ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

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第29話 すばらしき新世代

「ぬっふっふ……」

 右を見ても左を見ても下着姿のアイドルです。美少女美少女アンド美少女の桃源郷が広がっていました。ここは天国かな?

 

「どうしたんですか、朱鷺さん? 何か挙動不審ですけど」

「なんでもないですよ。幸子ちゃんがあまりにカワイイので、つい呆けてしまっただけです」

「カワイイボクに見とれてしまったのなら仕方ないですね! 同じアイドルをも魅了するボクのカワイさが自分でも時々怖くなりますよ!」

 おだてると超ご機嫌になりました。この子、ちょっとチョロ過ぎやしませんかね。

 

 本日は一時間目の授業はなく、代わりにクラス全員で身体測定をする予定になっていました。

 そのため皆は体操着に着替えています。中の人がオジサンな身としては、視線が彼女達に釘付けになってしまいますねぇ。クフフフ……。

 とはいっても精神は肉体に引っ張られていますので、直接イイことをしたいという欲求はありません。こうやって眺めるだけで十分なのですよ。

 愛するがゆえに見守る愛もあるのです。やり過ぎるとストーカーですけど。

 

 

 

 その後は皆と一緒に保健室へ向かいました。そして一人づつ検査を受けます。

 通常の身体測定では身長・体重・視力及び聴力検査程度ですが、タレンテッドコースの子はここで測定した結果が346プロダクションのホームページに反映されるので、スリーサイズも一緒に測定します。

 サバ読みは一切許されませんので、レッスンをおろそかにしてだらけていた者には容赦なく裁きの鉄槌(てっつい)が下されるのです。過去何人ものアイドルがSAN値直葬(発狂)されたとか。おお、怖い怖い。

 

「うぅ~」

「大丈夫ですか、七海ちゃん?」

「大丈夫、じゃないかもしれないれす~。おさかな不足れす……」

 待機中、うな垂れている子に声を掛けました。私と同じタレンテッドコースの同級生である浅利七海(あさりななみ)さんです。

 『世界初のお魚系アイドルになって皆の心をしっとりさせます!』という謎の目標を掲げている魚好きのアイドルです。語尾を伸ばし気味で、さらに『です』を『れす』と発音する独特の喋り方が可愛い子です。

 魚を愛でるだけでなく食べるのも好きで、この間は一緒に回転寿司に行きました。

 

「やはり今日の為にダイエットを?」

「そうなのれす~。朱鷺ちゃんはしていないんれすか?」

「ええ。私はダンスやってますから、特には」

 皆この日のために食事を制限したり運動をしたりして、少しでも数字を良くするよう血の(にじ)むような努力をしていました。

 一方、私は『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』のおかげか、どれだけドカ食いしても体重は一切変化しませんので超余裕です。皆が必死こいて足掻(あが)く姿を高みの見物で眺めておりましたよ。おほほほほ。

 

「あと少しの辛抱ですよ。放課後になったら、またお寿司でも食べに行きましょう」

「ああ~いいれすね~。それまで、頑張ります~」

 とりあえず笑顔が戻ったので良かったです。

 皆食べ盛りですからそんなに無理してダイエットしなくてもいいと思うんですが、女心は複雑なようです。お姉ちゃん(自称)としては、『わんぱくでも良い、たくましく育って欲しい』と思うばかりです。

 

「じゃあ次、七星さんの番よ~」

「はい、お願いしまーす」

 先生に呼ばれたので保健室の中に入ります。346プロダクションに所属する際に一度測定しており、そこからまだ半年くらいしか経っていませんから変わっている訳ないですが、形だけ受けておきましょう。

 

「嘘だッ!!」

 

 朦朧(もうろう)とした意識で廊下に出た瞬間、思わず絶叫しました。その声が廊下中に響きます。

 え、ちょっ、これマジ? 

 

「朱に染まりし(アイビス)よ、如何なる惨劇が現世(うつしよ)に起きたのか!」

 心配そうな表情の蘭子ちゃん達が駆け寄って来ます。

「せ……、せ……!」

「せ?」

 皆固唾(かたず)を呑んでこちらを見守ります。

 

「背が伸びました……」

 衝撃的事実を口にすると、皆一斉にずっこけました。昭和のコントみたいです。

 

 

 

「ビームちゃんは人騒がせだね~。あたしなんてまだ140cm台なんだから、贅沢言い過ぎだよ」

「いやいや、私にとっては一大事ですから!」

 教室に戻ると紗南ちゃんから小言を頂きました。

 半年前まで169cmで何とか160cm台をキープしていましたが、今回測定した結果171cmに成長していました。約半年で2cmですよ! そりゃあ動揺もしますって!

 

 確かにアイドルになってからは、暴走中を除き『よく寝て、よく食べて、よく運動して』と非常に健康的な生活を送っていましたので、体の方もスクスクと成長してしまったようです。

 体重は据え置きですがスリーサイズにも変化があり、バストは88で2cmアップ、ウエストは54で1cmダウン、ヒップは87で1cmアップという結果になっていました。バストの方も恐れていたEカップ突入です。

 

 女体は十分堪能しましたから、そろそろ勘弁してください。男に戻せとは言いませんので、せめて現状を維持したいです。

 それにクラス中の視線が集まって心が痛いです。特に胸部に突き刺さっていますが、悲しいことに大きくても使い道がないんですよ。

 

「シャオッ!」

「……ッ!」

 背後から邪気を感じたので跳び退きます。すると細い腕が先ほど私がいた空間を()ぎました。

「私に刃を向けるとは、いい度胸ですね。愛海ちゃん」

「88、88、88、88……。ハァ、ハァ……!」

 眼前の淫獣は完全に正気を失っています。普段はお触りNGのお願いを守ってもらっていますが、先ほどバストの数字を言ったとたんビーストモードになってしまいました。

 しかたありませんので、少し眠って頂くことにします。

 

「愛海ちゃんじゃないけど、Eカップってどんな感じかは興味あるよね」

 気を失い木偶(でく)と化した愛海ちゃんを席に座らせていると、紗南ちゃんが不意に呟きました。

「ヒーローには必要ないからなくてもいいけど、どんな感じなのかは知りたいな!」

「ボクは存在するだけでカワイイから不要ですが、同年代の子の場合はどうなのか確かめたい気はしますねぇ」

 なぜか賛同の声が多く上がりました。あれ、何だか嫌な予感……。

 

「皆も興味ありそうだから、ちょっと触らせてよ。ビームちゃん!」

「えぇ……」

 そんな良いものじゃないですよ。重いだけですし。

「ほら、乃々ちゃんも!」

「は、はい。もりくぼも、興味ないわけではない、ですけど……」

「まぁ、減るものじゃないですから、ちょっとだけならいいですよ」

 乃々ちゃんのお願いなら仕方ありません。愛海ちゃんは揉み方がエロいのでNGですけど、他の子達なら大丈夫でしょう。

 

「じゃ、早速! ……おお! 柔っかい!」

「本当れすか~! じゃあ七海も~」

「ほう、中々興味深い研究対象だな」

「おおきい……。もりくぼ、更に自信が無くなりました……」

 クラス中の子達が私の胸部のお山に殺到します。

「ちょっと、そんな強く揉んだら色々な意味でまずいですよ! そして群がらないで下さい!」

 

 その後、我が山脈は愛海ちゃん以外の子達の手で無残に蹂躙(じゅうりん)されました。

 うう、もうお嫁に行けません。行く気はさらさらないですが。

 

 

 

「もしもし。七星です」

「私だけど。時間いいかな?」

「はい、大丈夫ですよ、凛さん」

 その日の夜、凛さんからまた電話を頂きました。

「実は……」

 

 一通り話を伺いました。今度美嘉さんや茜さんが出演する大型ライブ──『Happy Princess Live!』がありますが、凛さんと島村さん、本田さんがそのライブで美嘉さんのバックダンサーを務めることになったそうです。

 バックダンサーとはいっても大型ライブですので、アイドルとしてそれなりの経験のある子が選ばれるのが通例ですが、美嘉さんの希望により大抜擢されたとのことでした。

 所属して早々、こんな大きなチャンスを得られるなんて運に恵まれているようです。悔しくなんてありませんよ、全然。

 

「やったじゃないですか! おめでとうございます」

「うん、ありがとう。でも今までレッスンなんて受けたことがなかったから、バックダンサーっていってもピンと来なくて。朱鷺は前にやったことあるって言っていたからさ、気を付けることあるかなって」

「そうですねぇ。バックダンサーはあくまでも主役の引き立て役なんですよ。存在感が薄れることは致命的ですが、主役より注目を集めることのないよう注意が必要です。ただ、新人が美嘉さんより輝くことは難しいですから、そちらは気にしないでいいでしょう」

 トップクラスのアイドルの輝きは、素人とは比較にならないですから。

 

「へぇ、そうなんだ」

「あとは一体感です。バックダンサー同士で動きがばらつくと見栄えが良くないですから、島村さんや本田さんとよく打ち合わせをして、三人で上手く連携出来れば大丈夫だと思います」

 どれも当たり前のことですが、他事務所にはその当たり前のことをきちんとできない方もいましたから、確認の意味も込めてアドバイスしました。

 

「後は練習あるのみです。本番では普段の実力の七割も出せれば良い方なので、難しいことは考えずに動きを体に覚えこませることに集中して下さい」

「確かに、今は練習するしかないか。……その、色々とありがとう」

「いえいえ。コメットも後学の為にそのライブを見学する予定ですので、凛さんの活躍を楽しみにしていますよ」

「えっ、来るの? なんか、恥ずかしいな」

 

 赤い顔をした凛さんが容易に想像できますね。絶対にかわいいと思います。

「はい、当日はよろしくお願いします」

「うん。それじゃ」

 そういい残すと電話が切れてしまいました。もう少し女子トークを楽しみたかったんですが仕方ありません。一方はJCの血と肉と皮を被ったオジサンですけど。

 

「うーん……」

 あの三人のバックダンサーデビューは素直に祝福しますが、ちょっと気にかかる点がありました。シンデレラプロジェクトの残りメンバーからすると今までデビューを待たされた挙句、最後に加入した子達がいきなり大舞台デビューですから、心中穏やかではないはずです。

 

 皆良い子ですから大丈夫でしょうが、普通だったら『贔屓(ひいき)されている』とメンバー間で軋轢(あつれき)が生まれてもおかしくありません。特定メンバーを優遇してチーム内に不協和音が起き、最終的に崩壊したプロジェクトを数多く見てきた私が言うのですから間違いないのです。本当に自慢にもなりません。

 しかし、問題が顕在化していない現状では他プロジェクトの方針に口を出す訳にはいきませんし、統括が武内P(プロデューサー)ですから大丈夫なんでしょう。サポート役としては、彼女達の愚痴を聞くくらいに留めておきますか。

 

 

 

 数日後、学校が終わり346プロダクションに向かう途中で美嘉さんから電話がありました。

「もしもし。聞こえる?」

「はい、聞こえますよ。何か御用でしょうか」

「朱鷺って、『TOKIMEKIエスカレート』の振り付けはマスターしてたよね?」

「ええ、一通りは」

「あのさ、ちょっと悪いんだけど……」

 

 話の内容ですが、私にダンスの指導役をして欲しいとのご依頼でした。

 今度の大型ライブに向けて、このところは美嘉さんが指導役となり凛さん達にダンスの指導をしています。今日もその予定でしたが、モデルの仕事が急に入ってしまいました。

 トレーナーさん達も既に予定が入っていますので、指導は無理そうです。自主練習で変な癖がつくと良くないので、ライブで披露するTOKIMEKIエスカレートの振り付け指導ができる子に片っ端から連絡しているとのことでした。

 この曲は美嘉さんのソロ曲ですが、先日開催したコメットの臨時ライブで曲をお借りして披露しましたので、指導については問題ありません。

 

「はい、いいですよ」

「ホント! 助かる~! 今度埋め合わせするからさっ★」

「いえいえ。元々彼女達のサポート役ですから、問題ありません」

「サンキュー★ あっ、もう撮影みたい。じゃね!」

 デビューミニライブでCDを購入頂きましたので、恩返しもしたかったですから丁度良い機会です。一見今時のギャルっぽい感じで軽そうですが、責任感があり律儀で真面目な良い子です。どこかのドブ川も見習って欲しいものですよ。

 元々予定していたレッスンを欠席する旨連絡を入れた後、凛さん達のところに向かいました。

 

「おはようございます。今日も一日頑張っていきましょう」

 いつもとは違うレッスンルームに入るとあの三人を見かけたので、近づいて挨拶しました。

「うん、おはよう……って、何で朱鷺が?」

「おはようございます!」

「あれ、どうしたの、とっきー?」

 三人に対して簡単に事情を説明しました。

 

「へぇ、今日はとっきーが先生なんだ! よろしくね!」

「島村卯月、頑張ります!」

 本田さんと島村さんは笑顔で迎え入れてくれたので良かったです。

「……大丈夫かな?」

 一方、凛さんは渋い顔をしていました。どうやら信用されていないようです。悲しいなぁ。

 

 

 

「はい、ここでターンです!」

 レッスン中、ダンスのポイントとなる部分を重点的に教えていきます。

「うわわわわっ!」

 すると、体勢を崩した島村さんが尻もちを付いてしました。

「大丈夫ですか?」

「は、はい!」

 どうやら彼女は今のパートが苦手のようです。一度苦手意識を持つと克服するのは大変ですから、今のうちに克服させてしまいましょう。

 

「今のパートが何で上手く行かなかったのか、原因はわかりますか?」

「い、いえ……。でも何となく、難しい気がしてしまって」

「私が見たところ、重心移動が余り上手くいっていないような気がします。その前のステップからの繋がりがなんとなくぎこちないんですよね。試しに私がやってみますので、見て頂いていいでしょうか?」

「わかりました!」

 

 そう言った後、先ほどのパートの動きをして見ました。流れる水のように緩急自在の華麗な動作で、ゆっくり丁寧にステップを踏んでいきます。

「何その動き! 凄ッ!」

「わぁ、素敵です!」

「うん。とても自然な動きで、綺麗」

 

 絶賛されましたので「ありがとうございます」と返しました。とはいっても、私が努力して習得した力ではないので嬉しくはありません。

 本当はダンスを含めて実力で勝負したいんですけど、この能力が邪魔をしてしまうんです。努力して成し遂げる喜びを奪われてしまったのは結構辛いです。

 しかし生まれ持ったものを今更どうこうすることは出来ません。幸いなことにボーカルとビジュアルにはこの能力は影響しませんので、そちらを頑張っていきましょう。自分の出来る範囲で最大限努力してみること、それが大切だと私は思います。

 

「では今の動きを参考に、もう一度お願いします」

「はい! 頑張ります!」

 先ほどのパートを島村さんが踊ります。今度は重心移動をちゃんと意識しているようで、先ほどのぎこちなさは見られませんでした。

「はい、そこでターン!」

 今度はもつれずにビシッと決まりました。満点ではありませんが、十分及第点でしょう。

 

「おおー! しまむーやるねぇー!」

「うん。今のは、いいと思う」

 凛さんと本田さんも褒めています。

「そうですね。とても素晴らしいダンスでした。この調子なら、本番もバッチリです」

「島村卯月、頑張りました!」

 とても良い笑顔です。思わず見とれてしまいました。

 

「さて、それでは続けましょうか。難しいパートや苦手なパートがあれば個別にお教えしますので、遠慮なく仰って下さい」

「はい!」

 三人の返事が返ってきます。やはり若人はこれくらい元気でなければいけません。

 

 

 

「それでは、今日のレッスンはここまでです。皆さん、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした!」

 皆の声がハモります。とても充実したレッスンでした。

 人に教えることで自分の足りなさを知り、学ぶことが出来るのです。私としても新しい気付きがありましたので大変勉強になりました。

 

「いやー、とっきーのレッスンはメチャ分かりやすかったよ!」

「はい! 凄く丁寧で、何だか楽しかったです!」

 評判は上々のようで良かったです。美嘉さんにお願いされた以上、役に立たなかったとは言われたくないですからね。

 

「本当、意外。空中二段ジャンプくらい要求されるのかと思ってた」

「ははは……。そんな無茶苦茶な要求はしないですって」

「それに一切ボケなかったし」

「いや、私だって仕事は真面目にやりますよ。人のことを何だと思ってるんですか」

「……芸人?」

「よろしい、ならば戦争です」

「冗談だって。ほら、塩アメ」

「ふふっ、この高貴な私がアメ一つで懐柔される訳が無いでしょう。でも頂きます」

 貰えるものは病気と不良債権以外何でも貰うのが私の主義です。美味しいので先程の失言はチャラにしてあげました。

 でも結構しょっぱいですね。犬神Pの人生と同じくらいしょっぱいです。

 

 別に私が優しいから丁寧にレッスンをした訳ではありません。このやり方が効率的なんです。

 私が尊敬している山本五十六という軍人さんは『やってみせ、言って聞かせて、させてみせ、ほめてやらねば、人は動か()』と言う名言を残しました。

 人材育成の面では正にその通りです。私も前世ではよく上司から指導を受けたのですが、放任主義やスパルタ式だと効率が悪いですし、受ける方としても気分が良くありません。

 何でも相談できるような信頼関係を築き、分からない点は気兼ねなく訊けるような体制で無いと、良い人材は育たないのです。

 

 常に教えられる側の状況を把握した上で、適度なレベルの仕事に挑戦してもらい、出来たら褒めて伸ばす。出来なくとも突き放さず、失敗の原因を究明し改善を図り再挑戦してもらう。これが前世の私の人材育成方針でしたが、それは現世でも変わりません。

 前世の末期頃のようにハイパーブラックな会社では、育成の余裕すらなかったですけどね。

 あれは今でも心残りです。その分、現世ではしっかり丁寧にお教えしたいと思ったので実践してみました。

 

「また分からないことがあったら、とっきーに訊きにいってもいい?」

「ええ、構いませんよ。是非私を有効に活用して下さい」

「ありがとうございます!」

「ありがとう、朱鷺」

「お礼なんて言わなくていいですよ。その為のコメットですから」

 皆とっても良い子なので、是非本番では上手くいってほしいと心から願いました。

 まぁ、例え失敗しても良い経験になります。若いうちに失敗しておいた方が楽なんですよ。私も若い頃は色々としでかしましたし。

 

「3歳も年上なのに、教えてもらうだけだと申し訳がない気がします」

「そうですか。なら、皆さんが先輩になった時、今日私がしたように後輩のアイドルさんに対して丁寧なアドバイスをしてあげて下さい」

「うん。わかった!」

 本田さんの快活な返事が響きました。

 良いことを皆で行えば、346プロダクション全体のレベルが高まります。縁あって同じ事務所に所属していますから、皆に成功してもらいたいと思います。

 

「とっきーはこれから予定あるの?」

「いえ、特にないですよ。コメットの皆とお茶をして、それから帰ろうかと」

「じゃあ、コメットのみんなと一緒にカラオケ行かない!? 元々今日は三人で行く予定だったからさ!」

「そ、それは、皆に訊いてみないと」

「いいじゃん、行こうよ~!」

 うぅ……やっぱりこの子、コミュ強でリア充過ぎるのでちょっと怖いです。眩い光に当てられて溶かされそうですが、先輩としては負けていられません!

 

「わかりました。そのお誘い、受けて立ちましょう。私と凛さんの特別ユニット──『戦慄(せんりつ)(ブルー)』の活躍をその目に焼き付けなさい!」

「えっ、私も巻き込まれてる感じ?」

「よし! じゃあ着替えたらしゅっぱーつ!」

 

 結局この日は本田さん達とコメットの合同カラオケパーティーになりました。

 とても楽しかったんですが、戦慄の蒼は音楽性の違いによりその日の内に解散となってしまいました。『バスト占いのうた』や『チチをもげ』は名曲だと思うんですが、凛さん的にはナシだったようです。

 

 

 

 そしてライブの当日になりました。

 シンデレラプロジェクトの子達もライブ鑑賞の予定なので、コメットの皆と一緒に会場へ向かいます。

「うわ~、おっきなステージー!」

「みりあちゃん、あんまりはしゃぐと危ないよ」

 新田さんが心配そうにしています。何だか姉妹みたいです。

「……大丈夫。みりあはそんなに子供じゃないって」

 きらりさんに抱えられた杏さんが呟きます。見た目で言えば杏さんもみりあちゃんとどっこいどっこいです。

 

「でもホントに大きな会場だよね~。莉嘉も早くこんな舞台に立ちたいな~☆」

「ふん! あの三人のレッスンの成果、確かめてやるにゃ!」

「まぁまぁ。私達の席はあちらなので、後でお会いしましょう」

「それじゃあ、また後でにぃ~☆」

 シンデレラプロジェクトの子達と別れ、四人で指定席に座りました。

 

「でも、凄いです。初ステージがこんな大きな舞台なんて……」

「ああ、そうだね。ボク達の初ステージとは比較にならない規模だ。皆、この雰囲気に飲まれなければいいが」

 ほたるちゃんやアスカちゃんの言うとおり、本当に大きな舞台です。

 何せ小日向美穂(こひなたみほ)さんや佐久間(さくま)まゆさん等といった大人気アイドルが競演するライブですからねぇ。コメットもこれくらい大きな舞台に立てるように努力しなければいけません。

 

「観客の立場で、本当に良かったです」

 乃々ちゃんが安堵の表情を浮かべています。大丈夫ですよ、私がそのうち大舞台に引っ張り出してあげますから。クックック……。

 

 

 

 そうするうちにライブが始まりました。

 メイン全員での『お願い! シンデレラ』の後、茜さんや美穂さんのソロ曲になりました。

 ファンの熱気とサイリウムの輝きが凄いです。熱狂的な盛り上がりで、私達もこんな舞台に立ちたいと、心から思います。

 

 次はいよいよ美嘉さんとあの三人の出番です。

 本人以上に緊張し、固唾を呑んで出演を見守ります。登場する際には舞台下から舞台上に飛び出す『ポップアップ』という仕掛けを使うのですが、慣れないと転んだりしてしまうのでハラハラドキドキです。上手く行くよう必死で祈りました。

 

 TOKIMEKIエスカレートのイントロが流れましたので、固唾を呑んで見守ります。

 

 すると、美嘉さんとあの三人が勢い良く飛び出しました!

 

 よし、着地は成功です!

 思わず皆とハイタッチしました。二本のサイリウムを手に持ち直し、曲に合わせて勢い良く振ります。

 

 オレンジ色の無数のサイリウムが会場全体を照らしました。

 凛さん達は皆振り付け通りしっかり踊っています。練習の成果が出ているようで何よりでした。

 そしてとても良い笑顔です。こちらまで楽しくなりますね。

 そして無事、曲が終わりました。

 

「みんな~! ありがとねー★」

 ファンの歓声が辺り一面に広がります。この反応だけで大成功だとよく分かりました。

「ところで今日、バックを務めてくれたこの子達! まだ新人なんだけど、アタシが誘って、ステージに立ってくれたんだ~!」

 おお~というどよめきが周囲から聞こえます。

 普通バックダンサーの紹介なんてしませんが、美嘉さんなりの心遣いのようです。『すげえよミカは』と、ついつい思ってしまいました。

 

「それじゃあ、感想でも訊いてみようかな? どう?」

 美嘉さんが島村さんにマイクを向けます。島村さんは困惑した様子で、凛さんと本田さんを交互に見つめました。そして、意を決したように三人で叫びます。

 

「最っ高~~~~!!」

 

 その大きな声はここまで響きました。ふふふ。これであの子達もライブの虜ですよ。

 あのサイリウムの輝きを知ったら、もう普通の女の子に戻ることはできないでしょう。

 凛さんはアイドルにそこまで乗り気ではないので、早くアイドル活動に(はま)ってこちら側に落ちろ! と思っていましたが、意外と早く落ちましたね。これは嬉しい誤算です。

 

 

 

 そして演目が全て終わりました。本当に、とても良いライブでした。まだ余韻が残っていますが、それを振り払い立ち上がります。

「では、皆さん戻りましょうか」

「え? 戻るって、どこにですか……?」

 乃々ちゃんが不安げに尋ねます。

 

「もちろん346プロダクションですよ。今から自主レッスンです!」

「えぇっ! 何で……」

「今のライブを見たでしょう? 先輩だからって胡坐(あぐら)をかいているとすぐ追いつかれますよ。後から来たのにあっさりと追い越されたくはないですよね?」

「……私も、負けたくありません!」

 ほたるちゃんが真剣な表情で呟きました。彼女はアイドルというお仕事に誰よりも真剣に取り組んでいますから、私と同様に今のライブを見て危機感を覚えたのだと思います。

 

「確かに、油断をしていたら直ぐに引き離されそうだ。だが、ボク達にもプライドがある。簡単には負けられないだろう。違うかい、ノノ?」

「もりくぼ的には、別に負けてもいいんですけど……」

「この四人でトップアイドルを目指すんですから、そんなこと言ったらダメですよ。さぁ、とりあえず軽~く10kmジョギングです!」

「ううう……。むーりぃー……」

 

 楽屋へ向かうきらりさん達に挨拶をした後、乃々ちゃんを小脇に抱えて会場を後にしました。

 流石エース揃いのシンデレラプロジェクトです。新世代の輝きに満ち(あふ)れていました。

 ですが落ちこぼれだって、必死で努力すればエリートを超えることがあるかもしれないのです。

 かませ犬にされないよう、我々も頑張りましょう!

 

 

 

 

 

 


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