ブラック企業社員がアイドルになりました 作:kuzunoha
「ニンニクナシヤサイマシマシアブラマシマシカラメマシ」
「あいよ!」
私のコールに応じる親父さんの威勢のよい返事が響きます。
熱気が渦巻く店内は正に男の聖地と言えるでしょう。この風、この肌触りこそ二十郎です。
今は夜の9時過ぎで閉店時間が迫っていますが、二十郎ファンの中でも評判の良い支店だけあり満席の状態です。
暫くしてお目当てのラーメンが
箸を取り食す体勢に移行しましたが、ふと違和感に気付きました。注文していない煮卵が二個、丼に盛られていたのです。
「あの~、おじ様。私煮卵頼んでないんですけど……」
「最近良く来てくれるからな、サービスだ」
「わぁ、ありがとうございます♪ おじ様の美味しいラーメンの味が忘れられなくて、つい通ってしまうんですよ~」
「おう、嬉しいこと言ってくれるじゃあねえか!」
親父さんが照れくさそうに答えました。くっくっく。世の中チョロいです。
中身はドブ川ですが見た目はそれなりですから、騙されるのも無理はありません。
「しかし嬢ちゃんも変わったアイドルだな。ウチのラーメンを食いに来るアイドルなんて嬢ちゃんで二人目だぜ」
「え? 私以外にもこんな所にくるアイドルがいるんですか?」
これは意外でした。ここは男達の戦場ともいえる場所です。そんな所に来るなんてよほどの世間知らずかラーメン好きなのでしょう。
「なんつったっけな。テレビにも良く出てる有名な子なんだが、名前をド忘れしちまった。銀髪で上品な感じの嬢ちゃんだったんだが、細っこいのに平然と特盛を平らげたもんだからたまげたぜ」
346プロダクションの銀髪アイドルといえば
話が合いそうなので是非お会いして見たいものです。
「ほら、さっさと食わねえと麺が伸びるぞ!!」
おっとそれどころではではありません。まずは目の前のブツを処理することに専念しましょう。
何があってもロットを乱してはならぬのです。そんなことをしたら即
化学調味料がふんだんに使われた安っぽい味が
前世では横浜生まれ横浜育ちでしたのでラーメンといえば家系がメインですが、二十郎も捨てがたいです。不幸楽苑や天上一品、花月風等も好きですけどね。
こんな不健康なものを好んで食べていたから前世では早死にしたんでしょう。あははは。
でも食べます。結局、馬鹿は死んでも治りませんでした。
人間いつ死ぬかわからないのですから、好きな時に好きなものを食べればいいのです。マズいものを我慢して食べて長生きしても楽しくはないと思います(故人の感想です)。
この後の副業に差し支えるのでニンニクは泣く泣く抜きましたけどね。
しかし、三分の二を超えた辺りから食べに来たのを超後悔するのは何故なのでしょうか……。
その後なんとかロットを乱さずに完食し家路につきました。
本日はとあるバラエティ番組の収録でしたが、346プロダクションでは中学生を夜8時以降働かせてはならないという社内規程があるため切り上げさせられました。
大企業らしく労働基準法を尊重し
前世にいらっしゃったブラック企業経営者の
必要な時に働かず不要な時に働くなんて、労働基準法は私に何か恨みでもあるのでしょうか。
今はコメットの知名度と人気を高める必要があるため、時間が惜しいのです。
お仕事のない夜間を無駄使いしたくはないので、ここ最近は『とある副業』をやっていました。今日もその副業がありますので、もう一働きしなければなりません。
「……ただいま」
一旦家に帰り、寝ている両親と朱莉を起こさないようそうっと自室に向かいます。部屋に入って着替えをした後、ベッドの中にクッション等を詰め寝ているように偽装工作をしました。
その後部屋に隠してあるスポーツシューズに履き替え、窓からこっそり抜け出します。
面倒ですが、一回家に帰らないと心配されてしまう恐れがあるので仕方ありません。私を誘拐できるような人はこの世にいないのですから、別に心配しなくていいんですけど。
そんな方がいたら是非闘ってみたいです。生まれ変わってこの方、100%中の100%でぶつかれる強者とは出会えていませんので。
脱出後、『これからそちらに向かいます』とメールを送りました。
すると直ぐに返信が返ってきます。『承知しました。姐さん』というメールを確認した後、ママチャリに乗ってある場所に向かいました。
20分くらいで目的地に到着しました。
眼前には朽ち果てた廃工場が映っています。ここは以前、
ガラの悪い男達が十数名たむろしていますので、そちらに近づいていきました。
「お疲れ様です! 姐さん!」
彼らから一斉に挨拶されました。皆一列に並んで腰を90度に曲げ、しっかり頭を下げています。どうやら教育の成果が出ているようですね。
その中には、先日デビューミニライブに来た
「ご苦労様。今回の相手はまだ来ていないのですか?」
「申し訳ございません! ですが、もう少しで到着するそうです」
虎ちゃんから報告を受けました。
「この私を待たせるとは中々良い度胸をしていますね。族の名前はなんでしたっけ?」
「
はぁ、また雑魚ですか。何とも張り合いがありません。
「次回はもっと大物を呼んで下さいよ。わざわざ新チームを立ち上げて貴方を再び総長にしてあげたんですから」
「努力します! しかし、別に自分は望んで総長になった訳では……」
「ん? なにか文句でも?」
「め、
笑顔で問いかけると虎ちゃんの顔が引き攣りました。取って食べませんから大丈夫ですって。
「来ました!」
報告と同時にけたたましいバイクの音が周囲に響きました。ようやく
十数台のバイクがこちらに向かってきます。
一番偉そうな男がバイクから降り私達の方へ近づいてきます。顔中ピアスだらけですがアフリカの原住民の
「テメェが
虎ちゃんが問いかけました。私以外には強気なんですよねぇ、この子。
「んだオメェは! だったらどうした!」
「俺は総長の虎谷だ。これから
「喧嘩上等! とっくに気合全開だぜ。いいから早く始めろや!」
『
メンバーは
「試合の前に改めてルールを説明しておく。知らなかったは通用しないからな。良く聞いておけ。
試合は一対一で行う。反則にあたる行為は一切ないし、武器を使っても構わない。相手を気絶させるか、参ったと言わせた方の勝ちとする。仮に怪我をしても一切文句は言わないこと。ここまではいいか?」
「ああ」
顔面ピアスが素直に頷きます。
「では、勝負後の条件について説明する。重要事項だから良く聞けよ。
一.勝ったチームは負けたチームをそのまま吸収する。
二.負けたチームのメンバーは全員、勝ったチームの総長の命令に従う。
三.負けたチームのメンバーは全員、346プロダクションのアイドルグループであり、姐さんが所属している『コメット』のオフィシャルファンクラブに入会する。そしてデビューCDを1人5枚購入する。
以上だ。何か質問はあるか?」
「ちょっと待てや! 最後の条件だけおかしくねえか!?」
「何もおかしくはない。この条件でいいな!」
「ちっ。……まぁいいさ。どうせ俺が勝つから関係ねぇしな」
これがコメットの存続をかけた『新・三本の矢』の三本目──『突撃! 隣の暴走族』です。
実際にはおびき寄せているので突撃ではないですけど、そんなことは誤差ですよ誤差。
ファンクラブ会員数はアイドルの人気を客観的に計る貴重なバロメーターなのです。コメットの強制解散を防ぐため、一人でも多くの会員を集めようと思って必死に考えた結果がこれです。
少し前に
ならばそのネームバリューを利用して一稼ぎしようと思い、
しかも自分達のチームが勝てば
結果はお察しの通り、今や
チーム名ですが、北斗の拳に出てきた序盤最大の敵であるシンが組織していた軍団──
関東一円を制覇するにあたり、これほど相応しいチーム名はないと思いますね。愛する者のためだけに作られたと言う点も同じですから。
ちなみに当て字ですが、自主規制という『鎖』を『斬』った元『黒』企業社員の七星『朱』鷺という意味です。スマホで漢字変換をしながら適当に考えました。
私は暴走族業界には
当初は物凄く迷惑そうでしたが、私が誠心誠意お願いすると快く引き受けて頂けました。あくまで自主的に協力を申し出てくれたのです。決して写真を使って脅したりはしていません。
でも、虎ちゃんをはじめ
そうこうするうちに試合の時間となりました。
なお、決闘だと決闘罪に問われる恐れがありますから、ボクシングのスパーリングと同様に試合という形式を取っています。
善良で良識ある一市民として、法律はきちんと守らなければいけません。
「はっ。はぁっ!!」
顔面ピアスが派手にデモンストレーションをしています。
あの動きはシステマでしょうか。ロシアの軍隊格闘術とは、良いところに目をつけたものです。北斗神拳の前では無意味ですけど。
「それでは、お手柔らかにお願いします」
試合前の礼儀として一礼しました。相手が誰であっても挨拶は大切です。
「オメェがピンクの覇王か。無駄に背が高いデカ女だな」
「そうですね。今は成長期ですから」
聞き慣れた
「は! こんなヤツがいるアイドルグループなんて、メンバーはドブスばっかに違いねえ!!」
その言葉を聞いた瞬間、ブチィッ! という鈍い音が脳内に響きました。
「おい馬鹿ッ! 死にたくなきゃ口を閉じろ!」と、虎ちゃんが必死の
コメットの皆について、何か言っていたような気がしましたが聞き間違いでしょうか。
「今、コメットのことをなんて言いました?」
「ああ? 糞以下の超ドブスばっかだっつったんだよ!」
はい、
「……きさまには地獄すらなまぬるい」
ジョインジョイントキィ
(中略)
ウィーントキィ (パーフェクト)
「あべし!!」
無残で無様なボロ雑巾が一枚出来上がりました。華麗で完璧な完封コンボを叩き込んでやりましたよ。キジも鳴かずば撃たれまいに。
「大馬鹿野郎が、無茶しやがって……」
虎ちゃんが悲壮な表情で顔面ピアスを見つめています。何か思うところでもあるんでしょうか。
まあ、どうでもいいでしょう。これでファンクラブ会員が20名増の上、CD100枚お買い上げです。
ですがそのままめでたしめでたし、とはなりませんでした。
「貴様、よくも総長をこんな目にッ!!」
「よくわかんねぇことしやがって、潰す!!」
毘沙門天の兵隊達の怒号が周囲に響き渡ります。
それぞれ鉄パイプやバット等の凶器を手にし、私を囲むように『円陣』となって少しづつ距離を詰めて来ました。
親の顔より見た光景です。いや、流石にそれは言いすぎですか。
「……何で暴走族って毎回決まって同じ行動をするんですかね?」
「いや、面目ないッス……」
虎ちゃんがぼそっと呟きました。
「私の傍にいて下さい。そうでないと巻き込んでしまいますから」
「……了解です」
私が着地する頃には、敵味方入り乱れてヘブン状態になっていました。
「では、後処理の方よろしくお願いします。くれぐれも『記念写真』の撮影を忘れないように」
「承知しました! お疲れ様でした!」
虎ちゃんと
翌日の夜も試合でしたので、いつものようにママチャリで廃工場へ向かいました。
到着後、虎ちゃん達に挨拶をします。
「ご苦労様。今回の相手はどんなチームですか?」
「
「へぇ。構成員は何人くらいですか?」
「詳細はわかりませんが、軽く100人は超えているかと」
やりました。こういうのでいいんですよ、こういうので。
これでファンクラブ会員が100人増です。CDも500枚お買い上げです。
少し待たされましたが怒りません。ワクワクしながら到着を待ちました。
暫くすると、物凄い騒音が周囲に轟きました。
そして数十台のバイクが廃工場内に進入してきます。多分彼らが
先頭を走るグループが私達の目の前で止まりました。バイクを止め、こちらに近づいてきます。
驚くべきことに、先頭にいる方は『若い女性』でした。
「やっぱりテメェが来たか……」
「おうおう、誰かと思えば中坊──しかも女に潰された猫じゃねえか! 今更どの面下げて帰ってきたんだよ!」
その女性が虎ちゃんに話しかけました。何だかからかうような感じです。
「テメェと顔を合わせたくねぇから復帰は嫌だったんだ……」
「ん? なんだ、やんのか?」
会話内容から察すると、二人はどうやら知り合いのようです。
「虎ちゃん。こちらの方とはお知り合いで?」
「……
「
威勢の良い挨拶をして頂きましたので「
しかし凄い美人さんです。モデルさんや女優さんと比べても全く引けをとりません。
なんといっても、その胸部に付いている二つのお山が私の目を釘付けにします。大きさこそ
「ありがたやありがたや……」
「ん……?
いけません、ついつい拝んでしまいました。
「……コホン。今日の試合相手はお前か?」
虎ちゃんが場を仕切り直しました。
「オウ、アタシが相手だ! 文句あっか!」
大ありですよ。試合相手がまさか女性とは思いませんでした。
男性ならいくらボコろうが良心の
女性でも武道を修めている格闘家やストリートファイターでしたら事情は異なりますが、か弱い一般女性に手を上げてはイカンのです。とても闘う気にはなりませんでした。
しかしどうしましょう。ここまで呼び寄せた以上、手ぶらで帰らせる訳にもいきませんし、何といってもファンクラブ100人増の夢が水泡に帰してしまいます。
どうにか暴力以外で勝負は出来ないものでしょうか。考えた結果、妙案が浮かびました。
「向井さん。今日の試合ですが、女性同士ということもありますので、直接の闘いではなく走りで優劣を決めると言うのはいかがでしょうか?」
「走り? アタシはいいけどよ、アンタはバイク乗れないだろ」
「バイクは乗れませんけど、愛車がありますのでそれで勝負です」
そう言って、留めてあったママチャリ──『
ちなみに定価は9,980円(消費税込)で、変速ギアすら付いていません。
周囲が静まり返りました。
「ふはは……! ふざけんなよ、ママチャリでバイクに勝てる訳ねえだろ!」
「……姐さんが凄いのは重々承知していますが、流石にチャリでは無謀です」
深刻な表情の虎ちゃんに止められましたが、構わず続けます。
「私の愛馬は凶暴ですよ。それとも、自慢のバイクがママチャリ如きに負けるのが、そんなに怖いんですか?」
私と同じく煽り耐性がなさそうなので、それとなく煽ってみました。
「上等だァ! やってやんぜ、オラァ!」
「では、スピード勝負と言うことで、よろしくお願いします」
函館の塩ラーメンくらいあっさりと承諾して頂きました。
その後、虎ちゃんに試合のルール説明をして貰います。
廃工場敷地の外周を二周して、早くゴールにたどり着いた方の勝ちというシンプルなルールです。正方形の外周を二周するような感じで、八つのコーナー以外は直線なのでスピード勝負のレースになります。
怪我をすると良くないので、相手に危害を加える行動や危険な進路妨害は禁止としました。
なお、この廃工場は虎ちゃんの叔父さんの所有物件であり、敷地内は私有地なのでスピードを出しても法違反にはなりません。
「この勝負、もう一つルールを追加しませんか?」
勝負にあたり思うところがあったので、彼女にちょっとした提案をしました。
「追加ルールだと?」
「はい、負けた方は勝った方の言うことを何でもきくということで」
「いいぜ。ママチャリに負ける訳ないしなァ!」
その言葉が聞きたかった。これだけ証人がいれば
「よく見てなさい。皆が笑っていたこのママチャリの本当の限界を今から見せてあげます」
そう言い放ち、不敵な笑みを浮かべてみました。
試合時間になりましたので、それぞれスタート地点で準備をします。
向井さんのバイクは排気量こそ400ccで中型ですが、かなり手が入れられています。恐らく大型バイクにも負けない性能があるでしょう。だからこそ倒しがいがあります。
スタートの合図は虎ちゃんにお願いしました。
「3・2・1……」
カウントダウンを始めます。
「GO!」
その合図を受けて、両者一斉に飛び出しました!
スタート直後は様子見のため、向井さんに先行を譲ります。
スリップストリームに入ってその影を追う様に張り付きました。こうすることで空気抵抗が通常より低下した状態になり、走りやすくなります。
「上等じゃねーか!! コーナー二つも抜けりゃミラーから消してみせるぜ!!」
彼女の声が周囲に響きました。
予想通り、向井さんのバイクは相当チューンナップされています。
普通の人ならママチャリでバイクに付いていくなんて到底不可能でしょう。
彼女の不幸は、相手が私だったことですね。
四つ目のコーナーを抜け、早くも一周目が終わろうとしていました。
スタート兼ゴール地点の前にある長いスロープの付近を通過しましたが、両者の距離は開いていません。むしろ縮まっています。
「どうしたんだ! 今日に限ってやけにノロく感じる!! クソッタレが、エンジンが止まってんじゃねーのか!!」
かなり動揺していますが、走りに影響していないのは流石です。
先ほどからプレッシャーを掛け続けていますが、ミスがないので抜くタイミングに苦慮していました。抜かせないためのブロッキングが非常に上手いので、このままでは負けてしまうかもしれません。
ここはあの作戦で行くしかないでしょう。
二周目のゴール前、最後の長い直線でスリップストリームから抜け、向井さんの外側から抜きにかかる素振りを見せます。
「なめてんじゃねーぞっ! 外から行かすかよ!!」
そう叫んで、外側に
狙い通り、陽動に引っかかりましたね!
私は逆に、内側に向けて猛スピードで漕ぎ出しました。
向井さんも慌てて被せてきますが、内側から抜くことが目的ではありません。
目標は、工場外部に設けられた長いスロープです。
勢いをつけママチャリごとジャンプし、スロープ脇に設けられた手すりに飛び乗ります。
そのまま機体強度の限界を無視して猛烈に加速し、カタパルト上で加速する戦闘機の如く、超スピードで飛び出しました!
名作映画『E.T.』の名シーンのように、ママチャリで空を飛びました。
これぞ、空中に描くラインです!
そのまま向井さんのバイクを追い越しました。空中ですから当然ブロッキングは不可能です。
「ふ、ふざけんなァァァ!」
大声で叫ぶ向井さんを尻目に、ゴール地点に着地しました。
その瞬間、機体強度の限界を迎えたママチャリが見事に崩壊したので華麗に飛び降ります。
30回半ひねりで着地しましたので、新体操なら10点満点でしょう。
ママチャリでは私の全力にはとても耐えられないので、壊れてもいい最後の直線で本来の力を発揮したのです。
さようなら、第十二代目黒王号。よく4ヵ月耐えてくれました。
また明日新しいママチャリを買ってこなければいけませんね。今度は第六代目カスケードと命名しましょう。
「アタシの……無敗伝説がッ……!」
敗北した向井さんが、がっくりとうなだれます。
私の予想よりも断然早かったですが、相手が悪かったと言わざるを得ません。
「それでは私の勝ちということで。今日から
「……ああ。女に二言はねぇ。正々堂々タイマンで負けたんだから悔いはねぇさ」
拳火上等の兵隊達も納得している様子でした。この潔い態度、凡百の暴走族とは格が違います。
「それともう一つ。向井さん、先ほどのお約束を覚えていますか?」
「うっ……」と呟いて、苦虫を噛み潰したような表情をしました。
「負けたら何でもするって言いましたよね?」
「ああ、もう! 煮るなり焼くなり好きにしろや!」
そう叫んで、その場で大の字で寝っ転がります。
「私のお願いは……」
「おはようございます。拓海さん」
「……うっす。朱鷺」
346プロダクション内で拓海さんとすれ違いましたので挨拶します。
「ここはもう慣れましたか?」
「まぁ、ちょっとはな……」
拓海さんに対する私のお願いは、『暴走族を引退して、346プロダクション所属のアイドルになること』にしました。
あれだけの
コメット存続には寄与しませんが、ティン! と来てしまったのですから仕方ありません。
346プロダクション側も即採用しましたので、私の目に狂いはなかったと言えるでしょう。
なお、犬神P(プロデューサー)では制御できなさそうなので、癖のあるアイドルを数多く担当しているPにお任せしました。
金髪にサングラス、ピアス、黒スーツに派手なシャツという中々個性的なPですが、有能との評判なので任せておけば問題ないと思います。
元々拓海さんをスカウトする予定で目を付けていたそうなので、私が介入しなくてもアイドルになっていたのかもしれません。
「ま、向いてねえとは思うけど……。頑張ってやるよ。それでいいんだろ?」
「はい。拓海さんは絶対アイドル向きだと思うので、是非頑張って下さい」
「はァ!? どう考えても向いてねえだろ!」
「ふふふ。そう思っているのは拓海さんだけですよ」
意外にノリノリでアイドル活動をやっていることは、私の耳にも伝わっているのです。
「朱鷺が無理矢理つれてきたんだから責任もてよ!」
「はいはい。一緒に頑張りましょう」と笑顔で返しました。
アイドルのスカウトというのも意外と面白い仕事かもしれません。
引退後の転職先候補リストに追加しておきました。
その後は何事も無く関東一円の暴走族を傘下に治めました。
自分達より遥かに滅茶苦茶なことをしている人を目の当たりにして冷静になったそうですが、誰のことを指しているのでしょうかねぇ。
まぁ、彼らやその家族にとってこれはこれで良かったのではないでしょうか。
ですが私のことを『
なお、関東制圧後は夜間帯が暇になってしまったので、賞金を目当てに闇ストリートファイトのランキング戦にチャレンジすることになりました。詳細を語ると長くなるので割愛しますがそちらは楽しめましたよ。
身バレを防ぐためちゃんと仮面を装着し、『名も無き修羅』として参戦しました。
北斗神拳には『
特に赤髪の美人さんの空中技は見事でした。彼女の技や動きも完全にコピーしましたので、トキ(北斗の拳)の身体能力と組み合わせることで更に面白い動きができるようになりました。
戦えば全てを学ぶ。故に北斗神拳は究極の暗殺拳であり、地上最強なのです。
ランキングに入っていたランカー100名を一週間で潰してしまいましたが、もう少しゆっくり闘っても良かったかもしれません。
いや、皆さん普通に強いんですよ。あらゆる防御と攻撃を無効化してしまう私が悪いのです。
闘いの様子は会員制の裏サイトを通じて全国の格闘技ファンに生中継されており、賭けも行われていましたが、最後の方は全員私に賭けていたので賭けが成立しませんでした。
賞金は結構な額になりましたので『Comet!!』のCDが増産されたら全力で自爆営業をする予定です。
……アイドルってなんでしたっけ。