ブラック企業社員がアイドルになりました   作:kuzunoha

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第8話 常人と狂人

 おこです。マジおこです。

 

 これが、本日オープンしたコメットの特設HP(ホームページ)を学校の休み時間に見た時の、私の率直な感想でした。

 

 学校が終わると同時に人類史上最速で346プロダクションに直行し、脇目も振らず犬神P(プロデューサー)のオフィスに突っ込みました。ノックすらしません。

 扉を開けると同時に北斗無想流舞(ほくとむそうりゅうぶ)(瞬間移動技)を使い、自席でパソコンを使う犬神Pの背後へ瞬時に回りこみ、喉笛に対し直角に手刀を押し当てます。完全に暗殺者です。

 

「さて、何か申し開きはございますか」

「な、何のことだい? というか今の動き何っ!?」

 犬神Pがひどく動揺した声で返事をしました。これはすっとぼけていらっしゃいますね。よほど北斗百裂拳を喰らいたいと見えます。

「コメットの特設HPの件です」

 私がそう言うと、犬神Pは「ああ……」と苦々しく呟きました。心当たりはあるようです。

「ブラウザで特設HPを開いて頂けますか」というと、彼は素直に指示に従いました。

 

 コメットは余り期待されていないプロジェクトですが、犬神Pの努力によりシステム部の皆様のご協力を得て、デビューミニライブ前に特設HPを作って頂けることになりました。

 特設HPでは各メンバーの簡単な紹介や、新曲に関するアピール、デビューミニライブの詳細等がポップなテイストで記載されています。全体的に可愛らしいデザインですしそれ自体は何も問題はないのです。

 

「それでは、私の紹介ページに行って頂きましょうか」

 手刀を強めに押し当てながら言うと、犬神Pが該当のページにアクセスしました。当然そこには私の写真とプロフィールが記載されています。

「では、読み上げますね。『七星朱鷺 14歳の中学二年生で~す♥ コメットのリーダーで、皆のお姉さん的な存在なんです! 皆さん、よろしくお願いしますね♪』ですか。あらあら、何とも頭が悪そうな感じですが、これは別にいいでしょう」

「うん、何の問題もないね」

 

「身長169cm、体重48kg、スリーサイズの86-55-85も測定通りなので問題はありません。イメージカラーが白というのも申請どおりなので良かったです。清廉潔白な私にぴったりですから」と言うと犬神Pがコクコクと必死に同意します。

 本来私はブラック企業を象徴する黒が好きだったのですが、生まれ変わり後はなぜか白がお気に入りになりました。やはりトキ(北斗の拳)の影響なのでしょうか。

 ちなみにアスカちゃんは黒、乃々ちゃんは緑、ほたるちゃんはピンクがイメージカラーです。

 

「そして趣味ですが、料理、お菓子作り、ギターはいいでしょう。また、競馬は依頼のとおり記載を見送って頂いたようでなによりです。

 しかし、絶対に載せないで下さいと何度もお願いした、麻雀とB級映画鑑賞とクソゲーRTA(リアル・タイム・アタック)がどうして此処に記載されているのでしょうか。

 しかも、なぜガンプラ製作までしれっと追加されているんですかね? 返答によっては貴方の命で罪を償って頂く必要が出てくるのですが」

 感情を込めずに淡々と言うと、冷や汗が私の手に伝わりました。

 

 コメット首脳会議の時に犬神Pからなぜかガンダムの話題を振られたことがあり、IGLOOとUCとOOについて熱く語り合ったのですが、その際にガンプラを製作しているとは言いました。

 ただ、それを会社の公式プロフィールに書かれるとは夢にも思っていませんでしたけど。

 

「俺は麻雀、B級映画、クソゲーRTA、ガンプラのいずれも、君の立派な個性だと思う。あと、クソゲーだとアイドルとしてどうかと思ったので、レトロゲームRTAに修正しておいたから」

「わかりました。せめて痛みを知らず安らかに死ぬがよい」

「ちょっ、ちょっと待ってくれ!」

 私の怒りが有頂天になっているのを知ってか知らずか、彼が煽ってきました。

 

貴方達(プロデューサー)は二言目には個性といいますが個性を出すにしても限度があります。こんなのどこからどう見ても出オチのネタキャラじゃないですか! 最初だけちょっとネットで(いじ)られて、そのうち地味にフェードアウトする運命しか見えません!」

「本当に申し訳ない。実はね……」

 犬神Pがメタルマン(超迷作B級映画です)に出てきた博士のように平謝りすると、すまなそうに内情を説明しました。

 

 本来私の趣味は料理、お菓子作り、ギターの三つとし、二次面接審査でご披露した競馬、麻雀、B級映画鑑賞、クソゲーRTAは外す方向で上に申請をしたそうです。

 ただ料理、お菓子作り、ギターだと他のアイドルと被ってしまうので、これだけでは個性が弱いと却下されました。ドーナツ大好きアイドルや本格派ロックアイドル等濃いキャラがいる中では埋もれてしまうとの懸念があったそうです。

 

 犬神Pが悩みに悩んでいた時、直属の上司の今西部長から『競馬は、賭博を連想してしまうのでよろしくないが、麻雀とB級映画鑑賞とクソゲーRTAは七星朱鷺さんの大切な個性なのだから、何も外す必要はないだろう』との大変貴重なご意見があったそうです。

 その際犬神Pが冗談で話したガンプラ製作も、いつの間にか私の趣味に組み込まれていったとのことでした。

 そんな個性は窓から投げ捨ててしまいなさい。

 

「それにしても、せめて特設HPのオープン前に私へ一言あっても良かったのではないですか」

「事前に説明していたら、どうした?」

「殺してでもさしとめる」

「……やっぱりな」と言い、呆れていました。

 

「ま、いいです。承知しました」

「え!? あっさり!?」

 説明を受けて即引き下がると、犬神Pがとても驚いた様子でした。

 正直納得はしていませんが、社畜としては偉い人の言うことには絶対服従なのです。

 犬神Pなら格下認定済なので、彼が遊び半分でこんな事をしたのなら肉が千切れ飛んで骨が見えるまで噛み付きますが、偉い部長様のご意見ともなると反抗する訳にはいきません。

 

 会社や上司に歯向かうにはそれ相応の準備と、クビになっても構わないという覚悟が必要です。

 デビューすらしていない新人と言う立場でそんなことはできませんので、今は粛々と命令に従うのみです。いつか覚えていなさい。

 そう思い、わざとらしく深く一礼して彼のオフィスを後にしました。

 

 

 

「今日はダンスレッスンでしたよね」

「あぁ、そうだよ」

 その後、アスカちゃんと偶然合流したので、雑談しながらレッスンルーム近くの更衣室に向かいました。

 コメット成功のための第二の矢(個人の課題解決)の最後の標的は、アスカちゃんです。

 とはいっても、他の二人と比べ、彼女には問題らしい問題はありません。その言動はいわゆる『中二病』ですが、常識も協調性もありますし、何より性根が真っ直ぐな努力家です。性根がとんでもない方向にねじくれ曲がった私とは大違いです。

 

 最初こそ、うわぁと思いましたが、慣れてくると痛可愛いですね。

 ついついブラックコーヒーや砂糖なしのエスプレッソを勧めちゃいます。あの苦いのを無理やり我慢しているような顔がとっても可愛いです。普通の女子中学生が無理して背伸びしている感じがして凄く好きですよ。

 

 中二病は彼女の大切な個性ですし最大の魅力なので、それを矯正する気は全くありません。

 このままのびのび健やかに育って頂き、限界が来る日まで中二病を謳歌してもらうつもりです。例えそれが将来の彼女の黒歴史を増やすことになったとしても。

 しかし一つだけ、彼女の行動に関して許容できないところがあるのです。

 

 アスカちゃんと並んで歩いていると、前方からとても綺麗な二人組の女性が近づいてきました。

 あの方々は川島瑞樹(かわしまみずき)さんと高垣楓(たかがきかえで)さんです。お二人共346プロダクションのトップアイドルで、常人とは違う強く輝く気を発しているのが私には察知できます。

 

 川島さんは元女子アナ、高垣さんは元モデルでしたか。中々凄い経歴をお持ちの方々です。

 後学の為諭吉さんとおさらばして彼女達のライブBlu-rayを購入し何十回とリピート再生していますが、見る度に新しい発見があるので本当に勉強になります。コメットも頑張ってあのレベルまで行かなければいけません。

 

 芸歴、社歴共に我々より遥かに上ですので、しっかりと挨拶をする必要があります。上下関係が厳しいといわれる芸能界であればなおさらでしょう。

 お互いの顔が良く見えるくらいの距離まで近づくと、私は廊下の端にサッと避けてお二人に向け「おはようございます!」と元気よく挨拶をしました。得意の営業スマイルを崩さずに、背すじをピン! としてジャスト三十度の角度で腰をしっかりと曲げ、敬礼の姿勢をとっています。

 一方、アスカちゃんは直立不動で「やぁ、おはよう」と言い放ちました。

 

「あら、おはよう」

「おはようございます」

 そのまま通り過ぎるかと思いきや、立ち止まって振り返り、こちらに話しかけてきました。

「貴女達、あんまり見ない子ね?」

「はい、来月デビューさせて頂く『コメット』というアイドルグループのメンバーで、七星朱鷺と申します。こちらの子が同じくメンバーの二宮飛鳥です。よろしくお願い致します」

 川島さんのご質問に対し、笑顔を携えて丁寧に回答しました。

「よろしくお願いします」

 恐れ多くも高垣さんが会釈をされたので、私も更に深い角度でお辞儀します。

 

「川島瑞樹よ。そんなに(かしこ)まらなくていいから、二人ともよろしくね。でも346プロダクションに所属した当初は私もそんな感じだったわね。わかるわ」

「高垣楓です。結果にコメットする、ふふっ……」

 高垣さんが満面の笑顔で、中々レベルの高いHHEM(ほほえみ)ギャグ(下らないギャグのことです)を放ってきました。

 

 でも彼女が言うと本当に微笑ましくて可愛く思えます。私がスマイル動画に投稿している解説付レトロゲームRTA動画で同じようなギャグを入れると、『は?』、『オッサン乙』、『氏ね』という辛辣なコメントで画面が埋め尽くされて袋叩きに遭うんですけど。

 何を言うかではなく、誰が言うかで言葉のイメージは変わるのです。

 

「ほら、アスカちゃんも」

「やぁ、初めまして。ボクはアスカ。キミたちと会うのは初めてだけど、機会があれば一緒にいいLIVEをしたいね」

 この挨拶の様な得体の知れないものを聞き、内心滝汗でしたが、お二人には笑って頂けました。

 

「緊張すると思うけど、デビューライブ、頑張ってね」

「コメットの皆さんのアイドル生活が順調なものになるよう、お祈りしています」

「はい、ありがとうございます!」

 そうして言葉を交わした後、川島さんと高垣さんは元の方向へ歩いて行かれました。

 しかし、我々のような雑魚にこんな暖かい言葉を掛けて頂けるとは、思っても見ませんでした。どうやら人間的にも素敵な方々のようです。そのお姿が見えなくなるまで見送り、アスカちゃんに声をかけました。

 

「……アスカちゃん、私何度も何度も言ってますよね。全体的な言動は貴女の大切な個性ですから別にいいですけど、先輩や偉い方への挨拶だけはちゃんとお願いします」

「そうは言われても、これはボクの個性だからね。変える気はないのさ」

 この子は全く悪びれておりません。このとおり、アスカちゃんの課題は『挨拶』でした。

 

 

 

 たかが挨拶と馬鹿にする方が世の中には多すぎますが、実は非常に大切です。挨拶は魔法です。

 例えば、私が映画監督だったとします。とても偉いので周囲からおだてられており、スタッフの皆さんを顎で使えます。

 そしてロケ中に新人の女優さんが合流し、私に対し開口一番『やぁ、カントク。今日は精々ヨロシク頼むよ。キミの力量には期待しているから』と言ったとします。

 性格の良い監督でしたら、若いんだから仕方ないなと苦笑いで済ませてくれるかもしれません。

 

 私でしたら即刻出禁です。その上、カラカラに干からびるまで天日干しです。こんな鼠の(ひたい)くらい心の狭い人間がこの世にいる以上、そんなドブ川から目をつけられないためにもしっかりとした挨拶をする必要があるのです。

 しかもコメットはグループなのですから、アスカちゃんの行為により四人共出禁を喰らう可能性もあります。

 お仕事現場での段取りの打ち合わせや交渉は全て私がやるつもりですが、挨拶をさせないという訳にもいきません。

 

 私がある会社に勤めていた頃の話ですが、その会社には常人の三倍は仕事ができ、協調性のある派遣さんがおり、皆から大切にされていました。ある時、その派遣さんが社外でその会社の社長に挨拶されたことに気付かず通り過ぎてしまったそうです。

 すると社長が腹を立て、その週内に派遣さんは契約打ち切りになりました。それくらい挨拶は恐ろしいです。

 できて加点されることはあまりありませんが、できないと最悪職を失う可能性があるのです。

 

 もちろん今の二例は極端な事例ですが、きちんとした挨拶をしない事で心象を悪くするケースは普通によくありますので、アスカちゃんにはちゃんと挨拶をしてもらわなければいけません。

 乃々ちゃんは声が小さいだけだからいいですけど、この子は完全にわざとやってますから性質が悪いのです。

 今日は川島さんと高垣さんだったので女神のような広い心で笑って流して頂けましたが、こんな幸運が続くとは限りません。いよいよ何とかしなければなりませんね。

 

 同日、レッスン後ティータイムを終えた後アスカちゃんにお願いして寮部屋にお邪魔しました。

「ようこそ、ボクのサンクチュアリ(聖域)へ」と言って招き入れて頂いたので入室します。

 これはこれは、非常に個性的なお部屋です。黒を基調としたお洒落っぽい感じで、色々と怪しげなものが満載です。

 なぜか聖書や、ドイツ語っぽいタイトルの重厚な本がこれみよがしに飾られていました。アスカちゃんが英語やドイツ語に堪能だという話は今まで一度も聞いたことないんですけど。

 

「それで、ボクに何の用があるのかな?」

「アスカちゃん、一つ私と賭けをしませんか?」と切り出しました。

「賭け、かい?」

「ええ、賭けです。明日、アスカちゃんが泣くか否か賭けましょう。

 私は泣く方に賭けます。アスカちゃんが勝ったら挨拶について私から今後一切何も言いません。反対に私が勝ったら今後はしっかりとした挨拶をお願いします」

 アスカちゃんは余裕の笑みを崩しませんでした。

 

「ずいぶん唐突な話だね」

「はい。これ以上アスカちゃんと挨拶の件で揉めたくはないので、そろそろ決着を付けようかなと思いまして」

「それにしても、随分とボクに有利な賭けじゃないかい?」

「私から持ちかけた話なので、受けてもらうためにもアスカちゃんに有利な条件にしました。確固たる自分のセカイを築いているアスカちゃんなら、簡単に泣いたりするはずがありませんよね?」

 少しだけ煽ってみました。

 

「面白い。その賭け乗ったよ。要はボクが泣かなければいいんだろう? そんな事はカンタンだ。でも、くすぐったり暴力を振るってボクを泣かせるというのはナシだよ。それはスマートな方法とは言えないからね」

「はい、では賭けは成立ということで。私からは指一本触れないと誓いましょう。その代わり私の話を無視したりしないで下さいね」

「ああ、いいとも。さぁ、はたしてトキはボクのセカイに触れることができるのかな?」

 

 かかりましたね、アホが。大切なアスカちゃんに暴力や北斗神拳を振るう気はありませんので、私本来の力を持って号泣させてあげましょう。

 もちろん100%成功するとは限りませんが、バクチというものは外れたら痛い目を見るから面白いのですよ。

 

 

 

 次の日の夜、私は前日と同じようにアスカちゃんの寮部屋を訪れました。

「ボクのサンクチュアリ(聖域)に再び足を踏み入れるヒトがいるとは思わなかったよ」

「はい、お邪魔します」

 そしてクッションに座った後、私は自分の鞄から、我が家にあった数冊の本を取り出します。

 

「何かな、それは?」とアスカちゃんが興味深げに覗きこんできました。

「見てのとおり絵本ですよ。どれも珠玉の名作です」

 『100万回生きたねこ』『ごんぎつね』『いつでも会える』『かわいそうなぞう』、『忠犬ハチ公』『かたあしだちょうのエルフ』その他もろもろの絵本です。

「この、悲劇の物語は……」

 アスカちゃんの表情が少し変わりました。

 

 私の数十ある職務経歴の中には、無認可保育園での保父さんの経験も含まれています。自慢ではありませんが朗読は得意でして、絵本の読み聞かせで泣かなかった園児は誰一人いませんでした。

 無認可ですから資格も要りませんし結構好みの仕事ではありましたが、極黒のブラック保育園で子供を育てる環境としては最悪でした。法令違反上等で死亡事故に繋がる恐れすらあったのです。

 

 私は園児達に愛情が涌いてしまったので、全園児の親御さんに真っ当な保育園を紹介した上で、市と警察と児童相談所に全ての悪事の証拠を提出し、木っ端微塵(こっぱみじん)に潰して差し上げました。

 会社や上司に歯向かう際には、これくらい徹底してやらなければいけません。

 

 なお、今は女性の身なので優しく柔らかい声を出す事ができますし、度重なるボーカルレッスンで声の通りはレッスン前と比べて段違いですので、朗読の破壊力は前世の比ではありません。賭けの前に朱莉で実験したら泣き止まず大変でした。本当にごめんね。

 

 そしてアスカちゃんが動物の感動話に弱いのは、レッスン後ティータイムでリサーチ済です。

 さて、なん冊目に(涙腺が)死ぬかな~? と心の中で呟きながら、私は一冊づつしっかり丁寧に、最大限の感情を込めて朗読を始めました。

 

 

 

「……くっ」

「四冊目まで持つとは、中々やるじゃないですか。褒めてあげましょう」

 アスカちゃんが少し震えながらクッションに顔を埋めています。やはり『かわいそうなぞう』は名作です。大東亜戦争中に動物園で餓死した象さんの悲劇を、簡潔かつ見事に表現しています。

 

「なぜ、ヒトは過ちを犯すのか……。愚かしく、哀れな生き物だ……」

「はいはい、女らしく負けを認めましょう。そして今後はしっかりとした挨拶を徹底するのです」

「ボクは、空気を読むような汚いオトナにはなりたくないのさ……」

 そう言って駄々をこね始めました。全くしょうがありませんね、この子は。

 その後1時間弱かけて交渉し、とりあえず外の現場の偉い方にはきちんと挨拶をするということで妥結しました。双方の歩み寄りにより、無事和解が成立したのです。

 

 この辺が落としどころでしょうか。同じ346プロダクション内であれば何とかリカバリー可能ですからね。

 しかし、私としても彼女の世界観は大切にしてあげたいと思います。コメットの認知度が上がりアスカちゃんのキャラが世間様に広く浸透すれば通常の挨拶でも問題になる可能性は少なくなるでしょうから、それまでの一時の辛抱です。

 アスカちゃんのためになるのなら、私はあの子から深く恨まれても構いません。

 

 

 

 その後はアスカちゃんと和やかに雑談しましたが、不意にこんなことを言われました。

「初めて見た時から思っていたんだけど、もしかしてトキも『痛いヤツ』だったりしないかい? その痛さを巧妙に隠している、そんな気がするのさ」

 噴き出しそうになるのを必死で我慢しました。こやつめ、ハハハ。

 

「まぁ、ある意味、痛いと言えば痛いでしょう」

 累計年齢50歳のオジサンが必死になって女子中学生に擬態した上、JCアイドルなんてやっている姿は確かにこの上なく痛いです。全身複雑骨折並みの激痛です。

 生まれ変わりもアイドルも、自ら望んで選んだ道ではないんですけどね。

 

「そうか、トキもか。ボクとトキとはなんとなく波長が合うというか、通じるものがある気がするんだ。そう思わないかい?」

 アスカちゃんが顔を(ほころ)ばせます。その笑顔はとても素敵で、何だかとても力を貰えました。

 確かに、狂人に憧れる常人(アスカちゃん)と、常人に憧れる狂人()とは、どこか共通するところがあるのかもしれません。『トキ(北斗の拳)と同じ程度の能力』が譲渡できればいつでもプレゼントしますよ。

 

 一見異常に見える方が全くの正常で、正常に見える方が極めて異常なんて、皮肉なものです。

「ええ、そうですね」と笑顔で答えました。

「ボクという存在をボク以外が肯定してくれるなんてね。フフフ」

 そんなことを言いながら、暫くの間二人で笑いあいました。

 

 会話する度に草が生えそうになるので良い意味で大変困ります。こんなに可愛くて超面白い子、絶対に目が離せません。今後、もし別のタイプの中二病アイドルが出てきたら、三人でトリオでも組んでみると面白いと思います。お客様に与えるインパクトは絶大でしょう(笑)。

 

 やはりコメットのリーダーとして、悪い虫が付かないよう気をつけてあげなければいけません。

 アスカちゃんも、私の養子希望リストに最優先で追加させて頂きました。おはようからおやすみまでばっちりサポートしてあげます。

 どうせ私の命はおまけみたいなものですので、彼女達三人が大成功するよう文字通り命を懸けて尽力しましょう。朱莉のおかげで七星家のお家断絶はないでしょうから、いつ逝っても私の生涯に一遍の悔いなしなのです。

 

 さて、次はいよいよデビューミニライブです。

 残りわずかな練習期間ですが、四人で精一杯頑張りましょう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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