ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

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第39話 クイズマジックプロダクション

「先生さよーならー」

「はい、さようなら。帰り道は気を付けてね」

「は~い!」

 今日も無事に授業が終わりました。いや~、眠くて危なかったです。

 昨日の夜にスマイル生放送を眺めていたらカブトボーグの一挙放送なんてものがやっていたので、つい朝まで見てしまったんですよねぇ。

 深夜テンションの上にコメント付きで見るアレの破壊力は抜群です。全ての回が面白いアニメはそうそうないと思いますよ。来週はチャージマン研の一挙放送らしいので楽しみです。

 

「七星さん、ちょっと職員室まで来てくれる?」

「ほぇ?」

 間宮先生の思いがけない言葉を聞いて、ついつい世紀末頃に人気だった萌えキャラみたいな返事をしてしまいました。

 この私に何用かはわかりませんが担任に逆らう訳にもいきませんので、346プロダクションに向かう子達と別れてテクテクと後をついていきます。

 

「失礼します」

 職員室を抜けてそのまま奥の応接室に入り、向かい合って座りました。先生はとても真剣な表情をしています。

 あ、あれ? 私何か悪いことをしたんですか?

 思い当たることはありません。せいぜいダンクシュートでバスケのゴールをへし折ったり、バレーのサーブでボールを破裂させたり、サッカーのシュートでゴールを粉砕したくらいです。

 前の中学までは病弱で薄幸な深窓の令嬢キャラを装っており体育の授業は殆ど見学していたので、力加減がよくわからなかったのですよ。

 

 あっ! もしかして、先日授業のサッカーで放った確殺シュートの風圧で嫌味な教頭のズラを空の彼方に消し飛ばしたことが問題になったのかもしれません。

 あの時は職員室も含め学校中が爆笑の渦に包まれたので『やったぜ』と思ったんですけど、よくよく考えればヤバいですよね……。

 

「すいません、親に言うのだけはホントに勘弁して下さい……」

「ちょっと、何言っているの?」

 流水のような華麗な動きで床に(ひたい)(こす)り付けると焦った表情を浮かべました。

「やっぱり『何でもしますから』と言わないと許してもらえないのでしょうか」

「先生、七星さんの言うことがよくわからなくなる時があるわ……。別に謝って欲しいわけじゃないの。一つお願いがあるのよ」

「お願い?」

 なんだ、私が何かやらかした訳ではないんですか。それならそうと早く言ってくださいよ。まったくもう!

 

「それでお願いとは?」

「6月も中旬を過ぎて、そろそろ期末試験が近づいてきたじゃない?」

「はぁ、そうですねぇ」

 一学期の期末試験は7月頭に行われますから、そろそろ試験勉強に取り掛かる時期です。私は常に予習復習を徹底していますので試験用の勉強は特段必要ありませんけどね。

 

「お願い! 皆の勉強を見てあげて!」

 先生が手を合わせて私を拝みました。その表情はとても真剣です。

「あの……何で私なんですか?」

「だって七星さんはこの前の中間試験で学年トップだったじゃない! 人にものを教えるのも得意だから勉強が苦手な子達に教えてあげて欲しいのよ」

 

 そういうことですか。前の中学校では目立たないようにするため上手く手を抜いて学年三位をキープしていましたが、その必要は無くなったので実力を発揮したら学年トップになりました。

 いくら進学校といっても所詮は中学ですからね。元々東大医学部入試用の勉強をしていましたから、このレベルであれば造作もありません。大人が子供の駆けっこに混ざるようなものです。

 とはいっても私では精々秀才止まりです。本当の天才というのは晶葉ちゃんや志希さん、杏さんのような方々を言うのです。天才過ぎて協調性という面ではちょっと問題はありますけど。

 

「でも、教えるなら先生の方が得意じゃないですか」

「そうしたいのは山々なんだけど、私が補習しようとすると凄い勢いで逃げるのよ。本当なら首に縄を付けたいくらいだけど、彼女達に過度に干渉することは避けるよう346プロダクションから強く言われているから勉強を押し付ける訳にもいかないの。その点、七星さんなら同じアイドル同士だから問題ないでしょう?」

「それはそうですけどね。でもタレンテッドコースの場合は試験の結果に関わらず進学できますから、別に成績が低くてもいいんじゃないかと思うんですけど……」

「確かにそうだけど、学生の本分は勉強なんだからせめて赤点は取らないようにして欲しいわ。それにあまり成績が悪いと一般クラスの子達から『アイツら馬鹿だ』って見下されちゃうのよ。みんな私の可愛い生徒なんだから、そんな風に馬鹿にされたくはないの」

 

 確かに難関な入試試験を突破した一般クラスの子達からすれば、『頭が悪くてもチャラチャラ歌っているだけで認められるなんていいご身分ね』と思われてもおかしくはありません。

 せっかく同じ校舎で学んでいるという縁があるのに、そう思われてしまうのはとても残念なことです。

「……わかりました。私のできる範囲で良ければご協力します」

 快く承諾しました。皆大事な友達ですし、彼女達の役に立ちたいですからね。

「本当⁉ 助かるわ!」

 間宮先生が私の手を取って喜びます。私達の身を心から案じているという表情でした。生徒のためにここまで真剣になるなんて、やっぱり今時にしては珍しい方です。

 

「それで、勉強を見て欲しい子って具体的に誰ですか? 蘭子ちゃんや幸子ちゃんは普通に成績がいいので問題ないはずですけど」

「それはね……」

 大体予想した通りの名前が飛び出しました。一筋縄ではいかない子達なので私も本気で取り組まざるを得ません。

 

 

 

「……それで、何でアタシたちは集められたんだ?」

 光ちゃんが(いぶか)しげに呟きました。夕飯にはまだ早い時間のため、学生寮の食堂はがらんとしています。

「そろそろ期末テストが近いですから、成績のよろしくない子を集めて勉強会をしようかと思いまして」

「ええ~!」

 不満の声が食堂に響きました。

 先生の依頼を受けた翌々日、勉強会のためにクラス内の成績不良者を呼び寄せたのです。当然要件は伝えていません。完全に奇襲攻撃です。

 

「そうやって嫌なことを後回しにしているから赤点ギリギリの点数を取ってしまうんです。アイドル業も大変ですが学生の本分は勉強ですから頑張りましょう」

 そう言って発破を掛けましたが、一人を除いて反応は今ひとつです。

「日本語上手くないから問題読むのが大変だけド、頑張ル!」

「ナターリアさんは本当に良い子ですね~。偉い偉い」

「えへへッ!」

 ナターリアさんだけは前向きに取り組もうとしてくれたので頭をナデナデします。それに引き換え残りの子達ときたら……。 

 

「おさかなさんのことなら誰よりも詳しいつもりれすけど、それ以外のことは……」

「あたしも保健体育のテストはいつも満点だよ! 他は酷いけど!」

 七海ちゃんと愛海ちゃんは特定分野には並々ならぬ知識を持っているので地頭はいいはずなんですけど、それ以外にはあまり関心を示さないので困りものです。

 魚とお山に向ける情熱の十分の一でも勉強に向ければ良い点数を取れるはずです。

 

「そうですか……残念です。次回の成績がよかったらこのプレゼントを差し上げようと思ったんですが」

 そう言って二枚のチケットを眼前に置きました。すると彼女達の視線が釘付けになります。

「そ、それは八景島海楽園のプレミアムパス!」

「朱鷺ちゃんのお山の入山許可証だ!」

 チケットを手に取ろうとしたのでサッと取り上げます。

 

「いや~本当に残念ですよ」

「勉強しますからくらさい!」

「勉強する! 良い点取るから!」

 チケットをヒラヒラさせて煽ると、案の定釣り堀のニジマス並みに食いついてきました。モノで釣る作戦は上手くいったようです。

 やはりご褒美があれば勉強も(はかど)りますからね。我が身を削ることになりますが、彼女達のためになるならやぶさかではありません。

 

「勉強しても仕事で使う機会はなか! ブレインズキャッスルだって正解するより面白い回答を言った方がウケるばい!」

 残りの子達の説得にかかると鈴帆ちゃんが不満を漏らしました。

 『頭脳でドン! ブレインズキャッスル』は346プロダクションのバラエティ事業部が手がけているクイズバラエティーです。346プロダクション所属のアイドルが二チームに別れてクイズで対決するというテレビ番組で、司会は大人気アイドルである十時愛梨さんと瑞樹さんが担当しています。コメットもつい先日出演させて頂きました。

 その時対戦したのは鈴帆ちゃん、笑美ちゃん、菜々さんの芸人トリオだったのですが、負けてしまって勝者の権利であるPR活動はできなかったので残念でした。

 

「確かにおバカタレントが流行った時期もありますが、既にブームは去っています。それにウケ狙いの回答は滑った時寒いですよ。この間もそうだったでしょう?」

「うぐっ……。た、確かにそうたい。わかった、真面目にやるとよ……」

「はい。一緒に頑張りましょう!」

 

 鈴帆ちゃんがちょっと落ち込みます。編集でカットされましたが、ブレインズキャッスルで結構滑ったことを今も気にしていました。彼女の魅力はインパクトのある着ぐるみ芸なのでクイズではあまり本領を発揮できなかったのです。

 鈴帆ちゃんの心の傷を広げてしまって申し訳ありませんが、これも成績を上げるためです。

 ちなみにその回では菜々さんが渾身の自爆芸を披露したので会場は大爆笑でした。我が身を削って笑いを取るあの姿こそ正に芸人です。

 李衣菜さんよりもよっぽどロックですよ。痺れはしましたが憧れはしません。

 

「う~ん。でも正義の味方に勉強って合わない気が……」

「勉強なんかより対戦ゲームしようよ~!」

 残るは光ちゃんと紗南ちゃんです。

「特撮ヒーローとはいわば子供達の憧れでありお手本です。そのヒーローが勉強嫌いで頭が悪いなんてことになったら子供達はきっとがっかりするはずです。むしろ自分もそれに(なら)って勉強しないと言い出すかもしれません。光ちゃんはこのままバカレンジャーのレッドでいいんですか!」

「よ、良くない! ヒーローにはなりたいけどバカレンジャーは嫌だ!」

「そうですよね。子供達のお手本になるなら勉強とスポーツ両方しっかりできないといけません」

「わかった! 勉強頑張るぞ!」

 光ちゃんは理想のヒーロー像をとても大切にしています。自分がそのヒーロー像にそぐわない行動をしていることに気づけば必ず正してくれると思っていましたが、予想通りでした。

 

「そして紗南ちゃんもですよ。勉強せずにゲームばっかりやっているゲーマーを見て世間様はどう思うでしょうか。きっと『ゲームは悪だ』とか『ゲーム脳乙』と言い出すに違いありません。ゲームを悪者にされて紗南ちゃんは悔しくないんですか?」

「悪いのはあたしっ! ゲームは悪くないっ!」

「仰る通り、ゲームは悪くありません。それなりの点数を取れば誰も文句は言いませんから、そう言われないためにも勉強を頑張りましょうね」

「う、うん。……何か上手く乗せられているような気もするけど、わかったよ」

 紗南ちゃんもゲーマーとしてプライドを持っていますから、ゲームを悪役にされることは望みません。こういう風に危機感を煽ってあげれば勉強にだって前向きに取り組んでもらえるのです。

 危機感や恐怖心を過剰に煽って直ぐその後に解決策を提示する。マーケティング戦略としては初歩の初歩ですが、ウブな彼女達には効果テキメンでした。

 

「でもどこから手を付けたらいいのかな? ウチの学校、テストは無駄に難しいから……」

「そのための私です。試験範囲はバッチリ網羅していますし前回の中間テストで各試験の傾向はなんとな~く読めましたので、最小の手間で最大の効果が上げられるよう誠心誠意サポートします。だから安心して下さい」

「ありがとう!」

 一斉に感謝されると何だか気分が良くなってきました。こういうのも悪くはありませんね。何だか皆の心が一つになったような気さえします。

 

「せっかくの勉強会ですからお菓子と飲み物を買ってきますよ。飲み物は何がいいですか?」

 彼女達のモチベーションを下げないようにするため提案しました。

「ナターリアはガラナ飲みたいナ」

「じゃあチュリオがいいかな」

「アラ汁をお願いします~!」

「ウチはリボンミトロン!」

「牛乳レモンが欲しいぞ」

「あたしドクペね」

「……せめて普通のコンビニに売っているものにして下さい」

 皆の心はこれ以上ないくらいバラバラでした。それにアラ汁は飲み物じゃないです。

 

 

 

 そんなことがあってから数日後、なぜか杏さんから呼び出しがありました。レッスン後にシンデレラプロジェクトのプロジェクトルームに向かいます。

「失礼します」

 三回ノックしてドアを開けると室内には智絵里さんとかな子ちゃんがいました。

「おはようございます、皆さん」

「お、おはようございます……」

「いらっしゃい♪ 朱鷺ちゃん!」

 笑顔で迎え入れてくれたので奥に進みます。すると呼び出した張本人がいつものようにソファーの上でぐだ~っとなっていました。

 

「おはようございます、杏さん。私にご用とのことですが何でしょうか?」

「ああ、来たんだ~」

 ゆっくり寝返りをうってこちらを向きます。手にはボロボロになったウサギのぬいぐるみが握られていました。

「う~ん。説明するのめどいなぁ……。かな子ちゃん、よろしく~」

「え、ええっ!」

 そう言ってすやすやと寝息を立て始めました。流石ミスフリーダムです。もはや突っ込む気すら起きません。

 

「じゃ、じゃあ私から説明するね」

「お願いします」

 するとかな子ちゃんが説明を始めます。

「今度『キャンディアイランド』の三人でバラエティ番組に出演することになったんだ」

「そうなんですか。おめでとうございます」

「うん、ありがとう!」

 可愛い笑顔で返してくれました。

 

 未央さん達のニュージェネレーションズ、美波さん達のラブライカ、蘭子ちゃんのローゼンブルクエンゲルに次ぐシンデレラプロジェクト四組目のユニット──それがかな子ちゃん、智絵里さん、杏さんの三人によるキャンディアイランドです。

 名前と同じくお砂糖マシマシのお菓子のような可愛らしさが魅力のユニットですね。デビューシングルの『Happy×2 Days』は私も購入させて頂きました。三人の可愛らしさがとても良く発揮されている名盤だと思います。

 仕事が入っていて見には行けませんでしたが、デビューイベントは大成功したと伺っています。

 

「それで、バラエティ番組に出演することと私に何の関係があるのですか?」

 清純派アイドル路線の私では助言できることは殆ど無いと思います。バラエティ番組に関する相談であれば菜々さんや幸子ちゃんが適任です。

「その番組なんだけどブレインズキャッスルっていうクイズ番組なの。でも私達、普段クイズなんてやったことがないから不安になっちゃって……。朱鷺ちゃんはこの間出演していたし、皆に勉強を教えられるくらい頭がいいから何かアドバイスないかなって」

「ああ、そういうことですか」

 私の灰色の脳細胞が求められているという訳ですね。この知性派アイドルを頼りたくなる気持ちはよ~くわかりますので何かアドバイスをしてあげましょう。

 

「一応、色々と勉強をしているんですけど……」

 智絵里さんの手にはクイズ本が握られています。

「勉強もいいですけど緊張せずに実力を発揮することの方が大切ですね。何しろ収録には一般のお客様も沢山いらっしゃいますし」

「テレビに出るの初めてだし、不安です……」

 二人共表情が冴えないです。イベントとテレビ出演では勝手が違いますから仕方ありません。

 

「ならリハーサルとして、ブレインズキャッスルの中で今出来るクイズをやってみるというのはいかがですか? 一度経験があれば多少はリラックスして参加することができると思いますよ」

「確かにそうかもしれないね」

「う、うん……」

「なら練習用のクイズを準備してきます。明日またプロジェクトルームに集合でいいですか?」

「はい」

 二人がコクコクと頷きます。

 

「杏さんも忘れないで下さいよ」

 寝たふりをしている彼女にも声をかけます。

「杏は別にいいよ~」

「駄目です。キャンディアイランドは三人のユニットなんですから一蓮托生(いちれんたくしょう)です」

「はいはい。あ~あ、面倒くさいなぁ……」

 渋々承諾頂きました。普段であれば空気を読まずに断るはずですから、彼女も彼女なりに智絵里さん達を心配しているのだと思います。杏さんはなんだかんだ言って面倒見が良くて優しい子ですからね。

 

 

 

 翌日もシンデレラプロジェクトのプロジェクトルームにお邪魔しました。キャンディアイランドの三人に挨拶をした後、早速本題に入ります。

「何事も慣れることが大切です。ブレインズキャッスルで出るクイズと同じものをいくつか用意しましたので、本番のつもりで回答して下さい」

「はい!」という元気の良い返事と、「は~い」という間延びした返事が返ってきます。

 

「まずは『アイドル☆ 検索ワード連想クイズ!』です。

 とある検索サイトで、あるアイドルの名前を打ち込んだ時に出てくる関連ワードを五つ無作為に抽出し順に発表します。そこから連想されるアイドルを早押しで当てる形式のクイズですね。それでは早速、第一問!」

 事前にググった結果を基に問題を言い始めます。

 

「まず一つ目は『元気』です」

「……」

 誰も回答しません。確かに元気だけでは特定は難しいと思います。

「二つ目のワードは『お茶』です」

「元気とお茶……?」

 かな子ちゃんと智絵里ちゃんが更に困惑しました。

 

「三つ目のワードは『ボンバー』です。さぁどうですか?」

「はい! 日野茜ちゃん」

「かな子ちゃん、正解!」

「やった~!」

 無事正解して笑顔になりました。ボンバーという言葉はよく茜さんが口にしていますから、それで特定できたのでしょう。

 

 二つ目のワードのお茶ですが、以前インタビューで好きな食べ物を聞かれた際に「お茶です!」と回答したのが話題になったので出てきたのだと思われます。

 それは飲み物だろ! と結構ネタにされていて可哀想だったので、お茶の葉入りのお菓子を差し入れたら「これで好きな食べ物がお茶でもおかしくありませんね!」と喜んでくれました。

 

「テレビで見てると簡単にわかるけど、緊張すると結構わからないんだねぇ」

「ええ。収録中はもっと緊張しますのでリラックスして問題に望むことが大切ですよ。それでは第二問いきます! 一つ目は『実年齢』です」

「はい。安部菜々ちゃん」

「せ、正解……」

「ふっふっふ。どやぁ」

 杏さんが渾身のドヤ顔をしました。一つ目のワードだけで即正解とは流石です。というかその一言で真っ先に連想される菜々さんって一体……。

 

 その後は用意してきた問題を消化しました。コツをつかめたようで最後の方は結構早く回答することができましたから本番も大丈夫だと思います。

「私達もこれから有名になったら関連ワードが表示されるのかな? 今から楽しみだね!」

「うん……。可愛い言葉だといいな」

「そ、そういうことはあまり気にしない方がいいですよ!」

「……?」

 

 お二人が恐ろしいことを口にしていたので慌てて止めました。自分で自分の名前を検索してはいけない(戒め)。エゴサーチは不幸しか呼ばないのです。

 ちなみに私の名前を検索したところ、『リアルガンダムファイター』『必殺の人的国防兵器』『ピンクの悪魔』『女死力MAX姉貴』『護られたいアイドルNo.1』『中二病患者』『個性の暴力』『RTA芸人』『メガトンコイン』『ロースコアガール』『ラーメンネキ』『二十郎ネキ』『ラーキチ』『外見は天使』『恵まれた容姿と家柄からドブみたいな内面』等の言葉が出てきました。流石にちょっとだけヘコみましたよ。

 

 

 

「続いては『本人似顔絵クイズ! 描いたのは誰かな?』です。アイドルが描いた自分自身の似顔絵を見て、それを描いた人物を当てるクイズになります。お願いして複数のアイドルに似顔絵を書いてもらったので、それを見て正解を当てて下さいね。それでは早速第一問! ババン!」

 三人の前に似顔絵を広げました。色とりどりのクレヨンで描かれた可愛らしい人物画が描かれています。

 

「これって、ウサギなのかな?」

 かな子ちゃんが首を捻ります。確かに絵の中心にはウサギっぽい衣装の女の子が笑っています。その隣にはお父さんとお母さんらしき方々が仲良さそうにしていました。

「あっ、わかったかもしれません」

「では智絵里さん、回答をお願いします!」

「えっと……。市原仁奈ちゃん?」

「はい、正解!」

「……やった!」

 

 そのまま小さくガッツポーズをしました。着ぐるみアイドルらしく、似顔絵もウサギの着ぐるみを着ていたのです。

 それにしても……仁奈ちゃんの周囲にいる仲睦まじいご両親の存在が涙を誘いますね。彼女のお父さんはお仕事で外国ですし、お母さんも非常にお忙しいとのことなので現実ではありえない光景なんです。この絵を満面の笑顔で差し出された瞬間、本当にいたたまれない気持ちになりました。

「明日、お菓子持っていってあげようかな」

「はい、できればそうしてもらえると助かります」

 そんな気持ちが伝わったのか、しんみりした空気になってしまいました。

 

「では気を取り戻して第二問です!」

 先ほどとは別の画用紙を広げました。そこには形容し難いクリーチャーが描かれています。

「……えっ」

「う、う~ん。これって本当に人なのかな?」

「何か精神が削られそう……。杏のライフはもうゼロだよ」

 三人揃って困惑の表情を浮かべました。凍ったような沈黙が周囲を支配します。

 

「は~い、ギブアップ~。で、正解は誰なの?」

 杏さんが早々に降参しました。残り二人も回答できなさそうな雰囲気です。

「正解は五十嵐響子さんです」

「あ~なるほど~」

「一応ご本人には自画像を描いて下さいってお願いしたんですけどね」

「こ、これから響子ちゃんを連想するのはちょっと難しいかな……」

「は、はい……」

 五十嵐響子さんも346プロダクション所属のアイドルさんです。家事万能な方ですが、絵だけは致命的に苦手なんですよねぇ。なんというか、画伯という称号がピッタリだと思います。

 

「続いて第三問です」

 再び三人の前に似顔絵の描かれた画用紙を広げました。そこには美麗な衣装に包まれた少女が描かれています。クラシックな正統派美少女アイドルという感じでした。

「美嘉さん……じゃないよね? 髪色は似てるけど、こういう清純派なアイドルっぽい雰囲気じゃないし」

「髪色がピンク色で、こういう感じの子ですか。他のプロダクションの方ですか?」

「ほら! 皆の身近にいる子ですよ!」

「う~ん……」

 かなこちゃんと智絵里さんが頭を抱えます。一方杏さんは薄ら笑いを浮かべていました。

「そ、そんなに難しいはずは無いんですけど……」

 結局タイムオーバーで、最後まで正解は出ませんでした。

 

「で、これは誰なのかな~?」

 杏さんがニヤニヤしながら悪戯っぽく訊いてきます。わかってて答えないのでしょう。

「……しです」

「ん?」

「私です!」

 思わず叫んでしまいました。何だか顔がとっても熱いです。

 

「こ、これ朱鷺ちゃん?」

「えっ……」

「何ですか! 自画像が清純派アイドルっぽくて何が悪いんですか!」

 思わず謎の逆ギレをしてしまいました。

「いや、悪くないよ! ちょっとだけイメージが違っただけだから!」

「……そう、そうなんです!」

 見え透いた言葉に聞こえました。こういうフォローをされると何だか死にたくなってきます。

「はいはい、すいませんね! ごめんなさいでしたぁ!」

 謝罪して早々に次の問題に移ります。

 

 

 

 その後四人でクイズを楽しんでいると、用意した問題を全て解き終わったことに気づきました。

「以上でリハーサルは終わりです。お疲れ様でした」

「ありがとうございました」

 お互いに一礼をします。

「本番を想定したクイズでしたがいかかだったでしょうか? 少しでもお役に立てたらうれしいですけど……」

「番組と同じクイズだったからとっても勉強になったよ!」

「色々と助けてもらって……本当に、ありがとうございます」

「うんうん、よかったよかった」

 三人の反応は上々なので一安心でした。気休めだとは思いますが少しでもこの子達の力になれたのなら幸いです。

 

「ニュージェネレーションズのみんなの時といい、朱鷺ちゃんにはお世話になりっぱなしだね」

「ホントホント。もうコメットは辞めてキャンディアイランドに来ない? 歓迎するよ~」

「ふふふ。お誘いは嬉しいですけど、私はコメット一筋ですから謹んで辞退しますよ。それに私がいればもっと楽ができると思っているんですよね?」

「ちっ、バレたか。でも朱鷺がいると上手く回って安心して眠れるから助かってるのは事実だよ。これからの時代は一家に一台七星朱鷺だね、うん」

「……家電ですか、私は」

 こんなことを言っていますが、調整役としての実力は杏さんの方が私より上なはずです。時たま見せる鋭い洞察力や本質を突いた発言がそれを物語っています。やはり天才ですよ、彼女は。

 

「でも、何だか申し訳ないような気がします……。初ライブの時といい、コメットがシンデレラプロジェクトのサポート役でなければ色々な苦労をしなくて済んだはずですから」

「それは違いますよ、智絵里さん」

「え?」

「私が皆さんをお手伝いしているのはサポート役だからという理由だけではありません。確かにそういう義務感で動いていた時期もありましたけど今は違います」

「じゃあ、何で私達のことを……?」

「私はシンデレラプロジェクトの大ファンなんです。皆さんの情熱や優しさ、ひたむきさに触れて、皆さんのことが大好きになりました。だから一人のファンとして力になりたい、そう思っているだけなんです」

 これは私の本心です。でなければここまで積極的に関わろうとは思いません。

 

「……ありがとう、朱鷺ちゃん!」

「うわわわっ!」

 かな子ちゃんに急に抱きつかれたのでビックリしました。心の準備がないままでこういうことをされると理性が飛びそうになるので勘弁して欲しいです。

「ありがとうございますっ!」

「智絵里さんまで!?」

「じゃ、杏も~」

「ちょ、ちょっと!」

 三人から思い切り抱きつかれました。美少女達に囲まれてオジサンはタジタジです。暫くの間、身動きが取れずに固まりました。

 これはもう、合意と見てよろしいですね? と思ってしまいましたよ。ついついドキドキしてしまい自分を抑えるのが大変でした。

 

 なお余談ですが、ブレインズキャッスルはかな子ちゃん達が出演する直前に『筋肉でドン! マッスルキャッスル』という体力系バラエティー番組へリニューアルされたとのことでした。

 キャンディアイランドの皆さんの頑張りもあり、結果は引き分けでデビューCDのPR活動もできたので良かったですけど、企画変更をする際には前もって連絡すべきではないでしょうか。

 そしてリニューアルした番組で自分がとんでもない目に遭うなんて、この時の私には知る由もなかったのです……。

 

 

 

 

 

 

 




ご一読頂きありがとうございました。
マッスルキャッスル回は第四章で改めてご紹介しますので、暫くお待ち頂ければ幸いです。
また誤字報告をして頂きました読者の皆様、ありがとうございました。毎回とても助かっております。この場を借りて重ねてお礼申し上げます。
なお、次回は『RTA CX』回(問題回)になります。どうぞよろしくお願い致します。







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