ブラック企業社員がアイドルになりました 作:kuzunoha
なお、この物語はフィクションであり、実在する人物・地名・団体等とは一切関係ありません。
以上の注意点をご理解頂ける方のみ、お進み願います。
怒声と砲声と銃声が、
機銃がうなり、火薬が弾け、至る所で爆発が起きていました。
縦横無尽に駆け回る鉄の棺桶や上空を旋回する戦闘用の回転
……どうしてこうなったのか。
それを語るためには、私がシンデレラプロジェクトの存在を知る前に
「
夕日が落ちかけ閑散としたバトルロイヤルホスト内で、私の声が響きました。口を付けたティーカップをコースターに戻します。
「そうだ。あれのパイロットをやってみないか!」
1月の半ば頃、同じ346プロダクション所属であり犬神P(プロデューサー)が担当しているアイドルから、そんなお誘いを受けました。
その少女──
大きなリボンとツインテールがトレードマークな可愛い子です。技術者としての強い個性があるので色物に見られがちですが、乙女な面も持ち合わせている魅力的な女性です。
「私の親戚が工学部の大学生でな。サークルの仲間と共に、今春に行われる翼人間コンテストに出場する予定なんだ。私も暇を見て機体の製作を手伝っているんだが、パイロット候補も捜して欲しいとお願いされたんだ」
翼人間コンテストとは、大学や企業等の団体が製作した自作飛行機の滞空距離及び飛行時間を競う競技会のことです。毎年開催されており、地上波テレビのゴールデンタイムでも放送されている人気番組です。
そのコンテストには二つの部門がありました。一つ目は、動力を持たず発進時の助走のみで滑空する
今回そのサークルが出場するのは後者でした。
「なるほど。足で漕ぐタイプの軽飛行機なので体力が必要なんですね。でもそれならパイロットは男性がいいのでは?」
大学なら体力のある男性は沢山いるでしょうに。なぜ私に声が掛かったのかがわかりません。
「いや、女性だけのガールズチームと言うのが売りだから、パイロットも当然女の子でなければならない。美人であればなおよしだ。朱鷺の体力は尋常ではないという話は飛鳥達からよく聞くし、見栄えもいいからなっ! あのベテラントレーナーも体力だけなら人類最強と太鼓判を押していたから、是非にと思ったのさ」
ああ、そういうことですか。美人かはともかく、体力面では他の
「犬神の許可も取っている。地上波テレビに出られるのだから悪い話ではないだろう?」
清純派アイドル路線を志望する私としては、テレビの歌番組に出たいと常々思っておりました。
ミステリアスなクールビューティー路線でいきたいのでバラエティはあまり望みませんが、一、二回なら出るのも悪くないでしょう。
「わかりました。その大役、お引き受けします」
「そうか、それは良かった! サークルには私から連絡しておくよ」
晶葉ちゃんが満足げな表情を浮かべました。
「それで機体の方は今どれくらい出来上がっているんですか?」
「今の時点で90%といったところだろうな」
大会は3月の上旬なので、かなり余裕を持って作業されているようです。既にジオングよりも高い完成度でした。
「
「ああ。そうだ、機体の確認とサークルの皆との顔合わせを兼ねて、一回大学の方に顔を出してみないか?」
「ええ、いいですよ」
次の土曜日は私と晶葉ちゃんが共にオフでしたので、一緒に大学に行くことになりました。
某大学の正門前で待ち合わせなので、待ち合わせ時刻の30分前に到着して晶葉ちゃんを待ちます。途中で何人かの大学生っぽい方々からナンパされましたが、丁重にお断りしておきました。
私大ですし高い学費を払っていると思いますので、女にうつつを抜かしていないで勉学に励んで欲しいものです。私なんて前世では勉強したくても出来なかったんですから。
なんとはなしに人の流れを見ていると、凄い美人さんが目に付きました。
切れ長でタレ目がちな目元で、ロングヘアーの女性です。なんというか……えろい。
セクシーな服装と言うわけではないんですが、色気が凄いです。そのまま私の隣をすり抜けて正門をくぐりましたが、バッグから何か落ちました。
ハンカチのようですが、落とした女性は全く気付いていません。そのハンカチを拾い、持ち主に声を掛けました。
「あの、これ落としましたよ」
「え? あ、私のハンカチですね。どうもすみません」
「いいえ、気になさらないで下さい」
「ありがとうございました」
間近でみてもやはり綺麗です。なんだかティン! と来ました。もし私がPだったら絶対にスカウトしていたでしょう。
「あれっ。そういえばどこかで見たような気が……」
そう言って、その美人さんがバッグからファッション誌を取り出しました。
そしてページをペラペラとめくり、あるページで手を止めます。
「ああ、やっぱり。このモデルさんですよね!」
そう言って写真を見せて来ました。そこには私が写っています。先日ファッションモデルの仕事で撮影した写真でした。恥ずかしいので直視はしたくありませんけど。
「ええ、そうです」
「モデルさんだったんですか。道理で綺麗な方だと思いました」
「ありがとうございます。モデルもやらせて頂いていますが、正確にはアイドルなんですよ」
「え!? すいません。そうだったんですね……」
「いえいえ、構いません。まだまだ駆け出しですから」
申し訳なさそうな表情になりましたが、新人なので知らなくて当然です。
「アイドルって楽しいですか?」
その美人さんからふいにこんな質問を受けました。
「はい。元々乗り気ではありませんでしたが、今では天職だと思っています。自分にこんな可能性があるなんて思いもしませんでしたよ」
「……そうですか。あらいけない、もう部活の時間でした。ハンカチありがとうございました」
そう言って校舎の方に駆けて行きました。あんな美人がいるとは、大学も
なんとなくですが、そのうちまた会いそうな気がしました。
「おはよう朱鷺。待たせてしまったか?」
そうこうしているうちに晶葉ちゃんが到着しました。待ち合わせ時間の5分前です。
「いいえ。私が勝手に早く来ただけですので気にしないで下さい」
「そうか、それなら良かった。では早速サークルの方に向かおう」
晶葉ちゃんに案内してもらい、サークル
軽飛行機の製作会場に着くと、サークルの方々が作業をしていました。
すると晶葉ちゃんが一人の女性を連れてきます。
「初めまして、このサークルの部長の日本橋です。晶葉ちゃんの親戚だよ。よろしくね!」
晶葉ちゃんを大人っぽくしたような、眼鏡っ子の美人さんでした。
「七星朱鷺と申します。パイロットの件、お誘い頂きありがとうございました。微力ながら皆様のお力になれればと思いますので、よろしくお願い致します」
日本橋さんにご挨拶をした後、サークルの皆様にご紹介頂きましたので、無難な自己紹介を行いました。その後、早速機体のチェックを行います。
「今回製作している軽飛行機の売りはスピードなんだ。通常、翼人間コンテストに出ている足
「へぇ、それは凄いですね」
確かに従来の翼人間コンテストで見ないような軽飛行機でした。ウイングも含め、機体自体がとてもコンパクトで軽そうです。しかし、ある問題に気付きました。
「うーん、これだとちょっと……。この機体では私の力に耐えられません」
「……ほう、何故だ?」
晶葉ちゃんが
「問題は動力部の機構です。パイロットがペダルを漕いでプロペラを回転させる形式だと思いますが、パッと見たところ動力部は自転車のギアとあまり変わりないようなので、空を飛ぶ程度の勢いで私が漕ぐとすぐ壊れてしまうと思います」
「だが、普通の人が漕いでも壊れない強度にはしてあるんだぞ。気にしすぎではないか?」
晶葉ちゃんからご意見がありました。確かに普通の人ならこれで大丈夫だと思いますが、問題は『パイロットが私』だという点なんですよね。口で言っても伝わらないので、実際に見て頂くしかありません。あまりお見せしたくはないですけど。
「では私の脚力を見て頂きたいので、壊れてもいい自転車とかありませんか?」
「動力部製作の参考に何台か調達しているから、それを使うといい」
そう言って晶葉ちゃんが自転車を持って来ました。普通のチャリです。
「では、軽~く漕いでみます」
作業しているメンバーさんを離れたところに集め、スタンドを立ててその場で自転車を漕ぎ始めました。最初はゆっくりで、徐々にスピードを上げていきます。
勢いが付いてきたところで、ペダルを強く踏み込み超高速回転させました!
その瞬間、自転車のチェーンがブチ切れてあらぬ方向へ吹っ飛んでいきます。そしてペダルもへし折れました。
その光景を見てサークルの皆さんは絶句しています。そらそうよ。
一時期ロードバイクに憧れたのですが、普通に自転車に乗っていてもついつい壊してしまうので諦めたという苦い経験もありますからね。悲しいなぁ……。
自転車より走った方が断然早いんですが、一度
「今ので大体30%程度の力です。動力部はもう少し強度を高めているとは思いますが、それでも私の力には耐えられないでしょう。なので、パイロットを代えて頂いた方が良いと思います」
無駄足になってしまい残念ですが仕方ありません。やっぱり私のようなイレギュラーではなく、普通の人がパイロットになった方がこのサークルの為になります。
そのまま失礼しようとしたところ、晶葉ちゃんと日本橋さんに両腕をがしっと拘束されました。
「これは面白い素材だ。この身体能力を生かす機体が出来たら、さぞかし凄いことになるだろう」
「ふふ、そうね。こんな逸材初めて見たわ。これは是非協力して貰わないといけないわねぇ?」
お二人とも怪しい笑みを浮かべているので怖いです……。
「あの、先ほどの通りあの機体では私の力に耐えられないんですけど……」
「なら耐えられるように再設計すればいいだけだ」
「でも、現時点で90%は出来上がってるんですよね? 今から設計をやり直すのってかなり大変じゃないですか?」
機体のバランスにも影響するでしょうから、そう簡単に修正できるとは思えません。
「そんなことないわよ。まだまだ時間はあるしね。むしろ更に良い機体が出来そうでとてもワクワクしているもの!」
「ふっふっふ……この天才に任せろ。私は天才だ~!」
二人の科学者がエキサイトしています。先程のデモンストレーションが彼女達のマッドサイエンティスト魂に火をつけてしまったのでした。サークルの皆さんも張り切っている様子です。
「あれで30%程度の力なら、動力部の機構自体を再検討しなければいけないな」
「それに素材もね。現状よりも強度があって重量がそう変わらない金属って何かあったかな?」
「それならアレが使えるんじゃないか。そして機構はSDV機構にして……」
何だか凄く盛り上がっていますが、頭の良くない私では付いていけませんでした。でも私がパイロット役というのは確定してしまったようです。
その後はシンデレラプロジェクトの出現によるコメット解散危機があり、『新・三本の矢』路線で頑張りましたが、合間を見て翼人間コンテストの機体製作にも協力をしました。
テストの度に動力部を壊してしまい申し訳なかったのですが、それが却って晶葉ちゃん達のやる気を出させたみたいです。さしずめプ〇ジェクトXの様な感じでした。
計五回程のテストを経て、私が遠慮なく漕いでも壊れない軽飛行機が何とか出来上がりました。本番二日前でしたので何とかセーフと言った感じです。
デスマーチを終えてボロボロになりながらも充実した表情をしている彼女達は、とても輝いて見えました。
そして大会当日がやってきました。
晶葉ちゃんやサークルの皆さんと一緒に、翼人間コンテストの会場である日本海側の某県にマイクロバスで向かいます。
天気はあいにく曇りです。一雨来そうなので、私達の時に降らないよう祈るしかありません。
「そういえばあの機体の名前って決まっているんですか?」
ふと疑問に思ったので、隣に座っている晶葉ちゃんに訊いてみました。
「言っていなかったか。ならば発表しよう。あの機体の名前は『Wings for Friends』──日本語だと仲間のための翼という意味だ」
「仲間、ですか……」
「ああ、そうだ。あの機体は私達の誰が欠けても作ることは出来なかったからな。正に友情の証だと言えるだろう」
友情なんて青臭い概念、アイドルになる前は心底馬鹿にしていました。
友情があってもお腹は膨れませんし。
今の家族さえいれば友達や友情なんて一切不要と考えていましたが、コメットの皆をはじめ他のアイドル達と接するうちに、悪いものではないと思うようになりました。
これは退化なのか成長なのか、どちらなんでしょうか……。
そして会場に着きました。
晶葉ちゃん達は早速機体の整備に入ります。その間は暇なので、先に始まっていた滑空機部門を見学しました。
様々なデザインの軽飛行機が矢継ぎ早に海へ突っ込んでいきます。
上手く飛び立たず無残に海へ墜落する瞬間が、翼人間コンテストの中で最も好きなんですよね。フフフ……。
但し今回は出場する立場ですので、そんな無様な姿をお見せする訳にはいきません。
晶葉ちゃんやサークルの皆さんの努力に報いるよう、仲間のために頑張りましょう。
暫くして、プロペラ機部門が始まりました。
私達の出番は直ぐなので機体の中でスタンバイします。少し雨が降ってきましたので、早く発進したいです。
「朱鷺なら、この機体の真の性能を引き出せると信じてるぞ!」
晶葉ちゃんから激励されました。皆さんの為に何としても大会最高記録を叩き出してやります!
スタートの合図と同時に、サークルの皆さんが機体を助走させます。
スタートは一番重要なのでとても緊張しますが、ここまで来たらやるしかありません。飛び出すと同時にペダルを漕ぎ出しました!
幸いなことにスタートは順調でした。動力部の耐久性も全く問題ありません。これなら良い記録が出せそうです。
新設計の機体だけあり、スピードも普通の軽飛行機の域を遥かに超えています。私の脚力と機体が上手く噛み合っていました。正に人馬一体です。
しかしここで大きなトラブルが起きました。天候が急変し、猛烈な豪雨と突風が機体を襲ったのです! 雨粒が凄い勢いで機体を叩きつけ視界が塞がれました。雨音で無線も聞こえません。
ですが仲間の為にも、この程度のことで負ける訳にはいきません。ゲリラ豪雨に負けて落ちないよう、必死になって漕ぎ続けます!
暫くすると雨が収まりました。さて、もう一頑張りしましょうかと思った瞬間、圧倒的な違和感に気付いたのです……。
──陸地が無い。
これには焦りました。四方を全て海で囲まれています。
無線機で助けを求めようとしましたが繋がりません。恐らく故障したのか範囲外に出てしまったのでしょう。スマホは会場に置いてきたので電話も出来ませんでした。
正直どうしていいか分かりませんでしたが、このまま海に落ちても漂流するだけです。
とりあえず漕ぎ続けながら陸地を捜すことにしました。まぁ、適当に漕いでいれば会場の近くに辿り着くはずです。
不慮の事故なので早く戻れば復帰できるかもしれません。そう思って進み続けました。
──その後10時間以上経過しましたが、全く陸地が見えないので流石に怖くなってきました。
一応1週間寝なくとも耐えられますし体力もまだまだ大丈夫ですが、風○おじさんみたいに永遠に行方不明にはなりたくないです。
必死に漕ぎ続けるとようやく陸地が見えましたので、そちらに向けて進んで行きます。
陸地の上空に到着しましたが、町らしいものは見当たりませんでした。人がいない所に降りても意味は無いので、今度は町を捜して進んで行きます。
暫くして大きな市街地に辿り着きました。助けを求めるため適当な所で降りようとしたところ、機体からミシッという嫌な音がします。
そもそもこの機体は翼人間コンテスト用に製作されたものなので、十数時間のフライトは想定していないのを完全に忘れていました……。
音が段々と大きくなり、プロペラが脱落します。バランスを失った機体が急速落下しました!
急いでベルトを外し、前方のアクリル板を破壊して外に飛び出します!
そしてそのまま大きなお屋敷に不時着します。『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』がなければ即死でした。
まさか空中分解するとは思っても見ませんでしたが、とりあえず人のいそうなところに
でも『Wings for Friends』がバラバラです。ああ……晶葉ちゃんやサークルの皆さんとの友情の証が……。彼女達には本当に悪いことをしてしまいました。戻ったら謝らないと。
しかしここは一体どこでしょうか。物凄く大きくて豪華な邸宅のようですが、着地の際に天井を突き破ってしまったので家主さんには申し訳ないことをしました。番組の方で弁償してもらえないかなぁ。
何だか嫌な予感がしたので、髪を出さないようにヘルメットを被りハンカチで顔を覆います。
最近はやたらと勘が冴えるんですよね。なぜでしょうか。
そうするうちに、正面の部屋から中年の男性が出てきました。こちらを
なんだかとても偉そうな感じの方です。漫画のキャラに例えると、ドラゴンボールZに出てきた人造人間19号(小太りさんの方です)にとても似ていました。そういえばテレビの国際ニュースでよく見かける方に瓜二つです。
あれれ~? これはひょっとしてひょっとすると『あのお方』でしょうか。
そうなるとここは日本ではなく、
「○!※□◇#△!」
いやいや、外国語で言われても私わかりませんよ! 何か返事しなければいけないと思って必死に返事を考えます。
私の頭部に搭載されている最新OS──『Windows toki』が最適な回答を導き出しました!
「 ギ、ギブミーチョコレート……」
敗戦直後の日本の子供みたいなセリフがつい口から漏れました。なぜこの言葉だったのかは本当に謎です。どうしたんだ私のOS。大丈夫か。
目の前の男性は怒って何か
そのうち凄い音量で警報が鳴り響き、ライフル銃を手にした屈強な兵隊さんがどんどん集まってきます。こ、これは早々に退散した方がよさそうですね。
「え、え~と、
日本人だとバレると外交面で非常によろしくなさそうなので、あえて中国語で別れの言葉を告げて
その後は壮絶な追いかけっこでした。私も実銃で撃たれたのは生まれて初めての経験なので流石にビビリましたよ。『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』がなければ、『リアル逃亡中なう』の開始1分で即お陀仏だったでしょう。
久しぶりに神様に感謝しました。いや、この力がなければこんな目に合ってないんですけどね。
しかし、こんなにか弱い女子中学生を全力で抹殺しようとは、何とも心の狭いお方です。
こちらも撤退戦の最中、戦車や装甲車両、戦闘ヘリ等を数十機は破壊したので本当に申し訳ないと思いますけど、正当防衛ですから仕方ありません。超頑張って死傷者は出さなかったのですから、トップらしく寛大な心で許して貰いたいです。
でも、あの程度の軍備であれば普通に潰せることが分かったので良かったです。いや、分かってしまって悪かったのでしょうか。
海辺にたどり着いた後は、適当に拝借した手漕ぎボートで日本に向け漕ぎ出しました。
生命の危機を避ける為ですから仕方ありません。緊急避難の適用案件ですよ、きっと。
15の夜ならぬ14の夜を全力で突き進みましたが到着まで半日くらいかかってしまいました。流石に海は広くて大きいですねぇ。
その後無事日本に辿り着きましたが、お金を持っていないのでヒッチハイク(物理)で346プロダクションに戻りました。
ボロボロになりながらも会社に戻り、親指を立てたポーズで「I'm back……!」と言ってごまかそうとしましたが、家族や犬神P、千川さんを始め色々な方々から酷く怒られました。もう少しで失踪者扱いされる所でしたよ。
帰還の翌日、機体の破壊と回収が不可能になったことついて晶葉ちゃんに謝りに行きました。
「この度は、本当にすいませんでした」
「別にいいさ。データ取りは終わっていたし、回収しても使い道がないから解体して粗大ゴミにするしかないしな」
「そうですか……。そう言って貰えて、気が楽になりました」
「それより朱鷺が無事でよかったさ。しかし、本当によく無傷で戻って来れたな……」
「あはは……。流石に大変でした」
とても貴重な経験でした。二度と体験したくはありませんが。
結局大会では私達の機体は失格になったそうですが、その斬新な設計とスピードは参加者と観客の度肝を抜いたようです。記録こそ残りませんでしたが、皆の記憶に深く刻まれました。
日本橋さんは海外の名門工科大学から「特待生として来ないか」と誘いがあったそうで、狂喜乱舞しているとのことです。才能
「天才はいつも孤独というが、朱鷺が傍に居てくれたら私は孤独ではないな。私の頭脳と朱鷺の体力があれば、もっと面白いことができそうだ。これからもよろしく頼むぞ、相棒!」
「翼人間コンテストでなければお引き受けします。危険なのはもうこりごりですから」
「もちろんだ。そしてアイドルとしてもトップになって、私達の才能を証明するぞ! 」
「はい。一緒に頑張りましょう!」
そんなことを言いながら二人で笑い合いました。相棒とは古臭いですが暖かい言葉です。
この後も色々巻き込まれそうですが、それはそれで楽しそうなのでいいかもしれません。
なお、その後は逃亡時の破壊活動を聞きつけた外務的な省と防衛的な省から執拗な取調べがあり大変でした。
私の戦果を聞いた両省の幹部の方々から、高校を卒業したら即入省するよう非常に強く求められましたが、何とか勘弁して頂いたのです。
アイドル引退後に改めて検討して欲しいと仰っていましたので、その時また考えましょう。
ちなみに両省における私の
コメントは差し控えさせて頂きますが、せめて有機物の範ちゅうに収めて頂けないものかと思います。
最後の取調べが終わり、やっと帰宅しました。時計は既に夜の11時を指しています。
そのまま三階の防音室に
とても気持ち悪い……。立っていられないので、思わずその場にしゃがみこみました。
暫くすると体が正常に戻ります。珍しいこともあるものだと思いましたが、その時は大して気にもしませんでした。
──無尽蔵と思われた私の体力に
今までの無茶な活動で蓄積してきた疲労が、翼人間コンテストでの多大な消耗をきっかけとして一気に噴出し、私の体を急速に