ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

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第37話 北斗七星にほえろ!

「いい加減白状したらどうだ!」

 怖い表情をしたベテラン刑事さんの怒声が取調室に響き渡ります。

「はあ? つーか意味ワッカんねえし。そんなん言うならショーコ出して下さいよ、ショーコォ!」

「……そんなもの、捜査が続けば必ず出てくる! 今のうちに自白した方が身のためだぞ」

「え、ないの? マぁジかぁ~! ショーコも無いのにこの俺を拘束してんの? 俄然(がぜん)下がるわー! 任意同行なら早くウチの弁護士呼んでくださいよォ! ぎゃはははは!」

「くそっ、調子に乗りやがって……」

 二十歳前後のコテコテなギャル男が足で机をガンガン蹴っ飛ばしていました。その顔には下卑(げび)た笑みが浮かんでいます。

 

 私は取調室横に設けられた小部屋で、取調べの様子をマジックミラー越しに(なが)めていました。

 まるで刑事ドラマのワンシーンの様で楽しいです。2時間サスペンスや刑事ドラマはかなり好きなんですよね。普通見られる光景ではないのでちょっとした社会科見学気分ですよ。

 

「ターゲットはあのギャル男ですか」

 隣にいる若い刑事さんに声を掛けました。

「はい。最近発生している連続通り魔傷害事件の容疑者です。被害者は女性や高齢者、子供など、弱者を専門にしている卑劣な奴ですよ。状況証拠的に犯人は奴しか考えられないんですが、決め手となる物的証拠が無くて……」

 弱者を専門に狩るなんて正にクズ中のクズです。そんな奴はド畜生だと断言していいでしょう。

 

「もし彼が本当に犯人なら、絶対に許せませんねぇ」

「はい。お手数ですがよろしくお願いします」

「いえいえ。善良な一市民として警察の皆様にご協力するのは当然の義務ですから。気にされないで下さい」

「あ、ありがとうございます……」

 笑顔で返事をしました。刑事さんの顔が赤いですが、こんなドブ川に騙されるようではまだまだですよ。ウチの御犬様くらい人の本質を見抜けるようにもっと精進して頂きたいです。

 

 

 

「失礼します」

 若い刑事さんに連れられて取調室に入りました。さっきのギャル男がやや困惑しましたが、直ぐにいやらしい笑みを浮かべます。

「何だ何だァ、最近の警察は女まで紹介してくれんスか! しかも俺人生の中で最高の超美人だし! ヤッベ、俺の息子がシャキィーン起っちゃいますよォ!」

 うわー、私こういうノリ超無理だわーと思いつつ、ギャル男に近づきます。そして背後に回りこんであの秘孔を突きました。

 

「ぐっ……げぇっ……」

 先程までの余裕綽々(しゃくしゃく)な態度が一変しました。ゲス顔から一転し苦悶の表情が浮かんでいます。

体が自由に動かせなくなったのですから、その反応でもおかしくはないですけどね。

「今私は『新一(しんいち)』という秘孔を突きました。貴方は口を割るしかありません。それでは改めてお伺いします。最近発生している連続通り魔事件ですが、犯人は貴方なんですか?」

「……俺が全部やった! ああっ、何を言ってんだ俺はよォ!」

 超あっさり自白しました。刑事さん達も「おお……」と呟いて驚いています。

 

「それでは取調べを続けます。ああ、気を付けて下さい。真実以外を話すと体が爆発しますよ」

「ば、爆発っ!?」

「はい。死にたくなければ真実を洗いざらい白状することです」

 満面の笑みでギャル男に語り掛けました。まぁ、爆発するというのは嘘ですけど。

「ではここからは私が引き継ぎます」

「よろしくお願いします。もうガンガン質問しちゃって下さい。今なら性癖でも何でも洗いざらい喋っちゃいますから♪」

 ここからはプロの出番なのでベテラン刑事さんにお任せして取調室を後にしました。今日は後三件ですか。面倒ですが頑張りましょう。

 

 

 

「いやー、ありがとうございます! 先生のお蔭で事件解決ですよ!」

「一市民として公僕の方々にご協力するのは当然のことですから、お気になさらず」

 捜査協力後に署長さんに呼ばれたので署長室でお茶を頂きます。署長さんは長身でスリムと言うか痩せこけた体つきが特徴的でした。

 

 以前某国に侵入した際に防衛的な省と外務的な省から執拗(しつよう)な取調べを受けたのですが、その際に北斗神拳と秘孔の効果についても簡単に説明をしました。その話を警察が聞きつけたらしく、346プロダクションに捜査協力依頼が寄せられているのです。

 北斗神拳を使えば容疑者に真実を供述させるなんて容易(たやす)いのです。わざわざ裁判所で法廷バトルをする必要はありません。

 容疑者が犯人であれば自白内容を元に逮捕すればいいですし、無罪であればその証明になり冤罪は発生しないので良いことづくめです。

 そう考えると結構便利な能力なのかもしれません。本業には活きないのが困りものですけど。

 

 事務所としては公権力に恩を売る良い機会なので、解決が困難な凶悪事件が発生した時は捜査に協力するよう指示を頂きました。

 私としても警察にコネを作るチャンスなので快諾しました。警察に(こび)を売って悪いことはありません。権力は歯向かうものではなく上手く味方につけて利用するものなんですよ。

 

「話は変わりますが、コメットとラブライカの一日署長の件、よろしくお願いします」

「任せておいて下さい! ラブライカを追加でお呼びするにあたっては調整が大変でしたが、他ならぬ先生のご依頼ですから頑張って手配させて頂きました」

「ありがとうございます」

 

 軽く頭を下げました。これだけ協力しているんですからそれくらいは当然ですよ。

 ニュージェネレーションズの解散危機の影響により同時売り出し中のラブライカの仕事がいくつかキャンセルになってしまったので、コメットが予定していた一日署長の仕事に追加で参加して貰うことにしたのです。

  

「こちらとしては一日署長ではなくて、ずっと続けて頂いてもいいんですが……」

「申し訳ございません。お声を掛けて頂いて恐縮ですが本業を辞めるつもりはありませんので」

「それは残念です。ではアイドルを引退された際には是非ウチにいらして下さい」

「はい。前向きに検討させて頂きます」

 恐らく上層部から私を勧誘するように命じられているのだと思います。

 ですが桜田門組には前世でよく職務質問を受けましたし、頑張って作ったダンボールハウスを無残に撤去されたりもしましたのであまり良いイメージは無いんですよね。

 将来の選択肢としてはナシです。特命係や特車二課があれば是非入りたいですけど。

 

 

 

 翌日はいつもどおり346プロダクションに出社しました。

「う~ん。さっきの経緯台式もいいですけど、こちらの屈折式も捨てがたいですね」

 タブレットで電子カタログを開き画面を注視します。それなりに高価なものですから買う時には値段と性能の見極めが大事です。

 

「何を探しているんですか? 随分と熱心ですけど……」

 ほたるちゃんが不思議そうに私を見つめます。

「いえ、望遠鏡を新調しようかと思いまして」

「盗撮は立派な犯罪だよ。警察署までボクがついて行くから早く自首しよう」

「……アスカちゃんが私のことをどう思っているか、よ~くわかりましたよ」

「ウイットに富んだジョークじゃないか。で、本当は何に使うんだい?」

 ジョークにしては目がマジだったような気がします。

 

「天体観測用ですよ。星を見るのに使うんです」

「朱鷺ちゃんと天体観測……。ちょっと意外な組み合わせです……」

「うちの医院の屋上からは星がよく見えるんです。子供の頃はよくそこで星を眺めていましたが、天体に関するドキュメンタリー番組を見たら久々に生で見たくなってしまって。倉庫から望遠鏡を引っ張り出そうとしたらちょっとだけ壊してしまったので、新しい望遠鏡を買うんです」

 引っ張った勢いで粉々に粉砕したとは言いたくないですから適当に濁しました。ついついデストロイしてしまうのが私の悪い癖。

 

 

 

 そんな雑談をしていると、プロジェクトルームの扉を叩く音が聞こえました。

「どうぞ、開いてますよ」と声をかけるとラブライカの二人が顔を覗かせます。そのままルーム内に入られました。

「今週末の一日署長の件でご挨拶に来ました」

「ドーブラエ ウートラ。コメットの皆さん、当日はよろしくお願いします」

 美波さんとアーニャさんがお辞儀をします。何気ない動作でもこの二人だと絵になりますね。

 

「シトー? それは、何ですか?」

 アーニャさんが私のタブレット端末を見つめます。

「望遠鏡のカタログです。朱鷺さんが今度天体観測をする為に購入されるそうです」

「天体観測ですか……! ハラショー……!」

 珍しく興奮した様子を見せたので少し驚きました。普段はクールビューティーですけどこんな感じにもなるんですね。

「アーニャちゃんは天体観測とホームパーティーが趣味なんだよね?」

「ダー。ロシアや北海道では、よく星を眺めていました」

 懐かしそうな表情をします。その顔を見て良いことを思いつきました。

 

「でしたら今度一緒に天体観測をしませんか? 梅雨明けで天気が良くて暖かいですし、七夕も近いのでいい時期だと思いますよ。うちの医院の屋上で良ければいつでも使えますから」

「スパシーバ。是非ご一緒したいです……!」

 アーニャさんがコクコクと頷きます。

「楽しそうね。私も参加させて貰っても良い?」

「はい。屋上は技の練習が出来るくらいには広いですから美波さんも是非いらして下さい」

 二人よりも三人の方が楽しそうです。

 

「フッ。ボク達を忘れていないかい?」

「私も参加させて頂きたいです」

「み、みんなが行くなら……もりくぼも……」

 コメットの皆からも参加希望を頂きました。

 

「それならホームパーティー形式でやった方が良さそうですね。流石にバーベキューは出来ませんけど、腕によりをかけて美味しい料理をご用意します。その前にまずは一日署長を頑張りましょう!」

「はい!」

 皆の元気な声が部屋中に響きました。

 

 

 

 そして一日署長イベントの当日になりました。

 本日のスケジュールですが、まず警察署で嘱託(しょくたく)式を行った後、地元の大型ショッピングモールで交通安全キャンペーンを実施します。その後パレードをして警察署に戻りミニライブを行うという流れになります。

 終日の予定でやることが盛り沢山ですし、新聞社の取材も入りますから気合を入れて臨みましょう。

 

 早めに家を出て警察署に向かいます。署の受付で用件を伝えると女子更衣室に案内されました。

「おはようございます。美波さん、アーニャさん」

「おはよう、朱鷺ちゃん」

「おはよう、ございます。今日は一日、よろしくお願いします」

 既にお二人がいらしたので挨拶しました。婦警さんの格好をしており様になっています。

「とても良くお似合いですね」

「そ、そう? 変じゃないかな?」

「ダー。美波は、本当の警察官さんみたいです」

 この二人になら何時間でも職務質問されたいです。ムサい男性警官なら許しませんけど。

 

 そのうちアスカちゃん達も到着したので皆で着替えます。

「朱鷺は背が高いから、似合います」

「ありがとうございます、アーニャさん。……ところでアスカちゃん。変な着こなしは止めましょうね」

「このファッションが理解できないとは、キミは可哀想な子だな」

 ボタンをわざと開けて不良警官っぽくポーズを決めていましたが、今日の仕事でそれはまずいので文句をスルーしながらボタンを留めていきました。

 

「こちらも着替え終わりました」

「もりくぼ……変じゃないですか……?」

 ほたるちゃんと乃々ちゃんも着替え終わりました。ほたるちゃんはかっこいいというより可愛らしい感じです。乃々ちゃんは何というか……弱そう。痴漢を捕まえるどころか逆に痴漢されて涙目になっている姿が見える見える。

 

 

 

「……七星朱鷺殿、アナスタシア殿、新田美波殿。貴女方を一日警察署長に委嘱(いしょく)します」

「はい。承りました」

 警察署内に設けられた簡易ステージの上で委嘱状を手渡されました。

 署長さんの退屈な挨拶の後、皆を代表して美波さんが挨拶を始めます。

 

「本日一日警察署長を勤めさせて頂きます、ラブライカの新田美波です。本日は私達ラブライカと、同じ346プロダクションのコメットが一日署長としてお仕事をさせて頂きます。一日署長は初体験ですが精一杯頑張りますのでよろしくお願いします」

 その後も流暢(りゅうちょう)に挨拶を続けていきます。同じような挨拶でも喋る方が美人だと良いことを言っているように聞こえますね。

 初体験というワードに反応した心のやましい人は絶対にいると思います。私もそうですから。

 

 嘱託式の後はパトカーで大型ショッピングモールに移動します。

「……大丈夫ですか、朱鷺? 顔色が悪いです」

「な、何でもないですよ」

 パトカーで移送されていると完全に犯罪者の気分になるので落ち着きません。前世では職務質問の度に乗せられましたっけねぇ。三人くらい殺していそうなほど濁った目をしているとかよく言われましたから、そういう意味では武内P(プロデューサー)のことを笑えないです。

 

 

 

「交通事故は起きる前に防ぎましょう!」

 ショッピングモールのイベントスペースで交通安全のパンフレットを手渡ししていきます。

 やっていることはチラシ配りのバイトと大差ないように思えますが、これもお仕事ですからしっかり手を抜かずやりきります。

 暫くして交代でお昼ご飯を取ることになりました。美波さんやアスカちゃんと一緒にバックヤードでお弁当を頂きます。

 

「ふぅ~。一日署長というのも中々大変です」

「でも、普通の人では体験できないお仕事だから楽しいわ」

「確かに偉い人になれる機会って中々ないですね。私とか署長以外だと、なに長が似合うでしょうか?」

「生徒会長なんて似合いそう」

「今も学級委員長ですから、あまり変わらないですね」

 全学年の個性派アイドルを束ねるなんて胃に穴が空く役職は(つつし)んで辞退します。

 

「なら、獄長(ごくちょう)なんてどうだい?」

「業務用電子レンジで殴りますよ」

「ははっ、軽い冗談じゃないか」

「全く冗談に聞こえないんですけどねぇ……」

 昨日アスカちゃんのチーズケーキを勝手に食べたことをまだ根に持っているのですか。何とも女々しい子です。女の子ですから当たり前といえば当たり前ですけど。

 

 

 

 ショッピングモールでの仕事を終えた後、アーケード商店街に移動しました。ここから警察署までパレードを行います。警察官達が準備をしている時に事件が起こりました。

 女性もののバッグを持ったとても大柄な男性が私達の真横を駆け抜けて行きます。何だろうと不思議に思っていると、背後から「ひったくりよー!」という女性の叫び声が聞こえてきます。

 

 次の瞬間、体が勝手に動きました。一瞬で前方の不審者に追いつくと、この身を華麗に翻して飛びつき腕ひしぎ十字固めを極めます。地面はコンクリート舗装されているので相手の体が地面に激突しないよう最大限配慮しました。

「うげっ……」

 不審者がうめき声を上げましたがそのままの体勢を維持します。筋を切らないようにするのが一苦労ですよ。

 

 これはもちろん北斗神拳ではなく、以前闇ストリートファイトで戦った関節技の達人の技術を水影心でコピーしたものです。

 サブミッションハンターを自称されていましたが、当時のランキング三位だけあって人間にしては相当強かったですね。この能力がなければ全身の関節を無残に外されていたでしょう。結局ワンパンで沈めてしまいましたけど。

 そんなことを思い出していると直ぐに警察官達が駆け付けてきます。

 

「……ええっと、犯人っぽい人を確保しました」

「は、はい!」

 技を解除して不審者を引き渡しました。すると初老の女性が私達の周りでオロオロしていたので、落ちていたバッグを差し出します。

「このバッグ、貴女のものですか?」

「えっ……? そ、そうです! 先程その方にひったくられて……」

「そうですか。ではお返ししますね」

「ありがとうございます、ありがとうございます! お陰様で夫の形見を失わずに済みました」

 涙目で何度もお辞儀をされるので何だか恐縮してしまいます。思わず確保してしまったので人違いだったらどうしようか思いましたが無事犯人で何よりでした。

 

 ほっとしていると何やら周囲から拍手の音が聞こえてきます。

「凄いじゃない、朱鷺ちゃん!」

「えっ……。あっ!」

 美波さんの声を聞いて、自分が清純派アイドルらしからぬ行動をしたことに気づきました。

 商店街には警察官が多数いますから私が動かなくとも彼らが逮捕していたはずです。それなのに瞬間移動した上に飛びつき腕ひしぎ十字固めってどういうことですか……。

 自分の迂闊な行動を呪いましたが時既に遅しです。またまた意図せず超人アピールをしてしまいました。メディアで取り上げられないことを切に願います。

 ああ、穴があったら入りたい。いっそのことこの手で自分の墓穴を掘りましょうか。

 

 ひとしきり落ち込みましたが、まだお仕事は残っていますのでへこんではいられません。

 さてようやくパレードかなと思っているとまたも問題が起きました。

「アーニャちゃん! どこー!?」

「アナスタシアさーん! 出てきて下さーい!」

 何と、アーニャさんがいなくなってしまったのです。

 

 さっきまで一緒に行動していましたが、ひったくり騒動の最中で姿を消してしまいました。

 警官達もひったくり犯に意識を集中させていましたので、アーニャさんがどこへ行ったのか姿を見た方はいません。スマホは警察署のロッカーに預けたままなので連絡を取ることすらできないのです。

 私も気を探って捜索をしましたが範囲が広過ぎるため見つけることができませんでした。緊急事態なので警察官から携帯電話を借りて一本連絡を入れた後、捜索を続けます。

 結局パレードの予定時刻になってもアーニャさんは現れませんでした。道路の使用許可の関係上、パレードの時間を遅らせる訳にはいきませんので美波さんの説得に入ります。

 

「美波さん、そろそろパレードの時間です」

「だけどアーニャちゃんがっ……」

「心配な気持ちはよくわかります。しかし私達はプロのアイドルですから一度受けたお仕事は完璧に遂行しなければいけません」

「でも、あの子に何かあったらお仕事どころじゃないわ……」

「大丈夫です。アーニャさんは美波さんが思っているよりもしっかりした子ですよ。美波さんはラブライカのリーダーなんですから、仲間を信じて自分の出来ることをしましょう。

 それにこうなったのは私のせいでもあります。私が責任を持ってアーニャさんを捜し出しますから安心して下さい」

「……うん」

 何とか頷いてくれました。アレが上手く機能すれば直ぐに見つけられると思いますので暫く様子を見ることにします。

 

 

 

 そしてパレードが始まりました。二人と三人に別れてオープンカーに乗り、近隣住民の皆さんに対し笑顔で手を振ります。ですがアーニャさんのことがあるので皆どこか不安げな表情でした。

 そのまま商店街のアーケードをゆっくりと進んでいると、けたたましいバイクの音が後方から迫ってきます。

 

 振り返ると大型バイクに乗った厳つい連中が続々と姿を表しました。少なく見積もっても三十台くらいはいるでしょうか。マッチョ達と改造バイクが見事に調和し世紀末的な光景を醸し出しています。

 前席に座っている警察官の表情が強張るのがルームミラー越しにわかりました。かなり焦った様子で、無線を使い至急応援を呼んでいるようです。そらそうよ。

 次の瞬間、取り分け大きいアメリカンバイクがオープンカーを一気に抜き去ってUターンし、我々の進行を阻みました。その姿を見て複数の警察官がバッと飛び出します。

 

 一触即発の臨戦態勢の中、バイクの後部から見慣れた顔がひょっこり現れました。

「アーニャちゃん!」

 美波さんが思わず叫び、停車したオープンカーから飛び出します。そして大型バイクから降りたアーニャさんと二人で抱き合いました。

「もう、どこ行っていたの!」

「イズヴェニーチェ。ごめんなさい、美波……。迷子になった子供がいましたから、一緒にその子のお母さんを捜していました。そうしたら私も迷子になりました。でも、この人達が助けてくれたんです」

 

 そう言いながらバイクに乗っている男性を指差しました。ヘルメットを脱ぎ若干照れくさそうにしています。そして私を見るやいなやなぜか敬礼をしました。いや、他人設定なんですからそういう余計なことはしなくていいんですって!

 ちなみにアメリカンバイクの持ち主は鎖斬黒朱(サザンクロス)の総長──つまりは虎ちゃんです。

 

 無用の長物と化した鎖斬黒朱を何とか有効活用できないか考えた結果が、この『ヒャッハー(愚連隊)召喚プログラム』です。

 鎖斬黒朱及びその傘下チームが誇る豊富な人材と最新のSNSを組み合わせることによって、新鮮なヒャッハー共を24時間365日いつでも好きに召喚できるようになりました。

 システムエンジニアだった頃の経験を活かし、都内23区なら約10分、23区外及び関東各県であっても約30分で兵隊共を呼びつけることが可能になるようシステムを構築したのです。

 先程も虎ちゃんに連絡し、近隣で暇してる穀潰し共を総動員してアーニャさんの捜索に当たらせたという訳です。

 

 なお、ヒャッハー共の動向はGPSで常に監視しています。もし呼びかけを無視したりサボったりしたら地の果てでも追いかけて必ず処しますので皆命懸けです。

 アイドル業界広しと行ってもこういう芸当の出来るアイドルは中々いないでしょう。なお、出来る必要は全くありません。

 

「警察だ! お前ら大人しくしろ! 三人に勝てる訳無いだろ!」

 警官が三人がかりで掴みかかろうとしますが、虎ちゃんはその手をあっさり振り払いました。一般人としてはかなり強い部類ですから当然です。

「いや、誤解すんなって! そこの嬢ちゃんが道に迷っているって聞いたからアンタ達のところに連れてきただけだ。他に用はねえから後は好きにしてくれ」

 ぶっきらぼうに言い放つと再びヘルメットを被り、仲間と共に逆方向へ駆け抜けていきました。

 すれ違いざま私に一礼してきましたが無視します。あんなのの知り合いだと思われたら私の世間的なイメージが更に悪くなってしまいますよ。でも助かったのは確かですから後でお礼を言うことにしました。

 

「それじゃパレードを再開しますよ。お二人共、車に乗って下さいね」

「はい!」

 美波さんの顔にもようやく笑顔が戻りました。ほたるちゃん達もその姿を見て安心した様子です。これでようやく本来のお仕事に集中できます。

 その後は何事もなく無事にパレードをやり遂げました。

 

 

 

 本日最後は警察署内でのミニライブです。

 皆でステージ衣装に着替えます。婦警姿も悪くはないですがやはりステージ衣装の方が好きですね。これを着ると身が引き締まるような気がします。

 出番が来るまでは思い思いに過ごしますが、美波さん達はかなり緊張した面持ちでした。ライブ経験がまだ少ないですから仕方ありません。

 

「大丈夫ですか?」

「この間のライブから時間が空いちゃったから、ちょっと緊張しちゃってる、かな?」

「でも前回のライブは大成功したんですよね? その時の気持ちでぶつかれば大丈夫ですよ」

「あの時の嬉しさは、言葉にできません。だから今日も、美波と一緒に最高のライブがしたいです」

「うん。私も同じ気持ちだよ、アーニャちゃん」

 お互いの手を取り見つめ合います。どうやら私のフォローなんて要らないようですね。

 

「コメットさん、出番です。お願いします」

「わかりました」

 どうやら準備が整ったようです。我々としてもみくさん達との共演ライブ以来ですから、可愛い後輩に負けないよう張り切っていきましょう。

「それでは我々はお先に行きます。お二人の素敵なライブを期待していますよ」

「ダー。最高のライブになるよう、頑張ります。だから朱鷺達も頑張って下さい」

「はいっ!」

 元気よく返事をすると四人揃って輝くステージに飛び出しました。

 

 

 

「カンパーイ!」

 六個のグラスがカチンカチンと鳴ります。今日の打ち上げ会場は『天狗(てんぐ)寿司』にしました。一皿100円(税抜)の財布に優しい回転寿司屋さんです。

「アーニャさんは知っていますか? 天狗寿司の地下では、ブラック企業経営者に捕まった子供の天狗達が泣きながらお寿司を作る仕事をさせられているんですよ……」

「ダーティシト! それは、悲しいです……」

「なにしれっと嘘をついているんだ、キミは」

「ほ、ほんのお茶目なジョークじゃないですか。ほら、嘘ですよ嘘!」

 アスカちゃんが白い目で私を見ます。まさか真面目に受け止められるとは思わなかったので必死に弁解しました。

 

 お寿司を食べながら皆でワイワイとお話をします。話の中心はやはりライブでした。

「どちらのライブも大盛況で良かったですね」

「ステップが失敗しなくて安心しました」

 ほたるちゃんと乃々ちゃんが興奮気味に話します。ライブの熱がまだ残っているようです。

 

「良いリスタートは切れましたか?」

「プラーウダ。素敵なライブができて、私嬉しいです」

「前回と同じくらい……いいえ、それ以上に良いライブができました」

 アーニャさん達に問いかけると素敵な返事が返ってきました。前回のライブでは未央さんの暴走がありライブ成功の余韻に浸る暇がなかったでしょうから、今回は肩まで浸かって欲しいです。

 

「これからも一緒にお仕事できるといいね」

「はい。いざとなったら犬神Pを脅してでもセッティングしますので安心して下さい。それに天体観測のお約束もありますし」

「皆で星を見るのが、楽しみです」

 美波さんとアーニャさんが素敵な笑顔を見せました。二人共本当に魅力的ですから、これからもっともっと仲良くしていきたいです。

 この日はお腹いっぱいお寿司を食べて、飽きるまで皆でおしゃべりをしました。

 

 なお翌日の新聞には、私が見事にひったくりを逮捕したという内容の三面記事が、飛びつき腕ひしぎ十字固めを仕掛けた瞬間を捉えた写真付きでデカデカと載っていました。

 完全に忘れてた!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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