この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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いやー、遅くなってしまって申し訳ありません。


イイハナシダナー

 

 

 

 

 

 李書文と一戦交え、死刑宣告を受け、広大な大地を駆け抜けた結果、俺達は何とかエジソンたちが本拠地とするアメリカの西部に辿り着いていた。ちなみに機械化歩兵の警戒を掻い潜ったのはロビンの機転のおかげである。その辺で襲いかかって来たケルト兵を一人だけ殺さないようにして、気絶させぐるぐるに縛り上げる。そして、何時の間にかロビンが知り得ていた合言葉的なことと共に敵を縛り上げましたとか言って進んでこれたのである。いくら敵を縛り付けたからって本拠地のすぐ近くまで通すとか正直ガバガバではないかと思う。

 まぁ、今は戦力の確保が重要事項であり、結果的には戦えれば問題はない。戦闘回路もかなり単純化しているようだし、そこまで細かい識別能力は尖兵を務めている方の機会化歩兵には必要ないのかもね。

 実際に、

 

「止まりなさい。ここから先は国有地です。直ちに撤退した後に、アメリカ西部合衆国陸軍機械化歩兵部隊に入隊届を出しなさい」

「ちっ、殺伐としてやがる。ディストピアっていうの?吐き気がする」

 

 本拠地に通るには強制的に入隊してからじゃないと無理そうだし。そもそも入隊させてくれるかどうかも微妙だが。

 こちらに銃口を構えている機械化歩兵を見て、思わずそんなことを考える。これじゃあ入隊する前に死にそうですね。

 

「あら、私は好きよ。その他大勢が規律に従うのはいいことよ」

「へいへい、どうせ俺は根っからのレジスタンスですよ……。ここから先は誤魔化しきれねえ」

「むしろこの人数よくここまで通したというレベルだよねー」

 

 サーヴァント十二体だもんな。かなり豪華な戦力だと俺も思うよ。それはともかく、ここまでというのであれば仕方がない。強行突破だ。道順はこの前連れてこられた時に把握が完了している。

 

「ということで突撃!諸君、派手にいこう」

「貴様らには水底が似合いだ」

『どうしたんだ!?そこには池も川もないぞ!』

 

 この言葉に即座に反応できるエミヤ師匠流石です。こちらの号令を切欠に機械化歩兵たちも一か所に集まり、俺達の排除へと動き始めた。それぞれが銃口をこちらに向けて一斉に射撃を開始する。囲んで叩く、それは確かに基本的で尚且つ有効的な手ではあるが、相手にそれを悟られているという前提を考えれば悪手となる。

 

 この態勢であれば全員跳躍して回避するのは自明の理である。その結果、仲間同士で自分たちが放った弾丸の味を確かめることとなる。一応機械と銘打たれているだけあって銃弾程度では再起不能に陥ることはなかったが、所々火花が散っている。部位破壊成功というところだろう。

 生身の人間と違い、破損しても痛みなどによる戦力低下は狙えないために、火花を散らしながらも向かってくる機械化歩兵。それを一番になぎ倒したのは他でもない我等が婦長である。今の彼女はエジソンという患者を見つけてある意味で絶好調と言える状態だ。そんな彼女の前に出るなんてことはとても愚かしい。

 

「お引きなさい!病人が待っているんのですから!」

「うむ、実に励まされる言葉だな」

「機械化歩兵を蹴とばしながら言っていなければ、尚の事響いただろうぜ……」

「やはり機械か……単調過ぎてつまらん」

『いや、量産できるような性能のモノに、貴女が満足するようなものはいないと思いますけど……』

 

 ロマン……あんたは間違っちゃいない。

 

『……しかし、なんか本当にサポートのし甲斐がないねー。まるで高レアサーヴァントで攻略を進めているみたいだ……ん?なんだこれ、バースト通信……?わ、わ、わ……!?』

 

 ロマンは特異点に電波を飛ばすだけでなく、次元の壁まで超えられたのかと少しばかり思った矢先、彼からの通信が途絶えた。その代わり空中のホログラムに映し出されたのは何日かぶりに見たアメコミヒーローの姿であった。ロマン、通信機の主導権持ってかれてんじゃん……。

 

『おのれ、貴様らケルトに屈するとは…!それでも英霊か!』

「マスターですけど」

『シャラップ!貴様がマスターなんてもう信じられるか!そして何より我がマドンナ、クリミアの天使よ。貴女ほどの信念の人が、何故我々の信念を介さない!失望極まる!ここまで悲しいのは失業率が三割を超えたとき以来だ』

 

 それは悲しすぎる上にかなり深刻だなぁ。ナイチンゲールはここまでエジソンに買われていたのか……ケルトに屈するっていうのはちょっとわからないけど。むしろ今でも反逆しまくってるはずなんだけどな。

 

「失望?何を言うのです、まだ望みはあります。何故なら私たちは貴方を裏切ってなどいない。只治療をしに来ただけなのです」

『治療……?殺伐な雰囲気を纏っておきながら治療に来たとは思えないのだが……いったい誰の治療をしに来たというのか?』

「それは貴方です。改めて見ればわかります。貴方は病気です」

『あちゃー……とうとう言っちゃったかー……本人を前に言い切っちゃったかー』

 

 はっきりと、ナイチンゲールらしく断言する。その言葉に反応したのは言われた本人ではなく、恐らく今エジソンの近くに居るであろうエレナだった。映像には映ってないモノの、額に手を当てて空を仰ぐ姿が容易に想像できる。とり憑かれているということを前提として話すけれど、そのせいでこんな感じで若干情緒不安定になっているのだとしたら、向こうも結構苦労しただろうしな。

 

『――――無礼な。私のどこが病んでいるというのだ。この強靭な肢体。はち切れんばかりの健康。研ぎ澄まされた知性。……何処からどう見てもスタンダードではないか!』

「あの頭が通常と言い切ったぞ………この特異点には余の常識が通用するところはないのか……!」

「こんなに私達と彼らとで意識の差があるとは思いませんでした……」

「黙りなさい。病人に病気と告げることのどこが無礼ですか。甘えたいのならば、母親か妻にでも頼みなさい。世界を救う力がありながら、世界を崩壊させようとする……それが病以外の何なのです。……大人しくベッドにいなさい。直にそちらに向かいます」

 

 俺は君たちがこの短期間でその言い回しを覚えていることに戦慄しましたとも。いったいどこからそんな言い回しを吸収したのだろうか。聖杯か、聖杯なのか?おかげで大真面目なナイチンゲールの話が半分頭から出てしまったんだが……。

 

 話に集中できない人間がいても、容赦なく展開は進んでいく。ナイチンゲールに言い負かされたのか、それとも何を言っても無駄と思ったのか、エジソンはハッキングをやめたらしく、通信機からはいつも通りロマンの顔が見れた。……そうだよ。エジソンの方から通信を切ったんだよ。俺は直前で聞こえて来た銃声なんて聞えなかったもの。

 

『あ!戻った……。ちょっとばかり通信がつながらなかったんだけど、何かあったのかい?』

「エジソンに通信を乗っ取られた」

『うわぁ……前回の会談で見ただけのはずなのに……まさか取ってくるとは流石エジソン』

「先輩。通信は銃を使えば切れる……。覚えました!」

「今すぐ忘れてね」

「……えー……」

 

 そこでしょぼんとするのか。こんなこと覚えていったい何に使う気なんだろう。この子は。

 

「さあ、無駄話をしている暇はありません。踏み込みましょう」

 

 あなたはいつも通りですね。本当に。

 こちらに一切気を遣うことなく、行きましょうと言いつつ既に走り出している彼女の背中を見ながら内心そうごちる。けれどもそれが彼女を英霊足らしめた要因であれば仕方がないのかもしれない。

 

 

 

―――――――

 

 

 

 砦の中に入り一番最初に遭遇したのはやはり、というべきかカルナだった。どうやら彼は俺達がここに来ることがわかっていたらしい。それは当然先程伝えられた……というわけではないだろう。ぶっちゃけ、俺達が逃げ出す際エレナが手伝ってくれたことも分かっていると思う。

 そんな彼に向ってナイチンゲールはいう。彼も病人の一人であると、ここに居てはいけないと。

 しかし、そんなナイチンゲールに対してカルナは普段と変わることのない平常で返した。自分を頼り、助けを乞うてきた彼を見捨てることはできないと。それに彼は生前カルナを友と呼び彼を助けた王に似ていると。

 ……つまりはどちらも後ろに引くことはできないということだ。いくらカルナと言えども、この人数差を覆すことは難しいだろう。こちらにはカルナと同等の完全体ラーマに、どうして敗北したのか今でも謎な師匠を筆頭にかなり強力なサーヴァントたちが居る。明らかにこちらが有利だ。けれども戦うことはやめないだろう。そういう目をしている。

 

「遠慮することはない。お互いに譲れないものがあるなら、全力を尽くしぶつかるのは当然だからだ。……始めよう。四つの試練を越えて来たその力を俺に見せてみろ―――――ん?」

 

 やる気満々で闘気をあらわにしていたカルナ。そんな彼の雰囲気が一変する。何やら耳に手を当てて少しばかり視線は上を向いていた。俺は耳に注目してみると何やらイヤホンのようなものを付けていることに気づいた。もしかしてあれはエジソンが作った通信機だろうか。カルナの風貌で通信機とは中々違和感があるな。

 

「―――戻ってこいとはおかしな命令を。だが、そうか――――自分の手で決めたくなったか。……すまない。あれほどの啖呵を切っておいてなんだが、どうやらエジソンは自らの手で決着を付けたくなったらしい」

「一度引くのか」

「ああ……場所はお前たちが初めてエジソンと邂逅した時に居たところだ。恐らく、そちらのマスターが道順を覚えているだろう。……そこで……最大戦力が待っている」

 

 その言葉だけを残してカルナは引いて行った。追撃も考えたが、元々俺達は同盟かもしくは協力を取り付けにしたのだ。関係悪化を招くような行動は控えるべきだろう。と、言ってもおそらく言葉による説得というのは不可能だろう。もし可能であれば、とっくの当に同盟を結べて居た筈である。十中八九戦闘になるだろうが、重要なのはやむを得ずに交戦したということである。積極的に攻撃してはそれが満たせない。エジソンが(おそらく)正気に戻り同盟を組んでくれる時、負い目として利用したいからこその選択だ。

 

「最大戦力というと……」

「アメリカ西部合衆国大統王エジソン、そしてその参謀……のようなもののエレナ、最後に先程居たカルナ。これが最大戦力だろうな」

 

 エジソン側の戦力を知らなかった現地サーヴァント達にエミヤ師匠がそう伝える。簡単に伝えてくれてとてもありがたい。そろそろ彼女が我慢の限界っぽいから。

 

 ズカズカと装飾された内部を突き進んでいくナイチンゲールに置いて行かれないように、小走りで彼女の後ろについて行く。

 やがて、エジソンたちの居るであろう場所に続く扉を発見し――――

 

「では行きましょう」

 

 バン!とサーヴァントのステータスをそれはもう余すところなく発揮した開け方だった。扉の状態が気になるくらいの力強さで彼女は開き、そのままつき進んでいく。その様はとても堂々として頼もしいものだ。頼もしいんだけども……。

 

「よくも来たな……ッ!嘆かわしき裏切り者たちよ……!」

 

 鬼の形相―――実際はライオンなのだが――――を浮かべたエジソンがこちらを睨みつける。裏切り者とか言っているけど、そもそも俺達はケルト側に属していない。例え属していたとしても、今の俺達は味方でも何でもないので裏切り者はおかしいと思う。口には出さないけど。

 

「何故、私の正しさを理解できないのだ!さては貴様も陰謀論に振り回されているのか!?やれエジソンは資本主義の権化、だとか!真の天才は商売などに傾倒しない、とか!」

「ミスター・エジソン。陰謀論に振り回されているのはそちらの方かと」

 

 冷静にツッコミを入れるあたり、話が完全に通じないわけではないことを改めて実感する。ただ単にブレーキが壊れているだけなんだろうな。きっと。

 

 そのツッコミの後も当然会話が続くが、お互いに平行線を行くばかり。というより、どちらも等しく話を聞かないと言った方が正しいだろう。エジソンの眼には俺達がケルトに属した裏切り者にしか見えておらず、ナイチンゲールもそんな彼を治療することのみを考えている。

 結果的に、売り言葉に買い言葉でどう考えても戦闘を行うような雰囲気になって来ていた。そこに待ったをかけたのは冷静にこの場を見ていたエレナである。

 

「……本当にこのまま戦うというの?」

「その通りだとも。もはや、知性無き者との交流など不可能だ!それに、これが一番早い」

「確かにわかりやすくて速いことはいいことだし。状況によっては直接対決も肯定するわよ。……でも―――」

 

 エレナはこちらをチラリとみる。彼女がエジソンに確認を取っている間にこちらも一応ナイチンゲールの説得ということを試みていた。……最も、既に念話で戦闘準備を整えるようには言ってある。さっきも言ったように、あくまでも相手が戦いを仕掛けてこなければならない。故に形だけでも止めているのである。

 

「―――……(あれと戦うっていうの?マスターの子なんてかなり獰猛な雰囲気を纏っているんだけど。まるで息をひそめて得物を待つ肉食動物みたい)」

「戦うのだ!そして知らしめるのだよ。この発明王の発明がいかに偉大なのかを―――!そして、直流こそが王道なのだと!!」

「うぇっ!?……ああ、仕方ない覚悟を決めるわ!」

「今回は、邪魔など入らない。全力で来い」

 

 エジソンの掛け声とともに訪れる雷撃。それを皮切りに他の二人も攻撃を開始する。それを確認した俺もここで皆に攻撃開始の指示を出すのであった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

 

 

 仁慈達カルデアとエジソン達西アメリカ合衆国の戦いはすぐに決着がついた。そもそも戦力が違うのだ。確かにカルナは破格の英霊である。彼がいれば並みの英霊など物の数ではない。が、仁慈達にも超弩級のサーヴァントが存在する。カルナと同郷にして同等の力を持ち、ヴィシュヌの化身でもあり、尚且つ妻と再び対面してあらゆる面でハイになっているラーマ。そして単純な力では到底計測できないスカサハなどがいる。そうしてカルナを抑えられてしまえばあとはキャスターが二人だけだ。残り十人のサーヴァントを相手にするなど到底できるわけもない。

 

「ぐっ……!戦士として及ばぬのであれば、科学者としてすべてを捧げよう!このトーマス!今こそ大変革、大変身の時である!この人間味あふれる紳士の身体を捨て……今こそ、今こそ獣の如き力を手に入れる時だぁ!」

「現状で既に大変身状態なんですがそれは……」

 

 そうして、負けを悟ったエジソンは己が開発したドーピングコンソメスープ……改め超人薬を服用しようとした。

 しかし、戦いを中断したカルナによってそれは防がれてしまう。

 

「……悪いがエジソン。ここまでだ。これ以上、滅びの道を歩ませるわけにはいかん。それに第一、その薬は体に悪いぞ」

 

 カルナの言葉を受けて一同は無残にも床に散らばったエジソンの薬に目を向ける。するとそこには典型的な薬とでも言わんばかりに濃い緑色の液体がドロドロと広がっていた。

 

「ノー!良薬は口に苦しだ!それに、私が立たねば誰がこの国を守るというのだ……ッ!」

「―――――守る、守る……ですか。その割には随分と非合理な戦い方ですね。エジソン」

「な、に……?今、私を、非合理と言ったか……?」

 

 尚、戦うとするエジソンに対して、等々怪我・病絶対消滅させるウーマンことナイチンゲールのメスが入れられる。

 

 まず、この機械化歩兵のことについて。相手のケルト兵は生まれてから死ぬまで戦いで明け暮れた存在であり、そもそも兵としての密度が違う。尚且つ相手は聖杯を利用しポンポンとまるでGのように湧いて出て来ている存在だ。そんなものに正面から生産力で戦っても無意味だということ。トーマス・アルバ・エジソンの天才性。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()ということにこだわり過ぎたのだと指摘した。

 それだけではない、次に彼の頭が獅子であることを否定する。史実に置いてそういう記述がないということは他から力を受けているということだと言い、彼に力を注いでいる存在について指摘を行った。

 

 エジソンは自分に力を与えているのは現在、過去、未来の大統領たちであると言った。彼らは自分たちだけではケルトに勝てないことを悟り、自分たちの力をエジソンに集中したのだと、だからこそアメリカという国をなんとしてでも守り抜かねばならないと言った。

 

 だが、ナイチンゲールは言う。アメリカとは様々な人種からなる国であり、それ即ちあらゆる国の子どもであると。だからこそ()()()()()()救おうとするからこそ苦しくなるのだと。

 

 ここまで言われ、エジソンはぐぬぬ顔で黙って聞いていた。事実であるが故に否定できなかったからだ。これでもエレナ曰く繊細なエジソンには来ていたのだが、それでもナイチンゲールは治療をやめない。病原体にとって、そして、エジソンにとって最も聞く一撃を遂に見舞った。

 

 

「そんなだから、同じ天才発明家として―――ニコラ・テスラに、敗北するのです。貴方は」

「GAohoooooooooooooo!!??」

 

 エジソン絶叫。恐らく最も気にしていることであったであろう言葉を、恐らく心の底から尊敬していたであろうナイチンゲールにぶつけられた彼は精神的に多大なるダメージを負った。その結果、外見にとても合う獣の如き咆哮を上げたのちにその場に倒れ痙攣を始めた。

 

「(一番重いの言っちゃったー!)」

「(……手加減してやってほしかったのだがな……)」

「これは酷い……」

 

 余りにも容赦のない口撃に仁慈もドン引きである。とても先制攻撃をさせて手を組むときに立ち場を上げようとした人間の表情ではなかった。

 

『え、エジソン氏生きてる……?』

「け、痙攣を起こしてはいますが、脈はあります」

「命に別状はありません。エジソン、答えなさい」

「鬼だ……」

「え、遠慮ないわね」

「あそこまではっきり言ってくれる方が余は好みだぞ!」

「その通りだな。あれでこそ、彼女はとても頼りになる」

 

 

 

「エジソン、貴方はどうしたのですか?」

「―――――そうだな。認めよう。フローレンス・ナイチンゲール。私は歴代の王に力を託され、それでも合理的に勝利できないという事実を導き出し……自らの道をちょっとだけ踏み間違えた。愚かな思考の迷路を、彷徨っていたようだ……」

「ちょっとだけ?……まあ、いいです。病を癒すには、まず認めることから始まります。貴方はようやくスタート地点に立ったのです」

 

 エジソンは己の過ちを認めた。

 それに対してナイチンゲールは今までの苛烈な一面ではなく、看護師としての一面であろう穏やかな笑顔を浮かべてそう告げた。

 

「これだけ市民を犠牲にして尚スタート地点か……。これは厳しいな、厳しい。……これから私はどうすればいいのか」

 

 おそらく、ここに召喚されて初めて溢したであろう弱み。今にも消え入りそうな声音で呟かれたその疑問に答えたのは、生前から付き合いのあるエレナだった。彼女は戦闘によって少しだけボロボロになった体を治しながら口を開く。

 

「え?エジソン貴方、わからないの?簡単よ。貴方はいつも通りやればいいの。貴方は、ニ十回の挑戦でダメなら二十一回目に挑戦する。……何回失敗したって、周囲に苦労を掛けても、ちゃっかり自分だけは立ち上がる。貴方の人生はいつもそうだったでしょ?あなたの才能は、そういうところだったでしょう」

「ブラヴァツキー………褒められているようにも、貶されているようにも聞こえるのだが……。しかし、ありがとう。やはり君は私の友人だ。そうだな。最終的に上回ればそれでいい。それが私の人生(けつろん)だった。――――だが、私は負け猫だ。臆病者だ。告訴王だ。もう一度、この国を導くなんてことは――――」

 

 

「それは違う。間違えるなエジソン。お前は道に迷ってはいたが、お前が目指していた場所は正しいものだ。名も知らぬ誰かを救うことも、闇を照らす光を普及させたことも。自信をもっていい願望であると、俺は断言する。どれほど自らに負い目があり、屈折した自己嫌悪があり、時に小心から悪事をなすことがあるとしても―――」

 

 

 

「――――何かを打倒することでしか救えぬ英雄と異なり、おまえの発明はあらゆる人間を救って来た。最終的には、世界を照らす光となったんだ。その希望を、その成果を糧に立ち上がれ。現状は最悪だが、まだ終わったわけではないだろう。………何より、その最悪な状況をひっくり返して来たその道のプロも居ることだしな」

 

 言って、彼は仁慈の方をチラリと見た。流石に半神の英霊は色々見えているらしい。仁慈はその視線を受けて少しだけ目を逸らした。

 

「そろそろ目を覚ます頃だ。偉大なる発明王。お前の頭脳には未だ多くの資源が眠っているのだから」

「……そうか。発明とは程遠い、私たちの世界とはかけ離れた君がそう言うのか。……私の心の友バベッジ君もモールス信号で告げている……破産するまで負けてないと。であれば――――そう、であればッ!発明王、大統王は死なぬ、何度も立ち上がらねば!詠歌の夢、ここに復活!ブラヴァツキー嬢、カルナ君。迷惑をかけたな!」

「いいのよ、友達でしょ」

「そうだな。差し出がましいが、友人だな。ここまでくると」

「フッ、私はいつもいい友人に恵まれる。こればかりは、あの素っ頓狂にも及ぶまい。私だけの財産というわけか」

 

 そこにはもう、勝つことに妄執した獅子頭の獣はいなかった。彼は確かに自らが言ったように知性を兼ね備えた紳士となったのである。そして、彼は仁慈達の方を向いて謝罪を行った。

 

「そして謝罪し、感謝する。樫原仁慈。彼の助けとなるサーヴァント達にもだ」

「別に気にしてないから大丈夫。こういったこと慣れてるから。……それよりも、ケルトたちの無限の軍勢をどうにかする策があるんだけど……どう?」

「ほう!面白い。是非とも聞かせてほしい」

 

 どこか子どものようにわくわくした雰囲気を纏いながら言うエジソン。

 

「投石器って作れる?」

『あ、仁慈君。メイヴの暗殺のことを言っているなら作ってもらう必要はないよ?あれ、手で使うやつだから。多分君が想像しているのは大きい岩とか飛ばすやつでしょ?』

「…………………………………」

「……」

 

 空気が死んだ。

 仁慈は、しばらく身体をそのまま固めた状態で居るが、やがてなんとか自力で立ち直ったのか再び口を開く。

 

「と、とりあえずこっちが得た情報を共有しようか。うん」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、エレナとエジソンは師匠とラーマを覗くサーヴァントに袋叩きにされました。
こんなマスターに謝罪と感謝ができるエジソンは聖人(確信)

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