ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

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閲覧頂きありがとうございます。
誤解されている方がいらっしゃるので補足しますが、本SSは本業と関係ない余計なチート能力を与えられた主人公が、それに振り回されつつアイドルとして頑張る姿を眺めるコメディ作品です。
その関係上チート無双等のご要望には添いかねますので、申し訳ございませんがご了承願います。


第24話 RE:ST@RT

「ん~!」

 起床と共に思いっきり背伸びをしました。本日も快晴で、気持ちの良い朝です。

 4月上旬の臨時ライブに向けて、ボーカル・ダンス共にレッスンは佳境(かきょう)に入っていました。春休み期間中のため、練習時間が長く取れるのが嬉しいです。

 今日も通し練習に励む予定なので家から346プロダクションに直行しようかと思いましたが、ふとある考えが浮かびましたので、先にあのお店へ向かいました。

 

 

 

 『Flower Shop SHIBUYA』──小奇麗でお洒落なお花屋さんです。

 今となっては懐かしい二次面接試験の際にここでカーネーションを買ったことがあるのですが、品質の良さと良心的な価格が気に入り、それ以来贔屓(ひいき)にしていました。

 今では家や七星医院に飾るお花は全てこちらで購入し、配達頂いています。

 

 開けっ放しの扉をくぐると、黒髪ロングな女の子の店員さんが(たたず)んでいました。

「こんにちは、凛さん」

「いらっしゃいませ。ああ、朱鷺か。今日は何?」

 その店員──渋谷凛(しぶやりん)さんに挨拶をします。お花の手配の際に何度もお話しているので、すっかり顔なじみのお友達になりました。ややぶっきらぼうですが、そんなクールな感じが魅力的に感じられるとても綺麗な女の子です。このお店の一人娘さんだそうです。

 

「贈りもの? それとも自分用?」

「プロジェクトルームに飾るお花なので自分用ですね。何かおすすめはありますか」

「なら、ガーベラとかいいんじゃないかな。花言葉は『希望』と『常に前進』。何か、そんな感じかなと思って」

 案内されてそのお花を見ると、鮮やかな色で見た目も凄く可愛いです。花言葉も今のコメットにピッタリでした。

 ガーベラテトラは好きなモビルスーツの一つですから、その名の元となった花という点も高評価ポイントです。気に入りましたのでこれにしましょう。

 

「では、こちらのアレンジメントでお願いします。予算は5千円ですけど、大丈夫ですよね?」

「ありがとうございます。予算内で収めるから、心配しないで」

 凛さんが手際よくお花を仕立てていきます。その凛とした姿(激うまギャグ)をしばらく眺めていました。

 

「でも、最近は元気になったみたいで良かった。一時は死にそうな感じだったから」

「あはは……。ご心配をお掛けしてしまい、すいませんでした」

 猛省の一言に尽きます。

「解散の話は無くなったの?」

「はい、無事存続することができました。私の力によるものではないですけど」

「そう。なら、良かった」

 とっても素敵な笑顔を浮かべました。アイドル仲間や級友ではないので、かえって色々なことを相談できる貴重なお友達です。

 

「凛さんもアイドルになってみませんか? 意外と楽しいですよ」

「……悪いけど、アイドルなんて訳分からないもの、興味ない」

 いつものすまし顔に戻ってしまいました。ほんの冗談でしたが、ここまで完璧に振られるとちょっと悲しいです。

「まぁ、気持ちはよく分かります。私も最初はそうでしたもん」

 自嘲(じちょう)気味に笑いました。私だって自分がアイドルとか全く想像もつきませんでしたしね。

 

「もし気が変わったら芸能プロダクションにご紹介しますよ」

「そんなこと、絶対にないから」

 プイと横を向いてしまいました。私の見立てではトップを狙える逸材だと思うんですけどねぇ。

 関羽クラスの超優秀な武将を在野(ざいや)に放置するようでもったいないですが、本人にやる気がなければどうしようもありません。諦めましょう。

 

「そういえば、朱鷺は何でアイドルになったの?」

「元々なる気はなかったですよ。お母さんに騙されて半ば強制的になったんです。そのお蔭でアイドルのお友達が沢山出来たので、今では感謝してますけどね」

「……そう。なら、アイドルとしての目標とかある?」

 先日楓さんから頂いたのと同じ質問でした。

 

「それが、まだ見つかっていないんですよ。周りの子達は結構しっかりした目標があるんですが、私はまだ捜索中です」

 目標はモチベーションコントロールに役立ちますし、どこに向かえばいいかの羅針盤にもなりますから、ある方が望ましいんですけど。

「焦ることは無いと思う。朱鷺のペースで見つければいいだけだから。……はい、出来た」

「わぁ、可愛いです」

 

 そのまま会計を済ませ、綺麗に包装されたガーベラのアレンジメントを手にします。

「選んで頂きありがとうございました。それでは、また今度」

「うん、また」

 凛さんに見送られながら、346プロダクションに向かいました。

 

 

 

 レッスンを一通り終えると、コメット全員と犬神Pの計五名で346プロダクションを後にしました。この日の夜は久しぶりの『コメット首脳会議』です。

 ただし、会場はいつもの居酒屋ではありません。超高層ビルの最上階にある某高級レストランです。犬神Pが受付で手続きをしていますので時間を潰していました。

 

「凄いですね。本当に、綺麗」

 美しい夜景を見たほたるちゃんが思わず呟きます。個人的にはほたるちゃんの方が綺麗だと思いますけど。

「月は幾つある……? たとえ一つでも、視る人の数だけ……」

 アスカちゃんは自分の世界に肩まで浸っていました。彼女のイマジネーションには脱帽です。

「うぅぅ。ここは、広すぎます。もっと狭いところは無いですか……」

 一方、乃々ちゃんは隠れる場所を探し求めて挙動不審になっていました。

「ふふっ」

 こういう何気ない光景が今は無性に愛おしく思えます。思わず笑ってしまいました。

 

「皆、受付終わったよ! 席はこっちだから」

「はい。では行きましょうか、皆さん」

 三人に声掛けして席に向かいます。六人がけの洒落たテーブル席に一旦着席しました。

「では、『コメット全体会議』を始めようか」

「そんなことより、まずはブツの確保です。早く行きましょう!」

「え? ああ、そうだね」

「犬神Pはここで荷物を見ていて下さい。はい、おすわり!」

「……ワカリマシタ」

 

 今回はスイーツビュッフェを楽しみながら会議をすることにしました。

 あの大暴走により多大なご迷惑をお掛けしたお()びとして私が企画したもので、参加費用は全て私の負担です。闇ストリートファイトの賞金がたんまりあるので、これくらい余裕です。

 この程度ではお詫びし切れませんが、今できる誠意として考えました。皆うら若き乙女ですから、スイーツ食べ放題となれば喜ばないはずはありません。以前から皆でここに来たいという話をしていましたし。

 二時間制で時間に余裕もあるので、美味しいスイーツを食べながら皆で報告・連絡・相談をしましょう。

 

 従来の『コメット首脳会議』では私と犬神Pのサシでしたが、情報の隠蔽(いんぺい)をやらかしましたので今後はコメット全体で打ち合わせを行うことにしました。

 アスカちゃん達としても犬神Pと接する機会が増えて相談等がし易くなるので、これはこれで良いのではないでしょうか。

 

「朱鷺さん、どうかしましたか」

「いや、目移りをしてしまいまして」

 時間に余裕はありますが、人気の品はすぐになくなってしまうそうですから早めにキープしておきたいです。ショーケースにずらりと並んだケーキを見ているだけでもテンションが上がってしまいますね。

 とりあえず、苺のショートケーキ、レアチーズケーキ、フルーツタルト、ガトーショコラ、マフィン、マカロン等を豪勢にお皿に盛ります。

 この体はいくら食べても一切太りませんから、正に食べ放題ですよ。ふっふっふ。

 

 席に戻ると皆先に座っていました。遅れて取りに行った犬神Pを待ちながら雑談します。

「こういう賑やかな場所に憧れはありましたけど、一人で行くのは勇気が必要で……。でも、今はみなさんがいるから、大丈夫です」

「もりくぼもです……。こんな広い所、一人だとむーりぃー……」

「馴れ合いは、カッコ悪いことなんかじゃない、さ」

「そうですよ。一人ではできないことでも、皆で協力すればできるんです」

「フッ。一人であらぬ方向へ突っ走った子がそんなことをいうとはね」

「……的確に人の急所を突くのは止めましょう。アスカちゃん」

 死体蹴りはできるだけ控えて頂けると嬉しいです。

 

「皆、待たせたな。じゃあ、『コメット全体会議』を始めようか」

 美味しいスイーツに舌(づつみ)を打ちながら、定例会議を始めました。

 話の中心は今後のグループ活動についてです。4月上旬の臨時ライブは既に確定していましたが、それ以外にもライブの予定が次々と入り始めたそうです。シンデレラプロジェクトと同等の扱いをすると言う言葉は嘘ではなかったようですね。

 

 ライブ以外にも、トークショーやファッションブランドとのコラボ、雑誌連動企画等、グループとしての仕事が続々と来ていました。

 『七星朱鷺がいるグループ』ということで注目度がかなり上がっており、多数のオファーが寄せられているとの話です。少しばかり遅かったですがあの大暴走も決して無駄ではなかったのです。そう思わないとやっていられません。

 

「そして後一つ、重大な発表がある!」

 犬っコロがドヤ顔でもったいぶりました。ちょっとウザいです。

「喜んでくれ、君達のセカンドシングルの曲が今日届いた!」

 おお、ついに曲が届いたんですか! 既にダンスのステップは出来上がっていたので先行して練習していましたが、曲がないといまいち感じが掴めなかったんですよね。

 オリジナルの持ち歌は『Comet!!』しかありませんから、曲が増えるのは実に喜ばしいです。

 ライブでも、アイドル共用の全体曲ばかりでは盛り上がりに欠けてしまいますし。

 

「どんな感じの曲なんですか?」

 皆を代弁して訊いてみます。

「説明するより聴いてもらった方が早いかな。メロディだけで歌は入ってないけど、イメージは掴めると思うよ」

 犬神Pが自身のスマホにイヤホンを挿して私に渡しました。

「ボクもいいかな?」

「はい、どうぞ」

 私とアスカちゃんが片方づつイヤホンを手にして耳に装着します。それを確認した犬神Pがスマホの画面を操作しました。すると曲が流れ始めます。

 

「~~♪ ~~~♪」

 王道を往くポップスの『Comet!!』とは違い、ロック調でカッコいい曲です。音的にはポップパンクとハードコアの中間で軽すぎず重すぎずといった感じなので、メロコアでしょうか。

 好きなジャンルでもあるのでとても気に入りました。それでいてアイドルソングとしても違和感無く仕上がっています。

 

「……いいね。このほとばしる曲は、とてもいい」

 隣の少女はご満悦です。好きそうですもんねぇ、こういう曲。

「おや、アスカちゃんも気に入りましたか」

「キミもまた、ボクと同じさ。カッコイイモノが好きだろう?」

「はは、そうですね」

 

「あの、私も聴かせて頂いて、いいでしょうか?」

「できれば聴きたいですけど……」

「じゃあ、交代しましょうか」と言ってイヤホンをほたるちゃん達に渡しました。

二人とも目をつむり集中して曲を聴いています。暫くすると目を開けてイヤホンを外しました。

 

「確かに、格好良い曲ですね。でも、私に歌えるでしょうか……」

「もりくぼも、自信ないです……。イヤってわけじゃないですけど……。うまくできるかはわからないですし……」

 曲自体は気に入ったように見えましたが、ちゃんと歌えるか不安そうです。

 

「大丈夫ですよ。上手く歌えるようになるまで練習すれば良いんですから、皆でまた一緒に頑張りましょう。それに今から曲つきで練習すれば、今度の臨時ライブにも間に合うはずです」

「そ、そうですよね。この四人なら、できそうな気がします」

「うぅぅ。また地獄のレッスンですか……。でも皆がいるのなら、何とか……」

 二人共、昔より前向きになってくれていて良かったです。

 

「気に入ってくれて良かったよ。詞の方は明後日には届く予定だから、もう少しだけ待っていて欲しい」

「それは待ち遠しいですね。そういえば、この新曲の曲名は決まっているんですか?」

「ああ。曲名は『RE:ST@RT』。コメットの再出発に相応しい曲になるよう、勢いのあるロックテイストにしてもらったんだ」

 犬神Pの癖に色々と考えているようです。彼も彼で成長していると言うことでしょうか。私も負けていられません。

 

「明日の『マジックアワー』では、絶対に新曲のアピールタイムを勝ち取りましょう」

「ああ、そういえば明日は収録だったね。アピール以前にMC(司会)の方は大丈夫なのかい?」

「ええ、バッチリです。過去放送分は一通り聴きましたから、大体の事態には対処できますよ」

 胸を張って自信満々に答えます。

 

 実は私、346プロダクションの提供で放送しているマジックアワーというラジオ番組の月替わりMCを担当させて頂くことになったのです。

 先日の『日本温泉紀行』のロケから帰る途中、犬神Pから秘湯巡りの謝罪連絡と共に、MCのお仕事をやってみないかという提案がありました。秘湯巡りが体力仕事だったことは彼にも知らされていなかったとのことで、MCの仕事は彼なりの誠意として私の為に勝ち取ったそうです。

 私も鬼ではありませんし、ラジオの仕事は前々からやってみたかったので、MCのお仕事を振ることを条件に秘湯巡りの件は不問にしました。運の良い人ですこと。

 

 マジックアワーでは毎週346プロダクション所属のアイドルを呼んで楽しいトークをお送りするのですが、今週はコメットの三人がそのゲストになります。初回で緊張しないようにという犬神Pの配慮でした。

 ラジオの話を出したとたん、乃々ちゃんがビクッとします。

「私のことはお構いなく、空気扱いして下さい……。端っこで息を潜めてますから……」

「いや、ラジオですから喋らないと……」

 これにはほたるちゃんも苦笑いです。

「そうですよ。『マジックミニッツ』のコーナーで成功しないと宣伝や告知が出来ないんですから。せっかくの新曲ですし、曲名だけでもラジオでアピールしましょう」

「トークとか、やっぱりむーりぃー……」

 

 既に涙目です。まぁ積極的な乃々ちゃんはそれはそれで違和感があるので、これくらいがいいのかもしれません。

「ノノのことはボクやホタルに任せてくれればいい。トキは自分の役を最後まで演じることさ」

「普段と同じ感じで話していればファンは楽しんでくれるから、自然体でやれば上手くいくよ」

「はい。明日はよろしくお願いします」

 皆に頭を下げました。

 

「……それにしても、七星さんはちょっと食べすぎじゃないか?」

「せっかくの高級スイーツビュッフェですから、食べないともったいないじゃないですか!」

 普通に買ったら一個いくらすると思っているんですか。既に二皿目も空になっていますが、限界まで食べないともったい無くて帰れるに帰れません。いくらお金があっても、前世から引き継いだ貧乏性は治りませんでした。

「そういうところが、本当に残念なんだよなぁ……」

 四人から寄せられる哀れみの視線が突き刺さります。でも、私は負けない!

 

「うう……」

「大丈夫ですか? 朱鷺さん」

「……誰か、キ○ベジン持ってませんか?」

 結局限界まで食べた結果、帰り道に路上でリバースしかけました。高級スイーツビュッフェには勝てなかったよ……。

 危うくゲロインならぬゲロドルになるところでした。危ない危ない。

 

 

 

「七星朱鷺です。よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。初めてだから緊張すると思うけど、普段と同じように話せばいいからね」

 収録スタジオの録音ブース内から、ラジオ番組制作会社のスタッフさんに改めて挨拶をします。

 気を使われてしまったので何だか恐縮します。自分ではリラックスしているつもりなのですが、やはり力が入ってしまっているようです。

 生放送ではなく録音放送なのが唯一の救いですね。生放送で事故ったら洒落になりませんよ。

 

「皆さんも、よろしくお願いします」

 既に録音ブース内で待機している三人にも声を掛けました。

「ああ、任せてくれ」

「こちらこそ、お願いします!」

「……もりくぼ、帰っていいですか?」

「ダメです」

「うぅ……」

 笑顔で即答すると乃々ちゃんがしょぼくれました。皆いつも通りです。

 

そして収録が始まりました。ゲストの出演までは私一人でトークをしてきます。

まずはテンプレどおりの挨拶からです。

「皆様こんばんは。真夜中のお茶会へいらっしゃいませ。このラジオは346プロダクションから毎週ゲストをお呼びして楽しいお(しゃべ)りを楽しむ番組です。 

 皆様をおもてなしするパーソナリティですが、先月の和久井留美(わくいるみ)さんから変わりまして、今月はコメットの七星朱鷺が務めさせて頂きます。

 今日と明日の間のマジックアワー。短いひと時ですが、皆さんと楽しい時間が過ごせると嬉しいです。よろしくお願いします」

 

 よし、ここまではパーペキです。

「それではコーナーに移る前に、私の自己紹介を軽くさせて頂きますね。今年初めにデビューした346プロダクション期待のユニット──『コメット』のリーダーを務めさせて頂いております。

 まだまだライブ経験は少ないですが、これから頑張っていきますのでグループも含め応援して頂けると嬉しいです」

 

 ダイレクトマーケティングは程ほどにして、番組コーナーに移りました。

「それでは、『マジックアワーメール』──略して『マジメ』のコーナーです。早速お便りが届いているみたいなので、読ませて頂きます。ラジオネーム『牙を取り戻した虎』さんからですね」

 虎というワードがちょっと引っかかりましたが、そのまま読んでいきます。

 

「『七星さん、マジアワっス』 はーい、マジアワでーす。

 えーと、『一子相伝の暗殺拳──北斗神拳の伝承者であり、闘神の化身(インドラ・リバース)と呼ばれている姐さんに質問です。アイドル界、いや人類史上最強にして最凶である姐さんの好きなタイプの男性と嫌いなタイプの男性を教えて下さい』ですか……」

 

 殺意の波動に一気に目覚めましたが、今は収録中ですので答えを返さなければいけません。

 ですが私は男性を異性として意識したことが全くないので、好き嫌いは別に無いんですよ。正直回答に困りましたが、無い知恵を振り絞って答えを導き出しました。

「は、はい、好きなタイプの男性ですけど……。私より強い人、かな?」

「…………」

 スタッフさんが明らかに引いています。養豚場のブタを見るかのような冷たい目でした。

 乃々ちゃん達も『ああ、コイツ一生独身なんだ』という憐れみの目で見てきます。泣きたい。

 

「後は嫌いなタイプの男性ですか。これといったタイプはありませんが、モヒカンは絶対にNGです。マッチョでモヒカンだと、そこはかとなく最悪ですのでそういうファッションでライブ等には来ないで頂けると嬉しいです。これはフリじゃないですからね! お願いしますよ!」

 決してモヒカンの男性を(おとし)める意図は無いんですが、そんな取り巻きなんてできた日には世紀末まっしぐらですから謹んで頂くよう念押ししました。

「以上、マジメのコーナーでした! 皆さんのお便り、お待ちしておりまーす!」

 巻き気味でコーナーを締めました。残り三回のマジメが本当に怖いです。

 

「それでは、そろそろお茶会にゲストを呼んでみたいと思います。皆さん、どうぞ!」

 やっと三人の出番です。

「皆、マジアワ。ボクは二宮飛鳥。この地に来るのは二度目になるのかな。まぁ、スキに呼んでくれればいいよ」

「は、初めまして、白菊ほたるです。ラジオをお聴きの皆様、マジアワです。聴いて頂いているファンの方を幸せにしたいと思います。よろしくお願いします!」

 

 最後は乃々ちゃんの自己紹介ですが、完全に固まっていました。アスカちゃんがそのほっぺたをつまみ正気に戻します。

「も、森久保乃々ですけど。ファンのみなさーん……らぶりーののだよー……。マジアワだよ……。うぷっ! もう許して下さい……」

 何とか自己紹介が終わりました。

 

「はい、今日のゲストは私と同じコメットのメンバーであるアスカちゃんとほたるちゃん、乃々ちゃんです。この三人を迎えて進めていきますので、よろしくお願いしますね」

 パチパチパチと皆で拍手をします。

「それでは、お茶会恒例飲み物のコーナーです。お茶会と言うことで、ほたるちゃんがアールグレイの高級品を持ってきてくれましたので、それで乾杯しましょう」

 事前にセットしてあったティーカップに紅茶を注ぎます。

 

「では乾杯~!」

 そう言って紅茶に口をつけました。高級品だけありとても美味しいです。緊張も少し和らいだ気がしました。

「私達は普段のレッスンの後、よくお茶会をしているんですよ。体を動かした後の紅茶は美味しいです」

「ああ、そうだね。約1名、紅茶以外を飲んでいる子もいるけど」

 

 思わず吹きかけました。確かにノンアルコールビールを飲んでいたりしますが、この場でそんなことを言わなくてもいいじゃないですか!

「まぁ、あれはあれで……」

「あっちの方が朱鷺ちゃんらしくて良いのかもしれない、です……」

 緊張していたほたるちゃんと乃々ちゃんが少し笑ってくれたので良かったですけど。

「で、では早速次のコーナーです!」と華麗にスルーしました。

 

「続いては『マジックミニッツ』のコーナーです。ゲストの三人には、今から一分間トークをしてもらいます。お題が出ますので、一分間以内に魔法を掛けるよう、お話して下さいね。

 トークが成功したら、その後のお時間は宣伝や告知等、自由に使ってOKです。では早速、箱からお題の紙を引いて下さい」

 ここで成功すればライブや新曲の告知が出来ますので、是非頑張って欲しいです。

 

「は、はい。緊張します……」

 ほたるちゃんが箱に手を入れました。ドラムロールの効果音が流れます。

「じゃかじゃかじゃか~、じゃん! それではお題はなんでしょうか」

「驚いた話、ですね」

「そうか。ノノやホタルは思いつくこと、あるかい?」

 アスカちゃんの問いかけに対し二人が首を振ります。やはりここは場馴れしているアスカちゃんにお願いするしかないでしょう。明後日の方向に暴走しないよう精一杯祈ります。

 

「それでは驚いた話、どうぞ~!」

「じゃあボクが話そうか。コメットは今でこそ四人で活動できているけど、色々な事情あって少し前まではトキだけが前線に出て自らの生命の火を燃やしていたんだ。

 でも彼女は加減というものを知らないからね。その身が終焉を迎えて、希望も絶望もない完全な虚空に堕ちかねない状況だったのさ」

 

 アスカちゃんが明後日の方向へ見事に暴走し始めました。その話は止めて下さいよ!

「ボク達はその連鎖を断ち切ろうとしたけれど、彼女はこの世界にとってのJOKERだからね。中々止めることができなかった。

 そんな時、ホタルがトキに熱い一撃を浴びせたのさ。その衝撃でトキは完全にKOされたんだ。あのトキが誰かに倒されるとは思いもしなかったから、とても驚いたよ。これがボクの『驚いた話』さ」

「いや、あの、あれは、違うんです!」

 ほたるちゃんが非常に動揺しているので逆に冷静になりました。でもまさか、あの時の話を持ち出してくるとは……。

 

「あ、ありがとうございました。さあ、判定はいかに?」

 成功すれば『ピンポン』、失敗であれば『ブー』という効果音が流れますが、どちらも流れません。録音ブースの外にいるスタッフさんがA3サイズくらいの紙をこちらに見せてきました。

 紙には『熱い一撃って何?』と書かれています。確かにその言葉ではわからないでしょう。

 

「熱い一撃とは何かが分かり難いみたいですね。それではほたるちゃん、説明をお願いします」

 私よりもほたるちゃんから説明して貰った方が良い気がしたので、話を振りました。

「ええっ! は、はい。……です。すいません」

 声のボリュームが最小なので音が拾えませんでした。

「ごめんなさい、声が小さかったので、もう一度良いですか?」

「はい! ビンタです!」

 ほたるちゃんが真っ赤な顔で叫びます。

 その瞬間、『ピンポン』の効果音がけたたましく鳴り響きました。

 『ほたるちゃん最強説』が、ここに爆誕したのです。そんなことしなくていいから。

 

「魔法が掛かったかはともかく、一応成功ですね。誤解の無いように補足をしますけど、決してコメットの仲が悪いわけではないんですよ。馬鹿みたいに暴走していた私を、皆が体を張って止めてくれたんです。このことがあって四人の絆がさらに強くなりました」

「もりくぼも、朱鷺ちゃんが元に戻ってよかったと、思います……」

「ということで、『マジックミニッツ』のコーナーでしたー!」

 私の悲劇を繰り返してはなりません。シンデレラプロジェクトの子達が似たような過ちを犯さないよう導いてあげることが、せめてもの罪滅ぼしだと思います。

 

「それでは見事『マジックミニッツ』を成功させた皆さんにゲストトークをお願いします。今回は、何か告知があるんですよね?」

「はい。それでは乃々さん、お願いします」

 事前の打ち合わせ通りに話を振りました。乃々ちゃんは自発的に喋ろうとはしないタイプなので、存在をアピールする為に告知担当になってもらったのです。

 

「は、はい。今回は二つ、告知があるんですけど……。まずはライブから……。

 4月X日にSOLIDROOM渋谷で臨時ライブを行うことになりました……。お蔭様でチケットは即日完売でしたけど、今後もライブを続けていますので、よろしくお願いします……。

 それともりくぼたちの新曲が出ることになりました……。曲名は『RE:ST@RT』で、めろこあ? ちっくなかっこいい曲です。こちらも出来るだけ早くライブで披露できるように頑張りますので、応援お願いします……」

「はい、ありがとうございました。ライブに新曲と、勢いを増すコメットを是非よろしくお願いします!」

 こんな感じで、時間の許す限り宣伝をしました。

 

「さて、お茶会が盛り上がっているところですけれども、魔法の時間は過ぎるのがとても早いもので、もうお別れの時間です」

「人生と同じで、充実した時間は刹那だね」

「はい。もっとお喋りしたかったです」

「もりくぼは、さっきの告知で力を使い果たしました……」

 一人ほぼ逝きかけていましたが続けます。

 

「ということで、真夜中のお茶会、マジックアワー。今夜のお茶会を彩ってくれたのは……」

「皆、マジアワ。二宮飛鳥と……」

「聴いて頂いてマジアワでした。白菊ほたると……」

「もう、森で静かに暮らしたいです。まじあわな森久保乃々と……」

「パーソナリティの七星朱鷺でした。皆さんが魔法のひとときに包まれますように。御機嫌よう」

 このラジオが多くのリスナーさんへ届きますように。そんな思いを込めながら、初回放送を終えました。

 

 なお収録後に聞かされたのですが、次回放送のゲストは姫川友紀さんとミスティックサイバー系アイドルの高峯(たかみね)のあさん、そして天才ケミカル系アイドルの一ノ瀬志希(いちのせしき)さんの三人とのことです。

 

 ハードルが一気に30メートルくらい上がったように思うんですが、気のせいでしょうか?

 

 

 

 


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