この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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※独自設定、独自解釈です。OK?


そういえば、ぐだくだ本能寺復刻来ましたね。やったぜ。これでノッブを再臨できる。


英雄から人間へ

 予想外の人物の登場とはまさにこの事だっただろう。

 一応、ロマニの通信から彼が敵として存在することは聞いていた。そして、彼がカルナと戦っていたことも又一部のサーヴァントは知っていた。エジソンには落ち込むとか士気が下がるとかで伝えてはいない。だが、彼であれば通信の傍受くらいは容易いので確実とはいえないが。

 

 それはともかくとして、彼が敵側なのはこの場に居る全員が知り得ていることだった。当然困惑するだろう。

 しかし、ロビンは彼の言葉をしっかりと拾っていたのだ。アルジュナは言った。己の行いの清算、もしくはアイツとの契約を守るためであると。自分が持っている情報、更には彼が敵対していたという情報、アルジュナという存在からある程度推測し、ロビンは確認を取るつもりで口を開いた。

 

「勝算は?」

「もちろんあります。私の炎神の咆哮……その真の力による宝具であの魔神を纏めて焼き払います。私の全てをかけて」

 

 成程それは確かに可能性がある……どころの話ではないとロビンは思った。彼の持つ炎神の咆哮は本来の持ち主であるものが使えば宇宙を破壊すると言われ、アルジュナが全力で使っても地球を七回焼き尽くすほどの威力を秘めているらしい。そんなことをすれば当然彼は抑止力によって消されることになるだろうが、その真の力は彼も封じている。……けれどもそれほどの威力を持つ神造兵器だ。サーヴァントとして現界しており、尚且つ真の全力は出せずとも彼の魔神達を消し去る可能性は高い。

 

「まあ、待て。確かにお主の全力であれば倒すことはできるだろう」

 

 異を唱えたのはスカサハである。

 彼女はここで一度言葉を切ると、アルジュナの元へと近づきその耳元で彼にだけ聞こえるように小さく呟いた。

 

「いい機会だ。此処ならば鬱陶しい神々の干渉もない。……一度、己を見定めてみよ。施しの英雄からの契約……などと与えられたものではない。お前が真に何を望むのかを、何を成したいのかと」

「―――ッ!?」

「それにな。―――儂とてプライドがある。何、たかが受肉した魔神だ。生きているということが分かればいい。儂の宝具を死ぬまで連続で投げ続ければいいだけのことだ」

 

 脳筋ここに極まれりと言わんばかりの理論を当たり前のように口にするその様は、まさに仁慈の師に相応しい有様だったという。これには隣のエミヤも苦笑いである。

 

「でも、そんなこと言ってもこの数は流石に……」

 

 スカサハの言葉に反論を返したのはエレナである。彼女はスカサハと並んで魔神柱の存在を察知した存在であり、彼らの実力や格がこの中でも最も理解できている人物だと言えるだろう。そんな彼女だからこそ理解していた。啖呵を切っておいてなんだが、あれを倒せるのはアルジュナしかいないだと。

 

「何。人間死ぬ気で行動を起こせばどうかなるものだ。仁慈はその完成形だぞ?」

 

 この瞬間、その場に居たサーヴァントたちは全員仁慈に同情した。状況は違えど、似たような危機に常に叩き込まれていたが故の結果だったと全員が気づいた時にはもう遅い。本人はここではない東の地で今も戦闘を行っているであろう。全員が無意識に取っていたのは敬礼の姿だった。

 

「馬鹿なことをするな。独断で決めたのは悪く思っているがな……どうにも、外とかかわるようになってからお節介が過ぎるようでな……」

 

 長年影の国という冥界と同一と言ってもいい場所で過ごして来た。過去に来ていたような弟子たちはもう訪れることはなく、そこに居るのは自分も含め、理を歪めた化け物のみ。そのような環境から一転、仁慈とのかかわりを始めとして、久しぶりに外に触れていた所為か変わったと彼女は言う。故にだろう。恵まれた英雄。その才能に、境遇に、時期に……大よそ人生を象るすべてに愛され順調に周囲が望む()()()()()となった彼に、たとえそれが英霊として現れたとしてもその変化を見てみたいと思ってしまったのだろう。

 アルジュナはある意味では潤沢に水と肥料を貰いすぎてしまった花なのかもしれない。本人の素質もあり、周囲を惹き付けるほどに見事に咲くことになったが、そのどこかで無理をしている。腐っている部分がある。仁慈とかかわり、英霊となったかつての弟子と関りその変化を目の当たりにしてしまったが故に無意識にアルジュナにもそれを求めているのかもしれなかった。

 

「……おっと、どうやらおしゃべりはここまでのようだな。向こうもようやく目覚めたと見える」

 

 スカサハも自身では測れていない内心を分析していたのだが、二十八の戦士の枠に押し込められて現界した魔神柱たちの魔力の増減が活発化しだした。それを受けて真にあれらが目覚めたことを確信する。確信すると同時に、スカサハは死溢るる魔境の門から呼び出した朱槍を左手に持ち、そのまま宝具を発動する。

 

「――――刺し穿ち、突き穿つ……貫き穿つ死翔の槍(ゲイボルク・オルタナティブ)!」

 

 二槍になったと同時に地面を蹴り、まるで赤い流星の如く二十八体の魔神柱……その人柱に向かう。そして、直接魔神柱に一本の槍を突き刺すとすぐに後退しそのまま残るもう一本を投擲した。はじめに刺さった槍が相手を拘束するおかげで後続の投擲は必中である。

 スカサハの宝具を喰らった魔神柱はうねうねと苦しそうにもがいた後、その場に力なく倒れる。

 

「うそっ!?」

「倒したァ!?」

「いいや、まだだ。どうやらこやつら。まとめて召喚された弊害か、群にして個という性質を持っているらしいな」

「尚更アルジュナに任せるべきではないかね?」

「もちろんこれは儂のわがままであると理解しているとも。だからこそ、責任は取るつもりだ」

 

 言い終えると同時に、彼女の背後から先程とは比べ物にならないほどの数の朱槍が降り注ぐ。傍から見ればそれは正しく赤い雨。人によっては血の雨と表現するかもしれない。その光景を見た英霊たちは唖然とした。そう。何を隠そう彼女が今大量に召喚した槍こそ普段から愛用している彼女の槍なのだから。言ってしまえばこれらは全て宝具。影の国にて、あまりにもやることが無さ過ぎるので暇つぶしで作成しているうちに、ゲイボルク職人を余裕で名乗れるレベルにまで至ってしまった彼女が作り上げてきたもの。まるでどこぞの英雄王だ。

 

「―――ちょっぴり、本気だ」

「そんなレベルじゃないでしょ……」

 

 あまりのガチさ加減に全サーヴァントが一斉にドン引きした。

 

 

 

―――――――――――

 

 

 そのようなギャグのような一コマがあり、各英霊たちがなんだかんだそれにつられて奮起している間にアルジュナは考える。己のしたいこととは何か。己が真に望んでいることとは何かを。

 

「……そんなことは決まっている」

 

 そう。彼の中で真に自分がしたいことなど決まっている。太陽の如き英雄。初めて会った時から、たとえそれが正しい選択でないとしても倒さなければならない相手、施しの英雄カルナをこの手で討つこと。それこそが己のしたいこと。己の望みであり、誰から押し付けられたわけではない彼だけの業である。

 

 ここではそれが叶うと思った。かつてあった神々の干渉もここではない。純粋に決着をつけることができると思っていたのだ。だが甘くはなかった。ここは確かに彼の地ではないが、それと同時に一騎打ちをする場ではなく、アルジュナもカルナも生前のままではなかったのだ。

 彼らはサーヴァントという存在になり、この場は戦場であった。それだけのことである。

 

「…………」

 

 ふとここで、自分はどうしてここに来たのかと思った。思ってしまった。

 カルナとの契約。人類最後のマスターと静かに狂った鋼鉄の看護師との誓いを守るため……はじめは確かにそう思っていた。

 けれども何かが違う。もとより世界の破滅などに興味はなく、約束を交わした人類最後のマスターもアルジュナに何かを期待するような態度はかけていなかった。生前の経歴から彼はその手の気配に対しては人一倍敏感であるため間違いはない。カルナとの契約もそうだ。もはや憎悪と言ってもいい感情を抱いていた己がそれをホイホイと叶えようとするだろうか。

 アルジュナは周囲が思っているほど自分が聖人でないことは分かっている。むしろ彼自身は自分のことを邪悪とさえどこかで思っているだろう。そんな自分が本当に行くだろうか。

 

「…………」

 

 沈んでいく。

 己の考えが、己自身がその思考の海へと沈んでいく。そうして幾重にも考えを重ねに重ねた結果。彼の中に残るのはやはりカルナの事であった。だが、今までは彼に対する憎悪という結論に落ち着いていた思考が今だけは別の物へと移り変わった。

 今までの経験を改めて主観を抜いて観測し、事実のみを摘出していく過程で彼の中にある仮説がもたらされた。

 

 それは即ち、

 

「私は、嫉妬していた―――」

 

 口にするとそれはもう止まることはなかった。

 そう、きっと彼はカルナに嫉妬していたのだろう。

 自分とは正反対。あらゆるものから剥奪され、裏切られ、蔑まれたとしても己の信じるものを貫いて、貫いて、貫き通した。

 それは確かに自分には無いものだったのだ。あらゆる神々と環境、家族に恵まれながらも自分が手に入れることができなかったものを彼が持っていたから……。それはまるで、自分の欲しいものを持っている子どもに暴力を以てそれを寄越せとわがままを言っているようで――――

 

「ハッ……」

 

 思わず、失笑が漏れた。

 これは確かにあの看護師に病気と判定されてもおかしくはないと。この歳になってまで己の感情を理解できず、コントロールもできないとあれば病気を疑われても仕方がないと。

 

 ここまで自覚してしまえばあとは楽だった。

 己がここに来た理由。

 それは、知りたかったのだ。

 

 あらゆる叡智を持ち、神に愛された授かりの英雄が嫉妬を向けた相手がどんな感情を持っていたのか。

 己を省みず、他者に尽くすというのはどういう想いが生じるのか。……彼がサーヴァントとした役割を全うするという判断を下したのはどういった経緯でどのような想いがあったのか。体験してみたかったのだ。

 

 それは、誰かに与えられた意義ではない。

 自分で見つけた行動原理。

 人間として何ら不思議ではない知的好奇心。もしくは憧れたものの模倣だろうか。

 どちらにしてもアルジュナには関係がなかった。結局はどちらとも己が出した結論であり目的なのだから。

 

「―――――さて、」

 

 そうしてアルジュナは前を向く。

 彼の目の前に広がるはもはや新たなる神話。敵は人類を滅ぼさんとする魔術王の下僕である魔神達。立ち向かうは古今東西時代も場所も強さも知名度も選らばぬ数多の英霊。彼らは今も東の地にてこの世界を救わんと戦っているただ一人のマスターを信じて戦っている。

 

「―――む。どうした。腹は決まったか?」

「ええ。おかげさまで。なので、ここは一つ私に任せて欲しい」

「………フッ、良い面構えだ」

「感謝します。―――――では、待たせた分。私の全力をお見せいたしましょう」

「いいだろう。前座はきっちりと果たした、存分に魅せてみろ。――――皆下がれ!」

 

「おっと、でかい花火の打ち上げか?とりあえず退散退散っと」

「何あれ超やばそう」

「やはり余は前座だったか……分かってはいたがちょっと寂しい……」

 

「ジェロニモ、文字通り超弩級のが来るっぽいよ」

「分かっている」

「うぇ!?あの化け物に追随するほどのエーテル濃度。神造兵器ってやっぱりとんでもないわね」

「言ってる場合じゃないぞブラヴァツキー!早くしないと我々も巻き込まれてあれらと共に丸焦げn―――っていないぞぉ!?」

 

 

 なんかもう色々と台無しだった。

 これが彼らの本来持っている性質なのか、頭のおかしい被害者とも加害者ともとれるマスターと一時期とはいえ行動を共にしてしまったからなのかはわからないがとにかく色々あれだった。

 

 だがしかし、アルジュナはそれくらいで取り乱すことはない。彼は持っている炎神の咆哮を消し去り、右手に野球ボールよりも少し大きい目の球体を出現させた。外見こそ、それほどの大きさしかない光の玉ではあるが、そこに居る誰しもがその威力を見抜いていた。

 

「神性領域拡大。空間固定。神罰執行期限設定、全承認。シヴァの怒りと、我が意思によって汝らの命を此処で絶つ―――――破壊神の手翳(パーシュパタ)!」

 

 次の瞬間。

 光が辺りを包み込み、彼が設定した範囲内。数多の英霊たちによって抑え込まれていた二十八体もの魔神柱が一瞬のうちにして跡形もなく消滅したのだった。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「……凄まじいな」

 

 いち早く目を開けたエミヤ。そんな彼が目にした光景は、先程の魔神柱が跡形もなく消滅している光景とまるで隕石でも落ちたのではないかと思わせるほど陥没している大地だった。

 先程の魔神柱を跡形もなく消滅させておいて尚この威力である。そして彼は、あの宝具はあれでも未だ多くの制限を残していることを悟っていた。故に戦慄する。まさに世界を破壊するための力。シヴァ神の名は伊達ではないと。そうして彼は改めてインドパワーの強大さに溜息を吐いた。

 

「………ふぅ。これで当分の間は持つでしょう」

 

 この光景を作り出した当の本人はことなさげなことを言って、下がっていった他のサーヴァント達に向き直った。

 

「うっわぁ~……」

「あれが同じアーチャーとか……考えらんねえ……」

「流石にあれを再現は難しいよねー」

「あれが敵だったとは…」

「末恐ろしいものがあるな……」

「やっぱり神秘の濃い時代はおかしいわ」

 

 向き直った先ではアルジュナの宝具の威力を見て驚きを浮かべるサーヴァント達の姿があった。当然だろう。ここまでの規模の宝具を発動できる英霊はそう居ない。英霊の中でもかなり上位のみに許された力と言える。

 

 そんな中、エジソンは一人彼の前に立って。一言、アルジュナの眼をはっきりと見据えて口にした。

 

「すまない。本当に助かったよ。ありがとう」

「………礼など不要です。私は自分の意思で、行ったのですから」

 

 それに、と彼は続けてカルナが討たれた原因である自分にお礼の言葉を投げかけなくてもいいと彼は言った。

 そう。もはや彼にとってはもう礼などは必要ないのだ。己のなすべきことを自分で見定め実行することができた。そして……カルナ。この場に居れば絶対に今のアルジュナと同じようなことをしたであろう彼の気持ちが少しだけ理解できた気がするのだから。

 彼にとってはそれで十分なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回は皆さまお待ちかね(?)仁慈達VSオルタニキです。

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