思い違いをしていたのかもしれない。
相手は取るに足らないやつだと。正義を語り、みっともなく足掻いてきた弱者であると心の底から考えていた。……私が作り出した王様が負けるわけがない。この女王メイヴが負けるわけはないと。聖杯……ダグザの大釜を持っているから、敗北などありえないと。彼らは私たちが好きに蹂躙して楽しむおもちゃだと認識していた。
けれど、実際に結果はどう?
「くっ!あぁ……!調子に乗らないで!」
彼らの前に現れた瞬間、私は何故かチーズを大量に投擲された。エジソンが作ったガラクタから飛来するチーズはサーヴァントである私を傷つけることはできないはずなのに。どうしてそんなことをするのかと、あそこに居るマスターを馬鹿にした。
けれど、私の身体にチーズが直撃する直前に気づいたの。サーヴァントは生前の逸話に縛られること、そして私のあの忌々しい死因を。それに気づいた時には咄嗟に腕を使ってガードし、後ろに下がっていた。でも反応が遅かったのか、防ぐために頭の前に出した腕にチーズが当たった瞬間、その腕は使えなくなった。そこで私は悟った。これは唯のチーズじゃない。一つ一つが私を殺すことができる立派な凶器であることを。
だからすぐに私は戦士を召喚した。それだけじゃない。ダグザの大釜の力を利用して竜種もシャドウサーヴァントも大量に呼び出した。そして、そのまま私が呼び出した戦力を彼らにぶつけることにする。
狙いは当然私に向ってチーズを大量に投げつけてくるガラクタ共。あれを狙えば十中八九向こうのサーヴァントは妨害に入ってくるはず。その隙に彼らの中核を担う人物であるマスターを狙ってしまえばいい。向こうにはクー・フーリンが居るようだけどそれはもういい。私にはクーちゃんが居るもの。だからここでそのマスターごと死んで頂戴。
呼び出した戦力たちにガラクタを狙う様に指示を出す。すると呼び出された戦士や竜種たちは一斉にガラクタ達へと向かって行った。いい子ね。私の言うことを素直にきく子は好きよ。こちらの狙いが分かったのか向こうのサーヴァントはすぐにガラクタを守ろうとして動き出した。その中にはクー・フーリンの姿もある。相変わらずいけ好かない。こちらの方を全く見もしない。……此処であなた達を倒した後じっくりと嬲り殺してあげる。さっきは油断したからいけないだけ。今の私に油断はないわ。あれらはおもちゃではなく倒すべき敵よ。
狙い通り、マスターからサーヴァントが離れたところで私も動き出す。ここで新しい戦士たちを呼び出したりしたらサーヴァントたちが警戒して戻ってくるかもしれない。だからこそ、私は自分で動く。
ガラクタの視界から私を守るようにして召喚した兵たちを置く。その役割は肉壁と姿を隠すこと。
そうして私は世界最後のマスターのところまでやって来た。世界最後のマスターは周囲を警戒しながらサーヴァント達に指示を出しており、こちらに気づいている様子はなかった。近くで見ると結構好みの顔かもしれない。クーちゃんが居るから手は出さないけど。自分が救おうとした世界の終わりを見せてあげてもいいかも知れない。なら、殺すのではなく人質のほうがいいわね。
そんなことを考えながら、世界最後のマスターに近づいた時――――彼がゆっくりとこちらに視線をぶつけてきた。
「えっ……」
「―――――」
そして、視線をぶつけられたと同時にそのマスターの姿が私の目の前まで来ていた。呆然としている私の腹部に痛烈な痛みが走る。それを認識した瞬間、視界が一瞬にして暗くなり、吐き気が込み上げてきた。それと同時にかなりの風圧を体で感じることになる。
「が……ああぁッ……!」
「射撃部隊!」
『隊長がいつの間にか、目標をフッ飛ばしているぞ!』
『我々も負けるな!偉大なる発明王の名誉のために、彼の邪智暴虐の女王に
『Yeah!!』
追い打ちとばかりにぶつけられるチーズ。
普通のチーズであるはずなのに、私の完璧な身体を次々と傷つけていき、力を削いでいく。正直、ここから逆転することはできないだろう。けれどそれでもいい。もう既に北側に
ここでふと、私をここまで追いつめる最後のマスターの顔を見てみた。一体どんな表情をしているのかしら。いい女を痛めつけるという罪悪感かしら。それとも、今までの仕返しが出来たことに対する愉悦かしら。それとも……ストレートにメスが屈服する姿をみて興奮しているのかしら。
諦めかけた思考の中、私は最期のマスターの顔を見た。……見て、しまった。
「――――ッ!!」
「………」
私が視たのは無表情だった。
女王メイヴをもうすぐ倒せるという喜びではない。敵を蹂躙する愉悦でもない。相手を倒すことに対する罪悪感でもない。そう何もなかった。最後のマスターは……あの男は
その事実を知った時、諦めかけていた私の心が完全に息を吹き返した。気に食わない。私のことを取るに足らない相手だとみるその眼が。その辺の石ころのように無意味に想われることが!嘗て経験した
「その眼をやめなさい……私は女王!この世のすべてを統べる女王なのよッ!!!」
傷ついているものの致命傷は受けていない。だからこそ私は聖杯の力を使ってさらに強力な存在を生み出そうとする。このまま死んでやるものですか。チーズなんかに、私を無価値と思っている連中なんかに……!
そう、自分でもはしたないと思うくらいの大声を上げて最後のマスターに視線を向ける。……けれど、
「居ない!?」
その姿は何処にもなかった。
ただ、代わりに……
「えっ」
ザクッと何度も聞いたことのある肉を引き裂き、突き進んでいく音が聞こえ、私の胸から朱槍が生えてきていた。でも、クー・フーリンじゃない。彼は私に直接手を下そうとはしなかった。最後に残った力で後ろを振り返る。
すると、そこには当然というべきか、人類最後のマスターが無言で佇んでいた。そしてそのまま……私を貫いた槍を動かして私を地面に叩きつけた。これ以上は無理だった、そこで私の意識は途切れたのだった。
―――――――
所変わってここは北側の戦線。
作戦段階で割と余裕なのではないかと思っていた彼らであったが実際はそうもいっていられなかった。一応、この戦線を率いていたベオウルフは通りすがりの魔拳と殴り合いを始めていたのだが、ただ単純にその物量が半端ではなかったのだ。
「ぜぇ……ぜぇ……全く、次から次へと……ッ!」
「押しかけてくるなんて観客としてマナーがなってないわッ!」
「あんたらだけには言われたくないでしょうよ。というか、俺の近くで歌わないでくれません?いや、マジで」
既に百に届くほどの竜種、ケルトの兵士、シャドウサーヴァントを前線で屠っていた彼らは限界が近かった。それでも軽口を忘れないのは、常に他人に対して元気と希望を振りまくアイドルという職業に憧れている故なのかもしれない。まあ、近くに居たマネージャー(了承してない)は不平不満をぶちまけまくりだったが。
「エリエリ、ネロ!」
「そしてロビン君!一度下がりたまえ!彼らが代わりに前線を受け持つ」
「出番か。それもよかろう、さあ儂を仕留めてみせよ!」
「実に壮大な光景だな。まさに戦争、……あまり気は進まないのだが仕方ない」
「さあ、僕の早撃ち。存分に見ていってよ!」
エジソンとブラヴァツキーの言葉にすぐ反応し、後方に跳ぶ三人。それと入れ替わるようにして出てきたのはエミヤ、スカサハ、ビリーの三人である。ランサーにアーチャー二人と前衛が足りないようなパーティーではあるが、侮ることはなかれ。エミヤは世にも珍しい……わけでは全くない弓を滅多に使わないアーチャーなのである。仁慈が居る時は彼の指示と本来の役割を存分に発揮させることから弓を多用していたが、ここにその仁慈は居ないためある意味いつも通り(?)の働きを見せようとしていた。
「そらそら、その程度ではこのスカサハの首なぞ取れん!ケルトの兵士ともあろうものが堕落しておるぞ!せめて仁慈くらいには粘らんか」
「いや無理だろう」
ゲイボルク二槍流と初めの頃カルデアにいるクー・フーリンを失意のどん底に突き落とした戦闘スタイルで次々と襲い掛かる敵をなぎ倒していく。そこにはケルトの半分人間をやめた上位の兵隊や竜種やシャドウサーヴァントも関係ない有様だ。これは酷い。
一方でここまで活躍らしい活躍をしていないことを地味に気にしているビリーは眼にも留まらぬ早打ちで装填されている弾丸を全て命中させる。もちろん被弾場所は何処も生物の弱点とも言える場所であり、一撃で相手を沈めていた。しかし、彼は銃を使う英霊であるために装填の時間が存在する。その装填の時間が隙だと判断した敵は六発すべてを撃ち切ると見るや否や、ビリーに一気に襲い掛かった。
だが、ビリーはニヤリと笑い、銃を持っていない方の腕、その近くに備え付けられていたホルスターからもう一丁銃を取り出してそのまま発砲する。その隙に片手と口を使いながら始めに使っていた銃の装填を済ませると再び彼の拳銃が火を噴くのであった。
エミヤもここ最近使っていなかった干将莫邪を投影し、それを伴いながら敵の手段に突っ込む。弓兵にして過去の経験から突き詰めた実践的な剣術は本気ではないとはいえ、クー・フーリンの槍をやり過ごすことができるほどの腕前だ。近代の人物で尚且つ知名度補正がない彼がそれを成すことがどれほどの偉業か。それが実現できるほどの腕前を彼は弓兵にして持っている。さらにその武器を量産できるというのだから驚きである。
壊れた幻想を併用しながら彼も順調に敵の数を減らしていった。
「精霊よ、太陽よ。今ひととき、我に力を貸し与えたまえ!その大いなる悪戯を……
ジェロニモが己の宝具を開帳する。彼の宝具は彼の部族に伝わる伝承の小規模再現。アパッチ族に伝わる巨大なコヨーテを召喚し、彼に煙草を奪われた太陽がそのコヨーテを追いかけるという宝具。
これにより敵は太陽光による割とシャレにならないダメージを受けると同時に守護者でもあるコヨーテが味方たる者達に加護を与えるのだ。
「む、私の体力が……」
「楽になったわね。心なしか魔力も回復しているように感じるわ」
「………今は私情を挟んでいる場合ではない。此処に居る者すべてが結託しなければ、世界を救うことなどできないのだからな」
侵略者側の人間であるエジソンも回復の対象に入れた理由をそう語り、彼は再び前線で戦う者たちのフォローに回る。
エジソンは心の中でジェロニモに感謝しながら再び自慢の直流電気を敵にぶつけ始めた。
順調に足止め……どころか殲滅を行う彼ら。しかし、ここでエレナとスカサハが異変に気付いた。
「―――これは……」
「超高濃度のエーテル反応…!皆、下がって!!」
咄嗟の注意喚起ではあったのだが、そこは歴戦の英雄なだけある。誰もが瞬時に反応して背後に回避行動を行う。するとその直後、先程まで彼らが居た場所を中心に超巨大な反応が現れたのだ。
そうして現れたのはおよそ彼らの予想をはるかに超えるものだった。何故なら、そこに現れたのは彼の魔神柱二十八体というトンでもないものだったからである。
「……これ、やばくない?」
「うむ。これはあれだな、超ビッグゲストというやつだな」
「違うでしょうよ。こんなのがゲストで開催されるアンタらのライブなんて地獄でも早々見られたもんじゃない光景になっちゃうでしょうよ」
「げっ……やばそうなのが……」
「なんという、魔力の奔流……!」
「これは、勝てない……!どうすればいいのだ!?」
「お、落ち着いてエジソン。とり乱しちゃだめよ!」
「しかし!これ一体でも複数のサーヴァントが必要だというのに!それが二十八体もだぞ!どう考えても押し切られる!」
エジソンの叫びはもっともだった。魔神柱とはその姿形こそ肉柱だが実際には肉体を以て現界した神話の魔神達である。いままで何かと酷い扱いを受けてきた気がする彼らだが、本来であればエジソンのような反応が正しいのだ。
「……これは魔術王の物ではないな。……成程、二十八人の戦士か。メイヴのやつめ。中々に考えたではないか……」
「言っている場合かね。これは厳しい……という言葉では片付かない事態だが」
「そうさな。しかし、悲観してても始まることはない。そもそも、儂はあ奴の師である。まだ超えられるには早い。故に……儂とて魔神殺しくらい成して見せよう」
「結局精神論か……しかし、それが馬鹿にできないのもまた事実というもの」
スカサハとエミヤはそんなことは関係ないと言わんばかりに二十八体の魔神柱に向き直った。既に交戦経験があり、尚且つ魔神柱を相性が良すぎるとは言え一人で消し飛ばした人間が居るのだから自分たちのプライドにかけて負けることは許されないと思っているのだろう。
それに引きずられるようにエリザベート達も又立ち上がる。倒す必要などはない。要するに仁慈達が聖杯を取り戻すまでに前線を持たせ西側を征服されなければいいのだから。
彼らのことだ。直に聖杯を奪取するに違いないと彼女たちは信じていた。
「そうね。別に勝つ必要ないわ」
「マスターたちが聖杯を手にするまでの時間稼ぎをすればいい……成程な。であれば余たちの出番である。このあらゆる才能を持った余があの手この手でこやつらの足止めをしてやろう!……本来ならば、こういう前座みたいなことはあまり好みではないのだが……仕方ない」
「というわけであんたも気合れなさい緑」
「いい加減名前覚えろよ……。でももちろんやりますとも。時間稼ぎ、嫌がらせは大得意だからな」
「もとより諦めるつもりなどはない。例え奪われた後だとしても、ここは私たちの土地であり、故郷だ。これ以上くれてやる場所などはないのだから」
「そうそう。……僕たちだって、奪った側としての義務がある。古い神話の生物はおよびじゃないよ」
「……だ、そうよ?」
「ふぬぬぬぬ……ッ!彼らがそういうのであれば、大統王の―――いや、それはもう関係ない。友たる彼らがそのようなことをいうのであればこの私も諦めるわけにはいかないではないか!というか、私だけ屈してバカみたいじゃないか!ちょっと情けないところ見せすぎじゃないか私!?」
心の底から叫んだのではないか、という言葉に一同から笑いが漏れる。
……実際に状況が好転したわけではない。むしろ今もなお悪化の一歩をたどっている。どれだけ気合を入れようとも戦力差は歴然であり、彼らには長期戦における疲れも溜まっているのだ。
だが、此処に居る誰もがやられる気なんて毛ほどもなかった。全員が全員まとめて肉柱をへし折る気であった。
そして、その想いが奇跡でも呼んだのだろうか……唐突に魔神の一本に目にも留まらない速さの光弾が飛来する。爆音を響かせ、一本の魔神柱にダメージを与得るほどの攻撃を行ったのは当然、今いるエジソン達ではない。
攻撃の方向は彼らの居る場所とは真逆の所から放たれたのだから。
「―――その戦い。この私にも参加させてはくれませんか?」
「……貴様は、」
「己の行いを清算するため、いやそれよりも私が立てた誓いとアイツからの契約を守るために」
現れたのは眼に眩しいほどの白い服を纏いながら、それとは真逆の黒い肌を持つ青年。その肢体は何処か細く感じるが、その力はこの中でもトップレベル。彼らの仲間、カルナとタメを張り、あるいはそれ以上の実力を持っている人物。
「アルジュナ……」
カルナと戦い、ナイチンゲールから治療を受けた彼の授かりの英雄だった。
Mr.すっとんきょう「私の出番は……?」
子どものヒーロー「ハハハハハハ!貴様の出番などないわ!」
Mr.すっとんきょう「おっと、電気が滑った」
子どものヒーロー「直流が滑った」
―――システムケラウノス!!
―――ワールドフェイスドミネーション!!