この世界の片隅で(更新停止)   作:トメィト

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いいタイトルが思いつかない(n回目)

タイトルが思い浮かばない時は大体オチになっている気がします。


やったか!?

 

 

「ねえ何で?俺聖杯に嫌われてんのかなぁ……?」

『うーん、否定できない』

 

 ロマンの通信を聴いて俺は改めて溜息を吐いた。どうしてか?そんなことは決まっている。メイヴを倒した。それはいい。彼女が持っている聖杯が出現した。これもいい。だけど、出てきた聖杯が俺の手からこぼれてホワイトハウスの方にひとりでに飛んでいくとかどうなってんですかねぇ……。

 

「まるで、あいつと決着を付けろと言わんばかりの動きだったな」

「……ここまで来るともはや運命と言えるのではないだろうか」

「正直、物語みたいですよね……」

 

 みんなの感想が胸に刺さる。

 俺だってこのまま聖杯GETで定礎復元ヤッターしたかったのに。

 

「別に責めちゃいねえよ。俺としてはアレと決着つけるいい機会だ」

「私としては不必要に先輩を危ない目に合わせたくはないのですけど」

『ラーマ君とシータちゃんが言う様に、運命とか誰かが操っているとしか思えないよね。ここまで来ると』

「フォーウ……」

 

 フォウ、居たのか。

 そんな感想を抱きながらも俺達はホワイトハウスに歩みを進めた。その途中で北に魔神柱が二十八体出現したとか、二十八体一気に消失したとか目まぐるしく変わるロマンの実況を耳にしながらもクー・フーリン【オルタ】の情報を纏める。

 

 こちらの実力と向こうの実力は前の戦闘の時点では若干こちらが有利と言えるレベルっだった。だがそれは向こうの無意識の油断、そしてカルナの決死の宝具によるものだ。素の状態であれば五分。そして今戦えば少なく見積もって3:7でこちらが不利と考えるべきだろう。

 なんせ、カルナの宝具を瀕死の状態とはいえ無防備にも受けた。さらに令呪で強化した兄貴とラーマの宝具でも仕留めきれなかったんだ。

 

 しかし、こちらにも対策はある。

 師匠が言い残した(別に死んでない)俺と兄貴が有効な手段を持っているという言葉。それの意味するところは十分に理解できる。であれば、最悪俺と兄貴で相手をした方がいいかもしれな――――ッ!?

 

「不意打ち!」

「――チッ!」

「―――ッ!?」

「(パンッ!!」

「シータ!」

「!」

 

 咄嗟にでた割と間の抜けた声に反応してみんなが一気に下がってくれる。その後、俺達が居た場所には見たことのないような見たことのあるような化け物たちが一斉に襲い掛かって来ていた。

 ……って、ちょっとまてよ。マジでこいつら見たことあるぞ。

 

「兄貴、これは……」

「――――マジかよ。影の国に居た連中も混じってやがる……」

 

 ですよね。

 そう、俺達に襲い掛かってきた生物。その大半は影の国で見たことのあるようなやつらばっかだったのである。俺は実際に見たわけではない。夢で見ただけであるが、実際に矛を交えたこともあるためにわかっている。どいつもこいつも超絶面倒くさい連中ばかりだ。だって影の国産だもの。

 

 兄貴の呟きにラーマ達の眼も変わった。此処には油断できる敵は居ない。誰もかれもが神獣とはいかないが結構な格を持つ奴らだ。そして―――

 

「その通り。これは戦争。なら数で攻めるのは当然だろう?」

「耳痛いな、その言葉」

『だろうね』

 

――――その獣たちの後ろ。

 

 クー・フーリン【オルタ】が無表情でこちらを向いたまま佇んでいた。その左手には先程俺の手から逃亡を図りやがった聖杯を持って。

 

 

―――――――――――――

 

 

 

『何はともあれ、仁慈君。あのクー・フーリン。姿が変わっているだろ?どうやら聖杯が力を与えているらしい。霊基再臨というやつだ。あれは昨日戦った時よりもはるかに強いぞ……!』

「あの女は恐らく俺を王にするために聖杯を使ったんだろ。じゃねえと俺があんなろくでもないモンになるわけがねえ。願いの内容は大方、自分と並べる王に……もっと言ってしまえば最狂の王にしてくれってところか」

 

 ロマンの観測結果から仁慈達の味方であるクー・フーリンがそう口にした。どうやらそれは的を射ていたらしく、クー・フーリン【オルタ】の唇はわずかに吊り上がった。

 

『そうか。一度仁慈君たちに撤退を余儀なくされたからこそ、聖杯が霊基再臨を図り、尚且つ王様であれと願われたからこそ配下が呼ばれる……』

「成程。その配下がこの魔獣どもというわけだな」

 

 ラーマはシータを庇う様に立ちつつ、魔獣たちの様子を窺う。どれもこれもサーヴァントには及ばないが、それに追随するほどの力量を感じ取ることができた。彼らも影の国というある意味で修羅しか居ないところに生息していただけあって、幾分か人との戦いということも分かっているだろう。数で負けている今ではかなり厄介な存在と見て間違いなかった。

 

「……これはもしかしなくても二手に分かれなければならない状況なのでは?」

「その通りですシータ。このような病原菌まみれの空間ではオチオチ治療もしていられません。仕方がないので、残念ながら……非ッッ常に残念ながら。あのクー・フーリンの治療は彼らに任せるとしましょう」

 

 ナイチンゲールが見据える先には既に槍を構えている全身青タイツ(カルデアのクー・フーリン)ビックリドッキリキチ(樫原仁慈)、そしてその彼の横で盾を構えているマシュの姿があった。その段階でラーマは己の役割が露払いであることを悟った。

 

「………余もあのクー・フーリンに雪辱を晴らそうかと思っていたのだが……こういう状態であれば仕方がないか」

「我慢しなさい。私も治療を投げ捨ててこれらの殺菌を受け持ったのですから」

「………ラーマ様。ナイチンゲールさん。ここに居る敵を早めに倒すことが出来れば、仁慈さんたちの援護に行くことができるのではないでしょうか?」

 

 渋々といった様子の二人にもはや天啓とも言える(主観)シータの言葉が届く。そして気づいたのだ。己の勘違いに。

 確かに足止めは必要だ。この数の魔獣を相手にしながらクー・フーリン【オルタ】の相手をしようなどとは無謀極まりない。向こうは愉悦を捨てて王に殉じようとする者である。勝つためならば手段を選ばないことも十分に考えられた。ソースは彼らのマスターである仁慈だ。

 

 しかし、それを全て排除してしまえば当然チームを分ける必要などはない。むしろ仁慈のことだ。こちらが有利になればいいと積極的に参戦を認めるだろう。メイヴを倒すために行った戦法からもその容赦の無さが窺えるのだから。

 

「その発想はありませんでした」

「流石だなシータ、つまり……」

 

 倒してから援護すればいいということを気づかせてくれたシータに二人はお礼を言いながら、手始めとして目の前に接近してきた魔獣に対して発砲と剣による斬りつけを行う。ナイチンゲールの意味不明な強さと、ラーマによる魔獣絶対殺す効果により一撃でその身体を塵に変えたそれを見届けつつ、二人は同時に声を揃えて口にした。

 

『つまり―――これを全て倒してしまっても構わない、ということでしょう(だな)』

 

 召喚された影の国の獣たちは彼らの瞳にかつて自分を殺しに来た勇士(キチガイ)達の姿を見てしまい、一歩また一歩と後ろに下がる。だが、もう遅い。シータの言葉によって目覚めた彼らはもはや狩りつくすまで止まらない。

 そうして、ピンチのはずなのに一方的な蹂躙劇が開始されようとしていた。

 ちなみにシータは、ナイチンゲールとラーマが同時に言った言葉が途中まで完全なステレオに聞えて戸惑い、その後自分の愛する夫の声を聴き分けられなかった自分に少しだけ自己嫌悪することになった。まあ、このことに関して彼女を攻める者など誰も居なかったが。

 

 

 

――――――――

 

 

 

「始める前に質問。聖杯を渡す気は?」

「欠片もねえ。これはゲッシュだ。メイヴっていうのはどうしようもねえ悪女だが、時代をどうこうできる願望機を俺の心を奪うために戸惑いもなく使いやがった。その心意気だけは貰っておかねえとな」

「――――気持ちわりぃ。自分と対峙するっていうのはこんな心境だったのか。一度はやってみてえと考えたこともあったが……その考えはここで捨てるか」

 

 クー・フーリン【オルタ】の様子に一番の嫌悪感を覚えたのはもちろんクー・フーリンだ。自分ではない自分が何かを言っているのは気味が悪いと言えるだろう。今ならばきっと彼が鬱陶しいと思っている某赤い弓兵が優しく肩を叩いてくれること請け合いなしだ。

 

「交渉決裂……ですね……」

「まあ、わかってた」

 

 ここで素直に聖杯を渡すだなんて欠片も考えていなかった仁慈は自分の鞄に手をかけ、クー・フーリン【オルタ】がクー・フーリンに意識を割いている隙を突いて中身を周辺にばら撒こうとする。

 だが、彼が手にしようとした鞄は唐突に飛来した槍によって弾き飛ばされてしまい、その中身を開放することは叶わなかった。

 

「ハッ。小僧、お前自分以外に対する危機の配り方が雑だぞ?」

「チッ」

 

 内心で強者は強者らしく猪口才なことをしてないで直接戦いに来ればいいものを、と吐き捨てながら念話を通してクー・フーリンとマシュに指示を出した。それと同時に彼も決してクー・フーリン【オルタ】から目を話すことなく弾き飛ばされた鞄の方へと向かって行く。

 

「オラッ!」

「フン」

 

 仁慈からの指示を受けたクー・フーリンが音の壁を越え、クー・フーリン【オルタ】の懐へと肉薄する。その勢いを殺すことなく愛用の朱槍に乗せた彼はそのままオルタの霊核、心臓の部分へと槍を突き立てようとするが、当然奇襲でも何でもないその攻撃はオルタが持っている槍に防がれる。

 そしてもう一本の槍を身体から取り出すと、その槍を以てクー・フーリンを逆に突き立てようとした。

 クー・フーリンは自分の攻撃を防いだ槍を弾き、それと同時に槍を回転させて位置を変え、自分の身体よりも後ろの方にあった部分で左から来る槍を防いだ。回転の勢いを上乗せしているからか、オルタの槍を防ぐだけで留まることはなく本人にも迫る勢いであった。

 しかし素直にオルタが攻撃を喰らうわけもない。一歩後ろに下がることによって攻撃を翻した後に両手に持っている槍を投擲した。投擲する際にオルタの両手がズタズタになっていくが、すぐにルーン魔術によって癒える。代わりに残されたのは、己の身体を壊す勢いで放たれた豪速の槍のみ。

 それをクー・フーリンは紙一重の所で回避する。真名を開放したわけではないその槍に追尾性はなくそのまま彼を素通りするが、どうやら狙っていたのはクー・フーリンだけではないらしい。

 槍の先には鞄を手に取った仁慈が居た。マシュが急いで間に入り、何とか一本は凌いだものの、マシュが割り込むより早く通過していた槍はそのまま仁慈へと突き進んでいく。

 

「先輩!」

 

 が、不意打ち染みているとはいえ距離は離れており尚且つマシュの声によって前もってその槍を感知していた仁慈は半身を逸らすことでその槍を回避。それだけにとどまらず、その槍の一番脆いところを把握したのちに全力で己の拳を叩き込む。一点集中で、魔力を浸透させるその拳は見事に飛来した槍をへし折った。

 

「――――!?」

「よそ見すんなよ!」

 

 余りの光景にオルタは動きを止める。その隙にクー・フーリンが己の槍をオルタに向けた。別のことに気を取られていたが故に反応が遅れたオルタは不覚にもその槍を受けてしまう。

 

「オラ、もう一発だ!」

「舐めるな」

 

 追撃にもう一度迫り来る槍。それをオルタは持ち前のタフさで傷を負っていない状態と同じようなパフォーマンスで迎え撃った。

 元々は同じ槍、しかしそうとは思えない朱槍同士が幾度となくぶつかり合い、火花を散らす。一合、二合と撃ち合うたびに槍は加速していき、もはや常人の眼に見えるのは赤い光が舞っている光景のみだ。

 

 だが、その打ち合いも長くは続かない。現界に使っている霊基の違いか徐々にクー・フーリンが押され始めていた。互角だった打ち合いも次第にクー・フーリンの方が防御に回ることが多く、攻撃に転じることができない。致命傷はなくとも細かい傷は増えている。それでも彼は動じない、怯えない、引くことはない。己の役割を全うするため、強い奴との戦いを愉しむ為……全部ひっくるめて自分とプライドの為に。

 

 霊基は違えど、その差を培った経験で埋めているクー・フーリンが前線を持たせている間に、仁慈は先程邪魔された己の準備を済ませていた。武器をばら撒き、近くに居る魔獣たちを牽制し、ラーマとナイチンゲールのフォローをしつつ、その中から今の状況にあった武器を選ぶ。そして、隣まで来ていたマシュにひそひそと耳打ちをする。

 

「――――」

「……了解です」

 

 仁慈の話を聞いたマシュは彼の目の前で盾を構えながらオルタに向けて突進をしだした。オルタは当然それに反応する。単純に考えればサーヴァントが二人掛りで自分の所に襲い掛かってきているのだ。

 オルタはクー・フーリンへの攻撃の手を緩めることなくマシュの方にも注意を割いていた。そして何より、彼女の盾の後ろに仁慈の気配を感じることができたのである。あれの向こうにはカルデアのマスターが居る。そう考えていた彼はクー・フーリンを牽制しながらマシュへの攻撃方法を考えていた。

 

「―――」

「何ッ!」

 

 ―――そう考えていたのだがここで予定が狂った。盾の後ろに居た筈の仁慈が、いつの間にか自分の目の前に居るのである。

 流石の彼もこんなことをするとは思っていなかった。接近戦で不利なことくらい仁慈は十分に理解していたし、彼が不利ということをオルタも理解していた。実際に、先の戦いで仁慈がオルタに近づくことはなく、この戦いにおいても前線には中々上がってこなかった筈なのである。さらに言ってしまえば彼は己の切り札をオルタに晒していた。尚更近づいてくるわけがないと考えていた。

 それが一転してここまで近くに来るとは、効率を突き詰めた考えをしている彼では思いつかなかった。驚愕の表情を浮かべるオルタにクー・フーリンがニヤリと笑う。そう、カルデアで過ごすうちに彼を知ったクー・フーリンは絶対にこうすると思っていた。効率を重視し、己の重要さを理解し、敵との力量差を理解し、リスクも正しく認識している……にも拘わらず自ら前線に出ていく珍妙さ。この理解されなさ、矛盾こそ彼の持ち味、彼の武器。発想の異常さであればスカサハが認めるほどのものである。そんな彼が敵に予想されるような行動をするはずがなかった。

 

 それだけではない。

 今仁慈が持っているのは槍ではなく刀であり、ここまでは縮地で接近してきている。彼が今いる位置がさらに曲者で、刀にとっては適切な距離でも槍にとっては振り回しにくいほど接近されているのだ。

 

「―――一歩音を越え、二歩無間、三歩絶刀……!」

「くそっ」

 

 何処かで聞いたことのあるセリフを吐きながら、懐に入り込んだ仁慈はそのまま無防備な彼の身体に刀を振り下ろす。サーヴァントの身体であるが故にそこまでのダメージを見込めるほどのものではなかったが、それでも今までの中で深い傷を負ったことには変わりがない。

 

 オルタがクー・フーリンへの攻撃を一時中断し、槍を己の懐に居る仁慈に向け、横から突き刺す。

 仁慈はオルタが向ける槍に貫かれる直前、オルタの両肩を掴むとその腕を基点に身体を持ち上げオルタの上で逆立ちをするような形をとる。そのまま彼の背後へと倒れるようにして移動すると、両手で肩を押し空中に己の身を投げ出した。それだけではない。そのまま彼は右手で銃の形を作ると彼に向けて魔術を放った。

 

「ガンド」

 

 真っ直ぐに飛来したそれは普段の彼であれば気にも留めない魔術だ。しかし、今現界しているクラスはバーサーカーであり、魔力耐性は皆無と言ってもいい。

 ガンドが直撃したことにより、一瞬だけその動きを止めてしまう。

 

「―――見事だマスター。止めは任せろ」

「お願いします。クー・フーリンさん!」

 

 動きを止めたオルタの背後で盾を構え、そのまま突撃をするマシュ。背後からの推進力を受け前に進むオルタの目の前には、既に自分の心臓に向けて朱槍を構えている己の姿があった。

 

「―――その心臓、貰い受ける」

 

 仁慈を通してクー・フーリンへと魔力が注がれ、それが彼の朱槍に魔力を流す。これから放たれる一撃を予感しているのか、既に魔力が溢れ始めているのか、彼の持つ槍は鮮やかに輝き始めていた。

 

刺し穿つ(ゲイ)、」

 

 放たれるは文字通り必殺の一撃。

 何の因果か己の槍は当たらないと嘆いていたクー・フーリンであったがその力は強力無慈悲。発動した瞬間に結果を残し、後から過程を発生させる因果の朱槍。

 

死棘の槍(ボルク)――!!」

 

 この特異点において数多のサーヴァントを屠り、あのラーマですら何度も死の淵をさまよった宝具。それが今までそれを使っていたオルタに向けて放たれる。だが、彼の表情に諦観の色はない。王という機構として存在しようとする彼だから表情を現さないのではない。只、諦める必要がないから平然としているのだ。

 己の心臓が穿たれる直前、彼は近くに居るマシュとクー・フーリンに聞えるか聞こえないかという小さい声で、言葉を漏らした。

 

「―――全呪、開放」

 

 

 

 

 

 




シータちゃんは悪くない。
さて、散々煽っておきながらこれですよ。直接対決(前座)……。

許しは請わん恨めよ。

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