ブラック企業社員がアイドルになりました 作:kuzunoha
「自ら望んで選んだ道、ためらいもない!」
そう叫んで、マウスの左クリックを押そうとしました。しかしどうしても指が言うことをきいてくれません。今は夜の11時ですが、もう2時間も自室で硬直しています。
私にとってこのクリックは、
パソコンの画面にはスマイル動画という動画サイトの動画投稿画面が表示されています。
ここで私は、レトロゲームの解説付RTA(リアル・タイム・アタック)動画を多数アップしておりました。
RTAとは、 ゲームのプレイ開始からクリア迄に実際にかかった時間の短さを競うプレイスタイルのことを言います。
セーブやリセットの時間や食事・休憩なども全て含めた、現実にかかった実時間が計測の対象になります。ゲーム内の時間を計る通常のタイムアタックと比べ、より過酷な内容となります。
私がレトロゲームのRTAを知ったのは、とある動画がきっかけでした。
前世にて某ブラック企業を退職後、次のブラック企業に就職する合間の暇つぶしとして六畳一間のボロアパートで猫さんの動画を見たりしていました。
そんな時偶然にも、あるレトロゲームのRTAの様子を編集した動画を視聴したのです。
通常、RTAは1秒でもタイムを縮めることに心血を注ぎますが、その動画は違いました。
積極的に新記録を狙うスタイルではないものの、『非常に丁寧な解説』『綿密な
前世の私の子供時代は極貧だったため、実はテレビゲームをやったことがありませんでした。
しかしその動画のおかげでゲームの魅力に気付くことができましたし、ブラック企業勤務で荒んだ心もかなり癒されたのです。
私のように虜になった人も多く、多くの方々がその偉人の動画を真似したリスペクト動画を動画サイトに投稿したことで、一ジャンルを築くまでになっていました。
その後、
そうしてひとしきり
『ないのなら 自分で作れ ホトトギス』と。
そうして私は、現世にもRTA動画を芽吹かせようと固く決意し、実際に行動に移しました。
まず小学二年生の時にサンタさんへ、ファミコン互換機とソフト数十本のセット、そしてキャプチャーボード(ゲームの映像をパソコンに取り込むための機械です)と動画編集ソフトをねだりました。
めったに動じない性格のお父さんも、あの時は「えぇ……」と非常に困惑していたのを今でも思い出します。本当に申し訳ない。
その後、レトロゲームのRTAとその動画の編集を始めました。最初は要領がわからなかったのでプレイや動画編集に苦労しましたが、慣れてくるとスムーズに動画が作れるようになりました。
小学生の有り余る時間を駆使してハイペースで作成し、スマイル動画に投稿していったのです。
ちなみに動画投稿時における私のハンドルネームはその偉人にちなんで『
一応はうら若き乙女ですので、参考にしたあの偉人の動画で頻発していたエグい下ネタは流石にカットさせてもらいましたが、自分なりにいい動画ができたと満足しています。
ドジッ娘属性と運の無さのせいでプレイングや記録はガバガバですが、そんなところが意外にウケているようです。
私のリスペクト動画もどんどん作られるようになり、前世と同様に一ジャンルが作られるまでになっていました。
しかし、アイドル活動が始まってからは動画を製作する時間が取れなくなり、この3ヵ月の間はアカウントを完全に放置していました。死亡説も流れましたが、RTAの文化も根付いたのでこのまま老兵のように静かにフェードアウトするつもりだったのです。つい、この間までは。
そんな中、シンデレラプロジェクトの出現によるコメットの解散危機が発生しました。
『世紀末系アイドル』以外にコメットの人気を高める方法はないか考えたところ、ひょっとしてこれは使えるんじゃないかと思ったのです。
私の作ったRTA動画は大変好評で、どの動画も10万回以上再生頂いていました。特に人気の高いシリーズのパート1では、100万回近い再生数となっています。
有難いことに、私を主人公にした二次創作の四コマ漫画やテーマソングも作って頂きました。
それならばいっそのこと顔出ししてコメットのダイレクトマーケティングをすれば、動画のファン勢をコメットのファンにまるっと取り込めるんじゃないかと考えたのです。
これがコメットの生き残りをかけた『新・三本の矢』の二本目──『RTA芸人』です。
しかし、正直この方法にはかなり抵抗感がありました。元々私はRTA動画の文化を広めたくて動画投稿していただけであり、
趣味を商売に利用するような気がして後ろめたい気持ちになりますが、この危機を乗り切るためですから仕方ありません。
もちろん「これから応援してね!」と言ったところで本当にファンになってくれるかは未知数ですが、このまま座して死を待つよりはマシです。200人、いや100人でもファンクラブに加入してもらえれば
先ほど投稿しようとした動画をもう一度見返してみました。動画には私が映っています。
いつものもっさいジャージではなく胸元を強調したセクシーなワンピースで、メイクもバッチリ決めています。
私が女の子らしくなるよう以前お母さんが買ってきた最高級ブランドの洋服で、クローゼットの奥底にて厳重に封印していたところを引っ張り出してきました。
少しでも可愛く見えるよう、髪型も人生初のツインテールに挑戦しています。
ソシャゲのSSRくらいレアな姿です。親が見たら泣きますよ、感動して。
その微少女は話を始めました。ちゃんと清楚モードに切り替わっています。
「え~皆様、こんにちは。この姿では初めまして、ですね。RTA動画製作者の『
深く頭を下げました。本人は全然悪いと思ってませんけど。
「実は私、先日346プロダクションからアイドルとしてデビューしました。現在は、コメットというとても素敵なグループのリーダーを務めております。そちらのお仕事がありまして、動画投稿ができずにおりました」
謝罪を終えると営業スマイルに切り替えます。
「コメットのメンバーはとても可愛くて良い子達で、トップアイドルの方々と比べても決して引けをとらないと思います。ですが、まだまだ人気や知名度が低く、思ったような活動ができない状態が続いております」
軽く咳払いをしました。両指を組みちゃんと上目遣いで、目を潤ませながら続けます。
「そこで厚かましいお願いなのですが、動画投稿は可能な範囲で続けて行きますので、これを機にコメットのファンになって頂けると嬉しいです♪ ファンクラブのメンバーも随時募集していますので、そちらも是非よろしくお願い致します!
以上、
再び一礼して笑顔で手を振っています。そのまま動画は終了しました。
うわキツ。
いや~、キツいです! 私にとってこの動画は核ミサイルと同じくらいの破壊力があります。
プライベートのためお仕事モードは一切働かないので、恥ずかしさが私のハートにダイレクトアタックです。
思わずベッドにダイブしてジタバタしてしまいました。顔が超熱いです。
これを全世界にばら
意を決して「……ポチッとな」と
完了後は素早くパソコンをシャットダウンし、ベッドに潜り込んで掛け布団を頭から被ります。
これからどうなるかは『神のみぞ知る』です。不安に
その翌日は、目覚まし時計ではなくスマホの着信音で目を覚ましました。
よろよろとスマホを手に取って発信者を見ると犬神P(プロデューサー)からでした。
相手にするのが面倒なので出ようかどうか迷いましたが、ずっと鳴り続けるのでやむなく通話ボタンをタッチします。
「……へぃ、……七星で~す」
「七星さん!? 君、昨日何したの!?」
「へ!?」
慌てて飛び起きました。一体何のことでしょうか!?
「昨日の深夜から、コメットのホームページへのアクセスが急増してるんだよ! ファンクラブの申し込みも殺到していてサーバーがダウン寸前だ! 申し込み理由に
まさか、これはひょっとしてアレでしょうか。
急いでパソコンを開きスマイル動画を確認します。すると恐ろしい事態になっていました。
私の宣伝動画が、ぶっちぎりで日刊ランキングの総合1位を獲っていたのです。
「……すいません。多分それ私のせいです」
「ああ、やっぱり! とりあえず、後で事情聴取だからな!」
一方的に電話を切られました。いやもう、ごめんなさい。
恐る恐る動画を再生し、主だったコメントを見てみました。
『
『お前のことが好きだったんだよ!』
『姉貴が生きてて嬉しい……嬉しい……』
『兄貴じゃなくて姉貴(14歳)だったとは、たまげたなあ』
『ホームページの趣味欄……あっ(察し)』
『早速ファンクラブ入会してきたゾ~』
『とりあえず5口分入会してきたけどこれでいいスか(真顔)』
『ラスボスに先制攻撃されるガバ運アイドル』
『メ ガ ト ン コ イ ン』
再生開始後10秒でウインドウを閉じました。
頭痛が激痛でペインです。自分でも何を言っているのかわからないくらい
概ね好意的に受け止めて頂いており、炎上してなかったのは不幸中の幸いでしたが、まさかこんな大事になるとは夢にも思いませんでしたよ。
346プロダクションに行きたくないので仮病でズル休みしようとしましたが、速攻でお母さんにバレて叩き出されました。悪いことは出来ないものです。
抜き足、差し足、忍び足。
「……七星さん、ちょっとよろしいですか?」
「ひっ……!」
学校後、346プロダクション内でこっそりとレッスン場に向かう途中、千川さんに捕まりました。その後、犬神Pを交え終始正座で小一時間ほど説教を受けます。
勝手にこんなことをしたのは確かに悪いと思いますけど、これほど大事になるなんて普通は想定出来ないでしょう。
これは不幸な事故です。そうに違いありません。情状酌量で執行猶予付きの判決を希望します。
「本当に、心から反省していますか?」
「アッハイ」
コワイ! 恐怖から思わず片言になってしまいました。笑顔なのが逆に恐ろしいです。
地上最強の暗殺者の隠密行動を簡単に察知するなんて、この人は一体何者なんでしょうか。
「すいません、ちひろさん。俺の監督不行き届きです。責任は全て俺にあります」
「私はいいんですけど、システム部の方が朝から対応に追われて大変だったんですよ。皆さんにもちゃんと謝って下さいね」
「はい。すいませんでした」
「ごめんなさい……」
大変申し訳ないです。一応コンビニで菓子折りを買ってきたので、謝罪に行きましょう。
こんな感じで色々とトラブルはありましたが、それでも結果的にコメットのファンクラブ会員が一晩で2,000人ほど増加したのは大きな成果でした。いや、増えすぎでしょう!
アイドルの人気を数字で計ることは難しいですが、ファンクラブ会員数は目に見える実績なのでとても重要です。アイドル事業部としてもその点は非常に高く評価してくれました。
恥や
こうなると、『新・三本の矢』の三本目である『あのプロジェクト』もペースアップする必要があります。
あの元総長──いや、牙を折られた虎ちゃんにはもっと働いてもらわないといけませんね。後で改めて脅迫、じゃなくて依頼をしておきましょうか。
関係者への謝罪を一通り終えると、既にレッスン終了の時間となっていました。
仕方がないので顔だけでも出そうかなと思ってプロジェクトルームに向かう途中、一人の美少女が私の行く手を阻みました。
「朱鷺ちゃん、いやビームちゃん! 最強ゲーマーアイドルの座を懸けて勝負よ!」
腰を手に当て仁王立ちに立ちはだかったのは、紗南ちゃんでした。
三度のご飯よりもゲームが大好きで、ゲームショー等のゲーム関連のお仕事がやりたくてアイドルとなったそうです。 ヘビーゲーマーでして暇を見つけては携帯ゲーム機でピコピコやってます。
同い年で共に蟹座でありゲーマーでもあるので、とても仲良くして頂いています。
「あ、その座は喜んで紗南さんにお譲りします」
そう言うと盛大にずっこけました。吉〇新喜劇みたいです。
私が目指しているのはライブ中心の正統派アイドルですから何も問題ありません。時既に時間切れな気もしますけど。
紗南ちゃんがよろよろと立ち上がりました。
「いいえ、不戦勝だなんてゲーマーとしての鉄のプライドが許さないわ。大人気のビームちゃんを倒してこそ、あたしは真のゲーマーアイドルになれるのよ!」
「大人気って……、大げさじゃないですか?」
「いや、全然。熱狂的な信者があれだけ沢山いるんだから
「あ、ありがとうございます……」
自分の動画のファンにリアルで会ったのは初めてなのでどうリアクションすればいいかわかりませんが、とりあえずお礼を言っておきました。
「でも、勝負って何をするんですか?」
「もちろん、ゲームに決まってるじゃない。ほら、早く行くよ!」
「え、ちょっと……!」
手を繋がれて、寮内にある紗南ちゃんの部屋まで連行されました。仕方ありません。付き合ってあげましょうか。
部屋の中は大体予想したとおりでした。ゲームハードやソフトが所狭しときっちり収納されています。整理整頓が出来ていて素晴らしいです。どこかのドブ川に見習わせたいですよ。
「勝負内容はどうするんですか?」
「対戦ゲームの三本勝負でどう?」
「はい。それでいいですよ」
「じゃあ、ソフト決めだね。どれにする?」
紗南ちゃんが収納ケースを引っ張り出し、様々なソフトを取り出しました。良ソフト揃いで豊富な品揃えです。
「私が決めていいんですか?」
「いいよ。どれも自信あるし!」
紗南ちゃんが胸を張りました。かなり自信を持っているようですが、私もテレビゲームに関しては一日の長があります。ゲーマーアイドルになる気はありませんが、勝負とあっては負けたくありませんので華麗に返り討ちにしてげましょう。ふっふっふ。
「では、初戦はこれにしましょうか」
そう言って私は『鉄拳6 BR(BLOODLINE REBELLION)』を選択しました。格ゲーはそこまでやりこんではいませんが、鉄拳は好きなシリーズなのでナンバリングタイトルは全てプレイ済みです。紗南ちゃんにギャフンと言わせてあげます。
「へぇ~それでいいんだ」
何だか含みのある言い方なのが少し気になりますが、まぁいいでしょう。
PS3をセット後ゲームを起動します。キャラクター選択画面になったので、迷わずアーマー・キングを選択しました。覆面ヒールレスラーキャラなんですがなぜか好きなんです。
一方、紗南ちゃんは三島平八を選択しました。
「じゃぁ、二本先取した方が勝ちでいいよね」
「ええ、いいですよ」
そうして試合が始まりました。さて、まずは少し様子を見ましょうかと考えていると、紗南ちゃんが操る平八が物凄い勢いで襲い掛かってきます!
「え!? ちょっ、ま……」
「待たないよ!」
見事な連続コンボを叩き込まれ、何も出来ずあっというまにKOされました。
ちょ、ちょっと油断しましたね。次ラウンドで挽回しましょう。
2ラウンド目は私の方から攻撃をしていきます。
ですが全て正確にブロックされました。そして攻撃の合間を縫って的確に反撃されます。
そうするうちに、また瞬殺されました。
「あはは、ビームちゃん弱~い!」
「くっ……」
逆にギャフンと言わされました。この子格ゲーガチ勢じゃないですか! にわかの私がハナから勝てるはずがありませんでした。
いくら動体視力が良くてもプレイングがガバガバではお話になりません。
「鉄拳はアタシが一番得意な格ゲーなんだよ! 知らなかった?」
「いや、知ってたらこのソフトで勝負なんて挑みませんよ……」
これはまずいです。ここのゲームは全て紗南ちゃんの私物ですから、どれも相当やりこんでいるに違いありません。実力差がはっきり出るゲームではまず勝負にならないでしょうから、次戦からは運要素の強いゲームにしましょう。
そして次のゲームを選択しました。ソフトは『キン肉マン マッスルタッグマッチ』です。昔懐かしいファミコンのアクションゲームで、対戦も可能です。
このチョイスはある意味賭けでもありました。本作では誰がどのキャラを使うかが勝敗を大きく左右するのです。
「キャラ選択権は、どうするの?」
「公平にじゃんけんで決めましょう」
「……わかった」
お互い表情は真剣です。それぞれ思い思いのポーズで気合を入れました。
「最初はグー!!」
「ジャン! ケン! ポン!」
私はグー、紗南ちゃんはチョキです。
それを見た瞬間、思わず『コロンビア』のガッツポーズをしました。
紗南ちゃんは甲子園で敗れた高校球児のようにうなだれています。
「あの、ブロッケン禁止令は……」
「ないです」
「うう……。やっぱりそうだよね」
「いやいや、ブロッケンJr.以外でもまだまだ勝利の可能性は残されています。どうぞ、存分に夢を追い続けてください。私はその姿を心から応援しますよ」
笑顔で紗南ちゃんを励ましてあげました。
ブロッケンJr.の『ナチスガス殺法』は本作唯一の飛び道具でして、超長距離の射程範囲と起き上がり攻めの絶対的な強さが群を抜いています。要は、ブロッケンJr.を選択した時点でほぼ勝ち確なのです。
その後、紗南ちゃんはテリーマンで健闘しましたが、ブロッケンJr.の前に無残にも散っていきました。卑怯と言われようとも勝ちは勝ちです。勝てばよかろうなのだ。
「最後はこれにしましょうか」
そう言って、最後のゲームを選択しました。ソフトは『ドカポン3・2・1 〜嵐を呼ぶ友情〜』です。双六風の世界観で、ルーレットを回すボードゲームですね。町や村を支配するモンスターを退治して行き、規定のターンを終えた際に最も総資産の多いプレイヤーが優勝となります。
それなりに運要素もありますので、鉄拳6BRのように一方的にやられることはないでしょう。友情破壊ゲームとして有名ですが、私と紗南ちゃんの仲なら絶対に大丈夫です!
「げ。それ行っちゃうかぁ~」
「ええ、何か問題でも?」
「いや、ないけどさ。リアルファイトは勘弁してよ。ビームちゃんに殴られたら即天国だからね」
「あはは。そんなことしませんって」
累計年齢50歳ですからゲームの一つや二つで簡単にキレたりはしません。全世界探してもこんな淑女は中々いないのです。
「じゃあ早速やっていきましょう」
そう言ってスーファミをセットしました。
最初は比較的和気藹々としたプレイです。そして小1時間が経過しました。
「ビーム! 人の皮をかぶった悪魔め!!」
「裏切りではない、これは知略だ!!」
「彗星は二度と輝かぬ!!」
「この手で最も醜く哀れな死をくれてやろう! 紗南!」
双方ブチギレです。どうしてこうなったのか、コレガワカラナイ。
蜘蛛の糸に群がる亡者の如く、互いの足を引っ張り合う泥沼の争いが続きました。
生き馬の目を抜くような殺伐さは正に現代社会の縮図です。
「フハハハハ!!」
色々と汚い手を使いながらも、何とか勝利をもぎ取りました。
バカめ! 勝てばいいんだ、なに使おうが勝ち残りゃあ!!
……あら、いけないいけない。つい興奮してジャギっぽくなってしまいましたよ。
しかし久しぶりに楽しい時間を過ごせました。
最近はネット経由で世界中の方々と対戦できますが、こうやって肩を並べて一緒にプレイをするのはそれとは別の楽しみがありますね。
前世では生き残ることに必死で、友達と一緒に楽しくゲームする暇なんてありませんでしたし。
「負けた……。ゲーマーアイドル廃業だ……」
紗南ちゃんが明日のジョーのラストシーンのように燃え尽きていました。
「いや、ゲーマーアイドルの座は紗南ちゃんにお譲りしますよ。それよりこれからもたまにゲームのお相手をして貰えると嬉しいです」
「当たり前だよ。協力対戦なら任せて! ……ドカポンはもう嫌だけど」
「ふふ、ありがとうございます。……ドカポンは封印しましょう」
人間が出来ていない私にとって、あれは危険すぎます。
「そうだ! どうせならアタシ達二人でゲーマーアイドルになればいいじゃない! 目指すは一緒に最強ゲーマーアイドルだよ!」
「あはは。それもアリかもしれませんね」
紗南ちゃんと一緒なら、ゲーマーアイドル路線もいいかもしれません。
「それより次回のRTA動画はいつアップするの? まだソフトが決まってないのなら、お奨めのレトロゲーRPGが結構あるからそれで走ってみない?」
「お奨めって、どんなラインナップですか」
紗南ちゃんの推薦するソフトにはちょっと興味があります。
「え~とファミコンなら『星をみるひと』『未来神話ジャーヴァス』でしょ。スーファミだったら『摩訶摩訶』『ガイアセイバー』とかかな。PSだと『スペクトラルタワー』『里見の謎』なんていいんじゃない?」
「やめてください しんでしまいます」
どれも折り紙付きの由緒正しいクソゲーRPGじゃないですか! そんなゲームのRTAなんてやったら胃潰瘍不可避です。
げんなりする私を見て紗南ちゃんは大爆笑していました。
なお余談ですが、テレビ局のお偉いさんが私のRTA動画の熱狂的なファンだったようで、私をメインとしたゲーム関係のレギュラー番組を二つ企画して頂きました。
月一の
一つ目は『横浜エンカウント』といい、私と紗南ちゃんでゲームをプレイしながら緩く雑談をするトーク番組です。紗南ちゃんは「ゲーム関係の仕事が来た! しかもビームちゃんと一緒だ!」と大層喜んでいたので、私もとても嬉しくなりました。
二つ目は『RTA CX』という番組名でして、私がレトロゲームのRTAに挑戦する様子を1時間に編集した番組です。
私のガバガバなプレイングと、静かにキレながら淡々と毒を吐く様子が見所のようです。
いやいやいや、そんなことよりコメットを取り上げて欲しいんですけど……。