ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

18 / 101
大暴走編開始です。
人を選ぶ内容となっており色々と酷いので、不快と感じられた場合は20話まで飛ばして頂き21話から閲覧頂ければ幸いです。


第15話 サンキューユッキ with お嬢

「実は私は、北斗神拳という暗殺拳の伝承者なんです!」

 

 レッスン後のプロジェクトルームに私の大声が響きました。

 思い思いに(くつろ)いでいたアスカちゃん、ほたるちゃん、乃々ちゃんが怪訝(けげん)そうにこちらを見つめています。

 

「ああ、そういうことか。なるほどね」

「あっ、はい。わかりました」

「……そうですか」

 三人とも似たような素っ気無い反応です。

「あれっ、リアクションが薄くないですか? ここは『な、なんだってー!』と一斉に驚くところですよ!」

 

 『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』――北斗神拳を全面的に開放すると決断した次の日、私は三人に一世一代のカミングアウトをしました。

 いくら知名度を上げてもこの能力を皆に知られて嫌われてしまい、グループ解散となったら意味がありません。その前にリスクを承知で私の能力について告白することにしたのです。

 正確には伝承者候補の能力ですけど、私以外に北斗神拳を使える方はいないでしょうから伝承者と名乗りました。

 

 なお、先に家族にも同じことを言いましたが「知ってた」という薄味のコメントしか頂けませんでした。家の中では瞬間移動等の問題行動をよく起こしており、殆どバレていたのでそちらは予想通りでしたが、彼女達の反応は予想外でした。

 昔懐かしい『ト〇ビアの泉』で換算したら20へぇ中7へぇくらいの微妙なリアクションです。

 

「だから暗殺拳なんですって! 普通の女子中学生ではありえないじゃないですか!」

「驚いてはいるよ。でもボクの期待値を超えるものではなかった。ただ、それだけのことさ」

「たまに瞬間移動したり浮いたりしていましたしね……。体力も無限ですし」

 ほたるちゃんが苦笑いをしながら呟きました。

 身に覚えはないんですけど無意識にやってしまったのでしょうか。日本銀行の金庫ぐらい厳重に封印していたはずなんですが、セキュリティは意外とガバガバでした。

 

「この間、酷い捻挫(ねんざ)を一瞬で治してくれたって菜々さんが言っていましたけど……」

 あのウサミン星人は何を吹聴(ふいちょう)しているんですか! 今度会ったらその化けの皮をベロンベロンに剥がしてやりましょう。

 

「むしろ人類の範疇(はんちゅう)で幸いだよ。ボク達はてっきり、トキは既に特異点を越えた存在ではないかと思っていたからね」

「……ちなみにどんな容疑がかけられていたのでしょうか?」

 なんとなく予想は付きますが、一応訊いてみます。

 

「もりくぼは、天使様だと思っていました……」

「私は、もしかしたらアンドロイドかなと考えてました。本当にすいません」

「ボクは、ヴァルプルギスの夜にて世界に闇をもたらすwitch(魔女)だなんて、ね」

 乃々ちゃんは本当に良い子です。ほたるちゃんもまぁ仕方ないでしょう。アンドロイドにしてはポンコツ気味ですけどね。そしてアスカちゃんはもはや意味不明です。

 

(はなは)だ不本意ですが、ご理解頂けたようで何よりです。でも、皆さんは私が怖くないんですか? 何ていったって暗殺拳ですよ?」

「朱鷺さんがもし私達に危害を加えようと考えているなら、3ヵ月前にやっているはずです。誰も怪我せずにいるということは、その気がないんですよね。私も朱鷺さんが私達に手を上げることは絶対にしないと思いますので、怖くありませんよ」

 ほたるちゃんが朗らかな笑顔でそう答えてくれました。

 

「朱鷺ちゃんの力自体はちょっと怖いですけど……。でも菜々さんの怪我を治してあげたりして、いいことに使っているので、もりくぼも大丈夫です……」

「フッ……。言いたいことは先に言われてしまったな。まぁ、そういうことさ」

 アスカちゃんがキザに決めました。

 泣きそうです。この腐ったドブ川のことをこんなに信用して貰っているとは思いませんでした。

 全世界をデストロイしようと一瞬でも考えた自分を殴りたいです。あたしって、ほんとバカ。

 

「でも、なんでこのタイミングで告白されたんですか? 朱鷺さん的には、かなりの秘密なんだと思ってましたから驚きました」

「……特に意図はありませんよ。なんとなくです。ずっと隠しておくのも心苦しいですから」

「昨日から、朱鷺ちゃんの様子がおかしかったですけど。それと関係あるんですか……」

「悩みがあるなら相談に乗るよ。持ちつ持たれつ、コグニションさ」

「はは、大丈夫ですって。心配しないで下さい!」

 デビューミニライブの時も思いましたが、私にはとても釣り合わない素敵な子達です。

 やっぱりコメットは最高です。この仲間を護れるのなら、例えこの身が朽ち果てようとも一向に構いません。

 

 

 

 その後は犬神P(プロデューサー)のオフィスに向かいました。3回ノックをして入室します。

「やぁ、おはよう。七星さん」

「おはようございます。お話があるのですが、少しお時間を頂けないでしょうか」

 そう問いかけるとパソコンのキーボードを叩く手を止めました。

 

「ああ、いいよ。俺もちょうど休憩しようと思ってたしな。ちょっと待ってて、飲み物買ってくるから」

 二本のエナジードリンクを手に戻ってきた犬神Pと向かい合い、来客用の椅子に腰掛けました。

「それで、用って何かな」

「お仕事についてのご相談です。今後の私のお仕事ですが、全力で体力仕事を振って下さい」

「体力仕事?」

「はい。……薄々気付いていると思いますが、私の身体能力は常人を軽く凌駕(りょうが)しています。その力を利用して体力仕事で実績を残し、コメットの知名度を上げたいと思います」

 

 これがコメットの生き残りをかけた『新・三本の矢』のうち、第一の矢でありその中核を占める『世紀末系アイドル』です。

 『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』をもってすれば世間様に強烈なインパクトを与えることは容易でしょう。そうすれば、おのずと私の知名度は上がります。その後コメットを強くアピールすることで、そちらの知名度も上げるという作戦です。

 

 デメリットとしては、私の色物化が一気に進むと言う点が挙げられます。

 クールビューティーキャラであり、ライブ中心の清純派アイドル路線を志望している私としてはとても嫌ですが、それでもコメットが解散させられるよりは百倍マシです。

 背に腹はかえられません。何かを得るためには、同等の代価が必要となるのです。

 

「確かにその方法なら一気に知名度を高めることは出来ると思う。だが、ちょっとな……」

 犬神Pが難色を示しました。

「なぜですか?」

「その方法だと七星さんにかかる負担が大きい。俺は君のご両親から君をお預かりしている身だ。あまり無茶な仕事のさせ方はできない。それに昼間は学校だってあるんだし」

 変な気遣いをしなくてもいいんですけどね。元ブラック企業社員としては、無理・無茶・無謀は慣れっこなんです。何とかして彼を説得しなければなりません。

 

「もし体力仕事を振らないなら、犬神Pの愛車であるB〇WをストⅡのボーナスステージのように無残に破壊します」

「止めてくれよ! あれまだローンが3年も残ってるんだから……」

 青い顔で必死に抗議してきました。

「大した稼ぎもないのに高級外車なんて乗っているのがおかしいんですよ。貴方にはプ〇ボックス(商用車)がお似合いです」

 犬神Pのくせになまいきです。彼には原チャリ、いやママチャリで十分です。

 

「こっちも営業協力とか色々あるんだって。346プロダクションのPとして、ある程度の車じゃないと会社から怒られるんだよ」

「無残に破壊されるのが嫌なら、私の言うとおりにして下さい」

「ぐっ! ……わかった。車の件はさておき、七星さんの真剣な提案を無碍(むげ)にできないしな。

 但し条件を付けさせてもらう。七星さんの体調を考慮して、これ以上は続行不可能だと俺が判断したらその時点で仕事にストップをかける。これでどうだい?」

「まぁ、それでいいでしょう」

 

 ちょっと面倒な制約ですが仕方ありません。彼の前では元気に振舞うことで対応しましょう。

 それに、一度動き出してしまえばこっちのものです。その後は難癖(なんくせ)を付けて中止させないようにすればいいだけですから。

 

「そんな事を急に言い出すなんて、やはりシンデレラプロジェクトを意識してのことかい?」

「ええ。私は私なりにコメットの生き残りを図る。ただそれだけです」

「俺が言えたことじゃないけど、あまり一人で抱え込まないほうがいい。俺だっているし、君にはあの三人が付いているんだから、くれぐれも無茶はしないようにな」

「はいはい」

 そう言い残して犬神Pのオフィスを後にしました。

 ああは言われましたが、今は無茶をしなければいけない時なんですよ!

 

 

 

 翌日、学校のお昼休みの時間に犬神Pからのメールを受信しました。早速体力仕事が取れたそうです。あのワンちゃんも要所ではいい働きをしますね。

 内容はプロ野球のオープン戦での始球式とのことでした。試合前にタレントやミュージシャンが一球投げるアレです。

 

 始球式は3日後の土曜日に行われるそうです。急ですが、当初担当するはずだったタレントさんが急病で入院してしまったので、その代役として急遽(きゅうきょ)ねじ込んだとの話でした。このお仕事を取るために結構無理をしたそうなので、犬神Pの頑張りに応えなければいけません。

 でも、横浜ビースターズ VS 中日コモドドラゴンズ戦なので良かったです。もしもキャッツ戦やカルプ戦だったらあの子達に悪いですから。

 

 ただ、ここで一つ問題がありました。

 実は私、野球は見る専でやったことは一度もないんです。

 前世では極貧でしたので野球道具なんて高価なものは買えませんでしたし、当時のお父さんは私が生まれる前に他の女と華麗に蒸発しやがったので、キャッチボールすらやったことがないです。

 現世では一応女性なのであえて野球をやろうという気にもなりませんでしたし、その機会もありませんでした。

 

 いくら『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』があっても、投げ方の基礎を知らなければインパクトのあるボールは投げられないでしょう。誰かに教えを()う必要があります。

 ああ、そういえばうってつけの方がいました。彼女にコーチをお願いしましょうか。そう思ってメールを打ちました。

 

 

 

 346プロダクション屋上の中庭で彼女の到着を待っていると、待ち合わせていた方ともう一人別の少女が近づいてきました。

「おはようございます、友紀さん。それに巴さん」

「おはよう、朱鷺ちゃんっ」

「おう、おはようじゃ、朱鷺」

 

 村上巴(むらかみともえ)さんは広島県出身のアイドルです。広島弁で喋る赤毛の少女で、13歳ながら漢気のある姐さんという感じです。父親に命じられてアイドルを始めたらしく、同じ境遇の私としては同情を禁じえません。

 ご実家は恐らくヤのつくお仕事なのでちょっと怖いですが、本人はとっても良い子です。先日は同じ犬神Pの担当アイドル繋がりで、アスカちゃんの誕生日会にも出て頂きましたし。

 

「巴さんは、どうしてここに?」

 私が呼び出したのは友紀さんだけで、なぜ巴さんがいるのかわからなかったので疑問を口にしてみました。

「朱鷺が友紀にピッチングを教えて欲しいと相談したという話を聞いてのう。友紀だけじゃ危なっかしいから一応付いてきたんじゃ」

「えーひどーい!」

 友紀さんが冗談半分で巴さんに抗議します。巴さんはもちろん広島東洋カルプのファンなので、よく皆で野球トークをしているんです。主にビースターズファンの私が弄られるんですけどね。

 でも来期は結構良い線いくんじゃないかと密かに期待しています。

 

「じゃが、本当に友紀でええのか? 中学校には野球部くらいあるじゃろう。そっちで教えてもろうた方がええんじゃないか」

「……野球部とは色々ありまして」

 つい先日、野球部主将の桑田君を振ったばかりなので、どうも顔を合わせ辛いんですよ。盛大に振っておいて『野球教えて下さい♪』と言えるほど厚かましくはないのです。

 それに、これ以上学校で目立ちたくはありません。ここなら個性豊かなアイドル(奇人変人の皆様)が集まっているので、それほど目立たないでしょう。

 

「これでも野球部のマネージャーをやってたし、縦スライダーだって投げられるからね。基礎的なことなら教えてあげられるよ! 大丈夫、任せて!」

 自信満々にそう言って拳で胸を叩きました。このポジティブさと明るさは見習いたいです。

「……心配じゃから、うちも付きおうちゃる。小学生の頃はよくピッチャーをやっとったしの」

「では、よろしくお願いします」と口にして、二人に頭を下げました。何とも心強い助っ人です。

 全盛期のカブ〇ラやラ〇レスくらい頼りになります。

 

「じゃあ、まず適当に投げてみて!」

「適当、ですか……?」

「まずは今の状態を確認しておかないと。そこから正しいフォームに直していこう!」

 確かにそうですね。コーチとしては今の私の状態を知っておかないといけないでしょう。

「では、投げます」と言って、先ほどスポーツ用品店で買ってきた野球ボールを壁に向かって軽く投げました。するとボールは壁にぶつかり、バウンドしてこちらに戻ってきました。

 

「ありゃ。完全に手投げだねぇ」

「うーん、やはり上手く行きません」

 友紀さんの言うとおりでした。手投げとは腕の力だけで投げてしまい、体重移動や体のひねりの力を上手く使えてないことを指します。人を葬るための動きが染み付いているので、ボールの投げ方がいまいち(つか)めないんです。

 

「……手投げにしちゃ、滅茶苦茶球速があるように思ったんじゃが、気のせいかのう?」

 巴さんの呟きは聞かなかったことにします。

「最初だから仕方ないって。じゃあ基礎から色々やってみよう!」

「はい!」

 

 その後、基本のフォームやステップ、体重移動などを友紀さんと巴さんから一通り教わりました。ピッチングの基本に関する動画はネット上にもありましたが、実際に教えてもらいながらの方が断然わかり易かったです。

 1時間ほどで大体の基礎を身に付けることができました。

 

「よし、もう一回ちゃんと投げてみよう!」

 友紀さんにそう言われましたので、先ほどと同様に壁に向かいます。

 ただし、今回は体重をしっかり前にかけるよう心がけ、()()()ボールを投げます!

 

 次の瞬間、剛速球が物凄い勢いで放たれ、隕石が衝突するような感じで壁に激突しました。

 めり込みながら白煙を上げて高速回転していましたが、暫くすると勢いが落ち着地します。

 消し炭のような残骸が地面に転がりました。

 壁にはボール程の大きさの深い穴が開いています。

 うん、これ完全に兵器だ。

 

「巴ちゃん。今、何km出たと思う?」

「……わからん。じゃがメジャーリーグでもこんな球速の奴はおらんと思う」

 う、つい全力で投げてしまいましたが引かれてしまったでしょうか。小声で「すいません……」と謝りました。

「やっぱりね! 凄い!」

 すると、目を輝かせた友紀さんが私の両手を取りました。

「朱鷺ちゃん! アイドル辞めてキャッツに入ろう!」

「お断りします」

 完全に本末転倒じゃないですか。手段を目的にする気はありません。

 

「そうじゃぞ。何を言っとるんじゃ友紀は」

 巴さんが呆れた顔で否定しました。こういう時に常識人がいると助かります。私みたいに常識を兼ね備えたアイドルは346プロダクションでは結構貴重なんですよねぇ。

「朱鷺が入るのはカルプじゃ!」

「そっちにもいきませんよ!」

 ベッタベタな突っ込みをしました。自分の贔屓(ひいき)チームを最優先するとは、ファンの(かがみ)です。

 

 ボールが物理的に消滅してしまったので、二人にお礼を言ってその日は解散しました。

 その後、教えてもらった基本をベースに始球式まで黙々と投げ込みをしました。納得のいく球が投げられるようになったのは前日の夜でしたので、ギリギリセーフです。

 

 

 

 そして始球式当日になりました。

 早めにスタジアムに入場し、控え室でビースターズのユニフォームを身に(まと)います。ストレッチなどの軽い運動をしながら出番を待ちました。

 そのうち時間になりましたのでグラウンドに向かいます。

 

 人工芝が敷き詰められた場内に入ると、ハムスターみたいなマスコットに誘導してもらいマウンドに上がります。もちろん得意の営業スマイルは忘れません。

 BGMとしてかかっている『Comet!!』で少し勇気付けられました。

 周囲の選手や観客の方々は暖かい目でこちらを見ています。これから起こる惨劇を想像できている人は一人もいないでしょう。

 

 キャッチャーが捕球の構えをしました。

 ここから私の伝説は始まるのです。さようなら、平凡なアイドル生活。

 次の瞬間、意識を切り替えました。

 この一球に全てを懸ける! 

 キャッチャー目掛け全力で投げ込みます!

 

 必殺の魔球が放たれました。

 球速は大したことはありません。

 人が捕球できるよう170km強に抑えています。

 しかし、その球には一つ異常な点がありました。

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 そのまま電光石火の勢いでキャッチャーミットに突き刺さりました。

 

 スタジアムがシーンと静まり返ります。

 

 前世でプレイした『黄熊の本塁打競争ゲーム』で畜生フクロウが放った、左右にジグザグ揺れるド畜生ナックルボール。通称『オウルボール』と呼ばれていたものを私なりに再現しました。

 しかも、そのスピードとキレは元のゲームを遥かに(しの)ぎます。

 

 これは北斗神拳のちょっとした応用です。

 インパクトのある球として真っ先に思いついたのが、この球だったのです。

 物理法則を完全に無視していますが、北斗神拳では半透明になったりビームのような闘気を放出したりすることも可能ですので、これくらいできないはずがありません。

 

 ちなみに前世の私はあのゲームをクリアできませんでした。創造主たるラスボスの5歳児に完全に心を折られたのです。数少ないお休みだったお正月の三が日を返して欲しいと切に思います。

 これ以上あのゲームの詳細を語っていると、ウサミン星にある夢の国のネズミさんから怒られるので止めておきましょう。ハハッ!

 

 沈黙の後、場内は騒然としました。至る所で『ざわ……ざわ……』としています。

 何事もなかったかのように一礼して、笑みを浮かべつつマウンドを去りました。

 

 

 

 帰りの電車の中、先日の練習時にLINE上で立ち上げた『346プロダクション 野球大好きアイドル同盟』のグループで、友紀さんと巴さんにお礼のメッセージを送りました。

『始球式が終わりました。お二人のおかげで大成功です。ありがとうございました』

 すると直ぐに返事が返ってきます。

『おめでとー! さっき動画が上がってたけど凄かったね! 高校卒業したらアイドル辞めてキャッツに入ろう!』

『おう。上手くいったようで何よりじゃ。カルプ入団会見の時はうちもゲストで出席しちゃるから安心せいや』

 

 こんな馬鹿げた力にも引かずに接してくれるなんて、とても優しくて暖かい子達です。

 養子枠は既に埋まっているので追加はしませんが、彼女達が困った時は全力で助けようと誓いました。

 ちなみにキャッツやカルプに関する部分は脳内で自動スキップしました。

 後日聞いた話ですが、この後友紀さんは「朱鷺ちゃんはあたしが育てた!」と方々(ほうぼう)で自慢したため、多数のセミプロや学生が彼女に弟子入りしたそうです。結果はお察しのとおりでしたけど。

 

 

 

 始球式後、家に帰ってパソコンを開き、なんでも実況する某掲示板を(のぞ)くと予想通りあの始球式に関するスレッドが立っていました。しかも既にパート4まで伸びています。

 スレッドのタイトルは、『【悲報】JCアイドル 始球式で魔球を投げる』となっていました。丁寧なことに魔球の様子を撮影した動画のリンクも貼り付けてあります。

 主だった書き込みを見ていきました。

 

『こマ?』

『えぇ……』

『日本のCG技術もレベルが上がったなぁ(白目)』

『滅茶苦茶可愛いのに投げる球はエグ杉内』

『コイツ、何でアイドルやってるん?』

『七星くん! アイドル辞めて、ビースターズに来よう(提案)』

『このピンク、この間一人で暴走族を壊滅させたそうやで。ソースはワイの甥』

『うせやろ?』

『はえ~すっごい……』

 

 大体予想通りのコメントで(あふ)れていました。これで少しは話題になるでしょう。

 悟りの境地でウインドウをそっ閉じしました。今すぐアイキャンフライ(窓の外へダイブ)してこの世から消え去りたいですが、後2ヵ月は生きなければいけません。

 全てはコメットの生き残りのためなんですから。

 

 さて、これはほんの序の口です。私の挑戦は始まったばかりなんです。

 この『アイドル成り上がりRTA(リアル・タイム・アタック)』のスタートを、私が前世で大ファンだったRTA動画製作者様風に表現するとこうなるでしょう。

 

「底辺アイドルが圧倒的武力でアイドル界を駆け上がるRTA、はぁじまぁるよ~!」

 

 

 

 

 

 


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。