ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

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第40話 じゅうべえ再び

『ボーパルバニーは、ウサミンにとびかかった。3かいあたり、7のダメージ。ウサミンは、くびをはねられた!』

 モニター画面に表示されたメッセージを見た瞬間、音が爆発したように一瞬だけ広がります。気付くと手元のコントローラーが真っ二つに割れていました。

 

「はい、リセットで~す」

 やや投げやりにつぶやいた後、ファミコン互換機のリセットボタンを押します。今日は既に三回目のリセットなので撮影スタッフさん達の間にもシラーッとした空気が漂いました。

「コントローラーの交換をお願いしますね」

「はい、只今」

 そう言ってADの龍田(たつた)さんがスタイリッシュにコントローラーを交換します。

 

 彼は身分こそADですが、冷静沈着な態度とテキパキとした仕事ぶりが光るナイスガイのため私も一目置いています。クール過ぎるところもありますけど、きっと将来は出世するでしょう。

 最初こそあまり噛み合いませんでしたが、今や私とは阿吽(あうん)の呼吸であり収録中は我が手足となって働いてくれています。番組の名物ADであり視聴者からの人気も結構高いです。

 

 

 

 本日は私のレギュラー出演番組である『RTA CX』の収録日でした。

 この番組はテレビゲームのRTA(リアル・タイム・アタック)に焦点を当てており、毎回異なるゲームのRTAに私が挑戦し、長時間の収録時間内にクリアして最速記録を目指す『朱鷺の挑戦』をメイン企画にしたゲームバラエティーです。

 朱鷺の挑戦以外にも、ゲームクリエイターにインタビューしてゲーム製作の裏側に迫るコーナーやレトロなゲームセンターに行って遊ぶコーナー等もあります。ゲーム好きの私としてはとてもやり甲斐があって楽しいお仕事ですね。

 

 ちなみにRTAとは、 ゲームのプレイ開始からクリアまでに実際にかかった時間の短さを競うプレイスタイルのことを言います。実時間(リアルタイム)の短さを競うことから縮めてこう呼ばれます。

 セーブやリセットの時間や食事・休憩なども全て含めた、現実にかかった時間が計測の対象になるのでゲーム内の時間を計る通常のタイムアタックよりも過酷です。

 

 当初は月一の衛星放送でしたが、私のアドリブが利いたプレイングとキレながら毒を吐く様子がレトロゲーム世代のご年配方やナウなヤング達を中心に大受けしたらしく、今では隔週での放送に格上げされています。

 衝動的な怒りでコントローラーを破壊するところが特に人気で、今ではその回でコントローラーが何個破壊されるのかを予想する番組クイズまで出来ました。正解者の中から抽選で一名に、その回プレイしたゲームを私のサイン付きでプレゼントしています。

 別にわざと壊しているわけじゃないんですけど、やり直しが効かない収録の本番で即死攻撃等をされるとついやってしまうんですよ。

 

 今日私がプレイしているゲームはファミコン版『ウィザードリィⅠ 狂王の試練場』です。

 RPG(ロールプレイングゲーム)の発展に大きく貢献した傑作シリーズの第一弾で、あのドラゴンクエストシリーズやファイナルファンタジーシリーズのような家庭用大作RPGにも多大な影響を与えた超名作です。いつものクソゲー共と違い私も大好きなゲームです。

 

「では再走しま~す」

 先程はパーティーの一人が即死攻撃を喰らってしまいあえなく失敗となりましたので、改めて挑戦し直します。早速キャラクターメイキングを始めました。

 ウィザードリィの魅力の一つがキャラクターメイキングです。通常のRPGとは異なり、ウィザードリィには使用しなければならない固定キャラクターはいません。パーティーに加える仲間は自分で作るのです。ドラクエⅢの仲間システムの原型みたいなものでしょう。

 

 メイキングの際には名前、種族、性別、属性、職業を自分で設定します。パーティは最大六人で前衛と後衛に別れていますので、通常は前衛に戦士を配置し後衛に僧侶や魔術師等の支援役を配置するのがセオリーとなります。

 キャラにはコメットの皆の名前を付けましたが、六人パーティーだと二名分足りないので友紀さんと菜々さんのお名前をお借りしました。菜々さんはウサミン名義ですけどね。

 

「それにしてもさっきからウサミンは首を刎ねられすぎじゃないですか?」

「そうですね。先程で三人連続です」

 龍田さんが相槌(あいづち)を打ちました。

「しかも同じウサギにやられてますからねぇ……。同士討ちとは何とも不憫(ふびん)です」

 先程戦った敵────ボーパルバニーは可愛らしい外見に反し、驚異の跳躍力と素早さ、そして発達した門歯で人間の首を掻っ斬る残酷なモンスターです。全く心がぴょんぴょんしません。

 

「いざ鎌倉!」

 キャラメイクを終えて再びダンジョンに向かいます。ダンジョン内で何か良い出会いが待ってればいいなと思いましたが、出会ったのはまたも殺人ウサギの群れです。

「さあ、楽しい楽しい、運ゲーのお時間ですよ……」

 祈るのみですが当然の権利のようにウサミンが首を切られました。哀れナナ……。

 

 

 

「はい、それでは完走した感想ですが、ウサギは鍋にして食べてどうぞって感じでした。あと探索が楽しいゲームでRTAをしてはいけないです」

 その後数時間挑戦し、ようやくクリアとなりました。

「クリアタイムは58分12秒ですか。世界記録には遠く及びませんでしたが、完走優先ですから仕方ありません。今に始まったことでもないので気にしたら負けですね」

 私はRTAが好きなんじゃない、安全に完走するのが好きなんです。こんなことを言うとガチ勢から怒られてしまいますが、自分なりにベストを尽くして結果を出せばそれでいいんじゃないでしょうか。

 ナンバーワンじゃなくても特別なオンリーワンであればいいのです。前世でそんなことを歌っていた有名アイドルグループさんはとても残念な結果になってしまいましたけどね。ブラック事務所は怖いなぁ。

 

「七星さん、ここで一つ番組からご連絡があります」

「はい?」

 カメラがまだ回っている中、龍田さんが台本には書かれていないことを言い始めました。一体何でしょうか。

「次回ですが、『RTA CX』の特別編となります」

「特別編……ですか?」

「ええ。スマイル動画さんからオファーを頂きまして、次回は先方とコラボしプレイ風景をスマイル生放送でライブ配信します。その様子を編集し後日番組で放映させて頂きます」

 

 スマイル生放送──スマ生とは、スマイル動画という動画サイトが提供しているインターネットを利用したライブ配信サービスのことです。

 その話を聞いてこれマジ? と一瞬思考停止しました。だってコラボ先があのサイトですよ?

 匿名で動画投稿していた頃、『糞運営』『オワコン』『無駄に豪華な本社は爆破で』『鯖強化せず障害発生させる無能オブ無能』『超重いサイトを放置して誰得イベントをやるアホはクビだクビだクビだクビだ!』等の暴言を放った奴にコラボを仕掛けるとか正気の沙汰とは思えません。

 よほど器が大きいか馬鹿なのかの二択ですが、前者はありえないので後者で間違いないです。

 

「そして次回RTAに挑戦するのは七星さんだけではありません。とあるアイドル様にも同時に挑戦して頂きます」

「だ、誰ですか?」

 この苦行に挑戦するとは余程の命知らずなのでしょうか。

「それは当日まで秘密です。ですが七星さんもよくご存じの方ですよ」

「えぇ……」

 私と共にRTAをやるなんて何とも奇特な子です。しかし秘密にされている以上、確認の仕様がありません。

 

「……わかりました。それで次回プレイするソフトは何でしょうか」

 それが一番重要です。ストレスの溜まるソフトだと何を口走るかわかりませんから、走り易くてプレイ時間が短いものにして欲しいですね。

「次回挑戦するゲームはこちらです」

 後ろ手にして持っていた大きいロムカセットを手渡されます。とんでもなく嫌な予感がしたので恐る恐るタイトルを確認した瞬間、「げっ!」と呟いてしまいました。

 

「……マジですか?」

「はい。視聴者の皆様のリクエストが大変多かったので」

「皆さん精神状態おかしいですよ……。ていうか無理無理無理! 出来ない!」

「辛い試練を乗り越えてこその挑戦です。RTA走者なら、走らなければいけない時はどんなに辛くても走らねばならないのではないでしょうか」

「くっ……」

 二十歳そこそこの若造にマジレスされてしまうと返す言葉もありません。しかし私にとって因縁深いゲームとまた向き合うことになるとは思いませんでした。

 この忌まわしきソフト──『じゅうべえくえすと』と。

 

 

 

 じゅうべえくえすとは現バ○ダ○ナ○コから発売されたファミコン用のゲームソフトです。

 主人公の柳生十兵衛こと『じゅうべえ』と、その従者である『龍姫(りゅうひめ)』『ウルフ』『イワン』の四人が協力し、敵である魔界衆の野望を打ち砕くために摩訶不思議な戦国ワールドを大冒険します。

 システム的にはドラクエ等に(なら)ったオーソドックスなRPGになりますね。RPGの基本通り、敵を倒してお金を貯めて新しい装備を購入し、新たな仲間を見つけ出していく。そんなレトロゲームです。

 

 ちょっとだけ擁護しますが、通常プレイであればそこまで悪くはない作品です。

 全十章に及ぶ長編で遊び応えは十分であり、当時では珍しいどこでもセーブ機能搭載です。サウンドも結構良いですしレベルを上げて物理で殴ればそれなりに快適なので、このゲームが好きだと思う人がいても不思議ではありません。

 私も通常プレイではそこまでキレはしませんでした。まぁ、今の時代にあえてやる必要はないですけどね。

 しかし低レベル進行であり1秒を競うRTAの場合、とんでもない大問題児に変貌します。

 

 エンカウント(敵との遭遇)率が異常に高い、敵が滅茶苦茶強い上に攻撃魔法が効き難い、助っ人の仕様がストレスフル、長編のためプレイ時間が激烈に長い等々……問題点は枚挙に(いとま)がありません。

 前世にいらっしゃった偉大なRTA走者様が苦しみながらもプレイしていたので、私もヤホオクで買って挑戦しましたが危うく胃潰瘍になるところでした。全編に渡って酷い運ゲーなのでやはりヤバいです。

 動画編集して投稿したのはもう三年も前ですけど、それ以来押し入れの奥底に封印していました。その封印を解く日がやってこようとは思いませんでしたよ。

 まぁ、チャート(攻略手順)は完成していますので改めて調査しなくていいのは唯一の救いです。

 

 

 

 そんなこんなで収録当日になりました。

 収録自体はテレビ局内にあるいつもの小スタジオで行われますが、本日は通常の撮影スタッフさんに加えてスマ生の撮影スタッフさんや機材が入っています。本日は別のアイドルもRTAに挑戦するため、その隣の小スタジオもセッティングが行われていました。

 

「ふぅ……」

 時間が来るまで控室で待機することにします。ポケモンの孵化(ふか)厳選を黙々とやっているとノックの音が聞こえました。

「入っていいですよ。どうぞ~」と声を掛けると、恐る恐るドアが開きます。

 

「あの……おはよう、ございます」

「……智絵里、さん?」

 とても意外な方がそこにいらっしゃいました。あれっ、今ここにいるということはもしかして……。

「本日はよろしくお願いしますっ」

 そう言いながらペコリと頭を下げました。ああ、やっぱりです。

 じゅうべえくえすとの毒牙にかかるのは智絵里さんでした。

 

「私が言うのも何ですけど、何でこんな仕事受けちゃったんですか?」

 お互いメイクをしている最中、最大の疑問をぶつけてみました。

「あの、P(プロデューサー)さんが、地道にコツコツ頑張る私に向いている仕事じゃないかって……。だから思い切ってやってみることにしました……」

「仕事に前向きな姿勢は素晴らしいですけど、よりにもよってRTAは難易度が高いような……」

「……そうかも、しれないです。でも、どんなお仕事でも選ばれたからには頑張ろうって思えるんです。私、後で後悔するのは嫌だから……」

 相変わらずの真面目っぷりです。ここまでの固い決意がある以上、横から口は挟めません。

 

「今回のソフトはプレイされましたか?」

「朱鷺ちゃんが公開しているチャートを参考に、何回か挑戦してみました……」

「それならとりあえずは問題なさそうですね。本番だと緊張して思わぬミスをしてしまいますから、今回はまず完走することを第一に挑戦しましょう」

「完走できるように頑張ります……」

「何かあったらアドバイスをしますので、声をかけて下さいね」

「は、はい!」

「すいませ~ん! セット完了したのでよろしくお願いします~!」

 会話していると呼び出しがかかりました。自分のプレイよりも智絵里さんが無事に収録を乗り切れるかが本当に心配です。

 

 

 

 そしてライブ配信の時間になりました。

「はい、3・2・1……」

 龍田さんが合図を出します。画面の切り替わりを確認した後、言葉を発します。

「皆さん、こんにちは。『RTA CX』のお時間がやってまいりました。さて今回ですが、いつもとは趣向を変えスマイル生放送でライブ配信をしております。朱鷺の挑戦は毎回編集したものを放送し無編集版を別途動画サイトにアップロードしていますが、今回はスタートからエンディングまで配信でお届けしますので是非お楽しみ下さい♪」

 営業スマイルのまま深くお辞儀をしました。なお、スマ生ではユーザー達のコメントが流れる仕様となっていますので、早速『beam姉貴キター!』『RTA芸人』『世界最強姉貴』『リアル夜兎族』と言ったコメントの弾幕が張られています。

 

「七星さん、お疲れ様です。少しよろしいですか?」

「はい、龍田さん。何でしょう?」

「今回は折角の生放送です。一人で黙々と挑戦するのは少し寂しいかと思いますので、ゲストをお連れしました」

「そうなんですか。一体どなたか気になります!」

 当然智絵里さんですが、台本に書いてあった通りすっとぼけます。

 

「こ、こんにちは……!」

 すると智絵里さんがカメラの前に出てきます。とても緊張しているようで声が震えていました。

「あ、あの……。キャンディアイランドというユニットの緒方智絵里です……。本日は朱鷺ちゃんと一緒にRTAをさせて頂くことになりました。初めての挑戦なので上手く出来るかわかりませんが、よろしくお願いしますっ」

 そう言いながらカメラに一礼すると、『可愛い』『キュート』『天使』といったコメントが一斉に流れました。私が出た時にはそんなコメントは一切なかったんですけど、システム障害でも起きているのでしょうか。

 

「そして今回お二人にプレイして頂くソフトはこちらです」

 じゅうべえくえすとがドアップで映し出され、ゲームの紹介VTRが流れます。すると画面が見えなくなるくらい草が生い茂りました。貴方達本当にそれ大好きですね。そんなに好きなら自分でプレイしてはいかがでしょうか。

「今回はお二人の対決という形になります。緒方さんには別室で挑戦頂きますが、そちらの様子も別枠で中継しますのでお楽しみ下さい」

「はいっ! ふつつか者ですが、頑張ります……」

 

「ところで七星さん。対決ですが、緒方さんは初心者ですからハンデが必要だと思います」

「RTAでハンデって意味がわかりませんけど……」

 龍田さんが台本外のことを口にしました。1秒でも早くゴールする競技なのにハンデとはこれ如何に。

「では縛りプレイのRTAということでどうでしょうか。今回の収録に限り一つだけ制限を設けさせてもらえると、盛り上がりもアップするはずです」

「……別にいいですよ。その制限とは何ですか?」

 番組としてそういう指示であれば従います。私としては制限の中でベストを尽くして結果を出すだけですから何も変わりません。

 

「では、縛りの条件をこちらにまとめました。第七章に入ったら開封して下さい」

 便箋を差し出されたので受け取ります。中には紙が一枚入っていました。

「それまでは普通プレイでいいんですか?」

「はい。第七章限定の縛りですのでよろしくお願いします」

 何だかよくわかりませんが、まぁいいです。どうせ後でわかることですしね。

 

 

 

 

 智絵里さんと別れてモニターの前に陣取ります。前置きが長くなってしまいましたが、いよいよスタートです。

「それでは、『RTA CX』スイッチ、オン!」

 そのままファミコン互換機の電源を入れました。さぁ、ここからは修羅道です。長丁場になりますので腰を落ち着けてプレイしていきましょう。

 

「智絵里さんも用意できましたか?」

「は、はい!」

 机上にはゲーム画面用のモニターと私の配信を映すモニター、そして智絵里さんの配信を映すモニターが三つ並んでいます。配信越しに声をかけるとやや焦った返事が返ってきました。

「スタートボタンを押したら計測開始なので一緒に押しましょうか。はい、よーいスタート」

 こうして私と智絵里さんの過酷な挑戦が幕を開けました。

 

「まずは主人公の名前入力です。じゅうべえのままでもいいんですが、ここは入力時間を考慮して『ほも』にします。いつも言っていますけど同性愛者の方を貶める意図は全くありませんのでその点はご理解願います。昔は男色が普通ですから大丈夫大丈夫、ヘーキヘーキ」

 最近は人権問題とか色々とうるさいですからね。ならこの名前自体止めろよと思われるでしょうが、前世から付けられていた大変伝統ある名前なので仕方がないのです。

 

「まずオープニングの紹介です。空から降ってきたじゅうべえ(現在はほも)は柳生さんに拾われ育てられました。その後お父さんから、最近発生している物騒な事件を解決してこいと言われ家を追い出されましたとさ。ゲームの世界でもニートへの風当たりは強いようですねぇ」

 そして家宝の刀を渡されました。実家を家探しした後、外に出ます。

「それでは始めま~す」

 一の巻(第一章)のタイトルが出たので呟きます。

 

「ひなびた田舎町に用はないので早く外に出ましょう」

 実家がある村から外に出ようとします。すると出口では女性が暴漢に襲われているので助けに入りました。

 戦闘画面に入り攻撃をすると暴漢が倒れます。家宝の名刀を装備していますから当然ですが、助けた女性に刀を奪われてしまいました。二人共、敵の組織の構成員だったようです。

 当然知っているので特に気にせず村外に出ると、ワールドマップに切り替わりました。

 

「ではセーブ歩きに入ります。エンカウント率が激烈に高いですからね。仕方ないですね」

 どこでもセーブ機能でセーブした後、数歩歩いてまたセーブ。これをただひたすら繰り返します。装備がない今の状態だとザコ敵すらまともに倒せないので、次の町へ辿り着くまでこの調子です。当然、エンカウントして逃げられなかったら即リセットです。

 するとコメント欄が『じゅうべえウォーク』で埋まりました。まぁ、盛り上がるのも今くらいです。最終章までこの動きは続きますから絶対に途中で飽きます。

 

 宝を回収しながら尾張の町に着きました。道中は三リセくらいで済みましたから今日は運がいい方でしょう。

「尾張に着きました。尾張なのに最初の町とは中々高度なギャグです」

 そんなことを呟きながら拾得物を横領し、実家から持ち出した物品を道具屋で売却しました。そして回復薬と武器防具を購入してからレベル上げに入ります。

 

「おっ、早速しろぼうずくんです。三匹組は経験値的にうま(あじ)ですねぇ」

 てるてる坊主みたいな格好をした、この辺りで一番の雑魚を狩っていきます。このゲームは敵の強さと経験値が比例していないというレトロゲー特有のガバガバランスなので、倒しやすくて経験値を多く持っている敵を集中狙いするのがセオリーです。

「貴方達のことが好きだったんですよ!」

 やや苦戦しながらも何とか倒すことができたので、またセーブして雑魚狩りを続けます。延々これの繰り返しです。この時点でもう止めたくなってきています。

 

 するとレベルが2になったので先に進むことにしました。洞窟っぽいところに入って、中ボスのおおなまずくんを退治します。

「ナマズってちゃんと泥抜きしてあげれば結構美味しいんですよねぇ。私も昔食べ物がない時はよく捕まえてましたっけ……」

 前世では何回かお命を頂きましたので供養の気持ちを込めて倒しました。するとキーアイテムであるコスモトロンを渡されます。これを集めるのが当面の目的になります。

 

「わーい! でぐちら」

 そして洞窟の反対側から外に出ます。再びフィールドマップに切り替わりました。

「さて、ここから先は物凄いクソ作業が始まります。視聴者の皆様が何人付いてこられるか見ものですよ。フフフ……」

 愚痴を漏らすと『もう(クソ作業が)始まってる!』というコメントが一斉に流れたのでつい笑ってしまいました。視聴者ツッコミ型RTAというのも中々面白いですね。

 

 

 

 その後は昔のRPGによく見られるお使いが延々と繰り広げられましたので割愛します。見どころさんは何もないですからしょうがないですね。

 案の定結構な数の視聴者が振り落とされましたが、それでもコメントは全く絶えていません。人が少なければ多少ガバっても目立たないのでもっと減って欲しいです。

 進捗(しんちょく)としては第三章の終わり頃で、従者の龍姫とシロがやっと仲間になったところです。これから悪夢の運ゲーに挑むので胃が痛いところですけど……。

 そういえば智絵里さんは大丈夫でしょうか。自分のプレイに集中していたため、あちらをよく見ていませんでした。

 

「智絵里さん、大丈夫ですか? ちゃんと生きてますか~?」

「だ、大丈夫ですっ!」

「進み具合はどうでしょう。三章の中盤くらいには行きましたか?」

「ええと……。さっき四章に入りました」

 ん? 今なんて?

「ほ、本当に四章なんですか?」

「はい。思ったよりも敵の子達と出会わなかったので順調、です……」

「……そうですか、引き続き頑張って下さい」

「わかりました」

 

 これはまずい。

 RTA初心者に完全に先を越されているじゃないですか! この道約七年のプロとして、ポッと出の智絵里さんに負けたら立つ瀬がありません。『初心者に負けるRTA走者の屑』としてネタにされるに決まってますよ。

 こうなったら本気を出して好記録を狙わざるをえないようです!

 

 急いで次の町に向かいましたがエンカウント地獄が私の行く手を阻みます。

「こういう事をされるとね、ゲームにならないんですよ!」

 急いでる時に限ってエンカウント率を激烈に高くするのやめロッテ!

 それでも何とか門司(もじ)の町に着くと港を塞いでいた障害物を取り払いました。そして道具屋で鉄パイプを五本購入します。先程一本拾ったので計六本になりました。

 

「カモン源内! 早くミサイルポッドを作るのです!」

 そう叫んで助っ人の源内を呼び出します。このゲームには助っ人と呼ばれるサポートキャラが居ます。彼らにはそれぞれ特殊能力があり、源内はアイテムを他のアイテムに変換するという能力を持っています。

 これから必要となるミサイルポッドは攻撃アイテム中二番目の破壊力を誇る大量破壊兵器です。これは鉄パイプから変換が可能なので、この機に六本まとめて変換するという作戦でした。

「Vやねん!」と必勝祈願の言葉を呟きつつボタンを押します。

 すると『トホホ…失敗じゃ…』という無情なメッセージが流れました。

 

「どこがVやねん!」

 勢い良く叫んでリセットしました。ロードして成功するまでチャレンジです。

 そう、これこそがじゅうべえくえすとRTAの最大の問題点────クソ変換リセゲー地獄です。アイテムを一つ変換するだけで多大な時間を浪費してしまうという大問題児です。

 しかも結果は超クッソ激烈に偏るため、連続で成功することもあれば失敗することもあるという素敵仕様となってます。だからこのクソゲーを再走するのは嫌だったんですよ!

 智絵里さんに差をつけられている以上、速やかに変換をしなければいけないのにこの仕打ちは酷いですが、今は前進するしかありません。ユクゾー!

 

『トホホ…失敗じゃ…』

 三十回目の失敗メッセージを目にした後、けたたましい破裂音と共に手元のコントローラーが粉々になりました。龍田さんが颯爽と現れて原型が無くなったコントローラーをテキパキと交換していきます。

 なお、コメント欄はサバンナ並みの大草原になっていました。ロクな視聴者が居ませんね、この配信。

 

「あのさぁ……二十回連続失敗は流石におかしくないですか?」

「成功確率は24%ですので、そういうことも稀によくあるかと」

「こんなんじゃRTAになんないですよ~……」

「それでも我々は前に進むしかありません。前進しようとする意志さえあれば、いずれ道は(ひら)けるのではないでしょうか」

「……わかりましたって」

 渋々再開します。この子、妙に悟ったようなことを言うんですよねぇ。これがさとり世代というやつですか。小癪な。

 すると次からは四連続で成功しました。だから偏り過ぎですって!

 

 

 

 その後もプレイし続けましたが、智絵里さんとの差は埋まるどころか少しづつ開いていきました。というか彼女、私の作成したチャートを改良して最適化していたのです。しかも安定を犠牲にしたガン攻めチャートです。

 虫も殺さない純真無垢な感じなのにあの攻めっぷりとは……智絵里、恐ろしい子!

 しかしあれだけハイリスクなチャートですからどこかで崩れるに違いありません。その時逆転できるようにこちらもミスなくコツコツ進めて行きましょう。

 なお、現時点でコントローラーが三個お亡くなりになっています。その事実だけでこのRTAのクソっぷりがよくわかると思います。

 

 そしていよいよ七章になりました。たしかこの章はハンデがあるんでしたよね。正直私がハンデを貰いたいですが、今更言っても仕方ないので封筒を開けます。

「ぷっ!」

 入っていた紙に書かれている文字を見て思わず吹き出しました。するとコメント欄が『何だ何だ?』と騒ぎ出します。

「ハンデの内容ですが、こちらです」

 龍田さんが華麗な動作で紙をカメラに向けます。

 そこには『一度メガトンコインを持ったまま氷の橋を渡る』と書かれていました。

 すると『メガトンコイン』『パワースポット』『そのためのじゅうべえ』『伝説再び』『神回』と言ったコメントや草で画面が埋め尽くされます。

 

「覚悟は出来ているんでしょうねぇ……」

 龍田さんをキッと睨みつけましたが、奴は至って平然としています。

「馬鹿じゃないんですか? 死んだらいいんじゃないんですか?」

「初心者に対する配慮ですので、ご理解とご協力をお願いします」

 立方体の空間が不穏な空気に満ち(あふ)れました。

「ケンカをお売りになっています? それとも貴方の頭蓋骨内部はメイクミラクルなんですか?」

「いえ。私が見込んだ(おとこ)ならばこれくらいの苦難は乗り越えられる。そう思っているだけです」

「アイムギャ~ル、アイムギャ~ルナ~ウ!」

 煽っても平然とスルーしやがりました。煽り耐性たけーなオイ。

 

 泣く泣く諦めて指示通り進めることにします。最後の従者であるイワンを仲間に加えて、七章のボス城である氷結城に向かいました。もちろん入口の宝箱に入っているメガトンコインを持ったまま進みます。

 畜生にも劣るダンジョンギミックやエンカウントに耐えながら、先へ先へと急ぎました。道すがら以前私が投稿したRTA動画を見ていない人向けに解説をしていきます。

 

「え~メガトンコインとは、名前の表すように非常に重量があるコインです。その重量のため、これを所持したまま隣の塔に渡る氷の橋を通ると……」

 実際に氷の橋を渡って行きました。すると中腹で異変が起きます。

「……こうなるわけです」

 橋が壊れ、ほも一行は哀れにも自由落下していきます。

 その瞬間コメントが勢い良く乱れ咲きました。草の量もサバンナを超えてジャングル状態です。

 

 元々のチャートでは、メガトンコインは入手後に町で売り払ってから再突入する予定でした。ですが前回RTAに挑戦した際、ついつい売り忘れて今回同様フリーフォール状態になったのです。

 その行動がRTAとしてあまりにもアレだったため、以降メガトンコイン=私のガバガバなプレイングと揶揄(やゆ)されるようになりました。だってあのミスのリカバーのためだけにクソゲーの再走は絶対にしたくなかったんですもん。

 

 私が尊敬するRTA走者様も同様のミスをされておりその時は爆笑していたのですが、まさか自分が同じミスをするとは思いませんでした。前世に戻り腹を切ってお詫びしたいです。

 前世ではあの御方のプレイングをガバガバと非難する人もいましたが、一般人と比べたら遥かに早いですしチャートも綿密ですから本当に凄いんですよ。ただ運とコントローラーが腐っているだけなんです。自分でRTAをやってみてそのことが身に沁みてわかりました。

「こ、今回はこういう縛りだからっ! ガバプレイじゃないんだからねっ!」

 顔が超熱いです。いや~もう十分堪能しましたよ……。

 

 ロードしてメガトンコインを捨ててからこの章のボスであるダルマ大師くんに挑みます。

 小学生が書いた雪だるまの絵のような幼稚なキャラデザですが、即死パンチを放つ豪腕ボクサーです。術で昏睡させなければ勝負にすらなりませんのでひたすら祈るのみ。

「……ダメみたいですね」

 2ターン目も術は不発でした。幕之内一歩並みの強力な拳であえなくほもがブチ殺されましたのでロードしてやり直しです。

「すみませ~ん、七星ですけど~。ま~だ時間かかりそうですかね~?」

 結局六連敗しました。智絵里さんは一発で難なくクリアしていたんですけど、この差は何なのでしょうか。ちなみにこの時点で軽く15分は差をつけられています。

 

 メガトンコインで負った心の傷がどんどん開いたためか、その後もタイムはお通夜でした。

 それでも何とか頑張ってラスボスまで辿り着くことができたのです。既に8時間経過していますので、大分意識が朦朧(もうろう)としています。何を呟いているのか自分でもよく分かりません。

「……では、ラスボスのマインマスター戦です。朱鷺、行きまーす!」

 精一杯の元気を振り絞り、巨大ロボっぽいラスボスに特攻しました。ラスボス戦では最高火力の攻撃アイテムであるフルメタルボムをいかにぶちこむかが重要になります。

 

「ヒャッハー! 汚物は消毒だ~~!」

 景気のいい雄叫びとともにフルメタルボムを投げ込んでいきますが、運が悪いことに超高火力の単体攻撃を連続して喰らったため既にパーティはボロボロです。味方全体が自動蘇生するアイテムもありますが、この状態では蘇生してもジリ貧ですから無言でリセットしました。

 当然、コントローラーは塵と滅しています。

 

「……これ私が直接戦った方が早く終わりませんか?」

 そう呟くと『せやな』『せやせや』『そうだよ』『当たり前だよなぁ?』というコメントが一斉に流れました。多分1分以内に消滅させられると思うんですけど。

 結局三回目のトライで何とか撃破に成功しました。

 ……どう見ても普通プレイです。本当にありがとうございました。

 

 

 

 二人共挑戦が終わったので、私のいる小スタジオの方に集合します。

「七星さん、緒方さん、長時間お疲れ様でした」

「お疲れ様でした」

「は、はいっ! お疲れ様でした!」

 何とか営業スマイルを維持して会釈します。お仕事モードのおかげで冷静を保っていますが、内心は激おこぷんぷん丸です。このゲームの製作者共に小一時間説教したい。

 

「完走おめでとうございます。まずは走り終わっての感想を頂きたいと思います。それでは七星さんからお願いします」

「……はい。完走した感想ですが、私はゲームが上手くありません。これだけははっきりと真実を伝えたかった」

 クドクド言い訳するつもりはありませんので、シンプルに反省の弁を述べます。すると『知ってた』というコメントが配信画面を覆いました。……ちくせう。

 

「七星さんの記録は8時間24分52秒でした。以前投稿された動画の記録より僅かに早いので十分健闘されたと思います。破壊したコントローラーは七個で、こちらは番組新記録ですね」

 龍田さんのフォローが心に刺さります。こんな有様で同情されるならかえって罵倒された方が気が楽ですよ。そして不名誉な破壊記録は闇に葬りたいです。

 

「一方、緒方さんの記録は7時間59分35秒でした。8時間切りということで素晴らしい記録だと思いますが感想はいかがでしょうか」

「えっと……。朱鷺ちゃんが公開しているチャートを少し変更しただけなので、朱鷺ちゃんが凄いんだと思います……。それにチャートを変更する際には、杏ちゃんがアドバイスしてくれたので……。あと練習中はかな子ちゃんに美味しいお菓子で応援してもらえました。だから、この記録はみんなで出した記録なんだと思います」

 

 恥ずかしがりながらもしっかりと感想を述べました。私のフォローまでしてくれるなんて、この子は天使の生まれ変わりではないでしょうか……。

 配信画面にも『人間の(かがみ)』『アイドルの鑑』『大天使』『チエリエル』といった賛辞のコメントが続々と表示されました。私としては非常に不本意な結果でしたが、今回のRTAを通じて智絵里さんの魅力が少しでも伝わったのであればそれはそれで良かったかもしれません。

 

「それでは今回の特別編は以上となります。長時間のご視聴、ありがとうございました」

「皆さん、ありがとうございましたっ」

 カメラに手を振って収録を終えます。もう二度とじゅうべえくえすとはやらないと、心の中で固く誓いました。

 

 

 

 結局この配信の視聴者数はかなり多かったようで、スマ生の記録になったそうです。番組も非常に好評で、今後も不定期でコラボ放送することになりました。こういう回もたまには悪くないですが、せめてプレイするソフトはこちらで選ばせて欲しいですね。

 

 ちなみにこの回以降、私のファンの間では『ヒャッハー!』という言葉が挨拶として広く使われるようになりました。

 着々と世紀末化が進行しているのですけど、誰か止めて頂けないでしょうか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ご一読頂きありがとうございました。
本話執筆の参考として死ぬ思いで同ソフトのRTAを走りました(疲労困憊)。
なお、以下の動画も参考にさせて頂いたため参考文献(動画)として記載致します。但し紹介のリンクを貼るのは控えるようハーメルン様のFAQにありましたので、申し訳ありませんがそちらは割愛させて頂きます。
biim 様(2013) ニコニコ動画「じゅうべえくえすとRTA_8時間24分51秒_Part1/12~12/12」 sm22519361他(参照2017-2-25)




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