分かっている。
それでも、心配なのである。たとえそれが身の丈に合わない心配だったとしても。
Lv.1とLv.5、一緒について行っても守られるのは自分の方だ。そんな当たり前とも言える情けなさを抱きながらもベルは激励の意を込めてこう言うしか無いのだった。
そんなベルの言葉を受けたアイズは少し驚いたような顔を浮かべたかと思うと
「・・・ありがとう、いってきます」
と、可憐な笑みを浮かべてそう言った後に小走りでメンバーの元へと戻っていく。
そうして残されたベルは一人、その笑みに見惚れて顔を真っ赤にしているのだった。
● ● ●
「さて・・・と、僕も行かないとな」
メンバーが出発してしばらくたったあと、ベルは自身の用意を済ませてダンジョンに向かうべく門へと歩いていた。するとちょうど外に出ようとしたときに後ろから声がかかる。
「ベールー!」
「ん?」
その声の主はロキであり、手を振りながらこちらへ近づいてきているのが見えた。
「ダンジョン行く前に更新しといてええか?昨日も一昨日もできてなかったことやしな!」
「あ、はい!お願いします!」
「じゃあ、ちょっとウチの部屋まで来てくれるか?そんなに時間は取らんからなー!」
・・・そうして訪れたロキの自室はリヴェリアがいなくなったのはつい先程のことなのに心なしか既に汚くなっているような気がした。
「そういえば、神様」
ロキに背中にまたがられている状態でベルはロキに尋ねる。
「ん?どうした?」
「レベルアップってどうやったら出来るんですか?」
「レベルアップか・・・ん~そうやな、一言で説明するのは難しいんやけど、偉業を成し遂げること、やな」
「偉業・・・ですか?」
「まあ、内容は人によっていろいろやけどな。そいつにとって何か大きいことを乗り越えたりしたときに冒険者っちゅーのはレベルアップするんや」
「なるほど・・・」
「まあ、ベルにはまだ早い話やと思うで?世の中にはレベルアップせんと生涯を終えるやつだっておるくらいやし、まあ焦らんとやってき!それに、
羊毛紙にベルの【ステイタス】を写し終えたロキがベルの背中から降り、それをベルに手渡す。
「ありがとうございます!じゃあ、行ってきますね!」
「忘れもんとかないか~?」
「大丈夫ですー!」
そう言って飛び出て行くベルを呆れたように見送った後、残された羊毛紙を眺めながらため息をつくロキの姿があった事は誰も知らない。
● ● ●
「よいしょ・・・っと」
「ガアァァ・・・」
その日の夕方、第八階層にて周りのモンスター達を一掃したベルはドロップした魔石を回収するべく手を伸ばす。そこでふと、今朝から何かを忘れていると思っていたものの正体に気づく。
「魔石・・・魔石?あ゛っ・・・シルさん・・・」
昨日の夜、すぐ眠ってしまったために守れなかった約束を思い出したベル。しんどかった、と言えばそれまでだがそれはこちらの都合であり、向こうからしてみれば約束をほっぽかされたと捉えられてもおかしくはないだろう。
しかし、そんな懸念も今となってはもう手遅れだった。
「・・・今日帰りに寄って謝ろう」
憂鬱になりながらも足を進めようとしてーーーやめる。
「・・・?こんなに静かだったっけ、
辺りを支配する不気味すぎるほどの静寂。
それに疑問を抱きつつもベルは一度止めた足を再び前進させる。少し歩いて曲がり角を曲がろうとしたところで全身が総毛立った。本能に従うままに頭を下げる。
ブンッ、と暴力的に風を薙ぐ音が頭上から聞こえた。
続いて何かが破壊される音。パラパラと砕かれた石が髪にかかる。
恐る恐る顔を上げた時、初めに目に入ったのは筋肉の『壁』
「ヴゥオオオオ・・・」
人型の身体に牛のような角を備えたモンスター。
「ミノタウロス・・・!?」
見れば、先程までベルの頭があった所の壁は粉々に砕かれていた。
もう少し気づくのが遅れていたら潰れていたのは・・・とベルは青ざめる。
「ヴゥォオオオオ!!!」
「うわああああ!」
再び頭上から振り下ろされる拳を危うくも避け、逃走を開始する。
(なんでこんなところにミノタウロスが!?)
後ろから聞こえてくる足音に寿命が縮むような思いをしながらもベルは走り続ける。
本来、ミノタウロスが出現するのは十三階層以下の所謂中層域と呼ばれるエリア。それも十五階層からのはずである。ベルが今いる八階層にはどれだけ厳しく見積もったとしてもとてもではないが出現するはずはない。
が、追いかけられている事は事実なのだ、それがどんなに異常事態であっても自身に最大級の脅威が迫っていることには違いはない。
ミノタウロスの推定Lvは2。それもLv.2のモンスターの頂点に座するとも言われている。
敵うはずがない。そう思ったベルは必死に逃げ続ける。
「はぁっ・・・はぁっ・・・!」
曲がり角を駆使し、ひたすらに視界から逃れるように上へ上へと進んでいこうとするが、そうやって一心不乱に逃げているうちに、ベルは致命的なミスに気がついてしまった。
(やばい・・・たしかこの先って・・・!)
次の曲がり角を曲がった時に、自身ののリヴェリアに叩き込まれた知識、記憶が正しく、また詰んでしまったことを悟る。
曲がった先、正面は行き止まりになっていてもうどこにも逃げられなかった。振り向けば迫る豪拳をすんでのところで回避するが、それまでだ。壁に背をついてへたりこんでしまう。
「ひっ・・・!」
情けなく声を上げるベルを殺そうと、ミノタウロスが腕を上げたのを見てとっさに目を瞑る・・・が、予想した衝撃はいつになっても来ない。
「ヴモォ!?ヴァァオオオオオ・・・」
そんな断末魔とともにびちゃ、と鉄臭くて生暖かい液体が身体にかかり、代わりに聞こえてきたのは誰よりも好きな声。しかし、今に限って言えば一番聞きたくない声だった。
「ベル!大丈夫・・・?」
「アイズ・・・さん・・・」
目の前で二つに裂けた胴体のあいだから覗いたのはなびく金髪。
愛剣«デスペレート»を腰に携え、遠征の帰りであろう事が少し汚れた装備から伺えた。
「怪我はない?」
「・・・はい、大丈夫です。ありがとうございます」
差し出された手を掴みながら起き上がり、本当に小さな。目の前にいるアイズですら聞こえない程度の歯ぎしりをする。
(やっぱり僕は、『守られる』側なのか)
こんな姿、見られたくなかった。
仕方ないと言えばそれまでだろう。もともと、敵うはずのない相手なのだから。むしろ、命を救われた事に感謝するべきだ。
だけど、そうだとしてもーーー情けなかった。
「・・・すいません、僕、先に帰ってます。本当にありがとうございましたっ」
後ろからなにか声をかけられたような気がしたが、ベルは逃げるようにそこから立ち去った。