ブラック企業社員がアイドルになりました 作:kuzunoha
「辞めたくて辞めたくて震える~♪」
会いたくて会えない歌手さんの替え歌を歌いながらミシンで衣装を縫っていきます。そんなに会いたいなら早く会いに行けよと思うのは私だけでしょうか。もしくはスカイプを使いなさい。
もう2時間くらい作業を続けていますが、最高級ブランドのミシンだけあり使い易くてしっかりと縫えています。
よし、この出来なら大丈夫でしょう。莉嘉ちゃんの分が無事完成です。
休憩のためキンキンに冷えたノンアルコールビールの缶を手にし、自宅三階の裁縫専用部屋に戻りました。この部屋はピアノ用の防音室と同様に防音加工が施されていますので、夜中でもミシンが使えて大助かりです。一息ついてから衣装の出来栄えを確認しました。
6月上旬に行われるコメットのライブでは、シンデレラプロジェクトの未デビュー組を特別ゲストとして招きライブをして頂きます。
当然ライブをするには専用の衣装が必要になります。闇ストリートファイトの賞金がかなり残っているので、346プロダクションが提携している衣装屋さんに依頼して揃いの衣装を用意しようとしました。
ですがどの会社も忙しく、九人分を約1ヵ月で用意するのは無理と断られてしまったのです。
事務所にある既存の衣装で揃える手も考えたんですが、きらりさんがネックなんですよねぇ。他の子達は誤魔化しが利きますけど、数多くのアイドルが揃う346プロダクションにもあれだけの恵体が収まる衣装はありませんでした。
ならば自分で作るしかないという結論に至ったのです。そもそもライブを持ち掛けたのは私ですから、このくらいの苦労は仕方ないでしょう。
私の数十ある職務経歴の中にはアパレル企業も含まれていますので衣装の用意は十分可能なのです。アパレル企業と言ってもヘローワーク経由で見つけた家族経営のブラック企業でしたけどね。
最初は営業で入ったのに最終的にはデザインから服作り、営業、経理、事務と一気通貫でやらされていました。社長一家が運転資金を持って夜逃げしたせいで残務処理が大変だったことを今でもよく覚えています。
その経験がこんなところで生きるとは思いもしませんでした。やはり何事も経験ですよ。
とはいっても数が数ですから大変です。シンプルながら可愛い感じにして見えないところは簡略化していますが、九着作るのは結構な作業を必要としました。ですがこれで全て完成です。
「乾杯!」
缶を開けてノンアルコールビールを喉奥に流し込みます。一仕事終えた後のビールは美味い! この一杯の為に仕事をしている気がしますね。
ライブは今週の日曜に迫っていますから、早速事務所に持っていって試着してもらうことにしました。
次の日の放課後、一旦家に衣装を取りに戻ってからタクシーで346プロダクションに向かいました。両手に衣装を抱えて、三十階にあるシンデレラプロジェクトのプロジェクトルームに行きます。
「……おはようございます。その荷物はどうしたんですか?」
「おはようございます、智絵里さん。皆さんの衣装が出来ましたので持って来ました。すいませんがドアを開けて頂いても良いでしょうか」
「は、はい……」
両手が塞がっているのでドアを開けてもらいます。プロジェクトルームに入るとシンデレラプロジェクトの子達が揃っていました。皆不思議そうに私を見ています。
「今週末のライブ衣装が出来ましたので、試着頂いて良いでしょうか」
「みく達の衣装が出来たの!?」
「はい、なんとか間に合いましたよ」
ライブの衣装が完成したことと衣装合わせについて説明しました。未デビュー組の子達は自分の衣装を取り出して確認します。
「先輩アイドル達の衣装をリスペクトして制作してみました。アイドルの衣装を作ったことはないので、ダサかったらすいません」
一応自分なりにデザインは頑張ったんですが、今時の若い子のセンスとはズレているかもしれません。お母さんが買ってくる洋服が何か微妙に感じるあの現象が起きないかとても心配です。
「凄ーい! かわいい!」
「これちょーいいじゃん☆ この衣装で歌って踊ったら、みんなドキドキだよね♪」
みりあちゃんと莉嘉ちゃんの年少組には受け入れて頂けました。まずは一安心です。
「これ、色々と凝ってるけど全部手作りなの!?」
「はい。李衣菜さん達の身長やスリーサイズに合わせて作りましたからピッタリなはずですよ」
「フフフ……流石は我が同胞。無より輝かしき羽衣を創造する等、容易いということか!」
「ありがとうございます。取り合えず着替えて頂いて良いでしょうか。もし合わないところがあれば早めにお直しをしたいと思いますので」
すると九人がそれぞれ服を脱ぎ始めました。クックック……計画通り。
カッと目を見開いて皆さんの下着姿を網膜に焼き付けていきます。
違うよ。私は変態じゃないよ。私はアイドル達の脱衣シーンを眺めていると何か興奮することに気付いただけなんです。
変態じゃないよ。仮に変態だとしても、変態という名の淑女ですよ。
「みくにぴったりで動きやすいし、何よりかわいい! これなら最高のライブができるにゃ!」
サイズは合っているようで良かったです。見た目も気に入ってもらえたようで安堵しました。
ただ、かな子ちゃんは困惑した表情を浮かべています。
「この衣装は気に入りませんでしたか?」
「う、ううん。そんなことないよ! でもウエストがちょっと……」
申告の通り、腰回りがややきつそうな感じです。
「おかしいですね。事務所に所属された際のプロフィール通りに作ったはずなんですけど」
そこまで言って、ある可能性に気づきました。
「あの、失礼を承知で申し上げますが……ちょっと太りましたか?」
「!!」
その時かな子に電流走る────そんな感じのリアクションをされました。
よくよく考えると、初めてお会いした時よりお顔が若干丸くなっているような気がします。お会いする度にお菓子を食べていましたし。
「春って苺を使ったスイーツが美味しいから……」
「色々と察しましたのでそれ以上は言わなくていいです。衣装の方はお直しをしてきますので、今後は軽量化を頑張って下さい」
「……うん」
涙目で頷きます。そのふくよかボディは彼女の最大の魅力ですが、これ以上制限なく肥えると流石にまずいですからダイエットに励んで欲しいです。
「一回きりのライブなのにこんな気合の入った衣装用意するなんて、朱鷺は良くやるよね~。杏だったら過労死してるよ」
「お客様がいる以上、手は抜かない主義なんです。それに皆さんの初ライブの記念となる衣装ですからこれくらいは当然ですよ。もう少し時間があればもっと凝りたかったんですけど」
「ふ~ん。難儀な性格だねぇ……」
杏さんが衣装のまま全力でだらけだしたので着替えさせます。ワーカホリックとニートは永遠に分かり合えないのかもしれません。
ふときらりさんを見たところ、冴えない表情をしていました。サイズはピッタリなのでデザインが気に食わなかったのでしょうか。
「すいません、きらりさん。この衣装はダサかったですか?」
「ううん、朱鷺ちゃんが作ってくれた衣装、かわゆくてきゅんきゅんでハピハピなんだにぃ☆」
「それなら良かったですけど……」
「でも、きらりがいなければ他の衣装でライブできたからにぃ。朱鷺ちゃんにはたくさんたくさん迷惑かけゆことになっちゃったから……」
そのまましゅんとしてしまいました。普段は気にするそぶりを見せませんが、やはりその身長は彼女のコンプレックスになっているようです。
この子は一見破天荒なようでいて、周囲に気を遣う心優しい子なんですよね。
「私がやりたくてやっただけですからそんなことは気にしなくていいんですよ。それにきらりさんはとっても可愛い良い子です」
背伸びをしてきらりさんの頭を優しく撫でます。
「うきゃー! きらりあんまりなでなでされたことないからうれすぃ♪」
そのまま勢いよくハグされます。あっ……何か女の子特有の甘い匂いがしました。志希さんじゃないですけどハスハスしたくなります。
「それはそうと、曲の仕上がりは順調ですか? 『お願い! シンデレラ』は初心者向けの曲ですけど、九人で揃えようとすると結構難しいでしょう?」
今回きらりさん達にライブで披露して頂くのは346プロダクションのアイドル達にお馴染みであり、人気もあるこの曲になりました。
歌いやすいですし、明るくて可愛らしいアイドルソングなので私も好きな曲です。
「ふふん、もう完璧! みく達のパーフェクトなステージを見るにゃあ~!」
ドヤ顔で豊かな胸を張りました。約1ヵ月間しっかり練習してきただけあって相当自信がありそうです。本番がより楽しみになりました。
「でも残念です。ミニライブが被っていなければ智絵里ちゃん達のライブを見に行きたかったのに……」
卯月さんが本当に無念そうな表情で呟きました。
彼女達のデビューミニライブとコメットのライブは同日の同時間帯に行われます。そのため、お互いのライブを生で見ることは出来ないのでした。
「スケジュールの都合がありますから仕方ありませんよ。それよりもニュージェネレーションズとラブライカは自分達のライブに集中して下さいね」
ニュージェネレーションズは卯月さんと凛さん、本田さんのユニットで、ラブライカは美波さんとアーニャさんのユニットです。どちらもピッタリなユニット名だと思います。
私としては凛さんが考案したプリンセスブルー(笑)を強く強く推したんですが、あえなく却下されてしまいました。二十年くらいたってからそのネタでからかってあげようと思っていたので残念です。
「パニャートナ。わかりました、朱鷺。でも、とても緊張します」
「今から緊張していたら大変だよ、アーニャちゃん。ほらっ、深呼吸」
「ありがとう、美波」
美波さん達が深呼吸します。この二人は実の姉妹以上に姉妹っぽい感じがします。
「そうそう、緊張するのは当日だけで十分ですよ。デビューライブ前はガチで吐くほど緊張しますから。フフフ……」
思わず自分達のデビューミニライブを思い出しました。そう言えばあれからもう半年経つんですよねぇ。時が経つのは本当に早いです。
「ちょっと脅かさないでよ、朱鷺」
「いや、こればかりは噓や気休めを言っても仕方ありません。凛さん達だってバックダンサーデビューの直前は大変だったでしょう?」
「それはそうだけど……」
「ですがその緊張を乗り越えた先には本当に素晴らしい光景が待っています。その光景を見られるよう、頑張って下さいね」
「はい!」
皆が一斉に返事をします。その目に闘志が宿ったような気がしました。
「ふっふっふ。その点この未央ちゃんはその緊張を乗り越えているから大丈夫!」
本田さんが自信ありげな表情を見せます。先日のバックダンサー経験が大きな自信になったのでしょう。ちょっと過信気味な感じもしますが、自信が無いよりは百倍マシです。
「皆さんの活躍を期待していますよ」
「うん! 大いに期待してて! 私達の魅力で満杯のお客さんを盛り上げちゃうから!」
ミニライブの会場は都心にある大規模商業ビル内の噴水広場だと伺いました。新人アイドルのデビュー会場としては破格の待遇です。
新人なので満杯のお客様というのは流石に難しいでしょうけど、聴いて頂くお客様の心に届くよう頑張って欲しいです。
「そういえばさ、とっきーは他の子達は下の名前で呼ぶのに、何で私だけ苗字呼びなの?」
「いやぁ、なぜでしょうかねぇ……」
何となく苦手意識があるからとは口が裂けても言えません。ですが闇属性の私にとって、超絶リア充で光属性の本田さんは対極であり相容れない存在なのです。
「私だけ距離置かれているみたいで寂しいよー! 今度から未央って呼んで!」
「わかりました、本田さん。あっ……」
「あー! また名字で呼んだー!」
「す、すいません、本田さん」
結局最後まで名前では呼べないまま、その日はお開きとなりました。
そしてライブ当日がやってきました。家から都心にあるライブハウスに直接向かいます。関係者通用口を通りスタッフさんに一通り挨拶をしてからコメットの控室に入りました。
「皆さん、おはようございます」
「おはようございます」
「やあ、おはよう」
ほたるちゃんとアスカちゃんは既に来ていました。乃々ちゃんもその後直ぐに顔を出します。皆緊張はしていますが、ある程度場数を踏んでいますので気負いはありません。
「みんなお疲れ様!」
「あら、いたんですか犬神P(プロデューサー)さん」
「いたんですかって……。今日は俺が責任者としてライブを統括するって言ったじゃないか」
「軽い冗談ですよ。一応頼りにしていますからよろしくお願いします」
「七星さんが俺を頼りに? もしかして熱でもあるんじゃないのか……!」
「あら、中々面白いこと言いますね。そうだ、せっかくだから犬神Pにもライブで演奏してもらいましょう。ファラリスの雄牛はどうですか? 命を燃やすような良い演奏が出来そうで素敵です」
「いや、それ拷問器具だろ……」
ワンちゃんをからかいながらメイク等の準備をしていきます。
その後はシンデレラプロジェクトの子達が気になったので、衣装に着替える前に彼女達の控室を訪ねに行きました。
ノックの後、ドアを開けます。
「皆さん、おはようございます!」
「おはようございます……」
勢いよく挨拶をすると中から弱々しい返事が返ってきました。
「若者が雁首揃えてどうしたんですか。まるでラスボスに先制攻撃されて全滅し、好記録が台無しになったRTA走者みたいな絶望的な表情ですよ」
ちなみに私のことです。5時間走ってあの仕打ちだと辞めたくなりますね……。
「いや、今まで現実感がなかったんだけどさ。いざライブ直前になってみると超緊張して……」
「カエルさん、カエルさん、カエルさん……」
李衣菜さんがヘッドホンをいじりながら小声で答えます。その横では智絵里さんが四葉のクローバーを握りしめて謎ワードを呟き続けていました。
年少組や杏さんはそこまで緊張していませんでしたが、その他の子は結構深刻です。このままだと本番前に倒れてしまいかねないので、少しリラックスしてもらいましょう。
「そんなに緊張していたら疲れちゃいますよ。そうだ、緊張をほぐす為に私とちょっとしたゲームをしましょう」
「ゲーム?」
「はい。今から私が誰かの物真似をしますので、誰の物真似をしているのか当てて下さい。早い者順ですので分かった時点で答えを言って下さいね。では、早速行きます」
咳払い一つして始めます。
「今日も私は元気ですっ。雨が降っても槍が降っても、ステージ頑張りますっ‼ 皆で夕日に向かってダッシュですよ! うおおっ、ファイヤー!」
「わかった、茜ちゃんだ!」
「みりあちゃん、正解です」
「わーい、やったー!」
「わぁ、元気が溢れているところがソックリ! 朱鷺ちゃんは物真似が上手なんだね」
「褒めて頂いてありがとうございます、かな子ちゃん」
社畜時代は接待や飲み会の度に様々な一発芸を強要されて来ました。そのリクエストに対応する為に多様な宴会芸を習得したのですが、その中でも物真似は一角の自信があります。数々の接待を大成功に導いてきた秘技を披露して差し上げましょう。
「次は皆さんのよく知っている子です。
……ふーん、アンタが私のプロデューサー? まぁ、悪くないかな……」
ネタ元のクールな仕草や喋り方を私なりに再現します。蒼っぽい感じを前面に押し出しました。
「あっ……もしかして、凛ちゃんですか?」
「はい、大正解!」
「えへへ、やりましたっ」
智絵里さんが天使のように微笑みます。先ほどまでの緊張が少し解けたような気がしました。
「どんどんいきますよ。次も身近な子です。
……ククク、我が名は七星朱鷺。天に輝く北斗の星をこの拳に宿す者ぞ。他を圧する我の神気に恐れ慄くがいい! ハーッハッハッハッ!」
カッコいいポーズとドヤ顔も手を抜かずにちゃんとやります。
「それは我が言霊! こ、小癪な!」
蘭子ちゃんの顔が真っ赤になりました。自分がやるのはいいですが人に真似されると恥ずかしいようです。というか私もかなり恥ずかしいのでこの物真似は封印することにします。
その後も身近なアイドルの皆さんの物真似をしていきました。346プロダクションは個性的で特徴のある子が多いですからネタに困らなくて助かります。十回くらいやると至るところから笑い飛び出すようになりました。
「以上、物真似クイズのお時間でした。ご参加ありがとうございました」
一礼すると拍手が沸き上がります。
「再現度がとっても高かったにゃ!」
「お姉ちゃんの真似もちょー上手だったよ☆ ホントにお姉ちゃんみたいっ!」
「お褒め頂きありがとうございます。皆さんの緊張が少しはほぐれたようで何よりです」
笑いには体をリラックスさせる効果があります。クスッと笑うだけでも緊張感は大分軽減できるんですよ。頑張って道化を演じた甲斐がありました。
「……本当、朱鷺はお節介だよね~。自分だって大事なライブがあるのに、杏達のことばかり気にしてさ」
並べた椅子の上でだらけていた杏さんが呆れたように呟きます。自分でもそう思いますが、これが性分ですから仕方ありません。
「杏ちゃん、それが朱鷺ちゃんのいいところだにぃ~☆」
「わかってるよ。ただ損な性格だなって思っただけだって……」
そう言っている杏さんも彼女なりに皆を気遣ってますから、人のことは言えないと思います。現に今も私のことを心配してくれていますしね。
「さて、そろそろお時間です。ライブ直前は逃げ出したくなるくらい緊張するでしょうが、難しいことは考えず全力で歌って踊って楽しんで下さい。皆さんが楽しいと思えば、その気持ちはお客様に絶対伝わりますよ!」
「はい!」
先ほどとは違い元気な返事が返ってきました。その表情に陰りは見られません。きっと大丈夫でしょう。
そしてライブ開演の時間になりました。
まずコメットが数曲ご披露した後、ブレイクを兼ねてトークを行います。その後特別ゲストとしてシンデレラプロジェクトの子達にライブをして頂く予定です。
入場の曲に合わせて舞台に出ていきました。
「皆さーん、こんにちはー!」
「こんにちはー!」
元気よく挨拶をして観客席にマイクを向けると、これまた元気よく返事を返してくれます。
出だしは順調だなと思い観客席の方をよく見るとぎょっとしました。
世紀末的なガラの悪いモヒカン勢が会場の後部に密集していたのです。
いや、一般のお客様の迷惑になるので後部に居るよう鎖斬黒朱の連中には指示していましたけど、これだけ集中していると異常です。シンデレラプロジェクトの皆が萎縮しないか心配になりましたがどうしようもありません。
その後は持ち歌の『Comet!!』やその他の全体曲を披露していきます。
観客のノリもよく、私にとっては至高の瞬間でした。この風、この肌触りこそライブですよ!
続いてはトークショーです。最初は会場に足を運んで頂いた観客の皆様への感謝や今後の抱負等の真面目な内容でしたが、次第に脱線していきました。
「乃々ちゃんは超可愛くて良い子なんですけど、表舞台に出ようとしないから可愛さが伝わらないんですよねぇ……。ここは一つ『森久保乃々改造計画』でも立てましょうか」
「えぇ!?」
アドリブで話を振ったので、案の定乃々ちゃんが慌てふためきます。
「もっとリボンを付けてみるとかどうでしょうか」
「エクステで髪を増強してみるのもいいかもしれないね。せっかく巻き毛にしているんだから中世貴族くらい盛ったらどうだろう」
「いっそのことモヒカンはどうです? 今なら世界初のモヒカンアイドルになれますよ!」
「うぅ……もりくぼいぢめ、反対です……」
観客席から笑いが飛び出します。結局乃々ちゃんいじりになってしまいました。後で謝っておきましょう。
次はいよいよあの子達のデビューライブです。私以外は舞台袖に移動しました。
「さぁ、ここでサプライズゲストです。346プロダクション期待の企画であるシンデレラプロジェクト────本日はそのメンバーの方々にスペシャルゲストとして参加頂きました! これから大人気になる子達の超貴重なデビューライブをお楽しみください! それでは、どうぞ!」
そう言って私も掃けました。入れ替わりで舞台に出てきたみくさん達に目配せした後、舞台袖から彼女達の一挙一動を見守ります。
「私達、シンデレラプロジェクトです! まだ正式なデビューはしていませんが、コメットの皆さんのライブで一曲歌わせて頂けることになりました!」
この中では年上の李衣菜さんが皆の代表として、大きな声で叫びました。その言葉を聞いて会場がざわざわします。サプライズゲストですからこの反応は当然だと思います。
舞台袖から少し顔を出して観客席の奥を睨みつけると、後方から大きな拍手や声援が上がりました。鎖斬黒朱の連中と事前に打ち合わせを行い、彼女達が登場したら盛り上げるよう命じていたのです。サボったら後で処刑なので皆必死ですよ。
その声援につられて、会場全体から拍手や声援が発せられます。
「上手く歌えないかもしれませんが、心を込めて歌いますので聴いて下さい! シンデレラプロジェクトで『お願い! シンデレラ』です!」
喋り終えるとあの曲のイントロが流れてきました。
王道を往く傑作曲を歌っていきます。
九人揃ってのダンスはやや危なっかしいところもありましたが、皆さんの楽しそうな表情に比べたら些細なことです。
転んだり音を外したりしないようひたすら祈っていましたが杞憂でした。光り輝くその姿は正にアイドルです。お客様もそんな彼女達に温かい声援を送っています。
お世辞抜きで良いライブだと、心から思いました。
「あ、ありがとうございました~~!」
終わってみれば魔法のように儚い時間でしたが、彼女達は皆やりきった表情です。きっと以前の私のように、ライブで演じる楽しさを心で理解することができたはずです。
「聴いて頂いて、本当にありがとうございました!!」
九人揃って観客席に頭を下げると、一斉に拍手が沸き上がりました。観客の心はばっちり掴めたようです。これは大成功ですね。
そのまま私達のいる舞台袖に掃けていきます。入れ替わりに四人で舞台に上がりました。
さて、ここからは私達の時間です。シンデレラに魅了された王子様達の心を、彗星の衝突で引き戻してあげましょう。
「皆さん、シンデレラプロジェクトの子達がそんなに気に入りましたか~!? もしかして私達のこと忘れていませんよね~!? さあ、私達の名を言ってみて!」
「コメットオオォォォォォォ!」
「ん? 聞こえないよ~! もう一度だけチャンスをあげる! 私達の名を言ってみて!!」
「コメットオオオオォォォォォォォォォォ!」
「もう一度!」
「コオオォォォォメットオオオオォォォォォォォォ!」
「みんなありがと-! じゃあ、続いていっくよ~! 『RE:ST@RT』!」
「オオオオオオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォー!」
その後、ライブは大盛況のうちに幕を閉じました。興奮冷めやらないまま控室で簡単な打ち上げをします。
「それではコメットとシンデレラプロジェクトのライブ成功に、乾杯!」
「カンパ~イ!」
ジュースの入った紙コップを頭上に掲げます。
「もうサイッコ~にゃあ!」
「ホントホント! 今日のライブ、超ロックだったよ!」
ロックというか明らかにポップスですけど、李衣菜さんのロック判定基準はどうなっているのでしょうか。
「ライブって、こんなに楽しいんですね……。私知りませんでした」
「歓喜の声は渦となり……霊格をさらに高める召喚陣へと集められた!」
「みんながみりあのこと見て笑顔になってくれるの! だからみりあも笑顔になっちゃう!」
「ホント~に楽しいね! 正式にデビューしたらライブやりまくっちゃうぞ☆」
アドレナリンがまだ出ているのか、皆普段より二段階くらいテンションが高いです。
「あ~疲れた……。これで印税が無いとかやってらんないって。寝るのが仕事ならいいのにな……」
「杏ちゃん、そんなこと言ったらだめだにぃ☆」
「お菓子を食べれば元気出るよ! ほらっ、フルーツキャンディー!」
「アメが美味しいのが唯一の救い……」
まぁ、一部例外はいますけど……。
「ライブに誘って良かったですね、朱鷺さん」
ほたるちゃんが耳元で囁きました。皆さんのモチベーションアップになったので本当に良かったと思います。
「そして強力な好敵手であることも改めて理解したよ。ボク達も負けないよう、己を高めていかなければならないな」
「そうですね。抜かれたくはないですからまたレッスンを頑張らないといけません。明日は軽く20キロくらいジョギングをしましょうか」
「それ普通に死んじゃうからむーりぃー……」
「ふふっ。冗談ですよ、冗談」
コメットとシンデレラプロジェクト。お互いに意識し高め合う存在でありたいものです。
ですが私達のライブが大成功した裏で大変な問題が起こっていることを、この時の私はまだ知らなかったのです。